(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(無機繊維質耐火成形体)
先ず、本発明の無機繊維質耐火成形体について説明する。
本発明の無機繊維質耐火成形体は、40℃における生理食塩水への溶解率が1%以上である生体溶解性無機繊維2〜95質量%と、針状結晶構造を有する無機粉末2〜95質量%と、バインダー3〜32質量%とを含む材料からなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の無機繊維質耐火成形体の構成材料は、40℃における生理食塩水への溶解率が1%以上である生体溶解性無機繊維を含有する。こうした生体溶解性無機繊維としては、例えば、空気雰囲気下、800℃で24時間加熱処理した際の長さ方向の収縮率({(加熱前の長さ−加熱後の長さ)/加熱前の長さ})×100)が1%以下、1100℃で24時間加熱処理した際の長さ方向の収縮率が5%以下であるものが挙げられる。
【0014】
上記生体溶解性無機繊維としては
、CaOとMgOとの合計含有量が20〜40重量%であり、60〜80重量%のSiO
2を含むケイ酸アルカリ土類金属塩繊維が挙げられる。具体的には、特開2000−220037号公報、特開2002−68777号公報、特開2003−73926号公報、あるいは特開2003−212596号公報に記載されている無機繊維、すなわち、SiO
2及びCaOの合計含有量が85質量%以上であり、0.5〜3.0質量%のMgO及び2.0〜8.0質量%のP
2O
5を含有し、かつドイツ危険物質規制による発癌性指数(KI値)が40以上である無機繊維や、SiO
2、MgO及びTiO
2を必須成分とする無機繊維や、SiO
2、MgO及び酸化マンガンを必須成分とする無機繊維や
、SiO
2 75〜80質量%、CaO+MgO 19〜25質量%、Al
2O
3 1〜3質量%を含む無機繊維から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0015】
40℃における生理食塩水への溶解率が1質量%以上であることにより、生体溶解性無機繊維が体内で溶解され易くなる。一方、40℃における生理食塩水への溶解率が1質量%未満であると、生体溶解性無機繊維が生体内で溶解され難くなる。
【0016】
生体溶解性無機繊維の生理食塩水への溶解率の測定方法は、生体溶解性無機繊維を構成する金属元素として、ケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムが考えられる場合を例にとって説明すると、以下のとおりとなる。
生体溶解性無機繊維を200メッシュ以下に粉砕した試料1g及び生理食塩水150mLを三角フラスコ(300mL)に入れ、40℃のインキュベーターに設置してから、上記三角フラスコに対し、毎分120回転の水平振盪を50時間継続して与える。振盪終了後、振盪した液をろ過し、得られたろ液中に含有されているケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムについて、各元素の濃度(mg/L)を、ICP発光分析にて測定する。
そして、上記ろ液中の各元素の濃度及び溶解前の生体溶解性無機繊維中の各元素の含有量(質量%)から、下記式(1)により、40℃における生理食塩水への溶解率C(%)を算出する。なお、ICP発光分析により得られるろ液中の各元素の濃度を、ケイ素元素の濃度:a1(mg/L)、マグネシウム元素の濃度:a2(mg/L)、カルシウム元素の濃度:a3(mg/L)及びアルミニウム元素の濃度a4(mg/L)とし、溶解前の無機繊維中の各元素の含有量を、ケイ素元素の含有量:b1(質量%)、マグネシウム元素の含有量:b2(質量%)、カルシウム元素の含有量:b3(質量%)及びアルミニウム元素の含有量:b4(質量%)とする。
C(%)={ろ液量(L)×(a1+a2+a3+a4)×100}/{溶解前の無機繊維の量(mg)×(b1+b2+b3+b4)/100}
(1)
【0017】
本発明の無機繊維質耐火成形体において、生体溶解性無機繊維は骨材としての機能を発揮する。
生体溶解性無機繊維の平均繊維径は1〜50μmであ
り、1〜10μmであること
が好ましく、1〜6μmであることがさらに好ましい。平均繊維径が1μm未満であると耐水性が低下しやすくなり易く、得られる耐火成形体の強度が低くなり易く、また50μmを超えると耐火成形体の密度が低くなるため、得られる耐火成形体の強度が低くなり易い。また、無機繊維の平均繊維長は1〜200mmであることが好ましく、1〜100mmであることがより好ましく、1〜50mmであることがさらに好ましい。平均繊維長が上記範囲内にあることにより、適切な密度を有する耐火成形体を得易くなる。
なお、本出願書類において、平均繊維径、平均繊維長とは、測定試料300〜500本の繊維径と繊維長を光学顕微鏡で測定したときのそれぞれの平均値を意味する。
【0018】
本発明の無機繊維質耐火成形体の構成材料は、40℃における生理食塩水への溶解率が1%以上である生体溶解性無機繊維を2〜95質量%含む。上記構成材料中の生体溶解性無機繊維の含有量は、18〜72質量%であることが適当であり、27〜63質量%含まれることがより適当である。
本発明の無機繊維質耐火成形体は、生体溶解性無機繊維を2〜95質量%含む材料からなるものであるため、針状結晶構造を有する無機粉末と相互作用を発揮して所望の耐熱性を発揮するとともに、高い生体溶解性を発揮することができる。
【0019】
本発明の無機繊維質耐火成形体の構成材料は、針状結晶構造を有する無機粉末を含有する。
針状結晶構造を有する無機粉末としては、天然鉱物ならびに合成物が存在し、具体的には、ワラストナイト粉末、セピオライト粉末、アタパルジャイト粉末等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0020】
ワラストナイト(Wollastonite)は、CaSiO
3(CaO・SiO
2)で表記される、カルシウムカチオンで繋がれた無限の珪素−酸素鎖(SiO
3)構造を有する、結晶構造が針状の無機物質である。天然鉱物として産出されるワラストナイトは、珪灰石として石灰岩地帯に産出し、不純物として微量(例えば、0.5重量%未満)のAl
2O
3やFe
2O
3を含有することもある。
【0021】
また、セピオライト(sepiolite)は、粘土状の含水マグネシウム珪酸塩鉱物であって、Mg
4Si
6O
15(OH)
2・6H
2Oで代表される組成式を有する、結晶構造が針状の無機物質であり、アタパルジャイト(attapulgite)は、粘土状の含水珪酸アルミニウム・マグネシウム化合物であって、Si
8O
20Mg
5(OH)
2・Al(OH
2)
4・4H
2Oで代表される組成式を有する、結晶構造が針状の無機物質である。
【0022】
本発明の無機繊維質耐火成形体において、針状結晶構造を有する無機粉末としては、平均繊維長が1〜3000μmであ
り、2〜2000μmであるもの
が好ましく、3〜1000μmであるものがさらに好ましい。また、平均径が1〜100μmであ
り、1〜90μmであるもの
が好ましく、1〜80μmであるものがさらに好ましい。
また、針状結晶構造を有する無機粉末としては、アスペクト比が
2〜1000であ
り、2〜100であるもの
が好ましく、3〜50であるものがさらに好ましい。
【0023】
針状結晶構造を有する無機粉末の平均長さおよび平均径は、測定試料となる無機粉末300〜500個の長さと直径を光学顕微鏡で測定したときのそれぞれの平均値を意味する。
そして、針状結晶構造を有する無機粉末のアスペクト比は、上記無機粉末の平均長さ/無機粉末の平均径により求めることができる。
【0024】
本発明の無機繊維質耐火成形体の構成材料は、針状結晶構造を有する無機粉末を2〜95質量%含み、18〜72質量%含むことが適当であり、27〜63質量%含むことがより適当である。
本発明の無機繊維質耐火成形体は、針状結晶構造を有する無機粉末を2〜95質量%含む材料からなるものであるため、生体溶解性無機繊維と相互作用を発揮して所望の耐熱性を発揮するとともに、製造コストや製品コストを低減し、優れた生体溶解性を発揮することができる。
【0025】
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料には、針状結晶構造を有する無機粉末として、例えば、融点が1500℃であるワラストナイトや、融点が1550℃であるセピオライト等が採用されるが、これ等の無機粉末は、アルミナ(αアルミナで融点2053℃)やシリカ(融点1650℃)に比べて融点が低いことから、従来、耐火成形体の構成材料としては適当でないと考えられてきた。
しかしながら、本発明者等が鋭意検討した結果、融点が低く耐熱性向上効果が期待できないと考えられていたワラストナイト等の針状結晶構造を有する無機粉末を所定量含むとともに、生体溶解性無機繊維を所定量含む構成材料を用いることにより、針状結晶構造を有する無機粉末と生体溶解性無機繊維が相互作用を発揮して優れた耐熱性を示すことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0026】
ワラストナイト等の針状結晶構造を有する無機粉末は、アルミナ粉末等に比べて価格も安価で入手も容易であり、また、ワラストナイト等もそれ自身が生体溶解性を示す物質であることから、無機繊維質耐火成形体の製造コストや製品コストを低減し得るとともに、無機繊維質耐火成形体の生体溶解性を向上することもできる。
【0027】
本発明の無機繊維質耐火成形体の構成材料は、バインダーを3〜32質量%含み、5.5〜22質量%含むことが好ましく、7〜18質量%がより好ましい。
本発明の無機繊維質耐火成形体において、バインダーとしては、無機バインダーおよび有機バインダーから選ばれる一種以上を挙げることができ、バインダーを複数種用いる場合、上記バインダーの含有量は、使用するバインダーの総量を意味する。
【0028】
無機バインダーとしては、アニオン性のコロイダルシリカ、カチオン性のコロイダルシリカ等のコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
後述するように、耐火成形体の製造時または使用時において、高温で焼成処理することにより、上記無機バインダーはシリカやアルミナ等の酸化物形態を採ることとなるが、本出願処理においては、上記焼成処理前後のいずれの形態も無機バインダーと称することとする。また、本出願書類において、無機バインダーの含有割合は酸化物換算した値を意味するものとする。
【0029】
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料は、無機バインダーを、酸化物換算で3〜20質量%含むことが好ましく、3.5〜15質量%含むことがより好ましく、4〜12質量%含むことがさらに好ましい。
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料において、無機バインダーの含有割合が3質量%未満であると、高温での使用環境下で強度向上効果が得られ難く、無機バインダーの含有割合が20質量%を超えると、後述する耐火成形体の製造時に脱水成形工程における濾水性が低下して製造効率が低下してしまう。
【0030】
後述するように、コロイダルシリカ等の無機バインダーは、生体溶解性無機繊維との共存下、600〜1000℃程度の温度で焼成されることにより、生体溶解性無機繊維同士を強固に結合することができることから、原料を脱水成形して得られた予備成形物を乾燥処理した後、焼成処理したり工業炉内等で被処理物とともに焼成することにより、バインダーとして高い能力を発揮することができる。
【0031】
有機バインダーとしては、澱粉、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド等を挙げることができる。
【0032】
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料は、有機バインダーを、0.1〜12質量%含むことが好ましく、2〜7質量%含むことがより好ましく、3〜6質量%含むことがさらに好ましい。
本発明の無機繊維質耐火成形体において、有機バインダーの含有割合が0.1質量%未満であると、後述する耐火成形体の製造時において予備成形体を乾燥処理した際に、乾燥処理物に十分な強度を付与し難くなり、12質量%を超えると、乾燥処理物を焼成した際に燃焼ガスの排出量が増加したり、保管時に水分を吸湿して無機繊維質耐火成形体の性質を低下させる場合がある。
【0033】
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料が有機バインダーを含むことにより、後述するように、無機繊維質耐火成形体の製造時に、原料を脱水成形、乾燥処理して得られた耐火成形体に十分な保形性および強度を付与することができる。
【0034】
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料は、上記生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末およびバインダーを合計で50質量%以上含むものであり、70質量%以上含むことがより適当であり、90質量%以上含むことがさらに適当である。
本発明の無機繊維質耐火成形体が、生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末およびバインダーを合計で50質量%以上含む材料からなることにより、耐熱性や生体溶解性等をより効果的に向上することができる。
【0035】
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料は、粉体状の充填材や骨材を必要に応じて含んでいてもよく、これにより、無機繊維質耐火成形体の機械的強度を向上させることができる。
【0036】
充填材や骨材としては、シャモット、セラミックバルーンといった軽量骨材や、アルミナ、シリカ、コージェライト、珪藻土、ジルコン、ジルコニア、マグネシア、カルシアといった無機粉末や、カオリナイトといった粘土鉱物等が挙げられる。
【0037】
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料は、ヘキサメタ燐酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウム、ウルトラポリ燐酸ナトリムなどの分散剤、硫酸アルミニウム、ポリアクリルアミドなどの凝集剤等を必要に応じて適量含んでもよい。
【0038】
本発明の無機繊維質耐火成形体を構成する材料は、必要に応じて、充填材や骨材を1〜30質量%含有することができ、分散剤を0.5〜10質量%含有することができ、凝集剤を0.5〜10質量%含有することができる。
【0039】
本発明の無機繊維質耐火成形体は、生体溶解性無機繊維を特定量含有するとともに、針状結晶構造を有する無機粉末を特定量含有することにより、アルミナシリケート繊維等のセラミックファイバーや、アルミナ粉末、シリカ粉末を含有しなくても所望の耐熱性を発現するとともに、製造コストおよび製品価格を低減させ、生体溶解性を向上させることができる。
【0040】
本発明の無機繊維質耐火成形体は、例えば、空気雰囲気下、1100℃で24時間加熱処理した際の長さ方向の収縮率({(加熱前の長さ−加熱後の長さ)/加熱前の長さ})×100)が5%以下であるものが適当であり、3.0%以下であるものがより適当であり、1.0%以下であることがさらに適当である。
本発明の無機繊維質耐火成形体は、特定量の生体溶解性無機線と針状結晶構造を有する無機粉末とを含む材料からなるものであるため、優れた耐熱性を発現することができる。
【0041】
本発明の無機繊維質耐火成形体は、例えば、嵩密度が0.1〜1.0g/cm
3で、好適には0.15〜0.7g/cm
3であり、より好適には0.17〜0.35g/cm
3である。
【0042】
また、本発明の無機繊維質耐火成形体は、例えば、曲げ強度が0.1〜2.0MPaで、好適には0.2〜1.5MPaである。
【0043】
本発明の無機繊維質耐火成形体の形状としては、例えば、円筒状、有底筒状、平板形状やブロック形状等を挙げることができる。
【0044】
本発明の無機繊維質耐火成形体は、後述する無機繊維質耐火成形体の製造方法において、原料を脱水成形することにより作製することができ、本出願において、無機繊維質耐火成形体には、脱水成形して得られた予備成形物を乾燥処理したものの他、さらに焼成処理したものも含まれる。脱水成形後に焼成処理を施さない無機繊維質耐火成形体であっても、耐火材として所望位置に配設し、使用時に被処理物と同時に加熱することによって焼成物とすることもできる。
【0045】
本発明の無機繊維質耐火成形体は、例えば、工業炉、焼成炉または熱処理装置等において、加熱室内部の天井や壁等のライニング材または断熱材として好適に使用することができる。
【0046】
(無機繊維質耐火成形体の製造方法)
次に、本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法について説明する。
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法は、本発明の無機繊維質耐火成形体を製造する方法であって、固形分換算したときに、40℃における生理食塩水への溶解率が1質量%以上である生体溶解性無機繊維2〜95質量%、針状結晶構造を有する無機粉末2〜95質量%、バインダー3〜32質量%とを含むスラリーを、脱水成形することを特徴とするものである。
【0047】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、生体溶解性無機繊維は、得られる耐火成形体の骨材としての機能を発揮するものであり、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0048】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、生体溶解性無機繊維は、スラリー中に、固形分換算したときに2〜95質量%含まれ、18〜72質量%含まれることが好ましく、27〜63質量%含まれることがより好ましい。
【0049】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、針状結晶構造を有する無機粉末は、得られる無機繊維質耐火成形体において、生体溶解性無機繊維と相互作用を発揮して耐火成形体の耐熱性を向上し得る物質であり、針状結晶構造を有する無機粉末としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0050】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、針状結晶構造を有する無機粉末は、スラリー中に、固形分換算したときに2〜95質量%含まれ、18〜72質量%含まれることが好ましく、27〜63質量%含まれることがより好ましい。
【0051】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、バインダーは、スラリー中に、固形分換算したときに3〜32質量%含まれ、5.5〜22質量%含まれることが好ましく、7〜18質量%含まれることがより好ましい。
【0052】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、バインダーとしては、上述した無機バインダーや有機バインダーを挙げることができる。
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、無機バインダーは、スラリーを構成する固形分中に、酸化物換算したときに3〜20質量%含まれることが好ましく、3.5〜15質量%含まれることが好ましく、4〜11質量%含まれることがより好ましい。
【0053】
スラリーを構成する固形分中における無機バインダーの含有割合が、酸化物換算で3質量%未満であると、耐火成形体の表面に酸化膜が迅速に形成され難くなり、また、20質量%を超えると水分量が多くなって脱水成形時の作業性が低下する。
【0054】
また、本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、有機バインダーは、スラリーを構成する固形分中に、0.1〜12質量%含まれることが好ましく、2〜7質量%含まれることが好ましく、3〜6質量%含まれることがより好ましい。
【0055】
有機バインダーの含有割合が0.1質量%未満であると、脱水成形後に乾燥処理した際に得られた乾燥処理物に十分な強度を付与し難くなり、12質量%を超えると、乾燥処理物を焼成した際に燃焼ガスの排出量が増加したり、保管時に水分を吸湿して得られる耐火成形体の性質を低下させる場合がある。
【0056】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、スラリー中には、固形分換算で、生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末およびバインダーが合計で50質量%以上含まれ、70質量%以上含まれることがより好ましく、90質量%以上含まれることがさらに好ましい。
【0057】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、スラリー中に、固形分換算で、生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末およびバインダーを合計で50質量%以上含有することにより、得られる耐火成形体の耐熱性や生体溶解性等をより効果的に向上させることができる。
【0058】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、スラリー中には、粉体状の充填材や骨材、分散剤、凝集剤が必要に応じて含まれていてもよく、これにより、得られる無機繊維質耐火成形体の機械的強度を向上させることができる。
充填材や骨材、分散剤、凝集剤の具体例や配合量は、本発明の無機繊維質耐火成形体の説明で述べた内容と同様であり、これら成分の配合量は、固形分換算量で、上記本発明の無機繊維質耐火成形体の説明で述べた内容と同様の配合量にすることが好ましい。
【0059】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、スラリーを形成する液体媒体としては、特に制限されないが、水及び極性有機溶媒が挙げられ、極性有機溶媒としては、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール類、エチレングリコール等の2価のアルコール類が挙げられる。これ等の液体媒体うち、作業環境や環境負荷を考慮すると、水が好ましい。また、水としては特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、水道水、地下水、工業用水等が挙げられる。
【0060】
スラリー中の固形分濃度は、0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜8質量%がより好ましく、0.5〜3質量%がさらに好ましい。上記スラリー濃度が、0.1質量%未満であると脱水成形工程で除去する水の量が多くなり過ぎるので非効率であり、また、10質量%を越えると、スラリーに固形分が均一に分散し難くなる。
【0061】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、スラリー形成時に、液体媒体中に、生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末、バインダー等の原料を混合する順序は特に制限されず、これ等を順次または同時に液体媒体中に混合すればよい。
【0062】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、上記スラリーは脱水成形処理され、液体媒体が除去される。
本発明の耐火成形体の製造方法において、スラリーは液体媒体として水以外の媒体を含む場合もあるが、本出願書類においては、水以外の液体媒体を除去する場合も脱水成形と称することとする。
【0063】
脱水成形は、例えば、底部に網が設置された成形型中に該スラリーを流し込み、上記水等の液体媒体を吸引する吸引脱水成形法や、加圧脱水成形法により行うことができる。
【0064】
本発明の無機繊維質耐火成形体の製造方法において、スラリーを成形型等に搬送する際には、ポンプ等を用いてもよいし、上記スラリーを含む槽の下部に成形型を配置する等して、スラリーの自重により搬送してもよい。
脱水成形物は、得ようとする耐火成形体に相似する形状を有するものが適当であり、脱水成形物の形状としては、例えば、円筒状、有底筒状、平板状、ブロック状を挙げることができる。
【0065】
得られた脱水成形物は、乾燥機等を用いて乾燥させることが好ましい。乾燥温度は、40〜180℃が好ましく、60〜150℃がより好ましく、80〜120℃がさらに好ましい。また、乾燥時間は、6〜48時間が好ましく、8〜40時間がより好ましく、10〜36時間がさらに好ましい。また、乾燥時の雰囲気は、空気雰囲気、酸素雰囲気、窒素雰囲気等を挙げることができる。
【0066】
本発明の耐火成形体の製造方法においては、上記脱水成形物を乾燥処理した後、さらに焼成処理を施してもよい。
焼成温度は、600〜1200℃であることが好ましく、700〜1150℃であることがより好ましく、800〜1100℃であることがさらに好ましい。また、焼成時の雰囲気は、特に制限されないが、空気雰囲気、酸素雰囲気または窒素雰囲気であることが好ましい。焼成時間は、0.5〜36時間が好ましく、1〜30時間がより好ましく、3〜24時間がさらに好ましい。
【0067】
焼成処理を施し、成形体中の有機バインダーを予め消失させることによって、成形体の収縮を抑制したり、加熱炉等に施工した後におけるCO
2等のガスの発生量を低減したり、成形体間の目地開きや成形体自体のクラック、割れの発生などを抑制することができる。
【0068】
得られる耐火成形体の詳細は、本発明の耐火成形体の説明で述べたとおりである。
本発明の耐火成形体の製造方法によれば、アルミナシリケート繊維等のセラミックファイバーや、アルミナ粉末、シリカ粉末を含有しなくても、所望の耐熱性を発現するとともに、製造コストおよび製品価格を低減させた、生体溶解性の高い無機繊維質耐火成形体を簡便に製造することができる。
【0069】
(無機繊維質不定形耐火組成物)
次に、本発明の無機繊維質不定形耐火組成物について説明する。
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物は、固形分換算したときに、40℃における生理食塩水への溶解率が1質量%以上である生体溶解性無機繊維2〜95質量%と、針状結晶構造を有する無機粉末2〜95質量%、バインダー3〜32質量%とを含む材料からなることを特徴とするものである。
【0070】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物において、生体溶解性無機繊維としては、本発明の無機繊維質耐火成形体の説明で挙げたものと同様のものを挙げることができ、針状結晶構造を有する無機粉末やバインダーも、本発明の無機繊維質耐火成形体の説明で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0071】
本発明の無機繊維質不定形耐火物を構成する材料は、生体溶解性無機繊維を、固形分中に2〜95質量%含み、10〜90質量%含むことが好ましく、20〜80質量%含むことがより好ましい。
生体溶解性無機繊維の含有割合が固形分中2〜95質量%であることにより、施工物(耐火物)に必要最低限の強度および耐侵食性を付与しつつ、保温性(断熱性)及び軽量性を付与し得る無機繊維質不定形耐火組成物を提供することができる。
【0072】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物を構成する材料は、針状結晶構造を有する無機粉末を、固形分中に2〜95質量%含み、10〜90質量%含むことが適当であり、20〜80質量%含むことがより適当である。
針状結晶構造を有する無機粉末の含有割合が2〜95質量%であることにより、施工後に針状結晶構造を有する無機粉末と相互作用を発揮して所望の耐熱性を発揮するとともに、製造コストや製品コストを低減することができる。
【0073】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物を構成する材料は、バインダーを、固形分中に3〜32質量%含み、3.5〜22質量%含むことが好ましく、4〜18質量%含むことがより好ましい。
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物においても、バインダーとしては、無機バインダーおよび有機バインダーから選ばれる一種以上を挙げることができ、バインダーを複数種用いる場合、上記バインダーの含有量は、使用するバインダーの総量を意味する。
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物を構成する材料は、無機バインダーを、固形分中に、酸化物換算で3〜20質量%含むことが好ましく、3〜15質量%含むことがより好ましく、3〜12質量%含むことがさらに好ましい。また、有機バインダーを0.1〜12質量%含むことが好ましく、0.5〜7質量%含むことがより好ましく、1.0〜6質量%含むことがさらに好ましい。
【0074】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物を構成する材料において、固形分中に、生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末およびバインダーは合計で50質量%以上含まれることが好ましく、70質量%含まれることがより好ましく、90質量%以上含まれることがさらに好ましい。
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物を構成する材料が、固形分中に、生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末およびバインダーを合計で50質量%以上含むことにより、得られる施工物(耐火物)に所望の耐熱性を効果的に付与することができる。
【0075】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物を構成する材料は、任意成分として、粉体状の充填材や骨材を必要に応じて含んでいてもよく、これにより、無機繊維質耐火成形体の機械的強度を向上させることができる。
充填材や骨材の具体例は、本発明の耐火成形体の説明で述べた内容と同様であり、充填材や骨材の固形分換算した配合量は、本発明の耐火成形体の説明で述べた内容と同様である。
【0076】
また、本発明の不定形耐火組成物は、pH調整剤、増粘材、分散剤、防腐剤等の添加物を含んでもよい。
【0077】
pH調整剤としては、pH4標準溶液であるフタール酸塩標準溶液(セーレンセン緩衝液)、pH7標準溶液である中性リン酸塩標準溶液等の緩衝溶液を挙げることができ、酸としては、酢酸、りんご酸、クエン酸などの果実酸、等を挙げることができる。
緩衝溶液や酸の含有量は、不定形耐火組成物のpHを3〜11にする量であることが好ましい。
増粘材としては、ヒドロキシエチルセルロース、アクリル酸ナトリウム重合物等を挙げることができ、分散剤としては、カルボン酸類、多価アルコール、アミン類等を挙げることができ、防腐剤としては、窒素原子又は硫黄原子を有する無機化合物または有機化合物を挙げることができる。
【0078】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物において、不定形状としては、固形分に液体溶媒を混合してなるペースト状が挙げられる。
【0079】
ペースト状物を形成する液体溶媒としては、特に制限されないが、水及び極性有機溶媒が挙げられ、極性有機溶媒としては、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール類、エチレングリコール等の2価のアルコール類が挙げられる。これ等の液体媒体うち、作業環境や環境負荷を考慮すると、水が好ましい。また、水としては特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、水道水、地下水、工業用水等が挙げられる。
【0080】
ペースト状物の粘度、すなわち、溶媒中の固形分濃度は、使用目的や作業性などを考慮して適宜決定される。例えば、溶媒の含有量が、本発明の無機繊維質不定形耐火組成物の固形物100質量%に対して、20〜800質量%であることが好ましく、30〜500質量%であることがより好ましく、40〜300質量%であることがさらに好ましい。上記溶媒含有量が、20質量%未満であると無機繊維質不定形耐火組成物の流動性が低くなるので施工性が悪くなり、また、施工物の機械的強度、特に曲げ強度が低下してしまう。
また、上記溶媒含有量が、800質量%を超えると無機繊維質不定形耐火組成物のちょう度が高くなるので施工時にペースト状の組成物が垂れ、また、乾燥による目地等の施工物の収縮が大きくなる。
【0081】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物は、例えば、非鉄金属鋳造装置における、樋、溶湯保持炉、取鍋等の溶湯と接触する部材の内張材に用いられる耐火成形体の目地として使用され、乾燥あるいは焼成処理することにより、任意形状を有する施工物とすることができる。この施工物は、不定形耐火組成物の施工時に任意形状を採りつつ施工されるものである点を除けば、構成材料の組成や物性は本発明の耐火成形体と同視することができ、目地等の施工物表面に金属酸化膜を迅速に形成することができる。
【0082】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物は、例えば、アルミニウムやマグネシウムなどの非鉄金属の鋳造装置において、樋、溶湯保持炉、取鍋等の溶湯と接触する部材を構築するための内張材の目地として好適に使用することができる。
【0083】
次に、本発明の無機繊維質不定形耐火組成物を製造する方法について説明する。
本発明の不定形耐火組成物を製造する方法としては、上記40℃における生理食塩水への溶解率が1質量%以上である生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末、バインダー等の構成材料を液体溶媒と混合することにより製造する方法を挙げることができる。
【0084】
無機繊維質不定形耐火組成物の構成材料や溶媒の配合量は、上述したとおりである。
【0085】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物の好ましい製造方法としては、液体溶媒に上記生体溶解性無機繊維、針状結晶構造を有する無機粉末、バインダーを加え、さらに所望により増粘材、防腐剤など他の配合成分を添加する方法が好ましい。
【0086】
上記構成材料と溶媒との混合方法としては、ニーダーや加圧ニーダー等の混練装置で混練する方法を挙げることができる。混練時間は0.1〜1.0時間とすることが好ましく、混練温度は5〜40℃とすることが好ましい。
【0087】
本発明の無機繊維質不定形耐火組成物は、アルミナシリケート繊維等のセラミックファイバーや、アルミナ粉末、シリカ粉末を含有しなくても、得られる施工物(耐火物)に所望の耐熱性を発現させるとともに、製造コストおよび製品価格を低減させることができる。
【0088】
次に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0089】
(実施例1)
1.スラリー形成工程 表1に示すように、生体溶解性無機繊維(ニチアス社製ファインフレックス−E、40℃における生理食塩水への溶解率が1質量%以上
、平均繊維径1〜6μm、SiO2 75〜80質量%、CaO+MgO 19〜25質量%、Al2O3 1〜3質量%)81質量%、ワラストナイト(林化成(株)製「NYAD G」、平均長さ660μm、平均径40μm、アスペクト比16.5)9質量%、コロイダルシリカ(日産化学(株)製「ST−30」)をシリカ換算で5質量%、澱粉4.5質量%、凝集剤(荒川化学工業(株)製「ポリストロン117」)0.5質量%からなる原料100質量部に対し、水5000質量部を加えて攪拌することによりスラリーを形成した。
【0090】
2.成形工程
底部に網が設置された成形型中に上記スラリーを流し込み、スラリー中の水を吸引することにより脱水成形を行い、ブロック状の脱水成形物を得た。
次いで、大気雰囲気下、105℃で24時間乾燥することにより、縦900cm、横600cm、高さ5cmのブロック状の乾燥処理物(無機繊維質耐火成形体)を得た。
上記無機繊維質耐火成形体を複数作製し、空気雰囲気下において、それぞれ、800℃で24時間、1100℃で24時間それぞれ焼成したときの長さ方向の収縮率を求めた。上記長さ方向の収縮率を、得られた耐火成形体の組成とともに表1に示す。
【0091】
(
参考例2、実施例3〜実施例、比較例1)
得ようとする耐火成形体の組成を表1に示す通り変更した以外は、
参考例1と同様にして無機繊維質耐火成形体を作製し、
参考例1と同様にして得られた耐火成形体の長さ方向の収縮率を求めた。
なお、実施例3および比較例1で得られた無機繊維質耐火成形体については、空気雰囲気下において、1200℃で24時間焼成したときの長さ方向の収縮率も求めた。
上記長さ方向の収縮率測定結果を、得られた無機繊維質耐火成形体の組成とともに表1に示す。
【0093】
表1から、
参考例1〜参考例2及び実施例3〜実施例5で得られた無機繊維質耐火成形体は、800℃で24時間焼成したときに長さ方向の収縮率が0〜0.36%であるとともに、1100℃で24時間焼成したときに長さ方向の収縮率が0.40〜1.68%であり、さらに、実施例3で得られた無機繊維質耐火成形体は、1200℃で24時間焼成したときに長さ方向の収縮率が0.81%であるものである。
【0094】
これに対して、比較例1で得られた無機繊維質耐火成形体は、800℃で24時間焼成したときに長さ方向の収縮率が0.53%であるとともに、1100℃で24時間焼成したときに長さ方向の収縮率が2.71%であり、1200℃で24時間焼成したときに長さ方向の収縮率が3.42%であるものである。
【0095】
これらの結果から、
参考例1〜参考例2及び実施例3〜実施例5で得られた無機繊維質耐火成形体は、生体溶解性無機繊維とともにワラストナイト粉末を所定量含むものであるので、優れた耐熱性を発揮するものであることが分かる。
また、
参考例1〜参考例2及び実施例3〜実施例5で得られた無機繊維質耐火成形体は、高価なアルミナ粉末、シリカ粉末を用いなくても優れた耐熱性を発揮し得るので、製造コストおよび製品コストを低減し得るものであることが分かる。
さらに、
参考例1〜参考例2及び実施例3〜実施例5で得られた無機繊維質耐火成形体は、生体溶解性無機繊維とともに、生体溶解性を示すワラストナイト粉末を含有してなるものであるので、生体溶解性に優れることが分かる。