(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記撥液性樹脂が、紫外線照射により、親水性官能基又は親水性結合が生じる材料であって、ベンゼン環又は共役二重結合分子が増減する材料であることを特徴とする、請求項1に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査方法。
前記撥液性樹脂が、前記紫外線照射により、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基、アミド基のいずれかの親水性官能基、
又は、エステル結合、エーテル結合、ペプチド結合、ジスルフィド結合、ホスホジエステル結合のいずれかの親水性結合が生じる材料であることを特徴とする、請求項2に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査方法。
前記撥液性樹脂が、前記紫外線照射により、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基、アミド基のいずれかの親水性官能基、
又は、エステル結合、エーテル結合、ペプチド結合、ジスルフィド結合、ホスホジエステル結合のいずれかの親水性結合が生じる材料であることを特徴とする、請求項7に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査装置。
【背景技術】
【0002】
電子機器のフレキシブル基板は、表面にレジストを塗布し、UV露光し、エッチング処理し、メッキ処理を施すといった工程を経て製造されている。一方で、少量多品種生産や微細加工のニーズから、金属粒子や金属イオンなどを含む溶液を用いて電子回路、センサー、素子などを形成する技術(いわゆるプリンテッド・エレクトロニクス)が注目されている。
【0003】
図10は、プリンテッド・エレクトロニクスによる配線パターン形成の様子を示す概念図であり、
図10(1)〜(4)には、配線パターン形成に必要な各工程の様子が示されている。
【0004】
図10(1)は、撥液性樹脂Jの表面に親液処理を行う様子を示している。紫外線UVが、所定のパターンで光を通すフォトマスクMを隔てて、撥液性樹脂Jの表面に向けて照射されている。
【0005】
図10(2)は、撥液性樹脂Jの表面が、所定のパターンで親液性に変化(改質)された状態を示している。撥液性樹脂Jの表面のうち、フォトマスクMを通過した紫外線UVが照射された部分は、紫外線のエネルギー吸収により、親液性に変化した部分Sとなる。
一方、撥液性樹脂Jの表面のうち、紫外線UVがフォトマスクMで遮られ、紫外線のエネルギーを吸収しなかった部分は、撥液性を維持する部分Hとなる。
【0006】
図10(3)は、所定のパターンで親液性に変化(改質)された樹脂材料の表面に、スリットノズルSNを用いて、金属粒子や金属イオンなどを含む溶液LMを塗布する様子を示している。
【0007】
図10(4)は、撥液性樹脂Jの表面に、金属粒子や金属イオンなどを含む溶液LMが所定パターンで形成された後の状態を示している。撥液性樹脂Jの表面に塗布された金属粒子や金属イオンなどを含む溶液LMは、撥液性を維持する部分Hから、親液性に変化した部分Sに移動し、所定のパターンを形成する状態となり、その後の乾燥・焼成工程を経て固化する。
【0008】
上述の配線パターン形成過程において、金属粒子や金属イオンなどを含む溶液LMを塗布する前に、所定の親液性に変化した改質パターンが正しく得られたかどうか検査を行いたいという要望が高い。
【0009】
樹脂の反射率や透過率が変化する特性を応用して、照射した光の反射量や透過量の違いから、濡れ性を判別する技術がある(例えば、特許文献1)。
【0010】
樹脂の反射率や透過率が変化する特性を応用し、検査液を用いて、照射した光の反射量や透過量の違いから、濡れ性を判別する技術がある(例えば、特許文献2)。
【0011】
プラズマ処理やコロナ処理により表面改質処理をした材料に対して、紫外線を照射し、蛍光強度を検出することで濡れ性を推定する技術がある(例えば、特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、プリンテッド・エレクトロニクスに用いられる撥液性樹脂は、特許文献1,2に示すような光触媒含有層に相当するものが無く、材料の屈折率又は反射率の差異を利用する技術を用いて改質パターンの検査を試みても、改質パターンに対応したコントラストのある画像を取得できず、正しく検査を行うことができない。
【0014】
また、特許文献3に示す技術を用いて改質パターンの検査を試みると、再びその表面全体に紫外線が照射されてしまう。これでは、撥液性を残しておきたい部分の撥液特性を損なうこととなり、破壊検査を行っているようなものであり、実用的ではない。さらに、撥液性樹脂が、感光性の材料であれば材料本来の物性を変化させてしまい、紫外線硬化樹脂であれば紫外線に反応して硬化してしまうため、全数検査に用いることができない。
【0015】
そこで本発明は、紫外線照射により所定のパターンで親液性に変化するように改質処理された撥液性樹脂について、撥液性/親液性を損なうことなく非破壊にて改質パターンの検査を行う方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
検査対象物となる撥液性樹脂の表面に設定した被検査領域に向けて可視光線を照射する可視光線照射ステップと、
前記被検査領域から蛍光発光された光を検出する蛍光発光検出ステップとを有し、
前記検査対象物となる撥液性樹脂は、その表面に所定パターンの紫外線を照射することで、前記紫外線のエネルギー吸収により当該撥液性樹脂の表面を撥液性から親液性に変化する改質処理が施されており、
前記撥液性樹脂の表面の撥液性を維持している部分の蛍光波長の発光強度と、改質処理が施されて親液性に変化した部分の蛍光波長の発光強度との違いに基づいて、親液性パターンが形成されているかどうかの検査を行うパターン検査ステップを有する、
撥液性樹脂の改質パターン検査方法である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、
前記撥液性樹脂が、紫外線照射により、親水性官能基又は親水性結合が生じる材料であって、ベンゼン環又は共役二重結合分子が増減する材料であることを特徴とする、請求項1に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査方法である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、
前記撥液性樹脂が、前記紫外線照射により、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基、アミド基のいずれかの親水性官能基、
又は、エステル結合、エーテル結合、ペプチド結合、ジスルフィド結合、ホスホジエステル結合のいずれかの親水性結合が生じる材料であることを特徴とする、請求項2に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査方法である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、
前記可視光線照射ステップで照射される可視光線が390〜560nmのいずれかの波長を含み、
前記蛍光発光検出ステップで検出される蛍光成分の光線が、前記可視光線照射ステップで照射される可視光線の波長よりも長い波長であって、500〜785nmのいずれかの波長を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の撥液性樹脂の改質パターン検査方法である。
【0020】
請求項5に記載の発明は、
前記可視光線照射ステップで照射される可視光線が450〜540nmのいずれかの波長を含み、
前記蛍光発光検出ステップで検出される蛍光成分の光線が550〜750nmのいずれかの波長を含むことを特徴とする、請求項4に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査方法である。
【0021】
請求項6に記載の発明は、
検査対象物となる撥液性樹脂の表面に設定した被検査領域に向けて可視光線を照射する可視光線照射部と、
前記被検査領域から蛍光発光された光を検出する蛍光発光検出部とを備え、
前記検査対象物となる撥液性樹脂は、その表面に所定パターンの紫外線を照射することで、前記紫外線のエネルギー吸収により当該撥液性樹脂の表面を撥液性から親液性に変化する改質処理が施されており、
前記撥液性樹脂の表面の撥液性を維持している部分の蛍光波長の発光強度と、改質処理が施されて親液性に変化した部分の蛍光波長の発光強度との違いに基づいて、親液性パターンが形成されているかどうかの検査を行うパターン検査部を備えた、
撥液性樹脂の改質パターン検査装置である。
【0022】
請求項7に記載の発明は、
前記撥液性樹脂が、紫外線照射により、親水性官能基又は親水性結合が生じる材料であって、ベンゼン環又は共役二重結合分子が増減する材料である
ことを特徴とする、請求項6に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査装置である。
【0023】
請求項8に記載の発明は、
前記撥液性樹脂が、前記紫外線照射により、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基、アミド基のいずれかの親水性官能基、
又は、エステル結合、エーテル結合、ペプチド結合、ジスルフィド結合、ホスホジエステル結合のいずれかの親水性結合が生じる材料であることを特徴とする、請求項7に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査装置である。
【0024】
請求項9に記載の発明は、
前記可視光線照射部から照射される可視光線が390〜560nmのいずれかの波長を含み、
前記蛍光発光検出部で検出される蛍光成分の光線が、前記可視光線照射部から照射される可視光線の波長よりも長い波長であって、500〜785nmのいずれかの波長を含むことを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の撥液性樹脂の改質パターン検査装置である。
【0025】
請求項10に記載の発明は、
前記可視光線照射部から照射される可視光線が450〜540nmのいずれかの波長を含み、
前記蛍光発光検出部で検出される蛍光成分の光線が550〜785nmのいずれかの波長を含むことを特徴とする、請求項9に記載の撥液性樹脂の改質パターン検査装置である。
【発明の効果】
【0026】
紫外線照射により所定のパターンで親液性に変化するように改質処理された撥液性樹脂について、撥液性/親液性を損なうことなく非破壊にて改質パターンの検査を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を適用させて検査する検査対象物Wには、基材の上に撥液性樹脂Jが成膜されており、その表面に所定のパターンで紫外線が照射され、親液性に変化する改質処理が施されている。
【0029】
撥液性樹脂Jは、紫外線が照射されなかった部分が撥液性を維持している部分Hとなり、紫外線が照射された部分が親液性に変化した部分Sとなる。
【0030】
本発明者らは、撥液性樹脂Jのうち、紫外線を照射して当該紫外線のエネルギーを吸収することにより、下記に列挙した、親水性官能基や親水性結合が生じる材料であって、さらにはベンゼン環又は共役二重結合分子が増減する材料について、下述する未知の属性を発見した。そして、この属性により、従来技術では実施が不可能であった非破壊による検査という新たな用途への使用に適することを見いだした。
【0031】
つまり、本発明に係る未知の属性とは、
1)下記に列挙した、親水性官能基や親水性結合が生じる材料、或いは、ベンゼン環又は共役二重結合分子が増減する材料に対して、可視光線(紫色:390nmの波長〜緑色:560nmの波長)を照射すれば、撥液性から親液性に変化した部分Sから放出される蛍光波長の発光強度(以下、蛍光強度という)が、撥液性を維持している部分Hからの蛍光強度と比較して増加若しくは減少すること
2)上記列挙した組成を生じる材料に対して、可視光線(紫色〜緑色)を照射しても、撥液性を維持している部分Hが親液性に変化しないこと
3)そのため、撥液性樹脂Jの表面の撥液性を維持している部分Hと、改質処理が施されて親液性に変化した部分Sとの蛍光強度の違いに基づいて、所定の親液性パターンが形成されているかどうか検査を行うこと
である。
【0032】
検査対象物Wとなる撥液性樹脂Jは、紫外線を照射して当該紫外線のエネルギーを吸収することにより、親水性官能基や親水性結合が生じる材料である。より具体的には、撥液性樹脂Jは、紫外線を照射して当該紫外線のエネルギーを吸収することにより、カルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(>C=O)、ヒドロキシル基(−OH)、アミノ基(−NH
2)、チオール基(−SH)、アルデヒド基(−CHO)、アミド基(CONH
2)のいずれかの親水性官能基、
又は、エステル結合(−COO−)、エーテル結合(−O−)、ペプチド結合(−CONH−)、ジスルフィド結合(−S−S−)、ホスホジエステル結合(−O−P(=)OH−O−)のいずれかの親水性結合が生じる材料である。
【0033】
さらに撥液性樹脂Jは、紫外線を照射して当該紫外線のエネルギーを吸収することにより、ベンゼン環又は共役二重結合分子が増減する材料である。
【0034】
以下、本発明に係る具体的な改質パターンの検査方法と、それに用いる装置の構成について、図を用いながら説明を行う。以下、各図において直交座標系の3軸をX、Y、Zとし、XY平面を水平面、Z方向を鉛直方向とする。特にY方向は矢印の方向を奥側とし、その逆方向を手前側と表現し、Z方向は矢印の方向を上とし、その逆方向を下と表現する。
【0035】
図1は、本発明の検査方法に用いる検査装置の概略構成図である。
本発明の検査方法に用いる検査装置1は、可視光線照射部2と、蛍光発光検出部3と、パターン検査部4と、観察台5を備えている。
【0036】
可視光線照射部2は、検査対象物Wとなる撥液性樹脂Jの表面に設定した被検査領域Fに向けて可視光線22を照射するものである。この可視光線22は、蛍光発光のための励起光となるものである。
【0037】
具体的には、可視光線照射部2は、レーザ光源21を用いて構成することができる。レーザ光源21は、波長405nmの光(紫色)、波長488nmの光(青色)、波長514nmの光(青緑色)、波長540nmの光(緑色)、波長560nmの光(緑色)を照射するものが例示できる。また、可視光線照射部2は、レーザ光源21に限定されず、LEDやハロゲン照明、UVランプ等を使用しても良い。
【0038】
蛍光発光検出部3は、撮像カメラ31と、対物レンズ32と、蛍光フィルタ33と、ダイクロイックミラー35を備えている。
【0039】
撮像カメラ31は、検査対象物W上に設定された被検査領域Fから放出される蛍光波長成分の光を検出するものである。具体的には、撮像カメラ31は、一般に入手可能な2次元配列の受光素子を備えるエリアカメラが例示される。エリアカメラは、CCD方式やCMOS形式のイメージセンサを受光素子として備え、受光感度のある光を検出すると、受光位置と受光強度に対応した電気信号に変換して外部へ出力するものである。エリアカメラに用いられる受光素子は、例えば有効画素数2048(横)×2048(縦)のマトリクス状に配列されたものを例示することができ、可視光線及び近赤外光線に対して受光感度を有している。
【0040】
対物レンズ32は、被検査領域F上の像を撮像カメラ31の受光素子に結像させるものである。
【0041】
蛍光フィルタ33は、可視光線照射部2から励起光として照射された可視光線22を減衰させ、撮像カメラ31で観察する蛍光成分の波長を透過させるものである。
具体的には、蛍光フィルタ33は、励起光として照射された可視光線22を反射又は吸収するように、透明材料の表面にコーティングを施したもの又は透明材料中に光吸収物質を分散させたもので、一般にバンドパスフィルタ、シャープカットフィルタなどと呼ばれるものが例示される。
【0042】
蛍光フィルタ33は、予め減衰・透過特性の異なる複数の蛍光フィルタを準備しておき、可視光線照射部2から励起光として照射される可視光線22の波長や、撮像カメラ31で観察する蛍光成分の波長に応じて選択使用する。つまり、励起光として照射された可視光線22(つまり、ノイズ成分)を減衰させ、蛍光成分のみを効率よく透過させることで、親液パターンを観察した際に、画像のコントラストを高くすることができる。
【0043】
ダイクロイックミラー35は、可視光線照射部2から照射された光を反射させて検査対象物Wに照射し、検査対象物Wから放出される蛍光波長成分の光を通過させて撮像カメラ31で観察できるようにするものである。
【0044】
パターン検査部4は、撥液性樹脂の表面の撥液性を維持している部分Hと、改質処理が施されて親液性に変化した部分Sとの蛍光強度の違いに基づいて、親液性パターンが形成されているかどうかの検査を行うものである。
【0045】
パターン検査部4には、予め、検査対象物Wに形成された親液性パターンに対応する検査パターンが登録されている。そして、被検査領域Fから受光したパターンと、当該登録しておいた検査パターンとを対比させ、所定の親液性パターンが形成されているかどうかの検査を行う。
【0046】
観察台5は、ワークステージ51と、XYステージ部(不図示)を備えている。
ワークステージ51は、検査対象物Wを水平な状態で保持するものである。ワークステージ51の表面には、細孔や溝が設けられており、この細孔や溝は、切換バルブを介して真空源や圧空源と接続されている。
【0047】
XYステージ部は、1軸方向にスライダーを移動させる電動アクチュエータが、上下2軸直交するように組み合わされたものであり、上軸のスライダーにはワークステージ51が取り付けられている。そのため、XYステージ部は、ワークステージ51と対物レンズ32との距離を一定に保ちつつ、ワークステージ51をX方向又はY方向の任意の位置へ移動させ、所定の位置で静止させるものである。また、XYステージ部は、ワークステージ51をX方向又はY方向に所定の速度で等速移動させることもできる。
【0048】
本発明の検査方法に用いる装置の具体例として、上述では撮像カメラ31にエリアカメラを用いる形態を例示した。撮像カメラ31にエリアカメラを用いる形態では、検査対象物Wに設定された被検査領域を複数のエリアに分割し、それぞれ分割したエリア毎に移動とパターン検査とを繰り返す(いわゆるステップ&リピート方式)。
【0049】
一方、撮像カメラ31には、TDIカメラ(Time Delay Integration Camera)を用いても良い。TDIカメラとは、一方向に所定の長さを有するラインセンサ(例えば、2048画素とか、4096画素など)が複数列(例えば96列とか、256列など)配列されており、一定時間毎に信号を出力(例えば50Hzとか、100Hzでライン読み出し)を行うものが例示できる。
図1を用いて説明すれば、X方向に所定の長さを有するラインセンサが、Y方向に複数配列されている。そして、ワークステージ51をY方向に所定の速度で等速移動させながら、ライン読み出しを行う(いわゆる等速スキャン方式)。そうすることで、一般的なラインセンサに比べて受光感度が増すため、検査時間を遅くすることなく、微弱な蛍光成分の光を受光して検査を行うことができる。
【0050】
本発明の検査方法に用いる検査装置1は上記構成をしており、上述のステップに従って本発明の検査方法を実施するので、検査対象物Wに設定された被検査領域Fに向けて可視光線を照射し、当該被検査領域Fから放出される蛍光波長成分の光を撮像し、撮像した画像に基づいて、検査対象物Wの表面に親液性パターンが形成されているかどうかを検査することができる。また、XYステージ部を動かすことにより、撮像カメラ31で一度に観察できる面積よりも広い面積の検査対象物Wの全面に対して、検査を行うことができる。
【0051】
図2は、本発明の検査方法を用いた検査のフロー図である。
予め、検査対象物Wには、撥液性樹脂Jの層が形成され、さらに撥液性樹脂Jの表面には所定のパターンの紫外線が照射することで、当該紫外線のエネルギー吸収により親液性に変化する改質処理が施されている。そのため、検査対象物Wには、撥液性を維持している部分Hと、親液性に変化した部分Sを備え、いわゆる改質パターンが形成されている。
【0052】
先ず、検査対象物Wを観察台5に置き(s1)、観察位置へ移動させる(s2)。
続いて、検査対象物Wとなる撥液性樹脂Jの表面に設定した被検査領域Fに向けて可視光線22を照射する(可視光線照射ステップ:s3)。
【0053】
そうすると、被検査領域Fの親液性に変化した部分Sから蛍光成分の波長が放出されるので(s4)、励起光成分を蛍光フィルタ33でフィルタリングし(s5)、撮像カメラ31を用いてこの被検査領域Fから蛍光発光された光を検出する(蛍光発光検出ステップ:s6)。
【0054】
このとき、撥液性樹脂Jの表面の撥液性を維持している部分Hと、改質処理が施されて親液性に変化した部分Sとでは、蛍光強度が異なるので、撮像カメラ31では、改質パターンに対応するパターンが観察される。そのため、改質パターンに対応する検査パターンを予め登録しておき、登録された検査パターンと、実際に観察されたパターンとを比較・照合し、所定の親液性パターンが形成されているかどうかの検査を行う(パターン検査ステップ:s7)。
【0055】
検査対象物Wに対する検査が終了したかどうかを判定し(s8)、検査が終了していないと判定されれば、検査対象物Wを次の観察場所へ移動させ、上記ステップs2〜s8を繰り返す。一方、検査が終了したと判定されれば、検査対象物Wを取り出す(s9)。
【0056】
[他の実施形態1]
上述した観察台5を用いて検査する形態は、検査対象物Wが円形のウエハーや角形基板であって比較的小さい場合、ハンドリングが容易であること、検査対象物Wと検査装置との距離や観察視野を一定にできるので検査品質にばらつきがないこと、等の理由から好ましい形態と言える。
【0057】
一方、検査対象物Wが、長尺のシート状の材料である場合、観察台5を用いる形態に限定されず、当該シート状の材料を連続搬送させながら、或いは、所定ピッチで間欠搬送させながら、当該シート搬送と直交する方向に観察カメラを移動させて、長尺シートの各部に対して検査を行う形態としても良い。また、可視光線照明部や蛍光発光検出部を適宜複数台設置し、同時に検査できる範囲を増やす構成としても良い。そうすれば、検査時間を短縮できる。
【0058】
[他の実施形態2]
さらに、本発明の検査方法及び装置において、
可視光線照射ステップs3(又は可視光線照射部2)で励起光として照射される可視光線が390〜560nmのいずれかの波長を含み、蛍光発光検出ステップs6(又は蛍光発光検出部3)で検出される蛍光成分の光線が、可視光線照射ステップs3(又は可視光線照射部2)から照射される可視光線の波長よりも長い波長であって、500〜785nmのいずれかの波長を含む形態が好ましい。
【0059】
具体的には、励起光として照射される可視光線として、上記波長の光が照射されるレーザ光源を用いたり、LEDやハロゲン照明、UVランプ等と上記波長を通過させるバンドパスフィルタを組み合わせて使用する。
【0060】
詳細は後述するが、検査対象物に励起光を照射すると、親液化された部分も、撥液性を維持する部分も、広い波長領域で蛍光発光すると言える。そのため、本発明に用いる励起光は、可視光線であれば波長の長短を問わず、蛍光検査に適用することが可能である。しかし、この励起光は、短波長側(紫色〜緑色)の光を用いる方が、長波長側(黄色〜赤色)の光を用いるよりも、強い蛍光強度を得やすい。そうすることで、観察画像のコントラストが高くなり、改質パターンの検査を良好に行うことができる。
【0061】
[他の実施形態3]
さらに、本発明の検査方法及び検査装置において、
可視光線照射ステップs3(可視光線照射部2)で励起光として照射される可視光線が450〜540nmのいずれかの波長を含み、
蛍光発光検出ステップs6(蛍光発光検出部3)で検出される蛍光成分の光線が550〜750nmのいずれかの波長を含むことがより好ましい。
【0062】
具体的には、励起光として照射される可視光線として、上記波長の光が照射されるレーザ光源を用いたり、LEDやハロゲン照明、UVランプ等と上記波長を通過させるバンドパスフィルタを組み合わせて使用する。
【0063】
そうすれば、使用する光の波長帯域が狭くなり、光学系の色収差の影響が少なくできるので、高精細の(つまり線幅の細い)改質パターンを検査する場合でも、精度良く検査することが可能となる。
【0064】
[実施例1]
検査対象物として、透明なPETフィルム上にフッ素樹脂コーティング剤(AGCコーテック社製オブリガードSS0057)をコーティングし、硬化させた後、所定のパターンで紫外線を照射したものを用いた。なお、このコーティング剤は、メチルエケルケトン、キシレン、エチルベンゼンを主剤として含有するものである。また、親液化のために照射した紫外線の波長は254nmとし、照射エネルギーは5J/cm2に設定した。
【0065】
この検査対象物に対して、蛍光特性を調べるために、検査対象物の親液化した部分と撥液性を維持した部分とに向けて励起光を照射し、励起光が照射された部分から蛍光発光する光のスペクトルを測定した。このとき、励起光の波長を380nm〜600nmまで10nmずつ変化させ、そのときの励起光を照射することにより生じる蛍光波長毎の蛍光強度を調べた。
【0066】
図3は、検査対象物の紫外線を照射して親液化した部分の蛍光特性を示す図である。
図4は、検査対象物の紫外線を照射せず撥液性を維持した部分の蛍光特性を示す図である。
図3,4とも、縦軸に励起光の波長(Excitation)、横軸を蛍光波長(Emission)として、蛍光強度(Intensity)の違いを濃淡で示されている。蛍光強度は、図中の白色で示すところが最も低く、色が濃くになるにつれて増加し、黒色で示すところが最も強いことを示している。
【0067】
また、両図とも、図中Aで示す部分は、励起光より低い波長の蛍光発光は認められないこと、図中Bで示す部分は、励起光の波長が観察されたことを示し、図中Cで示す部分が、実際の励起光と蛍光強度を示すものである。
【0068】
図3,4の図中Cで示す部分を比較すると、
図3の方が全体的に濃淡が濃くなっており、この検査対象物では、励起光に可視光線を照射することで、親液化した部分の蛍光強度が増加していることが分かる。
【0069】
表1は、上述の
図3,4で示した蛍光強度の差異を示す表であり、親液部の蛍光強度から、撥液部の蛍光強度を差し引いた値を示している。言い換えれば、
図3,4で示した濃淡の差を数値で表したものである。表1を見れば、励起光に可視光線を照射することで、親液化した部分の蛍光強度が増加していることが明らかである。
【0071】
図5は、検査対象物に可視光線を照射した場合の親液部/撥液部の蛍光特性を示す図であり、横軸を蛍光発光波長(Wavelength)、縦軸を蛍光強度(Intensity)とし、紫外線を照射して親液化された部分と、紫外線を照射せず撥液性を維持した部分それぞれについてプロットしたものである。この時、励起光として波長488nmの光(青色)を検査対象物に向けて照射し、波長550nmをピーク波長とし、波長510〜750nmの蛍光成分を撮像カメラ31で検出した。
【0072】
この図より、検査対象物に可視光線を照射した場合の親液部/撥液部は、波長550nmをピークとして、510〜750nmで蛍光強度が異なることが読み取れる。このため、蛍光強度の違いから当該親液部/撥液部のパターン検査を行うことができる。
【0073】
図6は、本発明の検査方法を用いて検査対象物を観察した画像である。
上記検査対象物には、パット部と、2本の平行な配線パターンを形成した。このパット部は、大きさが2mm四方で、2本の平行な配線パターンはそれぞれ、L/S(ライン/スペース)が5μm/100μm(図中左側)と、20μ/50μm(図中右側)で形成されており、この部分が親液性に改質したパターンとなっている。
【0074】
なお、
図6(a)は、本発明の検査方法を用いて検査対象物を観察した画像を示し、
図6(b)は、参考用として一般的な白色照明を用いた検査方法により検査対象物を観察した画像を示している。ここで言う一般的な白色照明を用いた検査方法とは、例えば、白色LEDを光源とし、白色光を検査対象物に向けて照射し、検査対象物表面で反射、拡散した光をカメラで観察し、観察画像に基づいて検査をする方法である(以下同じ)。
【0075】
ここに示す本発明の検査方法では、励起光として波長488nmの光(青色)を検査対象物に向けて照射し、波長550nmをピーク波長とし、波長510〜750nmの蛍光成分を撮像カメラ31で検出した。本発明に係る改質パターン検査方法及び装置では、この観察画像に基づいて、親液性パターンが形成されているかどうかの検査を行うことができる。また、この画像をさらに2値化処理するなどして、コントラストを上げた画像に基づいて改質パターンの検査を行うこともできる。
【0076】
また、検査対象物である上記材料(フッ素樹脂コーティング剤をPETフィルム上にコーティングしたもの)について、その表面に紫外線を照射した部分と紫外線を照射していない部分について、FT−IR分析を行い、それらの分析結果の差分から紫外線照射による表面官能基の増減を調べた。
【0077】
図7は、PETフィルム上のフッ素樹脂コーティング剤に紫外線照射した場合の表面官能基の増減を示すグラフであり、横軸に波数(Wavenumbers)、縦軸に吸光度(Absorbance)を示している。縦軸の目盛りが0であれば増減がなく、目盛りがプラスの値であれば紫外線照射により当該組成が増加し、逆にマイナスであれば減少していることが読み取れる。
図7に示す結果より、上記検査対象物は、ヒドロキシル基(−OH)、カルボニル基(>C=O)、エーテル結合(−O−)等の親水性官能基が増加していることが分かる。また、炭素の二重結合(C=C)も増加していることから、共役二重結合分子も増加していると考えられる。
【0078】
上記の事項から、親液性に改質された部分は、親水性官能基や親水性結合が生じ、共役二重結合分子が増加したことで、撥液性を維持している部分と比べて蛍光強度が増えたと言える。
【0079】
[実施例2]
別の検査対象物として、透明なガラス基板上に、フォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製AZ Exp.RFP−250SA(5cp))をコーティングし、硬化させた後、所定のパターンで紫外線を照射したものを用いた。このフォトレジストは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n−ブチル、ノボラック樹脂誘導体、ナフトキノンジアジド誘導体を含有するものである。また、親液化のために照射した紫外線の波長は254nmとし、照射エネルギーは5J/cm2に設定した。
【0080】
図8は、本発明の検査方法を用いて別の検査対象物を観察した画像である。
当該別の検査対象物には、パット部と、2本の平行な配線パターンを形成した。このパット部は、大きさが2mm四方で、2本の平行な配線パターンはそれぞれ、L/S(ライン/スペース)が5μm/100μm(図中左側)と、20μ/50μm(図中右側)で形成されており、この部分が親液性に改質したパターンとなっている。
【0081】
なお、
図8(a)は、本発明の検査方法を用いて当該別の検査対象物を観察した画像を示し、
図8(b)は、参考用として一般的な白色照明を用いた検査方法により当該別の検査対象物を観察した画像を示している。この時、励起光として波長488nmの光(青色)を当該別の検査対象物に向けて照射し、波長550nmをピーク波長とし、波長510〜750nmの蛍光成分を撮像カメラ31で検出した。本発明に係る改質パターン検査方法及び装置では、この観察画像に基づいて、親液性パターンが形成されているかどうかの検査を行うことができる。
【0082】
また、検査対象物である上記材料(フォトレジストを透明なガラス基板上にコーティングしたもの)について、その表面に紫外線を照射した部分と紫外線を照射していない部分について、FT−IR分析を行い、それらの分析結果の差分から紫外線照射による表面官能基の増減を調べた。
【0083】
図9は、ガラス基板上のフォトレジストに紫外線照射した場合の表面官能基の増減を示すグラフであり、横軸に波数(Wavenumbers)、縦軸に吸光度(Absorbance)を示している。縦軸の目盛りが0であれば増減がなく、目盛りがプラスの値であれば紫外線照射により当該組成が増加し、逆にマイナスであれば減少していることが読み取れる。
図9に示す結果より、上記検査対象物は、ヒドロキシル基(−OH)、カルボニル基(>C=O)、エーテル結合(−O−)等の親水性官能基や親水性結合が増加している。また、炭素の二重結合(C=C)も増加していることから、共役二重結合分子も増加していると考えられる。一方で、ベンゼン環が減少していることが分かる。
【0084】
上記の事項から、親液性に改質された部分は、親水性官能基や親水性結合が生じた。また、親液部は、撥液性を維持している部分と比べて共役二重結合分子が増加しているが、一方でベンゼン環が減少したことの影響が大きく、撥液性を維持している部分と比べて蛍光強度が大きく減少したと言える。
【0085】
上述では、2つの材料について実施例1,2に例示した。しかし、その他の材料であっても、親水性官能基として、カルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(>C=O)、ヒドロキシル基(−OH)、アミノ基(−NH
2)、チオール基(−SH)、アルデヒド基(−CHO)、アミド基(CONH
2)のいずれかを生じる材料、又は、親水性結合として、エステル結合(−COO−)、エーテル結合(−O−)、ペプチド結合(−CONH−)、ジスルフィド結合(−S−S−)、ホスホジエステル結合(−O−P(=)OH−O−)のいずれかを生じる材料であれば、本発明を適用させて撥液性樹脂の改質パターンを検査することができる。