特許第5973797号(P5973797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973797
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】栽培システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/00 20060101AFI20160809BHJP
   A01G 9/02 20060101ALI20160809BHJP
   A01G 1/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   A01G9/00 C
   A01G9/02 101S
   A01G1/00 301Z
   A01G9/02 101U
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-133508(P2012-133508)
(22)【出願日】2012年6月13日
(65)【公開番号】特開2013-255456(P2013-255456A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598031095
【氏名又は名称】株式会社ヤマグチマイカ
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高広
(72)【発明者】
【氏名】山口 卓巳
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−201920(JP,A)
【文献】 特開平03−35729(JP,A)
【文献】 特表昭58−500587(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/006209(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00 − 9/02
A01G 1/00
A01G 31/00 − 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物が収容される複数の栽培容器を鉛直方向の高さが異なる複数の位置で支持するための複数の支持部を有する支持枠と、複数の前記支持部を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度を変更するための傾斜角度変更手段と、を備えてなる栽培装置を複数備えてなる栽培システムであって、
前記栽培装置各々における複数の前記支持部を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度を連動して変化させる連動手段を備えてなる栽培システム。
【請求項2】
前記連動手段が、前記栽培装置各々の傾斜角度を均等に変化させるものである請求項に記載の栽培システム。
【請求項3】
前記支持枠が、複数の前記支持部が設けられた少なくとも一対の脚部が側面視で逆V字状に連結されたものであり、
前記傾斜角度変更手段が、前記一対の脚部の連結箇所に設けられて前記脚部各々を回動可能に連結する回動連結部材と、前記脚部各々の下端部に設けられて前記脚部各々を相対的に離間及び接近する方向に走行可能に支持する回動支持部材とを含むものである請求項1又は2に記載の栽培システム
【請求項4】
前記支持部は、前記栽培容器各々の一部又は全部を前記支持枠の内部空間に位置した状態で支持するものである請求項1〜3のいずれかに記載の栽培システム
【請求項5】
前記支持部は、前記栽培容器を吊り下げるものである請求項1〜のいずれかに記載の栽培システム
【請求項6】
前記栽培容器は、光を反射又は散乱させる外周面を有するものである請求項1〜のいずれかに記載の栽培システム
【請求項7】
前記栽培容器は、白色の外周面を有する袋状の容器である請求項に記載の栽培システム
【請求項8】
前記植物が馬鈴薯又は甘藷である請求項1〜のいずれかに記載の栽培システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芋などの植物を栽培するために用いられる栽培装置、栽培システム、及びこれらを用いた栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数の栽培容器を上下方向に多層配置することのできる栽培システムが知られている(例えば特許文献1参照)。このように複数の栽培容器を多層配置すれば、小さな土地面積で多数の栽培容器を用いて多量の植物を同時期に栽培することができる。但し、複数の栽培容器を上下方向に多層配置すると、上層の照度環境に比べて下層の照度環境が悪くなる。
一方、例えば特許文献2には、鉛直方向に対して予め定められた角度傾斜したワイヤネット面に多数の栽培容器を懸架する栽培装置が開示されている。この栽培装置によれば、鉛直方向における栽培容器各々の重なりが少ないため、ワイヤネット面の下層で支持された栽培容器における照度環境が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−231354号公報
【特許文献2】登録実用新案第3114066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば馬鈴薯(ジャガイモ)又は甘藷(サツマイモ)などの芋の栽培に要する期間のうち芋の根、茎、及び葉がある程度育つまでの期間は低い照度環境でも芋の根、茎、及び葉が十分に育つことがわかった。一方、芋の根、茎、及び葉がある程度育った後の期間は高い照度環境で栽培を行うことが望ましい。即ち、芋のように、必要な照度環境が成長の過程で異なる植物を栽培する際には、常に十分高い照度環境を必要とする訳ではない。そのため、常に十分高い照度環境を実現するべく複数の栽培容器を鉛直方向の重なりが少なくなるように配置すると、芋の成長過程の前半において無駄に広い占有面積を使用することになる。
従って、本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上下方向に多層配置された栽培容器の照度環境及び圃場における占有面積を容易に変更することのできる栽培装置、栽培システム、及びこれを用いた栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は、植物が収容される複数の栽培容器を鉛直方向の高さが異なる複数の位置で支持するための複数の支持部を有する支持枠と、複数の前記支持部を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度を変更するための傾斜角度変更手段と、を備えてなる栽培装置として構成される。
本発明によれば、複数の前記支持部を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度を変更することにより前記栽培容器各々の鉛直方向における重なりの程度が変更される。従って、前記植物の成長過程に従って前記栽培装置で支持される前記栽培容器各々の照度環境を容易に変更することができる。また、複数の前記支持部を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度を変更することにより前記支持枠を設置するための占有面積が変更される。従って、前記植物の成長過程において低い照度環境で足りる時期は前記傾斜角度を緩やかにして前記栽培装置の占有面積を小さくし、高い照度環境が必要な時期は傾斜角度を急にして下層の前記栽培容器に高い照度を与えることができる。例えば、前記植物は馬鈴薯又は甘藷であることが考えられ、この場合には、馬鈴薯又は甘藷の成長過程において芋苗の葉が20枚〜50枚に成長するまでの時期は傾斜角度を緩やかにして、根又は茎が子芋として成長する時期には傾斜角度を急にすることが考えられる。
より具体的に、前記支持枠は、複数の前記支持部が設けられた少なくとも一対の脚部が側面視で逆V字状に連結されたものであることが考えられる。この場合、前記傾斜変更手段は、前記一対の脚部の連結箇所に設けられて前記脚部各々を回動可能に連結する回動連結部材と、前記脚部各々の下端部に設けられて前記脚部各々を相対的に離間及び接近する方向に走行可能に支持する回動支持部材とを含むものであることが考えられる。これにより、複数の前記支持部を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜を変更することができる構成が簡易な構成で実現される。
ところで、前記支持部は、前記栽培容器各々の一部又は全部を前記支持枠の内部空間に位置した状態で支持するものであることが考えられる。より具体的に、前記支持部は、前記栽培容器を吊り下げることにより、前記栽培容器の自重で前記栽培容器の一部又は全部を前記支持枠の内部空間に位置させるものであることが考えられる。このような構成によれば、前記支持枠の内部空間を有効に利用することができ、前記栽培装置の外部空間における前記栽培容器の占有領域が小さくなり、ユーザーによる植物の収穫作業や前記栽培容器の設置作業などを行うためのスペースを広く確保することができる。
さらに、前記栽培容器は、光を反射又は散乱させる外周面を有するものであることが望ましい。例えば、前記栽培容器は白色の外周面を有する袋状の容器である。なお、前記袋状の容器は、例えばポリオレフィン、ポリエチレン、又はポリ塩化ビニル等で作られた袋や、布又は黄麻等で織った袋などである。このような構成によれば、前記栽培装置の上層に配置された前記栽培容器で反射又は散乱した光を、下層に配置された前記栽培容器に照射させることができ、前記栽培装置に照射される光量を有効に利用することができる。
【0006】
また、本発明は、前記栽培装置を複数備えてなる栽培システムの発明として捉えることも可能である。前記栽培システムによれば、予め定められた圃場の面積において、前記栽培装置各々における複数の前記支持部を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度を異なる状態にすることにより、異なる成長段階の前記植物を並行して栽培することができ、同じ面積の圃場を用いた場合における植物の収穫量を増加させることができる。
特に、前記栽培システムは、前記栽培装置各々における複数の前記支持部を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度を連動して変化させる連動手段を備えることが望ましい。これにより、ユーザーは、複数の前記栽培装置の開閉を容易に行うことができる。
また、前記連動手段が、前記栽培装置各々の傾斜角度を均等に変化させるものであることが望ましい。これにより、前記栽培装置各々の傾斜角度を個々に調整する必要がないため、ユーザーによる栽培作業の手間をより軽減することができる。
【0007】
さらに、本発明は、栽培装置を用いて植物を栽培する栽培方法であって、前記植物の成長に伴って前記栽培装置の傾斜角度を順次変更する栽培方法として捉えてもよい。
また、本発明は、前記栽培システムを用いて植物を栽培する栽培方法であって、予め定められた占有面積において複数の前記栽培装置を前記植物の異なる成長段階に対応する傾斜角度で使用する栽培方法として捉えてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上下方向に多層配置された栽培容器各々に照射される光量を容易に調節することのできる栽培システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る栽培装置1の概略構成を示す模式図。
図2】本発明の実施形態に係る栽培装置1を側面から見た模式図。
図3】本発明の実施形態に係る栽培装置1の使用状態を示す模式図。
図4】本発明の実施形態に係る栽培システム2の使用状態を示す模式図。
図5】本発明の実施形態に係る栽培システム2の使用状態を示す模式図。
図6】本発明の実施形態に係る栽培システム3の概略構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0011】
[栽培装置1]
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る栽培装置1は、馬鈴薯又は甘藷などの芋の苗及び土壌が収容された複数の栽培容器51を支持するものである。なお、本実施の形態では、前記栽培装置1を芋の栽培に用いる場合を例に挙げて説明するがこれに限らない。例えば、前記栽培装置1は、イチゴなどの果物及び大根などの根菜などの植物を栽培するために用いることも可能である。
ここに、前記栽培容器51は、外周面が光の反射率の高い白色であって、上端に持ち手を有するビニール袋(袋状の容器の一例)である。前記ビニール袋とは、例えばポリオレフィン、ポリエチレン、又はポリ塩化ビニル等で作られた袋である。なお、前記ビニール袋の色は、光の反射率が高ければ、白色に限らない。また、前記栽培容器51の底面には排水のための微少な開口が形成されている。もちろん、前記栽培容器51は、外周面の光の反射率又は散乱率が高い栽培容器やペットボトルなどの他の容器であってもよい。なお、前記栽培容器51の外周面に光の反射率又は散乱率が高い部材を貼付すること等も考えられる。また、前記ビニール袋に代えて、布や黄麻等で織った袋などを用いることも考えられ、この場合、袋に開口が形成されていなくても水はけが良くなる。
【0012】
前記栽培装置1は、所定間隔を設けて補強部材13により連結固定された2本の脚部11と、所定間隔を設けて補強部材23により連結固定された2本の脚部21とを備えている。なお、前記脚部11、前記脚部21、前記補強部材13、及び前記補強部材23などには、例えばL字アングル等の棒状部材を用いればよい。前記栽培装置1では、一対の前記脚部11及び前記脚部21が本発明に係る支持枠の一例である。なお、前記脚部11及び前記脚部21の数は2本に限らず3本以上であってもよい。さらに、2本の前記脚部11及び2本の前記脚部21に代えて2枚の板状部材を支持枠として用いてもよい。また、前記栽培装置1は、前記脚部11及び前記脚部21により逆V字状が形成されたものであるがこれに限らず、例えば前記栽培装置1は傘のように放射状に設けられた複数の脚部が開閉可能な構成であってもよい。
前記脚部11には、複数の前記栽培容器51を鉛直方向の高さが異なる複数の位置に吊り下げるための支持部材31を支持する複数の支持部12が設けられている。また、前記脚部21には、複数の前記栽培容器51を鉛直方向の高さが異なる複数の位置に吊り下げるための支持部材31を支持する複数の支持部22が設けられている。なお、前記支持部材31には、例えば物干し竿又はL字アングルなどの棒状部材を用いればよい。
このように、前記栽培装置1では、前記脚部11、前記脚部21、前記補強部材13、及び前記補強部材23により外装が構成されており、その内部には空間が形成されている。従って、前記栽培装置1では、前記支持部材31に吊り下げられた前記栽培容器51の少なくとも一部が自重で前記栽培装置1の外装の内部空間に位置する。これにより、前記栽培装置1の外部空間における前記栽培容器51の占有領域が小さくなり、ユーザーによる植物の収穫作業や前記栽培容器51の設置作業などを行うためのスペースを広く確保することができる。
【0013】
そして、内部に植物の苗及び土壌が収容された複数の前記栽培容器51が吊り下げられた前記支持部材31は、所定間隔を空けて配置された前記脚部11の前記支持部12各々に橋架される。同じく、複数の前記栽培容器51が吊り下げられた前記支持部材31が所定間隔を空けて配置された前記脚部21の前記支持部22各々にも橋架される。
これにより、前記栽培装置1では、複数の前記支持部材31が複数の前記支持部12及び複数の前記支持部22で支持されることにより、複数の前記栽培容器51を鉛直方向の複数の階層に分けて吊り下げる多層構造が具現される。従って、前記栽培装置1によれば、芋を平面上で栽培する場合に比べて、同じ面積で多量の植物を栽培することができる。
また、前記栽培装置1において上層に配置された前記栽培容器51に照射された光は、前記栽培容器51の外周面で反射又は散乱して、下層に配置された前記栽培容器51に照射される。従って、前記栽培装置1では、太陽光や人工照明などの光を無駄なく有効に利用して植物を栽培することができる。なお、前記支持部材31は、異なる前記支持部22の間で容易に移動させることができるため、前記栽培装置1に設けられた前記栽培容器51各々の照度環境を容易に変更することや、前記栽培容器51の設置及び収穫が容易である。
【0014】
但し、前記栽培装置1において、前記脚部11及び前記脚部21の開閉角度が小さく、前記脚部11及び前記脚部21の鉛直方向に対する傾斜角度が緩やかな場合には、前記脚部11及び前記脚部21の下層で支持された前記栽培容器51に日光が当たりにくい。一方、前記栽培装置1において、前記脚部11及び前記脚部21の開閉角度が大きく、前記脚部11及び前記脚部21の鉛直方向に対する傾斜角度が急な場合には、前記脚部11及び前記脚部21の下端部の間隔が広くなるため、前記栽培装置1の設置面積が広くなる。
これに対し、前記栽培装置1では、前記脚部11及び前記脚部21が開閉自在に構成されており、前記脚部11及び前記脚部21の鉛直方向に対する傾斜角度を任意に変更することが可能である。
【0015】
具体的に、前記栽培装置1は、前記脚部11及び前記脚部21を逆V字状に連結して回動可能に支持する回動軸41を備えている。さらに、前記栽培装置1は、前記脚部11各々の下端部に設けられた回転自在の車輪14と、前記脚部21各々の下端部に設けられた回転自在の車輪24とを備えている。より具体的に、前記脚部11及び前記脚部21の下端部は前記車輪14及び前記車輪24により相互に離間又は接近する方向に走行可能に支持されている。
これにより、前記栽培装置1では、前記脚部11及び前記脚部21に相対的に離間する方向又は接近する方向に外力が作用すると、前記脚部11及び前記脚部21は、前記回動軸41、前記車輪14、及び前記車輪24などの回動により開閉する。即ち、前記栽培容器51各々を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度が変更される。ここに、前記回動軸41、前記車輪14、及び前記車輪24が本発明に係る傾斜角度変更手段の一例である。
なお、前記車輪14には、前記車輪14の回動の可否を切り替えるストッパー14Aが設けられ、前記車輪24には、前記車輪24の回動の可否を切り替えるストッパー24Aが設けられている。これにより、前記脚部11及び前記脚部21の開閉は、前記ストッパー14A及び前記ストッパー24Aにより制限することができる。もちろん、前記脚部11及び前記脚部21の開閉を制限する手段としては、前記車輪14及び前記車輪24の回動を制限するものに限らず、例えば前記脚部11及び前記脚部21を連結固定する連結部材を用いてもよい。
【0016】
[栽培方法]
次に、図3を参照しつつ、前記栽培装置1を用いた栽培方法の一例について説明する。ここで、図3における左右方向は東西の方向である。
当該栽培方法では、以下の播種工程、育苗工程、成長工程の各段階において、芋の成長に伴って前記栽培装置1の開閉状態(傾斜角度)を順次変更する。なお、前記栽培装置1の開閉状態を2段階に変更すること、又は4段階以上に変更することも他の実施形態として考えられる。また、ここで説明する前記栽培装置1における前記脚部11及び前記脚部21の開閉角度は一例に過ぎない。
【0017】
(播種工程)
まず、前記栽培装置1を使用しない時期、又は種を植える播種時期で高い照度環境が必要のない時期は、図3(A)に示すように前記脚部11及び前記脚部21を閉じた状態で使用する。
【0018】
(育苗工程)
次に、前記栽培容器51に収容された芋の苗の葉が20枚〜50枚に成長するまでの時期(例えば3〜8週間)は、図3(B)に示すように前記脚部11及び前記脚部21を約20°開いた状態で使用する。この状態では、前記栽培装置1の下層に設けられた前記栽培容器51に照射される光を前記播種工程の状態に比べて増加させることができる。
【0019】
(成長工程)
さらに、前記栽培容器51に収容された芋の苗の葉が20枚〜50枚に成長した後、根又は茎が子芋として成長する時期(例えば5〜10週間)は、図3(C)に示すように、前記脚部11及び前記脚部21を約30°開いた状態で使用する。この状態では、前記栽培装置1の下層に設けられた前記栽培容器51に照射される光を前記育苗工程の状態に比べて更に増加させることができる。
【0020】
[栽培システム2]
続いて、図4及び図5を参照しつつ複数の前記栽培装置1を用いて芋などの植物を栽培する方法について説明する。
図4及び図5に示すように、当該栽培方法は、複数の前記栽培装置1が予め定められた占有面積を有する敷地内に並べて配置されることにより構成された栽培システム2を用いて行われる。本実施形態では、図4及び図5に示すように、前記栽培システム2が6機の前記栽培装置1を備えている場合を例に挙げて説明する。なお、図4に示す状態を第1栽培工程、図5に示す状態を第2栽培工程と称する。
【0021】
(第1栽培工程)
図4に示すように、前記栽培システム2において、左側3機の前記栽培装置1(以下「栽培装置1L」と称する)は前記脚部11及び前記脚部21を約20°開いた状態であり、右側3機の前記栽培装置1(以下「栽培装置1R」と称する)は前記脚部11及び前記脚部21を約30°開いた状態である。ここで、前記栽培システム2全体を設置するための敷地の一辺の幅はL0である。
そして、図4に示す第1栽培工程の状態では、前記栽培装置1Lにおいて、芋の苗の葉が20枚〜50枚に成長するまでの時期(例えば3〜8週間)の前記育苗工程が行われている。ここで、前記栽培装置1Lを設置するための幅はL11である。
一方、図4に示す第1栽培工程の状態では、前記栽培装置1Rにおいて、芋の苗の葉が20枚〜50枚に成長した後、根又は茎が子芋として成長する時期(例えば5〜10週間)の前成長工程が行われている。ここで、前記栽培装置1Lを設置するための幅はR11である。前記幅R11は、前記幅L11に比べて広い。
【0022】
(第2栽培工程)
その後、前記栽培装置1Lの芋の苗が成長すると、図5に示す第2栽培工程では、前記栽培装置1Lにおいて、根又は茎が子芋として成長する時期(例えば5〜10週間)の前記成長工程が行われる。ここで、前記栽培装置1Lの幅L11は前記第1栽培工程における前記栽培装置1Rの幅R11と同じになる。
一方、図5に示す第2栽培工程では、前記栽培装置1Rにおいて、前記第1栽培工程の終了後に芋が収穫され、改めて前記栽培装置1Rに芋の苗が植えられた前記栽培容器51各々が吊り下げられている。そして、前記栽培装置1Rにおいて、根又は茎が子芋として成長する時期(例えば5〜10週間)の前記育苗工程が行われる。ここで、前記栽培装置1Rの幅R11は前記第1栽培工程における前記栽培装置1Lの幅L11と同じになる。即ち、図4及び図5に示す前記第1栽培工程及び前記第2栽培工程において前記栽培システム2の設置面積は同じである。
【0023】
このように、前記栽培システム2では、複数の前記栽培装置1を異なる前記育苗工程及び前記成長工程で並行して交互に使用することができる。即ち、前記栽培装置1各々が芋の異なる成長段階に対応する傾斜角度で使用される。従って、芋の成長に伴って照度環境を適宜変更すると共に、前記芋の栽培に用いる圃場を効率的に利用することができるため、同じ土地面積において従来よりも芋を大量に栽培することが可能である。
これに対し、常に前記栽培装置1を前記育苗工程における使用状態(図3(B)参照)で使用する場合には、芋の成長段階において前記栽培装置1各々の下層の前記栽培容器51の照度環境が十分ではないという問題が生じる。一方、常に前記栽培装置1を前記成長工程における使用状態(図3(C)参照)で使用する場合には、本来前記育苗工程では省減することができるはずの前記栽培システム2の占有面積が無駄になるという問題が生じる。
【0024】
[栽培システム2の変形例]
次に、図6を参照しつつ、前記栽培システム2の変形例である栽培システム3の概略構成について説明する。
図6に示すように、前記栽培システム3において、前記栽培装置1各々には、前記脚部11及び前記脚部21各々に支柱61が固定されている。また、前記栽培装置1各々において、前記脚部11の支柱61及び前記脚部21の支柱61はX字状を形成するリンク機構62によって連結されている。前記リンク機構62において、X字状の連結軸の上端部62A各々は前記支柱61によって上下方向に摺動可能に支持されており、下端部62B各々は前記支柱61によって回動可能に支持されている。これにより、前記栽培装置1各々では、前記脚部11及び前記脚部21の開閉に伴って前記X字状のリンク機構62が作動することになる。
また、前記栽培システム3において、隣接する前記栽培装置1各々のリンク機構62は連結可能に構成されている。具体的に、前記栽培システム3は、隣接する前記リンク機構62の上端部62Aを連結することにより前記リンク機構62を連動して動作させる連結部材63を備えている。前記連結部材63は、隣接する前記リンク機構62の上端部62Aを共に上下方向に移動させることにより、その隣接する二つの前記リンク機構62を連動させるものであって、前記栽培装置1各々に着脱可能に構成されている。従って、前記栽培システム3では、前記栽培装置1各々における複数の前記支持部12又は複数の前記支持部22を結ぶ直線の鉛直方向に対する傾斜角度が連動して変化することになる。ここに、前記リンク機構62及び前記連結部材63が連動手段の一例である。
このように構成された前記栽培システム3では、前記連結部材63によって連結された前記リンク機構62を有する前記栽培装置1各々のいずれかの前記脚部11及び前記脚部21の開閉角度が変更されると、前記栽培装置1各々の前記脚部11及び前記脚部21の開閉角度(傾斜角度)が連動して均等に変化する。従って、前記栽培システム3によれば、ユーザーによる前記栽培装置1各々の開閉角度の変更が容易になり、植物の栽培作業の効率を向上させることができる。さらに、前記栽培システム3では前記連結部材63が着脱可能であるため、前記栽培装置1各々の開閉時には前記連結部材63を装着し、前記栽培装置1各々から芋を収穫する際は前記連結部材63を取り外して前記栽培装置1各々を個々に開閉させることができる。なお、前記栽培システム3は、前記栽培装置1各々の開閉を連動させるための構成の一例であって、同様の機能を具現することができれば他の構造を採用してもよい。
ここでは、3機の前記栽培装置1を備える栽培システム3を例に挙げて説明したが、前記栽培装置1の数はこれに限らない。また、前記栽培システム2において、3機の前記栽培装置1Lを前記栽培システム3として構成し、3機の前記栽培装置1Rを前記栽培システム3として構成することが考えられる。これにより、前記栽培装置1L各々と前記栽培装置1R各々とを個別に連動して開閉することができる。
【実施例1】
【0025】
本実施例1では、本発明に係る栽培方法を用いた馬鈴薯の栽培結果について説明する。なお、ここで用いた馬鈴薯の品種は男爵である。ここに、下記表1は、前記栽培装置1を用いて前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅とその状態での栽培期間とを変化させたときの馬鈴薯の栽培結果を示している。より具体的に、前記栽培装置1では、前記脚部11及び前記脚部21各々の長さは180cmであり、2本の前記脚部11の間隔が1m、2本の前記脚部21の間隔が1mであって、7本の前記支持部材31に吊り下げた合計160個の前記栽培容器51を用いて馬鈴薯を栽培した。
【表1】
【0026】
上記表1に示す実施例11のように、前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を、25cm、50cm、75cmの状態(開閉角度が約8°、16°、24°)でそれぞれ順に3週間栽培すると、前記栽培装置1を設定するために必要な面積を省減しつつ、収穫量を十分に得ると共に面積あたりの生産速度が早いという結果が得られた。特に、前記実施例11では、従来例である比較例11に比べて単位面積当たりの生産速度が約2倍になっていることがわかる。なお、最初の3週間では馬鈴薯の葉が20枚程度まで増え、次の3週間では馬鈴薯の葉が50枚程度まで増え、最後の3週間では馬鈴薯の根(小芋)が成長する。
これに対し、比較例11のように前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅が100cmの状態で9週間栽培すると、収穫量は十分に得られるが、前記栽培装置1を設定するために広い面積が必要になり、面積あたりの生産速度が遅かった。また、比較例12のように前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を、50cm、75cm、100cmの状態(開閉角度が約16°、24°、32°)でそれぞれ順に3週間栽培すると、収穫量は十分に得られるが、前記栽培装置1を設定するために広い面積が必要になり、面積あたりの生産速度が遅かった。
一方、比較例13のように前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を25cmで6週間栽培し、前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を50cmで3週間栽培すると、前記栽培装置1を設定するために必要な面積を省減することができるが、収穫量が十分に得られなかった。また、比較例14のように前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を25cmで9週間栽培すると、前記栽培装置1を設定するために必要な面積を省減することができるが、下層部の光量が不足するため収穫量が十分に得られなかった。
【実施例2】
【0027】
本実施例2では、本発明に係る栽培方法を用いた甘藷の栽培結果について説明する。なお、ここで用いた甘藷の品種は紅アズマである。ここに、下記表2は、前記栽培装置1を用いて前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅とその状態での栽培期間とを変化させたときの甘藷の栽培結果を示している。より具体的に、前記栽培装置1では、前記脚部11及び前記脚部21各々の長さは180cmであり、2本の前記脚部11の間隔が1m、2本の前記脚部21の間隔が1mであって、7本の前記支持部材31に吊り下げた合計100個の前記栽培容器51を用いて甘藷を栽培した。
【表2】
【0028】
上記表2に示す実施例21のように、前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を、25cm、50cm、75cmの状態でそれぞれ順に4週間栽培すると、前記栽培装置1を設定するために必要な面積を省減しつつ、収穫量を十分に得ると共に面積あたりの生産速度が早いという結果が得られた。特に、前記実施例21では、従来例である比較例21に比べて単位面積当たりの生産速度が約2倍になっていることがわかる。なお、最初の4週間では甘藷の葉が20枚程度まで増え、次の4週間では甘藷の葉が50枚程度まで増え、最後の4週間では甘藷の根(小芋)が成長する。
これに対し、比較例21のように前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅が100cmの状態で12週間栽培すると、収穫量は十分に得られるが、前記栽培装置1を設定するために広い面積が必要になり、面積あたりの生産速度が遅かった。また、比較例22のように前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を、50cm、75cm、100cmの状態でそれぞれ順に4週間栽培すると、収穫量は十分に得られるが、前記栽培装置1を設定するために広い面積が必要になり、面積あたりの生産速度が遅かった。
一方、比較例23のように前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を25cmで8週間栽培し、前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を50cmで4週間栽培すると、前記栽培装置1を設定するために必要な面積を省減することができるが、収穫量が十分に得られなかった。また、比較例24のように前記脚部11及び前記脚部21の開脚幅を25cmで12週間栽培すると、前記栽培装置1を設定するために必要な面積を省減することができるが、下層部の光量が不足するため収穫量が十分に得られなかった。
【符号の説明】
【0029】
1 :栽培装置
2、3:栽培システム
11、21:脚部(支持枠の一例)
12、22:支持部
13、23:補強部材
14、24:車輪
14A、24A:ストッパー
31:支持部材
41:回動軸
51:栽培容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6