【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1のFFハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)の制御装置の構成を、「全体システム構成」、「EV領域制御構成」、「再始動モード切替構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の制御装置が適用されたFFハイブリッド車両を示す全体システム図である。
図2は、EVモードとHEVモードとの遷移条件を示す説明図である。以下、
図1に基づいて、FFハイブリッド車両の全体システム構成を説明する。
【0012】
FFハイブリッド車両Sは、
図1に示すように、エンジン1と、第1クラッチ2と、モータ/ジェネレータ3(駆動モータ)と、第2クラッチ4と、ベルト式無段変速機5と、スターターモータ6と、第1低電圧バッテリ7と、第2低電圧バッテリ8と、回路遮断リレー9と、突入電流防止リレー10と、DC/DCコンバータ11と、高電圧バッテリ12と、インバータ13と、第1,第2電装負荷14,15と、を備える。なお、16,16は、前輪(駆動輪)であり、17,17は、後輪である。
【0013】
前記エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ20からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御や燃料カット制御、等が行われる。
【0014】
前記第1クラッチ2は、エンジン1とモータ/ジェネレータ3の間に介装されたクラッチである。CVTコントローラ21からの制御指令に基づき図外の油圧ユニットにより作り出された第1クラッチ油圧(CL1油圧)により、締結〜解放が制御される。
【0015】
前記モータ/ジェネレータ3は、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータ/ジェネレータである。モータコントローラ22からの制御指令に基づいて、インバータ13により作り出された三相交流を印加することにより駆動する。モータ/ジェネレータ3は、インバータ13を介して高電圧バッテリ12からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作する(力行)。また、モータ/ジェネレータ3のロータがエンジン1や左右前輪16,16から回転エネルギを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、インバータ13を介して高電圧バッテリ12を充電する(回生)。
【0016】
前記第2クラッチ4は、モータ/ジェネレータ3と左右前輪16,16の間のうち、モータ軸と変速機入力軸の間に介装されたクラッチである。第2クラッチ4は、第1クラッチ2と同様に、CVTコントローラ21からの制御指令に基づき図外の油圧ユニットにより作り出された第2クラッチ油圧(CL2油圧)により、締結・スリップ締結・解放が制御される。
【0017】
前記ベルト式無段変速機5は、第2クラッチ4の下流位置に配置され、車速VSPやアクセル開度APOに応じて目標入力回転数を決め、無段階による変速比を自動的に変更する。このベルト式無段変速機5は、CVTコントローラ21からの制御指令に基づき図外の油圧ユニットにより作り出されたプライマリ油圧とセカンダリ油圧により、2つのプーリーへのベルト巻き付け径比である変速比が制御される。ベルト式無段変速機5の変速機出力軸には、図外のディファレンシャルが連結され、ディファレンシャルから左右のドライブシャフトを介してそれぞれに左右前輪16,16が設けられている。
【0018】
前記スターターモータ6は、エンジン1を始動する専用モータであり、モータコントローラ22からの制御指令に基づいて突入電流防止リレー10をオンにしたとき、第1低電圧バッテリ7から電力供給を受けて駆動する直流モータである。ここで、このスターターモータ6は、エンジン1のクランクシャフトに設けたリングギヤにスターターモータ6に設けたピニオンギヤを飛び込ませることでクランキングする飛び込み式のスターターモータである。
【0019】
前記第1低電圧バッテリ7は、回路遮断リレー9をオンすると共に、高電圧バッテリ12からの直流高電圧を、DC/DCコンバータ11により直流低電圧に変換することで充電される。前記第2低電圧バッテリ8は、高電圧バッテリ12からの直流高電圧を、DC/DCコンバータ11により直流低電圧に変換することで常時充電される。さらに、前記回路遮断リレー9をオンすることで、第2低電圧バッテリ8からスターターモータ6へ電力供給することも可能となる。この第2低電圧バッテリ8には、第1,第2電装負荷14,15が接続されているが、回路遮断リレー9をオンすることで、第1低電圧バッテリ7からも第1,第2電装負荷14,15へ電力供給が可能となる。ここで、第1,第2電装負荷14,15とは、例えばPCTヒータやエアコンシステム、室内灯、その他車両に搭載された電装品である。
【0020】
前記インバータ13は、モータコントローラ22からの制御指令に基づいて、力行時、高電圧バッテリ12からの直流を三相交流に変換してモータ/ジェネレータ3を駆動する。また、回生時、モータ/ジェネレータ3からの三相交流を直流に変換し、高電圧バッテリ12へ充電する。
【0021】
前記FFハイブリッド車両Sは、駆動形態の違いによる走行モードとして、
図2に示すように、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)と、を有する。
【0022】
前記「EVモード」は、第1クラッチ2を解放状態とし、エンジン1を停止してモータ/ジェネレータ3のみを駆動源として走行するモードであり、モータ走行モード・回生走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「EVモード」は、ドライバーの要求駆動力が低く、システム要求がないときに選択される。
【0023】
前記「HEVモード」は、第1クラッチ2を締結状態とし、エンジン1とモータ/ジェネレータ3を駆動源として走行するモードであり、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「HEVモード」は、ドライバーの要求駆動力が高いとき、あるいは、高電圧バッテリ12のバッテリSOCが不足する等のシステム要求があるときに選択される。
【0024】
すなわち、EVモードからHEVモードへ遷移するには、ドライバーの要求駆動力が予め設定されたEV⇒HEV切替線(エンジン始動線)を上回った場合、又は、システム要求によるエンジン始動要求が生じている場合である。
ここで、システム要求始動条件を列挙すると、路面勾配、エアコン条件、エンジンフード、エンジン水温、大気圧、ブレーキ負圧、変速機作動油温、第1クラッチフェーシング推定温度、高電圧バッテリSOC、高電圧バッテリ出力可能電圧、モータ発生可能トルク、駆動力以外の消費電力、フロントデフォッガースイッチ、リヤデフォッガースイッチ、三元触媒の酸素濃度、等がある。
【0025】
一方、HEVモードからEVモードへ遷移するには、ドライバーの要求駆動力が予め設定されたHEV⇒EV切替線(エンジン停止線)を下回った場合であって、システム要求によるエンジン始動要求がない場合である。
【0026】
前記FFハイブリッド車両Sの制御系は、
図1に示すように、エンジンコントローラ20と、CVTコントローラ21と、モータコントローラ22と、統合コントローラ23と、を有して構成されている。なお、各コントローラ20,21,22と統合コントローラ23とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線24を介して接続されている。
【0027】
前記エンジンコントローラ20は、エンジン回転数センサ27からのエンジン回転数情報と、クランク角センサ28からのクランク角情報と、逆回転検知センサ29からのエンジン状態情報と、統合コントローラ23からの目標エンジントルク指令と、その他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジン1のスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0028】
前記CVTコントローラ21は、アクセル開度センサ25と、車速センサ26と、他のセンサ類30等からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる目標入力回転数をシフトマップにより検索し、検索された目標入力回転数(変速比)を得る制御指令を、ベルト式無段変速機5に設けられた図外の油圧ユニットに出力する。この変速比制御に加え、第1クラッチ2と第2クラッチ4のクラッチ油圧制御を行う。
【0029】
前記モータコントローラ22は、ロータ回転位置情報と、統合コントローラ23からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータ/ジェネレータ3のモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ13へ出力する。そして、モータコントローラ22は、エンジン始動時に回路遮断リレー9や突入電流防止リレー10に対してスターター起動信号(ON)を出すスターターモータ6の駆動制御も併せて行う。
【0030】
前記統合コントローラ23は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うものである。この統合コントローラ23には、アクセル開度センサ25、車速センサ26、エンジン回転数センサ27、クランク角センサ28、逆回転検知センサ29、他のセンサ類30からの必要情報が直接、あるいは、CAN通信線24を介して入力される。
【0031】
[EV領域制御構成]
図3は、実施例1の制御装置が適用されたFFハイブリッド車両の統合コントローラで実行されるEV領域制御処理の流れを示すフローチャートである(EV領域制御手段)。
図4は、スターターモータをエンジン始動に用いるときのEV−HEV選択マップ(EVモード走行領域拡大マップ)を示すモード特性図である。
図5は、駆動モータをエンジン始動に用いるときのEV−HEV選択マップ(EVモード走行領域通常マップ)を示すモード特性図である。
以下、EV領域制御構成をあらわす
図3の各ステップについて説明する。
【0032】
ステップS1では、「EVモード」を選択しての走行が許可されているか否かを判断する。YES(EV走行許可)の場合はステップS2へ進み、NO(EV走行不許可)の場合はステップS1を繰り返す。
【0033】
ステップS2では、ステップS1でのEV走行許可であるとの判断に続き、走行中にスターターモータ6によるエンジン始動が可能であるか否か、すなわち、スターターモータ6を用いて走行中のエンジン始動を行うスターターモータ再始動モードであるか、モータ/ジェネレータ3を用いて走行中のエンジン始動を行う通常モータ再始動モードであるかを判断する。YES(スターターモータ使用可能=スターターモータ再始動モード)の場合はステップS3へ進み、NO(スターターモータ使用不可=通常モータ再始動モード)の場合はステップS4へ進む。
ここで、スターターモータ6によるエンジン始動の可否判断は、後述する再始動モード切替処理に基づいて行う。
【0034】
ステップS3では、ステップS2でのスターターモータ使用可能である、つまりスターターモータ再始動モードであるとの判断に続き、目標走行モード(EVモード、HEVモード)を演算する際に使用するEV−HEV選択マップとして、
図4に示すEVモード走行領域拡大マップを使用するように設定し、エンドへ進む。
【0035】
ステップS4では、ステップS2でのスターターモータ使用不可である、つまり通常モータ再始動モードであるとの判断に続き、EV−HEV選択マップとして、
図5に示すEVモード走行領域通常マップを使用するように設定し、エンドへ進む。
【0036】
ここで、「EV−HEV選択マップ」とは、ドライバーの要求駆動力(アクセル開度APO)と車速VSPに応じて、EVモードでの走行可能領域(
図4,5中「EV」と示す領域、以下EV領域という)と、HEVモードでの走行可能領域(4,5図中「HEV」と示す領域、以下HEV領域という)とを設定するマップである。このEV領域とHEV領域は、EV⇒HEV切替線(エンジン始動線)及びHEV⇒EV切替線(エンジン停止線)によって区画されている。そして、このEV−HEV選択マップにおいて、EV領域に存在する運転点(APO,VSP)がEV⇒HEV切替線を上回れば、エンジン始動要求が発生して目標走行モードが「HEVモード」へと切り替わる。また、HEV領域に存在する運転点(APO,VSP)がHEV⇒EV切替線を下回れば、エンジン停止要求が発生して目標走行モードが「EVモード」へと切り替わる。
【0037】
そして、「EVモード走行領域拡大マップ」とは、「EVモード走行領域通常マップ」でのEV領域よりも、このEV領域を拡大したマップである。
【0038】
つまり、「EVモード走行領域通常マップ」では、EV領域とHEV領域を区画するEV⇒HEV切替線を、車速VSPに応じて決まるモータ/ジェネレータ3の最大出力トルク(
図5で一点鎖線で示す)から、エンジン1の始動に必要なトルク(エンジン始動トルク)を差し引いた値とする。
【0039】
一方、「EVモード走行領域拡大マップ」では、スターターモータ6を用いてエンジン始動が可能な車速域において、EV領域とHEV領域を区画するEV⇒HEV切替線を、車速VSPに応じて決まるモータ/ジェネレータ3の最大出力トルク(
図4で一点鎖線で示す)から、エンジン1の始動時の回転上昇アシスト分のトルク(始動アシストトルク)を差し引いた値とする。
ここで、上記「回転上昇アシスト分のトルク」とは、スターターモータ6によるクランキングトルクと初爆トルクでエンジン回転数を十分に上げられない場合を想定してモータ/ジェネレータ3に残しておく余裕トルクである。
また、上記「スターターモータ6を用いてエンジン始動が可能な車速域」とは、
図4に示す下限閾値VSP1から上限閾値VSP2の間の車速域である。この下限閾値VSP1は、暗騒音(=環境騒音)によってスターターモータ6の飛び込み音や駆動音が乗員に聞こえなくなり、乗員に違和感を感じさせない車速閾値である。車速VSPが低くなると暗騒音が小さくなり、スターターモータ6によるエンジン始動ができない。また、上限閾値VSP2は、スターターモータ6によりエンジン1のクランキングに必要なエンジン回転数を出力できる車速閾値である。車速VSPが高くなるとクランキングに必要なエンジン回転数が高くなってしまい、スターターモータ6によるエンジン始動ができない。
なお、この「EVモード走行領域拡大マップ」において、スターターモータ6を用いてエンジン始動が可能な車速域以外の車速域では、EV⇒HEV切替線を、モータ/ジェネレータ3の最大出力トルクから、エンジン始動トルクを差し引いた値とする。
【0040】
[再始動モード切替構成]
図6は、実施例1の制御装置が適用されたFFハイブリッド車両の統合コントローラで実行される再始動モード切替処理の流れを示すフローチャートである(再始動モード切替手段)。
図7は、スターターモータ再始動モードと通常モータ再始動モードとの遷移条件を示す説明図である。
以下、再始動モード切替構成をあらわす
図6の各ステップについて説明する。
【0041】
ステップS10では、エンジン1が停止したか否かを判断する。YES(エンジン停止)の場合はステップS11へ進み、NO(エンジン駆動)の場合はステップS18へ進む。
ここで、エンジン停止の判断は、エンジン回転数センサ27からのエンジン回転数情報、又は、逆回転検知センサ29からのエンジン状態情報に基づいて行う。エンジン回転数が所定回転数以下になった場合や、エンジン回転状態が予め設定した停止状態となった場合には、エンジン停止と判断する。
【0042】
ステップS11では、ステップS10でのエンジン停止との判断に続き、第1,第2低電圧バッテリ7,8がいずれも劣化していないか否かを判断する。YES(劣化なし)の場合はステップS12へ進み、NO(劣化あり)の場合はステップS18へ進む。
なお、第1,第2低電圧バッテリ7,8が劣化していると、低電圧系回路の電圧低下が所定閾値以下になり、システムが瞬間停止するおそれがあるため、スターターモータ6の使用を制限する。
【0043】
ステップS12では、ステップS11でのバッテリ劣化なしとの判断に続き、第1,第2低電圧バッテリ7,8がいずれも十分なバッテリSOCを確保しているか否か、すなわちバッテリ充電状態が十分であるか否かを判断する。YES(SOCあり)の場合はステップS13へ進み、NO(SOC不足)の場合はステップS18へ進む。
ここで、バッテリSOC状態(バッテリ充電状態)は、第1,第2低電圧バッテリ7,8の出力電圧やDC/DCコンバータ11の充電状態に基づいて判断する。
なお、長期間放置される等して第1,第2低電圧バッテリ7,8が放電している場合には、スターターモータ6への電力供給を十分に行うことができず、エンジン始動に時間がかかったり、システムが瞬間停止するおそれがあるため、スターターモータ6の使用を制限する。
【0044】
ステップS13では、ステップS12でのバッテリSOCありとの判断に続き、第1,第2低電圧バッテリ7,8に接続された第1,第2電装負荷14,15における消費電力が所定閾値よりも小さいか否かを判断する。YES(消費電力小)の場合はステップS14へ進み、NO(消費電力大)の場合はステップS18へ進む。
なお、PCTヒータが駆動中等の第1,第2電装負荷14,15での消費電力が大きい場合では、システムが瞬間停止する閾値に対するマージンが小さくなり、低電圧系回路の電圧低下がこの閾値以下になりやすくなるため、スターターモータ6の使用を制限する。
【0045】
ステップS14では、ステップS13での消費電力小との判断に続き、スターターモータ6の温度が所定閾値未満であるか否か、すなわちスターターモータ6が過熱していないか否かを判断する。YES(スターター非過熱)の場合はステップS15へ進み、NO(スターター過熱)の場合はステップS18へ進む。
なお、スターターモータ6によるエンジン始動直後はモータ温度が上がるため、次回始動不能や耐久性への影響を考慮して、スターターモータ6の使用を制限する。
【0046】
ステップS15では、ステップS14でのスターター非過熱との判断に続き、スターターモータ6の使用回数が所定回数を越えていないか否かを判断する。YES(所定回数未満)の場合はステップS16へ進み、NO(所定回数以上)の場合はステップS18へ進む。
なお、スターターモータ6によるエンジン始動の回数によって耐久性に影響が生じる部品等があるため、スターターモータ6の使用を制限する。
【0047】
ステップS16では、ステップS15での使用回数所定未満との判断に続き、ドライバーによる駆動要求がなく、モータ/ジェネレータ3によるエンジン始動が不可能であるか否かを判断する。YES(駆動要求なし且つモータ/ジェネレータ始動不可)の場合はステップS17へ進み、NO(駆動要求なし且つモータ/ジェネレータ始動可)の場合はステップS18へ進む。
ここで、ドライバーによる駆動要求とは、アクセル開度APOに基づいて判断する。アクセルが踏み込まれれば(アクセル開度が大になれば)、駆動要求(加速要求)があったと判断する。また、モータ/ジェネレータ3によってエンジン始動した場合に、現在の駆動力が維持できれば、モータ/ジェネレータ3によるエンジン始動が可能と判断する。
なお、モータ/ジェネレータ3を用いてエンジン始動することで、スターターモータ6の劣化を防止し、運転性や騒音振動性能を優先することができるため、スターターモータ6の使用を制限する。
【0048】
ステップS17では、ステップS16での駆動要求なし且つモータ/ジェネレータ始動不可との判断に続き、スターターモータ6による走行中のエンジン始動を可能と判断する。つまり、エンジン再始動モードを、スターターモータ6を用いて走行中のエンジン始動を行うスターターモータ再始動モードに設定する。そして、エンドへ進む。
【0049】
ステップS18では、ステップS10でのエンジン駆動との判断、ステップS11でのバッテリ劣化ありとの判断、ステップS12でのバッテリSOC不足との判断、ステップS13での消費電力大との判断、ステップS14でのスターター過熱との判断、ステップS15での使用回数所定以上との判断、ステップS16での駆動要求なし且つモータ/ジェネレータ始動可との判断、のいずれかに続き、モータ/ジェネレータ3による走行中のエンジン始動を可能と判断する。つまり、エンジン再始動モードを、モータ/ジェネレータ3を用いて走行中のエンジン始動を行う通常モータ再始動モードに設定する。そして、エンドへ進む。
【0050】
そして、
図7に示すように、通常モータ再始動モードからスターターモータ再始動モードに遷移するには、目標走行モードがEVモードとなる、スターターモータ6によるエンジン始動が可能となる(エンジン回転が停止と判断)、スターターモータ6による再始動条件(上記ステップS11〜ステップS16)がすべて成立する、つまり再始動禁止条件が成立してない、との各条件が必要となる。
【0051】
一方、スターターモータ再始動モードから通常モータ再始動モードへと遷移するには、スターターモータ再始動モードとなった後に、目標走行モードがHEVモードとなった場合である。すなわち、スターターモータ再始動モードにおいて、スターターモータ6を用いてエンジン始動することでEVモードからHEVモードへと走行モードが遷移すれば、エンジン再始動モードは、一旦、通常モータ再始動モードとなる。
【0052】
次に、実施例1のハイブリッド車両の制御装置のEVモード拡大作用について説明する。
【0053】
[EVモード拡大作用]
図8は、実施例1の制御装置が適用されたFFハイブリッド車両で、スターターモータによるエンジン始動が可能になるときのエンジン回転数・エンジン燃料噴射状態・スターターモータスタンバイ判定・ドライバー要求駆動力・EV⇒HEV切替線の各特性を示すタイムチャートである。
【0054】
実施例1のハイブリッド車両の制御装置が適用されたFFハイブリッド車両Sでは、スターターモータ再始動モード時のEVモードでの走行可能領域を、通常モータ再始動モード時のEVモードでの走行可能領域よりも拡大している。
【0055】
すなわち、実施例1のFFハイブリッド車両SがHEVモード中、スターターモータ6を用いてエンジン始動可能な車速域(VSP1<車速<VSP2)で走行しているとき、
図8に示す時刻t1において、アクセル開度APOが小さくなり、ドライバーの要求駆動力が低下すると、エンジン1への燃料供給がOFFされる。
このとき、燃料供給が停止してもエンジン1は惰性により回転しエンジン回転数は変動しない。そのため、
図6に示すフローチャートにおいてステップS10→ステップS18へと進み、通常モータ再始動モードが設定される。つまり、ドライバーの要求駆動力の低下によりエンジン1への燃料供給がOFFしても、スターターモータ6を用いてエンジン始動することはできず、スターターモータ6のスタンバイ判定はOFFのままである。
これにより、EV−HEV選択マップとして「EVモード走行領域通常マップ」が用いられ、EV⇒HEV切替線はモータ/ジェネレータ最大出力トルクからエンジン始動トルクを引いた値に設定される。これにより、モータ/ジェネレータ3の出力可能トルクがエンジン始動トルクによって制限された状態となり、EV⇒HEV切替線が要求駆動力に対して低い値となる。
【0056】
時刻t2において、ドライバーの要求駆動力がEV⇒HEV切替線以下になり、さらに低下してHEV⇒EV切替線(ここでは図示せず)を下回れば、目標走行モードがEVモードへと切り替わる。
このとき、エンジン1は惰性により回転し続けているためエンジン回転数は低下しておらず、
図6に示すフローチャートにおいてステップS10→ステップS18へと進み、通常モータ再始動モードが設定され続ける。
【0057】
そして、時刻t3において、エンジン回転数が低下し始める。この場合であっても、エンジン回転数が高く、エンジン停止と判定されない。このため、
図6に示すフローチャートにおいてステップS10→ステップS18へと進み、通常モータ再始動モードが設定され続ける。
【0058】
時刻t4において、エンジン回転数がエンジン停止と判定できる回数となる、つまりゼロとなると、
図6に示すフローチャートにおいてステップS10→ステップS11へと進む。そして、第1,第2低電圧バッテリ7,8の状態、SOC、第1,第2電装負荷14,15による消費電力、スターターモータ6の温度及び使用回数、駆動要求の有無、モータ/ジェネレータ3による始動可否を検出する。この結果、スターターモータ6による再始動禁止条件が成立していなければ、
図6に示すフローチャートにおいて、ステップS11→ステップS12→ステップS13→ステップS14→ステップS15→ステップS16→ステップS17へと進み、スターターモータ6による走行中のエンジン始動が可能と判断される。つまり、スターターモータ再始動モードが設定され、スターターモータスタンバイ判定がONとなる。
【0059】
これにより、
図3に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進み、EV−HEV選択マップは、「EVモード走行領域拡大マップ」が用いられる。このとき、FFハイブリッド車両Sが、スターターモータ6を用いてエンジン始動可能な車速域(VSP1<車速<VSP2)で走行しているため、EV⇒HEV切替線は、モータ/ジェネレータ最大出力トルクから始動アシストトルクを引いた値に設定される。つまり、モータ/ジェネレータ3の出力可能トルクがエンジン始動トルクによって制限されることがなくなり、通常モータ再始動モードが設定されているときよりも、EV⇒HEV切替線が要求駆動力に対して高い値となる。
【0060】
このため、時刻t5においてドライバーの要求駆動力が上昇しても、この要求駆動力がEV⇒HEV切替線を上回らず、EVモードのまま走行可能となる。この結果、EVモードでの走行状態を維持することができ、EVモードでの走行可能領域の拡大を図ることができる。
【0061】
一方、このようなEVモードでの走行可能領域の拡大は、「EVモード走行領域拡大マップ」において、スターターモータ6を用いてエンジン始動可能な車速域(VSP1〜VSP2)に設定されている。つまり、このEVモードでの走行可能領域の拡大は、スターターモータ6を用いた走行中のエンジン始動が可能であると適切に判断した上で行うことができる。そのため、エンジン始動トルクを残さず、モータ/ジェネレータ3の出力トルクを走行用として利用しても、エンジン始動要求があればスターターモータ6により適切にエンジン始動を行うことができる。このため、エンジン始動性が悪化するということを防止できる。
【0062】
特に、実施例1の場合では、下限閾値VSP1を、暗騒音(=環境騒音)によってスターターモータ6の飛び込み音や駆動音が乗員に聞こえなくなり、乗員に違和感を感じさせない車速閾値に設定している。このため、乗員に違和感を与えることなくスターターモータ6によるエンジン始動を行うことができ、エンジン始動性の悪化を防止できる。
また、上限閾値VSP2を、スターターモータ6によりエンジン1のクランキングに必要なエンジン回転数を出力できる車速閾値に設定している。このため、スターターモータ6によるエンジン始動時の車速VSPが制限され、スターターモータ6によるエンジン始動を確保して、エンジン始動性の悪化を防止できる。
【0063】
なお、実施例1では、スターターモータ再始動モードが設定されているときのEV⇒HEV切替線が、モータ/ジェネレータ最大出力トルクから始動アシストトルクを引いた値に設定されている。このため、スターターモータ6によるクランキングとエンジン1の初爆トルクで、十分なエンジン上昇が得られなくても、モータ/ジェネレータ3によりエンジン回転数を上昇させることでエンジン始動がスムーズに行われ、エンジン始動性の悪化を防止できる。
【0064】
また、実施例1のFFハイブリッド車両Sでは、エンジン1が停止したときにスターターモータ6によるエンジン始動を可能としている。そのため、エンジン1が惰性により回転してスターターモータ6を飛び込ませることができない間は、スターターモータ6によるエンジン始動を行うことができない。これにより、スターターモータ6によるスムーズなエンジン始動を確保することができ、エンジン始動遅れの発生を防止できる。
【0065】
さらに、実施例1のFFハイブリッド車両Sでは、第1,第2低電圧バッテリ7,8が劣化しているとき、第1,第2低電圧バッテリ7,8の充電状態が低いとき、第1,第2低電圧バッテリ7,8に接続された第1,第2電装負荷14,15の消費電力が高いとき、のいずれかの場合には、スターターモータ6を用いた走行中のエンジン始動を許可しない。これにより、スターターモータ6によるエンジン始動時に、第1,第2バッテリ7,8からの出力電圧が低下して、第1,第2電装負荷14,15の動作に影響を与えることを防止できる。
【0066】
さらに、実施例1のFFハイブリッド車両Sでは、スターターモータ6が過熱中のときには、スターターモータ6を用いた走行中のエンジン始動を許可しない。これにより、スターターモータ6の過熱により、このスターターモータ6を用いた際のエンジン始動性能やスターターモータ6の耐久性に影響を与えることを防止できる。
【0067】
そして、実施例1のFFハイブリッド車両Sでは、スターターモータ6の使用回数が所定回数を上回ったときにも、スターターモータ6を用いた走行中のエンジン始動を許可しない。これにより、スターターモータ6を用いた際のエンジン始動システムの劣化を防止し、このスターターモータ6を用いた際のエンジン始動性能に影響を与えることを防止できる。
【0068】
また、実施例1のFFハイブリッド車両Sでは、ドライバーによる駆動要求がなく、且つ、モータ/ジェネレータ3によるエンジン始動が可能な場合には、モータ/ジェネレータ3を用いて走行中のエンジン始動を行う。これにより、スターターモータ6を用いた際のエンジン始動システムの劣化を防止すると共に、運転性や騒音振動性能を優先することができる。
【0069】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0070】
(1) エンジン1と、
前記エンジン1を始動させるスターターモータ6と、
前記エンジン1と前輪16,16に対しモータトルクが伝達可能であるモータ/ジェネレータ3と、
前記モータ/ジェネレータ3を駆動源とする電気自動車走行モードを選択中、前記スターターモータ6を用いて走行中のエンジン始動を行うスターターモータ再始動モードと、前記モータ/ジェネレータ3を用いて走行中のエンジン始動を行う通常モータ再始動モードと、を切り替える再始動モード切替手段(
図6)と、
前記スターターモータ再始動モード時、前記電気自動車走行モードでの走行可能領域を、前記通常モータ再始動モード時よりも拡大するEV領域制御手段(
図3)と、
を備えた構成とした。
これにより、モータ/ジェネレータ3を走行駆動源とする電気自動車走行モードでの走行可能領域の拡大を図ることができる。
【0071】
(2) 前記EV領域制御手段(
図3)は、前記スターターモータ6を用いてエンジン始動可能な車速域(VSP1〜VSP2)のとき、前記電気自動車走行モードでの走行可能領域を、前記通常モータ再始動モード時よりも拡大する構成とした。
これにより、スターターモータを用いた走行中のエンジン始動が可能であると適切に判断した上で、EVモード走行可能領域の拡大を行うことができ、エンジン始動性が悪化することを防止できる。
【0072】
(3) 前記スターターモータ6は、飛び込み式スターターモータであり、
前記再始動モード切替手段(
図6)は、前記エンジンが停止したとき、前記スターターモータ再始動モードを設定する構成とした。
これにより、スターターモータ6を用いたエンジン始動をスムーズに行うことができ、エンジン始動遅れの発生を防止できる。
【0073】
(4) 前記スターターモータ6に電力供給を行う第1低電圧バッテリ7を備え、
前記再始動モード切替手段(
図6)は、前記第1低電圧バッテリ7が劣化している場合、前記第1低電圧バッテリ7の充電状態が低い場合、前記第1低電圧バッテリ7に接続された第1電装負荷14による消費電力が高い場合、のいずれかのとき、前記通常モータ再始動モードを設定する構成とした。
これにより、スターターモータ6を用いたエンジン始動時に第1低電圧バッテリ7からの出力電圧が低下し、第1電装負荷14の動作に影響を与えることを防止できる。
【0074】
(5) 前記再始動モード切替手段(
図6)は、前記スターターモータ6の温度が所定閾値以上のとき、前記通常モータ再始動モードを設定する構成とした。
これにより、スターターモータ6の過熱により、スターターモータ6を用いたエンジン始動システムや、スターターモータ6の耐久性に影響を与えることを防止できる。
【0075】
(6) 前記再始動モード切替手段は、前記スターターモータの使用回数が所定閾値以上のとき、前記通常モータ再始動モードを設定する構成とした。
これにより、スターターモータ6を用いたエンジン始動システムの劣化により、スターターモータ6によるエンジン始動性能に影響を与えることを防止できる。
【0076】
(7) 前記再始動モード切替手段は、ドライバー加速要求がなく、且つ、前記駆動モータによる走行中のエンジン始動を行っても駆動力を維持できるとき、前記通常モータ再始動モードを設定する構成とした。
これにより、スターターモータ6を用いたエンジン始動システムの劣化を防止すると共に、運転性や騒音振動性能を優先することができる。
【0077】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0078】
上記実施例1では、スターターモータ6を飛び込み式のスターターモータとし、エンジン1が停止したと判断したときにスターターモータ再始動モードを設定する例を示した。しかしながらこれに限らず、例えば、スターターモータ6が、回転同期式スターターモータである場合には、エンジン1とスターターモータ6が結合すると共に、エンジン1の回転数がスターターモータ6によるクランキング可能な回転数となったときに、スターターモータ再始動モードを設定するようにしてもよい。
この場合であっても、スターターモータ6を用いたエンジン始動をスムーズに行うことができ、エンジン始動遅れの発生を防止できる。
なお、「回転同期式スターターモータ」とは、エンジン1の回転とスターターモータ6の回転が同期したときに、エンジン1とスターターモータ6が結合するスターターモータである。この場合、例えばクランク角センサ28からのクランク角情報に基づいてエンジン回転状態を判断する。
また、「クランキング可能な回転数」とは、スターターモータ6によりクランキングトルクを出力することができる回転数である。エンジン回転数が、この「クランキング可能な回転数」より大きい場合には、スターターモータ6はクランキングトルクを出力することはできない。
【0079】
また、例えば、スターターモータ6が、常時噛み合い式スターターモータである場合には、エンジン1の回転数がスターターモータ6によるクランキング可能な回転数となったときに、スターターモータ再始動モードを設定するようにしてもよい。
この場合であっても、スターターモータ6を用いたエンジン始動をスムーズに行うことができ、エンジン始動遅れの発生を防止できる。
なお、「常時噛み合い式スターターモータ」とは、エンジン1とスターターモータ6が常時結合しているスターターモータである。
【0080】
さらに、実施例1では、EV領域制御手段として、「EVモード走行領域拡大マップ」において、EVモードによる走行可能領域を拡大する際、EV⇒HEV切替線がモータ/ジェネレータ最大出力トルクから始動アシストトルクを引いた値に設定した例を示した。しかし、EVモードでの走行可能領域を区画するEV⇒HEV切替線を、モータ/ジェネレータ最大出力トルクとなる値に設定してもよい。
これにより、モータ/ジェネレータ3によって出力可能なトルクをすべて走行駆動源として利用することができ、EVモードによる走行可能領域のさらなる拡大を図ることができる。
【0081】
さらに、実施例1では、再始動モード切替手段として、
図6の各ステップで示したスターターモータ6による再始動条件がすべて成立したとき、スターターモータ再始動モードが設定する例を示した。しかし、
図6に示すフローチャートの各ステップで示したスターターモータ6による再始動条件は、任意に選択することができる。すなわち、
図6での各ステップが必ずしもすべて成立していなくとも、スターターモータ再始動モードを設定してもよい。
【0082】
さらに、実施例1では、再始動モード切替手段として、
図6のステップS11で、第1,第2低電圧バッテリ7,8がいずれも劣化していないか否かを判断する例を示し、ステップS12で、第1,第2低電圧バッテリ7,8がいずれも十分なバッテリSOCを確保しているか否かを判断する例を示し、ステップS13で、第1,第2電装負荷14,15における消費電力が所定閾値よりも小さいか否かを判断する例を示している。
しかし、スターターモータ6に対して主に電力供給する第1低電圧バッテリ7の劣化状態やバッテリSOC、さらに、この第1低電圧バッテリ7から主に電力供給を受ける第1電装負荷14の消費電力についてのみ、スターターモータ6による再始動条件としてもよい。
【0083】
そして、実施例1では、本発明のハイブリッド車両の制御装置を、1モータ2クラッチによるFFハイブリッド車両Sに適用する例を示した。しかし、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、第1クラッチ2や第2クラッチ4やベルト式無段変速機5等を駆動系に備えていないFFやFRのハイブリッド車両に対しても適用することができる。要するに、エンジンのスターターモータと、エンジン始動モータを兼用する駆動モータと、を備えたハイブリッド車両の制御装置であれば適用できる。