(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記配置工程における前記係止部材は、自身の中心軸を含む断面において、前記縮径部側に配置される先端側面、及び、前記係止部側に配置される後端側面のうちの少なくとも一方に凹部を備えることを特徴とする請求項3に記載の点火プラグの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単に係止部と縮径部との間に係止部材を介在させた構成では、係止部や縮径部に対する係止部材の接触圧力や密着性が不十分となり、良好な気密性を確保することができないおそれがある。
【0005】
特に近年では、内燃機関等の設計自由度の向上等を図るべく、点火プラグの小型化(小径化)が要請されており、このような小径化された点火プラグにおいては、係止部及び縮径部と係止部材との接触面積を十分に確保することが難しい。そのため、気密性の低下がより懸念される。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、非常に良好な気密性を実現することができる点火プラグ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0008】
構成1.本構成の点火プラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設される中心電極と、
径方向内側に突出する突部を有するとともに、前記絶縁体の外周に設けられる筒状の主体金具とを備え、
前記突部は、先端側に向けて自身の内径が小さくなる縮径部を有し、
前記絶縁体は、先端側に向けて外径が小さくなる係止部を有し、
環状の係止部材を介して前記縮径部に前記係止部が係止される点火プラグであって、
前記軸線を含む断面において、
前記軸線に直交する直線と前記係止部の外形線とのなす角のうち鋭角の角度をθp(°)とし、前記軸線に直交する直線と前記縮径部の外形線とのなす角のうち鋭角の角度をθs(°)としたとき、θs≦θpを満たすとともに、
前記係止部材は、前記係止部の後端から前記縮径部までを結ぶ前記軸線方向に延びる第1線分を含む位置に配置され、
前記第1線分の中点における前記係止部材のビッカース硬度をHvo(Hv)とし、前記縮径部のうち前記係止部材に接触する部位の先端から前記係止部までを結ぶ前記軸線方向に延びる第2線分の中点における前記係止部材のビッカース硬度をHvi(Hv)とし、前記両中点を結ぶ第3線分の中点における前記係止部材のビッカース硬度をHvm(Hv)としたとき、
Hvi>Hvm>Hvo
(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5
を満たすことを特徴とする。
【0009】
上記構成1によれば、θs≦θpを満たすように構成されている。そのため、主体金具及び絶縁体を固定した状態において、係止部材のうちその中央から内周側にかけての部位に対してより大きな荷重を加えることができる。その上で、上記構成1によれば、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5を満たすように構成されている。従って、係止部材の中央から内周側にかけての広範囲に亘って設けられた高硬度部位を、係止部及び縮径部によって大きな荷重で挟み込むことができる。これにより、係止部材の中央から内周側にかけての広範囲を係止部及び縮径部に対して非常に大きな圧力で接触させることができる。その結果、気密性の向上を図ることができる。
【0010】
また、θs≦θpとされることで、係止部材の外周側部位に加わる荷重は比較的小さくなるが、上記構成1によれば、Hvi>Hvm>Hvoを満たすように構成されており、係止部材の外周側部位の硬度が比較的小さなものとなるように構成されている。従って、荷重が小さい状態であっても、係止部材の外周側部位を係止部等に対してより確実に密着させることができる。その結果、気密性の一層の向上を図ることができる。
【0011】
以上のように、上記構成1によれば、θs≦θp、Hvi>Hvm>Hvo、及び、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5を満たすことによる作用効果が相乗的に作用することで、非常に良好な気密性を実現することができる。
【0012】
構成2.本構成の点火プラグは、上記構成1において、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.4を満たすことを特徴とする。
【0013】
上記構成2によれば、係止部材の中央から内周側にかけての部位を係止部及び縮径部に対してより一層大きな圧力で接触させることができる。その結果、気密性の更なる向上を図ることができる。
【0014】
構成3.本構成の点火プラグの製造方法は、上記構成1又は2に記載の点火プラグの製造方法であって、
前記縮径部及び前記係止部間に前記係止部材が配置された状態で、前記主体金具の内周に前記絶縁体を配置する配置工程と、
前記主体金具の後端部に対して前記軸線方向先端側に向けた荷重を加え、前記主体金具の後端部を径方向内側に屈曲変形させることで、前記縮径部及び前記係止部により前記係止部材を挟み込んだ状態で、前記主体金具と前記絶縁体とを固定する加締め工程とを含み、
前記配置工程における前記係止部材は、自身の中心軸を含む断面において、幅方向中心における厚さ方向中心でのビッカース硬度Hwm(Hv)が、最外周部よりも自身の幅の1/8だけ内周側における厚さ方向中心でのビッカース硬度Hwo(Hv)、及び、最内周部よりも自身の幅の1/8だけ外周側における厚さ方向中心でのビッカース硬度Hwi(Hv)よりも大きいことを特徴とする。
【0015】
上記構成3によれば、配置工程(加締め工程の前)における係止部材は、中央部分の硬度Hwmが、外周側部分の硬度Hwo及び内周側部分の硬度Hwiよりも大きくなるように構成されている。このように構成された係止部材を、加締め工程において、θs≦θpを満たすように構成された係止部及び縮径部により挟み込むことで、元々高硬度である係止部材の中央部分においてその硬度を維持しつつ、係止部材の内周側部分においてその硬度を著しく高めることができる。すなわち、上記構成3によれば、製造された点火プラグにおいて、Hvi>Hvm>Hvo、及び、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5をより確実に満たすことができ、非常に良好な気密性を有する点火プラグを容易に得ることができる。
【0016】
構成4.本構成の点火プラグの製造方法は、上記構成3において、前記配置工程における前記係止部材は、自身の中心軸を含む断面において、前記縮径部側に配置される先端側面、及び、前記係止部側に配置される後端側面のうちの少なくとも一方に凹部を備えることを特徴とする。
【0017】
上記構成4によれば、加締め工程において、係止部材が、凹部の形成位置を中心として撓み変形することとなる。そのため、製造された点火プラグにおいては、撓み変形による反力が係止部材から係止部及び縮径部に対して加わることとなる。従って、点火プラグに振動が加わり、係止部や縮径部に対する係止部材の密着性が低下しやすい条件下であっても、係止部材を係止部や縮径部に対してより確実に密着させることができる。その結果、良好な着火性を長期間に亘って維持することができる。
【0018】
構成5.本構成の点火プラグの製造方法は、上記構成4において、前記凹部は、少なくとも前記先端側面に設けられることを特徴とする。
【0019】
上記構成5によれば、加締め工程において、係止部材の先端側面のうち凹部よりも外周側に位置する部位を、縮径部に対して非常に大きな圧力で接触させることができる。これにより、製造された点火プラグにおいて、先端側面のうち凹部よりも外周側に位置する部位が縮径部に対して深く入り込んだ状態とすることができる。その結果、気密性をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、点火プラグ1を示す一部破断正面図である。尚、
図1では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0022】
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0023】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部には、先端側に向けて外径が小さくなるテーパ状の係止部14が形成されており、当該係止部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0024】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)等〕からなる内層5Aと、Niを主成分とする合金からなる外層5Bとを備えている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端部分が絶縁碍子2の先端から突出している。尚、本実施形態では、耐久性の向上を図るべく、中心電極5の先端部に、耐消耗性に優れる金属(例えば、イリジウム合金や白金合金等)からなる円柱状のチップ31が設けられている。
【0025】
加えて、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0026】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0027】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼(例えば、S25C等)などの金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の燃焼装置に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15よりも後端側には座部16が外周側に向けて突出形成されており、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられている。また、主体金具3の後端部には、径方向内側に向けて屈曲する加締め部20が設けられている。尚、本実施形態では、点火プラグ1の小径化を図るべく、主体金具3が小径化されており、ねじ部15のねじ径が比較的小さなもの(例えば、M12以下)とされている。
【0028】
さらに、主体金具3の内周には、軸線CL1を中心とする環状をなし、径方向内側に突出する突部21が設けられている。当該突部21は、先端側に向けて内径が小さくなるテーパ状の縮径部21A(突部21の後端側面である)を有している。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の係止部14が所定の金属(例えば、銅や鉄、SUS等)からなる円環状の係止部材22を介して前記縮径部21Aに係止された状態で、主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、係止部14及び縮径部21A間に設けられた前記係止部材22によって、燃焼室内の気密性が保持され、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0029】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間には滑石(タルク)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、係止部材22、リング部材23,24及び滑石25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0030】
また、主体金具3の先端部26には、自身の中間部分にて曲げ返されて、自身の先端側側面が中心電極5の先端部(チップ31)と対向する接地電極27が接合されている。加えて、中心電極5の先端部(チップ31)と接地電極27の先端部との間には、間隙28が形成されており、当該間隙28において、軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0031】
次いで、本発明の特徴部分である係止部14、縮径部21A、及び、両者間に位置する係止部材22の構成について説明する。
【0032】
本実施形態では、
図2(
図2では、図示の便宜上、絶縁碍子2及び主体金具3のハッチングを省略している)に示すように、軸線CL1を含む断面において、係止部14の角度をθp(°)とし、縮径部21Aの角度をθs(°)としたとき、θs≦θpを満たすように構成されている。
【0033】
尚、角度θpは、前記断面において、軸線CL1に直交する直線XL1と係止部14の外形線とのなす角のうち鋭角の角度をいう。また、角度θsは、前記断面において、軸線CL1に直交する直線XL2と縮径部21Aの外形線とのなす角のうち鋭角の角度をいう。
【0034】
さらに、係止部14の外形線が湾曲や屈曲している場合において、角度θpは、次のようにして求められる。すなわち、
図3に示すように、軸線CL1を挟んだ一方側において、投影機を用いて、中胴部12の半径(係止部14のその後端における半径)から、脚長部13のその後端における半径(係止部14のその先端における半径)を減算した半径差D1を得る。尚、中胴部12がテーパ状をなしている場合には、中胴部12の先端部における外形線の延長線と、係止部14の外形線の延長線との交点における半径(軸線から前記交点までの距離)から、脚長部13のその後端における半径を減じた値を前記半径差D1として得る。次いで、軸線CL1に沿って延びるとともに、前記半径差D1を軸線CL1と直交する方向に沿って八等分する7本の仮想線VL1〜VL7を引く。そして、投影機を用いて、7本の仮想線VL1〜VL7のうち、最も外周側に位置する仮想線VL1及び最も内周側に位置する仮想線VL7を除いた5本の仮想線VL2〜VL6と、前記係止部14の外形線との交点P1〜P5における座標を求める。次に、得られた5つの座標に対する近似直線AL1と軸線CL1に直交する直線XL1とのなす角のうち鋭角の角度αを求める。また、軸線CL1を挟んだ他方側において、上記同様の手法により、得られた5つの座標に対する近似直線と軸線CL1に直交する直線XL1とのなす角αを求めるとともに、求められた2つの角αの平均値を算出する。本実施形態では、2つの角αの平均値が角度θpとされる。
【0035】
また、縮径部21Aの外形線が湾曲や屈曲している場合において、角度θsは、次のようにして求められる。すなわち、
図4に示すように、軸線CL1を挟んだ一方側において、投影機を用いて、主体金具3のうち縮径部21Aの後端から後端側に延びる部位3Aの半径から、突部21のうち縮径部21Aの先端から先端側に延びる部位21Bの半径(より詳しくは、前記部位21Bのうち最も内周側に位置する部分の半径)を減算した半径差D2を得る。次いで、軸線CL1に沿って延びるとともに、前記半径差D2を軸線CL1と直交する方向に沿って八等分する7本の仮想線VL11〜VL17を引く。そして、投影機を用いて、7本の仮想線VL11〜VL17のうち、最も外周側に位置する仮想線VL11及び最も内周側に位置する仮想線VL17を除いた5本の仮想線VL12〜VL16と、前記縮径部21Aの外形線との交点P11〜P15における座標を求める。次に、得られた5つの座標P11〜P15に対する近似直線AL2と軸線CL1に直交する直線XL2とのなす角のうち鋭角の角度βを求める。また、軸線CL1を挟んだ他方側において、上記同様の手法により、得られた5つの座標に対する近似直線と軸線CL1に直交する直線XL2とのなす角βを求めるとともに、求められた2つの角βの平均値を算出する。本実施形態では、2つの角βの平均値が角度θsとされる。
【0036】
図2に戻り、前記断面において、係止部材22は、係止部14の後端14Bから縮径部21Aまでを結ぶ軸線CL1方向に延びる第1線分SL1を含む位置に配置されている。換言すれば、係止部材22は、係止部14の後端14Bと、縮径部21Aのうち軸線CL1に沿って前記後端14Bに対向する部位との間の全域に亘って配置されている。
【0037】
また、前記断面において、係止部材22は、縮径部21Aのうち係止部材22に接触する部位の先端21AFから係止部14までを結ぶ軸線CL1方向に延びる第2線分SL2を含む位置に配置されている。換言すれば、係止部材22は、前記先端21AFと、係止部14のうち軸線CL1に沿って前記先端21AFと対向する部位との間の全域に亘って配置されている。
【0038】
さらに、本実施形態では、前記断面において、第1線分SL1の中点CP1における係止部材22のビッカース硬度をHvo(Hv)とし、第2線分SL2の中点CP2における係止部材22のビッカース硬度をHvi(Hv)とし、前記両中点CP1,CP2を結ぶ第3線分SL3の中点CP3における係止部材22のビッカース硬度をHvm(Hv)としたとき、Hvi>Hvm>Hvoを満たすように構成されている。つまり、係止部材22は、外周側から内周側に向かって硬度が大きくなるように構成されている。
【0039】
また、本実施形態では、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5〔より好ましくは、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.4〕を満たすように構成されている。すなわち、
図5に示すように、(Hvi−Hvm)が、(Hvi−Hvo)の0.5倍以下となるようにHvmが十分に大きなものとされており、係止部材22は、その中央から内周側にかけての部位の硬度が比較的大きなものとなるように構成されている。
【0040】
尚、本実施形態において、例えば、Hvoは、111Hv以上210Hv以下とされており、Hviは、115Hv以上275Hv以下とされており、Hvmは、113Hv以上244Hv以下とされている。また、本実施形態では、0.1≦(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)を満たすように構成されている。尚、係止部材22の硬度は、例えば、JIS Z2244の規定に基づく手法により測定することができる。具体的には、正四角推状のダイヤモンド圧子により、係止部材22に対して所定(例えば、1.961N)の荷重を加えた際に、係止部材22に形成される圧痕の対角線長さに基づき、係止部材22の硬度を測定することができる。
【0041】
次に、上記のように構成されてなる点火プラグ1の製造方法について説明する。
【0042】
まず、絶縁碍子2を成形加工しておく。例えば、アルミナを主体としバインダ等を含む原料粉末を用いて、成形用素地造粒物を調製し、これを用いてラバープレス成形を行うことで、筒状の成形体を得る。そして、得られた成形体に対して研削加工を施すことによりその外形を整形した上で、整形された成形体に焼成加工を施すことにより絶縁碍子2が得られる。
【0043】
さらに、絶縁碍子2とは別に中心電極5を製造しておく。すなわち、中央部に放熱性向上を図るための銅合金等を配置したNi合金を鍛造加工して中心電極5を作製する。また、レーザー溶接等により、中心電極5の先端部にチップ31を接合する。
【0044】
そして、上記のようにして得られた絶縁碍子2及び中心電極5と、抵抗体7と、端子電極6とが、ガラスシール層8,9によって封着固定される。ガラスシール層8,9としては、一般的にホウ珪酸ガラスと金属粉末とが混合されて調製されており、当該調製されたものが抵抗体7を挟むようにして絶縁碍子2の軸孔4内に充填された後、後方から端子電極6で押圧しつつ、焼成炉内にて加熱することにより焼き固められる。尚、このとき、絶縁碍子2の後端側胴部10の表面には釉薬層が同時に焼成されることとしてもよいし、事前に釉薬層が形成されることとしてもよい。
【0045】
次に、主体金具3を加工しておく。すなわち、円柱状の金属素材(例えばS17CやS25Cといった鉄系素材やステンレス素材)に冷間鍛造加工等を施すことで貫通孔を形成するとともに、概形を形成する。その後、切削加工を施すことで外形を整え、主体金具中間体を得る。
【0046】
続いて、主体金具中間体の先端面に、Ni合金等からなる直棒状の接地電極27を抵抗溶接する。当該溶接に際してはいわゆる「ダレ」が生じるので、その「ダレ」を除去した後、主体金具中間体の所定部位にねじ部15が転造によって形成される。これにより、接地電極27の接合された主体金具3が得られる。尚、耐食性の向上を図るべく、接地電極27の溶接された主体金具3に対してメッキ処理を施すこととしてもよい。
【0047】
その後、上記のようにそれぞれ作製された中心電極5及び端子電極6を備える絶縁碍子2と、接地電極27を備える主体金具3とが固定される。
【0048】
詳述すると、
図6に示すように、まず、配置工程において、所定の金属(例えば、焼き入れ鋼等の硬鋼)からなる筒状の受け型51に主体金具3の先端側を挿入することで、受け型51により主体金具3を保持する。次いで、主体金具3に係止部材22を挿入し、縮径部21A上に係止部材22を配置する。その上で、主体金具3に絶縁碍子2を挿入することにより、縮径部21A及び係止部14間に係止部材22が配置された状態で、主体金具3の内周に絶縁碍子2を配置する。
【0049】
尚、配置工程における係止部材22は、
図7及び
図8に示すように、縮径部21A側に配置される先端側面22F、及び、係止部14側に配置される後端側面22Bの少なくとも一方に凹部を備えており、本実施形態では、先端側面22Fの中央部分に環状の凹部22Dを備えている。また、係止部材22は、前記後端側面22Bと、前記先端側面22Fのうち凹部22Dよりも内周側及び外周側に位置する面とが、自身の中心軸CL2と直交する方向に延びるように構成されている。
【0050】
また、前記凹部22Dは、係止部材22を押圧加工することで形成されている。そのため、配置工程における係止部材22は、その中央部分における硬度が、外周側部分や内周側部分における硬度よりも大きなものとなっている。詳述すると、配置工程における係止部材22は、
図9に示すように、自身の中心軸CL2を含む断面において、幅方向中心における厚さ方向中心X1でのビッカース硬度Hwm(Hv)が、最外周部よりも自身の幅Wの1/8だけ内周側における厚さ方向中心X2でのビッカース硬度Hwo(Hv)、及び、最内周部よりも自身の幅Wの1/8だけ外周側における厚さ方向中心X3でのビッカース硬度Hwi(Hv)よりも大きくなるように構成されている。
【0051】
係止部材22の配置後、加締め工程において、加締め部20を形成する。より詳しくは、まず、
図10に示すように、筒状の押し型53を主体金具3の上方から装着する。この筒状の押し型53は、開口部先端の内周面に前記加締め部20の形状に対応する湾曲面部53Aを有する。押し型53の装着後、前記受け型51及び押し型53によって主体金具3を挟み込んだ状態で、押し型53により主体金具3を受け型51側へと所定の荷重(例えば、30kN以上50kN以下)にて押圧する。これにより、
図11に示すように、主体金具3の後端側開口部が径方向内側へと屈曲させられ(すなわち、前記加締め部20が形成され)、絶縁碍子2と主体金具3とが固定される。
【0052】
尚、押し型53から荷重を加えることで、係止部材22は、凹部22Dの形成位置を中心として撓み変形し、加締め工程後には、撓み変形による反力が係止部材22から係止部14及び縮径部21Aに対して加わっている。また、係止部材22の先端側面22Fに凹部22Dが設けられているため、押し型53から荷重が加わっているときには、先端側面22Fのうち凹部22Dよりも外周側部位が縮径部21Aに対して大きな圧力で接触する。そのため、図示は省略するが、加締め工程後には、先端側面22Fのうち凹部22Dよりも外周側の部位が縮径部21Aに深く入り込んだ状態となる。
【0053】
さらに、θs≦θpとされているため、加締め工程においては、係止部材22のうち特に内周側部位に対してより大きな荷重が加わるため、加締め工程後においては、係止部材22の内周側部位の硬度が著しく増大する。そして、係止部材22の中央部分は高硬度とされているため、加締め工程後における係止部材22は、Hvi>Hvm>Hvo、及び、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5を満たすものとなる。
【0054】
加えて、加締め工程時に係止部材22は縮径部21A及び係止部14に倣って変形する。そのため、加締め工程後における係止部材22に凹部22Dは残っておらず、係止部材22の先端側面22Fと後端側面22Bとは、縮径部21Aや係止部14に対して面接触している。
【0055】
また、押し型53から荷重を加えることで、座部16及び工具係合部19の間に位置する比較的薄肉の円筒状部位が径方向外側に向けて湾曲変形する。これにより、主体金具3から絶縁碍子2に対して軸線CL1に沿った軸力が加わることとなり、その結果、絶縁碍子2と主体金具3とがより確実に固定される。
【0056】
主体金具3と絶縁碍子2とを固定した後、接地電極27を中心電極5側に屈曲させるとともに、中心電極5の先端部及び接地電極27の先端部の間に形成された間隙28の大きさを調節することで、上述した点火プラグ1が得られる。
【0057】
以上詳述したように、本実施形態によれば、θs≦θpを満たすように構成されている。そのため、主体金具3及び絶縁碍子2を固定した状態において、係止部材22のうちその中央から内周側にかけての部位に対してより大きな荷重を加えることができる。その上で、本実施形態では、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5を満たすように構成されている。従って、係止部材22の中央から内周側にかけての広範囲に亘って設けられた高硬度部位を、係止部14及び縮径部21Aによって大きな荷重で挟み込むことができる。これにより、係止部材22の中央から内周側にかけての広範囲を係止部14及び縮径部21Aに対して非常に大きな圧力で接触させることができる。その結果、気密性の向上を図ることができる。
【0058】
また、θs≦θpとされることで、係止部材22の外周側部位に加わる荷重は比較的小さくなるが、本実施形態では、Hvi>Hvm>Hvoを満たすように構成されており、係止部材22の外周側部位の硬度が比較的小さなものとなるように構成されている。従って、荷重が小さい状態であっても、係止部材22の外周側部位を係止部14等に対してより確実に密着させることができる。その結果、気密性の一層の向上を図ることができる。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、θs≦θp、Hvi>Hvm>Hvo、及び、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5を満たすことによる作用効果が相乗的に作用することで、非常に良好な気密性を実現することができる。
【0060】
特に本実施形態では、ねじ部15のねじ径が小さく(例えば、M12以下と)されているため、気密性が不十分となりやすいが、上述の構成により、ねじ部15のねじ径が小さい場合であっても、非常に良好な気密性を得ることができる。換言すれば、上述の構成は、ねじ部15のねじ径が小さく(例えば、M12以下と)され、気密性が不十分となりやすい点火プラグにおいて、特に有効である。
【0061】
また、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.4を満たすように構成した場合には、係止部材22の中央から内周側にかけての部位を係止部14及び縮径部21Aに対してより一層大きな圧力で接触させることができる。その結果、気密性の更なる向上を図ることができる。
【0062】
加えて、配置工程(加締め工程の前)における係止部材22は、中央部分の硬度Hwmが、外周側部分の硬度Hwo及び内周側部分の硬度Hwiよりも大きくなるように構成されている。そして、加締め工程において、θs≦θpを満たすように構成された係止部14及び縮径部21Aにより係止部材22を挟み込むことで、元々高硬度である係止部材22の中央部分においてその硬度を維持しつつ、係止部材22の内周側部分においてその硬度を著しく高めることができる。その結果、製造された点火プラグ1において、Hvi>Hvm>Hvo、及び、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5をより確実に満たすことができ、非常に良好な気密性を有する点火プラグ1を容易に得ることができる。
【0063】
さらに、配置工程における係止部材22には、凹部22Dが形成されているため、製造された点火プラグ1においては、撓み変形による反力が係止部材22から係止部14及び縮径部21Aに対して加わることとなる。従って、点火プラグ1に振動が加わり、係止部14や縮径部21Aに対する係止部材22の密着性が低下しやすい条件下であっても、係止部材22を係止部14や縮径部21Aに対してより確実に密着させることができる。その結果、良好な着火性を長期間に亘って維持することができる。
【0064】
また、本実施形態において、凹部22Dは、係止部材22の先端側面22Fに設けられている。従って、加締め工程において、先端側面22Fのうち凹部22Dよりも外周側に位置する部位を、縮径部21Aに対して非常に大きな圧力で接触させることができ、先端側面22Fのうち凹部22Dよりも外周側に位置する部位を縮径部21Aに対して深く入り込ませることができる。その結果、気密性をより一層向上させることができる。
【0065】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、θs≦θp、及び、Hvi>Hvm>Hvoを満たす一方で、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)を種々変更した点火プラグのサンプルを5本ずつ作製し、各サンプルについて、気密性評価試験を行った。気密性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルを所定のアルミブッシュに取付けた上で、サンプルの先端に対して空気により1.5MPaの圧力を加え続けた。そして、前記アルミブッシュのうちガスケットが接触する部位(座面)の温度(座面温度)を徐々に増大させていき、絶縁碍子と主体金具との間からの1分当たりの空気の漏洩量が10cc/分以上となったときの座面温度(漏洩温度)を測定した。次いで、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)を同一とした5本のサンプルにおける漏洩温度の最小値(最小漏洩温度)を特定した。尚、最小漏洩温度が200℃以上となったサンプルは、良好な気密性を有するということができ、最小漏洩温度が250℃以上となったサンプルは、極めて優れた気密性を有するということができる。
【0066】
図12に、気密性評価試験の結果を示す。尚、Hvi、Hvo、及び、Hvmは、加締め工程前における係止部材の硬度を変更したり、加締め工程における印加荷重を調節したりすることで変更した。
【0067】
図12に示すように、θs≦θp、及び、Hvi>Hvm>Hvoを満たすとともに、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5を満たすサンプルは、最小漏洩温度が200℃以上となり、良好な気密性を有することが明らかとなった。これは、次の(1)〜(3)が相乗的に作用したことによると考えられる。
(1)θs≦θpとしたことにより、係止部材の中央から内周側にかけての部位が係止部及び縮径部によって大きな荷重で挟み込まれたこと。
(2)(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5としたことで、係止部材の中央から内周側にかけての部位の硬度が十分に高くなり、この比較的広範囲に形成された高硬度部位が係止部及び縮径部によって大きな荷重で挟まれたことで、係止部材の広範囲が係止部等に対して非常に大きな圧力で接触したこと。
(3)Hvi>Hvm>Hvoとし、加わる荷重が比較的小さなものとなる係止部材の外周側部位の硬度を比較的小さくしたことで、荷重が小さい状態であっても、係止部材の外周側部位が係止部等に対してより確実に密着したこと。
【0068】
また特に、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.4を満たすサンプルは、最小漏洩温度が250℃以上となり、気密性に極めて優れることが確認された。
【0069】
上記試験の結果より、良好な気密性を実現すべく、θs≦θp、Hvi>Hvm>Hvo、及び、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5を満たすことが好ましいといえる。
【0070】
また、気密性の更なる向上を図るという観点から、θs≦θp、及び、Hvi>Hvm>Hvoを満たしつつ、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.4を満たすことがより好ましいといえる。
【0071】
次に、先端側面及び後端側面のうちの少なくとも一方(本試験では、先端側面)に凹部を備える係止部材を用いて得た点火プラグのサンプル(凹部ありサンプル)と、先端側面と後端側面とが平行となるように構成した係止部材を用いて得た点火プラグのサンプル(凹部なしサンプル)とを5本ずつ作製し、両サンプルについて、耐振動性評価試験を行った。耐振動性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、上述の気密性評価試験と同様の手法により、両サンプルにおける最小漏洩温度を得た。次いで、サンプルに対して所定の条件にて振動を加えるとともに、振動を加えた後に、両サンプルにおける最小漏洩温度を再度得た。ここで、振動が加えられた後において、最小漏洩温度が200℃以上となったサンプルは、振動による気密性の低下が生じにくく、良好な気密性を長期間に亘って確保することができるといえる。
【0072】
図13に、耐振動性評価試験の結果を示す。尚、両サンプルともに、配置工程における係止部材は、Hwmが、Hwo及びHwiよりも大きくなるように構成した。また、両サンプルともに、θs≦θp、Hvi>Hvm>Hvo、及び、(Hvi−Hvm)/(Hvi−Hvo)≦0.5を満たすように構成した。
【0073】
図13に示すように、凹部ありサンプルは、振動が加えられた後においても最小漏洩温度が200℃以上となり、良好な気密性を長期間に亘って確保できることが分かった。これは、加締め工程において、係止部材が、凹部の形成位置を中心として撓み変形し、加締め工程後に、撓み変形による反力が係止部材から係止部及び縮径部に対して加わっていたためであると考えられる。
【0074】
上記試験の結果より、振動による気密性の低下を効果的に抑制し、良好な気密性を長期間に亘って確保するという観点から、配置工程における係止部材は、自身の中心軸を含む断面において、先端側面及び後端側面のうちの少なくとも一方に凹部を備えるように構成することが好ましいといえる。
【0075】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0076】
(a)上記実施形態では、ねじ部15のねじ径が比較的小さなもの(例えば、M12以下)とされているが、ねじ部15のねじ径が比較的大きな点火プラグに対して、本発明を適用してもよい。
【0077】
(b)上記実施形態では、凹部22Dを形成することにより、配置工程の係止部材22において、HwmがHwo及びHwiよりも大きくなるように構成されている。これに対して、凹部22Dを設けることなく、HwmがHwo及びHwiよりも大きくなるように構成してもよい。例えば、
図14(a)に示すように、中央部分が外周側及び内周側よりも肉厚に形成された環状の金属部材MEを得た上で、当該金属部材MEを挟み込み押圧変形させることにより、
図14(b)に示すように、先端側面32F及び後端側面32Bが平行であり、凹部が設けられていない一方で、HwmがHwo及びHwiよりも大きい係止部材32を得ることとしてもよい。
【0078】
(c)上記実施形態において、凹部22Dは、係止部材22の先端側面22Fに設けられているが、
図15に示すように、係止部材22の後端側面22Bに凹部22Eを設けることとしてもよい。また、係止部材22の先端側面22F及び後端側面22Bの双方に凹部を設けることとしてもよい。
【0079】
(d)上記実施形態において、配置工程における係止部材22は、後端側面22Bと、先端側面22Fのうち凹部22Dよりも内周側及び外周側に位置する面とが、自身の中心軸CL2側と直交する方向に延びるように構成されている。これに対して、
図16に示すように、後端側面33Bと先端側面33Fのうち凹部33Dよりも内周側及び外周側に位置する面とが、中心軸CL2に向けて先端側に傾斜するように構成し、配置工程において、係止部材33が係止部14及び縮径部21Aに面接触するように構成してもよい。この場合には、加締め工程において、係止部材33から絶縁碍子2の一部に対して応力が集中的に加わってしまうことをより確実に防止できる。その結果、加締め工程における絶縁碍子2の破損を効果的に防止することができる。
【0080】
(e)上記実施形態では、主体金具3の先端部26に接地電極27が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
【0081】
(f)上記実施形態において、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。