(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973816
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】高圧ガス容器のシール構造
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20160809BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20160809BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20160809BHJP
F16J 15/08 20060101ALI20160809BHJP
F16L 19/00 20060101ALN20160809BHJP
【FI】
F17C13/00 301Z
F16J12/00 D
F16J15/10 L
F16J15/08 L
!F16L19/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-153838(P2012-153838)
(22)【出願日】2012年7月9日
(65)【公開番号】特開2014-15983(P2014-15983A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000182926
【氏名又は名称】日鉄住金機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100103481
【弁理士】
【氏名又は名称】森 道雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134957
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 英幸
(72)【発明者】
【氏名】木之下 弘信
【審査官】
佐野 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−196511(JP,A)
【文献】
特開平11−303998(JP,A)
【文献】
特開2009−287646(JP,A)
【文献】
特開2010−261577(JP,A)
【文献】
特開2002−349796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/00
F16J 12/00
F16J 15/08
F16J 15/10
F16L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガス容器の管台部とこの管台部に連設される付属品との間のシール構造であって、
円柱部、この円柱部の一端からテーパー状に連なる第1円錐台部、および前記円柱部の他端からテーパー状に連なる第2円錐台部からなり、軸心に沿って貫通孔を有する金属製のブロックと、
前記円柱部の前記第1円錐台部寄りに環装されたゴム製の第1Oリングと、
前記円柱部の前記第2円錐台部寄りに環装されたゴム製の第2Oリングと、を備え、
前記管台部には、前記第1円錐台部の全体を収容するテーパー面の領域、および前記円柱部の前記第1Oリングが環装された部分を収容する円筒面の領域からなる第1凹部が形成され、
前記付属品には、前記第2円錐台部の全体を収容するテーパー面の領域、および前記円柱部の前記第2Oリングが環装された部分を収容する円筒面の領域からなる第2凹部が形成されており、
前記管台部の前記第1凹部および前記付属品の前記第2凹部に前記ブロックが収容され、前記付属品が前記管台部に向けて軸方向に押し付けられることにより、前記第1円錐台部の外周面が前記第1凹部の前記テーパー面に圧接するとともに、前記第2円錐台部の外周面が前記第2凹部の前記テーパー面に圧接し、さらに、前記第1Oリングが前記第1凹部の前記円筒面に接触するとともに、前記第2Oリングが前記第2凹部の前記円筒面に接触した状態にされていること、
を特徴とする高圧ガス容器のシール構造。
【請求項2】
前記ブロックの材質が、極軟鋼、純鉄、銅、アルミニウム、チタンもしくはそれらの合金、またはステンレス鋼であること、
を特徴とする請求項1に記載の高圧ガス容器のシール構造。
【請求項3】
前記第1Oリングおよび前記第2Oリングの材質が合成ゴムであること、
を特徴とする請求項1または2に記載の高圧ガス容器のシール構造。
【請求項4】
前記円柱部には、前記第1Oリングの前記第2円錐台部側に隣接して前記第1Oリングよりも硬い樹脂製の第1バックアップリングが環装され、前記第2Oリングの前記第1円錐台部側に隣接して前記第2Oリングよりも硬い樹脂製の第2バックアップリングが環装されていること、
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高圧ガス容器のシール構造。
【請求項5】
前記第1円錐台部および前記第2円錐台部それぞれの前記外周面、並びに前記第1凹部および前記第2凹部それぞれの前記テーパー面の表面粗さが、JIS規格のB0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)で1.6μm以下であること、
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高圧ガス容器のシール構造。
【請求項6】
前記第1円錐台部および前記第2円錐台部それぞれのテーパー角度の加工公差を−2°/+0°とし、前記第1凹部および前記第2凹部それぞれの前記テーパー面の領域のテーパー角度の加工公差を−0°/+2°とすること、
を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高圧ガス容器のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス容器の口に該当する管台部と、これに連設される接続管や止栓といった付属品と、の間を密閉し、充填ガスの漏出を防止する高圧ガス容器のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧ガス容器は、水素(H
2)や酸素(O
2)や窒素(N
2)などのガス(液化ガスを含む)を高圧状態で貯蔵するのに用いられる。一般に、高圧ガス容器は、円筒状の胴部、この胴部の両端にそれぞれ形成された鏡板部、およびこれらの鏡板部の一方または両方から突き出す管台部から構成される。管台部は高圧ガス容器の口に該当し、高圧ガス容器の内部空間は管台部を通じて外部に開口する。
【0003】
管台部が鏡板部の両方に設けられた高圧ガス容器の場合、一方の管台部には、ガスを充填したり放出したりするために、付属品として配管の取付けが可能な接続管が連設され、他方の管台部には、その開口を閉塞するために、付属品として止栓が連設される。管台部が鏡板部の一方のみに設けられた高圧ガス容器の場合は、その管台部に接続管が連設される。このように、高圧ガス容器は、管台部に付属品が連設されることから、管台部と付属品との間から充填ガスが漏出するのを防止するシール構造が不可欠である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図1は、従来の一般的なシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示す。同図では、高圧ガス容器1は、胴部2の端に形成された鏡板部3から管台部4が突き出しており、この管台部4に付属品として接続管5が連設されるものを例示している。また、管台部4への接続管5の固定は袋ナット6を用いるものを例示している。
【0005】
図1に示すように、従来のシール構造では、管台部4の先端面4aと対向する接続管5の端面5aに環状溝5bが形成されており、この環状溝5bに金属製のOリング11が挿入される。この金属Oリング11は、金属細管をリング状に成形し、その端面同士を溶接した後、表面研磨し、必要に応じて表面にコーティングやメッキを施した中空の金属ガスケットである。
【0006】
組み付けに際し、金属Oリング11を端面5aに備えた接続管5は、高圧ガス容器1の管台部4の先端に隣接して配置され、袋ナット6が被せられる。そして、管台部4の外周面に形成された雄ねじ4bに袋ナット6を螺合させ、袋ナット6が管台部4に締め付けられることにより、接続管5は金属Oリング11を介在した状態で管台部4に向けて軸方向に押し付けられる。これにより、金属Oリング11は弾性変形し、管台部4の先端面4aに圧接するとともに、接続管5の環状溝5bに圧接した状態にされる。
【0007】
このように、従来のシール構造では、金属Oリング11がシール部材として機能し、金属Oリング11と管台部4および接続管5との弾性接触により気密性が保たれ、管台部4と接続管5との間からの充填ガスの漏出が防止される。
【0008】
なお、袋ナット6には、管台部4の先端面4aと接続管5の端面5aとの隙間につながるリークポート6aが穿設されている。このリークポート6aは、充填ガスの漏出の検知に用いられる。
【0009】
ところで、高圧ガス容器に充填されるガスの圧力仕様は、従来、一般的に10〜20MPa程度、高くても40MPa程度に過ぎなかったが、近年では、それを遥かに超えて90MPaとされるものもあった。しかし、充填ガスの圧力が90MPaと高い場合、前記
図1に示すような金属Oリング11の弾性接触によるシール構造では、シール性能が不足し、充填ガスの漏出を抑えることができない。特に、水素やヘリウム(He)などように分子が小さくて透過性が高いガスを充填した場合は、なおさら充填ガスの漏出防止は困難である。
【0010】
このため、本出願人は、前記特許文献1に記載されるとおり、充填ガスの圧力が高い場合であってもシール性能を確保できる特殊なシール構造を提案した。
【0011】
図2は、特許文献1に記載される特殊なシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示し、同図(c)は同図(a)の要部拡大図を示す。同図では、前記
図1と共通するものには同一の符号を付しており、高圧ガス容器1の管台部4に付属品として接続管5が連設され、管台部4への接続管5の固定は袋ナット6を用いるものを例示している。
【0012】
図2に示すシール構造では、前記
図1に示す金属Oリング11に代え、管台部4と接続管5との間に金属製のブロック20が介在している。具体的には、その金属ブロック20は、円柱部21、この円柱部21の一端からテーパー状に連なる第1円錐台部22、および円柱部21の他端からテーパー状に連なる第2円錐台部23からなり、軸心に沿って貫通孔24を有する。また、管台部4、接続管5には、金属ブロック20を受け入れるために、それぞれ第1凹部30、第2凹部40が形成されている。
【0013】
管台部4に形成された第1凹部30は、金属ブロック20の第1円錐台部22の全体を収容するとともに、円柱部21の第1円錐台部22側のほぼ半分を収容する。この第1凹部30はテーパー面31の領域を有し、この領域のテーパー角度α2が金属ブロック20の第1円錐台部22のテーパー角度α1と一致している。一方、接続管5に形成された第2凹部40は、金属ブロック20の第2円錐台部23の全体を収容するとともに、円柱部21の第2円錐台部23側のほぼ半分を収容する。この第2凹部40はテーパー面41の領域を有し、この領域のテーパー角度β2が金属ブロック20の第2円錐台部23のテーパー角度β1と一致している。
【0014】
組み付けに際し、接続管5は、高圧ガス容器1の管台部4に先端に隣接して配置され、袋ナット6が被せられる。このとき、管台部4の第1凹部30および接続管5の第2凹部40には、金属ブロック20が挿入された状態にある。そして、袋ナット6が管台部4に締め付けられることにより、接続管5は金属ブロック20を介在した状態で管台部4に向けて軸方向に押し付けられる。これにより、金属ブロック20は、第1円錐台部22の外周面が第1凹部30のテーパー面31に圧接するとともに、第2円錐台部23の外周面が第2凹部40のテーパー面41に圧接した状態にされる。
【0015】
このように、
図2に示すシール構造では、金属ブロック20がシール部材として機能し、第1円錐台部22の外周面と第1凹部30のテーパー面31とがテーパー形状でメタル面接触すると同時に、第2円錐台部23の外周面と第2凹部40のテーパー面41とがテーパー形状でメタル面接触し、これらの接触面に押付け力集中させることにより、管台部4と接続管5との間の気密性が強力に保たれる。これにより、充填ガスの圧力が高い場合であっても、管台部4と接続管5との間からの充填ガスの漏出が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2011−196511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
高圧ガス容器に充填されるガスの圧力仕様は、近年、90MPaが最高となっていたところ、ここ最近では、それをさらに超える圧力仕様が要求されている。確かに、前記
図2に示すような金属ブロックのメタル面接触によるシール構造によれば、前記特許文献1に記載されるように、充填ガスの圧力が90MPaまでの場合は、充填ガスの漏出を防止できることが実証されている。しかし、充填ガスの圧力が90MPaを超えた場合の検証はされていない。したがって、充填ガスの圧力仕様がますます増加する動向からして、高圧ガス容器のシール構造のさらなる改良と、その技術の確立が強く望まれている。
【0018】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、充填ガスの圧力が90MPaを超えて高い場合であっても、高圧ガス容器の管台部とこれに連設される接続管や止栓といった付属品との間から充填ガスが漏出するのを確実に防止できるシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記目的を達成するため、前記
図2に示すような金属ブロックのメタル面接触によるシール構造を前提として改良を重ね、種々の試験を実施して鋭意検討を行った。その結果、前記
図2に示すシール構造と同様の金属ブロックのメタル面接触に加え、金属ブロックの円柱部にゴム製のOリングを環装させて、このOリングの弾性接触を活用すれば、メタル面接触と弾性接触という二重のシールが形成されるので、シール性能が向上し、充填ガスの漏出を確実に防止できることを知見した。
【0020】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の高圧ガス容器のシール構造にある。すなわち、本発明は、高圧ガス容器の管台部とこの管台部に連設される付属品との間のシール構造であって、
円柱部、この円柱部の一端からテーパー状に連なる第1円錐台部、および前記円柱部の他端からテーパー状に連なる第2円錐台部からなり、軸心に沿って貫通孔を有する金属製のブロックと、
前記円柱部の前記第1円錐台部寄りに環装されたゴム製の第1Oリングと、
前記円柱部の前記第2円錐台部寄りに環装されたゴム製の第2Oリングと、を備え、
前記管台部には、前記第1円錐台部の全体を収容するテーパー面の領域、および前記円柱部の前記第1Oリングが環装された部分を収容する円筒面の領域からなる第1凹部が形成され、
前記付属品には、前記第2円錐台部の全体を収容するテーパー面の領域、および前記円柱部の前記第2Oリングが環装された部分を収容する円筒面の領域からなる第2凹部が形成されており、
前記管台部の前記第1凹部および前記付属品の前記第2凹部に前記ブロックが収容され、前記付属品が前記管台部に向けて軸方向に押し付けられることにより、前記第1円錐台部の外周面が前記第1凹部の前記テーパー面に圧接するとともに、前記第2円錐台部の外周面が前記第2凹部の前記テーパー面に圧接し、さらに、前記第1Oリングが前記第1凹部の前記円筒面に接触するとともに、前記第2Oリングが前記第2凹部の前記円筒面に接触した状態にされていること、
を特徴とする高圧ガス容器のシール構造である。
【0021】
上記のシール構造では、前記ブロックの材質が、極軟鋼、純鉄、銅、アルミニウム、チタンもしくはそれらの合金、またはステンレス鋼であることが好ましい。
【0022】
上記のシール構造では、前記第1Oリングおよび前記第2Oリングの材質が合成ゴムであることが好ましい。
【0023】
上記のシール構造において、前記円柱部には、前記第1Oリングの前記第2円錐台部側に隣接して前記第1Oリングよりも硬い樹脂製の第1バックアップリングが環装され、前記第2Oリングの前記第1円錐台部側に隣接して前記第2Oリングよりも硬い樹脂製の第2バックアップリングが環装されていることが好ましい。
【0024】
また、上記のシール構造では、前記第1円錐台部および前記第2円錐台部それぞれの前記外周面、並びに前記第1凹部および前記第2凹部それぞれの前記テーパー面の表面粗さが
、JIS規格のB0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)で1.6μm以下であることが好ましい。
【0025】
上記のシール構造においては、前記第1円錐台部および前記第2円錐台部それぞれのテーパー角度の加工公差を−2°/+0°とし、前記第1凹部および前記第2凹部それぞれの前記テーパー面の領域のテーパー角度の加工公差を−0°/+2°とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のシール構造によれば、先ず金属ブロックがメタル面接触によるシール部材として機能し、これに加え、第1、第2Oリングが弾性接触によるさらなるシール部材として機能するため、シール性能が向上し、充填ガスの圧力が90MPaを超えて高い場合であっても、充填ガスの漏出を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来の一般的なシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示す。
【
図2】特許文献1に記載される特殊なシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示し、同図(c)は同図(a)の要部拡大図を示す。
【
図3】本発明の第1実施形態のシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示し、同図(c)は同図(a)の要部拡大図を示す。
【
図4】本発明の第2実施形態のシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示す。
【
図5】本発明の第3実施形態のシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示す。
【
図6】実施例の試験結果として充填ガスの圧力と漏出発生率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の高圧ガス容器のシール構造について、その実施形態を詳述する。
【0029】
<第1実施形態>
図3は、本発明の第1実施形態のシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示し、同図(c)は同図(a)の要部拡大図を示す。同図に示す第1実施形態のシール構造は、前記
図2に示すシール構造の構成を基本としており、前記
図2と共通するものには同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0030】
図3に示すように、第1実施形態のシール構造では、高圧ガス容器1の管台部4に付属品として接続管5が連設され、管台部4への接続管5の固定には袋ナット6が用いられる。管台部4と接続管5との間には、前記
図2に示すシール構造と同様に、円柱部21、第1円錐台部22および第2円錐台部23からなる金属ブロック20が介在している。第1円錐台部22は円柱部21の一端からテーパー状に連なり、第2円錐台部23は円柱部21の他端からテーパー状に連なる。金属ブロック20には、第1円錐台部22、円柱部21および第2円錐台部23にわたり、軸心に沿って貫通孔24が形成されている。
【0031】
金属ブロック20の材質としては、極軟鋼、純鉄、銅、アルミニウム、チタンもしくはそれらの合金、またはステンレス鋼を採用することができる。
【0032】
また、円柱部21の外周面には、第1円錐台部22寄りの位置に円周方向にわたり第1円周溝21aが形成され、第2円錐台部23寄りの位置に円周方向にわたり第2円周溝21bが形成されている。第1円周溝21aには、弾性変形が可能なゴム製の第1Oリング25が嵌め込まれ、第2円周溝21bには、同じく弾性変形が可能なゴム製の第2Oリング26が嵌め込まれる。第1、第2Oリング25、26の材質としては、合成ゴムを採用することができ、一般的にはNBRと称されるニトリルゴム等が用いられる。
【0033】
さらに、第1実施形態では、第1円周溝21aには、第1Oリング25の第2円錐台部23側(第1円錐台部22側とは反対側)に隣接して、第1Oリング25よりも硬い樹脂製の第1バックアップリング27が嵌め込まれている。第2円周溝21bには、第2Oリング26の第1円錐台部22側(第2円錐台部23側とは反対側)に隣接して、第2Oリング26よりも硬い樹脂製の第2バックアップリング28が嵌め込まれている。第1、第2バックアップリング27、28は、それぞれ、第1、第2Oリング25、26の過剰な変形を抑え、第1、第2円周溝21a、21bから第1、第2Oリング25、26が脱落するのを防止する役割を担う。第1、第2バックアップリング27、28の材質としては、硬質のフッ素樹脂を採用することができ、一般的にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が用いられる。
【0034】
このように、円柱部21には、第1円錐台部22寄りに第1Oリング25および第1バックアップリング27が環装され、第2円錐台部23寄りに第2Oリング26および第2バックアップリング28が環装されている。
【0035】
また、管台部4、接続管5には、そのような第1、第2Oリング25、26および第1、第2バックアップリング27、28を備えた金属ブロック20を受け入れるために、それぞれ第1凹部30、第2凹部40が形成されている。
【0036】
管台部4に形成された第1凹部30は、金属ブロック20の第1円錐台部22の全体を収容するテーパー面31の領域、および円柱部21の第1円錐台部22側のほぼ半分を収容する円筒面32の領域からなる。この第1凹部30のテーパー面31のテーパー角度α2は、金属ブロック20の第1円錐台部22のテーパー角度α1と一致している。円柱部21の第1Oリング25が環装された部分は、その第1凹部30の円筒面32の領域に収容される。
【0037】
一方、接続管5に形成された第2凹部40は、金属ブロック20の第2円錐台部23の全体を収容するテーパー面41の領域、および円柱部21の第2円錐台部23側のほぼ半分を収容する円筒面42の領域からなる。この第2凹部40のテーパー面41のテーパー角度β2は、金属ブロック20の第2円錐台部23のテーパー角度β1と一致している。円柱部21の第2Oリング26が環装された部分は、その第2凹部40の円筒面42の領域に収容される。
【0038】
組み付けに際し、接続管5は、高圧ガス容器1の管台部4に先端に隣接して配置され、袋ナット6が被せられる。このとき、管台部4の第1凹部30および接続管5の第2凹部40には、第1、第2Oリング25、26および第1、第2バックアップリング27、28を備えた金属ブロック20が挿入された状態にある。そして、袋ナット6が管台部4に締め付けられることにより、接続管5は金属ブロック20を介在した状態で管台部4に向けて軸方向に押し付けられる。
【0039】
これにより、金属ブロック20は、第1円錐台部22の外周面が第1凹部30のテーパー面31に圧接するとともに、第2円錐台部23の外周面が第2凹部40のテーパー面41に圧接した状態にされる。これと同時に、第1Oリング25が弾性変形によって第1凹部30の円筒面32に接触するとともに、第2Oリング26が弾性変形によって第2凹部40の円筒面42に接触した状態にされる。
【0040】
このような第1実施形態のシール構造によれば、先ず金属ブロック20がシール部材として機能し、第1円錐台部22の外周面と第1凹部30のテーパー面31とがテーパー形状でメタル面接触すると同時に、第2円錐台部23の外周面と第2凹部40のテーパー面41とがテーパー形状でメタル面接触し、これらの接触面に押付け力集中させることにより、管台部4と接続管5との間の気密性が強力に保たれる。これに加え、第1、第2Oリング25、26がさらなるシール部材として機能し、第1Oリング25と管台部4および金属ブロック20との弾性接触、並びに第2Oリング26と接続管5および金属ブロック20との弾性接触により、上記のメタル面接触の下流側でも気密性が保たれる。このため、メタル面接触と弾性接触という二重のシールが形成されるので、シール性能が向上し、充填ガスの圧力が90MPaを超えて高い場合であっても、管台部4と接続管5との間からの充填ガスの漏出を確実に防止することができる。
【0041】
高圧ガス容器1の材質は、特に限定はないが、耐圧強度および耐腐食性に優れたクロムモリブデン鋼(例:JIS規格のSCM435)やニッケルクロムモリブデン鋼(例:JIS規格のSNCM439)などの低合金鋼を採用することができる。また、金属ブロック20および接続管5の材質も、特に限定はないが、充填ガスとして水素を用いる場合、水素脆化による影響の小さいステンレス鋼(例:JIS規格のSUS316L)を採用することができる。
【0042】
ここで、メタル面接触によって充填ガスの漏出を防止するには、接続管5を管台部4に向けて軸方向に押し付けることに伴いその軸方向の押付け力によって、第1、第2円錐台部22、23の外周面と第1、第2凹部30、40のテーパー面31、41との各接触面に直角に作用する面圧(以下、「面接触力」という)が、少なくとも充填ガスの圧力を超えている必要がある。接続管5の押付け力は袋ナット6の締付けトルクに依存することから、面接触力の調整は、袋ナット6の締付けトルクを調整することで行える。そして、金属ブロック20の第1、第2円錐台部22、23それぞれのテーパー角度α1、β1(第1、第2凹部30、40それぞれのテーパー面31、41のテーパー角度α2、β2)は、高圧ガス容器1、金属ブロック20および接続管5の材質に応じて適宜設定される。
【0043】
もっとも、高圧ガス容器1(管台部4)の材質と接続管5の材質が異なり、高圧ガス容器1の材料強度と接続管5の材料強度が相違する場合、材料強度の低い方が、歪み量が大きくなり、充填ガスの漏出が生じ易い。このため、材料強度の低い方の面接触力を補完すべく、材料強度の低い方のテーパー角度は材料強度の高い方のテーパー角度よりも大きくすることが望ましい。
【0044】
具体的には、管台部4の材料強度が接続管5の材料強度よりも高い場合、材料強度の高い側の第1円錐台部22のテーパー角度α1および第1凹部30のテーパー面31の領域のテーパー角度α2を、材料強度の低い側の第2円錐台部23のテーパー角度β1および第2凹部40のテーパー面41の領域のテーパー角度β2よりも小さくする。例えば、前者のテーパー角度を30°とし、後者のテーパー角度を45°とする。これとは逆に、管台部4の材料強度が接続管5の材料強度よりも低い場合、材料強度の低い側の第1円錐台部22のテーパー角度α1および第1凹部30のテーパー面31の領域のテーパー角度α2を、材料強度の高い側の第2円錐台部23のテーパー角度β1および第2凹部40のテーパー面41の領域のテーパー角度β2よりも大きくする。例えば、前者のテーパー角度を45°とし、後者の角度をテーパー30°とする。
【0045】
また、第1、第2円錐台部22、23それぞれの外周面、および第1、第2凹部30、40それぞれのテーパー面31、41の表面粗さは、JIS規格のB0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)で1.6μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.8μm以下である。上記の各面はメタル面接触の接触面であるため、その表面粗さが大き過ぎると充填ガスが透過して漏出してしまうからである。
【0046】
さらに、第1、第2円錐台部22、23それぞれのテーパー角度α1、β1の加工公差を−2°/+0°とし、第1、第2凹部30、40それぞれのテーパー面31、41の領域のテーパー角度α2、β2の加工公差を−0°/+2°とすることが好ましい。すなわち、組み付け前の状態で、第1円錐台部22のテーパー角度α1は、第1凹部30のテーパー面31の領域のテーパー角度α2と同じにするか、それよりも小さくし、第2円錐台部23のテーパー角度β1は、第2凹部40のテーパー面41の領域のテーパー角度β2と同じにするか、それよりも小さくしておく。第1、第2円錐台部22、23のテーパー角度α1、β1の方が大きいと、第1、第2円錐台部22、23が第1、第2凹部30、40の奥まで挿入されないため、第1、第2円錐台部22、23それぞれの外周面と、第1、第2凹部30、40それぞれのテーパー面31、41とのメタル面接触が不十分となるからである。
【0047】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態のシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示す。同図に示す第2実施形態のシール構造は、前記
図3に示す第1実施形態のシール構造の構成を変形したものである。
【0048】
図4に示すように、第2実施形態のシール構造では、高圧ガス容器1の管台部4に連設される付属品として、前記
図3に示す接続管5に代え、止栓7を適用している。この止栓7に、前記第1実施形態と同様の第2凹部40が形成されている。これにより、付属品として止栓7を用いる場合にも、管台部4と止栓7との間からの充填ガスの漏出を確実に防止することができる。なお、止栓7を用いる場合、金属ブロック20には、第1円錐台部22、円柱部21および第2円錐台部23にわたり、軸心に沿って貫通孔24が形成されていなくても構わない。
【0049】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態のシール構造を示す模式図であり、同図(a)は各部材を分解した状態の断面図を示し、同図(b)は各部材を組み付けた状態の断面図を示す。同図に示す第3実施形態のシール構造は、前記
図3に示す第1実施形態のシール構造の構成を変形したものである。
【0050】
図5に示すように、第3実施形態のシール構造では、管台部4に接続管5を固定するのに、前記
図3に示す袋ナット6に代え、フランジ形式を適用している。すなわち、管台部4の雄ねじ4bにフランジ8を取り付け、接続管5に押さえ用フランジ9を取り付け、フランジ8と押さえ用フランジ9とをボルト10によって締結する。このようにフランジ形式による場合でも、接続管5は金属ブロック20を介在した状態で管台部4に向けて軸方向に押し付けられるので、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0051】
もっとも、第3実施形態のシール構造でも、前記
図3に示す接続管5に代え、前記第2実施形態と同様に止栓を用いても構わない。この場合、止栓に押さえ用フランジが取り付けられる。
【実施例】
【0052】
本発明のシール構造による効果を確認するため、下記の気密試験を実施した。
【0053】
[試験方法]
本発明例では、充填ガスとして透過性が高い水素ガスを用いる気密試験を行うこととした。このため、高圧ガス容器から管台部を切り出し、この管台部の先端に、前記
図4(b)に示すように止栓を袋ナットによって連設した、金属ブロックのメタル面接触および第1、第2Oリングの弾性接触によるシール構造のものを試験体とした。この試験体の管台部の後端にガス供給配管を連結し、このガス供給配管に、水素ガスを圧送するポンプと、水素ガスの圧力を計測する圧力計を接続した後、その試験体を試験用の耐圧チャンバー内に格納して外気から隔離した。
【0054】
そして、1個の試験体を準備し、この試験体に水素ガスを105MPaの圧力になるまで段階的に送り込み、およそ10MPa上昇する毎に、試験体(管台部と止栓の間)からの水素ガスの漏出有無を調査した。水素ガスの漏出有無の判断は、ガスクロマトグラフィ法により耐圧チャンバー内の水素ガスを検出することによって行った。なお、このように耐圧チャンバー内で試験を実施する理由は、爆発の危険性のある水素ガスを用いることから、安全上のためである。
【0055】
本発明例の試験に際し、管台部の材質はSCM435とし、止栓および金属ブロックの材質はSUS316Lとした。SCM435とSUS316Lを比較すると、材料強度はSCM435の方が高いため、材料強度の高い管台部側の第1円錐台部および第1凹部のテーパー角度は30°とし、材料強度の低い止栓側の第2円錐台部および第2凹部のテーパー角度はそれよりも大きい45°とした。また、第1、第2Oリングの材質はNBRとし、第1、第2バックアップリングの材質はPTFEとした。
【0056】
比較例では、充填ガスとして不燃性の窒素ガスを用いる気密試験を行うこととした。このため、管台部が鏡板部の両方に設けられた高圧ガス容器を用い、一方の管台部の先端に、前記
図1に示すように接続管を袋ナットによって連設するとともに、他方の管台部の先端に、止栓を袋ナットによって連設した、金属Oリングの弾性接触によるシール構造のものを試験体とした。この試験体の接続管にガス供給配管を連結し、このガス供給配管に、窒素ガスを圧送するポンプと、窒素ガスの圧力を計測する圧力計を接続した。
【0057】
比較例の試験に際し、管台部(高圧ガス容器)の材質はSCM435またはSNCM439とし、接続管、止栓および金属Oリングの材質はSUS316Lとした。また、高圧ガス容器は、容量が60L(リットル)(SNCM439鋼製)のものと100L(SCM435鋼製)のものの2種類を用い、前者を比較例1とし、後者を比較例2とした。
【0058】
そして、比較例1(60L容器)では、11個の試験体を準備し、各試験体に窒素ガスを90MPaの圧力になるまで段階的に送り込み、比較例2(100L容器)では、5個の試験体を準備し、各試験体に窒素ガスを72MPaの圧力になるまで段階的に送り込み、それぞれ圧力がおよそ10MPa上昇する毎に、試験体(管台部と接続管の間)からの窒素ガスの漏出有無を調査した。窒素ガスの漏出有無の判断は、袋ナットに2箇所ずつ設けられたリークポートに検知液を注入し、気泡の発生有無を確認することによって行った。
【0059】
[評価方法]
本発明例、比較例1および比較例2のいずれもガスの漏出発生率を算出して評価した。本発明例でのガス漏出発生率は、1個の試験体について、ガスの漏出が認められた場合を100(%)、認められなかった場合を0(%)で表示するものである。一方、比較例1でのガス漏出発生率は、11個の試験体の計22箇所のリークポートについて、ガスの漏出が認められたリークポートの数を全リークポート数で除して百分率(%)により表示するものである。同様に、比較例2でのガス漏出発生率は、5個の試験体の計10箇所のリークポートについて、ガスの漏出が認められたリークポートの数を全リークポート数で除して百分率(%)により表示するものである。
【0060】
[試験結果]
図6は、実施例の試験結果として充填ガスの圧力と漏出発生率の関係を示す図である。同図に示すように、金属ブロックのメタル面接触および第1、第2Oリングの弾性接触によるシール構造の本発明例では、充填ガスが透過性の高い水素ガスであっても、圧力が90MPaを超える105MPaまで全く漏出が発生しなかった。一方、金属Oリングの弾性接触によるシール構造の比較例1、2では、充填ガスの圧力が50MPaを超えたあたりから、漏出の発生が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のシール構造は、充填ガスの圧力が90MPaを超えて高い高圧ガス容器に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1:高圧ガス容器、 2:胴部、 3:鏡板部、
4:管台部、 4a:先端面、 4b:雄ねじ、
5:接続管、 5a:端面、 5b:環状溝、
6:袋ナット、 6a:リークポート、 7:止栓、
8:フランジ、 9:押さえ用フランジ、 10:ボルト、
11:金属Oリング、
20:金属ブロック、 21:円柱部、
21a:第1円周溝、 21b:第2円周溝、
22:第1円錐台部、 23:第2円錐台部、
24:貫通孔、 25:第1Oリング、 26:第2Oリング、
27:第1バックアップリング、 28:第2バックアップリング、
30:第1凹部、 31:第1凹部のテーパー面、 32:第1凹部の円筒面、
40:第2凹部、 41:第2凹部のテーパー面、 42:第2凹部の円筒面、
α1:第1円錐台部のテーパー角度、 β1:第2円錐台部のテーパー角度、
α2:第1凹部テーパー面の角度、 β2:第2凹部テーパー面の角度