特許第5973993号(P5973993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5973993メタセシス段階を含む飽和アミノ酸または飽和アミノエステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973993
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】メタセシス段階を含む飽和アミノ酸または飽和アミノエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 227/06 20060101AFI20160809BHJP
   C07C 229/08 20060101ALI20160809BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160809BHJP
【FI】
   C07C227/06
   C07C229/08
   !C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-509465(P2013-509465)
(86)(22)【出願日】2011年5月9日
(65)【公表番号】特表2013-527855(P2013-527855A)
(43)【公表日】2013年7月4日
(86)【国際出願番号】EP2011002295
(87)【国際公開番号】WO2011138051
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2014年5月9日
(31)【優先権主張番号】10053595
(32)【優先日】2010年5月7日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】510029003
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ レンヌ 1
(73)【特許権者】
【識別番号】505252333
【氏名又は名称】サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】クチュリエール, ジャン−リュク
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ, ジャン−リュク
(72)【発明者】
【氏名】ミアオ, シャウウエイ
(72)【発明者】
【氏名】フィシュメステル, セドリック
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ, クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ディズヌフ, ピエール
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/104722(WO,A1)
【文献】 特開平04−117348(JP,A)
【文献】 特開平10−076160(JP,A)
【文献】 特開2003−089689(JP,A)
【文献】 特表2004−516306(JP,A)
【文献】 特表2000−502093(JP,A)
【文献】 特表2009−543781(JP,A)
【文献】 米国特許第03372195(US,A)
【文献】 Janine Cossy,Tandem reaction by using compatible catalysts: cross-metathesis reaction and hydrogenation,TETRAHEDRON LETTERS,2002年,43 (38),P6715-6717
【文献】 Sebastian Meinke,Cross metathesis for the synthesis of novel C-sialosides,CARBOHYDRATE RESEARCH,2008年,343 (10-11),P1824-1829
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 227/06
C07C 229/08
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6〜17の炭素原子を含む飽和長鎖α,ω−アミノ酸またはそのエステルの合成方法であって、
第1段階で、アクリロニトリル、アクリル酸またはアクリルエステルの中から選択される第1のアクリル化合物と、ニトリル、カルボン酸またはエステルの少なくとも一種である三価官能基を含む第2のモノ不飽和化合物(この化合物の一方はニトリル官能基を含み、他方はカルボン酸またはエステル官能基を含む)とを、ルテニウムカルベンタイプのメタセシス触媒の存在下で、クロスメタセシス反応させ、
第2段階で、第1段階で得られたモノ不飽和ニトリル−カルボン酸またはそのエステルを、水素化触媒の役目をする第1段階で用いたメタセシス触媒の存在下で、水素化して飽和長鎖α,ω−アミノ酸またはそのエステルを得る、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
メタセシス段階を下記の反応スキームに従って行う請求項1に記載の方法:
【化1】
(ここで、
1=Hまたは(CH2m−R4
2=COOR5またはCN、
3=COOR5またはCN、
4=HまたはR2
5=1〜4の炭素原子を有するアルキル基、
n=2〜13、m=4〜11、
2はR3と異なる)
【請求項3】
クロスメタセシス反応をアクリロニトリルと、9−デセン酸、9−デセン酸メチル、10−ウンデセン酸、10−ウンデセン酸メチル、オレイン酸、オレイン酸メチル、9−オクタデセンジオン酸、9−オクタデセンジオン酸メチル、エルカ酸、エルカ酸メチル、12−トリデセン酸および12−トリデセン酸メチルから選択される化合物とで行う請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アクリル酸またはそのエステルのクロスメタセシス反応を、9−デセンニトリル、10−ウンデセンニトリル、9−オクタデセンニトリルまたはオレオニトリル、9−オクタデセンジニトリル、エルカニトリルまたは12−トリデセノニトリルから選択される化合物と行う請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
メタセシス反応を20〜120℃の反応温度および1〜30バールの圧力下で行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
メタセシス反応を下記一般式の荷電または非荷電の触媒から選択されるルテニウム触媒の存在下で行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法:
(X1)a(X2)bRu(カルベンC)(L1)c(L2)d(L3)e
(ここで、
a,b,c,dおよびeは互いに同一でも異なっていてもよく、aとbは0、1または2に等しく、c、dおよびeは0、1、2、3または4に等しい整数であり、
X1およびX2は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ荷電または非荷電のモノキレートまたはポリキレート配位子で、X1またはX2はL1またはL2に結合するか(カルベンC)に結合して、ルテニウム上に二座またはキレート配位子を形成してもよく
L1、L2およびL3は電子供与配位子で、互いに同一でも異なっていてもよく、L1、L2またはL3は(カルベンC)と結合して二座配位子またはキレート配位子または三座配位子を形成していてもよく、
(カルベンC)は一般式:C_(R1)_(R2)で表され、ここで、R1およびR2は水素であるか、飽和または不飽和の環状、分岐または直鎖の炭化水素基または芳香族炭化水素基であり、互いに同一でも異なっていてもよい)
【請求項7】
メタセシス触媒が下記の(A)および(B)のいずれかに対応する請求項6に記載の方法:
【化2】
【請求項8】
水素化反応を、メタセシス段階で得られた反応混合物に対して、水素圧力下で水素化触媒の役目をする残留メタセシス触媒の存在下且つ塩基の存在下で行う請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水素化反応を、5〜100バールの圧力且つ50〜150℃の温度で行う請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
水素化反応を、不飽和ニトリル−エステル基質に対して10〜80モル%の含有量の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、カリウムt−ブトキシドまたはアンモニアの中から選択される塩基の存在下で行う請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
水素化反応を、通常の水素化触媒を添加した第1段階で得られる分解メタセシス触媒の存在下で行う請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つのメタセシス段階を含む、モノ不飽和脂肪酸またはエステルから長鎖α,ω−アミノアルカン酸またはそのエステルを合成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維または熱硬化性樹脂を製造するポリアミド工業ではジアミン、ジアシッド、特に長鎖ω−アミノ酸から成る全ての種類のモノマーが用いられている。これらは一般にナイロンとよばれ、2つのアミド−CO−NH−官能基を隔てるメチレン鎖(−CH2−)nの長さで定義され、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン13等が知られている。
【0003】
これらのモノマーは一般に出発材料としてC2〜C4オレフィン、シクロアルカンまたはベンゼン、化石資源から得られる炭化水素を用いる。特殊なケースではヒマシ油(ナイロン11)またはエルカ油(ナイロン13/13)またはレケロ油(ナイロン13)を原料とする化学合成経路で製造される。
【0004】
今日の環境問題から、エネルギー分野および化学分野では再生可能な資源に由来する天然の出発材料の利用が望まれている。そのため上記モノマーを製造するための出発材料として脂肪酸/エステルを用いる工業的プロセスを開発するために研究がいくつかなされている。
【0005】
しかし、これらのプロセスを工業的に実施した例はほとんどない。出発材料として天然脂肪酸を用いる工業プロセスの稀な例の一つはリルサン11(登録商標)合成のベースである11−アミノウンデカン酸をヒマシ油から抽出したリシノール酸から製造する例である。このプロセスは非特許文献1に記載されている。11−アミノウンデカン酸は複数の段階を経て得られる。第1段階はヒマシ油を塩基性媒体中でメタノリシスしてリシノール酸メチルを作り、それを熱分解してヘプタンアルデヒドとウンデシレン酸メチルとを生成する。後者は加水分解で酸性型に変換される。得られた酸をハイドロ臭素化しされてω−臭素化酸にし、それをアンモニア化して11−アミノウンデカン酸に変換する。
【0006】
この「バイオ」経路での主たる研究テーマは天然起源のオレイン酸からナイロン9の先駆体である9−アミノノナン酸を合成することである。
【0007】
このモノマーに関してはナイロン9に関する非特許文献2が挙げられ、この論文にはこの課題に関する成果とその研究とが要約されている。この文献の第381頁にはペラルゴン(Pelargon、登録商標)の商業化に結び付いた旧ソ連で開発されたプロセスが記載されている。また、第384頁には日本で開発された大豆油を出発材料とするオレイン酸を用いたプロセスが記載されている。対応する記述は非特許文献3にも記載されている。この文献のPart 15にはポリアミドが記載され、第279頁には上記プロセスが記載されている。
【0008】
本出願人は上記Part 15でこの分野で実施してきた研究を記載した。これは特許文献1(フランス特許出願第2912741号公報)で天然の長鎖脂肪酸/エステルからこのタイプの任意種類のアミノ酸/エステルを合成する方法として開示した。この特許では天然の長鎖脂肪酸/エステルをニトリル官能基を有する不飽和化合物と触媒クロスメタセシス反応させた後に、水素化する。
【0009】
特許文献2(フランス特許出願第0857780号、2008年11月17日出願)には天然の不飽和長鎖脂肪酸からω−不飽和ニトリルタイプの中間化合物を経てω−アミノアルカン酸またはそのエステルを合成する方法が記載されている。変形例の一つでは最終段階でアクリレートタイプの化合物とω−不飽和ニトリルをクロスメタセシスさせる。
【0010】
特許文献3(フランス特許出願第0950704号、2009年2月5日出願)には中間化合物が不飽和ジニトリルタイプである上記プロセスの変形例が記載されている。これら全てのプロセスは最終段階がニトリル官能基および二重結合の水素化である。
【0011】
本発明の目的は、最終段階でクロスメタセシスと水素化とを連続して用いるプロセスの性能を向上させることにある。この目的は上記の連続した2つの反応の効果的触媒が得られ、それによって最終コストに影響を与える操作数を最少化できるという点で重要である。
【0012】
ニトリル官能基の水素化で第1級アミンを生成する反応は一般に高度還元性不均一系触媒、例えばラネーコバルトまたはニッケルを用いて工業規模で行われている。水素化での触媒活性が知られた他の金属を不均一状態下で使用することも考えられる。例えば、白金、パラジウム、ルテニウムまたはイリジウムを単独または組み合わせたものが挙げられる。例としては特許文献4(英国特許第1 177 154号公報)には11−シアノウンデカン酸のニトリル官能基の水素化に種々の触媒、ラネーニッケル、パラジウムまたは白金を用いることが記載され、特許文献5(英国特許第1 273 874号公報)には上記と同じ反応でシリカに担持されたルテニウム触媒を用いて12−アミノドデカン酸を得る方法が記載されている。しかし、シリカのような担体に担持されたニッケルは最も一般的に採用される触媒である。
【0013】
アミンを生成するニトリルの水素化反応の均一系触媒も研究の対象で、文献に開示されている。例としては非特許文献4〜7に記載の均一系ルテニウム触媒を用いてベンジルアミンを生成するベンゾニトリルの水素化が挙げられる。これらの文献には、このタイプの反応を実施するために塩基を追加することが記載されている。
【0014】
メタセシスし、次いで、メタセシス生成物を水素化する反応順序はCargillの特許文献6(米国特許出願第2009/048459号明細書)に記載されている。この文献には、メタセシスと水素化の連続した段階によって水素化メタセシス生成物を製造する方法が記載されている。この方法で全ての実施例で、メタセシス触媒を含むメタセシス反応媒体を担持ニッケルから成る不均一系水素化触媒を用いて処理する水素化段階を行っている。また、実施例で行われる反応は大豆油のホモメタセシスであり、大豆油の組成のためと、メタセシス反応生成物の分離を全くしていないことによって、得られるものはエステルの複合混合物であり、重合可能なモノマーは得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】フランス特許第2912741号公報
【特許文献2】フランス特許出願第0857780号
【特許文献3】フランス特許出願第0950704号
【特許文献4】英国特許第1 177 154号公報
【特許文献5】英国特許第1 273 874号公報
【特許文献6】米国特許出願第2009/048459号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「Les Procedes de Petrochimie、A.Chauvel et al. Editions Technip(1986)
【非特許文献2】n-Nylons, Their Synthesis, Structure and Propertie、1997, J. Wiley and Sons, Chapter 2.9、pp.381-389
【非特許文献3】A. Ravve, Organic CGhemistry of Macromolecules, (1967)、Marcel Dekker, Inc
【非特許文献4】M.Hidai et al. in Organometallics,2002,21,3897
【非特許文献5】R.H.Morris et al.、Organometallics, 2007, 26, 5940-5949
【非特許文献6】M.Beller et al.、ChemSusChem, 2008, 1, 1006
【非特許文献7】Chem.Eur.J.,2008,14,9491
【非特許文献8】Tetrahedron Lett., 2009, 50, 3654
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者は、上記プロセスでメタセシス段階と水素化段階とを触媒として同じ活性金属を含む単一の初期触媒化合物を用いて実施できるということを見出した。このメタセシス触媒はメタセシス反応の最後に分解され、第2段階で水素化触媒の役目をする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の対象は、6〜17個の炭素原子を含む飽和長鎖α,ω−アミノエステル(酸)の合成方法であって、第1段階で、アクリロニトリル、アクリル酸またはアクリルエステルの中から選択される第1のアクリル化合物と、少なくとも一種のニトリル、酸またはエステル三価官能基を含む第2のモノ不飽和化合物(この化合物の一方はニトリル官能基を含み、他方は酸またはエステル官能基を含む)とを、ルテニウムカルベンタイプのメタセシス触媒の存在下で、クロスメタセシス反応させ、第2段階で、得られたモノ不飽和ニトリル−エステル(酸)を、水素化触媒の役目をする前段階からのメタセシス触媒の存在下で、水素化して飽和長鎖α,ω−アミノエステル(酸)を得ることを特徴とする方法にある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記メタセシス反応は、一般には油脂化学(oleochemistryl)で得られるモノ不飽和酸またはエステル化合物とアクリロニトリルとの間のクロスメタセシス反応か、一般に油脂化学で得られる不飽和ニトリル化合物とアクリル化合物、酸またはアクリレート(好ましくはメチルアクリレート)とのクロスメタセシス反応である。
【0020】
本発明プロセスは再生可能な天然資源から得られる出発材料を利用する目的で開発されたが、化学合成で得られる類似のモノ不飽和化合物にも適用できることは明らかである。
メタセシス段階は下記反応スキームに従って行われる:
【化1】
【0021】
(ここで、
1=Hまたは(CH2m−R4
2=COOR5またはCN、
3=COOR5またはCN、
4=HまたはR2
5=1〜4の炭素原子のアルキル基、
n=2〜13、m=4〜11、
2はR3と異なる)
【0022】
合成後の最終α,ω−アミノエステル(酸)の式は基本的にアクリル化合物と反応する化合物の式に依存する。
【0023】
石油化学で得られるこの化合物すなわち再生可能な天然脂肪エステルまたは酸から得られる化合物では、R1はHか、アルキル基か、三価官能基(CN、COOHまたはCOOR)を含む官能性アルキル基のいずれかである。
【0024】
1は、天然脂肪エステルを例えばエテノリシスまたは場合によって熱分解する場合にはHである。得られるα,ω−アミノエステル/酸の式は脂肪エステルの−(CH2n−基に直接関係する。上記特許文献1(フランス特許第2912741号公報)に記載のように、オレイン酸ではnは7であり、ペトロセレン酸では4であり、リシノール酸を熱分解した場合には8であり、レケロ酸を熱分解した場合には10になる。
【0025】
(CH2m−R4のR4がHの場合、R1はアルキル基になる。これはモノ不飽和天然脂肪酸、例えばオレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセレン酸、ラウロレン酸等のプロセスでの使用に対応する。
【0026】
(CH2m−R4のR4がR2と同じCN、COOHまたはCOOR三価官能基を表す基の場合、R1は官能性アルキル基になる。この化合物はジアシッド、ジエステルまたはジニトリルの形になる。この場合、化合物の式は、最終α,ω−アミノエステル/酸の収率を最適化できる対称形であるのが特に有利である。このタイプの化合物の製造、特にメタセシスによる製造は上記特許文献1(フランス特許第2912741号公報)、上記特許文献2(フランス特許出願第0857780号)および上記特許文献3(フランス特許出願第0950704号)に記載されている。
【0027】
アクリル化合物の三価官能基R3の選択は他方の化合物の三価官能基の種類に関係する。R2がエステル/酸である場合にはR3はニトリルにしなければならず、逆にR2がニトリルである場合にはエステル/酸にしなければならない。
【0028】
この反応では不飽和ニトリル−酸またはニトリル−エステルが生じる。
【0029】
アクリロニトリルとのクロスメタセシス反応は、9−デセン酸または9−デセン酸メチル(オレイン酸またはオレイン酸メチルのエテノリシスで得られる)、10−ウンデセン酸または10−ウンデセン酸メチル(リシノール酸またはリシノール酸メチルのクラッキングで得られる)、オレイン酸またはオレイン酸メチル、9−オクタデセンジオン酸または9−オクタデセンジオン酸メチル(オレイン酸のホモメタセシスまたは発酵で得られる)、エルカ酸またはエルカ酸メチル、12−トリデセン酸または12−トリデセン酸メチル(レケロ酸から得られる)から選択される化合物と行うのが好ましい。
【0030】
アクリルエステル(酸)のクロスメタセシス反応は、9−デセンニトリル(9デセン酸から得られる)、10−ウンデセンニトリル(10−ウンデセン酸から得られる)、9−オクタデセンニトリルまたはオレオニトリル(オレイン酸から得られる)、9−オクタデセンジニトリル(9−オクタデセンジオン酸から得られる)、エルカニトリルまたは12−トリデセノニトリル(レケロ酸から得られる)から選択される化合物と行う。
【0031】
アクリルタイプの化合物とのクロスメタセシス反応は完全に公知の条件下で行う。メタセシス反応は20〜120℃の反応温度および1〜30バールの圧力下、ルテニウムベース触媒の存在下で行うのが好ましい。クロスメタセシスが軽質化合物、例えばエチレンを生成し、その放出を容易にするために、メタセシス反応は1〜10バールの低い圧力、より好ましくは大気圧で行うのが好ましい。反応は溶剤を用いず行うか、溶剤、例えばトルエン、キシレンまたはジクロロメタン、ベンゼン、クロロベンゼンまたは炭酸ジメチルの存在下で実施できる。
【0032】
メタセシス反応の触媒は多くの研究のテーマになっており、精密な触媒系が開発されている。例としては下記文献に記載のタングステン錯体が挙げられる。
【非特許文献9】Schrock et al., J. Am. Chem. Soc., 108 (1986), 2771
【非特許文献10】Basset et al., Angew. Chem., Ed. Engl., 31(1992), 628
【0033】
均一系触媒作用で機能する下記のルテニウム−ベンジリデン錯体であるGrubbs触媒が最近でできた。
【非特許文献11】Grubbs et al., Angew. Chem., Ed. EngI., 34 (1995), 2039, and Organic Letters., 1 (1999), 953
【0034】
さらに、固定触媒すなわち主活性成分が均一触媒、特にルテニウム−カルベン錯体触媒で、それを不活性担体上に固定した触媒を製造する方法も研究されている。この研究の目的は副反応、例えば存在する反応物間の「ホモメタセシス(homometatheses)」に対するクロスメタセシス反応の選択性を増加させることにある。これは触媒の構造だけでなく反応媒体と、導入できる添加剤の効果にも関係する。
【0035】
ルテニウム触媒は下記一般式の荷電または非荷電の触媒から選択するのが好ましい:
(X1)a(X2)bRu(カルベンC)(L1)c(L2)d(L3)e
(ここで、
【0036】
a,b,c,dおよびeは同一でも異なっていてもよく、aとbは0、1または2に等しく、c、dおよびeは0、1、2、3または4に等しい整数であり、
X1とX2はそれぞれ荷電または非荷電のモノキレートまたはポリキレート配位子を表し、例えばハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、アルコキシド、フェノレート、アミド、トシレート、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、ビス(トリフリル)アミド、アルキル、テトラフェニルボレートおよび誘導体が挙げられ、互いに同一でも異なっていてもよく、X1またはX2は(L1またはL2)に結合するか、(カルベンC)に結合してルテニウム上に二座またはキレート配位子を形成でき、
【0037】
L1、L2およびL3は電子供与配位子、例えばホスフィン、亜燐酸塩、ホスホニト、亜ホスフィン酸エステル、アルシン、スチルベン、オレフィンまたは芳香族化合物、カルボニル化合物、エーテル、アルコール、アミン、ピリジンまたは誘導体、イミン、チオエーテルまたは複素環カルベンであり、互いに同一でも異なっていてもよく、
L1、L2またはL3は(カルベンC)と結合して二座またはキレート配位子、または三座配位子を形成することができ、
【0038】
(カルベンC)は一般式:C_(R1)_(R2)で表され(ここで、R1およびR2は互いに同一でも異なっていてもよく、例えば水素か、任意の飽和または不飽和の環状、分岐鎖または直鎖の炭化水素基または芳香族炭化水素基である)。例としてはルテニウム アルキリデン、ベンジリデンまたはクムレン錯体、例えばビニリデンRu=C=CHRまたはアレニリデンRu=C=C=CR1R2またはインデニリデンが挙げられる。
【0039】
ルテニウム錯体のイオン性液体中での保持を改良できる官能基を配位子X1、X2、L1またはL2の少なくとも一つまたはカルベンCにグラフトできる。この官能基は荷電または非荷電性にすることができ、例えばエステル、エーテル、チオール、酸、アルコール、アミン、窒素複素環、スルホン酸塩、カルボン酸塩、第4級アンモニウム、グアニジン、第4級ホスホニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、モルホリニウムまたはスルホニウムにするのが好ましい。
【0040】
メタセシス触媒は回収/再循環を容易にするために、必要に応じてさらに担体上の不均一系にすることもできる。
【0041】
本発明方法のクロスメタセシス触媒は、例えば下記文献に記載のルテニウムカルベンにするのが好ましい。
【非特許文献12】Aldrichimica Acta, Vol.40, No.2,2007, pp.45-52
【0042】
好ましい触媒は下記式(A)の触媒Umicore M51(Umicoreから市販)および下記式(B)のHoveyda II(Sigma-Aldrichから市販)ともよばれる第二世代のHoveyda-Grubbs触媒である。
【化2】
【0043】
反応時間は用いる反応物および操作条件の関数で、反応が簡潔するように選択される。
【0044】
メタセシスは平衡反応であるので、完全変換へ向かって進むようにこの平衡を移動させるのが好ましい。そのために、反応の副生物が軽質オレフィン、例えばエチレンである場合には、軽質生成物を強制除去する。すなわち、完全変換へ向かって進むように反応器を定期的に「脱気」する。副生物がより重いオレフィン、場合によって官能性オレフィンである場合には、反応媒体中に2つの反応物および触媒を維持する必要があるので、抽出操作はより問題となる。さらに、蒸留によって不飽和ニトリル−エステル(酸)の少なくとも一部を分離し、水素化前に軽質生成物を除去する必要がある場合には、メタセシス触媒を水素化触媒としての役目で使用するために、メタセシス触媒がニトリル−エステル(酸)と一緒に重質留分中に残るように操作を実行しなければならない。この操作では、分離中に非常に重い化合物が媒体から除去されず、従って、重質留分と一緒に水素化される。この化合物の分離はその後の最終アミノ酸/エステルの精製時に行う。
【0045】
平衡を移動させる他の方法は過剰の反応物、一般には過剰のアクリロニトリルまたはアルキルアクリレート(一般にメチルアクリレート)を用いる方法である。加工性の観点から、第1段階の実施はメタセシス触媒を消耗した状態で完了し、過剰のアクリレートまたはアクリロニトリルを蒸留し、再循環する。次いで、第2段階で、反応媒体中に存在する不飽和α,ω−ニトリル−エステル/酸化合物を、水素化の役目の第1段階の触媒の金属の存在下で水素化する。
【0046】
第1段階で導入するルテニウムメタセシス触媒の量は、原料中に存在する非アクリル反応物の全ての変換が保証されるように選択される。この触媒は、メタセシス段階の操作条件下で、反応後に変換されることが観察される。この触媒は消耗され、非活性化され、メタセシス後にその触媒活性を失う。これは反応に対して「劣化(degrade)」とよばれる。バッチプロセスでは触媒の完全劣化時に所望の変換率が得られるように触媒の量を容易に調整できる。
【0047】
メタセシス段階後、ルテニウムを含む反応媒体を水素化させる。メタセシス段階の完了時にルテニウムメタセシス触媒は劣化されるが、金属は水素化段階に適した形で反応媒体中に依然として存在する。
【0048】
従って、水素化反応は、メタセシス段階で得られた反応混合物に対して、水素化触媒の役目をする残留メタセシス触媒の存在下、水素圧力下、塩基の存在下で直接行う。圧力は5〜100バール、好ましくは20〜30バールの圧力である。温度は50〜150℃、好ましくは80〜100℃である。塩基は例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、カリウムt-ブトキシドまたはアンモニアにすることができる。塩基は一般に不飽和ニトリル−エステル基質に対して10〜80モル%の含有量で用いられる。
【0049】
水素化反応は溶剤を用いて行うか、溶剤なしで行うことができる。溶剤媒体中の反応の場合、メタセシス段階および水素化段階で用いるのが好ましい溶剤は、芳香族溶剤、例えばトルエンまたはキシレン、または塩素化溶剤、例えばジクロロメタンまたはクロロベンゼン、または炭酸ジメチルである。
【0050】
特定の水素化触媒を用いずに実施するこの水素化段階の終わりに、第1級アミンを生成するニトリル官能基の変換率は、NH3の添加なしでも高い。しかも、当然ながら、カルボキシル官能基が影響を受けることなく、不飽和オレフィンが減少する。
【0051】
劣化したメタセシス触媒は、不飽和ニトリル酸またはニトリルエステルの水素化して飽和アミノ酸またはアミノエステルを生成するための活性および選択性を全く予期せずに示したことになる。
【0052】
劣化したメタセシス触媒は必要に応じて水素化段階用の通常の水素化触媒と一緒に使用することもできる。水素化に通常用いられる金属の例としてはニッケル、パラジウム、白金、ロジウムまたはイリジウムが挙げられる。劣化メタセシス触媒にはラネーニッケルまたはチャコールに担持させたパラジウムを添加するのが好ましい。
【0053】
本発明の特定実施例では水素化反応を通常の水素化触媒を添加した第1段階で得られる分解メタセシス触媒の存在下で行う。
【0054】
また、回収を単純化するために固体担体(チャコール、SiC等)の存在下で水素化反応を行うこともできる。
本発明方法で得られるアミノ酸またはアミノエステルはポリアミドの合成でモノマーとして使用できる。
【0055】
本発明のさらに別の対象は上記定義の方法で合成したα,ω−アミノエステル(酸)の重合で得られるポリマーにある。
以下、本発明方法の実施例を示す。
【実施例】
【0056】
実施例1
Hoveyda-Grubbs II触媒を用いたアクリロニトリルによるウンデセン酸メチルのクロスメタセシスと、その後の水素化
【化3】
【0057】
窒素でパージした50mlのシュレンク管中に100mgの10−ウンデセン酸メチル(0.5mmol)と、53mgのアクリロニトリル(1mmol)と、ベンゾフェノンナトリウム上で蒸留した10mlのトルエンとを入れた。9.5mgの第二世代のHoveyda-Grubbs触媒(1.5×10-2mmol、Sigma-Aldrich)を添加し、混合物を100℃で4時間加熱する。
ガスクロマトグラフィ分析から、10−ウンデセン酸メチルの変換率は100モル%(96モル%)で、不飽和ニトリル−エステルの収率は95モル%であることがわかる。
次いで、反応混合物を50mlのParrボンベ(22ml)に移す。17mgの水酸化カリウム(0.3mmol)を添加し、ボンベを20バールの水素下で加圧する。ボンベを磁気撹拌下に80℃で48時間加熱する。
ガスクロマトグラフィ分析から、不飽和ニトリル−エステルの変換率は100モル%で、12−アミノドデカン酸メチルの収率は90モル%であることがわかる。
【0058】
実施例2
Umicore M51触媒を用いたアクリロニトリルによるウンデセン酸メチルのクロスメタセシスと、その後の水素化
実施例1と同じ操作を行うが、Hoveyda-Grubbs II触媒の代わりに10mgのUmicore M51触媒(1.5×10-2mmol、Umicore)を用い、水酸化カリウムの代わりに8.5mgのカリウムt−ブトキシド(0.075mmol)を用いる。
ガスクロマトグラフィ分析から、12−アミノドデカン酸メチルの収率は88モル%であることがわかる。
【0059】
実施例3
Hoveyda-Grubbs II触媒を用いたウンデセンニトリル/メチルアクリレートクロスメタセシスと、その後の水素化
【化4】
【0060】
窒素でパージした50mlのシュレンク管中に83mgの10−ウンデセンニトリル(0.5mmol)と、86mgのメチルアクリレート(1mmol)と、ベンゾフェノンナトリウム上で蒸留した10mlのトルエンとを入れた。9.5mgの第二世代のHoveyda-Grubbs触媒(1.5×10-2mmol)を添加し、混合物を100℃で1時間加熱する。
ガスクロマトグラフィ分析から、10−ウンデセンニトリルの変換率は100%で、不飽和ニトリル−エステルの収率は98%であることがわかる。
次いで、反応混合物を50mlのParrボンベ(22ml)に移す。17mgのカリウムt−ブトキシド(0.15mmol)を添加し、ボンベを20バールの水素下で加圧する。ボンベを磁気撹拌下に80℃で40時間加熱する。
ガスクロマトグラフィ分析から、不飽和ニトリル−エステルの変換率は100モル%で、12−アミノドデカン酸メチルの収率は90モル%であることがわかる。
【0061】
実施例4
Hoveyda-Grubbs II触媒を用いたウンデセン酸メチル/アクリロニトリルクロスメタセシスと、その後のPd/C触媒を添加した水素化
窒素でパージした50mlのシュレンク管中に100mgの10−ウンデセン酸メチル(0.5mmol)と、53mgのアクリロニトリル(1mmol)と、ベンゾフェノンナトリウム上で蒸留した10mlのトルエンとを入れた。3mgの第二世代のHoveyda-Grubbs触媒(5×10-3mmol)を添加し、混合物を100℃で4時間加熱する。
ガスクロマトグラフィ分析から、10−ウンデセン酸メチルの変換率は98%で、不飽和ニトリル−エステルの収率は93%であることがわかる。
次いで、反応混合物を50mlのParrボンベ(22ml)に移す。10mgの1%Pd/C触媒および17mgのカリウムt−ブトキシド(0.15mmol)を添加し、ボンベを20バールの水素下で加圧する。ボンベを磁気撹拌下に80℃で48時間加熱する。
ガスクロマトグラフィ分析から、不飽和ニトリル−エステルの変換率は90%で、12−アミノドデカン酸メチルの収率は64%であることがわかる。