(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973922
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】植物の育成環境改善用混合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/04 20060101AFI20160809BHJP
A01N 65/26 20090101ALI20160809BHJP
A01N 65/08 20090101ALI20160809BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20160809BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20160809BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
A01N25/04
A01N65/26
A01N65/08
A01N25/30
A01N25/08
A01P17/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-381(P2013-381)
(22)【出願日】2013年1月7日
【出願変更の表示】実願2012-6974(U2012-6974)の変更
【原出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-101345(P2014-101345A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】501232366
【氏名又は名称】株式会社カンザイネット
(73)【特許権者】
【識別番号】512180791
【氏名又は名称】横山 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】横山 隆志
【審査官】
石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−278721(JP,A)
【文献】
特開2004−217576(JP,A)
【文献】
特開2000−044403(JP,A)
【文献】
特開2007−320897(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2006−0071380(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00
A01N 65/00
A01P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムクロジ目センダン科の植物から得られる第1植物油と、ゴマノハグサ目ゴマ科の植物から得られる第2植物油と、脂肪酸ナトリウムとを主成分とする混合物であり、
前記第1、第2植物油が、前記脂肪酸ナトリウムによって、コロイド状になっており、
前記第1植物油はインドセンダンの種子から得た油であり、
前記第2植物油は、ゴマの種子から得た油である植物の育成環境改善用混合物。
【請求項2】
さらに、鉱物質の粉体が混合されている請求項1に記載の植物の育成環境改善用混合物。
【請求項3】
さらに、前記第1、第2植物油とは別の種類の植物質あるいは植物油が混合されている請求項1に記載の植物の育成環境改善用混合物。
【請求項4】
ムクロジ目センダン科の植物の種子であるインドセンダンの種子を絞って、第1植物油を得る工程と、
ゴマノハグサ目ゴマ科の植物の種子であるゴマの種子を絞って、第2植物油を得る工程と、
前記第1植物油および前記第2植物油を混合して混合油である育成環境改善用原液を調製する工程と、
前記育成環境改善用原液に脂肪酸ナトリウムを撹拌して混合して、前記脂肪酸ナトリウムの界面活性作用によって前記育成環境改善用原液をコロイド化して、所定の粘度のコロイド分散体である育成環境改善用混合物を得る工程と、
前記育成環境改善用混合物を容器あるいは袋に詰める工程と、
を含むパック詰めの植物の育成環境改善用混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の育成に適した環境を形成するために用いる育成環境改善用混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物を人的管理下で育成していると、効率性追求等から自然界で育っている場合に比べて病害が起こりやすい。これを防止するために化学薬物、化学肥料等が成育場所、土壌等に投入されてきたが、長期的には病害虫側に化学薬物に対する耐性ができ、また土壌等の適性が損なわれ、結果として、目的物である植物の弱体化等を招いている。このために、病害虫忌避効果などが備わっている天然素材を用いることが提案されている。このような天然素材として、センダン科の代表的植物であるニーム(インドセンダン)等を肥料、飼料として用いることが知られている。
【0003】
特許文献1にはペット用飼料の配合原料としてニーム抽出物を添加することが提案されている。特許文献2には鉢、プランター等で植物を育成する場合に、ニームオイルを含む薬液を用土に散布して病害虫を忌避することが提案されている。特許文献3には、殺虫剤配合物としてインドセンダン抽出物とゴマ油を用いることが提案されている。
【0004】
なお、本明細書においては、植物用の肥料、並びに、植物の育成および病害虫の忌避に用いる混合物を、育成環境改善用混合物と呼ぶものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−136909号公報
【特許文献2】特許第4614404号公報
【特許文献3】特許第4302905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ニーム油およびゴマ油などの天然由来の油を主成分とする植物の育成環境改善用混合物は低温下で固化しやすい。例えば、純粋なニーム油は17℃前後で固化してしまう。したがって、使用に当っては、お湯などに浸けて、固化した育成環境改善用混合物を温めて溶かす作業が必要になる。また、油を主成分とする育成環境改善用混合物はそのままでは粘性が高く、噴霧器等の細かなノズルから樹木等に散布することが困難である。このため、溶かした育成環境改善用混合物を水で希釈して、噴霧あるいは散布に適した粘性にする作業が必要である。
【0007】
しかしながら、このような準備作業は時間が掛かり煩雑である。また、植物油を主成分とする育成環境改善用混合物は、一旦温めた後に冷めると、再び固化した状態に戻ってしまう。このため、使用する度に、温めて溶かし、水および乳化剤で均一に水に分散させた混合状態を形成する必要があり、準備作業が煩わしい。さらに、乳濁液の状態においても、温度が下がると油の固化物が分離して液面に浮遊してしまう。さらには、水をニーム油等の油に加えると、その機能が短時間で著しく劣化してしまう。
【0008】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、煩雑な準備作業を必要とすることなく噴霧器等を用いて散布することのできる植物の育成環境改善用混合物を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の植物の育成環境改善用混合物は、ムクロジ目センダン科の植物から得られる第1植物油と、ゴマノハグサ目ゴマ科の植物から得られる第2植物油と、脂肪酸ナトリウムと
を主成分とする混合物であり
、前記第1、第2植物油が
、前記脂肪酸ナトリウムによって
、コロイド状になって
おり、前記第1植物油はインドセンダンの種子から得た油であり、前記第2植物油は、ゴマの種子から得た油であることを特徴としている。
【0010】
本発明において、噴霧器等を用いて育成環境改善用混合物を樹木等に散布する場合には、噴霧器等のノズルが詰まることの無い程度の低い粘度の状態となるように、水を加えて粘度を調整すればよい。
【0011】
すなわち、植物の育成環境改善用混合物に所定量の水を加えて撹拌混合して希釈化して、育成環境改善用混合物の希釈液を調製すればよい。事前に、多量の水を加えて育成環境改善用混合物の希釈液を調製しておくことも可能ではあるが、ユーザー側において、噴霧時に、都度、育成環境改善用混合物に水を加えて、所望の粘度状態の混合物希釈液を調製することが望ましい。この場合、ユーザーは水のみを加えればよく、乳化剤を事前に用意しておいて水と共に加える必要がないので、作業が簡単である。
【0012】
また、本発明のパック詰めの植物の育成環境改善用混合物の製造方法は、
ムクロジ目センダン科の植物の種子であるインドセンダンの種子を絞って、第1植物油を得る工程と、
ゴマノハグサ目ゴマ科の植物の種子であるゴマの種子を絞って、第2植物油を得る工程と、
前記第1植物油および前記第2植物油を混合して混合油である育成環境改善用原液を調製する工程と、
前記育成環境改善用原液に脂肪酸ナトリウムを撹拌して混合して、前記脂肪酸ナトリウムの界面活性作用によって前記育成環境改善用原液をコロイド化して、所定の粘度のコロイド分散体である育成環境改善用混合物を得る工程と、
前記育成環境改善用混合物を容器あるいは袋に詰める工程と、
を含むことを特徴としている。
【0013】
また、育成環境改善用混合物に、鉱物質の粉体を混合しておくこともできる。
【0014】
さらに、育成環境改善用混合物に、前記第1、第2植物油とは別の種類の植物質あるいは植物油を混合しておくこともできる。
【0015】
本発明の育成環境改善用混合物では、ゴマノハグサ目ゴマ科の植物の種子から得られる第2植物油を、ムクロジ目センダン科の植物の種子から得られる第1植物油に混ぜることにより、当該第1植物油に含まれているステロイド化合物のもつ脱皮阻害効果・病害虫忌避効果・摂食阻害効果などの効果が、当該第1植物油を単体で用いる場合に比べて大幅に強化される。例えば、ゴマ(Sesamum)のメチレンジオキシフェニル基は殺虫および忌避効果に対する相乗効果を示し、ムクロジ目センダン科の植物の種子から得られる第1植物油によって得られる効果の強化剤として機能する。したがって、本発明の育成環境改善用混合物を、植物自体に散布し、または、植物育成用の土壌に散布あるいは混ぜておけば、強力な病害虫忌避効果、ネズミ、モグラ等の動物忌避効果が得られる。
【0016】
また、本発明の育成環境改善用混合物を、土中に撒く、あるいは、地面に撒くことにより、地表および土中に病害虫の嫌がる環境をつくり、かつ、これらが植物の体内に取り込まれて、病害虫等に対する予防・忌避効果を生体全体として持つようになる。
【0017】
例えば、育成環境改善用混合物を土中に撒くと、土中の線虫、ダニ、菌、バクテリア、ウイルス、病害虫等の嫌がる環境が作り出されると同時に、放線菌、VA菌等の有用微生物の好む環境が作り出され、植物にとって良い環境を構築できるので、根張りも良くストレスも無くなり発育が促進される。
【0018】
また、育成環境改善用混合物中の有効物質が土中に拡散して植物根に吸収され、その枝先等まで吸い上げられる。この結果、植物の幹、枝、葉等に化学薬液等を散布する必要が少なくなり、人手による重装備の高所作業が少なくなる。このように、土中の病害虫の忌避効果だけでなく、地上における病害虫の忌避効果も得ることができ、全体として植物の育成環境を改善することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の植物の育成環境改善用混合物では、脂肪酸ナトリウムの界面活性作用により、第1、第2植物油がコロイド化されている。水を加える場合とは異なり、第1、第2植物油の効果が維持され、低温下でも固化しない。よって、使用に際してお湯等を用いて温めて溶かす必要がないので、取り扱いが容易であり、第1、第2植物油の劣化も抑制され、長期にわたって所望の育成環境改善効果が持続する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の育成環境改善用混合物の製造工程を示す概略工程図である。
【
図2】(a)は育成環境改善用原液から育成環境改善用混合物を調製する場合の説明図であり、(b)および(c)は育成環境改善用混合物の希釈液を噴霧する状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した育成環境改善用混合物の実施の形態を説明する。
【0022】
図1を参照して説明すると、ムクロジ目センダン科の植物の種子として、例えばニーム(インドセンダン)の種子を用意し(工程ST1)、この種子を絞って、第1植物油を得る(工程ST2)。また、ゴマノハグサ目ゴマ科の植物として、例えばゴマの種子を用意し(工程ST3)、この種子を絞って、第2植物油を得る(工程ST4)。これらの第1植物油および第2植物油を混合して育成環境改善用原液(混合油)を調製する(工程ST5)。
【0023】
次に、脂肪酸ナトリウムを用意する(工程ST6)。すなわち、純石鹸を用意する。育成環境改善用原液1に脂肪酸ナトリウム2を撹拌して混合する(工程ST7、
図2(a)参照)。この結果、脂肪酸ナトリウム2の界面活性作用によって混合油がコロイド化して、所定の粘度のコロイド分散体である育成環境改善用混合物が得られる(工程ST8)。
【0024】
なお、育成環境改善用原液1と脂肪酸ナトリウム2の混合割合は、例えば、1:1(重量比)とすることができる。しかしながら、混合割合は1:1に限定されるものではない。育成環境改善用混合物を目標とする粘度に調整できるように、脂肪酸ナトリウム2の混合割合を調整すればよい。
【0025】
このようにして得られた育成環境改善用混合物を容器あるいは袋に詰めて、育成環境改善用混合物パックあるいはパック詰め育成環境改善用混合物が製造される(工程ST9)。
【0026】
使用に際しては、育成環境改善用混合物を水で希釈して用いる。例えば、1gの育成環境改善用混合物を、1リットルの水に入れて撹拌すれば、1000倍に希釈された育成環境改善用混合物の希釈液を調製できる。勿論、これらの配合割合を変更してもよい。希釈液は、
図2(b)、(c)に示すように、噴霧器のノズル3、手持ち式のスプレーノズル4から噴霧するのに適している。
【0027】
従来では、低温下で固化した育成環境改善用混合物を加温して溶かして乳化剤および水を加えて希釈して使用する必要がある。この場合には、大量の育成環境改善用混合物の希釈液を調製して、250L程度の噴霧車で噴霧する場合には、希釈液搭載の段階から、低温により油分が乳濁液から分離固化して水面に浮遊し、噴霧時にはノズル詰まりが発生してしまう。本発明によれば、希釈液から油分が分離固化して浮遊してしまうことがないので、このような弊害を解消できる。また、一見すると、油分が分離固化して浮遊している様であっても、噴霧に支障を来すことがない。
【0028】
ここで、必要に応じて、育成環境改善用混合物には、他の天然由来の添加剤を混合することもできる。例えば、鉱物質粉体を育成環境改善用原液に混合して、育成環境改善用混合物を調製してもよい。また、育成環境改善用原液に、一種類以上の植物質を混合してもよい。
【0029】
なお、育成環境改善用混合物は次のような成分を含めることができる。
亜鉛、アザディラクティン、アミノ酸、カロテン、カリウム、カルシウム、ケルセチン、ゲデュニン、珪素、コリン、サランニン、塩分、食物繊維、セレン、窒素、鉄分、糖分、ニンビン、ニンビディン、ニンビオール、ニンビネートナトリウム、灰分、ビタミン類、マグネシウム、マンガン、リン等
【符号の説明】
【0030】
1 育成環境改善用原液(混合油)
2 脂肪酸ナトリウム
3 噴霧器ノズル
4 スプレーノズル