(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973845
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】パイプクーリングシステム、及びパイプクーリング方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
E04G21/02 104
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-188092(P2012-188092)
(22)【出願日】2012年8月28日
(65)【公開番号】特開2014-5716(P2014-5716A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-121360(P2012-121360)
(32)【優先日】2012年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】村上 祐治
(72)【発明者】
【氏名】神崎 浩二
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−241836(JP,A)
【文献】
特開2003−065983(JP,A)
【文献】
特公平07−068762(JP,B2)
【文献】
実公昭62−043087(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート内に敷設された冷却管に冷却水を流過させることで、コンクリート内部の温度上昇を抑制するパイプクーリングシステムにおいて、
コンクリート内に上部から底部にわたって敷設される冷却管と、
前記冷却水を前記冷却管内に送る冷媒圧送手段と、
コンクリートの内部温度を取得するコンクリート温度把握手段と、
前記コンクリート温度把握手段で取得したコンクリート内部温度と、前記冷却水を流過させる条件で解析して得られたコンクリートの予測温度と、の温度差を求める監視手段と、
前記監視手段によって求められた温度差に基づいて、前記冷却水の温度及び/又は流量の調整の要否を判断する調整判定手段と、
を備えたことを特徴とするパイプクーリングシステム。
【請求項2】
前記調整判定手段は、前記温度差に基づいて流過する前記冷却水の適正温度及び/又は適正流量を算定し、
前記冷媒圧送手段は、前記調整判定手段で算定した適正温度及び/又は適正流量に基づいて、圧送する前記冷却水の温度及び/又は流量を調整する制御機能を備えた、
ことを特徴とする請求項1記載のパイプクーリングシステム。
【請求項3】
前記冷媒圧送手段から送られる前記冷却水を、複数の前記冷却管に分岐する分岐管を備え、
前記分岐管の枝口を選択的に開閉することで、前記冷却水の圧送量を調整し得る、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のパイプクーリングシステム。
【請求項4】
流過している間の前記冷却水の温度変化を計測する冷媒温度計測手段と、
前記冷媒温度計測手段で得られた前記冷却水の温度変化に基づいて、コンクリート内部温度を推定する温度推定手段と、を備え、
前記監視手段は、前記温度推定手段で得られたコンクリート内部温度と、前記冷却水を流過させる条件で解析して得られたコンクリートの予測温度と、の温度差を求める、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパイプクーリングシステム。
【請求項5】
コンクリート内に敷設された冷却管に冷却水を流過させることで、コンクリート内部の温度上昇を抑制するパイプクーリング方法において、
前記冷却水を流過させる条件で解析を行い、コンクリートの温度を予測する予測工程と、
前記冷却管が敷設された状態でコンクリートを打設する打設工程と、
上部から底部にわたって敷設された前記冷却管内に前記冷却水を流過させる冷却工程と、
コンクリート内部温度と、前記予測工程で予測したコンクリート予測温度と、を比較する監視工程と、を備え、
前記監視工程での比較により求めた温度差が所定閾値を超えた場合、前記冷却水の温度及び/又は流量を調整する、
ことを特徴とするパイプクーリング方法。
【請求項6】
流過している間の前記冷却水の温度変化を計測する冷媒温度計測工程と、
前記冷媒温度計測工程で得られた前記冷却水の温度変化に基づいて、コンクリート内部温度を推定する温度推定工程と、を備え、
前記監視工程は、前記温度推定工程で得られたコンクリート内部温度と、前記コンクリート予測温度と、を比較する、
ことを特徴とする請求項5記載のパイプクーリング方法。
【請求項7】
前記監視工程での比較により求めた温度差が所定閾値を超えた場合、前記冷却水を複数の前記冷却管に分岐する分岐管の枝口を、選択的に開閉することで、前記冷却水の圧送量を調整する、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6記載のパイプクーリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主にコンクリートの温度ひび割れの抑制に関するものであり、より具体的には、水や空気といった冷媒を用いて打設後のコンクリートを冷却することで、コンクリートの温度上昇を抑制するパイプクーリングシステム、及びパイプクーリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは鋼材とともに最も重要な建設材料であり、ダム、トンネル、橋梁といった土木構造物や、集合住宅、オフィスビルなどの建築構造物をはじめ、様々な構造物に用いられている。このコンクリート構造物は、あらかじめ工場等で製作されて所定の場所まで運搬されることもあるが、土木構造物や建築構造物の場合、所定の場所に直接コンクリートを打設して構築されることが多い。いずれにしろ、セメントと水、骨材等を練り混ぜた状態のコンクリート(フレッシュコンクリート)を型枠の中に打設し、コンクリートの硬化を待って型枠を外すことでコンクリート構造物を構築するのが一般的である。
【0003】
上記のとおり、コンクリートは時間の経過とともに硬化していく材料であり、詳しくは
図6に示すように、時間の経過とともにコンクリートの内部温度が上昇するとともに(
図6(a))、その強度も上がり((
図6(b))、弾性係数も向上していく(
図6(c))材料である。ところで、フレッシュコンクリートから「硬化した状態のコンクリート」になる過程で、あるいは硬化後に構造物として供用されている間に、コンクリートのひび割れが発生することがある。コンクリートのひび割れには、構造物の用途に影響を与えない無害なものもあるが、その用途に重大な影響を及ぼす有害なひび割れもある。そのため、ひび割れが発生する原因や機構についてはこれまで十分に解明されており、その対策に関しても様々な手法が採用されている。
【0004】
ひび割れの種類はその発生原因によって分けられ、さらにコンクリート硬化前の原因と硬化後の原因で大別される。硬化前の原因としては、型枠の移動やセメントの異常凝結によって生じる「初期ひび割れ」、養生中における表面の急速乾燥によって生じる「プラスチック収縮ひび割れ」等が挙げられる。一方、硬化後の原因としては、水分損失に伴うセメントゲルの収縮によって生じる「乾燥収縮ひび割れ」や、セメントの水和熱に起因して生じる「温度ひび割れ」、鉄筋の腐食やアルカリ骨材反応によって生じる「物理的・化学的なひび割れ」、過大な荷重の作用や構造物沈下によって生じる「構造ひび割れ」等が挙げられる。
【0005】
これらのひび割れは、適切な設計(配合)、施工、養生によって概ね抑制できることが、これまでの研究や実績により明らになっている。例えば、温度ひび割れの場合、後述するように躯体内部と外部との温度差が原因で発生することから、設計時、施工時でそれぞれ次のような対策が採用されている。すなわち設計時の対策としては、水和熱の上昇を抑えることを目的に、低発熱セメントの使用、セメント量の低減、水和熱を低減する混和剤の使用など、配合設計に工夫がなされる。あるいは、比較的ひび割れが発生しても影響のない箇所にひび割れを誘導する目的で、ひび割れ誘発目地の設置を計画することもある。施工時の代表的な対策としては、プレクーリング、ポストクーリング、長期断熱養生が挙げられる。プレクーリングとは、打設時のフレッシュコンクリート温度を冷却するもので、練り混ぜ水にフレーク状の氷を用いたり、ミキサやトラックアジテータにおける練り混ぜ中に液体窒素を噴射したり、種々の冷却方法が採用されている。
【0006】
ポストクーリングには、クーリングスロットなど躯体内部に温度拡散面を設けて自然冷却を促進する手法もあるが、躯体内に敷設したパイプ内に冷却水を通水してコンクリートを冷却するパイプクーリングが主流である。このパイプクーリングは、あらかじめ躯体内に薄肉鋼管などのクーリングパイプ(以下、「冷却管」という。)を敷設し、コンクリート打設後に低温(例えば、コンクリート温度―20℃以下)の水や空気等(以下、「冷媒」という。)を冷却管内に送り込むだけの対策で、比較的簡易な設備と作業によって実現でき、合理的かつ経済的な手法である。しかも、コンクリート打設現場付近に河川やため池等があれば、冷媒の調達も容易となり、さらに低コストでひび割れ対策を実施することができる。
【0007】
また、河川等において渇水期で構造物を完成させなければならない場合や、都市部において限られた工期で施工しなければならない場合など、早期にコンクリート強度を発現させる必要があるときには、低発熱セメントの使用やセメント量の低減などコンクリート配合で対応することが難しいこともある。仮に早強セメントを使用した場合、
図6(a)に示すように、早くコンクリート温度が上昇し、つまり引張強度が小さい状態で引張応力が発生することとなり、温度ひび割れが促進される原因となる。他方、プレクーリングによる対策は、比較的コストがかかるうえ、相当の設備が必要であり、コストやヤードの問題から採用できないこともある。パイプクーリングは、このようなケースでも特段の問題なく採用できるため、この点からも有効な温度ひび割れ対策といえる。
【0008】
ところが、これまでパイプクーリングはそれほど多用されることはなかった。これは、水平に冷却管を配置する「水平パイプクーリング」が主流になっていることに起因する。通常、温度ひび割れ対策は、大きな塊状(マッシブ)のコンクリートであるマスコンクリートで行われることが多い。コンクリート標準仕方書では、広がりのあるスラブで版厚が80〜100cm以上、下端に拘束がある壁では壁厚50cm以上の場合には、マスコンクリートとして温度ひび割れ対策を講じることとしている。平面的に大きな広がりを有するマスコンクリートであれば、冷却管の配置が容易であり、水平パイプクーリングも採用しやすい。ところが、温度ひび割れ対策を必要とするマスコンクリートには、橋脚など柱状のものや、大規模擁壁など壁状のものある。これら柱状、壁状のマスコンクリートは、比較的水平断面が小さく鉛直方向に長いのが一般的で、このような場合、水平パイプクーリングは採用し難い。なぜなら、狭い範囲に水平冷却管を敷設するため、鉄筋の存在もあって作業が煩雑を極めることとなり、しかも多数のリフト(鉛直方向の打設ブロック)割りとなるため、煩雑な配管作業を繰り返し行わなければならないからである。
【0009】
ところで、パイプクーリングには、水平パイプクーリングのほかに、鉛直方向に冷却管を配置する「鉛直パイプクーリング」という手法がある。鉛直パイプクーリングも、基本的には水平パイプクーリングと同じ内容であるが、細部において種々のノウハウがあるため、多くの実績を持つ一部の者によって主に実施されているのが実情である。この鉛直パイプクーリングは、あらかじめ鉛直方向に冷却管を敷設しておけば、打設リフトごとに冷却管を配管する手間もなく、前出の柱状、壁状のマスコンクリートにも好適に採用することができるうえ、冷却管を流過した水(冷媒)はそのまま表面湛水養生としても利用できることから、極めて合理的な対策手法である。すなわち、この鉛直パイプクーリングと水平パイプクーリングを状況に応じて適宜採用すれば、パイプクーリングはより汎用的な温度ひび割れ対策になると考えられる。
【0010】
このようにパイプクーリングは有効な温度ひび割れ対策であり、当然ながらこれまでもパイプクーリングに関する種々の提案がなされている。例えば、特許文献1では、冷却管(本文献では「管体」)として帯状鋼板を用いたスパイラル管を用い、クーリング後、帯状に戻しながら冷却管を引き上げる発明を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−303159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
パイプクーリングを実施する場合、コンクリート標準仕方書でも規定されているように、あらかじめ温度解析が行われる。躯体の形状や寸法、躯体の拘束条件、コンクリート配合、予想外気温等を条件として温度解析することで、コンクリート打設後の温度分布を経時的に求め、この温度分布による体積変化等に基づいてコンクリートの応力解析を行い、有害なひび割れの発生の有無を照査する。有害なひび割れが発生すると予見された場合、さらに解析によってパイプクーリングの諸条件を計画する。すなわち、温度ひび割れが生じない温度履歴となるよう、パイプの配置や数量、冷媒の温度等を設定するわけである。
【0013】
しかしながら、上記計画した諸条件でパイプクーリングを実施しても、解析上の温度変化と実際の温度変化では相違することが多い。通常、温度解析を行う場合は、完成形の躯体に基づいて計算されるが、実際の施工では所定リフト高さに分けてコンクリートが打設される。
図7はリフトごとのコンクリート打設を説明する模式図である。この図の例に示すように、第1リフトは9時から打設されるが、第5リフトは11時にならないと打設されない。つまり、第1リフトと第5リフトでは、既に2時間の材齢差が生じている。このように、解析上では躯体全体が同じ材齢という前提であるのに対して、実際にはリフトごとに材齢が異なるため、現実のコンクリート温度は解析上の温度よりも上昇する傾向にある。また同様の理由から、現実のコンクリートが最高温度を迎える時期(ピーク時期)が、解析で求めたピーク時期よりも遅れることがある。材齢が進むとコンクリートの弾性係数が上がり、後述するように弾性係数が大きいほど引張応力を生じやすいことから、ピーク時期が遅れるほど温度ひび割れが発生しやすくなる。
【0014】
ところが、解析によるコンクリート温度と実際のコンクリート温度を、施工中に比較することは稀である。そのうえ、コンクリート打設中や打設後に温度計測するためには、あらかじめ躯体内に温度計を設置しておくわけであるが、不測の事態によって温度計測ができなくなった場合、あるいは温度計の故障等による誤計測が生じた場合でも、これに対処する手段がなかった。さらに、実際のコンクリート温度を監視し、解析上の温度よりも上昇した場合に、適切な対策が講じられることはこれまでなかった。そのため、解析による計画どおりパイプクーリングを実施したにもかかわらず、躯体コンクリートに温度ひび割れが発生することは少なくなかった。
【0015】
本願発明の課題は、コンクリート打設中や打設後においてコンクリート温度を監視し、解析上のコンクリート温度と相違する場合は、諸条件を変更してパイプクーリングを実施することで温度ひび割れの発生を抑止するパイプクーリングシステム、及びパイプクーリング方法を提供することにある。また、不測の事態によって躯体内に設置した温度計が機能しなくなった場合、若しくはそもそも温度計を躯体内に設置できない場合であっても、打設中や打設後のコンクリート温度を把握できる手段を提供することも本願発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明は、打設中や打設後のコンクリート温度を監視しながら、適切なパイプクーリングを実施するとともに、使用された冷媒の温度変化に着目してコンクリート温度を推定する、というこれまでにはなかった発想に基づいて行われたものである。
【0017】
本願発明のパイプクーリングシステムは、コンクリート内に
上部から底部にわたって敷設された冷却管に
冷却水を流過させることでコンクリート内部の温度上昇を抑制するものであり、冷却管、冷媒圧送手段、温度把握手段、監視手段、調整判定手段を備えたものである。冷媒圧送手段は、
冷却水を冷却管内に送るものであり、温度把握手段は、コンクリートの内部温度を取得するものである。また、監視手段は、コンクリート内部温度と、
冷却水を流過させる条件で解析して得られたコンクリートの予測温度との温度差を求めるもので、調整判定手段は、この温度差に基づいて
冷却水の温度や流量の調整の要否を判断するものである。
【0018】
本願発明のパイプクーリングシステムは、次に示す機能を有する調整判定手段と冷媒圧送手段を備えたものとすることもできる。すなわち、調整判定手段は、温度差に基づいて流過する
冷却水の適正温度や適正流量を算定する機能余を有し、冷媒圧送手段は、調整判定手段で算定した適正温度や適正流量に基づいて、
冷却水の温度や流量を調整する制御機能を有する。
また、本願発明のパイプクーリングシステムは分岐管を備えたものとすることもできる。この分岐管は、
冷媒圧送手段から送られる冷却水を、複数の冷却管に分岐するもので、分岐管の枝口を選択的に開閉することによって冷却水の圧送量を調整することができる。
【0019】
本願発明のパイプクーリングシステムは、冷媒温度計測手段と温度推定手段を備えたものとすることもできる。冷媒温度計測手段は、流過している間の
冷却水の温度変化を計測するもので、温度推定手段は、冷媒温度計測手段で得られた
冷却水の温度変化に基づいてコンクリート内部温度を推定するものである。この場合の監視手段は、温度推定手段で得られたコンクリート内部温度と、
冷却水を流過させる条件で解析して得られたコンクリートの予測温度によって、温度差を求める。
【0020】
本願発明のパイプクーリングシステムは、コンクリートの内部温度を計測する温度計測手段を備えたものとすることもできる。この場合の監視手段は、温度計測手段で得られたコンクリート内部温度と、
冷却水を流過させる条件で解析して得られたコンクリートの予測温度によって、温度差を求める。
【0021】
本願発明のパイプクーリング方法は、コンクリート内に
上部から底部にわたって敷設された冷却管に
冷却水を流過させることでコンクリート内部の温度上昇を抑制する方法であり、予測工程、打設工程、冷却工程、監視工程を備えた方法である。予測工程では、
冷却水を流過させる条件で解析を行ってコンクリートの温度を予測し、打設工程では、冷却管が敷設された状態でコンクリートを打設する。また、冷却工程では、冷却管内に
冷却水を流過させ、監視工程では、コンクリート内部温度とコンクリート予測温度を比較する。監視工程の解析で求めた温度差が所定閾値を超えた場合、
冷却水の温度や流量を調整したうえで改めて冷却工程を行う。
【0022】
本願発明のパイプクーリング方法は、さらに冷媒温度計測工程と温度推定工程を備えた方法とすることもできる。冷媒温度計測工程では、流過している間の
冷却水の温度変化を計測し、温度推定工程では、
冷却水の温度変化に基づいてコンクリート内部温度を推定する。この場合の監視工程は、温度推定工程で得られたコンクリート内部温度とコンクリート予測温度を比較する。
【0023】
本願発明のパイプクーリング方法は、コンクリートの内部温度を計測する温度計測工程を備えた方法とすることもできる。この場合の監視工程は、温度計測工程で計測したコンクリート内部温度とコンクリート予測温度を比較する。
また、本願発明のパイプクーリング方法は、監視工程での比較により求めた温度差が所定閾値を超えた場合、分岐管(冷媒圧送手段から送られる冷却水を複数の冷却管に分岐するもの)の枝口を、選択的に開閉することで冷却水の圧送量を調整する方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0024】
本願発明のパイプクーリングシステム、及びパイプクーリング方法には、次のような効果がある。
(1)打設中や打設後における実際のコンクリート温度を把握しながら、状況に応じた適切なクーリングを実施できるので、従来に比べ確実に温度ひび割れの抑制を図ることができる。
(2)流過した冷媒の温度変化に基づいてコンクリート温度を推定することで、躯体内に設置した温度計が故障するといった不測の事態にも容易に対処できる。また、状況によっては、躯体内に設置する温度計を省くこともできるので、この場合、コストの低減を図ることができる。
(3)調整判定手段に冷媒の適正温度や適正流量を算定させれば、即時に冷媒の調整ができるので、より効果的なクーリングを実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本願発明のパイプクーリングシステム、及びパイプクーリング方法を示す全体斜視図。
【
図2】躯体と冷却管に温度計を設置した状況を示す模式図。
【
図3】コンクリート内に埋設されたケーシング管の中に、冷却管が挿入された状況を示す斜視図。
【
図4】(a)は並列タイプの分岐管を示す詳細図、(b)は直列タイプの分岐管を示す詳細図。
【
図5】実際のコンクリート温度変化と、解析上の温度変化との関係を示す関係図。
【
図6】(a)はコンクリートの内部温度の経時変化を示す関係図、(b)はコンクリートの引張強度の経時変化を示す関係図、(c)はコンクリートの静弾性係数の経時変化を示す関係図。
【
図7】リフトごとのコンクリート打設を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願発明のパイプクーリングシステム、及びパイプクーリング方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0027】
(全体概要)
本願発明は温度ひび割れを抑制するパイプクーリングに関する技術であることから、まずは温度ひび割れについて簡単に説明する。コンクリートの養生期間中にコンクリート内部と表面付近で顕著な温度差が生じると、ひび割れが発生することが知られている。これが、いわゆる「温度ひび割れ」という現象である。この温度ひび割れは、内部拘束に起因するものと、外部拘束に起因するものに大別される。
【0028】
コンクリートは硬化する過程で水とセメントの反応が起こるが、その際、水和熱が発生するためコンクリートの内部温度は時間とともに上昇する。ところが、外気温が低温であれば、熱伝達することによってコンクリート表面に近い部分(外周部)はそれほど大きく温度上昇することはない。また、既設コンクリートの上に新たにコンクリートを打ち継ぐ場合は、低温の既設コンクリートに熱伝導することによって、やはりコンクリート外周部はそれほど大きく温度上昇することはない。その結果、コンクリートの内部と外周部で顕著な温度差が生じ、体積膨張の相違から外周部に引張力が作用することで温度ひび割れが発生する。これが、内部拘束による温度ひび割れである。
【0029】
コンクリートが所定の温度まで達すると、今度は温度降下に転ずる。温度が降下するに伴い、コンクリートは全体的に収縮しようとするが、既設コンクリートと接しているところでは拘束状態となっているため自由に収縮できない。この結果、コンクリート内において体積変化に相違が生じ、内部に引張力が作用することで温度ひび割れが発生する。これが、外部拘束による温度ひび割れである。なお、外部拘束による温度ひび割れは、躯体を貫通するひび割れとなることも少なくない。
【0030】
このような機構によって発生する温度ひび割れを抑制するためには、コンクリート内部の温度上昇を抑える必要がある。ここで温度上昇の抑制には、コンクリートの最高温度を低下させるという意味と、早期にコンクリート温度を低下させるという意味がある。既述のとおり、温度ひび割れはコンクリートの体積変化による引張応力が原因となる。応力はひずみと弾性係数の積で求められ、当然ながら弾性係数が小さければかかる応力も小さくなる。
図6(c)に示すように、材齢が若い間はコンクリートの弾性係数は小さい。すなわち、若材齢のコンクリートであれば、内部温度が上昇してもそれほど大きな引張応力が生じることはない。反面、材齢を重ねたコンクリートは、その弾性係数も大きい値を示し、温度上昇に敏感に反応して相当の引張応力が生じることとなる。また既述のとおり、現実のコンクリートのピーク時期は解析で求めたそれより遅れる傾向にあり、これが温度
ひび割れを発生させる一つの要因となっている。このように、いかに早期に(若材齢の間に)コンクリート温度を降下させるかが、クーリングにおける重要な要素となる。
【0031】
次に、本願発明の概要について説明する。なお、本願発明はパイプクーリングに関する発明であり、水平パイプクーリングでも鉛直パイプクーリングでも実施できるが、ここでは便宜上、鉛直パイプクーリングの場合で説明する。
図1は、本願発明のパイプクーリングシステム、及びパイプクーリング方法を示す全体斜視図である。この図の躯体1は、河川内に構築される橋脚であり、締切矢板2によってドライにした状態で施工されている。躯体1内には、あらかじめ複数(図では10本)のケーシング管31が設置されており、ケーシング管31の中には冷却管32が挿入されている。なお、この図では冷却管32として可撓性ホースが用いられている。
【0032】
この場合、冷却管32内に流過させる冷媒は河川の水であり、取水ポンプによって汲み上げられる。取水ポンプで汲み上げた冷却水(冷媒)は、取水ホースによって水槽に溜められ、さらに給水ポンプ33で汲み上げられ、第一給水ホース34を通じて第一分岐管35に送られる。第一分岐管35から分岐した第二給水ホース36は、第二分岐管37に接続されており、ここからさらに複数の冷却管32に分岐する。このように、冷却管32の一端は第二分岐管37に接続され、他端はケーシング管31の底部付近まで伸びており、これによって冷却水は躯体1の上部から底部へ流過することができる。躯体1の底部まで流過した冷却水は、湛水養生用として躯体1の上面に溜めてもよいし、
図1のように、排水管38を通じて河川等に排水することもできる。
【0033】
躯体1のコンクリートを打設する前に、施工時と同様の条件で温度解析を実施し、コンクリートの温度履歴(経時変化)を予測しておく。そして、躯体1のコンクリート打設中、及び打設後は、
図2に示す躯体温度計4でコンクリート温度を計測する。
図2は、躯体1と冷却管32に温度計を設置した状況を示す模式図である。この図に示すように、躯体温度計4は、コンクリート温度の上昇が著しい中央部に配置され、例えば鉄筋等に取り付けられる。解析による予測温度と、躯体温度計4によって実際に計測した温度を比較し、これらの温度差が、あらかじめ定めた閾値より大きい場合、冷却水の温度や水量を調整する。
【0034】
コンクリートの温度は、冷却管32内を流過する冷却水の温度変化によって推定することもできる。冷却水は、コンクリートと熱交換することによって、コンクリート温度を降下させることから、躯体1内に入った直後の冷却水よりも躯体1内を十分流過した後の冷却水の方が温度は上昇しているはずである。例えば、冷却管32を用いて冷却水を上部から下部に流過させ、そのまま下端から放出する場合は、
図2に示す上部の冷媒温度計5Uが最も低温であり、以下、中央の冷媒温度計5C、下部の冷媒温度計5Lの順に高い温度を示すはずである。あるいは、ケーシング管31の中に冷却管32を挿入した場合であって、冷却水を冷却管32中に上部から下端まで流過させ、ケーシング管31と冷却管32の間を上方に流過する冷却水で温度降下させる場合は、
図2に示す下部の冷媒温度計5Lが最も低温であり、以下、中央の冷媒温度計5C、上部の冷媒温度計5Uの順に高い温度を示すはずである。あらかじめ、正常にコンクリート温度が降下している状態における冷却水の温度変化を把握しておけば、冷媒温度計5U、5C、5Lの計測結果に基づいてコンクリート温度が計画どおり降下しているか否かを判断することができ、その結果、冷却水の温度や水量を調整することができる。
【0035】
以下、本願発明を「パイプクーリングシステム」と「パイプクーリング方法」に分けて、それぞれ構成する要素ごとに詳述する。なお、パイプクーリングシステムとパイプクーリング方法に共通する内容については、パイプクーリングシステムの例で説明することとし、パイプクーリング方法では特有の内容について説明することとする。
【0036】
1.パイプクーリングシステム
(冷媒)
冷媒は、冷媒管32の中を流過する低温の媒体で、代表的なものとして水が挙げられる。水のほか、空気などを利用することもできるし、水以外の液体や、空気以外の気体を用いることもできる。冷媒は、低温であることが必要で、その温度は適宜設計することができるが、一般的には打設するコンクリート温度より20℃以上低い温度とされる。ここでは、冷媒が「水」の場合で説明することとし、この水を「冷却水」ということとする。
【0037】
(冷却管)
冷却管32は、その中に冷却水を流過させることから中空の管であり、
図1では可撓性ホースを用いているが、その他、薄肉鋼管や塩化ビニル管など種々の管を利用することができる。躯体1のうち、コンクリート温度を降下させたい範囲に冷却管32は設置され、例えば躯体1全体を冷却しようとするときは、
図1のように平面的に密に、しかも上部から底部にわたって冷却管32は配置される。
【0038】
躯体1のコンクリートを冷却するためには、冷却管32は躯体1内に埋設されることになるが、型枠内の所定位置に冷却管32を設置した状態でコンクリートを打設してもよいし、
図3のようにケーシング管31をコンクリート内に埋設しておき、その中に冷却管32を挿入することもできる。ケーシング管31は、型枠内で自立させる必要があり、型枠内の配筋や、形鋼(例えば山形鋼)による架台などに取り付けることができる。なお、鉛直パイプクーリングの場合は、ケーシング管31(あるいは冷却管32)を設置した状態でリフトごとにコンクリートを打設できるが、水平パイプクーリングの場合は、リフトごとに打設した後、その都度コンクリート表面に冷却管32(あるいはケーシング管31)を設置する。
【0039】
(冷媒圧送手段)
冷媒圧送手段は、冷却水を冷却管32内に供給するものであり、
図1に示す給水ポンプ33等が好んで用いられる。
図1に示すように水槽内に冷却水を溜めて水源とし、ここから給水ポンプ33で汲み上げて送水することもできるし、現場の状況によっては給水ポンプ33を河川等の水源に直接設置して汲み上げることもできる。なお、後述するように、冷却水の温度を調整する場合は、水槽等に冷却水を溜め、この水槽を利用して温度調節することが望ましい。
【0040】
通常、多数の冷却管32が躯体1内に設置されることから、給水ポンプ33と冷却管32の間には分岐手段が置かれる。この分岐手段は、1箇所に限らず複数箇所に設置されることもあり、
図1では、親分岐管(第一分岐管35)が1箇所、子分岐管(第二分岐管37)が2箇所配置されている。
図4は、分岐管を示す詳細図であり、(a)は並列タイプの分岐管、(b)は直列タイプの分岐管を示す。この分岐管は、主管35aと複数(図では6箇所)の枝口35bを備えており、給水ポンプ33から給水される冷却水が主管35aに入り、枝口35に接続された冷却管32に送られる。当然ながら分岐管は、水圧を考慮した材質や構造とすることが望ましい。
【0041】
(コンクリート温度予測)
躯体1のコンクリートを打設する前に、あらかじめ温度解析を行い、躯体1内の温度分布が時間の経過とともにどう変化するかを予測しておく。ここで予測したコンクリート温度と実際に計温した結果を比較することから、この温度解析は、実際に打設する際の諸条件に合わせて行われる。なお、ここで行う温度解析は、有限要素法、有限差分法、シュミット法、カールソン法など種々の解析手法を採用することができる。温度解析によって得らえられた結果(予測温度)は、例えばコンピュータで処理可能な形式として記憶媒体(コンピュータのハードディスクやCD−ROM等)に記録される。
【0042】
(温度把握手段)
躯体1のコンクリートが打設されると、温度把握手段によって実際のコンクリート温度を把握する。この温度把握手段は、コンクリートを直接計温する手法と、冷却水の温度変化からコンクリート温度を間接的に推定する手法に大別される。コンクリートを直接計温する場合、
図2に示すように躯体1内に設置された躯体温度計4(温度計測手段)によって計測する。この躯体温度計4は、コンクリート内に埋設された状態で計測できるもので、例えば熱電対が例示できる。躯体1のうち温度を把握したい場所に躯体温度計4は設置され、例えば、最も温度上昇が予想される躯体1中心部や、躯体1の表面付近など、任意の位置に、任意の箇所数だけ設置される。なお、コンクリート内に躯体温度計4を埋設するため、躯体温度計4は打設前の鉄筋等を利用して取り付けられる。
【0043】
冷却水の温度変化から間接的にコンクリート温度を推定する場合、冷却水の温度変化を把握する。既述のとおり、コンクリートの温度降下は冷却水との熱交換によって行われるものであり、躯体1に入る前と躯体1から出たときの冷却水の温度差を把握することによって、コンクリート温度の降下量を推定することができる。そのため、冷却水の温度は2箇所以上で計測する必要がある。望ましくは、躯体1に入る直前もしくは入った直後の冷却水温度を計測し、躯体1から出た直後もしくは出る直前の冷却水温度を計測し、その温度差を把握する。
図2に示すように、さらに中央付近での冷却水温度を計測してもよい。冷却水の温度を計測する場合、冷媒管32の表面(外側)に熱電対等の冷媒温度計(冷媒温度計測手段)を取り付けるか、あるいは冷媒管32の内側に冷媒温度計を取り付けて計測する。冷媒温度計も躯体温度計4と同様、熱電対等を利用することができる。
【0044】
冷却水の温度変化に基づいて解析することで、コンクリート温度の降下量を推定することができる。例えば、コンクリートのボリューム、形状、打設温度、及び冷却管32の配置、本数、冷却水の流量(流速)等、諸条件を用いて熱量の計算を行えばコンクリート温度の降下量を求めることができる。この計算は、計算機等の温度推定手段によって実行され、例えばプログラムとしてコンピュータに処理させることができ、あらかじめシミュレーションしておくことも、コンクリート打設中や打設後に即時処理することもできる。
【0045】
(監視手段)
監視手段は、事前に行った温度解析によって得られたコンクリート予測温度と、温度把握手段で得られたコンクリート実測温度を照らし合わせるものである。既述のとおり、コンクリート実測温度はコンクリート予測温度よりも上昇する傾向にある。
図5は、実際のコンクリート温度変化と、解析上の温度変化との関係を示す関係図である。通常、温度ひび割れが生じないようにパイプクーリングが計画され、温度解析によってこれが確認される。したがって、この図に示すように、コンクリート実測温度がコンクリート予測温度より高い状態が続くと、最終的に温度ひび割れが生じるおそれがある。これを未然に防ぐため、監視手段によってコンクリート実測温度とコンクリート予測温度を比較するわけである。
【0046】
監視手段による比較は、計測点と計測時刻を合わせた状態で行う。具体的には、実際に温度計測した躯体1内の位置、実際に温度計測した時刻(例えば打設開始からの経過時間)、と同条件で解析した予測温度を、監視手段による比較に用いる。両者の比較は、例えば
図5のようなグラフとして表示することができる。また、コンクリート実測温度とコンクリート予測温度をコンピュータで処理可能な形式として記憶しておけば、ディスプレイ等にグラフ表示やリスト表示させることもできる。
【0047】
さらに監視手段では、比較したコンクリート実測温度とコンクリート予測温度の差である温度差を算出する。この算出は、プログラムによってコンピュータに処理させることができる。このプログラムは、コンクリート実測温度とコンクリート予測温度を入力する機能を備えることもできるし、あらかじめ記憶媒体に記憶させたコンクリート実測温度とコンクリート予測温度を読み込む機能を備えることもできる。なお、ここで算出された温度差は、コンピュータで処理可能な形式として記憶手段(コンピュータのハードディスクやCD−ROM等)に記憶される。
【0048】
(調整判定手段)
調整判定手段は、監視手段で求められた温度差に基づいて、冷却水を調整する必要があるか否かを判断する。冷却水の調整は、冷却水の温度を変更するか、水量を変更するか、あるいは両方を組み合わせることで行われる。具体的には、あらかじめ閾値を設けておき、温度差とこの閾値を比較し、閾値よりも大きい場合に、冷却水の調整が必要と判断し、その旨表示する。温度差が閾値よりも小さい場合は、その旨表示してもよいが、特に表示しなくてもよい。なお、この調整判定手段も、プログラムによってコンピュータに処理させることができる。
【0049】
例えば、コンクリート実測温度がコンクリート予測温度よりも高く、その温度差が閾値よりも大きい場合、冷却水の水温を低下させるか、これに代えて(あるいは加えて)冷却水の水量を増やすよう表示する。あるいは、コンクリート実測温度がコンクリート予測温度よりも低く、その温度差が閾値よりも大きい場合、冷却水の水温低下を停止させるか、これに代えて(あるいは加えて)冷却水の水量を減ずるよう表示することもできる。
【0050】
冷却水の温度調整は、
図1に示す水槽などに冷却手段を備えることで実現できる。また、冷却水の水量調整は、冷媒圧送手段(給水ポンプ33)の圧力を調整することによっても、親分岐管(第一分岐管35)や子分岐管(第二分岐管37)の枝口35bを選択的に開閉することによっても実現できる。
【0051】
コンクリート実測温度とコンクリート予測温度の温度差に基づいて、冷却水の適切な温度(適正温度)や適切な流量(適正流量)を算出することもできる。温度推定手段でも説明したように、例えば、コンクリートのボリューム、形状、及び現時点での冷却水の水温、流量(流速)等、諸条件を用いて熱量の計算を行えば、冷却水の適正温度や適正流量を求めることができる。この計算は、プログラムとしてコンピュータに処理させることができ、あらかじめシミュレーションしておくことも、コンクリート打設中や打設後に即時処理することもできる。
【0052】
さらに、調整判定手段によって求められた冷却水の適正温度や適正流量に基づいて、自動的に冷却水の調整を行う制御手段を備えることもできる。この制御手段は、調整判定手段から送られる適正温度や適正流量の情報を受け、その情報に従って、水槽などの冷却手段を調整し、あるいは冷媒圧送手段の圧力調整を行い、分岐管の枝口35bを選択して開閉する。
【0053】
2.パイプクーリング方法
(予測工程)
予測工程は、躯体1のコンクリートを打設する前に、あらかじめ温度解析を行う工程であり、その内容はパイプクーリングシステムの「コンクリート温度予測」の説明と同様である。
【0054】
(打設工程)
打設工程は、型枠、配筋を行い、さらにケーシング管31(あるいは冷却管32)を設置した状態で、コンクリートの打設を行う工程である。必要に応じてコンクリート打設前に、鉄筋等に躯体温度計(温度計測手段)を設置し、冷却管32に冷媒温度計(冷媒温度計測手段)を設置しておく。
【0055】
(冷却工程)
冷却工程は、冷却管32内に冷却水を通水してコンクリートの温度を降下させる工程である。冷却工程が実施されると、コンクリート内部温度を把握する。コンクリート内部温度を把握するには、コンクリート内に設置された躯体温度計によってコンクリート内部温度を直接計測する(温度計測工程)か、冷却管32に設置された冷媒温度計によって冷媒の温度変化を計測し(冷媒温度計測工程)、この温度変化に基づいてコンクリート内部温度を推定する(温度推定工程)か、あるいは両者を組みわせて把握するなど適宜選択することができる。
【0056】
(監視工程)
監視工程では、コンクリート内部温度と、予測工程で予測したコンクリート予測温度とを比較し、両者の差である温度差を求める。さらに、この温度差と事前に定めた閾値とを比較して、冷却水の調整(温度や流量の調整)を要するか否かを判断する。なお、温度差の算出や、冷却水の調整の要否は、人の判断によって行うこともできるし、パイプクーリングシステムの「コンクリート温度予測」でも説明したように、プログラムとしてコンピュータに処理させてもよい。冷却水の調整(温度や流量の調整)を要する場合、水槽などに設けた冷却手段を調整することで冷却水の温度調整を行い、冷媒圧送手段(給水ポンプ33)の圧力を調整することによって、あるいは親分岐管(第一分岐管35)や子分岐管(第二分岐管37)の枝口35bを選択的に開閉することによって冷却水の流量調整を行う。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明のパイプクーリングシステム、及びパイプクーリング方法は、橋梁の下部工やダム等の土木構造物、オフィスビル等の建築構造物、その他種々のコンクリート構造物に利用することができる。本願発明が、温度ひび割れの少ない、いわば高品質のコンクリート構造物を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0058】
1 躯体
2 締切矢板
31 ケーシング管
32 冷却管
33 給水ポンプ
34 第一給水ホース
35 第一分岐管
35a (分岐管の)主管
35b (分岐管の)枝口
36 第二給水ホース
37 第二分岐管
38 排水管
33 給水ポンプ
4 躯体温度計
5U 上部の冷媒温度計
5C 中央の冷媒温度計
5L 下部の冷媒温度計