(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973757
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】水車設備
(51)【国際特許分類】
F03B 7/00 20060101AFI20160809BHJP
E02B 9/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
F03B7/00
E02B9/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-58348(P2012-58348)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-189956(P2013-189956A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】504121117
【氏名又は名称】東京発電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100516
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 惠
(72)【発明者】
【氏名】石黒 光宏
(72)【発明者】
【氏名】大池 真悟
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 諭
(72)【発明者】
【氏名】富澤 晃
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
実開平04−065965(JP,U)
【文献】
特開昭55−139979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 7/00
E02B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開水路の急流工の下流端に設けられた堰と、
前記堰の上流側の開水路の両側の擁壁に設置された追加擁壁と、
前記堰の垂直壁に沿って配置された無管路型水車と、
前記開水路を断水することなく前記無管路型水車への取水を阻止する水車通水阻止手段と、
前記無管路型水車の点検修理の際に前記水車を吊り上げるための吊り上げ機構を備えたことを特徴とする水車設備。
【請求項2】
前記水車通水阻止手段は、前記無管路型水車の点検修理の際に、前記無管路型水車に水が流れ込まないように、前記堰の上流側の水を前記堰の下流側に流すための前記堰の下部または脇に設けられた放水ゲートであることを特徴とする請求項1記載の水車設備。
【請求項3】
前記吊り上げ機構は、前記開水路の前記擁壁や前記追加擁壁の外側の側壁に設けられた支柱と、前記支柱の上部に設けられた梁と、前記梁に取り付けられ前記水車を吊り上げるためのチェーンブロックと、前記開水路の内側に設けられ前記水車が吊り上げられたときに前記水車の移動を案内する案内溝とを有したことを特徴とする請求項1または2記載の水車設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開水路に設けられる水車設備に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの利用として小水力発電が注目されている。例えば、開水路には、水の勢いを低減する構造物として落差工や急流工が設けられている。落差工は直下に水を落として水のエネルギーを減じるものであり、急流工は水を斜めに流して水のエネルギーを減じるものである。また、開水路の水勢を抑制する構造物として堰がある。堰は、水をせき止め水位を上げることによって上流側に水を貯留したり、用水路などへの取水を容易にしたり、計画的な分流を行ったりするものである。
【0003】
開水路の落差工や急流工は、水の勢いを低減するものであるから、そのような落差工や急流工に水車を設置して発電機を回転させると、水の勢いを低減できるだけでなく発電にも寄与できる。そこで、落差工や急流工に水車を設置し発電機を回転させて発電するようにしている。この場合、落差工には落差工型水車を設置し、急流工には、急流工の勾配に合った急流工型水車を設置することになる。
【0004】
ここで、開水路の落差工や堰に水車を設置し、水車に連結された発電機で電力を生成するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。また、堰板を備えた水車及び水力発電装置を水流がある河川又は水路に単に投げ込み設置することにより、水車を回転して水力発電装置から電力を発生させるようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−21578号公報
【特許文献2】特許第3425663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、急流工の勾配は開水路により異なり、急流工型水車は開水路の急流工の勾配に合ったものでなければならないので、急流工型水車は多種の水車が必要となる。また、落差工に適用する落差工型水車も必要となる。このように、落差の形状が異なると共通の水車を利用することができない。従って、落差に合わせた水車を製作しなければならないのでコスト高となる。
【0007】
また、特許文献1のものは、開水路の落差工や堰に設置する水車であり、導水管を用いないで直接水を水車に取水する無管路型水車であり、水車の運転及び停止を行うための入口弁を有していないので、水車への通水を阻止することができない。従って、水車を停止するには、開水路の上流の水門を閉じて水車への通水を阻止しなければならないので、水車の運転停止を容易に行うことができない。このことから、点検修理を行うことが困難となっている。
【0008】
一方、特許文献2のものは、堰板を備えた水車及び水力発電装置を用意し、水流がある河川又は水路に投げ込み、堰板にてその上流側に水を貯留して水車を水中に沈めるとともに落差を生じさせ、水車及び水力発電装置を駆動するものであるが、堰板で囲って形成した水槽自体を水車の一部にしているため、水車の点検は水路の断水か、水圧に負けない力により吊り上げるしかないものであり、水車の運転停止を容易に行うことができるものではない。
【0009】
本発明の目的は、落差の形状がいかなるものであっても共通の無管路型水車を利用でき、水車の運転停止を容易に行うことができる水車設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係る水車設備は、開水路
の急流工の下流端に設けられた堰と、
前記堰の上流側の開水路の両側の擁壁に設置された追加擁壁と、前記堰の垂直壁に沿って配置された無管路型水車と、前記開水路を断水することなく前記無管路型水車への取水を阻止する水車通水阻止手段
と、前記無管路型水車の点検修理の際に前記水車を吊り上げるための吊り上げ機構を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明に係る水車設備は、請求項1の発明において、前記水車通水阻止手段は、前記無管路型水車の点検修理の際に、前記無管路型水車に水が流れ込まないように、前記堰の上流側の水を前記堰の下流側に流すための前記堰の下部または脇に設けられた放水ゲートであることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明に係る水車設備は、請求項1または2発明において、
前記吊り上げ機構は、前記開水路の前記擁壁や前記追加擁壁の外側の側壁に設けられた支柱と、前記支柱の上部に設けられた梁と、前記梁に取り付けられ前記水車を吊り上げるためのチェーンブロックと、前記開水路の内側に設けられ前記水車が吊り上げられたときに前記水車の移動を案内する案内溝とを有したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、堰に無管路型水車を設置するので、落差の形状がいかなるものであっても、堰から落ちる水を取水する無管路型水車を共通の水車として利用できる。また、水車通水阻止手段を設けたので、開水路を断水することなく、堰に配置された無管路型水車への取水を阻止でき、水車の運転停止を容易に行うことができるとともに、水車に水が流れていない状態を容易に確保できるので水車の点検修理を行える。
さらには、水車の点検修理の際には、吊り上げ機構により水車を吊り上げて開水路の上方に位置させるので、水車の点検修理がより容易に行える。
【0014】
請求項2の発明によれば、水車通水阻止手段は堰の下部または脇に設けた放水ゲートであるので、水車の点検修理の際に放水ゲートを開き、堰の上流側の水を堰の下流側に流すだけで、容易に無導水管工水車に水が流れ込まないようにすることができる。従って、水車に水が流れていない状態で水車の点検修理を行える。
【0015】
請求項3の発明によれば、
吊り上げ機構は、開水路の擁壁や追加擁壁の外側の側壁に設けられた支柱上部の梁にチェーンブロックを取り付け、開水路の内側には水車の移動を案内する案内溝とを有しているので、案内溝が水車の移動を案内して水車を吊り上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る実施例1の水車設備の構成図。
【
図2】本発明の実施例1における開水路の上流側から見た水車通水阻止手段の一例を示す背面図。
【
図3】本発明の実施例1における開水路の上流側から見た水車通水阻止手段の他の一例を示す説明図。
【
図4】本発明の実施形態に係る実施例2の水車設備の構成図。
【
図5】本発明の実施例2における吊り上げ機構の斜視図。
【
図6】本発明の実施例2における案内溝に係合する水車の摺動機構の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係る実施例1の水車設備の構成図である。
図1では、一方の擁壁の図示を省略した開水路11の側面図を示している。開水路11は水路の両側に擁壁12を有し、水路内の水を斜めに流すために勾配を持った急流工13を有するものを示している。
【0018】
水車設備14は、例えば、急流工13の下流端に設置される。水車設備14は堰15と水車16とからなり、堰15と水車16とは分離して水車16の上流側に堰15を設置している。水車16は、導水管を用いないで直接水を水車に取水する無管路型水車であり、例えば、チロリアン・クロスフロー水車やダリウス水車である。水車16は堰15の下流側に、堰15の垂直壁に沿って据付台17に搭載されて配置される。
【0019】
堰15は、上流側に水を貯留するとともに落差工としての役割を果たす。堰15の上流側に水を貯留することから、水が開水路11から溢水しないように必要に応じて追加擁壁18を設置する。また、堰15の頂部と水車16上面とは隙間がないよう接続され、堰15の頂部を超えた水が水車16へ到達する前に堰15と水車16との間で落水することを防止する。
【0020】
堰15を設けたことにより、堰15の上流側には、点線で水面19を示すように水が貯留されるとともに、水は堰15の頂部を通過し水車16上面に到達する。水車16上面に到達した水の多くは水車16に流入し、一部は水車16を通過し下流側へ落下する。水車16として、堰15の上部を流れる水の一部を取水して駆動される無管路型の水車16を用いることができる。
【0021】
次に、開水路を断水することなく水車16への取水を阻止する水車通水阻止手段20が堰15に設けられている。
【0022】
図1に示すように、堰15には水車通水阻止手段20が設けられ、
水車通水阻止手段20は開閉操作ハンドル21にて開閉動作が行われる。水車通水阻止手段20は落差工型水車16の運転時には閉じられており、落差工型水車16の点検修理の際に開かれる。なお、開閉操作ハンドル21については、水車通水阻止手段20の開閉操作を行えるものであれば、手動ハンドルでもよいし、手動ハンドル以外のもの、例えば、動力として電動機で駆動するものであってもよいし、手動、電動を問わず減速機等の伝達装置を介したものであってもよい。
【0023】
図2は、開水路11の上流側から見た水車通水阻止手段20の一例を示す背面図であり、
図2は水車通水阻止手段20が堰15の下部に設けられた放水ゲート20Aである場合を示している。
【0024】
図2に示すように、放水ゲート20Aは堰15の下部に設けられている。
図2では2個の放水ゲート20Aが設けられた場合を示している。開閉操作ハンドル21にて放水ゲート20Aが開くと、堰15の上流側の水は、堰15の下部の放水ゲート20Aを通って堰15の下流側に流れる。従って、堰15の上部から水車16に水が流れ込まなくなる。これにより、水車16に水が流れていない状態となるので、水車16の点検修理を行える。
【0025】
図3は、開水路11の上流側から見た水車通水阻止手段20の他の一例を示す説明図であり、
図3(a)はその背面図、
図3(b)は上面図である。
図3は、水車通水阻止手段20が堰15の脇に設けられた放水ゲート20Bである場合を示している。
【0026】
すなわち、堰15の脇に放水ゲート20Bが設けられている。この場合も、開閉操作ハンドル21にて放水ゲート20Bが開くと、堰15の上流側の水は、堰15の脇の放水ゲート20Bを通って堰15の下流側に流れ、堰15の上部から水車16に水が流れ込まなくなるので水車16には水が流れなくなり、水車16の点検修理を行える。これは、共通の水車16を使用した場合に、開水路11の幅が広くて、その開水路11の幅に余裕がある場合に採用できる。
【0027】
以上の説明では、開水路11は急流工13を有するものを示したが、落差工を有する開水路11に対しても同様に適用できることは言うまでもない。
【0028】
ここで、堰15と水車16とを分離して設け、水車通水阻止手段20を有した堰15を水車上流側に設けたのは、開水路11の断水を避けて水車点検を行うためであり、また、水車16の点検修理のために水車16を吊り出す際に、水圧を受けないようにして吊り上げ力を軽くするためである。
【0029】
例えば、水車通水阻止手段20を有した堰15と水車16とを一体化した場合には、開水路11の断水をせずにその場での点検は可能であるが、水車16を吊り出す際に、水圧を受けた水車16を吊り上げる際の強大な力が必要になることに加え、その強大な力に耐えられる強度を水車16に持たせる必要があるからである。
【0030】
実施例1によれば、開水路11に堰15を
設け、その堰15に水車16を設置するので、落差の形状がいかなるものであっても、堰15から落ちる水を取水する無管路型水車を共通の水車として利用できる。このように、水車16の共通化が図れるのでコストの低減が図れる。
【0031】
また、水車通水阻止手段
20を設けたので、開水路を断水することなく、堰15に配置された水車16への取水を阻止できる。従って、水車16の運転停止を容易に行うことができるとともに、水車16に水が流れていない状態を容易に確保できるので水車16の点検修理を行える。
【0032】
図4は本発明の実施形態に係る実施例2の水車設備の構成図である。この実施例2は、
図1に示した実施例1に対し、水車16を吊り上げるための吊り上げ機構22を追加して設けたものである。
図1と同一要素には、同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0033】
図4に示すように、吊り上げ機構22は水車16を吊り上げることが可能な位置に設けられる。水車16には、水車16を吊り上げるためのチェーンブロック(巻上装置)23が取り付けられる仕組みを設けてある。このチェーンブロック23により水車16の昇降動作が行われる。吊り上げ機構22は水車16の運転時には水車16を据付台17に降ろした状態であり、水車16の点検修理の際に水車16を吊り上げる。
【0034】
図5は、本発明の実施例2における吊り上げ機構22の斜視図である。
図5では、開水路11の下流側から水車16及び堰15を見た場合を示しており、水車16が据付台17に設置された状態を示している。従って、堰15は水車16の背後に位置することになる。
【0035】
図5に示すように、擁壁12や追加擁壁18の開水路11の外側の側壁に吊り上げ機構22の支柱24が設置され、この支柱24の上部に設けられた梁25に、水車16を吊り上げるためのチェーンブロック23が取り付けられる。擁壁12や追加擁壁18の開水路11の内側には、水車16が吊り上げられたときに水車16の移動を案内するための案内溝26が設けられている。
【0036】
図6は、本発明の実施例2における案内溝26に係合する水車16の摺動機構の説明図である。
図6では水車16の右側の擁壁12や追加擁壁18の図示を省略している。
図6に示すように、水車16の上部側壁には擁壁12や追加擁壁18に設けられた案内溝26に係合する案内片27が設けられている。この案内片27が擁壁12や追加擁壁18に設けられた案内溝26に係合し、吊り上げ機構22により、水車16が吊り上げられたとき水車16の移動を案内する。
【0037】
以上の説明では、固定部側の案内溝26が凹形状で、可動側の案内片27が凸形状である場合を示したが、固定部側の案内溝26が凸形状で可動側の案内片27がこの案内溝26に案内される形状のものであってもよい。
【0038】
前述したように、水車16の点検修理の際には水車通水阻止手段20を開く。これにより、堰15の上流側の水は水車通水阻止手段20を通って堰15の下流側に流れ、水車16には流れ込まなくなる。この状態では、水車16には水が流れ込んでいないので、水車16の点検修理は可能であるが、作業員は水車16の設置箇所まで降りていかなければならない。また、水車16の背面には堰15が位置するので、水車16の設置箇所では水車16を分解して点検修理することが困難である。
【0039】
そこで、水車16に水が流れ込んでいない状態で吊り上げ機構22により水車16を吊り上げ、水車16を開水路11の上方に位置させて点検修理を行う。つまり、吊り上げ機構22により水車16を追加擁壁18の上部まで吊り上げ、例えば、その追加擁壁18の上部で図示省略の保持機構で水車16を保持し、作業用歩廊を設置して点検修理の作業を行う。これにより、水車16を分解しての点検修理も容易に行うことができる。
【0040】
以上の説明では、吊り上げ機構の巻上機構部であるチェーンブロック(巻上装置)23、支柱24、梁25を常設した場合について説明したが、その巻上機構部であるチェーンブロック(巻上装置)23、支柱24、梁25は、常設しなくてもよい。水車16を吊り上げる際に準備するようにしてもよい。また、チェーンブロック(巻上装置)23、支柱24、梁25に代えて、例えば、クレーン車を用意してクレーン車の巻上機で水車16を吊り上げるようにしてもよい。
【0041】
このように、水車16の点検修理の際に、吊り上げ機構22により水車を吊り上げて開水路の上方に位置させるので、水車を分解しての点検修理も可能となる。
【符号の説明】
【0042】
11…開水路、12…擁壁、13…急流工、14…水車設備、15…堰、16…水車、17…据付台、18…追加擁壁、19…水面、20…水車通水阻止手段、21…開閉操作ハンドル、22…吊り上げ機構、23…チェーンブロック、24…支柱、25…梁、26…案内溝、27…案内片