(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、半導体などの精密電子部品の製造プロセス(製造、洗浄、検査、搬送工程)では、粘着テープなどの粘着材を用いて、各種材料等の仮止めが行われている。この仮止めに用いられる粘着材は、電子部品の加工時には十分な粘着性を示すが、加工を終えた後には被着体から容易に剥離除去できる物性が要求されている。
【0003】
また、近年では、電子部品の高精密化に伴い、電子部品表面への異物の付着がより大きな問題となってきている。例えば、代表的な精密電子部品である半導体基板などでは、その表面の異物が回路の断線やショートの原因となる。また、高い清浄度を達成するためには、製品の歩留まりが悪くなったり、わずかな汚れが性能に致命的欠陥を生じたりする恐れがあるため、電子部品表面からの異物除去が望まれている。
【0004】
ところが粘着テープなどの粘着材は、粘着力(剥離力)が強固なため、被着体への貼着は十分であるが、被着体を損傷することなく被着体から引き剥がすことが困難である。また、その強い粘着力のため粘着材を無理に引き剥がすと被着体への糊残りが生じ、結果として異物付着につながるという問題がある。そうした一方で、再剥離性を高めるため粘着材の粘着力を下げると、被着体への貼着が不十分となり、搬送または加工時に被着体が剥がれてしまい、仮固定材として役に立たないという問題がある。
【0005】
こうした粘着材を用いた例として特開2003−105290号公報(特許文献1)には、基材上に放射線硬化型粘着剤層を設けた固定用シートが開示されている、より具体的には、半導体封止樹脂板または光学部品の切断時固定用粘着シートにおいて、この粘着剤層が、ベースポリマー100重量部に対し、炭素数10以上のアルキル基を有するエステル系化合物を、0.02〜10重量部含有している粘着剤組成物により形成されることが示されている。
【0006】
また、特開2012−184292号公報(特許文献2)で開示される加熱剥離型粘着シートは、固定時には十分な粘着性を発揮し、役目を終えたらUV照射や加熱などの外部エネルギーを与えることで粘着成分を硬化して剥離し易くしている。しかしながら、粘着力を完全には抑制できず被着体への糊残りが生じる課題があり、また、外部エネルギーを照射するため、被着体へ悪影響を及ぼすといった弊害もある。
【0007】
特開2000−312862号公報(特許文献3)で開示されたクリーニングシートは、前記特許文献2記載の発明と同様に、UV照射により剥離性を向上するものであり、併せて、異物除去性も有するものであるが、粘着材を引き剥がす際に、剥離帯電を起こす場合があり、帯電した製品に埃が付着するといった新たな課題がある。
【0008】
その他、シリコーンゲルを用いた固定シートもあるが、シリコーンゲルはシロキサンによる製品汚染の影響が大きく、また帯電防止性能を十分に有さないために、埃を寄せ付け異物混入の原因となる。導電性を付与するために、カーボンや金属フィラーを練り込むということも考えられるが、分散ムラが生じるため電荷の分布が不均一であるという欠点が存在する。
【0009】
また、異物除去に関しては、外圧(エアー、水圧)で製品表面の異物を取り除くことができるが、エアーでは製品の固定が必要なため工程プロセスが煩雑になるほか、固定面の異物が除去し難い不具合があり、また、水洗では電子部品全面の異物除去が可能だが、異物の再付着が起こりやすく、また乾燥工程が必要となるなど課題が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑みなされたものであり、その目的は、ガラス製や金属製などの精密電子部品を容易に仮止めすることができ、且つ容易に剥離することができる仮固定性能を有する仮固定材を提供することである。
また、ガラス製や金属製などの精密電子部品等の被着体に付着した異物を取り除くことが可能な異物除去性能を有する仮固定材を提供することである。
さらには、剥離の際に生じる静電気を除去する帯電防止性能を有する仮固定材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため以下の発明を提供する。
即ち、
シート状のベース基材と
、その一方の面に固着されたシート状の高分子ゲルとからなり、搬送または加工時の電子部品の仮止め
用仮固定材であって、
前記高分子ゲルが、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体を共重合架橋した高分子マトリックス内に、少なくともポリビニルアルコール系重合体を溶解した水が保持されたゲルであ
り、前記ベース基材が、樹脂フィルムであり、前記高分子ゲルの表面抵抗率が、1.0×104Ω/□〜1.0×109Ω/□である
仮止め用仮固定材である。
【0013】
また、高分子ゲルからな
る、搬送または加工時の電子部品の仮止め
用仮固定材であって、
前記高分子ゲルが、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体を共重合架橋した高分子マトリックス内に、少なくともポリビニルアルコール系重合体を溶解した水が保持されたゲルであ
り、前記高分子ゲルの表面抵抗率が、1.0×104Ω/□〜1.0×109Ω/□である
仮止め用仮固定材である。
【0014】
高分子ゲルが、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体を共重合架橋した高分子マトリックスを有し、その高分子マトリックス中に少なくともポリビニルアルコール系重合体を溶解した水を保持しているため、自己粘着性を有し、柔軟性に優れた高分子ゲルとすることができる。そのため、糊残りが無く仮固定性に優れたゲルとすることができる。また、水を含むゲルであるため、適度な表面抵抗を有し帯電防止性に優れたゲルである。さらに、前述する自己粘着性によりガラス製や金属製などの精密電子部品等の表面に固定され、引き剥がしの際には被着体の接触面に付着していた異物を高分子ゲル面に付着させ易い。また、高分子ゲル中に水が保持されているため、帯電防止効果により異物を寄せ付け難い。したがって、ガラス製や金属製などの精密電子部品等に貼着することができ、搬送または加工時には振動、揺れ等があっても剥がれ難い一方で、加工が終了すれば糊残り無く、帯電させずに、異物を除去しながら、簡単に引き剥がすことができるという、仮固定性、異物除去性、帯電防止性に優れた仮固定材である。
また、ベース基材と高分子ゲルとからなる仮固定材とすれば、柔らかなゲルをベース基材で固定することができるため、ハンドリング性に優れた仮固定材である。
【0015】
高分子ゲルの90度引き剥がしSUS剥離力が、0.1N/20mm〜1.0N/20mmである仮固定材とすることができる。高分子ゲルの90度引き剥がしSUS剥離力を、0.1N/20mm〜1.0N/20mmとしたため、電子部品等の仮固定時には搬送または加工をしても剥がれ難く、加工終了時には剥がれやすい仮固定性に優れた仮固定材とすることができる。
【0016】
高分子ゲルの異物除去率が、80%以上である仮固定材とすることができる。高分子ゲルの異物除去率が80%以上であるため、電子部品や基板等に付着した異物を取り除き易く、こうした被着体のクリーニング効果を奏することができる。
【0017】
高分子ゲルの表面抵抗率が、1.0×10
4Ω/□〜1.0×10
9Ω/□である仮固定材とすることができる。高分子ゲルの表面抵抗率を1.0×10
4Ω/□〜1.0×10
9Ω/□としたため、被着体からの引き剥がし時に帯電せず、優れた帯電防止性を有する仮固定材である。また、表面抵抗率が1.0×10
4Ω/□以上であって低すぎないため、搬送または加工時等に他の導電部材と接触したとしても精密電子部品や基板に想定外の通電が起きることを防ぎ、これらの被着体を保護することができる。
【0018】
高分子ゲルのベース基材を固着した面とは反対面に剥離基材を有する仮固定材とすることができる。高分子ゲルのベース基材を固着した面とは反対面に剥離基材を設けたため、高分子ゲルの露出による埃の付着等を防止することができる。そのため、基板や精密電子部品等への高分子ゲルの付着面を清浄に保つことができ、予期せぬ被着体への異物の貼着を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の仮固定材によれば、ガラス製や金属製などの精密電子部品を容易に仮止めすることができ、且つ容易に剥離することができる仮固定性能を有する。また、精密電子部品を固定する治具や、ガラス製または金属製などの精密電子部品等の被着体に付着した異物を取り除くことが可能な異物除去性能を有する。さらに、剥離の際に生じる静電気を除去する帯電防止性能を有する。加えて、表面抵抗が小さすぎず精密電子部品等に悪影響を及ぼすこともない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
仮固定材: 本発明の仮固定材は、ベース基材と高分子ゲルとからなるものである。
高分子ゲルは、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体を共重合架橋した高分子マトリックス内に、少なくともポリビニルアルコール系重合体を溶解した水が保持されている。
【0021】
高分子マトリックスを形成する重合性単量体は、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の水溶性アクリルエステル、ビニルピロリドン、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド等のビニルアミド系単量体、アリルアルコール等の非イオン性単量体のほか、(メタ)アクリル酸又はその塩、ターシャリーブチルアクリルアミドスルホン酸等のスルホン酸基含有アニオン性単量体又はその塩、ジメチルアミノメチルプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基又はアンモニウム基含有カチオン性単量体等の単独または複数が挙げられる。
【0022】
上記重合性単量体の中で、後述するポリビニルアルコール系重合体の溶解に水が必要なことから、水溶性を有する重合性単量体が好ましく、重合反応性が良好なことからアクリルアミド系単量体または水溶性アクリルエステルがより好ましい。中でも、高分子ゲル中の他の成分との親和性が良好なことからアクリルアミド系単量体がより好ましい。
重合性単量体の濃度は、高分子ゲル全量100重量部に対して10重量部〜40量部であることが好ましく、13重量部〜40重量部であることがより好ましい。重合性単量体の濃度を10重量部未満にして高分子ゲルを作成した場合、ゲル中の高分子マトリックスの密度が低いため、十分に腰強度の大きな高分子ゲルを得ることが出来ず、被着体から剥離する際に千切れが生じ、被着体表面に糊残りが生じやすくなる。一方、重合性単量体の濃度が40重量部を超える場合は、ポリビニルアルコールを溶解するための水が少なくなり、重合性単量体の溶解性が悪くなって、均一な高分子ゲルが得られ難くなるおそれがある。
【0023】
架橋性単量体としては、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体であれば特に限定されないが、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリグリセリンジ(メタ)アクリレート等のアクリルアミド系または多官能アクリル系単量体が好ましい。
この架橋性単量体の濃度は、高分子ゲル全量100重量部に対して好ましくは0.001重量部〜3.0重量部であり、より好ましくは0.01重量部〜1.0重量部である。架橋性単量体の濃度が3.0重量部を超えた場合、高分子マトリックスの架橋密度が高くなりすぎ、腰強度が高い反面、脆い高分子ゲルとなり、例えば、シート裁断時に裁断部端部から生じるゲルカスが異物として被着体に付着しやすくなる。一方、架橋性単量体の濃度が0.001重量部未満では架橋密度が低くなりすぎ、高分子ゲルが得られ難い。
【0024】
ポリビニルアルコール系重合体は、仮固定材の粘着性を調整するとともに千切れや糊残りを防止するために添加される。重合性単量体と架橋性単量体の含有量を調整するだけでは、粘着性が伴わなかったり、硬く脆いゲルとなったりするだけで千切れや糊残りの問題を解消することができないからである。ポリビニルアルコール系重合体を加えることで、重合性単量体と架橋性単量体とで架橋された高分子マトリックスをポリビニルアルコール系重合体が貫通し、S-IPN(Semi-Interpenetrating Polymer Network)構造というゲル構造が形成されることで、ゲルとしての柔軟性が増しこうした効果が得られるものと推測される。
また、ポリビニルアルコール系重合体を溶解した水を高分子マトリックス内に保持させることにより、高分子ゲル中の水分の乾燥が抑制され、経時での帯電防止性能が維持されるという効果も得られる。
【0025】
ポリビニルアルコール系重合体の重合度は、粘度平均重合度において500〜3000であることが好ましい。重合度が500未満の場合は、前述の千切れ抑制効果が薄く、逆に、重合度が3000を超える場合は、溶解する際に粘度が上昇し均一なモノマー配合液が得られ難い。
【0026】
ポリビニルアルコール系重合体のケン化度は、80%〜98%であることが好ましい。ケン化度が80%未満であると、モノマー配合液を調製する際の溶解性は向上するが、得られた高分子ゲルの安定性が低下し易い。逆に、ケン化度が98%を超えると、溶解性が低下しモノマー配合液の調製が難しくなる。
【0027】
ポリビニルアルコール系重合体の含有量は、重合性単量体と架橋性単量体とが共重合架橋した高分子マトリックス100重量部に対して、好ましくは0.15重量部〜30重量部であり、より好ましくは5重量部〜22重量部である。0.15重量部未満では、前述の千切れ抑制効果が薄く、30重量部を超えると、ポリビニルアルコール系重合体の溶解性が悪くなり均一な高分子ゲルが得られ難い。
【0028】
ポリビニルアルコール系重合体には、例えば、ポリビニルアルコールやエチレンポリビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールの誘導体、ポリビニルアルコールの変性体等が例示できる。また、ポリビニルアルコール系重合体は、直鎖状高分子で構成されたものであることが好ましい。S-IPN構造が得られ易いからである。
【0029】
高分子ゲル中に含まれる水は、高分子マトリックス100重量部に対して、40重量部〜460重量部であることが好ましい。水の濃度が40重量部未満ではポリビニルアルコール系重合体を溶解し難くなる場合がある。一方、水の濃度が460重量部を超えると、ポリビニルアルコール系重合体の溶解は容易である反面、高分子マトリックスが保持可能な水分量を超え易いため、乾燥による物性変動が生じ易くなる。
【0030】
こうした高分子ゲルは、保湿性、可塑性を向上させるために多価アルコールを含有させることが好ましい。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのジオールの他、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の多価アルコール縮合体、ポリオキシエチレングリセリン等の多価アルコール変成体等を例示できるが、常温で液状、詳細には、高分子ゲルを実際に使用する温度領域(例えば室内で使用する場合は20℃前後)で液状の多価アルコールが好ましい。
【0031】
多価アルコールの濃度は、高分子マトリックス100重量部に対して580重量部以下であることが好ましい。中でも、100重量部〜580重量部用いた場合は、得られた高分子ゲルに保湿性を付与し、乾燥による物性変化を抑え、高分子ゲル本来の柔軟性や帯電防止性能をより長時間発揮させることができる点でより好ましい。多価アルコールの濃度が580重量部を超える場合は、相対的に水分量が少なくなり、ポリビニルアルコール系重合体を溶かし込む事が難しくなる。
【0032】
重合開始剤は特に限定されないが、加熱により重合架橋させる場合は、アゾビスシアノ吉草酸やアゾビスアミジノプロパン2塩酸塩等のアゾ重合開始剤を用いることができる。また、光の照射によって重合させる場合は、アゾ系、アセトフェノン系をはじめとする公知の光重合開始剤を使用する事ができる。また、これらの重合開始剤の複数を混合し、光の照射と加熱を同時に行なっても良い。
【0033】
また、硫酸第1鉄やピロ亜硫酸塩等の還元剤と過酸化水素やペルオキソ2硫酸塩等の過酸化物からなるレドックス重合開始剤等も用いることができる。これらのレドックス重合開始剤を用いる場合、加熱をしなくても反応を行なう事が可能であるが、残存モノマーの低減化や反応時間の短縮のため、加熱を行なうことが好ましい。
【0034】
さらに高分子ゲルには、必要に応じて各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、安定剤、pH調整剤、香料、着色剤、染料等が挙げられる。
【0035】
高分子ゲルの製造方法としては、次のような方法が例示できる。
分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する重合性単量体と、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体と、ポリビニルアルコール系重合体と、水と、必要により重合開始剤や添加剤とを均一に混合溶解し、モノマー配合液を製造する。そして、重合性単量体と架橋性単量体を重合架橋させることで高分子ゲルが得られる。モノマー配合液は液状のため、例えば樹脂型などに流し込んで重合架橋させると、任意の形状の高分子ゲルを製造することができる。また、一定の間隔に保持した2枚のフィルムの間にモノマー配合液を流し込んで重合架橋させれば、シート状の高分子ゲルが得られる。
重合性単量体と架橋性単量体との重合架橋は、加熱または光照射する方法、電子線やガンマ線など放射線を照射する方法が挙げられるが、放射線照射はそのための特殊な設備を要するため加熱または光照射の方が好ましい。こうした製造方法を用いると製造工程が簡素であり、連続生産も可能であるため、非常に経済的であると同時に、安定した物性の高分子ゲルを得ることができる。
【0036】
高分子ゲルの粘着性能は、90度引き剥がしSUS剥離力、即ち、SUS鋼板(ステンレス鋼板)から90度方向へ引き剥がすときの応力で、好ましくは0.1N/20mm〜1.0N/20mmである。上記範囲を外れる場合、貼着性とリワーク性の両立ができない場合がある。例えば、1.0N/20mmを超える場合は、貼着性は高いものの、引き剥がし難くリワーク性が失われるおそれがあり、0.1N/20mm未満の場合は、十分な貼着性が得られない。また、異物除去性も失われ80%以上の異物除去率が得られ難い。
【0037】
高分子ゲルの電気性能は、表面抵抗率で1.0×10
4Ω/□〜1.0×10
9Ω/□であることが好ましい。例えば、1.0×10
9を超える場合は、十分な帯電防止性能が得られず、製品へ埃を寄せ付け、異物として付着するおそれがあり、1.0×10
4 Ω/□未満の場合は、電子部品に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0038】
高分子ゲルは、通常、液状のモノマー配合液を重合してゲル化させるため、用途に合わせて適宜成型できる。例えば、高分子ゲルシートとして使用する場合には、厚さ0.01mm〜5.0mmのシート状に成型されることが好ましい。厚みが0.01mmより薄い場合には、シートのハンドリング性が悪い。
【0039】
ベース基材は、高分子ゲルを担持し、形態を保持して仮固定材としてのハンドリング性を高める部材である。
ベース基材としては、樹脂フィルムを用いれば高分子ゲルを補強し、またテープ状の形態を保持することができるため好ましい。樹脂フィルムには、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン等からなる樹脂フィルムが挙げられるが、二軸延伸したPETフィルムや、OPPがより好適に用いられる。
ベース基材は高分子ゲルと一体の仮固定材として、精密部品への付着、剥離が行われるが、末端ユーザーの使い方により、高分子ゲルからベース基材を剥がして用いることも可能である。
【0040】
仮固定材には、高分子ゲルのベース基材を固着した面とは反対面にさらに剥離基材を設けることができる。高分子ゲルへのゴミ付着防止等のため、シート状に形成した高分子ゲルの一方面に基材シートを固着する一方、それとは反対面に剥離基材を固着することが好ましい。
剥離基材は、セパレータとして、精密部品への付着、剥離を行う前に末端ユーザーが高分子ゲルから引き剥がす。剥離基材の材質としても、フィルム状に成型可能な樹脂又は紙で良く、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン等からなる樹脂フィルムはその一例である。
【0041】
剥離基材のうち、高分子ゲルと接する面には高分子ゲルからの引き剥がしを容易にするため、離型処理がなされていることが好ましい。また、必要に応じて剥離基材の両面が離型処理されていてもよい。両面に離型処理する場合には、表裏の剥離強度に差をつけてもよい。
離型処理としては、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、長鎖アルキル基含有カルバメート等の離型剤を剥離基材表面にコーティングする表面処理等が例示でき、特に、熱又は紫外線で架橋、硬化反応させる焼き付け型のシリコーンコーティングは、剥離基材表面から高分子ゲル側への離型剤の移行がし難い点で好ましい。
また、こうした離型処理はベース基材に対しても同様に施すこともできる。
【0042】
また、用途に応じて、ベース基材や剥離基材に帯電防止処理がなされていてもよい。帯電防止処理としては、界面活性剤や導電性ポリマー等の剥離基材表面へのコーティング、または、カーボンや金属粉等の剥離基材中への練り込み等が挙げられる。帯電防止性能としては、表面抵抗率で1×10
4Ω/□〜1×10
12Ω/□であることが好ましい。被着体から剥離した際に帯電することを防止して、製品に埃を寄せ付けないためであり、また、抵抗が低すぎて電子部品に悪影響を及ぼすことが無いようにするためである。
【0043】
ベース基材や剥離基材の厚みは、0.01mm〜0.2mmの範囲で用途に応じて適宜変更が可能である。また、高分子ゲルの厚みは好ましくは0.01mm〜5.0mmであるため、仮固定材全体の厚みとしては、剥離基材の無い場合で、0.02mm〜5.2mm程度、剥離基材がある場合で、0.03mm〜5.4mm程度であることが好ましい。
柔軟性が必要な場合はベース基材や剥離基材に薄いフィルムを用いることが好ましく、剛性が必要な場合はベース基材や剥離基材に厚いフィルムを用いることが好ましい。また、厚みが0.1mmより薄い高分子ゲルを比較的表面が平坦な基板や精密電子部品等の被着体に密着させる場合にはベース基材を硬くすることで、高分子ゲルと被着体等との間にエアーが入らないように密着させ易く好ましい。
【0044】
仮固定材の製造方法としては、次のような方法が例示できる。
高分子ゲルとなる重合前のモノマー配合液を作製し、この組成物を所定の形状の型枠に流し込み、次いで重合させることで高分子ゲルを得る。得られた高分子ゲルとベース基材は、ベース基材上に高分子ゲルを載せることや、高分子ゲルにベース基材を貼り合わせたりすることで一体化させる。こうして仮固定材を得ることができる。
また、ベース基材上に高分子ゲルとなる重合前のモノマー配合液を塗布し、一定の厚みに保持した状態で重合させることもできる。ベース基材とともに剥離基材を用いる場合には、これらの基材を一定間隔に保持した間に先の組成物を流し込み重合させて仮固定材を得ることもできる。
【0045】
上記仮固定材は、ガラス製や金属製などの精密電子部品を容易に仮止めすることができ、且つ容易に剥離することができる仮固定性能を有する。また、精密電子部品を固定する治具やガラス製や金属製などの精密電子部品に付着した異物を取り除くことが可能な異物除去性能を有する。さらに、剥離の際に生じる静電気を除去する帯電防止性能を有する。
【0046】
さらに上記仮固定材は、半導体等の電子部品やガラスチップ等を製造又は加工する工程において、これらの各種部材を一時的に固定する仮止め材として使用することができる。特に厚みが0.3〜2.0mm程度のシート状に成形すると、上記部材の中でも微小な製品を、搬送用容器や搬送用トレイ等の搬送用部材に一時的に固定する際に好適である。
【0047】
変形例: 上記実施形態では、ベース基材と高分子ゲル、場合により剥離基材を含むものを仮固定材としていたが、高分子ゲルのみを仮固定材として用いることも可能である。
但し、高分子ゲル単独での仮固定材は、厚みの薄い場合には被着体に対して密着するように貼着することが困難であり、ハンドリング性の良好な塊として用いることが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実験例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。
実験例1: 重合性単量体としてアクリルアミドを24重量部 、架橋性単量体としてN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.05重量部 、可塑剤または湿潤剤としてのグリセリンを45重量部、ポリビニルアルコール系重合体として粘度平均重合度1800でありケン化度88%のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製、商品名:ポバールVP−18)を3重量部と、そして溶媒としての水と、を合計で99.9重量部になるように混合し溶解攪拌した。次に、この組成物に対して、光重合開始剤として1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン(BASFジャパン株式会社製、商品名:IRUGACURE2959)0.1重量部加え、更に攪拌して溶解しモノマー配合液を得た。得られたモノマー配合液を100μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(ベース基材)上に滴下し、その上からシリコーンコーティングされた38μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)を被せた。そして、これらのフィルムの間で配合液が均一に押し広げられ、高分子ゲルの厚さが0.3mmになるように固定した。これにメタルハライドランプを使用して、エネルギー量2000mJ/cm
2の紫外線を照射し、重合架橋反応を行って、一方面にベース基材、他方面にセパレータが貼り付けられた試料1となる厚さ438μmの仮固定材を得た。
【0049】
実験例2〜実験例7: 実験例2〜実験例7では、上記実験例1のモノマー配合液に代えて、表1に示した配合に変更したモノマー配合液を用いた以外は、実験例1と同様にしてそれぞれ試料2〜試料7となる仮固定材を作製した。なお、実験例6で配合した電解質は塩化ナトリウムである。
実験例8,9: 実験例8および実験例9では、上記実験例1でモノマー配合液を重合架橋反応した高分子ゲルに代えて、アクリル系粘着剤またはシリコーンゲルを用い、実験例1と同様のベース基材上に貼着した。セパレータ、粘着剤やゲルの厚さは実験例1と同じである。こうして試料8および試料9となる仮固定材を作製した。ここで、アクリル系粘着剤は帯電防止ポリエステル粘着シート6671 #25(株式会社寺岡製作所製)を、シリコーンゲルはGel film 0(Gel-Pak社製)をそれぞれ用いている。
実験例10: 実験例10では、実験例1のモノマー配合液を金型に注入し実験例1と同様に紫外線を照射した後、金型から高分子ゲルを取り出した。こうしてベース基材やセパレータが無く厚さ300μmの板状の高分子ゲルからなる試料10の仮固定材を作製した。
【0050】
上記実験例1〜実験例10で得た試料1〜試料10の各組成について表1に示した。表1において配合量は全て重量部で表している。
【0051】
【表1】
【0052】
〔性能評価の方法〕
上記実験例1〜実験例10で得られた試料1〜試料10の仮固定材の有する仮固定性、異物除去性、帯電防止性について、以下に示す測定や観察を行い評価した。それらの結果も表1に示した。
【0053】
(1)仮固定性
仮固定性は、高分子ゲルの有する剥離力(粘着力)と糊残りから評価した。
i)剥離力(90度引き剥がしSUS剥離力):
各試料を幅20mm、長さ120mmとなるように裁断し、セパレータであるポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、ベース基材と高分子ゲルからなる試験片を作製した。なお、試料10については他の試料と同じベース基材を貼り付けた。そして、被着体を800番で鏡面仕上げされたSUS304の鋼板(SUS板)として、試験片の高分子ゲル面を被着体に貼付し、2kgの圧着ローラーを1往復して圧着させた。試験片の端(短辺側)をチャックで固定し、テンシロン万能試験機(オリエンテック社製、RTE−1210)により、温度23±5℃、湿度55±10%、試験速度300mm / min.の条件で90度方向に引き剥がした際の応力(剥離力)(N/20mm)を測定した。剥離力が0.1N/20mm〜1.0N/20mmである場合を“○”、0.1N/20mm未満であるか、1.0N/20mmを超える場合を“×”とした。
【0054】
ii)糊残り:
上記「i)剥離力」の測定を行った後、SUS板の表面に高分子ゲルの一部が糊残りとして付着しているかどうかを観察した。そして、高分子ゲルが完全に剥離し糊残りが無く、試験前とSUS板の表面状態が同じに見える場合を“○”、糊残りは無いが表面が曇ったりするなどSUS板の表面状態が試験前とやや異なって見える場合を“△”、糊残りが見られる場合を“×”と評価した。
【0055】
(2)異物除去性
異物除去性は以下に示す方法で異物除去率を測定し評価した。
iii)異物除去率:
各試料を30mm角となるように裁断し、セパレータであるポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離してベース基材と高分子ゲルからなる試験片を作製する。そして、800番で鏡面仕上げされたSUS304の鋼板上の区画2×2mm中に平均粒径が200μmのアクリル粒子(テクポリマーMBX-200 [平均粒子径200μm、積水化成品工業社製)を180メッシュと250メッシュでオンオフカットしたもの])を敷きつめ、その上に上記試験片の高分子ゲル面を貼り付け、2kgの圧着ローラーを1往復して圧着させた。5分放置後に上記試験片を剥離し、デジタルマイクロスコープ(KEYENCE、VH−5000)にて試験片貼付箇所を撮像し(100倍)、鋼板上にあるアクリル粒子の個数をカウントし、試験片の貼付前のアクリル粒子の個数との関係から次式により転着率を算出し、異物除去率(%)とした。
また、試料10については30mm角となるように裁断し、前記アクリル粒子を敷きつめた上に貼り付け、さらにその上に各試料のベース基材と同じフィルムを載せてから、各試料と同様に圧着ローラーで圧着した。それ以外は各試料と同様である。
【0056】
【数1】
(式中、“AN”は剥離後にSUS板上(2mm×2mmの区画中)に残留してい るアクリル粒子の個数を示す。また、“BN”は剥離前にSUS板上(2mm ×2mmの区画中)に存在するアクリル粒子の個数を示す。)
【0057】
なお、剥離前のSUS板上(2mm×2mm区画中)には、上記アクリル粒子を60個以上存在させることとした。
この異物除去率が80%以上の場合を“○”、80%未満の場合を“×”とした。また、SUS鋼板の上に慎重に試験片を貼り付けないとSUS鋼板と試験片との間にエアーが入り試験結果にバラツキが生じて異物除去率を算出し難い場合を“△”とした。
なお、試料7〜試料9については、仮固定性や帯電防止性が好ましくないことから実験を行わなかった。
【0058】
(3)帯電防止性
帯電防止性は高分子ゲルの表面抵抗率から評価した。
iv)表面抵抗率:
各試料について100mm角以上の面積に裁断し、セパレータであるポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離して試験片を作製した。試料10については100mm角以上の面積に裁断して試験片を作製した。そしてこの高分子ゲル面上の表面抵抗率(Ω/□)を表面抵抗計(トレック・ジャパン社製、本体:Model−152、プローブ:152P−CR)を用いて測定した。測定環境は、温度23±5℃、湿度55±10%で実施した。表面抵抗率が、1.0×10
4Ω/□〜1.0×10
9Ω/□である場合を“○”、1.0×10
9Ω/□を超える場合を“×”とした。また、1.0×10
4Ω/□未満である場合を“△”とした。“△”としたのは、帯電防止性能としては良好であるが、表面抵抗率が低いため電子部品に悪影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0059】
〔性能評価の結果〕
各試料の性能評価結果は表1に示したとおりであるが、これらから以下の検討を行った。
試料1〜試料3の仮固定材は、仮固定性、異物除去性、帯電防止性の何れにも優れていた。
【0060】
重合性単量体の含有量がより好ましい範囲の13重量部を下回る試料4、そして、架橋性単量体の含有量が1.0重量部を超える試料5では、糊残りが“△”となった。即ち、糊残りは存在しないものの被着体表面にやや変化が見られた。しかしながら、仮固定性、異物除去性、帯電防止性の何れにも優れていた。
【0061】
電解質である塩化ナトリウムを含む試料6は、表面抵抗率が1.0×10
4Ω/□よりも低くなったが、仮固定性、異物除去性、帯電防止性の何れにも優れていた
ポリビニルアルコール系重合体を含まない試料7は、糊残りを起こし被着体への汚染が懸念される結果となった。
【0062】
高分子ゲルに代えてアクリル系粘着剤を用いた試料8は、剥離力が高く糊残りを起こし被着体への汚染が懸念される結果となった。
高分子ゲルに代えてシリコーンゲルを用いた試料9は、シリコーンゲルの表面抵抗が計測できないほど高く帯電防止性が悪かった。
【0063】
ベース基材を用いず、高分子ゲルのみからなる試料10は、被着体への高分子ゲルへの貼着を慎重に行う必要があった。即ち、300μmのゲル厚では慎重に被着体へ貼着しないと高分子ゲルが撚れてしまい、被着体と高分子ゲルとの間にエアーが入ってしまうことがあるからである。但し、こうしたハンドリング性が悪くなることを除けば、仮固定性、異物除去性、帯電防止性の何れにも優れていた。
【0064】
〔性能評価の方法2〕
上記実験例1〜実験例10で得られた試料1〜試料10の仮固定材について、精密電子部品製造時の微小製品の仮固定性について、さらに以下の方法で評価した。
各試料を30mm角にカットし、セパレータを剥がして市販されているガラスチップ(1辺の長さが5mm以下、キューブ状)を高分子ゲルの上にピンセットで置いた。そしてこの各試料を入れることができるプラスチックケースを準備し、そのプラスチックケース内に各試料を封入した。この際、ベース基材がある試料は、このベース基材側を両面テープでプラスチックケースに固着し、ベース基材の無い試料は、ガラスチップを置いた面と反対面をそのままプラスチックケースに固着した。
そして、このプラスチックケースを1mの高さから落下させて、ガラスチップがずれていないか目視で確認した(落下試験)。また、ピンセットでガラスチップを高分子ゲルから取り外す際のピックアップ性(取り外し易さ)についても確認した(ピックアップ試験)。
【0065】
この試験の結果、落下試験については全ての試料についてガラスチップのずれが無く良好であった。
ピックアップ試験については、試料1〜3,5,6,10については、ガラスチップを高分子ゲルから容易に剥離することができ良好であった。また、試料4についてはピックアップ性に問題無い範囲であるがガラスチップとともに高分子ゲルがやや持ち上がってから剥離した。そうした一方で、試料7についてはガラスチップ表面に糊残りが発生し、試料8についてはガラスチップが強固に固着して剥がれず、試料9についてはガラスチップが高分子ゲルごと持ち上がってしまいピックアップ性に問題があった。