【文献】
森泰寿ほか,膵癌スクリーニングを目指した低侵襲な十二指腸液採取と蛋白マーカーの解析,Gastroenterol. Endosc.,2012年 4月10日,Vol.54,No.Supplement1,P.1221
【文献】
井出野昇ほか,低侵襲な膵癌スクリーニングを目指した十二指腸液採取と蛋白マーカーの解析,Gastroenterol. Endosc.,2013年 9月10日,Vol.55,No.Supplement2,P.2941
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の膵癌の判定方法(以下、単に「膵癌判定方法」と称する。)の概要について説明し、その後第一実施形態について説明する。
図1は、本発明の膵癌判定方法の流れを示すフローチャートである。膵癌判定方法は、被験者等の十二指腸液中における第一マーカーの濃度を測定するステップS1と、同一被験者等の血液サンプル中における第二マーカーの濃度を測定するステップS2と、第一マーカーの濃度および第二マーカーの濃度に基づいて被験者等の膵癌の判定を行うステップS3と、を備えている。
【0017】
ステップS1の第一工程では、患者の十二指腸液が採取される。十二指腸液は、膵臓から排出される膵液、胆嚢あるいは肝臓から排出される胆汁、および十二指腸から分泌される粘液(腸液)等の混合体液である。十二指腸液の採取方法は特に制限されないが、例えば被験者等の体内に挿入した内視鏡を用いて吸引等を行うことにより、容易に採取することができる。十二指腸液の検体量は、例えば50マイクロリットル(μl)程度あればよい。
第一工程では、十二指腸液から膵液を単離することはせずに、混合体液としての十二指腸液における第一マーカーの濃度を測定する。第一マーカーとしては、CEA(carcinoembryonic antigen)又はS100タンパク質の一種であるS100P等を挙げることができる。
【0018】
ステップS2の第二工程では、患者の血液試料(血液サンプル)が採取される。血液試料の具体的種類(血清、血漿等)及び採取方法等は、第二マーカーに応じて適宜決めることが可能である。第二マーカーとしては、例えばCA19−9(carbohydrate antigen 19-9)等を挙げることができる。
【0019】
通常、十二指腸液に含まれる第一マーカーは、血液試料中に含まれる第二マーカーよりも臓器特異性が高いため、早期の膵癌においても第一マーカーが検出されるという利点がある。その反面、腫瘍が大きくなった結果、膵管の狭窄又は閉塞等が生じると、膵液の排出量が低下することがある。膵癌が進行して膵機能が低下した場合も、膵液の排出が低下することがある。
これらの場合には、十二指腸液中の膵液の量が低下するため、十二指腸液に含まれる第一マーカーの濃度のみから膵癌の存在及び進行度を判定することは困難となる。
【0020】
本発明では、十二指腸液に関する上述の特性に鑑みて、第一マーカーの濃度と、第一マーカーよりも臓器特異性に劣るものの、膵癌のステージによらず比較的安定して検出される第二マーカーの濃度とを組み合わせることにより、膵癌に関する判定の精度を向上させている。
【0021】
ステップS3の第三工程では、第一マーカーの濃度と第二マーカーの濃度とに基づいて、被験者における膵癌の存在、および被検者の膵癌の進行度の少なくとも一方を判定する。具体的には、第一のカットオフ値以上であるか否かにより、第一マーカーについて陽性(+)か陰性(−)かを判定する。次に、第二のカットオフ値以上であるか否かにより、第二マーカーについて陽性(+)か陰性(−)かを判定する。
第一のカットオフ値および第二のカットオフ値は、マーカーごとに個別に設定される。また、膵癌の存在の判定と膵癌の進行度の判定とで、異なるカットオフ値が用いられてもよい。
【0022】
本発明の膵癌判定方法により膵癌の進行度を判定する場合において、第一マーカーが陽性かつ第二マーカーが陰性の場合(第一グループ)は、膵癌の進行度を早期(ステージ0またはI)と判定する。第一マーカーが陽性かつ第二マーカーが陽性の場合(第二グループ)は、膵癌の進行度を早期よりも進行した中等度(ステージII)と判定する。第一マーカーが陰性かつ第二マーカーが陽性(第三グループ)の場合は、膵癌の進行度を中等度よりも進行した末期(ステージIIIまたはIV)と判定する。
なお、本発明で適用する病期分類としてはUICC分類(第6版)を用いている。また、第一マーカーおよび第二マーカーのいずれも陰性の場合は、判定不能として取り扱う。
【0023】
一方、本発明の膵癌判定方法により膵癌の存在を判定する場合、本実施形態では、第一マーカーおよび第二マーカーの少なくとも一方が陽性の場合に、「膵癌あり」と判定し、第一マーカーおよび第二マーカーのいずれも陰性の場合(第四グループ)に、「膵癌なし」と判定する。言い換えると、第一マーカーの濃度が第一のカットオフ値未満であり、かつ第二マーカーの濃度が第二のカットオフ値未満であるときに、「膵癌なし」と判定し、それ以外はすべて「膵癌あり」と判定する。
【0024】
本発明の第一実施形態について説明する。本実施形態では、第一マーカーをCEA(第一カットオフ値 150ng/ml)、第二マーカーをCA19−9(第二カットオフ値37U/ml)としている。表1に、膵癌患者68名に対して本実施形態の判定を行った結果を示す。
表1は、68名の膵癌患者をステージごとに分類した上で、第一マーカー及び第二マーカーの判定結果を示している。
各患者のステージについては、手術を行った患者については病理診断の結果に基づいて確定し、手術を行わなかった患者については、医師による臨床診断に基づき確定した。
表1において、第一マーカー及び第二マーカーの測定結果に基づく膵癌の進行度の判定結果と、病理診断結果及び臨床診断結果に基づく膵癌の進行度の判定結果とが一致した場合には、表中の数字に下線を引いている。
【0026】
表1では、早期患者における的中率は60%(6/10)、偽陰性(第一マーカーおよび第二マーカーがいずれも陰性である第四グループ)を除くと75%(6/8)であった。中等度患者における的中率は41.5%(22/53)、偽陰性を除くと46.8%(22/47)であった。末期患者における的中率は40%(2/5)で、偽陰性は見られなかった。
また、第一グループから第三グループのグループごとの的中率は、第一グループ27.3%(6/22)、第二グループ91.7%(22/24)、第三グループ14.3%(2/14)であった。
表1において、第一マーカー及び第二マーカーの測定結果に基づく膵癌の進行度の判定結果が、病理診断結果及び臨床診断結果に基づく膵癌の進行度の判定結果と一致した割合は、44.1%(30/68)、偽陰性を除くと50%(30/60)であった。
【0027】
一方、本実施形態の膵癌判定方法の膵癌の存在に対する感度は、表1に示すように、早期患者の場合は80.0%、中等度患者の場合は88.7%、及び末期患者の場合は100.0%であり、全てのステージで80%以上であった。第一マーカーのみを用いた場合及び第二マーカーのみを用いた場合の膵癌の存在に対する感度は、いずれも70%以下であった。つまり、本実施形態の膵癌判定方法の膵癌の存在に対する感度は、第一マーカーのみを用いた場合及び第二マーカーのみを用いた場合の膵癌の存在に対する感度よりも高かった。
また、データは示していないが、非膵癌患者29名を対象とした同様の検討における特異度は66%であり、トータルの正診率は72.2%(70/97)であった。
【0028】
表1に示すように、CEAの測定結果のみを用いた場合には、ステージが進行するにしたがって膵癌の存在に対する感度が低下する傾向が見られるが、それほど顕著ではない。CA19−9の測定結果のみを用いた場合には、ステージが進行するにしたがって膵癌の存在に対する感度が上昇する傾向が見られるが、中等度と末期とでは感度に顕著な差は見られない。したがって、CEAの測定結果のみを用いた場合およびCA19−9の測定結果のみを用いた場合では、いずれの場合であっても、進行度の判定は難しいが、これら二つのマーカーを組み合わせて判定することにより、精度の高い進行度判定を行うことができる。
膵癌の存在に関しても、一つのマーカーのみで判定する場合に比べて、二つのマーカーを組み合わせることにより高精度に判定できることが示された。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の膵癌判定方法では、第一マーカーおよび第二マーカーの濃度に基づいて膵癌の判定を行う第三工程を備えるため、比較的簡易に入手できる十二指腸液および血液の試料を用いて、高精度に膵癌の進行度及び膵癌の存在の判定を行うことができる。
【0030】
次に本発明の第二実施形態について説明する。本実施形態では、第一マーカーとして、CEAに代えてS100P(カットオフ値 50000pg/ml)を用いている。表2に、膵癌患者60名に対して本実施形態の判定を行った結果を示す。表2には、表1同様、S100PおよびCA19−9それぞれの陽性率を併せて示している。
表2は、60名の膵癌患者をステージごとに分類した上で、第一マーカー及び第二マーカーの判定結果を示している。
各患者のステージについては、表1と同様に手術を行った患者については病理診断の結果に基づいて確定し、手術を行わなかった患者については、医師による臨床診断に基づき確定した。
表2において、第一マーカー及び第二マーカーの測定結果に基づく膵癌の進行度の判定結果と、病理診断結果及び臨床診断結果に基づく膵癌の進行度の判定結果とが一致した場合には、表中の数字に下線を引いている。
【0032】
60名の膵癌患者を被験者とした表2では、早期患者における的中率は55.6%(5/9)、偽陰性(第一マーカーおよび第二マーカーがいずれも陰性である第四グループ)を除くと71.4%(5/7)であった。中等度患者における的中率は39.0%(16/41)、偽陰性を除くと44.4%(16/36)であった。末期患者における的中率は40%(4/10)で、偽陰性を除くと50%(4/8)であった。
また、第一グループから第三グループのグループごとの的中率は、第一グループ35.7%(5/14)、第二グループ80.0%(16/20)、第三グループ23.5%(4/17)であり、第一実施形態よりも良好であった。
表2において、第一マーカー及び第二マーカーの測定結果に基づく膵癌の進行度の判定結果が、病理診断結果及び臨床診断結果に基づく膵癌の進行度の判定結果と一致した割合は、41.7%(25/60)、偽陰性を除くと49.0%(25/51)であった。
膵癌の存在についての感度は、ステージ問わず概ね第一実施形態と同様の結果であった。また、データは示していないが、非膵癌患者28名を対象とした同様の検討における特異度は75%であり、トータルの正診率は81.8%(72/88)であった。
以上のように、第二マーカーを変更した第二実施形態においても、第一実施形態と同等の精度で膵癌の判定を行うことができた。
【0033】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0034】
例えば、本発明の膵癌判定方法においては、第一工程と第二工程の順序に制限はなく、いずれが先に行われても構わない。
【0035】
また、第一マーカーおよび第二マーカーのカットオフ値も、上述の実施形態に記載のものには限定されない。したがって、蓄積されたデータ等に基づき、適宜設定されて構わない。
【0036】
さらに、第三工程の具体的態様についても、上述の実施形態の内容には限定されない。例えば、第一マーカーおよび第二マーカーの一方または両方について、2以上のカットオフ値を設けることにより、判定を3以上の段階に分け、より細分化したマトリクスと進行度とを対応付けて第三工程における判定を行ってもよい。