特許第5973965号(P5973965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973965
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】接合性評価装置及び接合性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/44 20060101AFI20160809BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20160809BHJP
   G01N 29/265 20060101ALI20160809BHJP
   G01N 25/72 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   G01N29/44
   G01N29/11
   G01N29/265
   G01N25/72 K
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-136813(P2013-136813)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-10944(P2015-10944A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北山 綱次
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 守正
(72)【発明者】
【氏名】石井 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】足立 裕
【審査官】 比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−206100(JP,A)
【文献】 特開平11−183406(JP,A)
【文献】 特開2009−264919(JP,A)
【文献】 特開2009−128183(JP,A)
【文献】 特許第3275770(JP,B2)
【文献】 特開平04−265855(JP,A)
【文献】 特開2008−164394(JP,A)
【文献】 特開2011−117878(JP,A)
【文献】 特開平03−056847(JP,A)
【文献】 特開2012−112851(JP,A)
【文献】 特開2005−016991(JP,A)
【文献】 特表2010−512509(JP,A)
【文献】 特開平01−078138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
G01B 17/00−17/08
G01J 3/00− 9/04
G01N 25/00−25/72
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
G01N 21/84−21/958
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材が接着層を介して接合された評価対象物の接着層による接合性を評価する接合性評価装置であって、
評価対象物の接合性評価領域を加熱または冷却する温度調整装置と、
温度調整装置で加熱または冷却された評価対象物の接合性評価領域における温度分布を測定する温度分布測定装置と、
超音波を評価対象物の接合性評価領域内における評価位置へ送信する超音波送信装置と、
超音波送信装置から送信され且つ評価対象物を伝搬した超音波を受信する超音波受信装置と、
前記評価位置を前記接合性評価領域内の一部の走査範囲で移動させるように超音波送信装置または評価対象物を移動させる走査装置と、
走査装置により前記評価位置を前記走査範囲で移動させた場合の超音波受信装置で受信された超音波に基づいて、前記走査範囲における超音波強度分布を取得する超音波強度分布取得部と、
超音波強度分布取得部で取得された超音波強度分布に基づいて、前記走査範囲における接合正常範囲の端位置を特定する接合端位置特定部と、
温度分布測定装置で測定された温度分布と前記端位置に対応する温度に基づいて、前記接合性評価領域における接合正常領域を特定する接合正常領域特定部と、
を備える、接合性評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の接合性評価装置であって、
接合正常領域特定部は、前記端位置に対応する温度に基づいて温度閾値を決定し、温度分布測定装置で測定された温度分布を当該温度閾値と比較することで、前記接合正常領域を特定する、接合性評価装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接合性評価装置であって、
走査装置は、前記評価位置を前記接合性評価領域内の所定の走査ラインに沿って移動させるように超音波送信装置または評価対象物を移動させる、接合性評価装置。
【請求項4】
第1部材と第2部材が接着層を介して接合された評価対象物の接着層による接合性を評価する接合性評価方法であって、
加熱または冷却された評価対象物の接合性評価領域における温度分布を測定する温度分布測定ステップと、
評価対象物の接合性評価領域内における評価位置を当該接合性評価領域内の一部の走査範囲で移動させながら、超音波を当該評価位置へ送信し、評価対象物を伝搬した超音波を受信する超音波送受信ステップと、
前記評価位置を前記走査範囲で移動させた場合に受信された超音波に基づいて、前記走査範囲における超音波強度分布を取得する超音波強度分布取得ステップと、
当該取得された超音波強度分布に基づいて、前記走査範囲における接合正常範囲の端位置を特定する接合端位置特定ステップと、
温度分布測定ステップで測定された温度分布と前記端位置に対応する温度に基づいて、前記接合性評価領域における接合正常領域を特定する接合正常領域特ステップと、
を含む、接合性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材と第2部材が接着層を介して接合された評価対象物の接着層による接合性を評価する接合性評価装置及び接合性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造体の軽量化や剛性向上、密閉性確保、意匠性向上等の目的に応じて、接着や接合、コーティング等が行われた多層構造体が多く適用されてきている。これれの多層構造体の機能確保には、接着等の状態を評価することが不可欠となっているが、外部からの確認が困難であるために、非破壊で評価する技術が提案されている。
【0003】
下記特許文献1では、端部だけが重なり両側が各々1枚の構造になるように接着された多層構造体に対して、片側の構造体表面から超音波を入射し、もう一方の構造体表面に伝搬した超音波の振幅強度から、接着層の有無・途切れや剥離を非破壊で検出している。また、下記特許文献2では、端部が揃った状態で上下に接着された多層構造体に対して、超音波を送受信する超音波センサを構造体の上下に配置し、多層構造体を透過した超音波の振幅強度から、接着層の有無・途切れや剥離を非破壊で検出している。
【0004】
特許文献1,2は、いずれも超音波が金属や樹脂等の物体を減衰しながらも伝搬し、音響インピーダンスが極めて大きく異なる、剥離等による空気層との界面で大きく反射される性質を利用したものである。一方で、このような空気層が構造体と熱伝導率が異なることを利用して、加熱後の温度変化を赤外線サーモグラフィで撮像して欠陥を検出する技術も提案されている(例えば下記特許文献3参照)。さらには、セラミックコーティングの剥離損傷に関して赤外線サーモグラフィで撮像した画像から欠陥部を推定し、欠陥部を超音波法で精密に検査する、ハイブリッド方式も提案されている(下記特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−117878号公報
【特許文献2】特開2012−112851号公報
【特許文献3】特許第3275770号公報
【特許文献4】特開2000−206100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献3のように、空気層が断熱場であることを利用する赤外線サーモグラフィでは、加熱(あるいは冷却)後に表面の温度分布画像に差異が生じる。評価対象物の接着層による接合性を評価する場合は、温度分布画像において、接着層が存在しない、接着層に途切れや剥離がある等、空気層が存在する領域(接合不良領域とする)と、接着層に途切れ及び剥離が無く空気層が存在しない領域(接合正常領域とする)とに温度差が生じる。しかし、接合正常領域と接合不良領域の境界部分では急激な温度変化が現れにくいため、接合正常領域を精度よく特定することは困難である。その結果、接着層の長さ・幅・面積等の接着状態を精度よく特定することが困難であり、小さい途切れや剥離を精度よく特定することも困難である。
【0007】
また、例えば特許文献1,2のように、超音波を利用して評価対象物の接着層による接合性を評価する場合は、接合不良領域での超音波強度が接合正常領域での超音波強度と比較して極めて低下するため、接合正常領域の特定が可能である。しかし、接合正常領域の特定精度を向上させるためには、超音波による走査を細かい分解能で行う必要がある。その結果、超音波による走査に要する時間が長くなり、接合性の評価に要する時間が長くなる。
【0008】
本発明は、評価対象物の接着層による接合性の評価に要する時間を短縮しつつ接合性の評価精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る接合性評価装置及び接合性評価方法は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0010】
本発明に係る接合性評価装置は、第1部材と第2部材が接着層を介して接合された評価対象物の接着層による接合性を評価する接合性評価装置であって、評価対象物の接合性評価領域を加熱または冷却する温度調整装置と、温度調整装置で加熱または冷却された評価対象物の接合性評価領域における温度分布を測定する温度分布測定装置と、超音波を評価対象物の接合性評価領域内における評価位置へ送信する超音波送信装置と、超音波送信装置から送信され且つ評価対象物を伝搬した超音波を受信する超音波受信装置と、前記評価位置を前記接合性評価領域内の一部の走査範囲で移動させるように超音波送信装置または評価対象物を移動させる走査装置と、走査装置により前記評価位置を前記走査範囲で移動させた場合の超音波受信装置で受信された超音波に基づいて、前記走査範囲における超音波強度分布を取得する超音波強度分布取得部と、超音波強度分布取得部で取得された超音波強度分布に基づいて、前記走査範囲における接合正常範囲の端位置を特定する接合端位置特定部と、温度分布測定装置で測定された温度分布と前記端位置に対応する温度に基づいて、前記接合性評価領域における接合正常領域を特定する接合正常領域特定部と、を備えることを要旨とする。
【0011】
本発明の一態様では、接合正常領域特定部は、前記端位置に対応する温度に基づいて温度閾値を決定し、温度分布測定装置で測定された温度分布を当該温度閾値と比較することで、前記接合正常領域を特定することが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、走査装置は、前記評価位置を前記接合性評価領域内の所定の走査ラインに沿って移動させるように超音波送信装置または評価対象物を移動させることが好適である。
【0013】
また、本発明に係る接合性評価方法は、第1部材と第2部材が接着層を介して接合された評価対象物の接着層による接合性を評価する接合性評価方法であって、加熱または冷却された評価対象物の接合性評価領域における温度分布を測定する温度分布測定ステップと、評価対象物の接合性評価領域内における評価位置を当該接合性評価領域内の一部の走査範囲で移動させながら、超音波を当該評価位置へ送信し、評価対象物を伝搬した超音波を受信する超音波送受信ステップと、前記評価位置を前記走査範囲で移動させた場合に受信された超音波に基づいて、前記走査範囲における超音波強度分布を取得する超音波強度分布取得ステップと、当該取得された超音波強度分布に基づいて、前記走査範囲における接合正常範囲の端位置を特定する接合端位置特定ステップと、温度分布測定ステップで測定された温度分布と前記端位置に対応する温度に基づいて、前記接合性評価領域における接合正常領域を特定する接合正常領域特ステップと、を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接合性評価領域内の一部の走査範囲における超音波強度分布に基づいて、走査範囲における接合正常範囲の端位置を精度よく特定することができ、接合性評価領域における温度分布と端位置に対応する温度に基づいて、接合性評価領域における接合正常領域を精度よく特定することができる。その際に、超音波による走査は、接合性評価領域の全領域を行う必要が無く、接合性評価領域内の一部の走査範囲だけで済むため、超音波による走査に要する時間を短縮することができる。その結果、評価対象物の接着層による接合性の評価に要する時間を短縮しつつ、接合性の評価精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る接合性評価装置の概略構成を示す図である。
図2】超音波送信センサ及び超音波受信センサの概略構成を示す図である。
図3】計測処理システムの機能ブロック図を示す図である。
図4】評価対象物の接合性評価領域の一例を示す図である。
図5】評価対象物の接着層による接合性を評価する場合の動作を説明する図である。
図6】評価対象物の接着層による接合性を評価する場合の動作を説明する図である。
図7】走査ラインにおける超音波強度分布の一例を示す図である。
図8】加熱前後における接合性評価領域の2次元温度分布差分画像の一例を示す図である。
図9】接合性評価領域の2値化画像の一例を示す図である。
図10】雑音除去処理後における接合性評価領域の2値化画像の一例を示す図である。
図11】接着層の幅W1,W2を求める方法の一例を示す図である。
図12】接着層の幅W1を求める方法の他の例を示す図である。
図13】本発明の実施形態に係る接合性評価装置の他の概略構成を示す図である。
図14】評価対象物の接着層による接合性を評価する場合の他の動作を説明する図である。
図15】評価対象物の接着層による接合性を評価する場合の他の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0017】
図1〜3は本発明の実施形態に係る接合性評価装置の概略構成を示す図であり、図1は装置全体の概略構成を示し、図2は超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20の概略構成を示し、図3は計測処理システム51の機能ブロック図を示す。本実施形態に係る接合性評価装置は、ヒートガン60と、赤外線カメラ62と、超音波送信センサ10と、超音波受信センサ20と、走査装置40と、超音波送受信制御部41と、計測処理システム51と、加熱制御部61と、を備える。
【0018】
評価対象物30は、板状部材である鋼板32,34と、鋼板32,34同士を接合するための接着層36とを含んで構成され、鋼板32の裏面32bと鋼板34の表面34aが接着層36を介して接合された多層構造体である。鋼板32,34間における接着層36が設けられていない領域は空隙となっている。以下の説明では、本実施形態に係る接合性評価装置を用いた評価対象物30の検査の適用例として、鋼板32,34の接着層36による接合性を評価する場合について説明する。
【0019】
ここで、図1,4に示すように、鋼板32,34の板面方向と平行で且つ接着層36の長手方向をx軸、鋼板32,34の板面方向と平行で且つx軸(接着層36の長手方向)と垂直方向をy軸とするxy2次元座標系を評価対象物30に規定する。評価対象物30の接合性評価領域37は、例えば図4に示すように、接着層36が設けられた領域と、接着層36が設けられていない周囲の領域とを含むように設定される。図4に示す例では、接合性評価領域37のx軸方向長さがLであり、接合性評価領域37内において、接着層36が途中で途切れて2つに分かれている。
【0020】
温度調整装置として設けられたヒートガン60は、評価対象物30の接合性評価領域37を加熱することが可能である。ヒートガン60は、評価対象物30を加熱する手段であり、フラッシュランプやレーザ、高周波加熱装置等、熱を評価対象物30に非接触で投与できるものであればよい。図1に示す例では、ヒートガン60は、鋼板34の裏面34bと対向配置され、鋼板34の裏面34bを加熱することが可能である。ヒートガン60による評価対象物30(鋼板34の裏面34b)の加熱状態は、加熱制御部61により制御される。
【0021】
温度分布測定装置として設けられた赤外線カメラ(赤外線サーモグラフィ)62は、評価対象物30の接合性評価領域37を撮像することで、評価対象物30の接合性評価領域37の温度分布を非接触で測定することが可能である。図1に示す例では、赤外線カメラ62は、評価対象物30を介してヒートガン60と対向可能なよう鋼板32の表面32aと対向配置され、鋼板32の表面32aを撮像することで、鋼板32の表面32aの2次元温度分布を測定することが可能である。赤外線カメラ62で測定された評価対象物30(鋼板32の表面32a)の2次元温度分布を示す信号は、計測処理システム51へ供給される。
【0022】
超音波送信センサ10は、超音波を送信する超音波送信面12と、送信側超音波遮蔽キャップ14とを含んで構成される。超音波送信面12は、例えば圧電素子等により構成することが可能である。超音波送信センサ10には、超音波送受信制御部41からの超音波信号が供給される。超音波送信面12が鋼板32を介して接着層36と対向するよう評価対象物30(鋼板32)の表面32aと対向配置された状態では、超音波送信面12から送信された超音波は、図2の矢印61に示すように、空中を伝搬して鋼板32の表面32aに入射する。鋼板32の表面32aに入射した超音波は、図2の矢印62に示すように、鋼板32を伝搬して接着層36に到達し、さらに、接着層36及び鋼板34を伝搬して評価対象物30(鋼板34)の裏面側に透過する。図2に示す例では、超音波送信センサ10はフォーカス型センサであり、超音波送信面12は、評価対象物30中(接着層36)に焦点38が位置する凹曲面形状であり、超音波送信面12から送信された超音波は、焦点38(接着層36)へ集束する。
【0023】
超音波受信センサ20は、超音波を受信する超音波受信面22と、受信側超音波遮蔽キャップ24とを含んで構成される。超音波受信面22も、例えば圧電素子等により構成することが可能である。超音波受信面22が評価対象物30(鋼板32と接着層36と鋼板34)を介して超音波送信面12と対向するよう評価対象物30(鋼板34)の裏面34bと対向配置された状態では、評価対象物30(鋼板34)の裏面側に到達した超音波は、図2の矢印63に示すように、空中を伝搬して超音波受信面22に到達する。超音波受信センサ20は、超音波送信面12から送信され且つ評価対象物30(鋼板32と接着層36と鋼板34)を伝搬して透過した超音波を超音波受信面22で受信する。図2に示す例では、超音波受信センサ20もフォーカス型センサであり、超音波受信面22も、評価対象物30中(接着層36)に焦点38が位置する凹曲面形状であり、焦点38に集束した超音波は、超音波受信面22全体に拡散して到達する。超音波受信面22で受信された超音波信号は、超音波送受信制御部41へ供給され、さらに、計測処理システム51へ供給される。
【0024】
送信側超音波遮蔽キャップ14及び受信側超音波遮蔽キャップ24は、超音波送信面12から送信された超音波が評価対象物30を迂回して超音波受信面22に回折波として到達するのを抑制するために設けられている。送信側超音波遮蔽キャップ14は、超音波送信面12の周囲を全周に渡って取り囲み、超音波送信面12の周囲より評価対象物30(鋼板32)の表面32aへ全周に渡って突出して設けられている。送信側超音波遮蔽キャップ14の先端と評価対象物30(鋼板32)の表面32aとの間には、僅かな(例えば3〜4mm程度の)空隙が形成される。受信側超音波遮蔽キャップ24も、超音波受信面22の周囲を全周に渡って取り囲み、超音波受信面22の周囲より評価対象物30(鋼板34)の裏面34bへ全周に渡って突出して設けられている。受信側超音波遮蔽キャップ24の先端と評価対象物30(鋼板34)の裏面34bとの間にも、僅かな(例えば3〜4mm程度の)空隙が形成される。送信側超音波遮蔽キャップ14及び受信側超音波遮蔽キャップ24の音響インピーダンスは、評価対象物30(鋼板32,34)の音響インピーダンスより低いことが好ましい。例えば、送信側超音波遮蔽キャップ14及び受信側超音波遮蔽キャップ24の素材を、金属材料に比べて音響インピーダンスの低い樹脂製(例えばポリアセタール等)やゴム製とすることが可能である。
【0025】
走査装置40は、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20(超音波送信面12及び超音波受信面22)を、鋼板32,34の板面方向と平行に移動走査させる。これによって、評価対象物30に対して超音波送信面12及び超音波受信面22の焦点38を鋼板32,34の板面方向と平行に移動走査させることができ、評価対象物30に対する超音波透過位置(接合性評価位置)を鋼板32,34の板面方向と平行に移動走査させることができる。
【0026】
本実施形態では、走査装置40は、評価対象物30に対する超音波透過位置(接合性評価位置)を接合性評価領域37内の一部の走査範囲で移動させるように、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20を移動走査させる。例えば図1,4に示すように、超音波透過位置(接合性評価位置)を接合性評価領域37内の所定の走査ライン39に沿って移動させるように、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20を移動走査させる。走査範囲(走査ライン39)は、接着層36が設けられた範囲と、接着層36が設けられていない周囲の範囲とを含むように設定される。図1,4に示す例では、走査ライン39がx軸(接着層36の長手方向)と平行な直線であり、接合性評価領域37のy軸方向に関する中央に位置する。ただし、走査ライン39は、接合性評価領域37のy軸方向に関する中央に必ずしも位置していなくてもよく、また、必ずしもx軸と平行な直線でなくてもよい。
【0027】
さらに、走査装置40は、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20とともに、ヒートガン60及び赤外線カメラ62も鋼板32,34の板面方向と平行に移動させる。図1に示す例では、x軸方向(接着層36の長手方向)に関して、超音波送信センサ10と赤外線カメラ62がL/2の間隔をおいて配置され、超音波受信センサ20とヒートガン60がL/2の間隔をおいて配置されている。そして、超音波送信センサ10、超音波受信センサ20、ヒートガン60、及び赤外線カメラ62が一体となって、x軸方向(走査方向)に移動可能である。超音波送信センサ10、超音波受信センサ20、ヒートガン60、及び赤外線カメラ62の各位置情報(x軸方向位置等)は、計測処理システム51へ供給される。
【0028】
次に、評価対象物30の接着層36による接合性を評価する場合の動作について説明する。
【0029】
接着層36の大まかな位置情報が予め既知、あるいは前工程から計測処理システム51へ供給されているため、その情報を用いて接合性評価領域37及び走査ライン39を決定し、超音波送信面12及び超音波受信面22の焦点38のy軸方向位置が走査ライン39上(接合性評価領域37の中央)に位置するように、超音波送信センサ10、超音波受信センサ20、ヒートガン60、及び赤外線カメラ62を走査装置40により移動させる。その際には、図1に示すように、超音波送信面12及び超音波受信面22の焦点38のx軸方向位置が接合性評価領域37の一端(走査ライン39の一端)に位置するように、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20のx軸方向位置を走査装置40により制御する。
【0030】
図1の状態を接合性評価開始位置として、超音波送信面12及び超音波受信面22の焦点38が走査ライン39上に沿って所定距離L移動するように、走査装置40により超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20をヒートガン60及び赤外線カメラ62とともにx軸方向に1次元的に所定距離L移動走査しながら、超音波送信装置10から超音波を送信し、評価対象物30中を透過した超音波を超音波受信装置20で受信する(第1回目の走査)。超音波受信装置20で受信された超音波信号は、超音波送信面12及び超音波受信面22の焦点38の位置(超音波透過位置)と対応付けて計測処理システム51へ供給される。計測処理システム51において、超音波強度分布取得部52は、第1回目の走査で受信された、各超音波透過位置(接合性評価位置)に対応する超音波信号の振幅を検出することで、所定距離Lの走査ライン39における超音波強度分布を取得する。
【0031】
第1回目の走査終了後には、図5に示すように、ヒートガン60及び赤外線カメラ62のx軸方向位置が所定距離Lの走査ライン39の中央に位置する。その状態で、赤外線カメラ62により評価対象物30(鋼板32の表面32a)の接合性評価領域37を撮像することで、評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布を測定する(第1回目の加熱前温度分布測定)。その際には、赤外線カメラ62の撮像範囲が、x軸方向に関して所定距離Lを含み、y軸方向に関して接合性評価領域37の全範囲を含むようにしておく。
【0032】
さらに、図5に示す状態で、ヒートガン60により評価対象物30(鋼板34の裏面34b)を加熱し、加熱された評価対象物30の接合性評価領域37を赤外線カメラ62により撮像することで、評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布を測定する(第1回目の加熱後温度分布測定)。ヒートガン60による加熱時間は、評価対象物30の種類や鋼板32,34の板厚等に応じて設定することが好ましい。また、ヒートガン60をx軸方向に移動させながら加熱を行うことも可能である。赤外線カメラ62で測定された評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布を示す信号は、計測処理システム51の温度分布画像処理部56へ供給される。
【0033】
次に、図5に示す状態から、焦点38が走査ライン39上に沿って所定距離L移動するように、x軸方向に1次元的に所定距離L移動走査しながら、超音波送信装置10から超音波を送信し、評価対象物30中を透過した超音波を超音波受信装置20で受信する(第2回目の走査)。計測処理システム51の超音波強度分布取得部52は、第2回目の走査で受信された、各超音波透過位置(接合性評価位置)に対応する超音波信号の振幅を検出することで、所定距離Lの走査ライン39における超音波強度分布を取得する。
【0034】
第2回目の走査終了後には、図6に示すように、ヒートガン60及び赤外線カメラ62のx軸方向位置が所定距離Lの走査ライン39の中央に位置する。その状態で、赤外線カメラ62により評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布を測定する(第2回目の加熱前温度分布測定)。さらに、図6に示す状態で、ヒートガン60により評価対象物30を加熱し、加熱された評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布を赤外線カメラ62により測定する(第2回目の加熱後温度分布測定)。
【0035】
第1回目(または第2回目)の走査により、超音波透過位置(接合性評価位置)を走査ライン39の範囲で移動させることで、超音波強度分布取得部52では、例えば図7に示すような、走査ライン39における超音波強度分布が得られる。接着層36が存在しない場合や、接着層36が途切れている場合や、鋼板32(あるいは鋼板34)と接着層36との界面に剥離がある場合等、鋼板32,34間に空気層が存在する場合は、接着層36に途切れ及び剥離が無く、鋼板32,34間に空気層が存在せず接着層36だけが存在する場合と比較して、評価対象物30を透過して超音波受信面22で受信される超音波信号のレベルが極めて低下する。したがって、超音波受信面22で受信された、各超音波透過位置(接合性評価位置)に対応する超音波の振幅(強度)を調べることで、接合性評価位置における接着層36による接合性を評価することが可能となる。例えば超音波強度が閾値Th以上である接合性評価位置については、接着層36に途切れ及び剥離が無く、鋼板32,34間に空気層が存在せず接着層36だけが存在する接合正常範囲と判定することができる。一方、超音波強度が閾値Thより小さい接合性評価位置については、接着層36が存在しない場合や、接着層36が途切れている場合や、鋼板32(あるいは鋼板34)と接着層36との界面に剥離がある場合等、鋼板32,34間に空気層が存在する接合不良範囲と判定することができる。
【0036】
したがって、計測処理システム51の接合端位置特定部53は、走査ライン39における超音波強度分布を基に、走査ライン39(走査範囲)における各接合性評価位置が接合正常範囲か接合不良範囲かを判定することができ、走査ライン39における接合正常範囲の端位置(接合正常範囲と接合不良範囲の境界位置)を特定することができる。例えば図7に示すように、走査ライン39のうち、超音波強度が閾値Th以上である範囲を接合正常範囲、超音波強度が閾値Thより小さい範囲を接合不良範囲、超音波強度が閾値Thである位置を接合正常範囲の端位置(接合正常範囲と接合不良範囲の境界位置)と特定することが可能である。図7の例では、走査ライン39の途中で接着層36が途切れており、2つの接合正常範囲Ad1,Ad2、接合正常範囲Ad1の左右端位置Ad1_L,Ad1_R、及び接合正常範囲Ad2の左右端位置Ad2_L,Ad2_Rが特定される。ここでの閾値Thについては、例えば接着層36が存在しない場合の超音波強度よりも若干大きい値に設定することが可能である。また、走査ライン39に対する超音波強度分布の傾きを基に、走査ライン39における接合正常範囲の端位置を特定することも可能である。例えば走査ライン39に対する超音波強度分布の傾きが設定値より大きい範囲の中央位置を接合正常範囲の端位置と特定することも可能である。図7の超音波強度分布に示すように、走査ライン39における超音波強度の大きい範囲と小さい範囲は明確であり、その境界(超音波強度が急激に変化する箇所)も明確である。したがって、走査ライン39における接合正常範囲、接合不良範囲、及びその境界位置を精度よく判定することができる。
【0037】
また、計測処理システム51の温度分布画像処理部56では、第1回目(または第2回目)の加熱前温度分布測定により、加熱前における評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布画像が得られる。さらに、第1回目(または第2回目)の加熱後温度分布測定により、加熱後における評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布画像が得られる。接着層36が存在しない場合や、接着層36が途切れている場合や、鋼板32(あるいは鋼板34)と接着層36との界面に剥離がある場合等、鋼板32,34間に空気層が存在する場合は、空気層が断熱層として機能し、熱が伝わりにくくなる。一方、接着層36に途切れ及び剥離が無く、鋼板32,34間に空気層が存在せず接着層36だけが存在する場合は、接着層36を介して熱が伝わりやすくなる。その結果、鋼板32,34間に空気層(断熱層)が存在する場合は、鋼板32,34間に空気層が存在せず接着層36だけが存在する場合と比較して、ヒートガン60による加熱後に赤外線カメラ62により測定される温度が低くなる。したがって、加熱後の接合性評価領域37の2次元温度分布において、温度の高い領域を、鋼板32,34間に空気層が存在せず接着層36だけが存在する接合正常領域、温度の低い領域を、鋼板32,34間に空気層が存在する接合不良領域と大まかに判定することが可能である。
【0038】
ただし、接着層36の厚さや、赤外線カメラ62で測定する鋼板32の表面32aの状態等によっては、加熱後の接合性評価領域37の2次元温度分布画像が不鮮明となる場合が生じる。そのため、温度分布画像処理部56は、加熱後の接合性評価領域37の2次元温度分布から加熱前の接合性評価領域37の2次元温度分布を差分した2次元温度分布差分画像を取得する。ここでの差分法自体は公知技術を適用可能である。差分することで、撮像部位毎で異なる評価対象物30(鋼板32)の表面32aでの放射状態、接着層36の厚さの影響や周りからの写り込み等の雑音による影響を削除することができる。
【0039】
加熱前後における接合性評価領域37の2次元温度分布差分画像を図8に示す。図8においては、白い(輝度値の高い)領域であるほど、加熱前後の差分温度が大きいことを示している。図8の2次元温度分布差分画像から、加熱前後の差分温度が大きい白い(輝度値の高い)領域を接合正常領域、加熱前後の差分温度が小さい黒い(輝度値の低い)領域を接合不良領域と大まかに判定することは可能である。しかし、接合正常領域から接合不良領域へ向かうにつれて加熱前後の差分温度は徐々に変化しているため、図8の2次元温度分布差分画像だけでは、接合正常領域の端位置(接合正常領域と接合不良領域の境界位置)を精度よく判定することは困難である。
【0040】
超音波送信面12及び超音波受信面22の焦点38と、赤外線カメラ62の撮像範囲との相対位置関係は予め既知である。そのため、図8に示すように、接合性評価領域37の2次元温度分布差分画像において、走査ライン39における接合正常範囲Ad1の左右端位置Ad1_L,Ad1_R、及び接合正常範囲Ad2の左右端位置Ad2_L,Ad2_Rに対応する画素位置を特定することができ、左右端位置Ad1_L,Ad1_R,Ad2_L,Ad2_Rの画素位置に対応する差分温度(輝度値)を特定することができる。そこで、計測処理システム51の接合正常領域特定部57は、赤外線カメラ62で測定された2次元温度分布差分画像と、左右端位置Ad1_L,Ad1_R,Ad2_L,Ad2_Rに対応する差分温度に基づいて、接合性評価領域37における接合正常領域を特定する。その際には、接合正常領域特定部57は、まず左右端位置Ad1_L,Ad1_R,Ad2_L,Ad2_Rに対応する差分温度に基づいて温度閾値τ0を決定する。例えば左右端位置Ad1_L,Ad1_R,Ad2_L,Ad2_Rに対応する差分温度の平均値を温度閾値τ0とすることが可能である。
【0041】
次に、接合正常領域特定部57は、赤外線カメラ62で測定された2次元温度分布差分画像の各画素に対応する差分温度を温度閾値τ0と比較する。例えば、接合性評価領域37の2次元温度分布差分画像において、差分温度が温度閾値τ0以上である画素を高輝度(high)、差分温度が温度閾値τ0より低い画素を低輝度(low)とする2値化処理を行う。これによって、例えば図9に示すような、接合性評価領域37の2値化画像が得られる。図9の2値化画像において、白い領域は、差分温度が温度閾値τ0以上である高輝度(high)の領域を表し、黒い領域は、差分温度が温度閾値τ0より低い低輝度(low)の領域を表す。さらに、接合性評価領域37の2値化画像に対して、雑音を除去する処理を行う。雑音除去処理自体は公知技術を適用可能であり、例えば収縮処理後に膨張処理を行う方法を適用可能である。雑音除去処理後における接合性評価領域37の2値化画像(雑音除去画像)を図10に示す。
【0042】
接合正常領域特定部57は、図10の接合性評価領域37の2値化画像において、差分温度が温度閾値τ0以上である高輝度の画素(図10の白い領域)を接合正常領域と判定し、差分温度が温度閾値τ0より低い低輝度の画素(図10の黒い領域)を接合不良領域と判定する。図10の例では、走査ライン39の途中で接着層36が途切れており、2つの接合正常領域Rd1,Rd2が特定される。図10に示すように、接合性評価領域37の2値化画像において、接合正常領域Rd1のx軸方向の左右端位置Rd1_L,Rd1_R、及び接合正常領域Rd2のx軸方向の左右端位置Rd2_L,Rd2_Rを抽出すれば、接着層36の長手方向(x軸方向)長さL1,L2を求めることができる。
【0043】
また、接着層36の幅(y軸方向長さ)については、以下のようにして求めることが可能である。例えば図11に示すように、接合正常領域Rd1,Rd2のx軸方向の中間位置X1,X2において、y軸方向の上下端位置を抽出すれば、接着層36の幅W1,W2を求めることができる。この方法は、簡易に代表的な接着幅を求めるものであり、平均的な接着幅を求める場合には、接合正常領域Rd1を例にすると、Rd1_LとRd1_Rの長手方向区間つまりx軸方向長さL1の間における2値化画像に対して、図12に示すように、y軸方向の各位置毎に高輝度の(差分温度が温度閾値τ0以上である)画素数を積算したプロファイルを生成する。このプロファイルの重心値、または最大値と最小値の中央値を求めて、そのレベルと直交するプロファイルの交点間距離を接着層36の幅W1とする。また、接合性評価領域37の2値化画像において、差分温度が温度閾値τ0以上である高輝度の画素数から接合正常領域Rd1,Rd2の面積、つまり接着層36の接着面積を求めることができる。
【0044】
以上説明した本実施形態によれば、接合性評価領域37内の走査ライン39における超音波強度分布を基に、走査ライン39における接合正常範囲Ad1,Ad2の端位置Ad1_L,Ad1_R,Ad2_L,Ad2_Rを特定する。図7の超音波強度分布に示すように、走査ライン39における超音波強度の大きい範囲と小さい範囲は明確であり、その境界(超音波強度が急激に変化する箇所)も明確であるため、接合正常範囲Ad1,Ad2及びその端位置Ad1_L,Ad1_R,Ad2_L,Ad2_Rを精度よく特定することができる。そして、接合性評価領域37の2次元温度分布差分画像において、端位置Ad1_L,Ad1_R,Ad2_L,Ad2_Rに対応する画素の差分温度を基に温度閾値τ0を設定することで、接合性評価領域37における接合正常領域と接合不良領域の境界位置に対応する温度閾値τ0を精度よく設定することができる。そして、接合性評価領域37の2次元温度分布差分画像において、各画素に対応する差分温度を温度閾値τ0と比較することで、接合性評価領域37における接合正常領域を精度よく特定することができる。これによって、接着層36の有無・途切れ・剥離・接着長さ・幅・面積等の接着状態を非接触・非破壊で精度よく評価することができ、小さい途切れや剥離であっても精度よく特定することができる。その結果、接触検査等による後工程への影響を除去できるだけでなく、抜き取り等の破壊検査を不要とし環境負荷低減にもつながる。また、製造工程内で評価することで、前工程、例えば接着剤塗布工程への早期異常通知も可能となり、接着品質の信頼性評価だけでなく生産工程の管理にも効果が生じる。
【0045】
また、接合性評価領域37の2次元温度分布差分画像は、赤外線カメラ62の撮像によって短時間で容易に取得することができる。そして、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20による走査は、接合性評価領域37の全領域を行う必要が無く、接合性評価領域37における一部の走査範囲だけで済む。そのため、走査(超音波強度分布の取得)に要する時間を短縮することができる。したがって、評価対象物30の接着層36による接合性の評価に要する時間を短縮することができる。さらに、超音波送信センサ10や超音波受信センサ20の干渉等により接合性評価領域37の全領域の走査が困難な場合や、接合性評価領域37が評価対象物30を迂回する超音波(回折波)の生じやすい端部を含む場合であっても、接合性評価領域37の全領域で接合性の評価が可能となる。さらに、走査ライン39に沿って1次元的に走査することで、走査がさらに容易となる。
【0046】
本実施形態では、加熱後の接合性評価領域37の2次元温度分布から加熱前の接合性評価領域37の2次元温度分布を差分する処理を省略することも可能である。つまり、接合正常領域特定部57は、赤外線カメラ62で測定された加熱後の接合性評価領域37の2次元温度分布と、左右端位置Ad1_L,Ad1_R,Ad2_L,Ad2_Rに対応する温度に基づいて、接合性評価領域37における接合正常領域を特定することも可能である。その際には、赤外線カメラ62で測定された加熱後の2次元温度分布画像の各画素に対応する温度を温度閾値τ0と比較する。例えば、加熱後の接合性評価領域37の2次元温度分布画像において、温度が温度閾値τ0以上である画素を高輝度(high)、温度が温度閾値τ0より低い画素を低輝度(low)とする2値化処理を行う。
【0047】
また、本実施形態では、雑音除去処理を省略することも可能である。つまり、接合正常領域特定部57は、図9の接合性評価領域37の2値化画像において、差分温度が温度閾値τ0以上である高輝度の画素(図9の白い領域)を接合正常領域と判定し、差分温度が温度閾値τ0より低い低輝度の画素(図9の黒い領域)を接合不良領域と判定することも可能である。
【0048】
また、本実施形態では、例えば図13に示すように、x軸方向(走査方向)に関して超音波送信センサ10を挟んで2つの赤外線カメラ62−1,62−2を設置することも可能である。図13に示す構成例では、x軸方向に関して、赤外線カメラ62−1,62−2が互いにLの間隔をおいて配置され、その中間位置に超音波送信センサ10が配置されている。ヒートガン60は、超音波受信センサ20より走査方向前方に配置されている。
【0049】
評価対象物30の接着層36による接合性を評価する場合は、赤外線カメラ62−1のx軸方向位置が所定距離Lの走査ライン39の中央に位置する図13の状態を接合性評価開始位置として、まず赤外線カメラ62−1により評価対象物30(鋼板32の表面32a)の接合性評価領域37の2次元温度分布を測定する(第1回目の加熱前温度分布測定)。次に、超音波送信面12及び超音波受信面22の焦点38が走査ライン39上に沿って所定距離L移動するように、走査装置40により超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20をヒートガン60及び赤外線カメラ62−1,62−2とともにx軸方向に1次元的に所定距離L移動走査しながら、超音波送信センサ10から超音波を送信し、評価対象物30中を透過した超音波を超音波受信センサ20で受信する(第1回目の走査)。その際には、ヒートガン60により評価対象物30(鋼板34の裏面34b)を加熱する。
【0050】
第1回目の走査終了後には、図14に示すように、赤外線カメラ62−2のx軸方向位置が所定距離Lの走査ライン39の中央に位置する。その状態で、加熱された評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布を赤外線カメラ62−2により測定する(第1回目の加熱後温度分布測定)。その際には、赤外線カメラ62−1,62−2の光学条件(撮像範囲等)を同一とし、所定距離Lの走査後に赤外線カメラ62−2が走査前の赤外線カメラ62−1と同じ領域を撮像するようにする。
【0051】
さらに、図14に示す状態で、赤外線カメラ62−1により評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布を測定する(第2回目の加熱前温度分布測定)。次に、図14に示す状態から、焦点38が走査ライン39上に沿って所定距離L移動するように、x軸方向に1次元的に所定距離L移動走査しながら、超音波送信センサ10から超音波を送信し、評価対象物30中を透過した超音波を超音波受信センサ20で受信する(第2回目の走査)。その際には、ヒートガン60により評価対象物30を加熱する。
【0052】
第2回目の走査終了後には、図15に示すように、赤外線カメラ62−2のx軸方向位置が所定距離Lの走査ライン39の中央に位置する。その状態で、加熱された評価対象物30の接合性評価領域37の2次元温度分布を赤外線カメラ62−2により測定する(第2回目の加熱後温度分布測定)。
【0053】
図13に示す構成例によれば、走査終了時には、走査ライン39における超音波強度分布と、加熱前後における接合性評価領域37の2次元温度分布差分画像を瞬時に得ることができる。したがって、評価対象物30の接着層36による接合性の評価に要する時間をさらに短縮することができる。
【0054】
本実施形態では、超音波送信センサ10と超音波受信センサ20の配置を入れ替え、超音波送信面12が鋼板34と対向し、超音波受信面22が鋼板32と対向するように、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20を配置することも可能である。また、赤外線カメラ62(62−1,62−2)とヒートガン60の配置を入れ替え、赤外線カメラ62(62−1,62−2)が鋼板34と対向し、ヒートガン60が鋼板32と対向するように、赤外線カメラ62(62−1,62−2)及びヒートガン60を配置することも可能である。
【0055】
また、本実施形態では、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20を先に走査し、赤外線カメラ62(62−1,62−2)及びヒートガン60を別の走査装置で走査することも可能である。搭載する装置の組み合わせや走査順は、製造工程や評価対象物30に応じて設定することが好ましい。また、本実施形態では、超音波送信センサ10、超音波受信センサ20、赤外線カメラ62(62−1,62−2)、及びヒートガン60を固定し、評価対象物30に対する超音波透過位置(接合性評価位置)を接合性評価領域37内の一部の走査範囲で(走査ライン39に沿って)移動させるように、走査装置40により評価対象物30の方を移動させることも可能である。
【0056】
また、本実施形態では、ヒートガン60に代えて、評価対象物30の接合性評価領域37を冷却する冷却装置を温度調整装置として設けることも可能である。その場合は、冷却装置による冷却後の接合性評価領域37の2次元温度分布において、鋼板32,34間に空気層が存在せず接着層36だけが存在する領域(接合正常領域)の温度が低くなり、鋼板32,34間に空気層が存在する領域(接合不良領域)の温度の方が高くなる。したがって、接合正常領域特定部57は、冷却前後における接合性評価領域37の2次元温度分布差分画像を2値化処理した2値化画像において、差分温度が温度閾値τ0以下である低輝度の画素を接合正常領域と判定し、差分温度が温度閾値τ0より高い高輝度の画素を接合不良領域と判定する。また、冷却後における接合性評価領域37の2次元温度分布画像を2値化処理した2値化画像において、冷却後温度が温度閾値τ0以下である低輝度の画素を接合正常領域と判定し、冷却後温度が温度閾値τ0より高い高輝度の画素を接合不良領域と判定することも可能である。
【0057】
以上の説明では、説明の便宜上、鋼板32,34の直線部が接着された場合について説明したが、湾曲部を有する評価対象物30では、その部分も接着される場合がある。この湾曲部では、超音波の受信強度信号では所定間隔毎の時系列データである一方、赤外線カメラ62(62−1,62−2)では湾曲状の表面温度分布が観察される。そのため、走査軌跡に応じて直線状の表面温度分布となるように座標変換した画像を生成して解析する。
【0058】
以上の説明では、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20がフォーカス型センサであり、超音波送信面12及び超音波受信面22が評価対象物30中(接着層36)に焦点38を有する凹曲面形状である場合について説明した。ただし、本実施形態では、超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20がフォーカス型センサでなくてもよく、超音波送信面12及び超音波受信面22が平面であってもよい。
【0059】
以上の説明では、送信側超音波遮蔽キャップ14及び受信側超音波遮蔽キャップ24を超音波送信センサ10及び超音波受信センサ20にそれぞれ設けた場合について説明した。ただし、本実施形態では、送信側超音波遮蔽キャップ14及び受信側超音波遮蔽キャップ24の少なくとも一方を省略することも可能である。
【0060】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
10 超音波送信センサ、12 超音波送信面、14 送信側超音波遮蔽キャップ、20 超音波受信センサ、22 超音波受信面、24 受信側超音波遮蔽キャップ、30 評価対象物、32,34 鋼板、36 接着層、37 接合性評価領域、38 焦点、39 走査ライン、40 走査装置、41 超音波送受信制御部、51 計測処理システム、52 超音波強度分布取得部、53 接合端位置特定部、56 温度分布画像処理部、57 接合正常領域特定部、60 ヒートガン、62,62−1,62−2 赤外線カメラ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図8