特許第5973999号(P5973999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5973999メタクリル酸製造用触媒及びそれを用いたメタクリル酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973999
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】メタクリル酸製造用触媒及びそれを用いたメタクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/199 20060101AFI20160809BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20160809BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20160809BHJP
   C07C 51/377 20060101ALI20160809BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20160809BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160809BHJP
【FI】
   B01J27/199 Z
   C07C57/055 B
   C07C51/235
   C07C51/377
   C07C57/05
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-518904(P2013-518904)
(86)(22)【出願日】2012年11月16日
(86)【国際出願番号】JP2012079862
(87)【国際公開番号】WO2013073691
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2015年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-251386(P2011-251386)
(32)【優先日】2011年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】倉上 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 英二
(72)【発明者】
【氏名】江尻 知幸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 秀臣
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/073857(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/104155(WO,A1)
【文献】 特開2006−272151(JP,A)
【文献】 特開2005−187463(JP,A)
【文献】 特開2011−173114(JP,A)
【文献】 特開平09−290162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 51/235
C07C 51/377
C07C 57/05
C07C 57/055
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、下記一般式
MoCuZ´f´
(式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zはアンモニウムを表し、Z´はアンチモンを表す。a、b、c、d、e、f、f´及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bは0.1以上で4以下、cが0.01以上で4以下、dが0.01以上で1以下、eが0.5以上で1.0以下、fが0より大きく3以下、f´が0以上で3より小さく、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)
で表される組成を有し、かつモリブデン、リン、バナジウム、銅を必須の成分として含むヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中においてモリブデン10原子に対するアルカリ金属原子の原子比率をA、前記ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中のモリブデン10原子に対する銅原子の原子比率をB、価数をCとしたとき、
α = A +( B × C )
0.7 ≦ α ≦ 1.1
の条件を満足するように、カウンターカチオンであるプロトンをアルカリ金属イオンで置換したメタクリル酸製造用触媒
【請求項2】
Yがセシウムである請求項記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
a=10とした時、dが0.1以上で0.3以下の条件を満足する請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項4】
a=10とした時、dが0.15以上で0.25以下の条件を満足する請求項1〜のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項5】
該触媒が成形触媒であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の触媒を使用することを特徴とするメタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造方法。
【請求項7】
eが0.6以上で0.9以下の条件を満たす、請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を、酸化触媒組成物の存在下に、分子状酸素含有ガスを用いて気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるヘテロポリ酸系触媒およびそれを用いたメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタクロレイン等の気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に用いる触媒としては、ヘテロポリ酸やその塩からなるものが有効であることが知られており、これまでに、その組成、構造、物性等や、製造方法に関し、多くの報告がなされている(例えば、触媒の細孔については、特許文献1、触媒製造における成形法については、特許文献2、触媒製造における焼成法については、特許文献3に記載されている)。
【0003】
メタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を、酸化触媒組成物の存在下に、分子状酸素含有ガスを用いて気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるヘテロポリ酸系触媒は吸湿性が高く、一旦吸湿すると、その程度にもよるが、再び活性を高めるのは困難であることが知られており、触媒を製造して使用するまでの保存時に吸湿することで触媒性能が低下し、メタクリル酸製造の際、満足できる転化率、メタクリル酸選択率が得られないという問題点がある。
【0004】
特許文献4にはメタクリル酸製造用触媒を25℃における透湿度1.0g/m・24h以下の容器内で保存するという発明が記載されている。特許文献5には、触媒層内を相対湿度40%以下にするように空気を導入し、触媒の吸湿を防止する発明が記載されている。しかしながら、これら公知技術はメタクリル酸製造用触媒の吸湿を防止する方法として有用であると言えるが、触媒を製造して使用するまでのいずれかの工程が煩雑になるという問題がある。
【0005】
一方、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種からメタクリル酸を製造する際に用いられるヘテロポリ酸系触媒はアクロレインからアクリル酸を製造する酸化触媒に比べて、寿命において劣っているといわざるを得ない。
【0006】
特許文献6には、モリブデン、バナジウム、リンおよびアンチモン等の第4成分Xを含む均一溶液と、アンモニア水と、セシウム等のその他の触媒成分元素を含む均一溶液とを混合し、この混合溶液を乾燥することによってメタクリル酸製造用触媒を製造する方法が開示されている。これにより、第4成分X(特に、アンチモン)の溶解性が向上し、触媒性能の再現性、安定性に優れ、長寿命の触媒が得られるとしている。また、特許文献7には、全ての触媒原料を水に溶解あるいは懸濁させた溶液について、アンモニウム根の含有をモリブデン12原子に対し17〜100モルの範囲、かつ、そのpHを6.5〜13の範囲とする酸化触媒の製造方法が開示されている。pHの調整は、硝酸またはアンモニア水等の添加により行われている。
【0007】
しかしながら、このような従来の触媒原料の混合方法やpH調整方法を用いて製造された触媒は、特に寿命の面で工業触媒としては必ずしも十分でなく、さらなる触媒性能の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開昭60−239439号公報
【特許文献2】日本国特開平10−258233号公報
【特許文献3】日本国特開昭59−66349号公報
【特許文献4】日本国特開2003−10695号公報
【特許文献5】日本国特許第3884967号公報
【特許文献6】日本国特開平5−31368号公報
【特許文献7】日本国特開平9−290162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるヘテロポリ酸系触媒よりも、性能、寿命、またさらに工業的使用に特に重要となる保存時の吸湿の点において、より優れたヘテロポリ酸系触媒及びそれを用いたメタクリル酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を、酸化触媒組成物の存在下に、分子状酸素含有ガスを用いて気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるヘテロポリ酸系触媒について鋭意検討した結果、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、下記一般式
MoCu
(式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zは鉄、コバルト、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、ガリウム、バリウム、セリウム、ランタン、砒素、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、アンモニウム、ジルコニウム、錫、鉛、チタン、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a、b、c、d、e、f及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bは0.1以上で4以下、cが0.01以上で4以下、dが0.01以上で1以下、eが0.2以上で2以下、fが0以上で3以下であり、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)
で表される組成を有し、かつモリブデン、リン、バナジウム、銅を必須の成分として含むヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中においてモリブデン10原子に対するアルカリ金属原子の原子比率をA、前記ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中のモリブデン10原子に対する銅原子の原子比率をB、価数をCとしたとき、
α = A +( B × C )
0.5 ≦ α ≦ 1.4
の条件を満足することで、上記課題を解決できることを見出した。なお、銅原子の価数は使用する原料の価数がそのまま触媒中で維持されている。本発明は、この知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、下記一般式
MoCu
(式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zは鉄、コバルト、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、ガリウム、バリウム、セリウム、ランタン、砒素、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、アンモニウム、ジルコニウム、錫、鉛、チタン、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a、b、c、d、e、f及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bは0.1以上で4以下、cが0.01以上で4以下、dが0.01以上で1以下、eが0.2以上で2以下、fが0以上で3以下であり、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)
で表される組成を有し、かつモリブデン、リン、バナジウム、銅を必須の成分として含むヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中においてモリブデン原子に対するアルカリ金属原子の原子比率をA、前記ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中のモリブデン原子に対する銅原子の原子比率をB、価数をCとしたとき、
α = A +( B × C )
0.5 ≦ α ≦ 1.4
の条件を満足するように、カウンターカチオンであるプロトンをアルカリ金属イオンで置換したメタクリル酸製造用触媒
(2)0.7 ≦ α ≦ 1.1
の条件を満足する(1)のメタクリル酸製造用触媒
(3)Yがセシウムである(1)または(2)のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒
(4)a=10とした時、dが0.1以上で0.3以下、eが0.3以上で1.1以下の条件を満足する(1)〜(3)のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒
(5)a=10とした時、dが0.15以上で0.25以下、eが0.4以上で1.0以下の条件を満足する(1)〜(4)のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒
(6)該触媒が成形触媒であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の触媒を使用することを特徴とするメタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を、気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるヘテロポリ酸系触媒に関し、性能、寿命、またさらに工業的使用に特に重要となる保存時の吸湿の点において、より優れたヘテロポリ酸系触媒の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の適用範囲は以下の方法に限定されるものではない。本発明のメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するために用いるメタクリル酸製造用触媒であって、下記一般式
MoCu
(式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zは鉄、コバルト、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、ガリウム、バリウム、セリウム、ランタン、砒素、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、アンモニウム、ジルコニウム、錫、鉛、チタン、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a、b、c、d、e、f及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bは0.1以上で4以下、cが0.01以上で4以下、dが0.01以上で1以下、eが0.2以上で2以下、fが0以上で3以下であり、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)
で表される組成を有し、かつモリブデン、リン、バナジウム、銅を必須の成分として含むヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中においてモリブデン10原子に対するアルカリ金属原子の原子比率をA、前記ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中のモリブデン10原子に対する銅原子の原子比率をB、価数をCとしたとき、
α = A +( B × C )
0.5 ≦ α ≦ 1.4
の条件を満足するように、カウンターカチオンであるプロトンをアルカリ金属イオンで置換したことを特徴とする。なお、銅原子の価数は使用する原料の価数がそのまま触媒中で維持されている。
【0014】
ここで、ヘテロポリ酸のプロトンは、メタクロレインの分子引き寄せ効果と、ヘテロポリ酸の酸素の供給をうけてのメタクリル酸の酸化に重要な化学構造である。一方、ヘテロポリ酸塩は、プロトンが減少しているためメタクロレインの分子引き寄せ効果は弱く、メタクロレインの反応性は低下する。ところが、ヘテロポリ酸塩は、逐次酸化反応を抑制する効果がある。すなわち、メタクロレインがメタクリル酸に酸化された後さらに酸化反応が継続して燃焼してしまい、一酸化炭素、二酸化炭素、酢酸等が副生する逐次酸化反応を抑制する。その効果により、メタクリル酸の選択性を向上させることができる。
【0015】
前記触媒として更に好ましい触媒としては下記一般式
MoCu
(式中Mo、P、V、CuおよびOはモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素をそれぞれ表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Zは鉄、コバルト、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、ガリウム、バリウム、セリウム、ランタン、砒素、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、アンモニウム、ジルコニウム、錫、鉛、チタン、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a、b、c、d、e、f及びgは各元素の原子比率を表し、a=10とした時、bは0.1以上で4以下、cが0.01以上で4以下、dが0.01以上で1以下、eが0.2以上で2以下、fが0以上で3以下であり、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)
で表されるメタクリル酸製造用触媒が好適に用いられる。
【0016】
αは前記ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中においてのモリブデン10原子に対するアルカリ金属原子の原子比率をA、前記ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩中のモリブデン10原子に対する銅原子の原子比率をB、価数をCとしたとき、
α = A +( B × C )
により算出される。なお、銅原子の価数は使用する原料の価数がそのまま触媒中で維持されている。前記触媒においてa=10とした時、0.5 ≦ α ≦ 1.4であり、好ましくは0.7 ≦ α ≦ 1.1である。αが0.5より小さいと得られる触媒の活性が低下してしまう場合があり、一方、1.7より大きいと得られる触媒の寿命が短くなる傾向がある。
【0017】
前記触媒においてa=10とした時、0.2 ≦ e ≦ 2.0であり、好ましくは0.5 ≦ e ≦ 1.0であり、より好ましくは0.6 ≦ e ≦ 0.9である。eが0.2より小さいと得られる触媒の吸湿性が高く、触媒製造から使用までの間に触媒性能が低下し、メタクリル酸製造の際、満足できる触媒性能が得られないことがあり、一方、2.0より大きいと得られる触媒の寿命が短くなる場合がある。
【0018】
本発明の触媒製造方法は、触媒の活性成分(モリブデン、リン、バナジウム、銅;以下必須成分という)を含有する化合物を含む水溶液または該化合物の水分散体(以下、両者をあわせてスラリーという)を調製し、これを乾燥して得られた乾燥粉末を場合により焼成(以降、この工程を予備焼成と称する)し、次いで成形する工程を含んでいる。なお、成形工程の後に更に焼成工程(本焼成)を設けることもできる。また、本発明において、前記スラリーを調製する際の活性成分を含有する化合物は、必ずしも全ての活性成分を含んでいる必要はなく、一部の成分を前記乾燥の後または前記予備焼成の後に添加してもよい。
【0019】
前記触媒において、必要により用いるその他の活性成分の種類およびその使用割合は、その触媒の使用条件等に合わせて、または最適な性能を示す触媒が得られるように適宜決定されるが、Y成分としてはセシウムを用いるのが好ましい。
【0020】
前記触媒の原料としては、通常、前記触媒に含まれる各元素を含む化合物、例えば、各元素のオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等が、所望の原子比を満たすような割合で用いられる。例えば、リンを含む化合物としては、リン酸、リン酸塩等が用いられ、モリブデンを含む化合物としては、モリブデン酸、モリブデン酸塩、酸化モリブデン、塩化モリブデン等が用いられ、バナジウムを含む化合物としては、バナジン酸、バナジン酸塩、酸化バナジウム、塩化バナジウム等が用いられ、銅を含む化合物としては、硝酸銅、酢酸銅、硫酸銅、塩化銅、酸化銅等が用いられる。また、Y元素を含む化合物としては酸化物、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等が用いられ、Z元素を含む化合物としては、オキソ酸、オキソ酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物等が用いられる。これら触媒に含まれる各元素を含む化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
スラリーは、各活性成分含有化合物と水とを均一に混合して得ることができる。スラリーを調製する際の活性成分含有化合物の添加順序は、モリブデン、バナジウム、リン及び必要により他の金属元素を含有する化合物を充分に溶解し、その後セシウム含有化合物、アンモニウム含有化合物、銅含有化合物を添加するのが好ましい。スラリー調製時にアンチモン含有化合物を添加する場合は、必須の活性成分含有化合物のうち、最後に添加するのが好ましいが、より好ましくは、アンチモン含有化合物以外の活性成分を含有するスラリーを得た後、乾燥し、この粉末とアンチモン含有化合物を混合した後焼成するか、この粉末を焼成したのちアンチモン含有化合物を混合する。スラリーを調製する際の温度は、モリブデン、リン、バナジウム、及び必要により他の金属元素を含有する化合物を充分溶解できる温度まで加熱することが好ましい。また、セシウム含有化合物、アンモニウム含有化合物を添加する際の温度は、通常0〜35℃、好ましくは10〜30℃程度の範囲であるほうが、得られる触媒が高活性になる傾向があるため、10〜30℃まで冷却することが好ましい。スラリーにおける水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はないが、乾燥方法や乾燥条件等を勘案して適宜決定される。通常スラリー調製用化合物の合計質量100質量部に対して、200〜2000質量部程度である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、また完全に乾燥できない場合も生ずる。
【0022】
次いで前記で得られたスラリーを乾燥し、乾燥粉体とする。乾燥方法は、スラリーが完全に乾燥できる方法であれば特に制限はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリー状態から短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリーの濃度、送液速度等によって異なるが概ね乾燥機の出口における温度が70〜150℃である。また、この際得られるスラリー乾燥体の平均粒径が10〜700μmとなるよう乾燥するのが好ましい。
【0023】
得られた乾燥粉体を予備焼成することで成形性、成形触媒の形状および機械的強度が著しく向上する場合があるため、必要に応じて予備焼成を実施する。予備焼成雰囲気は空気気流中でも窒素などの不活性ガス気流中でもよいが、工業的には空気気流中が好ましい。予備焼成の温度は通常200〜400℃であるが、好ましくは250〜380℃で、より好ましくは270〜330℃である。200℃より低い温度で予備焼成しても成形性への影響が少なくなる傾向があり、400℃を超えると触媒が分解・焼結しやすいため、性能に悪影響を及ぼすことがある。予備焼成時間は3〜12時間が好ましく、より好ましくは5〜10時間である。12時間以上焼成しても差し支えないが、それに見合った効果は得られにくい。
【0024】
次いで、得られた予備焼成顆粒を必要に応じ下記のようにして成形するが、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等の成形助剤を混合してから成形すると作業性がよくなり好ましい。成形助剤の使用量は、予備焼成顆粒100質量部に対して通常1〜30質量部である。また、更に必要により触媒成分に対して不活性な、セラミックス繊維、ウイスカー等の無機繊維を強度向上材として用いる事は、触媒の機械的強度の向上に有用である。しかし、チタン酸カリウムウイスカーや塩基性炭酸マグネシウムウイスカーの様な触媒成分と反応する繊維は好ましくない。これら繊維の使用量は、予備焼成顆粒100質量部に対して通常1〜30質量部である。
【0025】
前記のようにして得られた予備焼成顆粒または、これと成形助剤、強度向上材を混合した混合物は、反応ガスの圧力損失を少なくするために、柱状物、錠剤、リング状、球状等に成形し使用する。このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから不活性担体を予備焼成顆粒または混合物で被覆し、被覆触媒とするのが特に好ましい。被覆工程は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここにバインダーと予備焼成顆粒または混合物を添加することにより予備焼成顆粒または混合物を担体に被覆する方法である。バインダーの添加方法は、1)予備焼成顆粒または混合物に予め混合しておく、2)予備焼成顆粒または混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、3)予備焼成顆粒または混合物を固定容器内に添加した後に添加、4)予備焼成顆粒または混合物を固定容器内に添加する前に添加、5)予備焼成顆粒または混合物とバインダーをそれぞれ分割し、2)〜4)を適宜組み合わせて全量添加する等の方法が任意に採用しうる。このうち5)においては、例えば予備焼成顆粒または混合物の固定容器壁への付着、予備焼成顆粒または混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担持されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。
【0026】
バインダーは水及びその1気圧下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、被覆後の乾燥等を考慮すると沸点150℃以下の有機化合物が好ましい。水以外のバインダーの具体例としてはメタノール、エタノール、プロパノール類、ブタノール類等のアルコール、好ましくは炭素数1〜4のアルコール、エチルエーテル、ブチルエーテルまたはジオキサン等のエーテル、酢酸エチル又は酢酸ブチル等のエステル、アセトン又はメチルエチルケトン等のケトン等並びにそれらの水溶液等が挙げられ、特にエタノールが好ましい。バインダーとしてエタノールを使用する場合、エタノール/水=10/0〜0/10(質量比)が好ましく、10/0〜1/9(質量比)がより好ましい。これらバインダーの使用量は、乾燥粉体100質量部に対して通常10〜60質量部、好ましくは15〜40質量部である。
【0027】
本発明において用いうる担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム等の直径1〜15mm、好ましくは2.5〜10mmの球形担体等が挙げられる。これら担体は通常は10〜70%の空孔率を有するものが用いられる。担体と被覆される予備焼成顆粒または混合物の割合は通常予備焼成顆粒または混合物/(予備焼成顆粒または混合物+担体)=10〜75質量%、好ましくは15〜60質量%となる量使用する。このようにして予備焼成顆粒または混合物を担体に被覆するが、この際得られる被覆品は通常直径が3〜15mm程度である。
【0028】
前記のようにして得られた被覆触媒はそのまま触媒として気相接触酸化反応に供することができるが、焼成すると触媒活性が向上する場合があり好ましい。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、用いる触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、通常、100〜450℃、好ましくは270〜420℃、焼成時間は1〜20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。上記のようにして得られた触媒(以下本発明の触媒という)は、メタクロレイン、イソブチルアルデヒドまたはイソ酪酸を気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造に用いられる。
【0029】
以上のような本発明のメタクリル酸製造用触媒は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率かつ長寿命で製造できる触媒となる。この理由としては、上述のようにαはメタクリル酸の選択性、Y成分の原子比率は触媒の吸湿性に影響を及ぼしており、αが上記の範囲内にある場合、メタクリル酸を製造する反応に有効な化学構造が得られるためと推測している。αの値が小さいほどメタクリル酸の選択性は向上するが、Y成分の原子比率が0.2より小さくなるとヘテロポリ酸のカウンターカチオンの大部分がプロトンとなり、吸湿性が高くなってしまう。
【0030】
以下、本発明で得られる触媒を使用するのに最も好ましい原料である、メタクロレインを使用した気相接触反応につき説明する。気相接触酸化反応には分子状酸素又は分子状酸素含有ガスが使用される。メタクロレインに対する分子状酸素の使用割合は、モル比で0.5〜20の範囲が好ましく、特に1〜10の範囲が好ましい。反応を円滑に進行させることを目的として、原料ガス中に水をメタクロレインに対しモル比で1〜20の範囲で添加することが好ましい。原料ガスは酸素、必要により水(通常水蒸気として含む)の他に窒素、炭酸ガス、飽和炭化水素等の反応に不活性なガス等を含んでいてもよい。また、メタクロレインはイソブチレン、第三級ブタノール、及びメチルターシャリーブチルエーテルを酸化して得られたガスをそのまま供給してもよい。気相接触酸化反応における反応温度は通常200〜400℃、好ましくは250〜360℃、原料ガスの供給量は空間速度(SV)にして、通常100〜6000hr−1、好ましくは300〜3000hr−1である。また、接触酸化反応は加圧下または減圧下でも可能であるが、一般的には大気圧付近の圧力が適している。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが本発明はその趣旨を逸脱しない限り実施例に限定されるものではない。
なお下記において転化率および収率は次の通りに定義される。
メタクロレイン転化率=(供給したメタクロレインモル数−未反応メタクロレインモル数)/供給したメタクロレインモル数×100
メタクリル酸収率=(生成したメタクリル酸モル数−供給したメタクリル酸モル数)/供給したメタクロレインモル数×100
メタクリル酸選択率=(生成したメタクリル酸モル数―供給したメタクリル酸モル数)/(供給したメタクロレインモル数−未反応メタクロレインモル数)×100
【0032】
実施例1
1)触媒の調製
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム40.43g、及び85質量%正燐酸73.67gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液307.9gと、14.3質量%の酢酸アンモニウム水溶液689.0gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。続いて、さらにそのスラリーに6.3質量%の酢酸第二銅水溶液709.9gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo100.81.15Cu0.4Cs0.3(NH2.3である。この顆粒320gを空気流通下310℃で5時間かけて焼成し予備焼成顆粒を得た。予備焼成により約4質量%の質量減があった。これに三酸化アンチモン22.7gと強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに20質量%エタノール水溶液をバインダーとして、転動造粒法により被覆成形した。次いで得られた成形物を空気流通下において380℃で5時間かけて本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。得られた触媒の組成はMo100.81.15Cu0.4Cs0.3(NH2.3Sb1.0である。また、このときα=1.1である。
【0033】
2)メタクロレインの部分酸化反応
得られた被覆触媒10.3mlを内径18.4mmのステンレス反応管に充填し、原料ガス組成(モル比)メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=1:2:4:18.6、空間速度(SV)1200hr−1、反応浴温度310℃で、メタクロレインの酸化反応を実施した。反応は、最初反応浴温度310℃で3時間反応を続け、次いで反応浴温度を350℃に上げ15時間反応を続けた(今後この処理を高温反応処理という)。次いで反応浴温度を310℃に下げて反応成績の測定を行った。結果を表1に示す。
【0034】
吸湿量測定
得られた被覆触媒100gをシャーレに仕込み、25℃にて飽和蒸気圧としたデシケーター内にて24時間静置した。その後、被覆触媒の重量を測定したところ102.39gであった。すなわち吸湿した水の割合は触媒活性成分に対して5.20%、単位時間当たりに乾燥重量100gの触媒活性成分が吸湿した水は0.22g/hとなり、以降この値を吸湿量と表現し、表2に表記する。
【0035】
前記吸湿量測定後の触媒を120℃の乾燥機内にて24時間乾燥し、得られた被覆触媒10.3mlを内径18.4mmのステンレス反応管に充填し、原料ガス組成(モル比)メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=1:2:4:18.6、空間速度(SV)1200hr−1、反応浴温度310℃で、メタクロレインの酸化反応を実施した。反応は、最初反応浴温度310℃で3時間反応を続け、次いで反応浴温度を350℃に上げ15時間反応を続けた(今後この処理を高温反応処理という)。次いで反応浴温度を310℃に下げて反応成績の測定を行った。結果を表1に示す。
【0036】
実施例2
実施例1において予備焼成温度を290℃とした以外は実施例1と同様の方法で被覆触媒を調製した。得られた触媒の組成はMo100.81.15Cu0.4Cs0.3(NH2.3Sb1.0である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0037】
実施例3
実施例1において予備焼成顆粒320g、三酸化アンチモン11.35g、強度向上剤(セラミック繊維)45gを均一に混合した以外は実施例1と同様の方法で被覆触媒を調製した。得られた触媒の組成はMo100.81.15Cu0.4Cs0.3(NH2.3Sb0.5である。また、このときα=1.1である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0038】
実施例4
実施例1において予備焼成顆粒320g、三酸化アンチモン40.9g、強度向上剤(セラミック繊維)45gを均一に混合した以外は実施例1と同様の方法で被覆触媒を調製した。得られた触媒の組成はMo100.81.15Cu0.4Cs0.3(NH2.3Sb1.8である。また、このときα=1.1である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0039】
実施例5
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム30.33g、及び85質量%正燐酸73.67gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液661.3gと、14.3質量%の酢酸アンモニウム水溶液689.0gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。続いて、さらにそのスラリーに9.5質量%の酢酸第二銅水溶液232.9gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo100.61.15Cu0.2Cs0.7(NH2.3である。この顆粒320gを空気流通下310℃で5時間かけて焼成し予備焼成顆粒を得た。予備焼成により約4質量%の質量減があった。これに強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに20質量%エタノール水溶液をバインダーとして、転動造粒法により被覆成形した。次いで得られた成形物を空気流通下において380℃で5時間かけて本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。得られた触媒の組成はMo100.61.15Cu0.2Cs0.7(NH2.3である。また、このときα=1.1である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0040】
実施例6
実施例5において純水をバインダーとして使用した以外は実施例5と同様の方法で被覆触媒を調製した。得られた触媒の組成はMo100.61.15Cu0.2Cs0.7(NH2.3である。また、このときα=1.1である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0041】
実施例7
実施例5において90質量%エタノール水溶液をバインダーとして使用した以外は実施例5と同様の方法で被覆触媒を調製した。得られた触媒の組成はMo100.61.15Cu0.2Cs0.7(NH2.3である。また、このときα=1.1である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0042】
実施例8
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム30.33g、及び85質量%正燐酸76.87gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液321.2gと、50質量%の酢酸アンモニウム水溶液196.86gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。続いて、さらにそのスラリーに酢酸第二銅22.18gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo100.61.2Cu0.2Cs0.3(NH2.3である。また、このときα=0.7である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応を行なった。結果を表1に示す。
【0043】
比較例1
純水7100mlに三酸化モリブデン1000gと五酸化バナジウム75.81g、85質量%正燐酸88.08g、および酸化銅11.05gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌してスラリーを得た。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo101.21.1Cu0.2である。この顆粒320gに強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに90質量%エタノール水溶液をバインダーとして被覆成形した。次いで得られた成形物を空気流通下において310℃で5時間の本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。得られた触媒の組成はMo101.21.1Cu0.2である。また、このときα=0.4である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0044】
比較例2
純水10000mlに三酸化モリブデン1000gと五酸化バナジウム37.91g、85重量%燐酸水溶液96.09g、60重量%砒酸水溶液65.73g、酸化第二銅22.1gを添加し、92℃で3時間攪拌してスラリーを得た。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo100.61.2As0.4Cu0.4である。この顆粒320gに強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに90質量%エタノール水溶液をバインダーとして被覆成形した。次いで得られた成形物を空気流通下において310℃で5時間の本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。得られた触媒の組成はMo100.61.2As0.4Cu0.4である。また、このときα=0.8である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0045】
比較例3
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム35.38g、及び85質量%正燐酸73.67gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液94.49gと、14.3質量%の酢酸アンモニウム水溶液988.6gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。続いて、さらにそのスラリーに6.3質量%の酢酸第二銅水溶液465.9gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo100.71.15Cu0.4Cs0.1(NH2.3である。この顆粒320gを空気流通下310℃で5時間かけて焼成し予備焼成顆粒を得た。予備焼成により約4質量%の質量減があった。これに強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに20質量%エタノール水溶液をバインダーとして、転動造粒法により被覆成形した。次いで得られた成形物を空気流通下において380℃で5時間かけて本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。得られた触媒の組成はMo100.71.15Cu0.4Cs0.1(NH3.3である。また、このときα=0.9である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0046】
比較例4
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム35.38g、及び85質量%正燐酸73.67gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液850.32gと、14.3質量%の酢酸アンモニウム水溶液689.0gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。続いて、さらにそのスラリーに9.5質量%の酢酸第二銅水溶液233.6gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo100.71.15Cu0.2Cs1.1(NH2.3である。この顆粒320gを空気流通下310℃で5時間かけて焼成し予備焼成顆粒を得た。予備焼成により約4質量%の質量減があった。これに強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに20質量%エタノール水溶液をバインダーとして、転動造粒法により被覆成形した。次いで得られた成形物を空気流通下において380℃で5時間かけて本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。得られた触媒の組成はMo100.71.15Cu0.2Cs1.1(NH2.3である。また、このときα=1.5である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応と吸湿量測定を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0047】
比較例5
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム30.33g、及び85質量%正燐酸76.87gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液94.5gと、50質量%の酢酸アンモニウム水溶液196.86gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。続いて、さらにそのスラリーに酢酸第二銅11.09gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo100.61.2Cu0.1Cs0.1(NH2.3である。また、このときα=0.3である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0048】
比較例6
純水5680mlに三酸化モリブデン800gと五酸化バナジウム40.43g、及び85質量%正燐酸73.67gを添加し、92℃で3時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を15〜20℃に冷却して、撹拌しながら9.1質量%の水酸化セシウム水溶液944.8gと、50質量%の酢酸アンモニウム水溶液205.42gを徐々に添加し、15〜20℃で1時間熟成させて黄色のスラリーを得た。続いて、さらにそのスラリーに酢酸第二銅44.37gを徐々に添加し、さらに15〜20℃で30分熟成した。続いて、このスラリーを噴霧乾燥し顆粒を得た。得られた顆粒の組成はMo100.81.15Cu0.4Cs1.0(NH2.4である。この顆粒320gを空気流通下310℃で5時間かけて焼成し予備焼成顆粒を得た。予備焼成により約4質量%の質量減があった。これに三酸化アンチモン21.0gと強度向上材(セラミック繊維)45gとを均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)300gに20質量%エタノール水溶液をバインダーとして、転動造粒法により被覆成形した。次いで得られた成形物を空気流通下において380℃で5時間かけて本焼成を行い目的とする被覆触媒を得た。得られた触媒の組成はMo100.81.15Cu0.4Cs1.0(NH2.4Sb1.0である。また、このときα=1.8である。この被覆触媒を使用した以外は、実施例1と同様にメタクロレイン酸化反応を行なった。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
試験例1
実施例1で得られた被覆触媒6.9mlを内径18.4mmのステンレス反応管に充填し、原料ガス組成(モル比)メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=1:2:4:18.6、空間速度(SV)1800hr−1となるように供給した。反応開始後、メタクロレイン転化率が75%±2%になるように反応浴温度を調節しながらメタクロレインの部分酸化反応を継続した。
反応開始後800時間後のメタクロレイン酸化反応の結果は反応浴温度344℃ホットスポット温度355℃、メタクロレイン転化率75.5%、メタクリル酸収率62.3%、メタクリル酸選択率82.7%であった。
【0053】
試験例2
実施例5で得られた被覆触媒6.9mlを内径18.4mmのステンレス反応管に充填し、原料ガス組成(モル比)メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=1:2:4:18.6、空間速度(SV)1800hr−1となるように供給した。反応開始後、メタクロレイン転化率が75%±2%になるように反応浴温度を調節しながらメタクロレインの部分酸化反応を継続した。
反応開始後800時間後のメタクロレイン酸化反応の結果は反応浴温度325℃ホットスポット温度336℃、メタクロレイン転化率75.7%、メタクリル酸収率63.4%、メタクリル酸選択率83.8%であった。
【0054】
試験例3
比較例4で得られた被覆触媒6.9mlを内径18.4mmのステンレス反応管に充填し、原料ガス組成(モル比)メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=1:2:4:18.6、空間速度(SV)1800hr−1となるように供給した。反応開始後、メタクロレイン転化率が75%±2%になるように反応浴温度を調節しながらメタクロレインの部分酸化反応を継続した。
反応開始後800時間後のメタクロレイン酸化反応の結果は反応浴温度346℃ホットスポット温度359℃、メタクロレイン転化率75.1%、メタクリル酸収率58.7%、メタクリル酸選択率78.2%であった。
【0055】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2011年11月17日付で出願された日本特許出願(特願2011−251386)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、メタクリル酸を製造する際に用いられる触媒において、性能、寿命、またさらに工業的使用に特に重要となる保存時の吸湿の点において、より優れたものとすることが可能となった。
本発明の触媒は、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド及びイソ酪酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を、酸化触媒組成物の存在下に、分子状酸素含有ガスを用いて気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に有用である。