特許第5973992号(P5973992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973992
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】はんだ合金
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20160809BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   B23K35/26 310A
   C22C13/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-508941(P2013-508941)
(86)(22)【出願日】2012年4月6日
(86)【国際出願番号】JP2012059465
(87)【国際公開番号】WO2012137901
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-86183(P2011-86183)
(32)【優先日】2011年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592025786
【氏名又は名称】株式会社日本スペリア社
(73)【特許権者】
【識別番号】511158731
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ クイーンズランド
【氏名又は名称原語表記】The Universtiy of Queensland
(74)【代理人】
【識別番号】100095647
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】野北 和宏
(72)【発明者】
【氏名】マクドナルド, スチュアート デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】リード, ジョナサン ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェントゥーラ, ティナ
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−296983(JP,A)
【文献】 特開2005−125360(JP,A)
【文献】 特開2007−190603(JP,A)
【文献】 特開2008−030047(JP,A)
【文献】 特開2003−211283(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/009877(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 13/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu0.7〜7.6質量%、Al0.006〜0.15質量%、及び残部Snからなるはんだ合金。
【請求項2】
Cuの含有量は、2.0質量%以上である請求項1記載のはんだ合金。
【請求項3】
請求項1又は2において、0.03〜0.1質量%のSnをNiに置換したはんだ合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫銅系のはんだ合金において、引っ張り強度、及びはんだ接合物の割れ強度を向上することが可能なはんだ合金組成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛が人体に悪影響を及ぼすことから、はんだ合金においても鉛を含有しない組成が一般化しつつある。融点が低いこと、及び比較的安価に生産できることから、Snが基本的な組成として広く利用され、Cuを0.7質量%前後添加したSn−Cu二元系共晶組成の錫銅系はんだ合金や、さらに強度を確保するためにAgを添加したはんだ合金が開発されている。
【0003】
ところで、技術改良によって、ICなどの回路設計技術が向上するとともに、電子機器のダウンサイジング化が図られ、ICのリード線間のピッチは非常に狭くなり、はんだ接合物の大きさもこれに応じて極めて小さいものが要求される。例えば、現在では広く普及しているボールはんだの大きさも、直径が20ミクロンのものが実装で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/48639号
【特許文献2】特開2005−238328号公報
【特許文献3】特開2005−319470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Snを主要金属としたはんだ合金とCu基板の間には、CuSn金属間化合物が生成することは周知である。この種の金属間化合物は、はんだ継手を製造した場合には接合界面に多量に存在すると接合強度が低下する原因となる。これを回避するために、微量のNiを添加し、接合界面のCuSnの生成を抑制する技術が開発されている(特許文献1)。この組成のようにSn−Cuに対してNiを添加した合金は溶融状態において流動性が向上し、ウエーブはんだ付けに最適である。
【0006】
しかしながら、Sn−Cuはんだ合金の過共晶領域(Cu0.7〜7.6質量%)においてCuSnが初相として晶出する場合、CuSn金属間化合物の成長を抑制するための手段を講じる必要がある。例えば、BGAはんだボールの場合には、そのサイズが極めて小さくなっているために、BGAの直径に亘って初相CuSn金属間化合物が成長する可能性がある。このようなBGAをはんだ継手として利用した場合には、衝撃が加われば初相として晶出したCuSn金属間化合物に沿ってはんだ合金中に割れが生じるおそれがある。従って、金属間化合物が大きく成長することは、電子回路のダウンサイジング化に悪影響を及ぼすことになる。また、Niの添加は、はんだ合金とCu基板の間に形成されるCuSn金属間化合物の結晶構造を六方晶として安定化し、接合界面の接合強度を向上させることについては知見があるが、初相としてはんだ合金中に晶出するCuSn金属間化合物の微細化あるいはその成長を抑制する効果に関する知見は見当たらない。
【0007】
なお、先行技術としての特許文献1は、既述したようにSn−CuにNiを添加することによって共晶のCuSn金属間化合物の発生を抑制するものであり、Sn−Cu下においてNiの存在が不可欠な発明である。
【0008】
特許文献2は、Snを母材とする亜共晶組成において粗大な初晶β−Sn相の組織を微細化し、該相の硬度を高くして共晶相とほぼ同じくするものであり、これを実現するためにAlが微量添加されている。特許文献3は、共晶Sn−Cu−Ag系鉛フリーはんだ材料に実質的に溶解しない元素を含む微粒子を添加し、接合部の金属組織をより微細化するもので、該元素として選択的にAlが採用されている。
【0009】
前記特許文献2、及び3はAlを微量に含有するものであるが、前者は亜共晶組成における初晶β−Sn相の硬度を高くすることを目的とするものであり、後者は接合部の共晶組織を微細化することを目的としてAlを添加している。しかしながら、これらの特許文献では過共晶Sn−Cuの合金に必然的に発生する初相CuSn金属間化合物が樹状で比較的大きく成長しやすいことに着目したものではない。
【0010】
本発明は、過共晶Sn−Cu合金の初相CuSn金属間化合物がはんだ継手の物性について悪影響を及ぼすことを回避することを課題としたもので、特にはんだ継手自体の割れを極力防止することができるはんだ合金組成を開示することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を愛決するために、本発明では、錫銅の共晶点であるCu0.7質量%を越え、7.6質量%まで、Al0.006〜0.15質量%、及び残部Snからなるはんだ合金を組成した。また、この組成にさらに0.03〜0.1質量%のNiを残部のSnと一部置換したSn−Cu−Ni−Alはんだ合金を組成した。
【0012】
さらに、より好ましいCuの添加量の下限値としては、2.0質量%以上が適切である。
【0013】
Alは融点が660.2℃、密度2.7g/cmの軽い金属であって、容易に酸化してAlになる。
【0014】
Alの添加によって初相CuSn金属間化合物がどのように成長するかを確認するために、AlをSn−4%Cuに添加した試料を作成し、凝固体の断面をSEM写真で示したものが図1である。発明者らは、Alの添加量が異なる4種類の試料を作成し、300倍、及び1000倍の拡大写真を確認した。Alの添加量は、図1の写真の上から0ppm、60ppm、200ppm、800ppmである。ここで明らかな事実は、Alを添加していない試料では初相CuSn金属間化合物が斜め方向に長く晶出すると共に、同様に枝状に長く成長していることである。一方、Alを添加した試料では、初相CuSn金属間化合物は成長せず、粒子状になっている。この現象はAlの添加量によって幾分異なっているが、3つの試料では何れも粒子状であることが確認された。Alを添加した場合の初相CuSn金属間化合物の成長が抑制されるメカニズムについては、今のところ確定的な結論を導き出していないが、分散したAl微粒子のそれぞれが初相CuSn金属間化合物の核になるため、核形成頻度が高くなり、よって成長速度が遅くなることに起因すると考えられる。なお、Alの添加はCuSn金属間化合物の総量を減らす要因ではなく、本来は樹状構造を呈するCuSn金属間化合物が樹状に成長しないことの要因になっている。なお、図1に示した各試料おけるAlの添加量は実測値である。AlはSnと比較すると密度が小さく、均一に拡散するものと溶融金属表面に浮遊するものがある。本発明では、有効に働くAlの添加量を精密に特定するために、Alの添加量については凝固体におけるAlの量を測定した。
【0015】
初相CuSn金属間化合物が大きく析出すると、その部分ではんだ凝固体の内部に不均一な部分が形成される。そして、このような状態がはんだ継手内部に存在すると、衝撃が加わった場合に割れが生じるおそれがある。特に近年の非常に微小なBGAではんだ継手が形成されている場合には図1のAlを添加していない状態でははんだ継手の全長に亘って初相CuSn金属間化合物が走行する可能性が高い。即ち、このような状態であれば部分的にクラックが発生するだけでなく、はんだ継手全体に割れが生じてBGAで接合されている基板同士が剥離することになる。一方、Alが添加された3種類の試料では均一なSn−Cu相が連続しているので、CuSn金属間化合物を起因とする割れなどの発生を回避することが可能となる。
【0016】
図2は、Sn−4%Cu−0.05%Ni−0.007%Geに対して、図1と同様にAlを添加しない試料と、Alを添加した3種類の試料のSEM写真を比較したものを示す。なお、この試料ではGeが添加されているが、GeそのものはSn及びCuと反応しないので、Geを添加しない試料であっても同様の現象を得ることができると推測される。図2に示した各写真からも明らかなように、Alを添加しない試料と比較すると、Alを60ppm、400ppm、及び1000ppmそれぞれ添加した試料では、初相CuSn金属間化合物は長さ方向に成長せず、多数の粒状で成長が止まっていることを確認した。即ち、図2のようにNiを含有するはんだ合金でも、Alを添加することによってCuSn金属間化合物が長さ方向に大きく成長することはなく、Sn−Cu−Ni相が連続的に出現する。
【0017】
図3は、Snに2.0質量%のCuを含有させた場合に、Al添加がC6Sn金属間化合物の成長に与える影響を確認したもので、図1及び図2と同様の試験条件で行った。その結果、明らかなようにAlを添加していない合金の場合にはCuSn金属間化合物が斜め方向に長く成長しているのに対して、0.05質量%のAlを添加した場合にはCuSn金属間化合物は多数の粒状を呈した。この結果から、2.0質量%Cuの存在下においても、適量のAl添加がCuSn金属間化合物の態様に好ましい影響を与えることを確認することができた。
【0018】
さらに、図4は、Snに7.6質量%のCuを含有させた場合にCuSn金属間化合物が生成する状態をベンチマークとして、これにAlを添加した場合のCuSn金属間化合物が成長した状態を比較した。なお、図4におけるCuの含有量は計算値ではなく、実測値である。図でも明らかなように、Sn−7.5Cuに0.051質量%Alを添加した合金、Sn−7.3Cuに0.143質量%Alを添加した合金、及びSn−6.9Cuに0.373質量%Alを添加した合金については、CuSn金属間化合物は多数の粒状を呈した。なお、0.373質量%のAlを添加した試料では、左端中央部にドロスの出現が見られた。この結果から、6.9〜7.6質量%Cuの存在下においても、適量のAl添加がCuSn金属間化合物の態様に好ましい影響を与えることを確認することができた。
【0019】
これらの実験を考慮して、Cuの含有量は0.7〜7.6質量%、より好ましくは2.0〜7.6質量%とした。本発明では、Sn−Cuの過共晶によりはんだ継手内部にCuSn金属間化合物が成長し、この金属間化合物を境界として割れなどが生じることに着目したものであるから、Cuの下限値については、Snとの過共晶になり、初相CuSn金属間化合物が生成する最下限とした。つまり、重要なことは、厳密な数値としての0.7質量%ではなく、その合金におけるSn−Cu過共晶が生じるCuの添加量を超えること、すなわち過共晶域である。より好ましいCuの下限値は、Cuを2.0質量%以上含有した場合には、CuSn金属間化合物の生成が著しいから、これをAlの添加によって適切に抑制するという本発明の目的に資するからである。上限については、7.6質量%を超えると、金属間化合物は415℃を融点とするCuSnが生成するので、これを避けることを考慮した。Alの下限値については、実験の結果、0.006質量%を超えると初相CuSn金属間化合物の長さ方向の成長が抑制されることが判明したことによる。上限値については、0.15質量%を超えると、Alの場合には添加時に酸化膜を多量に形成して表面が黒色になるのでこれを避ける工程が必要となり、製造効率が低下すること、及びAlを含むドロスが多量に発生して溶融はんだの表面に浮遊するので同様に製造効率が低下することを考慮した。
【0020】
本発明におけるAlは、他の元素と反応させることを目的とするものではなく、初相CuSn金属間化合物の成長を抑制して、Alを核として粒状に初相CuSn金属間化合物を成長させることを主眼とするものである。又、本発明では、Alを添加することによって初相CuSn金属間化合物の樹状構造の成長を抑制するものであるから、Sn−Cuを主要金属とする二元系の合金のみならず、これにNiを添加した三元系合金や、Agを添加した三元系合金など、Sn−Cuに対してさらなる金属を添加した合金であっても本発明の目的を阻害するものではない。
【発明の効果】
【0021】
本発明に示したように、Sn−Cuを主要元素とする合金、及びこれにNiを添加した合金にAlを微量添加することによって、初晶CuSn金属間化合物の長さ方向への成長が抑制され、Alを核として粒状にCuSn金属間化合物が生成する。従って、凝固した合金ではSn−Cu相などが連続した状態で出現するので、衝撃による割れが減少すると共に、引っ張り特性に優れたはんだ合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】Sn−Cu組成に微量のAlを添加した場合のSEM断面写真を示す。
図2】Sn−Cu−Ni組成に微量のAlを添加した場合のSEM断面写真を示す。
図3】Sn−2.0Cu組成に微量のAlを添加した場合のSEM断面写真を示す。
図4】Sn−6.9〜7.6Cu組成に微量のAlを添加した場合のSEM断面写真を示す。
図5】Sn−Cu組成に微量のAlを添加した試験体の引っ張り試験を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
以下、本発明の組成と、Alを添加していない試験体について引っ張り試験を行った。試験の目的は、図1あるいは図2に示したように、Alを添加しないものは初相CuSn金属間化合物が長く成長するので、組織が不均一になり、引っ張り試験を実施すれば比較的小さい力で破断する一方、Alを添加したものは組織が均一な状態を示すので、Alを添加しない組織よりも引っ張り耐性が強いであろうという推論を確認することにある。試験片は、合金総重量が各試料とも600gになるように、添加金属を日本坩堝社製の黒鉛坩堝中で精秤し、大気中雰囲気にて真陽理科製電気炉で450℃に加熱し、均一に試料を溶解させた。その後、室温に放置したステンレス製鋳型に流し込み、室温にて15分放冷した後に試料を取り出し、測定用試験片とした。なお、試験片の重量は約170g、寸法は全長170mm、幅10mm、厚み10mmであり、Alを添加しない比較例と、Alを添加した実施例1〜3の4種類について試験を行った。各試料の組成を表1に示す。引っ張り試験は、島津製作所社製万能試験機AG−10kISに試験片を装着し、引っ張り速度10mm/分の条件にて測定した。
【0024】
【表1】
【0025】
図5は、引っ張り試験の結果を示したグラフで、左がAlを添加していない組成、右の3つがAlを添加した組成の結果である。この結果から明らかなことは、Alを添加しなかった試料と比較すると、Alを添加した試料は全て引っ張り耐性に優れていたことである。言い換えると、Alを添加した試料は全て、Alを添加しなかった試料に比べて破断耐性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のはんだ合金は、過共晶組成において初相CuSnの長手方向への成長が抑制されるので、特に近年のダウンサイジング化に伴うはんだ継手の小型化に際しても、衝撃による割れなどを減少させることになる。
図1
図2
図3
図4
図5