【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、79GHz帯レーダーシステムの高度化に関する研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
S.Z. Budisin,“Efficient pulse compressor for Golay complementarysequences”,the technical journal Electronics Letters,1991年 1月,Vol. 27, No. 3,pp. 219, 220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本開示の各実施形態の内容に至る経緯>
先ず、本開示に係る無線通信装置の各実施形態を説明する前に、本開示に係る無線通信装置の各実施形態の内容に至る経緯を説明する。
【0014】
実際の無線通信装置におけるアンテナ放射パターンは、無線通信装置の筐体の形状及び材質の影響を受けて変化する。従って、アンテナ単体を用いて計測しても、正しいアンテナ放射パターンの把握は困難である。
【0015】
アンテナ放射パターンが最適でないと、通信性能が劣化する。また、アンテナの指向性を制御するビームフォーミング技術を用いても、個々のアンテナ放射パターンが最適でないために高周波特性がばらつき、ビームの放射パターンが変化して通信性能が劣化する。
【0016】
従って、実際の無線通信装置の通信性能の劣化を防止するためには、最終的に出荷される状態の無線通信装置から放射される電波の放射パターンを計測する必要がある。
【0017】
しかし、実際に無線通信装置から放射される電波をセンサにて検出する場合、特に短距離において通信するWiGig無線機では、直接波と近傍の物体において反射された反射波との分離が困難である。従って、反射波の影響を受けないためには、WiGig無線機を電波暗室に持ち込み、計測しなければならなかった。
【0018】
現実には、WiGig無線機の開発担当者が設計を検討する際に、又は、工場出荷時の指向性調整の際に、アンテナ放射パターンを計測する必要がある。また、例えば筐体の形状及び材質を変更した場合には、アンテナ放射パターンを再度、計測する必要がある。計測の度に、電波暗室を用意して電波暗室内に機器を持ち込むことは、製造コストの増大及び開発期間の長期化に繋がる。
【0019】
従って、WiGig無線機を電波暗室に持ち込まずに、アンテナ放射パターンを計測するために、特許文献1におけるパルス圧縮技術を採用することが考えられる。しかし、パルス圧縮技術では、受信側(センサ側)において受信パルス信号の相関を検出するために、パルス圧縮信号をWiGig無線機から放射する必要がある。なお、パルス圧縮信号は、一般的な無線通信では用いられないため、特別な回路をWiGig無線機に実装する必要がある。この特別な回路は、一般的には比較的規模が大きく、WiGig無線機の開発工数の増大及び製造コストが上昇する。
【0020】
そこで、以下の各実施形態では、簡単な構成によって、アンテナからの放射パターンを計測するためのパルス圧縮信号を生成する無線通信装置の例を説明する。
【0021】
本開示の無線通信装置に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0022】
<第1実施形態>
(無線通信装置)
図1は、第1の実施形態の無線通信装置としてのWiGig無線機20の内部構成を示すブロック図である。WiGig無線機20は、Wireless Gigabit Allianceが策定したWiGigの仕様に従って動作する。無線通信に用いられる周波数帯は、ミリ波帯であって、例えば60GHz帯である。無線通信可能な距離は10m程度である。なお、
図1においては、WiGig無線機20の送信系統の主要部分を示し、その他の回路の図示を省略する。
【0023】
図1に示すWiGig無線機20は、アンテナ21、RF部22、DAC(Digital Analog Converter)23、変調部24、セレクタ部25、マスク回路部30及びマスクタイミング生成部31を含む構成である。
【0024】
変調部24は、WiGig規格の信号フレームを生成し、生成された信号フレームを変調信号としてマスク回路部30に出力する。DAC23は、変調部24からマスク回路部30を経由して入力されたデジタルの変調信号を、アナログ信号に変換してRF部22に出力する。
【0025】
RF(Radio Frequency)部22は、DAC23から出力されたアナログ信号を高周波信号に変換してアンテナ21に供給する。RF部22から出力された高周波信号は、アンテナ21を介して、電磁波として空間に放射される。
【0026】
本実施形態において、WiGig無線機20から放射される電波の放射パターンの計測では、反射波が生じる環境でも反射波の影響が抑制され、正しく電波の放射パターンを計測するために、WiGig無線機20はパルス圧縮信号を用いる。パルス圧縮信号を用いるためには、受信側(
図1中のセンサ10)は、公知の相関器を用いて受信パルスの相関値を算出する。従って、受信側が相関検出するために、WiGig無線機20は、データ通信時とは異なるパルス圧縮信号を送出する。
【0027】
具体的には、WiGig無線機20は、同じ時間幅のパルスが一定の周期にて繰り返し現れる信号をパルス圧縮信号として送信する。パルス圧縮信号には既知の符号が用いられる。受信側は、受信パルスの自己相関を算出す、パルス圧縮信号を抽出する。受信側の相関検出により抽出されるパルス圧縮信号の時間幅は、WiGig無線機20が送信したパルスの時間幅よりも短い。これにより、到達時間差の小さい直接波と反射波との分離が容易になる。
【0028】
セレクタ部25は、変調部24が生成する信号の変調に用いるパラメータを、外部制御信号CON1に従って選択する。具体的には、WiGig無線機20では、パラメータとして通信用パラメータP1とセンサ用パラメータP2との2種類が予め用意され、セレクタ部25は、これらのうち、いずれか一方を選択する。センサ用パラメータP2には、例えばWiGig無線機20が送信する信号フレームに含まれ、且つ、データ本体の長さがデータ通信時よりも短い値を割り当てる。これにより、WiGig無線機20は、アンテナ放射パターンの計測に、より適したパルス圧縮信号を送信できる。
【0029】
外部制御信号CON1は、WiGig無線機20におけるデータ通信モードと、アンテナ放射パターンを測定するための測定モードとを切り替える制御信号である。外部制御信号CON1の状態は、ユーザの操作(例えば、ボタン操作)により切り替えられても良いし、外部から制御コマンドの入力により切り替えられても良い。
【0030】
マスク回路部30は、変調部24が出力する変調出力信号SSG1を、マスク制御信号SSG2に従って部分的にマスク処理する。マスク回路部30は、マスクされた結果の信号をマスク回路出力信号SSG3として出力する。即ち、マスク回路部30は、変調出力信号SSG1を部分的にマスク処理し、パルス圧縮信号としてのマスク回路出力信号SSG3を生成する。
【0031】
マスクタイミング生成部31は、マスク回路部30がマスク処理する制御タイミングを知らせるマスク制御信号SSG2を生成する。マスクタイミング生成部31は、外部制御信号CON1が、アンテナ放射パターンを測定する測定モードを表す場合には、マスク回路部30の制御タイミングを知らせるマスク制御信号SSG2を出力する。マスクタイミング生成部31は、外部制御信号CON1が、データ通信モードを表す場合には、マスク回路部30にマスク処理を禁止させる。
【0032】
(センサ10)
図2は、
図1に示した無線通信装置のアンテナ放射パターンを計測するセンサの内部構成を示すブロック図である。
【0033】
図2に示すセンサ10は、WiGig無線機20が送信したパルス圧縮信号を受信することにより、電波の放射パターンを測定する。
【0034】
図2に示すセンサ10は、送信部11及び受信部12を含む構成である。送信部11が送信する信号はアンテナ10aから放射される。アンテナ10aから放射された電波の直接波及び任意の物体により反射した反射波がアンテナ10bに到達し、受信部12にて受信される。
【0035】
本実施形態では、センサ10がWiGig無線機20のアンテナ放射パターンを測定する場合には、送信部11を用いず、WiGig無線機20から放射された電波を、アンテナ10bを介して受信する。
【0036】
送信部11は、パルス圧縮波生成部13、DAC14及び送信RF部15を含む構成である。パルス圧縮波生成部13は、受信部12の相関検出に適したパルス圧縮波(パルス圧縮信号)を生成する。DAC14は、パルス圧縮波生成部13が生成した信号をデジタル信号からアナログ信号に変換して送信RF部15に出力する。送信RF部15は、センサ10内のローカル信号(不図示)を基に、DAC14から出力されたアナログ信号を高周波信号に変換してアンテナ10aに供給する。
【0037】
受信部12は、受信RF部16、ADC(Analog Digital Converter)17、相関器18及び信号処理部19を含む構成である。
【0038】
受信RF部16は、アンテナ10bにより受信された電波の高周波信号を入力し、センサ10内のローカル信号(不図示)を基に、所定の信号処理により、低周波のアナログ受信信号に変換する。ADC17は、受信RF部16から出力されたアナログ受信信号をデジタル受信信号に変換する。
【0039】
相関器18は、ADC17から出力されたデジタル受信信号について、所定の相関処理を行う。例えば、パルス圧縮波生成部13が生成するパルス圧縮波のように、一定の周期にて繰り返し現れる同じ時間幅のパルス信号がデジタル受信信号として入力される場合には、十分な自己相関出力が得られる。
【0040】
相関器18の出力に得られる信号は、例えば
図8に示す特性になって現れる。
図8は、センサ10における受信相関出力特性の具体例を示すグラフである。即ち、送信部11が電波を送信してから、対応する受信波が相関器18の出力に現れるまでの経過時間は、電波伝搬距離の違いにより、直接波と各反射波とにおいて異なる。直接波と各反射波との時間差が小さい場合には、これらの分離が困難になる。
【0041】
しかし、相関器18が相関処理することにより、相関処理の出力として得られるピーク波形の時間幅は、送信されたパルス信号の幅に対して十分に短い。従って、直接波と反射波とを小さい時間差にて受信する場合でも、
図8では直接波と反射波とを明確に分離できる。
【0042】
信号処理部19は、相関器18の出力信号(
図8参照)から、必要な情報を取得する。例えば、信号処理部19は、相関器18から信号処理部19に入力される信号のピーク位置を基に、直接波及び各反射波のそれぞれを特定し、直接波の受信レベル及び各反射波の受信レベルを検出する。
【0043】
(WiGig規格の無線機における通信信号の形式)
送信される高周波信号のパケットは、次に示す様々なフィールドを含む構成である。
1.STF(Short Training Field)
2.CEF(Channel Estimation Field)
3.ヘッダ
4.データ
5.TRN−R/Tサブフィールド
【0044】
また、送信するパケットには共通のプリアンブルが存在する。プリアンブルは、次の用途に用いられる。
1.パケットの検出
2.AGC(Automatic Gain Control)
3.周波数オフセット推定
4.同期変調の明示
5.チャネル推定
【0045】
プリアンブルの構成を
図3に示す。
図3は、WiGig無線機20がデータ通信時に送信する信号フレームのプリアンブルのフォーマットを示す模式図である。
図3に示すプリアンブルは、STF(Short Training Field)及びCEF(Channel Estimation Field)を含む構成である。
【0046】
プリアンブルのSTFは、各々の長さが128bitの14個のゴレイ(Golay)符号Ga
128(n)が繰り返されるシーケンスと、1個のゴレイ符号−Ga
128(n)とを用いて構成されている。従って、STF全体の長さは1920bit(1単位はTc)である。STFの波形は数式(1)により表される。
【0048】
プリアンブルのCEFは、1組となる2つの相補符号であるゴレイ符号シーケンスGu
512(n),Gv
512(n)を連結した構成である。Gu
512(n),Gv
512(n)は、数式(2)により表される。
【0050】
(パルス圧縮信号の生成)
相関検出に適した既知の繰り返し信号は、パルス圧縮信号として用いることができる。
図3に示すプリアンブルのSTFは、ゴレイ符号が繰り返されたゴレイ符号シーケンスが含まれる。本実施形態では、WiGig無線機20は、繰り返されたゴレイ符号シーケンスの一部分の抽出により、パルス圧縮信号を生成できる。
【0051】
即ち、マスク回路部30は、変調出力信号SSG1をマスクし、プリアンブルの一部分を抽出し、パルス圧縮信号としてのマスク回路出力信号SSG3を出力する。つまり、マスク回路部30は、プリアンブルの一部分のマスク処理により、アンテナ放射パターンの測定に用いるパルス圧縮信号を生成できる。
【0052】
なお、本実施形態を含む各実施形態において、WiGig無線機20とセンサ10とは、測定モードでは通信のネゴシエーションが事前に処理済である。従って、WiGig無線機20がパルス圧縮信号としてのマスク回路出力信号SSG3を送信するタイミング及び受信するタイミングは、センサ10において既知である。
【0053】
図4は、WiGig無線機20がパルス圧縮信号を生成する動作を示すタイムチャートである。
図4に示す動作は、外部制御信号CON1によりアンテナ放射パターンを測定する測定モードにおいて実行される。即ち、マスクタイミング生成部31は、外部制御信号CON1を基に、マスク制御信号SSG2を生成する。マスク回路部30は、マスク制御信号SSG2に従って、パルス圧縮信号としてのマスク回路出力信号SSG3を生成する。
【0054】
図4において、マスク制御信号SSG2の高レベル(H)がマスク状態を表し、マスク制御信号SSG2の低レベル(L)がマスク解除状態を表す。
図4に示す例では、マスク制御信号SSG2は、変調出力信号SSG1のプリアンブル内のSTFの一部分を断続的にマスクし、STF以外の部分に対しては全てマスクしている。
【0055】
これにより、マスク回路部30は、プリアンブル内のSTFから、ゴレイ符号シーケンスを断続的に抽出する。その結果、マスク回路出力信号SSG3には、複数個の同じゴレイ符号Ga
128(n)が周期的に繰り返し現れる。この信号をWiGig無線機20が送信すると、センサ10は、相関器18にて、同じゴレイ符号Ga
128(n)の繰り返しパターンに対して、
図8に示す相関出力を得る。つまり、WiGig無線機20は、アンテナ放射パターンの計測に必要となるパルス圧縮信号をセンサ10に対して送信できる。
【0056】
図4に示す例では、マスク制御信号SSG2はSTFにてゴレイ符号Ga
128(n)の1周期の区間Tを1単位として、マスク解除区間とマスク区間とを交互に繰り返し切り替えている。
マスク解除区間(T)→マスク区間(6T)→マスク解除区間(T)→マスク区間(6T)→マスク解除区間(T)→・・・。
【0057】
マスク区間の長さ(6T)については、実際の測定条件におけるWiGig無線機20とセンサ10との距離に応じて、適切な相関出力が得られるように適宜変更すればよい。
【0058】
マスクタイミング生成部31が生成するマスク制御信号SSG2のタイミングについては、WiGig規格の送信用の信号フレームを生成する制御部(例えば、変調部24)の動作タイミングと同期することにより生成できる。
【0059】
(アンテナ放射パターンの測定方法)
図1では、WiGig無線機20の周囲にセンサ10を配置する。ここで、センサ10は、送信部11の動作を停止し、受信部12を動作させる。また、WiGig無線機20に入力する外部制御信号CON1を切り替えて、WiGig無線機20の動作モードをデータ通信モードから、アンテナ放射パターンを測定する測定モードに切り替える。
【0060】
セレクタ部25は、外部制御信号CON1を基に、アンテナ放射パターンの測定に適したセンサ用パラメータP2を選択して変調部24に出力する。マスクタイミング生成部31は、外部制御信号CON1を基に、マスク制御信号SSG2の生成を開始する。マスク回路部30は、マスク制御信号SSG2に従って変調出力信号SSG1を断続的にマスク処理し、プリアンブルのSTFのゴレイ符号シーケンスを、マスク回路出力信号SSG3として断続的に出力する。
【0061】
これにより、WiGig無線機20は、相関検出に適したパルス圧縮信号を送信できる。また、WiGig無線機20から放射された電波をセンサ10が検出する。センサ10の受信部12では、繰り返しパターンとして受信するパルス圧縮信号、つまり
図4に示すマスク回路出力信号SSG3に対して、大きな相関値が相関器18の出力として得られる。相関値においては、
図8に示すように、直接波及び反射波のそれぞれについて、互いに異なる時間にピークを有する。このため、センサ10は、直接波及び反射波をそれぞれ独立して検出できる。
【0062】
つまり、一般的な実験室内のような、反射波が生じる環境におけるアンテナ放射パターンの測定であっても、WiGig無線機20から放射された電波の直接波を、反射波とは分離した状態にてセンサ10が検出できる。従って、電波暗室内にWiGig無線機20を持ち込むことなく、アンテナ放射パターンを測定できる。
【0063】
また、WiGig無線機20自身がパルス圧縮信号を送信するため、アンテナ単独の特性ではなく、筐体の最終形状及び材質の影響を含めたWiGig無線機20全体の実際のアンテナ放射パターンを測定できる。
【0064】
即ち、
図1に示すWiGig無線機20は、マスク回路部30及びマスクタイミング生成部31を追加することによって、アンテナ放射パターンの測定に適したパルス圧縮信号を送信できる。
【0065】
<第2実施形態>
(無線通信装置)
図5は、第2実施形態の無線通信装置としてのWiGig無線機20BBの内部構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1実施形態の変形例である。
図5に示すWiGig無線機20BBにおいて、第1実施形態のWiGig無線機20と対応する構成要素は同じ符号を付して、説明を省略する。
【0066】
図5に示すWiGig無線機20BBは、アンテナ21、RF部22、DAC23、変調部24B、セレクタ部25、マスク回路部30及びマスクタイミング生成部31を含む構成である。即ち、変調部24Bが第1実施形態に示す変調部24と異なる。
【0067】
変調部24Bは、ゴレイ信号生成部(
図5では「FGCF」と表記)40及びセレクタ部41を含む構成である。
【0068】
ゴレイ信号生成部40は、WiGig規格に適合する無線機の変調部として実装される。Golay信号を効率よく生成するために、ゴレイ信号生成部40は、例えばFGCF(Fast Golay Correlator Filter)、即ち、高速ゴレイ相関器フィルタを用いて構成されている。ゴレイ信号生成部40の回路構成例を
図7に示す。
図7は、ゴレイ信号生成部40の具体的な構成例を示すブロック図である。
図7の回路構成については、例えば下記の参考非特許文献1に詳述されているため、説明を省略する。
【0069】
(参考非特許文献1)"EFFICIENT PULSE COMPRESSOR FOR GOLAY COMPLEMENTARY SEQUENCES", ELECTRONICS LETTERS 31st, Vol.27 No.3 p219-220., January 1991
【0070】
ゴレイ信号生成部40は、1組となる2つの相補符号(GaとGb)を、2系統の出力として同時に生成する。
【0071】
セレクタ部41は、ゴレイ信号生成部40が出力する2系統の出力、即ち互いに相補関係にある相補符号であるゴレイ符号Ga,Gbを、マスクタイミング生成部31から出力されるマスク制御信号SSG2のタイミングに従って選択する。
【0072】
従来のWiGig無線機はプリアンブルのSTFにおいてゴレイ符号Gaを用いるが、本実施形態のWiGig無線機20BBのセレクタ部41は、ゴレイ信号生成部40が同時に生成するゴレイ符号Gbを選択的に用いる。
【0073】
(パルス圧縮信号の生成)
図6は、
図5のWiGig無線機20BBがパルス圧縮信号を生成する動作を示すタイムチャートである。
【0074】
セレクタ部41は、ゴレイ信号生成部40からの2系統の出力信号SSG5a,SSG5bを、マスクタイミング生成部31からの制御信号SSG21に従って交互に選択する。SSG5aはゴレイ符号Gaの出力に対応し、SSG5bはゴレイ符号Gbの出力に対応する。
【0075】
マスクタイミング生成部31は、マスク制御信号SSG2を基に、制御信号SSG21の内容(H又はL)を決定する。セレクタ部41は、制御信号SSG21が高レベルH(Hi)では、ゴレイ符号Gaを選択する旨の出力信号SSG5aを選択し、出力信号SSG5aを基にして、ゴレイ符号Gaをセレクタ出力信号SSG4として出力する。セレクタ部41は、制御信号SSG21が低レベルL(Low)では、ゴレイ符号Gbを選択する旨の出力信号SSG5bを選択し、出力信号SSG5bを基にして、ゴレイ符号Gbをセレクタ出力信号SSG4として出力する。
【0076】
制御信号SSG21の内容(H又はL)は、制御信号SSG21が高レベルHから低レベルLに切り替わるタイミングにおいて交互に切り替わる。即ち、マスクタイミング生成部31がマスクを解除する度に、セレクタ部41は、交互にゴレイ符号GaとGbとの選択を切り替える。
【0077】
その結果、マスク回路出力信号SSG3Bには、
図6では、互いに相補関係にあるゴレイ符号GaとGbとが交互に、かつ断続的に現れる。
図6に示した例では、ゴレイ符号Ga,Gbの1周期(T)の7倍の時間間隔(7T)にて、制御信号SSG21の状態(H又はL)が切り替わる。従って、マスク回路出力信号SSG3Bの状態は繰り返し変化する。
マスク解除区間(符号Ga:T)→マスク区間(6T)→マスク解除区間(符号Gb:T)→マスク区間(6T)→マスク解除区間(符号Ga:T)→マスク区間(6T)→マスク解除区間(符号Gb:T)→マスク区間(6T)→・・・。
【0078】
WiGig無線機20BBは、アンテナ放射パターンの測定において、互いに相補符号の関係にあるゴレイ符号GaとGbとをパルス圧縮信号として交互に送信できる。
【0079】
センサ10は、センシング処理、即ちWiGig無線機20から送信される電波のアンテナ放射パターンの測定において受信したゴレイ符号GaとGbの相補符号の信号を加算することにより、相関特性としてサイドローブ特性をキャンセルできる。そのため、本実施形態では、第1実施形態と比べて、より良好な相関特性が得られる。つまり、本実施形態では、センサ10は、WiGig無線機20BBのアンテナ放射パターンを、より高精度に検出できる。
【0080】
従って、WiGig無線機20BBに上記回路の追加によって、無線機自体からパルス圧縮信号の電波を放射できる。従って、アンテナ単体の放射特性ではなく、最終的なWiGig無線機全体のアンテナ放射パターンを測定できる。また、パルス圧縮信号を用いることにより、アンテナ放射パターンの測定時に反射波の影響を排除できる。つまり、電波暗室以外の反射波が生じる環境であっても、アンテナ放射パターンを測定できる。
【0081】
なお、WiGig無線機が送信するパケットのプリアンブルの構成は、
図3に示すプリアンブルの構成に限定されず、パルス圧縮信号を生成するためには長いサイズのプリアンブルである方が好ましく、例えばCONTROL−PHYと呼ばれる信号フレームのプリアンブルの構成でも良い。CONTROL−PHYについて、
図9及び
図10を参照して説明する。
【0082】
図9は、CONTROL−PHYの信号フレームのフォーマットを示す図である。
図9に示すCONTROL−PHYの信号フレームは、プリアンブルPR、ヘッダHD、ペイロードPD、及びTRN−NTの各領域を含む構成である。TRN−NTの領域はオプションである。
図10は、CONTROL−PHYの信号フレームのプリアンブルのフォーマットを示す模式図である。
【0083】
図10に示すプリアンブルPRは、STF及びCEFを含む構成である。プリアンブルPRのSTFは、各々の長さが128bitの38個のゴレイ(Golay)符号Gb
128(n)が繰り返されるシーケンスと、1個のゴレイ符号−Gb
128(n)と、1個のゴレイ符号−Ga
128(n)とを用いて構成されている。従って、STF全体の長さは、
図3に示すプリアンブルのSTFより長く、5120bitである。STFの波形は数式(3)により表される。CEFについては、
図3に示すプリアンブルの構成と同様のため、説明を省略する。
【0085】
また、上述した各実施形態のWiGig無線機は、WiGig規格に適した信号フレームを1回送信するが、送信回数は1回に限定されず、例えば最小のペイロードを有するWiGig規格に適した信号フレームを連続して送信し続けても良い。
また、上述した各実施形態のWiGig無線機は、WiGig規格に適した信号フレームのプリアンブルのみ、若しくはヘッダのみを繰り返して送信し続けても良い。これにより、WiGig無線機は、ペイロードのサイズを省いたより小さいサイズのパルス圧縮信号を送信でき、センサにおける放射パターンの測定をより簡易化できる。
【0086】
なお、
図5において、WiGig無線機20BBは、マスク制御信号SSG2を、マスク回路部30に出力すると同時に、
図1に示すセンサ10とは異なる他のセンサにも送信しても良い。マスク制御信号SSG2は、マスク回路部30が部分的にマスク処理するための信号であるが、WiGig無線機20BBがパルス圧縮信号を送信するタイミングと考えることもできる。なお、他のセンサとWiGig無線機20BBとの通信は有線でも無線でも良い。
【0087】
他のセンサは、WiGig無線機20BBがマスク制御信号SSG2を送信するタイミングを予め知っていると、WiGig無線機20BBが送信したマスク制御信号を受信した時刻を基にして、WiGig無線機20BBとの距離を特定できる。
【0088】
次に、ビームフォーミング機能を用いて通信する無線通信装置に関して説明する。
【0089】
ビームフォーミング機能は、送信端末が受信端末の存在する方向に電波を送信するためのマルチアンテナ技術であって、送信電波に特定方向の指向性を持たせる。例えば、送信端末は、複数のアンテナを用いて、より遠くまで電波を送信でき、又は、近接する基地局若しくは受信端末が送信する電波との干渉を抑制した電波を送信できる。ビームフォーミング機能では、複数のアンテナが送信する各信号(電波)の電力又は位相を調整し、電波を所望方向に送信する。
【0090】
ビームフォーミング機能を有する無線通信装置の設計又は動作試験では、性能の確認及び向上のために実際の無線通信装置を用いて、アンテナ放射パターン、即ち電波の放射パターンの把握が必要になる。
【0091】
従来、ビームフォーミング機能を有する無線通信装置のアンテナ放射パターンを測定する場合には、無線通信装置を電波暗室の中に持ち込んで計測していた。電波暗室以外の環境での計測では、無線通信装置の近傍にある物体から反射波が生じる。特に、近距離通信においては、検出される直接波と反射波との時間差が小さいために、直接波と反射波との区別が不正確になり、正しいアンテナ放射パターンを測定することが困難である。
【0092】
一方、直接波及び反射波が混在する電波暗室以外の環境にて、電波状況を検知することが可能な電波環境測定装置が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1においては、パルス圧縮信号を用いて、直接波と反射波とを分離する。
【0093】
下記の参考特許文献1ではパルス圧縮信号が用いられ、受信機は、受信パルスと参照パルスとの相関を検出する。これにより、参考特許文献1の電波環境測定装置は、検出されたパルスの時間幅を、実際に送信されたパルス信号のパルス幅よりも狭い範囲に圧縮できる。従って、時間分解能が向上し、参考特許文献1の電波環境測定装置は、時間差の小さい直接波と反射波とを互いに分離して検出できる。
【0094】
(参考特許文献1)日本国特許第3112746号公報
【0095】
<従来技術における課題>
しかし、参考特許文献1はビームフォーミング機能について考慮されておらず、アンテナの指向性を制御するビームフォーミングでは、個々のアンテナ放射パターンが最適でないと高周波信号の特性(例えば、位相特性)がばらつく。従って、電波(ビーム)の放射パターンが変化して、無線通信装置の通信性能が劣化する。
【0096】
複数のアンテナを用いるビームフォーミング機能を有する無線通信装置では、実際に無線通信装置から放射される全てのビームをセンサにて検出する場合、無線通信装置とセンサとの通信ネゴシエーションにおいて通信設定が煩雑になる。即ち、全てのビームの放射パターンの測定時間が長くなる。
【0097】
本開示は、上述した従来技術における課題を解決するために、ビームフォーミングにおいて所望の指向性を有するビームの放射パターンを短時間で測定する無線通信装置を提供することを目的とする。
【0098】
<課題を解決するための手段>
本開示は、複数のアンテナ系統処理部を含む無線通信装置であって、各々の前記アンテナ系統処理部は、送信信号の符号系列を選択する符号系列選択部と、前記選択された前記符号系列をパルス圧縮処理するパルス圧縮信号生成部と、前記選択された前記符号系列に応じて、前記パルス圧縮処理された信号の位相を調整する位相器と、前記位相が調整された信号を、高周波信号に変換して送信アンテナから送信する送信RF部と、を備える。
【0099】
<発明の効果>
本開示によれば、ビームフォーミングにおいて所望の指向性を有するビームの放射パターンを短時間で測定できる。
【0100】
本開示に係る無線通信装置の各実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
【0101】
<第3の実施形態>
(無線通信装置2000)
図11は、第3の実施形態における放射パターン測定システム100PPPのシステム構成及び無線通信装置2000の内部構成を示すブロック図である。無線通信装置2000が無線通信に用いる周波数帯は、ミリ波帯であって例えば60GHz帯である。無線通信可能な距離は10m程度である。なお、
図11においては、無線通信装置2000の送信系統の主要部分を示し、その他の回路の図示を省略している。
【0102】
無線通信装置2000は、ビームフォーミング機能を有し、複数のアンテナ系統処理部(ブランチ)20A,20B,20C,20Dを含む構成である。以下、アンテナ系統処理部を「ブランチ」という。
図11に示す無線通信装置2000は、一例として4つのブランチ20A,20B,20C,20Dを含む構成としているが、無線通信装置2000のブランチ数は4つに限定されない。また、各々のブランチは同様の構成を有しているため、以下の説明では、ブランチ20Aを例示して説明する。
【0103】
図11に示すブランチ20Aは、送信アンテナ21A、変調部2200、DAC(Digital Analog Converter)2300、位相器2400、送信RF部2500、制御部2600、符号系列選択部2700及びパルス圧縮信号生成部2800を含む構成である。なお、変調部2200は、各々のブランチに含まれても良いし、全てのブランチから独立した構成として無線通信装置2000において1つ含まれても良い。
【0104】
外部制御信号CON1は、各ブランチ20A〜20Dに入力され、無線通信装置2000におけるデータ通信モードと、送信ビームの放射パターンを測定するための測定モードとを切り替える制御信号である。外部制御信号CON1の内容は、ユーザの操作(例えば、ボタン操作)により切り替えられても良いし、外部から制御コマンドの入力により切り替えられても良い。
【0105】
更に、外部制御信号CON1は特定の送信ビームの放射パターンを測定するための制御情報を含んでもよく、放射パターン測定システム100PPは、特定の送信ビームの放射パターンを測定する。外部制御信号CON1は、ブランチ20Aにおいて、変調部2200、制御部2600、符号系列選択部2700及びパルス圧縮信号生成部2800に入力される。
【0106】
変調部2200は、外部制御信号CON1を入力し、外部制御信号CON1の内容がデータ通信モードにおいて動作し、送信信号の信号フレーム(例えば、WiGig(Wireless Gigabit))規格に適する信号フレーム)の変調信号を生成してDAC2300に出力する。なお、無線通信装置2000とセンサ10との間では変調方式は既知とする。また、変調部2200は、外部制御信号CON1の内容が測定モードでは動作しない。
【0107】
DAC2300は、データ通信モードにおいて、変調部2200から出力されたデジタルの変調信号、又は測定モードにおいて、パルス圧縮信号生成部2800から出力されたデジタルのパルス圧縮信号を、アナログ信号に変換して位相器2400に出力する。
【0108】
位相器2400は、DAC2300から出力されたアナログ信号の位相を、制御部2600から付与される位相のパラメータに従って調整する。位相器2400は、位相が調整されたアナログ信号を送信RF部2500に出力する。
【0109】
送信RF(Radio Frequency)部2500は、位相器2400から出力されたアナログ信号を高周波信号に変換して送信アンテナ21Aに供給する。送信アンテナ21Aは、ブランチ毎に1つ設けられ、送信RF部2500から出力された高周波信号(電波)を電磁波として空間に送信(放射)する。
【0110】
本実施形態と第4の実施形態において、無線通信装置2000から放射される電波の放射パターンの測定では、反射波が生じる環境において反射波の影響が抑制され、正しく電波の放射パターンを測定するために、無線通信装置2000はパルス圧縮信号を用いる。パルス圧縮信号を用いるためには、センサ10は、相関器を用いて、相関器が保持している送信ビームの符号系列と受信信号(受信パルス)との相関値を演算する。従って、センサ10が相関検出するために、無線通信装置2000は、測定モードでは、パルス圧縮信号を送信する。
【0111】
具体的には、無線通信装置2000は、同じ時間幅のパルスが一定の周期にて繰り返し現れる信号を、パルス圧縮信号として送信する。パルス圧縮信号には既知の符号が用いられる。センサ10は、送信ビームの符号系列と受信信号との相関値を演算し、相関値の最大値(ピーク相関値)を基に、どの符号系列のビームが送信されたかを判定する。受信側の相関検出により抽出されるパルス圧縮信号の時間幅は、無線通信装置2000が送信した送信ビームのパルス時間幅よりも短い。これにより、到達時間差の小さい直接波と反射波との分離が容易になる。
【0112】
制御部2600は、外部制御信号CON1を入力し、外部制御信号CON1の内容がデータ通信モード又は測定モードである場合には、DAC2300から出力されたアナログ信号の位相を調整するためのパラメータを位相器2400に付与する。
【0113】
ここで、位相のパラメータについて、
図14を参照して説明する。
図14は、第3の実施形態における各インデックスの送信ビームに対して付与される各ブランチの位相器における位相のパラメータの一例を示すテーブルである。
図14に示すブランチB1,B2,B3,B4は、それぞれ
図11に示すブランチ20A,20B,20C,20Dに対応している。なお、
図14に示すテーブルの内容は、例えば制御部2600の記憶領域(不図示)に予め記憶されていることが好ましい。
【0114】
本実施形態では、送信ビーム毎に用いられる符号系列は、予め定められ、互いに異なっている。例えば、送信ビームを識別するインデックス1の送信ビーム1には「符号系列F1」が用いられ、ブランチ20Aの位相器には「100度」が設定され、ブランチ20Bの位相器には「110度」が設定され、ブランチ20Cの位相器には「120度」が設定され、ブランチ20Dの位相器には「130度」が設定される。
【0115】
同様に、送信ビーム2,送信ビーム3,・・・,送信ビームNには、「符号系列F2」,「符号系列F3」,・・・,「符号系列FN」が用いられ、各ブランチの位相器にも対応する位相のパラメータが設定される(
図14参照)。Nは符号系列の数と無線通信装置のブランチ数とを表す。
【0116】
制御部2600は、外部制御信号CON1の内容が測定モードである場合には、符号系列選択部2700に選択指示を出力し、具体的には、測定モードにおける送信ビームの符号系列を符号系列選択部2700に選択させる。
【0117】
符号系列選択部2700は、制御部2600からの選択指示を基に、送信ビームに対応する符号系列を選択する。なお、各送信ビームに対応する符号系列は、符号系列選択部2700の記憶領域に予め記憶されていることが好ましいが、無線通信装置2000は、符号系列を記憶するメモリ(不図示)を設けても良い。符号系列選択部2700は、選択された符号系列をパルス圧縮信号生成部2800に出力する。
【0118】
ここで、符号系列選択部2700の符号系列の選択順序の例について、
図15及び
図16を参照して説明する。
図15は、同じ符号系列の送信ビームを連続送信した後に、次の符号系列の送信ビームを連続送信する送信例を、時系列に示した説明図である。
図16は、各符号系列の送信ビームを、1回ずつ順番に送信した後に、改めて最初の符号系列の送信ビームから順番に送信する送信例を時系列に示した説明図である。
【0119】
符号系列選択部2700は、
図15では、同一の符号系列(例えば、符号系列F1)を所定回数(例えば、NP回)連続的に選択し、NP回の連続選択の後、既に選択された符号系列とは異なる次の符号系列(例えば、符号系列F2)を所定回数(NP回)連続送信する。符号系列選択部2700は、同様に、既に選択された符号系列とは異なる同一の符号系列の連続送信を繰り返し、最後の符号系列(例えば、符号系列FN)を所定回数(NP回)連続選択する。
【0120】
又は、符号系列選択部2700は、
図16では、全ての異なる符号系列(例えば、符号系列F1,F2,F3,・・・,FN)を順番に選択し、全ての異なる符号系列の選択後、改めて全ての異なる符号系列を順番に選択する。符号系列選択部2700は、全ての異なる符号系列の順番に沿った選択を所定回数(NP回)繰り返しても良い。なお、
図15及び
図16において、符号系列の選択の順序は、符号系列選択部2700の動作において予め規定されていることが好ましい。
【0121】
但し、符号系列選択部2700による符号系列の選択方法は、
図15又は
図16に示す符号系列の選択方法に限定されない。例えば、符号系列選択部2700は、任意の符号系列を任意の順番に選択してもよい。
【0122】
パルス圧縮信号生成部2800は、外部制御信号CON1を入力し、外部制御信号CON1の内容が測定モードである場合に動作する。具体的には、符号系列選択部2700から出力された符号系列を基にして公知のパルス圧縮処理を行う。パルス圧縮信号生成部2800は、パルス圧縮処理により生成されたパルス圧縮信号をDAC2300に出力する。
【0123】
(センサ10)
図12は、
図11に示す放射パターン測定システム100PPのセンサ10の内部構成を示すブロック図である。
図12に示すセンサ10は、無線通信装置2000が送信したパルス圧縮信号としての送信ビームを受信アンテナ1100において受信して電波の放射パターンを測定する。なお、
図12においては、センサ10の受信系統の主要部分を示し、その他の回路の図示を省略している。
【0124】
図12に示すセンサ10は、受信アンテナ1100、受信RF部1200、ADC(Analog Digital Converter)1300、複数のN個の相関器C1,・・,Ck,・・,CN、及び信号処理部SP1,・・,SPk,・・,SPNを含む構成である。kは、1からNまでの整数である。Nは相関器及び信号処理部の数を表し、無線通信装置2000から送信される送信ビームの符号系列及び無線通信装置2000のブランチの数と同じである。
【0125】
受信RF部1200は、受信アンテナ1100により受信された電波の高周波信号を入力し、センサ10内のローカル信号(不図示)を基に、低周波のアナログ受信信号に変換する。ADC1300は、受信RF部1200から出力されたアナログの受信信号をデジタルの受信信号に変換する。
【0126】
相関器C1,・・,Ck,・・,CNの動作については、相関器Ckを例示して説明する。相関器Ckは、インデックスkの送信ビームの符号系列を保持し、ADC17から出力されたデジタルの受信信号について、所定の相関処理によって相関値を演算する。具体的には、相関器Ckは、自己が保持している符号系列と受信信号との相関値を演算し、相関器Ckが保持する符号系列と同じ符号系列の送信ビームが受信信号として入力された場合に十分な相関値、即ちピーク相関値を得る(
図13参照)。
【0127】
例えば、相関器C1は、
図14に示すインデックス1の送信ビームBM1の符号系列F1を保持し、無線通信装置2000から相関器C1が保持する符号系列F1と同じ符号系列の送信ビームが受信信号として入力された場合に十分な相関値(相関ピーク)を得る(
図13参照)。同様に、相関器CNは、
図14に示すインデックスNの送信ビームBMNの符号系列FNを保持し、無線通信装置2000から相関器CNが保持する符号系列FNと同じ符号系列の送信ビームが受信信号として入力された場合に十分な相関値(相関ピーク)を得る(
図13参照)。
【0128】
なお、相関器Ckの出力に得られる信号は、例えば
図13に示す特性として現れる。
図13は、センサ10における受信相関出力特性の具体例を示すグラフである。即ち、無線通信装置2000が送信ビームを送信してから、対応する受信信号が相関器Ckの出力として現れるまでの経過時間は、電波伝搬距離の違いにより、直接波と各反射波とにおいて異なる。なお、直接波と各反射波との時間差が小さい場合には、直接波と各反射波との分離が困難になる。
【0129】
しかし、本実施形態では、相関器Ckが相関処理することにより、相関処理の出力として得られるピーク波形の時間幅は、送信されたパルス信号の幅に対して十分に短くなる。従って、直接波と反射波とを小さい時間差にて受信する場合でも、
図13では直接波と反射波とを明確に分離できる。
【0130】
信号処理部SP1,・・,SPk,・・SPNの動作については、信号処理部SPkを例示して説明する。信号処理部SPkは、相関器Ckの出力(相関値)を基にして必要な情報を取得する。例えば、信号処理部SPkは、相関器Ckから信号処理部SPkに入力される信号のピーク位置を基に、直接波及び各反射波のそれぞれを特定し、直接波の受信レベル及び各反射波の受信レベルを検出する。
【0131】
(放射パターンの測定方法)
次に、
図11に示す放射パターン測定システム100PPにおいて、送信ビームの放射パターンを測定する測定方法について説明する。
図11では、無線通信装置2000の周囲にセンサ10を配置する。また、無線通信装置2000に入力される外部制御信号CON1の内容が切り替えられ、無線通信装置2000の動作モードをデータ通信モードから、放射パターンを測定する測定モードに切り替えられ、更にインデックスkの送信ビームの放射パターンを測定するための制御情報が入力される。
【0132】
なお、本実施形態と第4の実施形態において、無線通信装置2000とセンサ10とは、通信のネゴシエーションが事前に処理済みである。従って、無線通信装置2000がパルス圧縮信号としての送信ビームを送信するタイミング及び受信するタイミングは、センサ10において既知である。
【0133】
制御部2600は、外部制御信号CON1を基に、測定モードにおける送信ビームに対応する符号系列を符号系列選択部2700に選択させる。更に、制御部2600は、インデックスkの送信ビームに付与する位相のパラメータを選択して位相器2400に付与する。
【0134】
符号系列選択部2700は、制御部2600からの選択指示を基に、インデックスkの送信ビームに対応する符号系列を選択し、選択された符号系列をパルス圧縮信号生成部2800に出力する。
【0135】
パルス圧縮信号生成部2800は、符号系列選択部2700から出力された符号系列を基にしてパルス圧縮信号を生成してDAC2300に出力する。DAC2300は、パルス圧縮信号生成部2800から出力されたデジタルのパルス圧縮信号を、アナログ信号に変換して位相器2400に出力する。位相器2400は、DAC2300から出力されたアナログ信号の位相を、制御部2600から付与された位相のパラメータに従って調整する。
【0136】
位相器2400は、位相が調整されたアナログ信号を送信RF部2500に出力する。送信RF部2500は、位相器2400から出力されたアナログ信号を高周波信号に変換して送信アンテナ21Aに供給する。送信アンテナ21Aは、送信RF部2500から出力された高周波信号(電波)を電磁波として空間に送信(放射)する。これにより、無線通信装置2000は、センサ10における相関検出に適したパルス圧縮信号を送信できる。
【0137】
図12において、センサ10は、受信アンテナ1100において、無線通信装置2000から放射(送信)された電波、即ち、インデックスkの送信ビームを受信する。受信RF部1200は、受信アンテナ1100により受信された電波の高周波信号を入力して低周波のアナログ受信信号に変換する。ADC1300は、受信RF部1200から出力されたアナログの受信信号をデジタルの受信信号に変換する。ADC1300から出力されたデジタルの受信信号は、複数のN個の相関器C1,・・,Ck,・・,CNに入力される。
【0138】
N個の相関器C1,・・,Ck,・・,CNは、各相関器が保持しているインデックスの送信ビームに対応する符号系列と、ADC1300から出力された受信信号との相関値を演算する。N個の相関器C1,・・,Ck,・・,CNの各出力のうち、インデックスkの送信ビームに対応する符号系列を保持しない相関器の相関演算値はゼロとなり、インデックスkの送信ビームに対応する符号系列を保持する相関器Ckの相関演算値は非ゼロとなる。
【0139】
信号処理部SPkは、相関器Ckの相関演算値を基にして、例えば、相関値のピーク値を基に、インデックスkの送信ビームの信号電力(受信レベル)を検出する。これにより、センサ10は、インデックスkの送信ビームの放射パターンを測定できる。
【0140】
以上により、本実施形態の無線通信装置2000は、所望の指向性を有する送信ビームを、インデックスとして符号系列を用いてパルス圧縮処理して送信する。これにより、センサ10は、複数の相関器の相関演算の結果を基に、短時間で送信ビームの放射パターンを測定できる。従って、無線通信装置2000は、所望の指向性を有するビームの放射パターンを短時間で測定できる。
【0141】
<第3の実施形態の変形例>
第3の実施形態では、放射パターンの測定対象となる各送信ビームのインデックスとして「符号系列」を用いた。第3の実施形態の変形例では、放射パターンの測定対象となる各送信ビームのインデックスとして「送信間隔」を用いる。なお、第3の実施形態の変形例では、無線通信装置の構成は第3の実施形態の無線通信装置2000と同様であるため、本変形例の説明では第3の実施形態と同様の符号を用いる。
【0142】
(無線通信装置2000)
本変形例では、符号系列選択部2700は、1つの符号系列(例えば、符号系列F1)を記憶していれば良い。即ち、符号系列選択部2700は、送信ビームの符号系列として、一つの符号系列(例えば、符号系列F1)を選択する。具体的には、符号系列選択部2700は、1つの符号系列(例えば、符号系列F1)を、測定対象となる送信ビームのインデックスに応じて、選択する選択間隔を変更する。
図17は、送信ビーム毎に送信間隔を異ならせて送信ビームを連続送信する送信例を時系列に示した説明図である。
【0143】
図17では、インデックス1の送信ビームに対応する符号系列の選択間隔はL1であって、符号系列選択部2700は、測定対象となる送信ビームに対応する符号系列を、間隔L1が経過する度に選択する。インデックス2の送信ビームに対応する符号系列の選択間隔はL2であって、同様にインデックスNの送信ビームに対応する符号系列の選択間隔はLNである。従って、無線通信装置2000は、インデックス1の送信ビームを間隔L1毎に送信し、インデックス2の送信ビームを間隔L2毎に送信し、同様に、インデックスNの送信ビームを間隔LN毎に送信する。
【0144】
但し、符号系列選択部2700による符号系列の選択方法は、
図17に示す符号系列の選択方法に限定されない。即ち、本変形例では、無線通信装置2000は、
図17に示す順番に従って、インデックスに対応した符号系列の送信ビームを送信しなくても良い。
【0145】
(センサ10)
本変形例では、センサ10は、少なくとも1つの相関器及び信号処理部(例えば、相関器C1及び信号処理部SP1)を含む構成であれば良い。即ち、相関器C1は、符号系列F1を保持しているため、無線通信装置2000から送信された送信ビームの受信信号と符号系列F1との相関値を演算する。
【0146】
信号処理部SP1は、相関器C1により演算された相関値のピーク値が現れる間隔、即ち前回受信された送信ビームに対応するピーク相関値と今回受信された送信ビームに対応するピーク相関値との間隔を検出して、どのインデックスの送信ビームを受信したかを判定する。
【0147】
なお、本変形例において、無線通信装置2000から送信される送信ビームの送信間隔、即ち、符号系列選択部2700による符号系列の選択間隔は、直接波以外にも反射波の受信を考慮して、十分に大きい値としておくことが好ましい。
【0148】
以上により、本変形例の無線通信装置2000は、第3の実施形態と同様に、所望の指向性を有するビームの放射パターンを短時間で測定できる。
【0149】
<第4の実施形態>
第3の実施形態又は第3の実施形態の変形例では、位相器が付与する位相のパラメータが予め探索されて既に定められていた。第4の実施形態では、無線通信装置及びセンサは、各ブランチの位相器が付与する位相のパラメータの最適値を探索及び判定する。
【0150】
具体的には、無線通信装置は、探索対象となる特定のブランチにおける位相のパラメータを可変し、探索対象でない又は既に探索済みの他のブランチにおける位相のパラメータを固定した合計N個の位相のパラメータの候補値とN個の符号系列とを用いた送信ビームを連続送信する。
【0151】
センサは、受信信号と送信ビームの符号系列との相関値のコヒーレント加算値を基に、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータの最適値を判定する。同様に、無線通信装置は、次の探索対象となる特定のブランチにおける合計N個の位相のパラメータの候補値とN個の符号系列とを用いた送信ビームを連続送信する。同様に、センサは、受信信号と送信ビームの符号系列との相関値のコヒーレント加算値を基に、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータの最適値を判定する。
【0152】
このように、無線通信装置とセンサとは、無線通信装置の全ブランチの位相器における位相のパラメータの最適値を探索及び判定する。なお、本実施形態では、無線通信装置の構成は第1の実施形態の無線通信装置2000と同様であるため、本実施形態の説明では第3の実施形態と同様の符号を用いる。本実施形態では、無線通信装置2000が送信する放射パターン測定用電波は指向性を有するため、センサは、電波の指向性を考慮して配置されることが好ましい。
【0153】
(位相のパラメータの候補値のテーブル)
図18は、第4の実施形態における各インデックスの送信ビームに対して付与される各ブランチの位相器における位相のパラメータの候補値の一例を示すテーブルである。
図18に示すブランチB1,B2,B3,B4は、それぞれ
図11に示すブランチ20A,20B,20C,20Dに対応している。なお、
図18に示すテーブルのパラメータの候補値は、例えば制御部2600の記憶領域(不図示)に予め記憶されていることが好ましい。
【0154】
本実施形態では、送信ビーム毎に用いられる符号系列は、予め定められ、互いに異なっているが、第3の実施形態又は第3の実施形態の変形例とは異なり、各ブランチの位相器のパラメータが必ずしも最適値に設定されていない場合に、センサ10Bにおいて、最適値を判定する方法を説明する。本実施形態では、
図19に示すセンサ10Bは、送信ビームの符号系列と受信信号との相関値を基に、無線通信装置2000の各ブランチの位相器における位相のパラメータの最適値を判定できる。
【0155】
なお、
図18に示すテーブルでは、ブランチB1,B2,B3(ブランチ20A,20B,20C)の各位相器のパラメータは、「100」,「110」,「120」が最適値として探索済みであって又は未探索として仮に設定され、ブランチB4(ブランチ20D)の位相器のパラメータの最適値が未探索である。
【0156】
つまり、
図18は、最適位相パラメータ探索において、探索途中における特定の設定状態を表した図であるため、仮の設定として、位相パラメータとして取りうる値は、0〜200であり、10ステップ単位で位相パラメータを設定できるとする。
【0157】
全ブランチの位相パラメータが0の設定から探索が始まり、
図18では、ブランチB1からB3までの探索が終了し、ブランチB4について、インデックス1に100を割り振った状態である。
【0158】
ブランチB4の位相器における位相のパラメータの最適値を判定するために、無線通信装置2000は、送信ビーム毎に異なる符号系列を用い、各符号系列のパルス圧縮信号に候補値となる位相のパラメータを設定して送信する。即ち、ブランチB4の位相器における位相のパラメータの候補値及び符号系列は、インデックス1の送信ビームBM1では「100」及び「F1」、インデックス2の送信ビームBM2では「120」及び「F2」、インデックス3の送信ビームBM3では「130」及び「F3」、・・・、同様にインデックスNの送信ビームでは「180」及び「FN」が割り振られている。
【0159】
なお、無線通信装置2000が送信ビーム毎に異なる符号系列を用いるのは、
図19に示すセンサ10Bが複数のN個の異なる相関値のコヒーレント加算値を基に、どの送信ビームの位相のパラメータが最適値であるかを判定するためである。
【0160】
(センサ10B)
図19は、第4の実施形態におけるセンサ10Bの内部構成を示すブロック図である。
図19に示すセンサ10Bは、無線通信装置2000が送信したパルス圧縮信号としての送信ビームを受信アンテナ1100において受信する。更に、センサ10Bは、送信ビームの符号系列と受信信号との相関値のコヒーレント加算値を基に、どの位相のパラメータの候補値が探索対象のブランチの位相器における位相のパラメータの最適値であるかを判定する。
図19に示すセンサ10Bにおいて、第3の実施形態のセンサ10と対応する構成要素は同じ符号を付して、説明を省略する。
【0161】
図19に示すセンサ10Bは、受信アンテナ1100、受信RF部1200、ADC1300、複数のN個の相関器C1,・・,Ck,・・,CN、信号処理部SP1,・・,SPk,・・,SPN、閾値判定部TJ1,・・,TJk,・・,TJN、探索継続判定部1500、送信アンテナ16及び送信部TXを含む構成である。なお、センサ10Bには、例えば位相のパラメータの最適値であるかどうかの判定結果を示す表示器50が接続されても良い。
【0162】
相関器C1,・・,Ck,・・,CN、信号処理部SP1,・・,SPk,・・,SPN及び閾値判定部TJ1,・・,TJk,・・,TJNの動作については、相関器Ck、信号処理部SPk及び閾値判定部TJkを例示して説明する。
【0163】
相関器Ckは、インデックスkの送信ビームに対応する符号系列を保持し、ADC1300から出力されたデジタルの受信信号について、所定の相関処理によって相関値を演算する。具体的には、相関器Ckは、自己が保持している符号系列と受信信号との相関値を演算し、相関器Ckが保持する符号系列と同じ符号系列の送信ビームが受信信号として入力された場合に十分な相関値、即ちピーク相関値を得る。相関器Ckは、演算された相関値、即ち、ピーク相関値又は非ピーク相関値を信号処理部SPkに出力する。
【0164】
なお、
図15、
図16の符号系列は、複数回(例えば、M回)繰り返し送信しても良い。
図15、
図16の符号系列が、M回繰り返して送信されることで、信号処理部SPkでは、相関器Ckから出力されたM個の相関値を基にしてコヒーレント加算する。これにより、信号処理部SPkは、N個の受信信号におけるSNR(Signal to Noise ratio)を改善できる。信号処理部SPkは、コヒーレント加算値を閾値判定部TJkに出力する。
【0165】
閾値判定部TJkは、信号処理部SPkから出力されたコヒーレント加算値と所定の閾値とを比較し、コヒーレント加算値が所定の閾値を超えているか否かを判定する。所定の閾値は、予め放射パターンを測定するユーザによって予め定められ、以下の各実施形態においても同様である。閾値判定部TJkは、コヒーレント加算値と所定の閾値との比較結果を探索継続判定部1500に出力する。
【0166】
探索継続判定部1500は、コヒーレント加算値が所定の閾値を超えている場合には、コヒーレント加算した信号処理部SPkに対応する相関器Ckが保持する符号系列Skの送信ビームに付与された位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する。つまり、
図18のテーブルにおいて、ブランチB4の未探索の位相のうち、最も適した位相を選択することができる。
【0167】
探索継続判定部1500は、コヒーレント加算値が所定の閾値を超えていない場合には、100から180の中に解(最適値)が無い場合は、インデックス1に位相パラメータ190を設定し、インデックス2には、位相パラメータ200を設定して範囲を探索する。
【0168】
なお、全ての位相パラメータを探索しても、コヒーレント加算値が所定の閾値を超えていない場合には、最大のコヒーレント加算値を演算した信号処理部SPkに対応する相関器Ckが保持する符号系列Skの送信ビームに付与された位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する。
【0169】
送信部TXは、探索継続判定部1500の判定結果を送信アンテナ16から無線通信装置2000に送信する。送信部TXは、例えば、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータ、又は、次の探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータの探索指示を無線通信装置2000に送信する。なお、無線通信以外にも、有線通信によって、上記の情報を無線通信装置2000に通知しても良い。
【0170】
(各ブランチの位相器における位相のパラメータの探索方法)
本実施形態の各ブランチの位相器における位相のパラメータの探索方法を、
図20を参照して説明する。
図20及び
図21は、第4の実施形態における無線通信装置2000及びセンサ10Bの動作を説明するシーケンス図である。
図20及び
図21の説明では、探索対象となるブランチの数をNとし、N番目のブランチの位相器の位相のパラメータが最初の探索対象とする。
【0171】
無線通信装置2000は、探索対象とならない1番目から(N−1)番目の各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相の1番目の候補値としてのパラメータ(例えば100)と、1番目の符号系列F1とを、1番目の送信ビームBM
N1の設定値として設定する(S11)。無線通信装置2000は、設定値に応じた1番目の送信ビームBM
N1をセンサ10Bに送信する(S12)。センサ10Bは、相関器C1〜CNにおいて、1番目の送信ビームBM
N1の受信信号と各相関器C1〜CNが保持する符号系列との相関値を演算する(S13)。
【0172】
同様に、無線通信装置2000は、ステップS12の送信後に、探索対象とならない1番目から(N−1)番目の各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相の2番目の候補値としてのパラメータ(例えば110)と、2番目の符号系列F2とを、2番目の送信ビームBM
N2の設定値として設定する(S14)。無線通信装置2000は、設定値に応じた2番目の送信ビームBM
N2をセンサ10Bに送信する(S15)。センサ10Bは、相関器C1〜CNにおいて、2番目の送信ビームBM
N2の受信信号と各相関器C1〜CNが保持する符号系列との相関値を演算する(S16)。
【0173】
無線通信装置2000は、同様の処理を繰り返し、探索対象とならない1番目から(N−1)番目の各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相のN番目の候補値としてのパラメータ(例えば180)と、N番目の符号系列FNとを、N番目の送信ビームBM
NNの設定値として設定する(S17)。無線通信装置2000は、設定値に応じたN番目の送信ビームBM
NNをセンサ10Bに送信する(S18)。センサ10Bは、相関器C1〜CNにおいて、N番目の送信ビームBM
NNの受信信号と各相関器C1〜CNが保持する符号系列との相関値を演算する(S19)。
【0174】
センサ10Bの各々の信号処理部SP1〜SPNは、ステップS13,S16,S19において演算された各相関値をコヒーレント加算し(S20)、コヒーレント加算値を各々の閾値判定部TJ1〜TJNに出力する。
図21において、閾値判定部TJ1〜TJNは、コヒーレント加算値と所定の閾値とを比較し(S21)、比較結果を探索継続判定部1500に出力する。
【0175】
探索継続判定部1500は、コヒーレント加算値が所定の閾値を超えている場合には(S21、YES)、コヒーレント加算した信号処理部SPkに対応する相関器Ckが保持する符号系列Skの送信ビームに付与された位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する(S22)。
【0176】
探索継続判定部1500は、コヒーレント加算値が所定の閾値を超えていない場合には(S21、NO)、全ての位相のパラメータ、即ち、100から200までを10ステップ単位で設定した値を用いて位相のパラメータの最適値を探索済みであるか否かを判定する(S23−1)。全ての位相のパラメータを用いて探索済みである場合には(S23−1、YES)、探索継続判定部1500は、最大のコヒーレント加算値を演算した信号処理部SPkに対応する相関器Ckが保持する符号系列Skの送信ビームに付与された位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する(S23−2)。この後、ステップS24に続く。
【0177】
全ての位相のパラメータを用いて探索済みでない場合(S23−1、NO)、探索継続判定部1500は、位相のパラメータ「190」と1番目の符号系列F1との設定値に応じた送信ビーム、及び、位相のパラメータ「200」と2番目の符号系列F2との設定値に応じた送信ビームの送信指示を送信部TXに送信させる(S23−3)。
【0178】
無線通信装置2000は、探索対象とならない1番目から(N−1)番目の各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相の1番目の候補値としてのパラメータ(例えば190)と、1番目の符号系列F1とを、1番目の送信ビームBM
N1の設定値として設定する(S23−4)。
【0179】
更に、無線通信装置2000は、探索対象とならない1番目から(N−1)番目の各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相の2番目の候補値としてのパラメータ(例えば200)と、2番目の符号系列F2とを、2番目の送信ビームBM
N2の設定値として設定する(S23−4)。
【0180】
無線通信装置2000は、設定値に応じた1番目及び2番目の各送信ビームを、M回センサ10Bに送信する(S23−5)。センサ10Bは、相関器C1〜CNにおいて、1番目の送信ビーム及び2番目の各受信信号と各相関器C1〜CNが保持する符号系列との相関値を演算し、更に、M回送信された各送信ビームに対して演算された各相関値をコヒーレント加算する(S23−6)。この後、ステップS21に進む。
【0181】
探索継続判定部1500は、無線通信装置2000の全てのブランチの位相器における位相のパラメータの探索が終了したと判定した場合には(S24、YES)、探索対象となる最後のブランチの位相器における位相のパラメータを送信部TXに送信させる(S25)。これにより、本実施形態の無線通信装置2000及びセンサ10Bの動作は終了する。
【0182】
探索継続判定部1500は、無線通信装置2000の全てのブランチの位相器における位相のパラメータの探索が終了していないと判定した場合には(S24、NO)、未探索の次のブランチの位相器における位相のパラメータの探索指示を送信部TXに送信させる(S26)。
【0183】
無線通信装置2000は、センサ10Bから送信された探索指示を基に、探索対象とならない又は既に探索済みの各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、次の探索対象となるブランチの位相器における位相の1番目の候補値としてのパラメータと、1番目の符号系列F1とを、1番目の送信ビームBM
k1の設定値として設定する(S27)。無線通信装置2000は、設定値に応じた1番目の送信ビームBM
k1をセンサ10Bに送信する(S28)。センサ10Bは、相関器C1〜CNにおいて、1番目の送信ビームBM
k1の受信信号と各相関器C1〜CNが保持する符号系列との相関値を演算する(S29)。
【0184】
同様に、無線通信装置2000は、ステップS28の送信後に、探索対象とならない又は既に探索済みの各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相の2番目の候補値としてのパラメータと、2番目の符号系列F2とを、2番目の送信ビームBM
k2の設定値として設定する(S30)。無線通信装置2000は、設定値に応じた2番目の符号系列F2の送信ビームBM
k2をセンサ10Bに送信する(S31)。センサ10Bは、相関器C1〜CNにおいて、2番目の送信ビームBM
k2の受信信号と各相関器C1〜CNが保持する符号系列との相関値を演算する(S32)。
【0185】
無線通信装置2000は、同様の処理を繰り返し、探索対象とならない又は既に探索済みの各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相のN番目の候補値としてのパラメータと、N番目の符号系列FNとを、N番目の送信ビームBM
kNの設定値として設定する(S33)。無線通信装置2000は、設定値に応じたN番目の送信ビームBM
kNをセンサ10Bに送信する(S34)。センサ10Bは、相関器C1〜CNにおいて、N番目の送信ビームBM
kNの受信信号と各相関器C1〜CNが保持する符号系列との相関値を演算する(S35)。ステップS35以後の処理はステップS20の説明と同様のため、説明を省略する。但し、ステップS27〜ステップS35までの説明では、kは1から(n−1)までの範囲となる。
【0186】
本実施形態の無線通信装置2000は、探索対象となるブランチの位相器におけるN通りの位相のパラメータの候補値を基にした送信ビームをN回連続送信する。センサ10Bは、無線通信装置2000が送信した送信ビームを受信する度に、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータの最適値を判定しない。センサ10Bは、N回連続送信された送信ビームの相関値のコヒーレント加算値を基に、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータの最適値を判定する。
【0187】
以上により、本実施形態の無線通信装置2000は、各ブランチの位相器が付与する位相のパラメータの最適値を探索するための送信ビームを送信できる。更に、本実施形態のセンサ10Bは、無線通信装置の各ブランチの位相器が付与する位相のパラメータの最適値を短時間で判定(探索)できる。
【0188】
<第4の実施形態の変形例>
第4の実施形態では、探索対象となるブランチの位相器におけるN個の送信ビームの設定値として、それぞれ異なる「符号系列」が用いられていた。第4の実施形態の変形例では、探索対象となるブランチの位相器におけるN個の送信ビームの設定値として、1つの符号系列(例えば、符号系列F1)の「送信間隔」を用いる。このため、センサにおける相関器の個数を1つにできる。
なお、第4の実施形態の変形例では、無線通信装置の構成は第4の実施形態の無線通信装置2000と同様であるため、本変形例の説明では第4の実施形態と同様の符号を用いる。
【0189】
(無線通信装置2000)
本変形例では、符号系列選択部2700は、1つの符号系列(例えば、符号系列F1)を記憶していれば良い。即ち、符号系列選択部2700は、第2の実施形態のように複数の符号系列の中から、放射対象となる送信ビームの符号系列を選択しない。符号系列選択部2700は、放射対象となる送信ビームに応じて、1つの符号系列(例えば、符号系列F1)を選択するタイミング(選択間隔)を変更しながら符号系列を選択する。
【0190】
(センサ10C)
図22は、第4の実施形態の変形例におけるセンサ10Cの内部構成を示すブロック図である。
図14に示すセンサ10Cにおいて、第4の実施形態のセンサ10Bと対応する構成要素は同じ符号を付して、説明を省略する。
【0191】
図22に示すセンサ10Cは、受信アンテナ1100、受信RF部1200、ADC1300、相関器CC1、信号処理部SPC1、探索継続判定部1500C、送信アンテナ16及び送信部TXを含む構成である。なお、センサ10Cには、例えば位相のパラメータの最適値であるかどうかの判定結果を示す表示器50が接続されても良い。
【0192】
相関器CC1は、例えばインデックス1の送信ビームの符号系列を保持し、ADC1300から出力されたデジタルの受信信号について、所定の相関処理によって相関値を演算する。具体的には、相関器CC1は、自己が保持している符号系列と受信信号との相関値を演算し、相関器CC1が保持する符号系列と同じ符号系列の送信ビームが受信信号として入力された場合に十分な相関値、即ちピーク相関値を得る。相関器CC1は、演算された相関値、即ちピーク相関値又は非ピーク相関値を信号処理部SPC1に出力する。
【0193】
信号処理部SPC1は、相関器CC1により演算された相関値のピーク値が現れる間隔、即ち前回受信された送信ビームに対応するピーク相関値と今回受信された送信ビームに対応するピーク相関値との間隔を検出して、どのインデックスの送信ビームを受信したかを判定する。
【0194】
信号処理部SPC1は、相関器CC1から出力された相関値と所定の閾値とを比較し、相関値が所定の閾値を超えているか否かを判定する。信号処理部SPC1は、
図19に示すセンサ10Bの信号処理部(例えば信号処理部SP1)及び閾値判定部(例えば閾値判定部TJ1)の動作を処理する。信号処理部SPC1は、比較結果を探索継続判定部15Cに出力する。
【0195】
探索継続判定部1500Cは、相関値が所定の閾値を超えている場合には、信号処理部SPC1が判定した送信ビームに対応する位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する。
【0196】
送信部TXは、探索継続判定部1500Cの判定結果を送信アンテナ16から無線通信装置2000に送信する。送信部TXは、例えば、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータ、又は、次の探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータの探索指示を無線通信装置2000に送信する。
【0197】
(位相のパラメータの候補値のテーブル)
図23は、第4の実施形態の変形例における各インデックスの送信ビームに対して付与される各ブランチの位相器における位相のパラメータの一例を示すテーブルである。
図23に示すブランチB1,B2,B3,B4は、それぞれ
図11に示すブランチ20A,20B,20C,20Dに対応している。なお、
図23に示すテーブルのパラメータの候補値は、例えば制御部2600の記憶領域(不図示)に予め記憶されていることが好ましい。
【0198】
本変形例では、送信ビーム毎に用いられる符号系列は、予め定められ、例えば符号系列F1であるが、第4の実施形態と同様に各ブランチの位相器のパラメータは最適値に設定されていない。従って、本変形例では、
図22に示すセンサ10Cは、送信ビームの符号系列と受信信号との相関値を基に、無線通信装置2000の各ブランチの位相器における位相のパラメータの最適値を判定する。
【0199】
なお、
図23に示すテーブルでは、ブランチB1,B2,B3(ブランチ20A,20B,20C)の各位相器のパラメータは、「100」,「110」,「120」が最適値として探索済みであって又は未探索として仮に設定され、ブランチB4(ブランチ20D)の位相器のパラメータの最適値が未探索である。
【0200】
ブランチB4の位相器における位相のパラメータの最適値を判定するために、無線通信装置2000は、送信ビーム毎に送信間隔を変更し、各符号系列のパルス圧縮信号に候補値となる位相のパラメータを設定して送信する。即ち、ブランチB4の位相器における位相のパラメータの候補値及び送信間隔は、インデックス1の送信ビームBM1では「100」及び「L1」、インデックス2の送信ビームBM2では「120」及び「L2」、インデックス3の送信ビームBM3では「130」及び「L3」、・・・、同様にインデックスNの送信ビームBMNでは「180」及び「LN」となる。
【0201】
(各ブランチの位相器における位相のパラメータの探索方法)
本変形例の各ブランチの位相器における位相のパラメータの探索方法を、
図24を参照して説明する。
図24は、第4の実施形態の変形例における無線通信装置2000及びセンサ10Cの動作を説明するシーケンス図である。
図24の説明では、探索対象となるブランチの数をNとし、N番目のブランチの位相器の位相のパラメータが最初の探索対象とする。
【0202】
無線通信装置2000は、探索対象とならない1番目から(N−1)番目の各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相の1番目の候補値としてのパラメータと、1番目の送信ビームの送信間隔L1とを、1番目の送信ビームBM
N1の設定値として設定する(S41)。無線通信装置2000は、設定値に応じた1番目の送信ビームBM
N1をセンサ10Cに送信する(S42)。センサ10Cは、相関器CC1において、1番目の送信ビームBM
N1の受信信号と相関器CC1が保持する符号系列との相関値を演算する(S43)。
【0203】
相関器CC1は、ステップS43において演算された相関値を信号処理部SPC1に出力する。信号処理部SPC1は、相関器CC1から出力された相関値と所定の閾値とを比較し、相関値が所定の閾値を超えているか否かを判定する(S44)。信号処理部SPC1は、比較結果を探索継続判定部1500Cに出力する。
【0204】
探索継続判定部1500Cは、相関値が所定の閾値を超えている場合には(S44、YES)、信号処理部SPC1が判定した送信ビームに対応する位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する(S45)。
【0205】
探索継続判定部1500Cは、相関値が所定の閾値を超えていない場合には(S44、NO)、全ての位相のパラメータ、即ち、100から200までを10ステップ単位で設定した値を用いて位相のパラメータの最適値を探索済みであるか否かを判定する(S46−1)。全ての位相のパラメータを用いて探索済みである場合には(S46−1、YES)、探索継続判定部1500Cは、最大の相関値に対応する送信ビームに付与された位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する(S46−2)。この後、ステップS49に続く。
【0206】
全ての位相のパラメータを用いて探索済みでない場合(S46−1、NO)、探索継続判定部1500Cは、探索対象となるブランチの位相器における次の位相のパラメータが設定された送信ビームの送信指示を送信する(S46−3)。なお、ステップS46−3では、既に位相のパラメータとして「100」から「180」までが10ステップ単位で設定されている場合には、位相のパラメータとして更に10ステップ単位で増えて「190」が設定され、最大で「200」が設定される。
【0207】
無線通信装置2000は、探索対象とならない1番目から(N−1)番目の各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相の2番目の候補値としてのパラメータと、2番目の送信ビームの送信間隔L2とを、2番目の送信ビームBM
N2の設定値として設定する(S47)。無線通信装置2000は、設定値に応じた2番目の送信ビームBM
N2をセンサ10Cに送信する(S48)。センサ10Cは、相関器CC1において、2番目の送信ビームBM
N2の受信信号と相関器CC1が保持する符号系列との相関値を演算する(S43)。
【0208】
このように、無線通信装置2000は、ステップS44において相関値が所定の閾値を超えると判定されるまで、探索対象となるN番目のブランチの位相器における位相のパラメータ及び送信間隔を変更した送信ビームを送信し続ける。
【0209】
センサ10Cの探索継続判定部1500Cは、ステップS45において探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータを確定した後、無線通信装置2000の全てのブランチの位相器における位相のパラメータの探索が終了したか否かを判定する(S49)。
【0210】
探索継続判定部1500Cは、無線通信装置2000の全てのブランチの位相器における位相のパラメータの探索が終了したと判定した場合には(S49、YES)、探索対象となる最後のブランチの位相器における位相のパラメータを送信部TXに送信させる(S50)。これにより、本実施形態の無線通信装置2000及びセンサ10Cの動作は終了する。
【0211】
探索継続判定部1500Cは、無線通信装置2000の全てのブランチの位相器における位相のパラメータの探索が終了していないと判定した場合には(S49、NO)、未探索の次のブランチの位相器における位相のパラメータの探索指示を送信部TXに送信させる(S51)。
【0212】
無線通信装置2000は、センサ10Cから送信された探索指示を基に、探索対象とならない又は既に探索済みの各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、次の探索対象となるブランチの位相器における位相の1番目の候補値としてのパラメータと、1番目の送信ビームの送信間隔L1とを、1番目の送信ビームBM
k1の設定値として設定する(S52)。無線通信装置2000は、設定値に応じた1番目の送信ビームBM
k1をセンサ10Cに送信する(S53)。センサ10Cは、相関器CC1において、1番目の送信ビームBM
k1の受信信号と相関器CC1が保持する符号系列との相関値を演算する(S54)。
【0213】
相関器CC1は、ステップS53において演算された相関値を信号処理部SPC1に出力する。信号処理部SPC1は、相関器CC1から出力された相関値と所定の閾値とを比較し、相関値が所定の閾値を超えているか否かを判定する(S55)。信号処理部SPC1は、比較結果を探索継続判定部1500Cに出力する。
【0214】
探索継続判定部1500Cは、相関値が所定の閾値を超えている場合には(S55、YES)、信号処理部SPC1が判定した送信ビームに対応する位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する(S56)。
【0215】
探索継続判定部1500Cは、相関値が所定の閾値を超えていない場合には(S55、NO)、全ての位相のパラメータ、即ち、100から200までを10ステップ単位で設定した値を用いて位相のパラメータの最適値を探索済みであるか否かを判定する(S56−1)。全ての位相のパラメータを用いて探索済みである場合には(S56−1、YES)、探索継続判定部1500Cは、最大の相関値に対応する送信ビームに付与された位相のパラメータを、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータとして確定する(S56−2)。この後、ステップS49に続く。
【0216】
全ての位相のパラメータを用いて探索済みでない場合(S56−1、NO)、探索継続判定部1500Cは、探索対象となるブランチの位相器における次の位相のパラメータが設定された送信ビームの送信指示を送信する(S57)。なお、ステップS57では、既に位相のパラメータとして「100」から「180」までが10ステップ単位で設定されている場合には、位相のパラメータとして更に10ステップ単位で増えて「190」が設定され、最大で「200」が設定される。
【0217】
無線通信装置2000は、探索対象とならない又は既に探索済みの各ブランチの位相器における位相の固定値のパラメータと、現在の探索対象となるブランチの位相器における位相の2番目の候補値としてのパラメータと、2番目の送信ビームの送信間隔L2とを、2番目の送信ビームBM
N2の設定値として設定する(S58)。無線通信装置2000は、設定値に応じた2番目の送信ビームBM
N2をセンサ10Cに送信する(S59)。センサ10Cは、相関器CC1において、2番目の送信ビームBM
N2の受信信号と相関器CC1が保持する符号系列との相関値を演算する(S54)。
【0218】
このように、無線通信装置2000は、ステップS55において相関値が所定の閾値を超えると判定されるまで、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータ及び送信間隔を変更した送信ビームを送信し続ける。
【0219】
本実施形態の無線通信装置2000は、探索対象となるブランチの位相器におけるN通りの位相のパラメータの候補値を基にした送信ビームを、送信間隔を送信ビーム毎に変更して送信する。センサ10Cは、送信ビーム毎の送信間隔にわたって送信された各送信ビームの相関値を基に、探索対象となるブランチの位相器における位相のパラメータの最適値を判定する。
【0220】
以上により、本実施形態の無線通信装置2000は、各ブランチの位相器が付与する位相のパラメータの最適値を探索するための送信ビームを送信できる。更に、本実施形態のセンサ10Cは、無線通信装置の各ブランチの位相器が付与する位相のパラメータの最適値を判定(探索)できる。
【0221】
また、本開示に係る無線通信装置は、以下の構成を有する。
【0222】
本開示は、複数のアンテナ系統処理部を含む無線通信装置であって、
各々の前記アンテナ系統処理部は、
送信信号の符号系列を選択する符号系列選択部と、
前記選択された前記符号系列をパルス圧縮処理するパルス圧縮信号生成部と、
前記選択された前記符号系列に応じて、前記パルス圧縮処理された信号の位相を調整する位相器と、
前記位相が調整された信号を、高周波信号に変換して送信アンテナから送信する送信RF部と、を備える無線通信装置である。
【0223】
また、本開示は、上述した無線通信装置であって、
各々の前記アンテナ系統処理部は、
前記選択された前記符号系列に応じて、前記位相のパラメータを前記位相器に調整させる制御部と、を更に備える無線通信装置である。
【0224】
また、本開示は、上述した無線通信装置であって、
前記符号系列選択部は、
同一の符号系列を所定回数連続して選択し、前記選択後に前記符号系列とは異なる同一の符号系列を前記所定回数連続して選択する無線通信装置である。
【0225】
また、本開示は、上述した無線通信装置であって、
前記符号系列選択部は、
全ての異なる符号系列を順番に選択し、前記選択後に前記全ての異なる符号系列を繰り返して選択する無線通信装置である。
【0226】
また、本開示は、上述した無線通信装置であって、
前記符号系列選択部は、
符号系列毎に選択間隔を異ならせ、同一の符号系列を所定回数連続して選択する無線通信装置である。
【0227】
次に、無線通信装置との間の距離を測距する測距システム、センサ装置、及び無線通信装置に関して説明する。
【0228】
距離の測定(測距)が可能な装置としてレーダ装置が知られている。レーダ装置は、電波を放射し、検出対象物により反射された電波、即ち、反射波を受信する。レーダ装置は、レーダ装置自身と検出対象物との間を直線的に往復した電波を受信し、電波を送信した時刻と反射波を受信した時刻との時間差を基に、検出対象物とレーダ装置との間の距離を測距する。
【0229】
例えば下記の参考特許文献2では、反射波を用いずに一方向に放射された電波(直接波)の受信を基にして目標物と測定局との距離を測距する、所謂、1WAY測距方式の技術が開示されている。参考特許文献2では、測距対象の飛翔物(例えば、航空機、ロケット、ラジオゾンデ)に送信装置を設け、地上の測定局に測距装置を配置する。送信装置は、例えば周期的に、測距用パルスを含む電波を送信する。測距装置は、測距用基準パルスを生成し、送信装置から到来した測距用パルスと測距用基準パルスとの時間差を基に、送信装置と測距装置との間の距離を算出する。
【0230】
1WAY測距方式では、送信装置と測距装置とが互いに独立に動作しているため、測距開始前に、動作のタイミングを合わせる必要がある。参考特許文献2では、飛翔体の打上げ前に飛翔距離ゼロの地点において測距し、測距用基準パルスと測距装置が受信した受信パルスとの時間差を求め、時間差を予め測距演算部に記憶させておく。
【0231】
(参考特許文献2)日本国特開平7−234272号公報
【0233】
しかし、上述した参考特許文献2に示す1WAY測距方式では、測距の開始前に、送信装置(無線通信装置)と、測距装置(センサ装置)との間において信号の送受信の動作タイミングを同期させる必要がある。
【0234】
動作タイミングの同期方法として、例えば、無線通信装置とセンサ装置とをケーブルによって有線接続することで、無線通信装置とセンサ装置との動作タイミングを同期させることが考えられる。しかし、動作タイミングの同期の作業が煩雑となり、簡易に同期させることが困難となる。
【0235】
又は、無線通信装置とセンサ装置とを有線接続せずに無線通信することで、無線通信装置とセンサ装置との動作タイミングを同期させることも考えられる。しかし、無線通信では、無線通信装置とセンサ装置との距離が一定でないため、動作タイミングの同期の処理が煩雑となり、簡易に同期させることが困難となる。
【0236】
本開示は、上述した従来技術における課題を解決するために、無線通信装置からの信号の送信タイミングをセンサ装置に事前に知らせることなく、無線通信装置とセンサ装置との距離を簡易に測距する測距システム、センサ装置及び無線通信装置を提供することを目的とする。
【0237】
<課題を解決するための手段>
本開示は、無線信号を送信する無線通信装置と、前記送信された無線信号に基づいて前記無線通信装置との距離を測距するセンサ装置とを含む測距システムであって、前記無線通信装置は、前記無線通信装置の動作モードを、前記無線信号を送受信する端末通常モード、又は測距用パルス信号を周期的に送信する連続送信モードに切り替える端末制御部を備え、前記センサ装置は、前記センサ装置の動作モードを、無線信号を送受信するセンサ通常モード、又は前記無線通信装置から送信された無線信号を基に、前記無線信号の送信タイミングと受信タイミングとの時間差パラメータを推定する最短距離推定モードに切り替えるセンサ制御部を備え、前記端末側モード制御部は、前記無線通信装置が第1の閾値以上の信号電力の無線信号を受信した場合に、前記無線通信装置の動作モードを前記端末通常モードから前記連続送信モードに切り替え、前記センサ側モード制御部は、前記センサ装置が第2の閾値以上の信号電力の無線信号を受信した場合に、前記センサ装置の動作モードを前記センサ通常モードから前記最短距離推定モードに切り替える。
【0238】
また、本開示は、無線信号を送信する無線通信装置であって、相関検出に適した既知の符号系列を用いたパルス圧縮信号を周期的に生成するパルス圧縮信号生成部と、前記無線通信装置の動作モードを、前記無線信号を送受信する端末通常モード、又は、前記パルス圧縮信号を測距用パルス信号として送信する連続送信モードに切り替える端末制御部と、を備え、前記端末制御部は、第1の閾値以上の信号電力の無線信号を受信した場合には、前記無線通信装置の動作モードを、前記端末通常モードから前記連続送信モードに切り替える。
【0239】
また、本開示は、無線通信装置から送信された無線信号を受信した受信タイミングを基に、前記無線通信装置との距離を測距するセンサ装置であって、前記無線通信装置から送信された前記無線信号を受信するセンサ受信部と、前記センサ装置の動作モードを、前記無線信号を受信するセンサ通常モード、又は、前記無線通信装置から送信された前記無線信号を基に、前記無線信号の送信タイミングと受信タイミングの時間差パラメータを推定する最短距離推定モードに切り替えるセンサ制御部と、を備え、前記センサ側モード制御部は、前記センサ側受信部が第2の閾値以上の信号電力の無線信号を受信した場合には、前記センサ装置の動作モードを、前記センサ通常モードから前記最短距離推定モードに切り替える。
【0240】
<発明の効果>
本開示によれば、無線通信装置からの信号の送信タイミングをセンサ装置に事前に知らせることなく、無線通信装置とセンサ装置との距離を簡易に測距できる。
【0241】
<第5の実施形態>
以下、測距システム、センサ装置及び無線通信装置の第5の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の測距システムは、センサ装置及び無線通信装置を用いて構成され、センサ装置において無線通信装置とセンサ装置との間の距離を測距する。本実施形態の測距システムを用いた測距技術は、日常生活において幅広く利用可能である。
【0242】
例えば、博物館の館内では、センサ装置は、入り口のゲートに設置されることで、無線通信装置を所持する入館者がゲートをくぐることで、無線通信装置との同期を確立でき、また、展示物毎に設置されることで、同期した無線通信装置(例えば、携帯電話機)を所持する入館者が展示物に近接したことを検出し、展示物に近接した人に対して特別なサービス(例えば、展示物に関連するコンテンツの送信)を無線通信装置に提供する。
【0243】
また、例えば、センサ装置は、鉄道の駅構内の立ち入り禁止エリアに設置され、無線通信装置(例えば、携帯電話機)を所持する人が立ち入り禁止エリアに近接したことを検出し、立ち入り禁止エリアに近接した人に対して警告音を無線通信装置から出力させる。
【0244】
また、センサ装置は、駅の改札に設置されることで、無線通信装置を所有する乗客が、改札を通過することで、同期を確立できる。このため、無線通信装置の同期確立の処理と無線通信装置を切符又は定期券として利用する処理とを、乗客が改札を通過する間に完了できる。
【0245】
<測距システムの構成>
<測距システム全体の概要>
本実施形態の測距システム1000は、例えば
図35に示す無線通信装置(端末)100及びセンサ装置200を含む。
図35は、測距システムの初期状態を概念的に示す模式図である。
【0246】
無線通信装置100は、無線信号の送受信が可能な携帯型無線機(例えば携帯電話機)である。例えば、無線通信装置100は、WiGig(Wireless Gigabit)規格に従った無線信号を送受信可能な無線端末である。
【0247】
センサ装置200は、無線通信装置100とセンサ装置200自身との間の距離を、無線信号を用いて測距する。即ち、センサ装置200は、無線通信装置100が無線信号を送信してから、センサ装置200が無線信号を受信するまでの時間差を基に、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を測距する。但し、無線通信装置100及びセンサ装置200は互いに独立して動作しているので、センサ装置200が無線通信装置100からの無線信号を受信するまでの時間差を検出する前に、無線通信装置100及びセンサ装置200の動作タイミングを合わせる必要がある。
【0248】
<無線通信装置100の構成>
図25は、無線通信装置100の構成例を示すブロック図である。
図25に示す無線通信装置100は、アンテナ110、高周波部120、変調部130、復調部140、パルス圧縮検出部150、パルス圧縮生成部160、端末制御部としての無線機制御部170、タイマ180及び受信電力計算部190を含む。
【0249】
無線通信装置100は、無線信号を送受信する。即ち、無線通信装置100が送信するデータは、無線機制御部170から変調部130に入力されて変調部130において変調された後、変調部130と高周波部120との間に設けられるDAC(不図示、Digital Analog Converter)によりアナログ信号に変換される。アナログ信号に変換されたデータは、高周波部120に入力され、高周波部120において高周波信号に変換されて増幅された後、アンテナ110から電波として送信される。高周波信号の周波数帯域としては、例えば60GHz帯であり、センサ装置200において用いられる周波数帯域も同様である。
【0250】
更に、不図示の他の無線局から送信された電波は、アンテナ110において受信され、受信信号として高周波部120に入力される。高周波部120に入力された高周波の受信信号は、高周波部120において増幅されてベースバンド信号に変換された後、高周波部120と復調部140との間に設けられるADC(不図示、Analog Digital Converter)によりデジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された受信信号は、復調部140に入力されて復調され、受信データとして無線機制御部170に入力される。
【0251】
パルス圧縮検出部150及びパルス圧縮生成部160は、センサ装置200が無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を測距するために設けられる。パルス圧縮検出部150は、センサ装置200から送信された測距用パルス信号(パルス圧縮信号)を検出する。パルス圧縮生成部160は、無線通信装置100が送信可能な測距用パルス信号を生成する。
【0252】
パルス圧縮検出部150が検出する測距用パルス信号及びパルス圧縮生成部160が生成する測距用パルス信号は、次のような信号である。即ち、測距用パルス信号は、一定の周期によって周期的に繰り返し現れるパルス状の信号であり、相関検出に適した信号である。測距用パルス信号は、無線通信装置100及びセンサ装置200において予め定められた既知の符号系列を用いて変調された信号である。符号系列の具体例として、例えば、ゴレイ(Golay)符号が用いられるが、ゴレイ符号に限定されない。
【0253】
センサ装置200が送信する測距用パルス信号と、無線通信装置100のパルス圧縮生成部160が生成する測距用パルス信号とは互いに異なる符号系列が用いられている。従って、無線通信装置100又はセンサ装置200は、測距用パルス信号の符号系列を判定することで、複数種類の測距用パルス信号を区別できる。パルス圧縮検出部150は、測距用パルス信号の符号系列を検出するための相関器を含む。
【0254】
無線機制御部170は、無線通信装置100の動作を総括的に制御する。例えば、無線機制御部170は、センサ装置200との通信状態に応じて、予め定められた複数の動作モードを切り替える。動作モードの切り替えの詳細については後述する。
【0255】
タイマ180は、時間測定に用いられる。受信電力計算部190は、高周波部120の出力信号を監視し、アンテナ110が受信した他局(例えば、センサ装置200)からの電波の信号電力の大きさを計算する。
【0256】
<センサ装置200の構成>
図26は、センサ装置200の構成例を示すブロック図である。
図26に示すセンサ装置200は、センサ受信部としてのアンテナ210、高周波部220、パルス圧縮生成部230、相関検出部としての相関信号処理部240、最短距離推定部250、受信電力計算部260、センサ制御部270及びタイマ280を含む。
【0257】
パルス圧縮生成部230は、上述した測距用パルス信号(パルス圧縮信号)を生成する。パルス圧縮生成部230が生成した測距用パルス信号は、パルス圧縮生成部230と高周波部220との間に設けられたDAC(不図示)によりアナログ信号に変換される。アナログ信号に変換されたデータは、高周波部220に入力され、高周波部220において高周波信号に変換されて増幅された後、アンテナ210から電波として送信される。
【0258】
一方、他局(例えば、無線通信装置100)から送信された電波は、アンテナ210において受信され、受信信号として高周波部220に入力される。高周波部220に入力された高周波の受信信号は、高周波部220において増幅されてベースバンド信号に変換される。
【0259】
相関信号処理部240は、相関器を含み、相関器からの出力として、予め定められた符号系列と一致する符号系列を含む信号を受信したタイミングにおいてピーク相関値を得る。従って、センサ装置200は、予め定められた符号系列を基に生成された測距用パルス信号を受信した場合には、相関信号処理部240からの出力(ピーク相関値)を基に、測距用パルス信号の受信タイミングを検出できる。また、相関信号処理部240は、ピーク相関値の検出により、無線通信装置100から送信された測距用パルス信号のパルス幅と比べてパルス幅が圧縮された信号を検出できる。即ち、相関信号処理部240は、パルス圧縮技術を用いているので、各々の測距用パルス信号を受信したタイミングを高精度に検出できる。
【0260】
最短距離推定部250は、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離の最短状態を推定し、推定結果に基づいて測距タイミングを調整する。最短距離推定部250は、測距のために、無線通信装置100が測距用パルス信号を送信したタイミングと、センサ装置200が無線通信装置100からの測距用パルス信号を受信したタイミングとの時間差を測定する。
【0261】
しかし、センサ装置200の動作タイミングと無線通信装置100の動作タイミングと同期していないため、センサ装置200は、初期状態(
図35参照)では、無線通信装置100及びセンサ装置200の各動作タイミングの時間差を把握することが困難である。最短距離推定部250は、無線通信装置100及びセンサ装置200の各動作タイミングの時間差を把握するために推定処理する。具体的な動作については後述する。
【0262】
受信電力計算部260は、高周波部220の出力信号を監視し、アンテナ210が受信した他局(例えば、無線通信装置100)からの電波の信号電力の大きさを計算する。
【0263】
センサ制御部270は、センサ装置200の動作を総括的に制御する。例えば、センサ制御部270は、無線通信装置100との通信状態に応じて、予め定められた複数の動作モードを切り替える。動作モードの切り替えについては後述する。タイマ280は、時間の測定に用いる。
【0264】
<測距方法>
<測距用パルス信号の送受信タイミング>
図27は、無線通信装置100から無線信号として送信される測距用パルス信号の送受信タイミングの具体例(1)を示すタイムチャートである。
【0265】
図27に示す測距用パルス信号SG1は、無線通信装置100が送信した無線信号を表す。
図27に示す測距用パルス信号SG2は、センサ装置200が実際に受信した測距用パルス信号SG1を表す。即ち、無線通信装置100が測距用パルス信号SG1を送信してから測距用パルス信号SG1がセンサ装置200に到達するまでには、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離に応じた時間遅延が生じるため、測距用パルス信号SG1,SG2の間に時間差が生じる。また、無線通信装置100とセンサ装置200との通信の初期状態では、無線通信装置100の動作タイミングとセンサ装置200の動作タイミングとが同期しているわけではない。
【0266】
図27では、測距用パルス信号SG1は、一定の時間周期Taにて測距用パルス信号SG1(1),SG1(2),SG1(3),…が繰り返し無線通信装置100から送信されている。測距用パルス信号SG2(1)は、測距用パルス信号SG1(1)に対応し、即ち、測距用パルス信号SG1がセンサ装置200において受信された信号である。同様に、測距用パルス信号SG2(2),SG2(3),SG2(4),…は、それぞれ測距用パルス信号SG1(2),SG1(3),SG1(4),…に対応し、即ち、測距用パルス信号SG2(1)、SG2(2),SG2(3),SG2(4),…がセンサ装置200において受信された信号である。
【0267】
従って、時刻t11において無線通信装置100から送信された1番目の測距用パルス信号SG1(1)は、測距用パルス信号SG2(1)として時刻t12においてセンサ装置200により受信される。同様に、時刻t21において無線通信装置100から送信された2番目の測距用パルス信号SG1(2)は、測距用パルス信号SG2(2)として時刻t22においてセンサ装置200により受信される。時刻t31において無線通信装置100から送信された3番目の測距用パルス信号SG1(3)は、測距用パルス信号SG2(3)として時刻t32においてセンサ装置200により受信される。
【0268】
図27では、2番目に送信された測距用パルス信号SG1(2)と2番目に受信された測距用パルス信号SG2(2)との時間差は、X(1)として示されている。3番目に送信された測距用パルス信号SG1(3)と3番目に受信された測距用パルス信号SG2(3)との時間差は、X(2)として示されている。4番目に送信された測距用パルス信号SG1(4)と4番目に受信された測距用パルス信号SG2(4)との時間差は、X(3)として示されている。
【0269】
センサ装置200が1番目に受信した測距用パルス信号SG2(1)と2番目に受信した測距用パルス信号SG2(2)との時間間隔は、Tb(1)として示されている。センサ装置200が2番目に受信した測距用パルス信号SG2(2)と3番目に受信した測距用パルス信号SG2(3)との時間間隔は、Tb(2)として示されている。センサ装置200が3番目に受信した測距用パルス信号SG2(3)と4番目に受信した測距用パルス信号SG2(4)との時間間隔は、Tb(3)として示されている。
【0270】
無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離が変化する場合、
図27に示す時間差X(1),X(2),X(3),…が変動する。更に、センサ装置200が受信した測距用パルス信号の時間間隔Tb(1),Tb(2),Tb(3),…も変動する。
【0271】
また、
図27では、ある時刻Kを基準とする場合、時刻Kから時間Yoを経過した後に1番目の測距用パルス信号SG1(1)が無線通信装置100から送信され、時刻Kから時間Zoを経過した後に1番目の測距用パルス信号SG2(1)がセンサ装置200において受信される。
【0272】
<センサ装置200の動作:時間間隔Tb(n)の計測>
センサ制御部270は、相関信号処理部240の出力を監視することで、測距用パルス信号SG2の受信タイミングを測距用パルス信号毎に把握し、基準時刻K以降に受信した測距用パルス信号の時間間隔Tb(1),Tb(2),Tb(3),…を計測し、不図示のメモリに全て記憶する。
【0273】
従って、例えば基準時刻K以降に、センサ装置200は、無線通信装置100から送信された1番目からn番目までの測距用パルス信号を受信した場合、時間間隔Tb(1)からTb(n−1)の合計(n−1)個のデータを得る。センサ装置200は、合計(n−1)個のデータを用いて、センサ装置200の動作タイミングを無線通信装置100の動作タイミングに同期させる。
【0274】
<P値の説明>
図27では、基準時刻K以降に、無線通信装置100がn番目の測距用パルス信号SG1(n)を送信した時刻tn1は、数式(4)により示される。センサ装置200がn番目の測距用パルス信号SG2(n)を受信する時刻tn2は、数式(5)により示される。数式(5)において、Tb(0)=0とする。
【0277】
従って、センサ装置200がn番目の測距用パルス信号SG2(n)を受信する時刻tn2における時刻tn1との時間差X(n−1)は、数式(6)により示される。
【0279】
数式(6)における周期Taは一定であり、センサ装置200において既知情報である。また、センサ装置200は、受信した測距パルス信号の数をカウントすることで、最後に受信した測距用パルス信号の番号nも把握できる。また、センサ装置200は、1番目から(n−1)番目までの測距用パルス信号に対し、(k−1)番目の各時間間隔Tb(k)の値も把握できる。
【0280】
数式(6)における時間Zo,Yoは未知数である。しかし、センサ装置200は時間差X(n−1)の相対値を把握できれば良く、時間Zo,Yoを個別に把握しなくて良い。ここで、便宜上、無線通信装置100とセンサ装置200とが最短近接の状態、即ち、Zo−Yo=0とした場合に、センサ装置200は、時間差X(n−1)に相当するP値を求める。即ち、センサ装置200が(n−1)番目の測距用パルス信号を受信した場合のP値、即ち、P(n−1)は、数式(7)により示される。
【0282】
無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離が変化しない場合には、数式(7)により表されるP値も一定値になる。また、無線通信装置100がセンサ装置200に近づいていく場合にはP値は減少し、無線通信装置100がセンサ装置200から遠ざかる場合にはP値は増大する。
【0283】
図28は、P値の変化の具体例(1)を示すグラフである。即ち、無線通信装置100がセンサ装置200に近づき、その後に離れた場合に、
図28に示すP値の変化特性曲線が観測される。
図28に示す変化特性曲線の極値としてのP値の最小値は、無線通信装置100がセンサ装置200に最も接近した状態、即ち、無線通信装置100とセンサ装置200とが最短距離の状態であることを意味する。
【0284】
最短距離推定部250は、数式(7)により示されるP値を計算し、
図28に示す変化特性曲線の極値を把握することで、無線通信装置100とセンサ装置200との間の最短距離を推定する。但し、P値の変化特性曲線が
図28に示す極値が一つの変化特性曲線ではなく複数の極値が現れる変化特性曲線である場合には、変化特性曲線のいずれかの極値を最短距離の状態として誤判定する可能性もある。
【0285】
最短距離推定部250は、最短距離の推定において、センサ装置200が受信した測距用パルス信号の信号電力が所定の閾値を超えているかどうかを、条件として考慮することで、変化特性曲線の極値の誤判定を防ぐ。
【0286】
<時間差の把握>
上述の方法によりセンサ装置200が検出できる時間は、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を最短近接状態にした場合の時間である。現実的な状況として、本実施形態では、センサ装置200は、無線通信装置100がセンサ装置200に接触若しくは近接する場合に、
図28に示すP値の変化特性曲線を観測する。
【0287】
無線通信装置100がセンサ装置200に接触する場合の無線通信装置100とセンサ装置200との間の接触を期待する位置状態における距離L(例えば10cm)は既知として扱う。即ち、m番目のP値P(m)が最短距離であった場合には、数式(8)が成立する。数式(8)において、Cは光速である。
【0289】
数式(8)により、未知数であったZo,Yoは未だ分からないが、相対値としての差の値(Zo−Yo)が判明する。従って、数式(6)に基づき、1番目から(n−1)番目のうち、j番目に受信された測距用パルス信号について、時間差X(j)が数式(9)により特定できる。数式(9)において、Tb(k)は観測値のデータとして取得でき、(Zo−Yo)は数式(8)から算出され、周期Taは既知である。
【0291】
センサ装置200は、時間差X(j)及び光速Cにより、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を算出できる。また、時間差X(j)が分かることで、センサ装置200は、無線通信装置100の送信時刻t21、t31、t41、・・・が分かるため、無線通信装置100と同期を確立することが出来る。
【0292】
<(変形例):時間差Tc(n)の計測>
次に、時間の計測動作に関する変形例について説明する。
図29は、無線信号の送受信タイミングの具体例(2)を示すタイムチャートである。
【0293】
図27と同様に、
図29に示す測距用パルス信号SG1は無線通信装置100が送信する無線信号である。
図29に示す測距用パルス信号SG2は、センサ装置200が実際に受信した測距用パルス信号SG1を表す。
【0294】
図29では、測距用パルス信号SG1は、一定の時間周期Taにて測距用パルス信号SG1(1),SG1(2),SG1(3),…が繰り返し無線通信装置100から送信されている。測距用パルス信号SG2(1)は、測距用パルス信号SG1(1)に対応し、即ち、測距用パルス信号SG1がセンサ装置200において受信された受信信号である。同様に、測距用パルス信号SG2(2),SG2(3),SG2(4),…は、それぞれ測距用パルス信号SG1(2),SG1(3),SG1(4),…に対応し、即ち、測距用パルス信号SG2(1),SG2(2),SG2(3),SG2(4),…がセンサ装置200において受信された信号である。
【0295】
図29では、無線通信装置100が送信した1番目の測距用パルス信号SG1(1)とセンサ装置200が受信した測距用パルス信号SG2(1)との時間差は、X(1)として示される。無線通信装置100が送信した2番目の測距用パルス信号SG1(2)とセンサ装置200が受信した測距用パルス信号SG2(2)との時間差は、X(2)として示される。無線通信装置100が送信した3番目の測距用パルス信号SG1(3)とセンサ装置200が受信した測距用パルス信号SG2(3)との時間差は、X(3)として示される。
【0296】
また、センサ装置200が受信した1番目の測距用パルス信号SG2(1)の受信時刻と1番目の基準時刻K(1)との時間差は、Tc(1)として示される。センサ装置200が受信した2番目の測距用パルス信号SG2(2)の受信時刻と2番目の基準時刻K(2)との時間差は、Tc(2)として示される。センサ装置200が受信した3番目の測距用パルス信号SG2(3)と3番目の基準時刻K(3)との時間差は、Tc(3)として示される。
【0297】
図29では、ある時刻Kを基準とする場合、時刻Kから時間Yoが経過した後に無線通信装置100は1番目の測距用パルス信号SG1(1)を送信し、時刻Kから時間Zoが経過し、更に、時間差Tc(1)が経過した後にセンサ装置200は1番目の測距用パルス信号SG2(1)を受信する。
【0298】
なお、時間Zo、時刻Yoが未知のため、センサ装置200は、基準時刻Kから時間Zoを経過した後の時刻を1番目の基準時刻K(1)として設定する。
また、無線通信装置100から送信される測距用パルス信号の送信周期Taが、既知であり、一定であるため、センサ装置200は、1番目の基準時刻K(1)から周期Taと同じ時間を経過した後の時刻を、2番目の基準時刻K(2)として設定する。
同様に、センサ装置200は、2番目の基準時刻K(2)から周期Taと同じ時間を経過した後の時刻を、3番目の基準時刻K(3)として設定し、3番目の基準時刻K(3)から周期Taと同じ時間を経過した後の時刻を、4番目の基準時刻K(4)として設定する。
【0299】
変形例1では、センサ装置200は、各基準時刻K(1),K(2),K(3),…を設定し、n番目の測距用パルス信号SG2(n)の受信タイミングを、n番目の基準時刻K(n)からn番目に測距用パルス信号SG2(n)を受信するまでの時間差Tc(n)として順次に計測して記憶する。なお、時間差Tc(n)については負の値でも良い。
【0300】
従って、
図29に示すn番目の時間差X(n)は数式(10)により示される。
【0302】
従って、変形例では、センサ装置200は
図29に示す時間差Tc(n)を計測することで、
図27に示す時間間隔Tb(n)を計測する場合と同様に、n番目の時間差X(n)を把握できる。
【0303】
図27に示す時間間隔Tb(n)を計測する場合には、基準時刻Kからの時間を合計するための数値計算を行うため、測距用パルス信号の受信時刻が基準時刻から長くなると、計算過程において大きな数値を扱う必要があり、センサ装置200の回路規模が大きくなってしまう。しかし、本変形例の時間差Tc(n)を計測する場合には、n番目の基準時刻K(n)からの差分情報を加算すればよいため、扱う数値が増大を抑制でき、センサ装置200の回路規模を削減できる。
【0304】
<システムの動作>
図25に示す無線通信装置100は、測距システム1000において距離を測定するための測距用パルス信号を送信する以外にも、通常に他の受信装置(不図示)との間において通信する。また、
図26に示すセンサ装置200の動作タイミングは、測距システム1000の初期状態では
図25に示す無線通信装置100の動作タイミングと同期していない。
【0305】
<測距システム1000の動作シーケンス>
図31は、第5の実施形態の測距システム1000の動作の概要を示すシーケンス図である。
図35は、測距システム1000の初期状態を概念的に示す模式図である。
図36は、測距システム1000のセンシング状態を概念的に示す模式図である。
図37は、測距システム1000の計測状態を概念的に示す模式図である。
【0306】
通常の通信状態(通常モード)から測距状態(測距モード)に移行する場合には、測距システム1000の無線通信装置100及びセンサ装置200は、それぞれの動作モードを順次に切り替える。即ち、
図31では、無線通信装置100及びセンサ装置200の各状態が「ステート1」から「ステート4」まで変化する。
【0307】
「ステート1」は、例えば
図35では、無線通信装置100とセンサ装置200との距離が十分に離れている初期状態である。「ステート1」では、無線通信装置100及びセンサ装置200は、それぞれ通常モードとして動作している。
【0308】
即ち、無線通信装置100は、所定の無線規格に適合したパケットを無線信号として送受信している。センサ装置200は、所定の測距用パルス信号SG0を送信し、更に、所定の測距用パルス信号SG1の受信の有無を監視している。
【0309】
無線通信装置100がセンサ装置200に近づくことで、
図36に示すセンシング状態への移行が始まり、無線通信装置100及びセンサ装置200は互いの無線信号を検出する。実際には、無線通信装置100がセンサ装置200に近づき、一時的に接触した後、無線通信装置100はセンサ装置200から遠ざかる。
【0310】
無線通信装置100は、受信した無線信号が所定の測距用パルス信号SG0か否か、及び、受信信号の受信電力が特定の閾値を超えているか否かを判定する。無線通信装置100は、判定結果を基に、無線通信装置100の動作モードを、通常モードから連続送信モードに切り替える。これにより、
図35に示す初期状態に対応する「ステート1」から、
図36に示すセンシング状態に対応する「ステート2」に移行する。
【0311】
「ステート2」に移行すると、無線通信装置100は、連続送信モードとして動作する。即ち、無線通信装置100は、通常の通信状態を一時的に停止し、測距用パルス信号(SG1)を連続的に送信する。つまり、無線通信装置100は、
図27又は
図29では、一定の周期Taにて測距用パルス信号(SG1)を繰り返し送信する。
【0312】
「ステート2」では、センサ装置200は、通常モードを継続し、無線通信装置100が送信した測距用パルス信号SG1を、測距用パルス信号SG2として受信する。即ち、
図36に示すセンシング状態では、無線通信装置100はセンサ装置200が送信した測距用パルス信号SG0を検出し、センサ装置200は無線通信装置100が送信した測距用パルス信号SG1を検出する。
【0313】
「ステート2」では、センサ装置200は、受信した測距用パルス信号SG2の信号電力が十分に大きく、所定の閾値を超えているか否かを判定する。閾値を超えている場合に、センサ装置200は、センサ装置200の動作モードを、通常モードから最短距離推定モードに切り替える。これにより、
図36に示すセンシング状態に対応する「ステート2」が、
図37に示す計測状態に対応する「ステート3」に移行する。
【0314】
なお、「ステート2」では、センサ装置200は、センサ装置200自身が送信した測距用パルス信号SG0と、無線通信装置100が送信した測距用パルス信号SG1との両方を受信している。測距用パルス信号SG0,SG1を受信する場合に、センサ装置200は、測距用パルス信号SG1が測距用パルス信号SG0よりも大きい信号電力として、受信する。
【0315】
従って、センサ装置200は、信号電力の大きさの違いを基に、2つの測距用パルス信号SG0,SG1を区別できる。また、センサ装置200は、測距用パルス信号SG1に対応する符号系列と測距用パルス信号SG0に対応する符号系列とが異なる場合には、符号系列を識別することで、2つの測距用パルス信号SG0,SG1を区別できる。
【0316】
「ステート3」では、無線通信装置100は連続送信モードの動作を継続し、センサ装置200は最短距離推定モードとして動作する。最短距離推定モードでは、
図37に示す計測状態では、センサ装置200は、センサ装置200自身からの測距用パルス信号SG0の送信を停止し、無線通信装置100からの測距用パルス信号SG1の受信を継続する。センサ装置200の最短距離推定部250は、上述した最短距離推定方法に従って、無線通信装置100とセンサ装置200との最短距離を推定し、更に、センサ装置200のセンサ制御部270は受信した測距用パルス信号の信号電力の大きさと所定の閾値とを比較する。センサ装置200は、受信した測距用パルス信号の信号電力が閾値を超えたと判定し、判定後に最短距離推定に成功すると、
図37に示す計測状態に対応する「ステート4」へ移行する。
【0317】
「ステート4」では、無線通信装置100は連続送信モードの動作を継続し、センサ装置200は測距モードとして動作する。測距モードでは、センサ装置200は、
図37に示す計測状態では、無線通信装置100からの測距用パルス信号SG1の受信を継続する。センサ装置200は、「ステート3」において最短距離推定に成功し、無線通信装置100の送信タイミングを既に把握しているので、測距用パルス信号SG1,SG2の時間差X(n−1)を検出し、検出された時間差X(n−1)を基に、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を算出する。
【0318】
また、無線通信装置100は、「ステート1」から「ステート2」に移行した連続送信モードの開始時から事前に決められた一定の時間が経過した後に、通常モード、即ち、「ステート1」に対応する動作モードに移行する。同様にセンサ装置200は、「ステート3」から「ステート4」に移行した測距モードの開始時から事前に決められた一定の時間が経過した後に、通常モード、即ち、「ステート1」に対応する動作モードに移行する。
【0319】
<無線通信装置100の動作>
図32は、第5の実施形態の無線通信装置100の動作の詳細を示すフローチャートである。
【0320】
無線通信装置100の電源が投入されると、無線機制御部170は、無線通信装置100の動作を初期化し(S11)、動作モードとして通常モードを選択する。通常モードでは、無線通信装置100は、無線信号を送受信する(S12)。
【0321】
また、無線機制御部170は、通常モードにおいて無線信号を受信した場合(S13)には、無線信号がセンサ装置200から送信された測距用パルス信号SG0であるか否かを判定する(S14)。例えば、無線機制御部170は、受信した無線信号に含まれる符号系列が予め定められた符号系列と一致するか否かをパルス圧縮検出部150が判断することで、測距用パルス信号SG0とそれ以外の無線信号とを区別できる。
【0322】
無線通信装置100が測距用パルス信号SG0を受信した場合には(S14、YES)、受信電力計算部190は、測距用パルス信号SG0の信号電力の大きさPxを算出し(S15)、信号電力の大きさPxと予め定めた閾値Pth1とを比較する(S16)。なお、無線機制御部170がステップS16の比較を行っても良い。
【0323】
「Px>Pth1」の条件を満たす場合(S16、YES)、つまり無線通信装置100がセンサ装置200にある程度近づいた場合には、無線通信装置100の無線機制御部170は、動作モードを通常モードから連続送信モードへ移行する(S17)。従って、
図36に示すセンシング状態に移行する。
【0324】
無線機制御部170は、動作モードを連続送信モードへ移行すると、連続送信時間T10を計測するタイマ180をスタートさせる(S18)。無線機制御部170は、パルス圧縮生成部160を制御して、測距用パルス信号SG1の送信を開始させる(S19)。
【0325】
また、タイマ180の出力に応じた連続送信時間T10が予め定めた時間を超過すると(S20、YES)、タイムオーバになり(S20)、無線通信装置100の動作モードは通常モードへ移行する(S21)。
【0326】
<センサ装置の動作(1)>
図33は、第5の実施形態のセンサ装置200の動作(1)の詳細を示すフローチャートである。
【0327】
センサ装置200の電源が投入されると、センサ制御部270は、センサ装置200の動作を初期化し(S31)、動作モードとして通常モードを選択する。通常モードでは、センサ装置200は、パルス圧縮生成部230が生成した測距用パルス信号SG0を一定の周期において連続的に送信する(S32)。
【0328】
また、センサ装置200は、通常モードでは、他局から送信された無線信号を受信する(S33)。他局からの無線信号を受信した場合には(S33、YES)、センサ制御部270は、無線信号が予め定められた測距用パルス信号SG1であるか否かを判定する(S34)。例えば、センサ制御部270は、受信した無線信号に含まれる符号系列が予め定められた符号系列と一致するか否かを判断することで、測距用パルス信号SG1とそれ以外の無線信号とを区別できる。
【0329】
センサ装置200が測距用パルス信号SG1を受信した場合には(S34、YES)、受信電力計算部260は、測距用パルス信号SG1の信号電力の大きさPyを算出し(S35)、算出した測距用パルス信号SG1の信号電力の大きさPyと予め定められた閾値Pth2とを比較する(S36)。なお、センサ制御部270がステップS36の比較を行っても良い。
【0330】
無線通信装置100がセンサ装置200にある程度近い(例えば距離が50cm以内)位置にある場合には、測距用パルス信号の信号電力の大きさPyが大きくなるため、「Py>Pth2」の条件が成立し、センサ制御部270は、動作モードを通常モードから最短距離推定モードへ移行する(S37)。最短距離推定モードでは、センサ装置200の最短距離推定部250は、上述した最短距離推定方法に従って、無線通信装置100とセンサ装置200との間の最短距離を推定する。
【0331】
最短距離推定モードへ移行した後、センサ制御部270は、測距用パルス信号SG1の信号電力の大きさPyと予め定められた閾値Pth3とを比較する(S38)。但し、ステップS36における閾値Pth2は、ステップS38における閾値Pth3より小さい。つまり、ステップS38では、センサ制御部270は、ステップS36よりも更に近接した状態(例えば距離が20cm以内)であるか否かを判定する。
【0332】
「Py>Pth3」の条件を満たす場合には(S38、YES)、無線通信装置100がセンサ装置200に対して十分に近接した状態であるので、センサ装置200は、距離の変化に対して、
図33に示す変化特性曲線のP値のデータを取得できる。
【0333】
従って、最短距離推定部250は、P値の極値(最小値)を最短距離とみなして推定結果を出力する(S39)。即ち、最短距離推定部250は、測距用パルス信号SG1の送受信タイミングの時間差パラメータ(Zo−Yo)を決定する(S39)。
【0334】
測距用パルス信号SG1の送受信タイミングの時間差パラメータ(Zo−Yo)が決まると、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離の測定が可能になるので、センサ装置200のセンサ制御部270は、動作モードを最短距離推定モードから測距モードに移行する(S40)。
【0335】
測距モードに移行した後、センサ制御部270は、連続送信時間T20のタイマをスタートさせる(S41)。センサ制御部270は、連続送信時間T20のタイマがタイムオーバになるまで距離の計測を継続する。即ち、センサ制御部270は、測距用パルス信号SG1の送受信の時間差X(j)を、受信した測距用パルス信号毎に算出し(数式(9)又は数式(10)参照)、算出された時間差を基に、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を算出する。
【0336】
連続送信時間T20が予め定められた時間を超えると(S42、YES)、タイムオーバになり(S42)、センサ装置200の動作モードは通常モードへ移行する(S43)。
【0337】
<センサ装置200の動作(2)>
図34は、センサ装置200の動作(2)を示すフローチャートである。
図34において、ステップS39B以外の各ステップの動作内容は
図9の内容と同様であるため、説明を省略する。
【0338】
図34に示す動作(2)では、無線通信装置100及びセンサ装置200の各動作タイミングを合わせるために、無線通信装置100がセンサ装置200に接触する。
【0339】
P値は例えば
図30(a)に示す変化特性曲線のように変化する。つまり、無線通信装置100は徐々にセンサ装置200に接近し、その後、接触した状態が所定時間Tp以上継続し、所定時間Tp以上継続した後に無線通信装置100はセンサ装置200から徐々に離れる。
図30(a)は、無線通信装置100とセンサ装置200とが接触した状態が所定時間Tp以上継続した場合のP値の変化を示すグラフである。
【0340】
図30(a)では、P値の変化特性曲線は、P値が最小値P0において、ほとんど変化しない状態、つまり接触状態がある程度の時間に渡って継続する状態が現れる。これによって、無線通信装置100とセンサ装置200とが、接触していると推定できる。
【0341】
しかし、
図30(b)では、所定時間Tp未満の経過後に、無線通信装置100はセンサ装置200から徐々に離れる場合があり、無線通信装置100とセンサ装置200とが接触する以前に、無線通信装置100がセンサ装置200から離れたと推定できる。このため、最小距離として、本来期待していないP1を検出する。
図30(b)は、無線通信装置100とセンサ装置200とが接触した状態が所定時間Tp未満である場合のP値の変化を示すグラフである。
【0342】
これに対して、
図34のステップS39Bでは、センサ制御部270は、接触状態の条件を満たすP値のうち、最小値の状態を、最短距離の状態とみなしてタイミングを決定する。例えば、検出したP値の変化特性曲線の中では、P値が最小のまま変化しない状態が所定時間Tp以上続く状態であって、且つ、P値が予め定めた閾値(例えば10cm)以下である場合を接触状態の条件として予め規定しておく。
【0343】
所定時間Tpは、無線通信装置100とセンサ装置200とを接触させておく期間に相当し、所定時間Tpが大きければ大きいほど、接触状態の条件に対する誤検出の発生が小さくなるが、一方で、一定時間の間、無線通信装置100とセンサ装置200とを接触させておく必要があるため、検出容易性は低下する。
【0344】
図30に示すような、接触状態の条件を満たすP値に基づいて最短距離の状態を推定することにより、最短距離の誤検出を減らすことができる。
【0345】
以上により、本実施形態の測距システム1000は、距離の測定が不要な通常の通信状態(通常モード)においては、無線通信装置100は通常の無線通信を行い、距離の測定が必要になった場合に動作モードを切り替えることができる。
【0346】
また、無線通信装置100は、測距用パルス信号SG1として、パルス圧縮生成部160において、相関検出に適した既知の符号系列を用いて変調された信号を周期的に生成する。また、センサ装置200は、相関信号処理部240において、受信した測距用パルス信号SG1について相関検出する。
【0347】
従って、センサ装置200は、パルス圧縮技術を用いて、無線通信装置100からの測距用パルス信号の受信タイミングを高精度に検出できる。また、センサ装置200は、符号系列を判定することで、複数の無線通信装置から送信された複数の測距用パルス信号を区別できる。
【0348】
また、センサ装置200は、最短距離推定モードに切り替わった場合に、最短距離推定部250において、受信した測距用パルス信号の受信タイミングを繰り返して検出し、無線通信装置100がセンサ装置200に対して近接した場合に、無線通信装置100からの測距用パルス信号の送受信タイミングの時間差パラメータ(Zo−Yo)を算出する。なお、センサ装置200は、時間差パラメータの変化に応じたP値の最小値を基準として、時間差パラメータを推定する。
【0349】
従って、無線通信装置100がセンサ装置200に近接することで、センサ装置200は、距離の測定に必要な時間差パラメータを簡易に算出でき、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を簡易に算出できる。
【0350】
更に、センサ装置200は、時間差パラメータの変化に応じたP値の最小値が所定の一定期間に渡って一定値である状態を基準として、時間差パラメータを推定する。
【0351】
従って、無線通信装置100がセンサ装置200に接触することで、センサ装置200は、距離の測定に必要な時間差パラメータの誤検出を抑制でき、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を簡易に算出できる。
【0352】
また、センサ制御部270は、最短距離推定部250が時間差パラメータの推定を完了した後に、センサ装置200の動作モードを最短距離推定モードから測距モードに切り替え、測距用パルス信号SG1の受信タイミング及び時間差パラメータを基にして、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離を算出する。
【0353】
従って、センサ装置200は、距離の測定に必要な時間差パラメータを取得した後に、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離の測定を着実に開始できる。
【0354】
なお、無線通信装置100とセンサ装置200との間の距離が近づくとは、例えば、無線通信装置100を所有したユーザがセンサ装置200に近づく、ユーザが所有した無線通信装置100をセンサ装置200に直接接触させる、ユーザが所有した無線通信装置100をセンサ装置200の特定部分に翳す、といった動作が考えられる。
【0355】
また、センサ装置200を複数配置し、ネットワークで接続することで、他のセンサ装置が確立した同期を複数のセンサ装置で共有できる。
【0356】
また、本開示に係る測距システム、無線通信装置及びセンサ装置は、以下の構成を有する。
【0357】
本開示は、無線信号を送信する無線通信装置と、前記送信された無線信号に基づいて前記無線通信装置との距離を測距するセンサ装置とを含む測距システムであって、
前記無線通信装置は、
前記無線通信装置の動作モードを、前記無線信号を送受信する端末通常モード、又は測距用パルス信号を周期的に送信する連続送信モードに切り替える端末制御部を備え、
前記センサ装置は、
前記センサ装置の動作モードを、無線信号を送受信するセンサ通常モード、又は前記無線通信装置から送信された無線信号を基に、前記無線信号の送信タイミングと受信タイミングとの時間差パラメータを推定する最短距離推定モードに切り替えるセンサ制御部を備え、
前記端末側モード制御部は、
前記無線通信装置が第1の閾値以上の信号電力の無線信号を受信した場合に、前記無線通信装置の動作モードを前記端末通常モードから前記連続送信モードに切り替え、
前記センサ側モード制御部は、
前記センサ装置が第2の閾値以上の信号電力の無線信号を受信した場合に、前記センサ装置の動作モードを前記センサ通常モードから前記最短距離推定モードに切り替える測距システムである。
【0358】
また、本開示は、上述した測距システムであって、
前記無線通信装置は、
前記測距用パルス信号として、相関検出に適した既知の符号系列を用いたパルス圧縮信号を周期的に生成するパルス圧縮生成部と、を更に備え、
前記センサ装置は、
前記無線通信装置から送信された前記測距用パルス信号を相関検出する相関検出部と、を更に備える測距システムである。
【0359】
また、本開示は、上述した測距システムであって、
前記センサ装置は、
前記最短距離推定モードにおいて、前記測距用パルス信号の受信タイミングを繰り返して検出し、前記無線通信装置が前記センサ装置に近接した場合に、前記無線信号の送信タイミングと受信タイミングの時間差パラメータを推定する最短距離推定部と、を更に備える測距システムである。
【0360】
また、本開示は、上述した測距システムであって、
前記最短距離推定部は、
前記最短距離推定モードにおいて、前記測距用パルス信号の受信タイミングを繰り返して検出し、前記無線通信装置が前記センサ装置に接触した場合に、前記受信タイミングを基にして前記無線通信装置と前記センサ装置との距離パラメータを算出し、前記距離パラメータが一定期間に渡って所定値である場合に、前記無線信号の送信タイミングと受信タイミングの時間差パラメータを推定する測距システムである。
【0361】
また、本開示は、上述した測距システムであって、
前記センサ制御部は、
前記最短距離推定部が前記無線信号の送信タイミングと受信タイミングの時間差パラメータを推定した後に、前記センサ装置の動作モードを、前記最短距離推定モードから測距モードに切り替え、前記測距用パルス信号の受信タイミング及び前記時間差パラメータを基に、前記無線通信装置と前記センサ装置との距離を算出する測距システムである。
【0362】
また、本開示は、上述した無線信号を送信する無線通信装置であって、
相関検出に適した既知の符号系列を用いたパルス圧縮信号を周期的に生成するパルス圧縮生成部と、
前記無線通信装置の動作モードを、前記無線信号を送受信する端末通常モード、又は、前記パルス圧縮信号を測距用パルス信号として送信する連続送信モードに切り替える端末制御部と、を備え、
前記端末制御部は、
第1の閾値以上の信号電力の無線信号を受信した場合には、前記無線通信装置の動作モードを、前記端末通常モードから前記連続送信モードに切り替える無線通信装置である。
【0363】
また、本開示は、上述した無線通信装置から送信された無線信号を受信した受信タイミングを基に、前記無線通信装置との距離を測距するセンサ装置であって、
前記無線通信装置から送信された前記無線信号を受信するセンサ受信部と、
前記センサ装置の動作モードを、前記無線信号を受信するセンサ通常モード、又は、前記無線通信装置から送信された前記無線信号を基に、前記無線信号の送信タイミングと受信タイミングの時間差パラメータを推定する最短距離推定モードに切り替えるセンサ制御部と、を備え、
前記センサ側モード制御部は、
前記センサ側受信部が第2の閾値以上の信号電力の無線信号を受信した場合には、前記センサ装置の動作モードを、前記センサ通常モードから前記最短距離推定モードに切り替えるセンサ装置である。
【0364】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0365】
なお、本出願は、2012年2月8日出願の日本特許出願(特願2012−025492)、2012年2月27日出願の日本特許出願(特願2012−040451)、及び2012年3月29日出願の日本特許出願(特願2012−078307)に基づくものであり、これらの内容はここに参照として取り込まれる。