(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周に内歯部(51a)を有するアウターロータ(51)と、外周に外歯部(52a)を有すると共に駆動軸(54)を軸として回転運動するインナーロータ(52)とを備え、前記内歯部と外歯部との噛み合いの間に複数の空隙部(53)が形成された回転部と、
前記回転部の一方の軸方向端面側に配置された第1のサイドプレート(71)と、前記回転部の他方の軸方向端面側に配置され、前記アウターロータおよびインナーロータの軸方向端面との接触面がメカニカルシールを行う第2のサイドプレート(72)を有していると共に、前記アウターロータの外周を囲むように配置される中央プレート(73)を有し、前記回転部を覆うように形成されたケーシング(50)と、
前記ケーシングに設けられ、前記回転部に流体を吸引する吸入口(60)と前記回転部から流体を吐出する吐出口(61)と、
前記第1のサイドプレートと前記回転部との間において前記吸入口と接続された低圧側の部位と前記吐出口と接続された高圧側の部位とに分割する第1シール部材(100)と、
前記アウターロータの外周と前記中央プレートとの間に構成される間隙部(S)を、前記吸入口と接続された低圧側の部位と前記吐出口と接続された高圧側の部位とに分割する第2シール部材(80、81)と、
前記第2のサイドプレートのうち前記メカニカルシールを行う面に形成され、前記間隙部のうち前記高圧側の部位に接続される連通部分(72da、72ea)と、前記連通部分に接続されると共に前記アウターロータの外周から前記内歯部の間において伸びる線状部分(72db、72eb)とを有して構成される線状溝部(72d、72e)と、
を備え、
前記アウターロータの中心軸(X)と前記インナーロータの中心軸(Y)を結ぶ線を中心線(Z)として、前記中心線よりも前記吸入口側に前記線状溝部の全部が備えられていることを特徴とする回転式ポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
まず、ブレーキ装置の基本構成を、
図1に基づいて説明する。ここでは右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の油圧回路を構成する車両に本発明におけるブレーキ装置を適用した例について説明するが、前後配管などにも適用可能である。
【0015】
図1に示すように、ブレーキペダル1は倍力装置2と接続されており、この倍力装置2によりブレーキ踏力等が倍力される。倍力装置2は、倍力された踏力をマスタシリンダ(以下、M/Cという)3に伝達するプッシュロッド等を有しており、このプッシュロッドがM/C3に配設されたマスタピストンを押圧することによりM/C圧を発生させる。そして、M/C圧は、ABS制御等を行うブレーキ液圧制御用アクチュエータを介して右前輪FR用のホイールシリンダ(以下、W/Cという)4および左後輪RL用のW/C5へ伝達される。M/C3には、マスタリザーバ3aが接続されており、M/C3内にブレーキ液を供給したり、M/C3内の余剰ブレーキ液を貯留できるようになっている。
【0016】
なお、これらのうちブレーキペダル1、倍力装置2およびM/C3はブレーキ液圧発生手段に相当する。また、W/C4、5が制動力発生手段に相当する。
【0017】
以下の説明では、第1の配管系統である右前輪FRおよび左後輪RL側について説明するが、第2の配管系統である左前輪FLおよび右後輪RR側についても全く同様である。
【0018】
ブレーキ装置は、M/C3に接続する管路(主管路)Aを備えており、この管路Aには逆止弁22aと共に、ブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)にて制御される差圧制御弁22が備えられている。この差圧制御弁22によって管路Aは2部位に分けられている。具体的には、管路Aは、M/C3から差圧制御弁22までの間においてM/C圧を受ける管路A1と、差圧制御弁22から各W/C4、5までの間の管路A2に分けられる。
【0019】
差圧制御弁22は、通常は連通状態であるが、M/C圧が所定圧よりも低い際にW/C4、5に急ブレーキをかける時、或いはトラクションコントロール時に、M/C側とW/C側との間に所定の差圧を発生させる状態(差圧状態)となる。この差圧制御弁22は、差圧の設定値を線形的(リニア)に調整することができる。
【0020】
また、管路A2において、管路Aは2つに分岐しており、開口する一方にはW/C4へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁30が備えられ、他方にはW/C5へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁31が備えられている。
【0021】
これら増圧制御弁30、31は、ブレーキECUにより連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。この2位置弁が連通状態に制御されているときには、M/C圧あるいは後述するポンプ10の吐出によるブレーキ液圧を各W/C4、5に加えることができる。これら増圧制御弁30、31は、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキ時に常時連通状態に制御されるノーマルオープン弁とされている。
【0022】
なお、増圧制御弁30、31には、それぞれ安全弁30a、31aが並列に設けられており、ブレーキ踏み込みを止めてABS制御が終了したときにおいてW/C4、5側からブレーキ液を排除するようになっている。
【0023】
増圧制御弁30、31と各W/C4、5との間における管路Aと調圧リザーバ40とを結ぶ管路(吸入管路)Bには、ブレーキECUにより連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁32、33がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁32、33は、ノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)のときに常時遮断状態とされるノーマルクローズ弁とされている。
【0024】
管路Aの差圧制御弁22および増圧制御弁30、31の間と調圧リザーバ40とを結ぶ管路(補助管路)Cには回転式ポンプ10が配設されている。この回転式ポンプ10の吐出口側には、安全弁10Aが備えられており、ブレーキ液が逆流しないようになっている。この回転式ポンプ10にはモータ11が接続されており、このモータ11によって回転式ポンプ10が駆動される。
【0025】
また、調圧リザーバ40とM/C3とを接続するように管路(補助管路)Dが設けられており、この管路Dに2位置弁23が配置されている。2位置弁23は、通常時に遮断状態とされているノーマルクローズ弁で構成されており、ブレーキアシスト時やトラクションコントロール時等に駆動される。このときには、2位置弁23が連通状態にされて管路Dが連通状態にされると共に、差圧制御弁22にてM/C圧とW/C圧との差圧が保持された状態で回転式ポンプ10が動作させられる。これにより、管路Dを介して管路A1のブレーキ液が汲み取られ、管路A2へ吐出されて、W/C4、5におけるW/C圧がM/C圧よりも高められ、車輪制動力を高めることが可能となる。
【0026】
調圧リザーバ40は、リザーバ内のブレーキ液圧とM/C圧との差圧の調圧を行いつつ、回転式ポンプ10へのブレーキ液の供給を行う。調圧リザーバ40に備えられたリザーバ孔40a、40bは、それぞれがリザーバ室40cに連通させられている。リザーバ孔40aは、管路Dに接続されてM/C3側からのブレーキ液を受け入れる。リザーバ孔40bは、管路Bおよび管路Cに接続され、W/C4、5から排出されるブレーキ液を受け入れると共に回転式ポンプ10の吸入側にブレーキ液を供給する。
【0027】
リザーバ孔40aより内側には、ボール弁などで構成された弁体41が配設されている。この弁体41は、弁座42に離着することで管路Dとリザーバ室40cとの間の連通遮断を制御したり、弁座42との間の距離が調整されることでリザーバ室40cの内圧とM/C圧との差圧の調圧を行う。弁体41の下方には、弁体41を上下に移動させるための所定ストロークを有するロッド43が弁体41と別体で設けられている。また、リザーバ室40c内には、ロッド43と連動するピストン44と、このピストン44を弁体41側に押圧してリザーバ室40c内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング45が備えられている。
【0028】
このように構成された調圧リザーバ40は、所定量のブレーキ液が貯留されると、弁体41が弁座42に着座して調圧リザーバ40内にブレーキ液が流入しないようになっている。このため、回転式ポンプ10の吸入能力より多くのブレーキ液がリザーバ室40c内に流動することがなく、回転式ポンプ10の吸入側に高圧が印加されることもない。
【0029】
次に、
図2(a)〜(c)を参照して、本実施形態にかかる回転式ポンプ10の詳細構造について説明する。なお、
図2(a)〜(c)は、
図1における回転式ポンプ10の具体的構成を示す図であり、(a)は、(b)のB−B断面図、(b)は、(a)のA−O−A断面図、(c)は、(b)のC−C断面図に相当している。
【0030】
回転式ポンプ10は、内接歯車ポンプであるトロコイドポンプによって構成されており、
図2(a)〜(c)に示すように、ケーシング50内に構成されるロータ室50a内に配置されている。ロータ室50a内には、アウターロータ51およびインナーロータ52がそれぞれの中心軸(図中の点Xと点Y)が偏心した状態で組付けられて収納されている。アウターロータ51は内周に内歯部51aを備えており、インナーロータ52は外周に外歯部52aを備えている。そして、これらアウターロータ51とインナーロータ52とが互いの歯部51a、52aによって複数の空隙部53を形成して噛み合わさっている。なお、
図2(a)からも判るように、本実施形態の回転式ポンプ10は、アウターロータ51の内歯部51aとインナーロータ52の外歯部52aとで空隙部53を形成する、仕切り板(クレセント)なしの多数歯トロコイドタイプのポンプである。また、インナーロータ52の回転トルクを伝えるために、インナーロータ52とアウターロータ51とは複数の接触点を有した構造とされている。
【0031】
図2(b)に示されるように、本実施形態では、ケーシング50を第1、第2のサイドプレート71、72および中央プレート73によって構成しており、これらによって囲まれた空間により、ロータ室50aを形成している。第1、第2のサイドプレート71、72は、両ロータ51、52を両側から挟むように配置されている。中央プレート73は、第1、第2のサイドプレート71、72間に配設され、アウターロータ51およびインナーロータ52を収容する孔が設けられ、アウターロータ51の外周を囲むように配置される。アウターロータ51の外周と中央プレート73の内周との間には微小な間隙部Sが形成され、ブレーキ液が流入する構造となっている。
【0032】
また、
図2(b)に示すように、第1、第2のサイドプレート71、72の中心部には、ロータ室50a内と連通する中心孔71a、72aが形成されており、これら中心孔71a、72aにはインナーロータ52に配設された駆動軸54が嵌入されている。そして、アウターロータ51およびインナーロータ52は、中央プレート73の孔内において回転自在に配設されている。具体的には、アウターロータ51およびインナーロータ52で構成される回転部は、ケーシング50のロータ室50a内に回転自在に組み込まれている。そして、
図2(a)に示すようにアウターロータ51は点Xを軸として回転し、インナーロータ52は点Yを軸として回転する。
【0033】
さらに、アウターロータ51およびインナーロータ52それぞれの回転軸となる点Xと点Yを通る線を回転式ポンプ10の中心線Zとすると、第1のサイドプレート71のうち中心線Zを挟んだ左右に吸入口60と吐出口61が形成されている。これら吸入口60と吐出口61は、共に、ロータ室50aに連通させられており、複数の空隙部53に連通する位置に配設されている。このため、吸入口60を介して外部からのブレーキ液を空隙部53内に吸入して、吐出口61を介して空隙部53内のブレーキ液を外部へ吐出することができるようになっている。
【0034】
複数の空隙部53のうち、体積が最大となる側の閉じ込み部53aおよび体積が最小となる側の閉じ込み部53bは、吸入口60および吐出口61のいずれにも連通しないように構成されている。これら閉じ込み部53a、53bによって吸入口60における吸入圧と吐出口61における吐出圧との差圧を保持している。
【0035】
中央プレート73の内壁面であって、アウターロータ51の回転軸となる点Xを中心として中心線Zから吸入口60方向へ約45度の位置には、それぞれアウターロータ51の径方向外方に凹む凹部73aと凹部73bが形成されている。これら凹部73a、73b内には、アウターロータ51の外周におけるブレーキ液の流動を抑制するためのシール部材80、81が備えられている。そして、これらシール部材80、81により、アウターロータ51の外周においてブレーキ液圧が低圧になる部分と高圧になる部分をシールしている。
【0036】
シール部材80は、球状若しくは略円筒状をしたゴム部材80aと、直方体形状をした樹脂部材80bとから構成されている。樹脂部材80bはゴム部材80aによって押されてアウターロータ51に接し、アウターロータ51の外周のシールを行っている。このような構造とされているため、製造誤差等によってアウターロータ51の大きさに若干の誤差分が生じても、この誤差分を弾性力を有するゴム部材80aによって吸収して確実にシールすることができる。
【0037】
樹脂部材80bの幅(アウターロータ51の回転方向の幅)は、凹部73a内に樹脂部材80bを配置したときに、ある程度隙間が空く程度になっている。つまり、樹脂部材80bの幅を凹部73aの幅と同等に形成すると、ポンプ駆動時におけるブレーキ液圧の流動によって樹脂部材80bが凹部73a内に入り込んだときに出てきにくくなる。このため、多少隙間が空く程度の大きさで樹脂部材80bを形成することで樹脂部材80bのゴム部材80a側にブレーキ液が入り込むようにして、このブレーキ液の圧力によって樹脂部材80bが凹部73a内から出てき易いようにしている。なお、シール部材81も、ゴム部材81aおよび樹脂部材80bを備えた構成とされるが、シール部材80と同様の構造であるため説明は省略する。
【0038】
さらに、
図2(b)に示されるように、第1のサイドプレート71にはシール溝部71bが形成されている。このシール溝部71bは、
図2(a)の一点鎖線で示されるように、駆動軸54を囲む円環状(枠体形状)で構成されていると共に、所定領域において溝幅が広げられた構成となっており、吐出口61と連通させられている。シール溝部71bの中心は、駆動軸54の軸中心に対して吸入口60側(紙面左側)に偏心した状態となっている。これにより、シール溝部71bは、吐出口61と駆動軸54の間を通って、閉じ込み部53a、53b、シール部材80、81がアウターロータ51をシールしている部分を通過するような配置となる。
【0039】
このシール溝部71bの中には、シール部材100が配置されている。シール部材100は、ゴム等の弾性体からなる弾性部材100aと、樹脂からなる樹脂部材100bとによって構成されており、弾性部材100aによって樹脂部材100bがアウターロータ51およびインナーロータ52側に押し付けられている。
【0040】
樹脂部材100bは、シール溝部71bの形状と同様の形状を成しており、円環状になっている。また、樹脂部材100bは、一端面側に凹部100cと凸部100dが形成された段付きプレートとされている。樹脂部材100bは、凸部100dが形成された面側がシール溝部71bの開孔側に配置されることにより、凸部100dが両ロータ51、52および中央プレート73の一端面に接するようになっている。そして、樹脂部材100bよりもシール溝部71bの底側に弾性部材100aが配置されることで、弾性部材100aの弾性力とシール溝部71bに導入されたブレーキ液の吐出圧により樹脂部材100bが押圧されてシール機能を果たす。
【0041】
凸部100dは、
図2(a)において破線ハッチングで示した形状とされ、密閉部100eと密閉部100fを有している。密閉部100eと密閉部100fは、空隙部53が吸入口60と連通した状態から吐出口61に連通した状態に移行するまでの間と、空隙部53が吐出口61と連通した状態から吸入口60に連通した状態に移行するまでの間にそれぞれ備えられている。これら密閉部100e、100fは、少なくとも閉じ込み部53a、53bを全面的に覆えるような幅で構成されており、閉じ込み部53a、53bを密閉している。
【0042】
このように配置されたシール部材100により、アウターロータ51およびインナーロータ52の軸方向端面と第1のサイドプレート71の間における隙間において、高圧な部位と低圧な部位との間をシールしている。具体的には、高圧な吐出口61と、低圧な駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙部および吸入口60との間がシール部材100によってシールされている。
【0043】
一方、第2のサイドプレート72側においては、第2のサイドプレート72のうちロータ室50a側の端面がアウターロータ51およびインナーロータ52の軸方向端面に直接当接することでメカニカルシールが為されている。このメカニカルシールにより、アウターロータ51およびインナーロータ52の軸方向端面と第2のサイドプレート72の間における隙間において、高圧な部位と低圧な部位との間をシールしている。具体的には、高圧な吐出口61と、低圧な駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙部および吸入口60との間がメカニカルシールによってシールされている。
【0044】
メカニカルシールは、第1のサイドプレート71側のシール部材100がアウターロータ51およびインナーロータ52を押圧し、アウターロータ51およびインナーロータ52が第2のサイドプレート72に押し付けられることで実現されている。このとき、シール部材100は、樹脂部材100bが弾性部材100aの弾性力とシール溝部71bに導入されたブレーキ液の吐出圧により押圧されるため、アウターロータ51およびインナーロータ52が高圧で第2のサイドプレート72に押圧されることになる。このため、アウターロータ51およびインナーロータ52と第2のサイドプレート72との間の回転摩擦抵抗が大きくなって、駆動トルクが著しく増大するという問題が発生する。
【0045】
したがって、本実施形態では、
図2(b)、(c)に示すように、メカニカルシールが為される側の第2のサイドプレート72に、吸入口60と連通する吸入溝72bを設けると共に、吐出口61と連通する吐出溝72cを設けた構成としている。これら吸入溝72bと吐出溝72cとにより、吸入口60と吐出口61の流体圧が導入され、アウターロータ51およびインナーロータ52を押し返している。このようにして、アウターロータ51およびインナーロータ52が第2のサイドプレート72を押し付ける力を軽減することで、摩擦抵抗が軽減されるようにしている。これにより、駆動トルクの増加を防止することが可能となる。
【0046】
しかしながら、アウターロータ51およびインナーロータ52の軸方向端面において、高圧な部位と低圧な部位が存在する。このため、高圧な部位では吐出溝72cを形成することでアウターロータ51およびインナーロータ52がシール部材100側に押し戻されて摩擦抵抗が低減されるが、低圧な部位ではアウターロータ51およびインナーロータ52を押し戻す力が十分ではない。具体的には、アウターロータ51およびインナーロータ52の端面では、高圧な吐出溝72cから低圧な駆動軸54とインナーロータ52との間もしくは吸入口60側に向かって徐々にブレーキ液圧が低下していく。したがって、吐出溝72cからシール部材80、81に向かうまでの間、特にアウターロータ51のうち中心線Zよりもシール部材80、81側などにおいてはアウターロータ51をシール部材100側に押し戻す力が小さくなる。このため、アウターロータ51と第2のサイドプレート72との間の接触抵抗が大きくなる。
【0047】
これに対して、特許文献1においては、第2のサイドプレート72の端面のうち中心線Zとアウターロータ51との交差位置に、アウターロータ51の外縁に沿って円弧状の油溝を形成している。これにより、油溝内に高圧を導くことでアウターロータ51をシール部材100側に押し戻す力を大きくすると共に、アウタロータ51と第2のサイドプレート72の端面との摺動面積を少なくした。ところが、単に油溝を形成したのでは、油溝が形成された領域、つまりアウターロータ51の外縁に沿った広範囲において、アウターロータ51と第2のサイドプレート72との接触面積が減り、その分、接触箇所に掛かる荷重が大きくなる。このため、アウタロータ51や第2のサイドプレート72の磨耗量が多くなった。
【0048】
これを解消すべく、本実施形態では、
図2(c)に示すように第2のサイドプレート72の端面に例えばレーザ加工によって形成された線状溝部72d、72eを備えている。具体的には、第2のサイドプレート72の端面のうち閉じ込み部53a、53bより径方向外側であって中心線Zから各シール部材80、81の間、かつ、吸入溝72bの外側に線状溝部72d、72eを備えている。線状溝部72dは、閉じ込み部53a側において、間隙部Sから径方向内方に伸びる連通部分72daと、連通部分72daに接続されると共にアウターロータ51の外周から内歯部51aの間において延びる線状部分72dbとを有した構成とされている。線状溝部72eは、閉じ込み部53b側において、間隙部Sから径方向内方に伸びる連通部分72eaと、連通部分72eaに接続されると共にアウターロータ51の外周から内歯部51aの間において延びる線状部分72ebとを有した構成とされている。本実施形態の場合、連通部分72da、72eaを凹部73a、73bの内壁面から当該内壁面に沿ってアウターロータ51の径方向に延設しており、線状部分72db、72ebを連通部分72da、72eaからアウターロータ51の周方向に延設している。
【0049】
このように、第2のサイドプレート72に対して線状溝部72d、72eを備え、線状溝部72d、72eという線状の溝にすると共に、その一部のみが間隙部Sに接続される連通部分72da、72eaとなるようにしている。このため、線状溝部72d、72e内には間隙部Sからの高圧なブレーキ液が導入されることでアウターロータ51をシール部材100側に押し戻す力を発生させることができる。そして、それと同時に、線状溝部72d、72eとすることでアウターロータ51と第2のサイドプレート72との接触面積が減る量を少なくできる。したがって、特許文献1の構造と比較して、アウターロータ51と第2のサイドプレート72との接触箇所に掛かる荷重をより広い範囲で受けることができ、アウタロータ51や第2のサイドプレート72が磨耗されることを抑制することが可能となる。
【0050】
なお、線状溝部72d、72eの連通部分72da、72eaを凹部73a、73bの内壁面に沿って延設する構造としているが、このような構造は、第2のサイドプレート72を中央プレート73と一体化する場合に特に有効である。例えば、レーザ加工によって線状溝部72d、72eを形成できるが、第2のサイドプレート72を中央プレート73と一体化する場合、レーザ加工の際に、予め形成してあった凹部73a、73bの内壁面を基準にすると、線状溝部72d、72eが形成し易い。このため、上記構造とすることで、線状溝部72d、72eの連通部分72da、72eaの形成工程の簡略化を図ることができる。
【0051】
次に、このように構成されたブレーキ装置および回転式ポンプ10の作動について説明する。
【0052】
例えばブレーキアシスト時のように、ドライバによるブレーキペダル1の操作により発生させられるM/C圧よりも大きなW/C圧を発生させて制動力を大きくしたい場合、二位置弁23が適宜連通状態にされると共に、差圧制御弁22が差圧状態とされる。
【0053】
また、モータ11を制御して回転式ポンプ10を駆動し、ブレーキ液の吸入吐出動作を行わせる。具体的には、モータ11の駆動により駆動軸54の回転に応じてインナーロータ52が回転運動させられ、それに伴って内歯部51aと外歯部52aの噛合によりアウターロータ51が同方向へ回転させられる。このとき、それぞれの空隙部53の体積がアウターロータ51およびインナーロータ52が1回転する間に大小に変化するため、吸入口60からブレーキ液が吸入され、吐出口61から管路A2に向けてブレーキ液が吐き出される。この吐出されたブレーキ液によってW/C圧を増圧している。このように、回転式ポンプ10にて、両ロータ51、52を回転させることによって、吸入口60からブレーキ液を吸入し、吐出口61からブレーキ液を吐出するという基本的なポンプ動作を行わせる。
【0054】
このとき、差圧制御弁22によって差圧が発生させられる状態になっているため、回転式ポンプ10の吐出圧が差圧制御弁22の下流側、つまり各W/C4、5に対して作用し、M/C圧よりも大きなW/C圧が発生させられる。このため、ブレーキ装置により、ドライバによるブレーキペダル1の操作によって発生させられるM/C圧よりも大きなW/C圧を発生させることができる。
【0055】
このときのポンプ動作において、アウターロータ51の外周のうち吸入口60側は調圧リザーバ40を介して吸入されるブレーキ液によって吸入圧(大気圧)とされ、アウターロータ51の外周のうち吐出口61側は高圧な吐出圧とされる。
【0056】
このため、アウターロータ51の外周において低圧な部分と高圧な部分が生じる。しかしながら、上述したように、シール部材80、81によって、アウターロータ51の外周の低圧な部分と高圧な部分をシールして分離している。このため、アウターロータ51の外周を通じて吐出口61側の高圧部分から吸入口60側の低圧部分に向けてブレーキ液洩れが発生しない。また、シール部材80、81により、アウターロータ51の外周のうちの吸入口60側は低圧となって、吸入口60と連通する空隙部53と同様の圧力となる。さらに、アウターロータ51の外周のうちの吐出口61側は高圧となって、吐出口61と連通する空隙部53と同様の圧力となる。このため、アウターロータ51の内外における圧力バランスが保持され、ポンプ駆動を安定して行うようにすることができる。
【0057】
また、本実施形態に示す回転式ポンプ10では、シール部材80、81が吸入口60側に位置しているため、アウターロータ51の外周のうち閉じ込み部53a、53bを囲む位置まで高圧な吐出圧とされる。このため、アウターロータ51が紙面上下方向に押圧され、閉じ込み部53aにおいてアウターロータ51の内歯部51aとインナーロータ52の外歯部52aとの歯先隙間が縮まる方向に荷重がかけられ、内歯部51aと外歯部52aとの歯先隙間が縮むように作用する。これにより、アウターロータ51の内歯部51aとインナーロータ52の外歯部52aとの歯先隙間を通じて発生するブレーキ液洩れを抑制できる。
【0058】
一方、インナーロータ52およびアウターロータ51の軸方向端面と第1、第2のサイドプレート71、72との間の隙間でも、低圧な吸入口60や駆動軸54とインナーロータ52との間の間隙と高圧な吐出口61とにより、低圧な部分と高圧な部分が生じる。しかしながら、シール部材100やメカニカルシールによって、これら低圧な部分と高圧な部分とをシールしているため、高圧な部分から低圧な部分に向けてブレーキ液洩れが発生しない。そして、シール部材100がシール部材80、81を通過し、メカニカルシールもシール部材80、81と接するように形成されているため、この間からもブレーキ液洩れが発生することはない。
【0059】
また、第2のサイドプレート72の端面に線状溝部72d、72eを形成しているため、アウターロータ51をシール部材100側に押し戻す力を発生させることができ、アウターロータ51から第2のサイドプレート72に掛かる荷重を低減できる。これにより、アウターロータ51と第2のサイドプレート72との間の接触抵抗が小さくなり、より円滑なポンプ動作が可能になる。そして、アウターロータ51をシール部材100側に押し戻す力を線状溝部72d、72eにて発生させている。したがって、アウターロータ51と第2のサイドプレート72との接触面積の減少量を小さくし、アウタロータ51や第2のサイドプレート72の磨耗量を減少させることが可能な回転式ポンプ10にできる。
【0060】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。例えば、第1実施形態では線状溝部72d、72eの形状の一例を示したが、他の形状であっても構わない。
【0061】
例えば、
図3(a)に示すように、線状部分72dbを複数本、例えば図示したように2本にしても良い。この場合でも、連通部分72daを介して各線状部分72dbを間隙部Sに接続することで、各線状部分72dbに高圧が導入されるようにすることができる。また、連通部分72daの形成位置についても、凹部73aの内壁面から沿わせるようにする必要はないため、
図3(a)に示したように凹部73aよりも吐出口61側に形成されるようにしても良い。また、
図3(b)に示すように、線状部分72dbをアウターロータ51の周方向を長手方向とした蛇行状にすることもできる。
【0062】
また、
図3(c)に示すように連通部分72daを内歯部52a側まで延設し、そこから線状部分72dbをアウターロータ51の周方向を長手方向としつつ径方向外側に向けて蛇行させた形状としても良い。さらに
図3(d)に示すように、各線状溝部72dを周方向において複数個、例えば図示したように2個並べて配置しても良い。なお、
図3(a)〜(d)では、線状溝部72dについて図示したが、線状溝部72eについても同様の構造を適用できる。
【0063】
また、上記第1実施形態では、線状溝部72d、72eの両方を備えた場合について説明したが、一方が備えられているだけでも、アウターロータ51をシール部材100側に押し戻す力を発生させられるため、上記効果を得ることができる。また、線状部分72db、72ebについては、アウターロータ51の周方向に沿った円弧状にしても良いし、例えば径方向に対して垂直に延びる直線状にしても良く、また波形状であっても良い。
【0064】
さらに、上記第1実施形態では、線状溝部73d、72eを第2のサイドプレート72の端面のうち中心線Zから各シール部材80、81の間に配置した。これは、特にアウターロータ51のうち中心線Zよりもシール部材80、81側などでアウターロータ51をシール部材100側に押し戻す力が小さくなるためである。このため、この場所に線状溝部73d、72eを配置することが最も有効であるが、中心線Zからシール部材80、81の間だけでなく、線状溝部73d、72eが中心線Zより吐出口61側に入り込んで形成されていても良い。
【0065】
また、上記実施形態では、ケーシング50として第1のサイドプレート71を備えた構造とした。しかしながら、これも一例であり、回転式ポンプ10の各構成部品がブレーキ液圧制御用アクチュエータを構成するハウジング内に収容される場合、そのハウジングによって第1のサイドプレート71を構成しても良い。