(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物とは、鉄筋を配した型枠内に打設されたコンクリートが硬化してなる構造物である。この構造物は、金属の鉄が持つ靭性と引張強度及びコンクリートが持つ高い圧縮強度を兼ね備えている。このようなコンクリート構造物は、
(1)型枠組み(所定の形にコンクリートを打設するための型枠の仮設、並びに型枠内への鉄筋の配置及び組立て)
(2)所定高さまでのコンクリートの打設
(3)締固め(不要な空気の除去)
(4)仕上げ
(5)養生
の工程により構築される。
(2)の工程で打設されたコンクリートの内部には、未充填部分や気泡が存在しており、そのままでは硬化後の品質不良の原因となる。特に、打設されたコンクリート層の上部はその自重による締固め効果が小さいために密実性が低下しやすく、硬化後に品質不良が発生しやすい部位となる。
【0003】
そして、通常、コンクリート構造物の多くは、型枠内に複数回に分けて打設される(すなわち、(2)の工程が複数回行われる)ので、先に打ち込まれたコンクリートの層と後に打ち込まれたコンクリートの層の継ぎ目(以下、打継部と記す。)が生じる。したがって、この打継部は、先に打設されたコンクリート層の上部の密実性の低下による品質不良が生じやすい部位となる。
【0004】
そこで、打設されたコンクリートの硬化後の品質不良、特に、打継部の品質不良を防止すべく、(2)の工程の直後に(3)の工程の締固めが行われる。締固めとは、打設されたコンクリートにバイブレータ等の振動体を挿入したり、型枠を木槌等で叩いたりすることにより、これらの振動によって打設されたコンクリートの流動性をさらに高め、打設時には行き渡らなかった型枠の隅々までそのコンクリートが流れ込むようにすると同時に、内部に含まれる空気や余計な水分を浮かび上がらせる作業をいう。これにより、コンクリート硬化後の未充填部分の存在、気泡、豆板(ジャンカ)、コールドジョイントの発生等の品質不良が防止される。
【0005】
図8は、従来のコンクリート構造物の構築における打設されたフレッシュコンクリートの締固め方法を示す断面図である。以下、従来の締固め方法を、複数回に分けて打設されるフレッシュコンクリートのうち、3回目の打設後のフレッシュコンクリートの締固めを例に説明する。図示のように、打設及び締固め後の、所定時間が経過して硬化しつつある2回目の打設にかかるコンクリート70上に、型枠72内の所定高さまで3回目のフレッシュコンクリート74が打設されている。この打設の直後に、領域Aのフレッシュコンクリート74に対して、特許文献1に記載されるような振動体を直接挿入して振動を与える。
【0006】
しかし、型枠72と鉄筋76の間の狭隘な領域Bのフレッシュコンクリート74に対しては、上記振動体を直接挿入できないか、又は挿入できたとしてもこの振動体を上下左右に移動させて領域B全域のフレッシュコンクリート74を直接加振することは作業性が悪く困難である。よって、特許文献2に記載されるような振動体を型枠72側部の外表面72aに当接させ、この振動体が当接した外表面72aの振動により、領域Bのフレッシュコンクリート74に間接的に振動を与える。これにより、領域A及びBを含む打設されたフレッシュコンクリート74全体の締固めが行われていた。
【0007】
なお、上記例においては、3回目までフレッシュコンクリートが打設されたので2箇所の打継部78が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、打設されたフレッシュコンクリートの上部は、上述の通りそのコンクリートの自重による締固め効果が弱く、硬化後に品質不良を防ぐために十分に締固めを行う必要がある。従来の締固め方法によると、領域Aにおいては直接挿入された振動体を移動させて振動を与えることで、打設されたフレッシュコンクリート74の上部から下部までしっかりと締固めることができる。
【0010】
しかし、領域Bにおいては、振動体を型枠72の外表面72a上で移動させたとしても、領域Bのコンクリート74は、型枠72の外表面72aの振動による間接的な振動を受けることに留まる。この間接的な振動によっても、自重による締固め効果が期待される領域Bの下部から中部のフレッシュコンクリート74には一定の締固め効果が期待できるが、領域Bの上部X3のフレッシュコンクリート74は自重による締固め効果が弱く、硬化後の密実性の不足が懸念される。1回目及び2回目に打設されたコンクリートの同部位X1及びX2についても同様である。
【0011】
ここで、鉄筋コンクリート構造物は、橋梁、擁壁及び集合住宅等、大きな強度が長期間にわたって要求される構造物に利用されている。このコンクリート構造物の強度の保持性に関して、上記領域Bは重要な役割を担っている。すなわち、領域Bのコンクリートに密実性が低い部位があると、その部位から水、空気、酸及び塩等が浸入しやすくなり、この水等の影響により鉄筋が腐食すると、鉄筋コンクリートの強度がその部位から一気に低下し、設計通りの強度を保持できないこととなるからである。
【0012】
よって、鉄筋を腐食から保護する役割を担う領域Bのコンクリートは全域に亘って密実に構成されている必要があるが、従来の締固め方法では、打継部ごとに生じる部位Xの存在により、密実性に不安を残しているのが現状である。
【0013】
したがって、本発明の目的は、鉄筋が配されたコンクリート構造物の構築時における鉄筋と型枠の間の領域のフレッシュコンクリートの効果的な締固め方法及びその方法に用いる叩き具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、一端に把持部を有するアーム部と、該アーム部の他端に取り付けられ、所定幅の板状叩き面を有する叩き部を有する叩き具において、前記叩き部は、前記幅が異なる複数の前記叩き面を
それぞれ略同一平面上に無い位置関係で有し、前記アーム部と前記叩き部の取付け状態を、該叩き部における使用する叩き面を変更可能に調整可能な取付け状態調整部を有することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、任意の叩き面に変更するようにアーム部と叩き部の取付け状態を調整することができるので、選択された任意の叩き面を用いて叩かれるべき面の叩き動作を行うことができる。よって、例えば、型枠と鉄筋列の間のかぶり領域に打設されたフレッシュコンクリートに対して、叩き具の複数の叩き面の幅の範囲内でかぶり領域の間隔に応じて任意の叩き面を選択し、そのコンクリートの上面の叩き動作を行うことができる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の叩き具において、前記各叩き面は、略矩形に形成されており、前記叩き部は、三つの該叩き面を有する断面略コ字状の板状体として形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載した叩き具の構成の一例を具体的に示したものであり、これによれば、叩き部が三つの叩き面を有する断面略コ字状の板状体として形成されている。したがって、例えば、一枚の矩形の平板を折曲させることで、容易にこの叩き部を形成することができる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の叩き具において、前記アーム部は、二本の棒状体として構成されており、前記取付け状態調整部は、該アーム部のそれぞれの他端が、前記叩き部の長手方向両端にねじ固定により取付けられた構成からなることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、片方の手で一方のアーム部の把持部を、もう片方の手で他方のアーム部の把持部をそれぞれ握り、両手で力強く叩き動作を行うことができる。さらに、それぞれ独立したアーム部が叩き部に固定されているので、叩き部の長手方向の長さを変更させた場合でもアーム部のそれぞれの他端を取付けることで叩き具として用いることができる、汎用性のある叩き具となっている。更に、この取付け状態調整部によれば、ねじを緩め、叩き部を回動させて締め直すという簡易な動作で使用する叩き面を変更可能である。
請求項4に記載の発明は、複数の鉄筋よりなる鉄筋列が設置された型枠内に打設されたフレッシュコンクリートの締固め方法において、前記フレッシュコンクリートの打設直後に、前記型枠と該型枠に対して最も近接する位置に設置された前記鉄筋列との間の領域における前記打設されたフレッシュコンクリートの上面を、請求項1〜3の何れか1項に記載の叩き具の複数の叩き面のうち型枠と該型枠に対して最も近接する位置に設置された前記鉄筋列との間の間隔に対応する幅を有する叩き面を選択して該選択した叩き面で叩いて締固める叩き締固め工程を付加したことを特徴とする。
本発明は、型枠とこの型枠に最も近接する鉄筋列の間の領域のコンクリートの厚さ(いわゆるかぶり厚さ)の果たす役割の重要性を鑑み、型枠とこの型枠に最も近接する鉄筋列の間の領域(以下、かぶり領域と記す)のフレッシュコンクリートの上部の密実性が不足するおそれがあるという発見に基づきなされたものである。すなわち、本発明の構成によれば、従来の締固め方法に、かぶり領域のフレッシュコンクリートの上面の叩き締固め工程という極めて単純な工程を付加することで、かぶり領域における弱点ともいうべきそのフレッシュコンクリートの上部を効果的に締固め、かぶり領域に打設されたフレッシュコンクリートをその高さ方向全域に亘って密実に締固めることができる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の方法において、前記打設は、複数回に分けて行われ、前記叩き締固め工程は、該複数回の打設毎に行われることを特徴とする。
この構成によれば、複数回に分けて打設された各層におけるかぶり領域のフレッシュコンクリートの上部を密実に締固めることができるので、従来の締固め方法と組み合わせることで、打ち継いで構築されたコンクリート構造物におけるかぶり領域のコンクリート全体を密実な構成とすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の構成によれば、従来の締固め方法に、かぶり領域のフレッシュコンクリートの上面の叩き締固め工程という極めて単純な工程を付加することで、かぶり領域に打設されたフレッシュコンクリートを全域に亘って密実に締固めることができる。
【0025】
よって、構築されたコンクリート構造物の弱点となりやすい打継部の品質が向上し、内部の鉄筋の腐食のおそれが大きく減少するので、強度の保持性が向上したコンクリート構造物を提供することができる。
【0026】
さらに、本発明に係る叩き具によれば、選択された任意の叩き面を用いて叩かれるべき面の叩き動作を行うことができる。よって、例えば、型枠と鉄筋列の間の狭隘なかぶり領域に打設されたコンクリートに対して、叩き具の複数の叩き面の幅の範囲内でかぶり領域の間隔に応じて任意の叩き面を選択し、そのコンクリートの上面の叩き動作を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて詳細に説明する。本発明に係るフレッシュコンクリートの締固め方法の実施の形態を、断面略矩形のコンクリート柱の構築における打設されたコンクリートの締固めを例に、
図1〜4を参照して説明する。
図1(A)は、本発明の実施の形態に係る締固め方法を説明するための、フレッシュコンクリートが打設された直後の型枠10の平面図であり、同図(B)は、同図(A)のI−I線断面図である。
【0029】
図示のように、堰板12が平面視矩形に、且つ地盤14に対して垂直に設けられている。堰板とは、型枠を構成する部材のうち、直接コンクリートに接する板状部材をいう。本実施の形態において、堰板を支える部材等の他の型枠の構成部材の記載及び説明は省略する。
【0030】
次に、略直線状に伸長する複数の主鉄筋16を、堰板12に囲まれてなる領域内に、且つ地盤14に対して垂直に立設させる。この複数の主鉄筋16は、堰板12の内周面12aの近傍に、この内周面12aと対向する主鉄筋16列が設置されるように、各主鉄筋16がほぼ等間隔に配置されている。
【0031】
本実施の形態においては、この主鉄筋16列は、堰板12に囲まれる領域内に、平面視略ロ字状となるように設置されている。このように平面視略ロ字状に構成された主鉄筋16列に対して、主に施工時における主鉄筋16同士の移動を拘束する複数の拘束鉄筋18が、この主鉄筋16の伸長方向と直交する方向に伸長して主鉄筋16列に型枠10側から当接すると共に、高さ方向に所定の間隔をおいて設置されている。各拘束鉄筋18は、平面視略ロ字状に配列された主鉄筋16列を型枠10側から拘束するように、平面視ロ字状に構成されている。主鉄筋16と拘束鉄筋18は、図示せぬ細径の糸状の針金(結束筋)により結束されている。
【0032】
以下、鉄筋列(主鉄筋16列及び拘束鉄筋18列)に囲まれた領域をコア領域20と呼び、堰板12と最もこの堰板12に近接する位置に設置された鉄筋列(主鉄筋16列及び拘束鉄筋18列)との間の領域をかぶり領域22と呼ぶ。本実施の形態において、堰板12と最もこの堰板12に近接する位置に構成された鉄筋列(主鉄筋16列及び拘束鉄筋18列)との間の間隔dは、略矩形の型枠10の各辺において約13cmとなっている。
【0033】
以上のように組まれた型枠10内に、コンクリートが打設されている。本実施の形態においては、打設初日に1回目のフレッシュコンクリートが打設され、締固められたコンクリート層24の上に、二日目に2回目のフレッシュコンクリート26が打設されている。よって、コンクリート層24と打設されたフレッシュコンクリート26層の継ぎ目は、打継部27となっている。以下、フレッシュコンクリート26の打設直後に行われる締固め工程を説明する。
【0034】
本実施の形態において、フレッシュコンクリートの締固め方法は、コア領域20のフレッシュコンクリート26の振動締固め工程、かぶり領域22のフレッシュコンクリート26の振動締固め工程、及びかぶり領域22のフレッシュコンクリート26の上面の叩き締固め工程からなる。
【0035】
まず、図示のように、コア領域20における打設されたフレッシュコンクリート26に対して振動体V1を直接挿入し、この振動体V1を地盤14に対して水平方向に、地盤14に対して垂直方向に、及びそれらの組み合わせ方向に移動させ、コア領域20におけるフレッシュコンクリート26にまんべんなく振動を与える(以上、コア領域20の振動締固め工程)。振動体V1としては、上記特許文献1に記載されるような従来公知のバイブレータを用いることができる。
【0036】
次に、かぶり領域22における打設されたフレッシュコンクリート26に対しては、振動体V2を堰板12の外表面12bに当接させ、堰板12を介してかぶり領域22における打設されたフレッシュコンクリート26を間接的に振動させる(以上、かぶり領域22の振動締固め工程)。この際、振動体V2を外表面12b上で移動させて、堰板12の外表面12b全面に対して型枠10内に打設されたフレッシュコンクリート26の高さの範囲でまんべんなく当接させ、フレッシュコンクリート26を加振することが好ましい。なお、振動体V2としては、上記特許文献2に記載されるような従来公知の型枠バイブレータを用いることができる。
【0037】
以上の工程により、コア領域20のフレッシュコンクリート26全体が振動体V1による直接振動により締固められ、かぶり領域22のフレッシュコンクリート26が堰板12の外表面12bの振動により間接的に加振されている。しかし、この間接的な加振のみにとどまるかぶり領域22のフレッシュコンクリート26は、その下部から中部にかけてはフレッシュコンクリート26の自重により一定の締固め効果が期待できるものの、その上部Y2は、その自重による締固め効果が小さいために密実性に不安を残す。そこで、以下のかぶり領域22のフレッシュコンクリート26の叩き締固め工程を行う。
【0038】
叩き締固め工程は、例えば、図示のような、平坦な板状の叩き面28aを有する叩き具28を用いて行う。この叩き具28を用いて、かぶり領域22のフレッシュコンクリート26の上面26aに対して叩き面28aを上方から叩きつける動作を行う(以上、かぶり領域22の叩き締固め工程)。この動作は、例えば、上面26aの一カ所あたり10回程度叩き面28aを叩きつけることにより行う。そして、10〜15分の適当な時間経過後に再度同じ回数の叩き動作を行うことがより好ましい。
【0039】
これを、同図(A)に示すように、型枠10とコア領域20のコンクリート26上面に挟まれた、かぶり領域22のフレッシュコンクリート26の上面26a全面にわたって行う。これにより、密実性に不安のある部位Y2を単純な工程で密実に締固めることができる。
【0040】
以上による全ての締固め工程が終了した後、さらに所望の回数にてフレッシュコンクリートが打設され、各打設ごとに上記締固め工程が繰り返される。なお、1回目の打設に係るコンクリート層24に対しても、打設直後に上記締固め工程が行われている。
【0041】
そして、従来公知の方法により、締固められたコンクリートの仕上げ、及び養生の工程がなされ、型枠が取り外されて、鉄筋コンクリート構造物である鉄筋コンクリート柱が完成する。
【0042】
本実施の形態に係る上記締固め方法によれば、かぶり領域22のフレッシュコンクリート26の下部から上部Y2までの全域に亘って密実に締固めることができる。したがって、鉄筋コンクリート構造物の強度の維持に大きな役割を有するかぶり領域のコンクリートをその全域に亘って密実に締固めることができる。
【0043】
さらに、本実施の形態に係る上記締固め方法によれば、コンクリート柱は3回以上に分けて打設されて構築されているので、複数の打継部27を有する。そして、従来の締固め方法では、部位Y1、Y2と打ち継がれる回数に応じて密実性の不足が懸念される部位Y1、Y2…が生じるところ、本実施の形態に係る上記締固め方法によれば、叩き締固め工程が複数回の打設毎に行われているので、複数の打継部27に係る部位Y1、Y2…の全てが密実に構成されることとなる。
【0044】
したがって、構築されたコンクリート柱の打継部を含むかぶり領域全域が密実化されることで強度が向上するのみならず、鉄筋の腐食のおそれが大きく低下することにより、強度の保持性に極めてすぐれたコンクリート柱を提供することができる。
【0045】
なお、上述の堰板12とこの堰板12に最も近接する位置に構成された鉄筋列(主鉄筋16列及び拘束鉄筋18列)との間の間隔dは、4cm以上であることが好ましい。
【0046】
間隔dが4cm未満の場合、間隔dはかぶり領域22のフレッシュコンクリート26の上面26aの叩き動作を行うには狭くなり作業性が低下するからである。
【0047】
次に、本発明のコンクリートの締固め方法に用いる、本発明に係る叩き具の実施の形態について、
図2及び3を参照して説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る叩き具30を説明するための斜視図である。図示のように、叩き具30は、一端32dに把持部を有する二本の棒状のアーム部32のそれぞれの他端32aに叩き部34が挟まれるように固定された構成を有する。
【0048】
アーム部32は、扁平な板状に形成された他端32aを除いて断面略円形の棒状体として構成されており、他端32aには、二つの同孔径のねじ挿通孔32b及び32cが、アーム部32の伸長方向と同方向に並べて配置されている。アーム部32の一端32d側はその一端32d近傍で弧状に、且つねじ挿通孔32b及び32cの挿通方向と直交する方向に屈曲しており、一端32dは、他端32a側と約90〜120度の角度に伸長する把持部となっている。
【0049】
叩き部34は、略矩形の三つの板状叩き面36、38及び40を有する断面略コ字状の金属製板状体として形成されている。これらの叩き面は、菱形の網目を有する略矩形のエキスパンドメタル平板を直角に2回折曲することにより形成されている。この板状体における略コ字状の溝42の両端部には、溝42の断面形状と同形状の金属製側板44及び46がそれぞれ溶接固定されている。
【0050】
叩き面36の上縁36a及び叩き面40の上縁40aは、それらの長さ方向全長に亘って金属製の棒状板材48で裏打ちされて補強されており、さらに、上縁36a及び上縁40a間には二本の金属製の支柱50がそれぞれ架設されている。すなわち、側板44、側板46、棒状板材48及び支柱50により、エキスパンドメタルよりなる板状の各叩き面が補剛され、その変形が拘束される構成となっている。
【0051】
本実施の形態では、叩き面36の幅D1は5cmであり、叩き面38の幅D2は10cmであり、叩き面40の幅D3は7cmである。すなわち、各叩き面の幅はそれぞれ異なる。また、叩き部34の長手方向の長さLは50cmである。
【0052】
側板46には、ねじ挿通孔46b及び46cが、叩き面38に対して垂直方向に並べて穿設されている。さらに、ねじ挿通孔46cの両隣りに、且つ叩き面38に対して平行方向に並ぶように、ねじ挿通孔46d及びねじ挿通孔46eが設けられている。側板46の各ねじ挿通孔の孔径は等しく、ねじ挿通孔46cに対するねじ挿通孔46d、46b及び46eの間隔はそれぞれアーム部32の他端32aにおけるねじ挿通孔32b及び32cの間隔と等しい。
【0053】
もう一方の側板44にも、側板46と対向する位置に、同様の構成を有するねじ挿通孔44b、44c、44d及び44eがそれぞれ穿設されている。
【0054】
次に、以上の構成を有する叩き部34へのアーム部32の取付けを、アーム部32が叩き面38に対して垂直に配置される態様を例に以下に説明する。まず、一方のアーム部32の他端32aにおけるねじ挿通孔32c及び32bを、側板44のねじ挿通孔44c及び44bとそれぞれ対向させてアーム部32の他端32aを側板44に重ねる。
【0055】
次に、軸ねじ52を、ねじ挿通孔32c、44c、図示せぬワッシャ及びナットの順に挿通させ、軸ねじ52を前記ナットに螺入することにより、アーム部32の他端32aを叩き部34にねじ固定する。さらに、ロックねじ54を、同じく、ねじ挿通孔32b、44b、図示せぬワッシャ及びナットの順に挿通させ、ロックねじ54を前記ナットに螺入することにより、アーム部32の他端32aを叩き部34にねじ固定すると共に、アーム部32の他端32a(すなわち、軸ねじ52)を軸とした叩き部34の回動がロックされる。
【0056】
同様にして、他方のアーム部32の他端32aを、軸ねじ56及びロックねじ58により叩き部34にねじ固定する。
【0057】
これにより、図示のように、各アーム部32が叩き部34に取りつけられ、アーム部32が叩き面38に対して垂直に配置される状態で叩き具30が組み立てられる。
【0058】
また、本実施の形態に係る叩き具30は、叩き面38以外に、使用する叩き面を二つの幅の異なる叩き面36及び40に変更可能であることを特徴とする。以下に、これらの叩き面への変更について説明する。
図3(B)は、
図2(A)の部分側面図であり、同図(A)は、アーム部32が叩き面36に対して垂直に配置される態様を示す叩き具30の部分側面図であり、同図(C)は、アーム部32が叩き面40に対して垂直に配置される態様を示す叩き具30の部分側面図である。
【0059】
同図(B)に示す通り、アーム部32は、叩き面38に対して垂直に配置される状態である。この状態から、叩き面36に対してアーム部32が垂直に配置される態様への変更を説明する。まず、側板46側において、ロックねじ58をナットから完全に螺脱させ、ロックねじ58を図示せぬワッシャ、ねじ挿通孔46b及びねじ挿通孔32bから順に引抜く。これにより、軸ねじ56を軸としたアーム部32の他端32aに対する叩き部34の回動のロックが解除される。
【0060】
次に、軸ねじ56の締付けを緩め、叩き部34を回動させ、ねじ挿通孔32bをねじ挿通孔46eと対向配置させる。そして、引抜いていたロックねじ58を、ねじ挿通孔32b、ねじ挿通孔46e、図示せぬワッシャの順に挿通させ、ナットに螺着させることでアーム部32の他端32aを叩き部34にねじ固定し、さらに緩めていた軸ねじ56をナットに強く螺着させてねじ固定する。同様の作業を、側板44側においても行う。
【0061】
これにより、同図(A)に示すように、叩き具30は、叩き面36に対してアーム部32が垂直に配置された状態となる。
【0062】
同様に、アーム部32が叩き面38に対して垂直に配置された状態(同図(B)参照乞う)から、叩き面40に対してアーム部32が垂直に配置される態様への変更を説明する。まず、側板46側において、ロックねじ58をナットから完全に螺脱させ、ロックねじ58を図示せぬワッシャ、ねじ挿通孔46b及びねじ挿通孔32bから順に引抜く。
【0063】
次に、軸ねじ56の締付けを緩め、叩き部34を回動させ、ねじ挿通孔32bをねじ挿通孔46dと対向配置させる。そして、引抜いていたロックねじ58を、ねじ挿通孔32b、ねじ挿通孔46d、図示せぬワッシャの順に挿通させ、最後にナットに螺着させてアーム部32の他端32aを叩き部34にねじ固定し、さらに、緩めていた軸ねじ56をナットに完全に螺着させることでねじ固定する。同様の作業を、側板44側においても行う。
【0064】
これにより、同図(C)に示すように、叩き具30は、叩き面40に対してアーム部32が垂直に配置された状態となる。
【0065】
上記構成を有する叩き具30によれば、ロックねじ54及び56を完全に螺脱させ、且つ軸ねじ52及び56を緩めて叩き部34をアーム部32の他端32aに対して回動させることにより、叩き面を、三つの叩き面36、38及び40の中の任意の叩き面へと変更することができる。
【0066】
さらに、叩き面を変更した後は、螺脱させていたロックねじ54及び56を再び螺着させることで、上記叩き部34の回動を完全に防止して安定的に叩き動作を行うことが可能となる。
【0067】
また、上記構成を有する叩き具30によれば、片方の手で一方のアーム部32の一端32dを、もう片方の手で他方のアーム部32の一端32dをそれぞれ握り、両手で力強く叩き動作を行うことができる。さらに、一方のアーム部32が側板44に、他方のアーム部32が側板46にそれぞれ独立して固定されているので、両側板間の距離(本実施の形態では50cm)を他の長さに変更させた形態の叩き部であっても取付けることができる、汎用性のある叩き具となっている。
【0068】
本実施の形態に係る叩き具30は、本実施の形態に係るフレッシュコンクリートの締固め方法に用いることができる。
図4は、本実施の形態に係る叩き具30を用いて叩き締固め工程を行う状態を示す斜視図である。図示のように、作業者は、適当な高さの足場60に上り、両手でそれぞれのアーム部32の一端32dを握り、叩き面38をかぶり領域22のフレッシュコンクリート26の上面22aに対して叩きつける動作を行う。叩き面38を選択したのは、約13cmであるかぶり領域22の間隔dに対応させたものである。
かぶり領域22の間隔dが13cmより小さい場合、その小さい間隔dに合わせて作業現場において、叩き具30の軸ねじ52、56、及びロックねじ54、58の調節により、叩き面36又は叩き面40へと迅速に変更することができるので、便利である。特に、打設されたコンクリートの上面にて、かぶり領域22の間隔dが一定ではない場合に、その一定ではない間隔dに応じて迅速に最適な叩き面へと変更しながら作業を行うことができる点で便利である。
【0069】
そして、上面26aの一カ所の叩き動作を終えると、隣の上面26aを同様に叩き動作し、堰板12の内周面12aに沿って全ての上面26aを叩き動作する。これにより、かぶり領域22のフレッシュコンクリート26の上部Y2全体を密実に締固めることが可能となる。
【0070】
また、本実施の形態に係る叩き具30によると、叩き面がエキスパンドメタルにより構成されている。よって、上面26aの叩き動作の際、上面26aに現れたフレッシュコンクリート26内の気泡が、叩き面の菱形の網目を介して大気中に開放される。すなわち、上面26aと叩き面との間の空気がクッションとなって叩き締固めの効率が低下することがない。
【0071】
本実施の形態に係るフレッシュコンクリートの締固め方法においては、コア領域20を有するコンクリート柱の構築を例として挙げたが、これに限定されるものではない。例えば、コア領域を有しないコンクリート壁に本発明の方法を適用することも可能である。
以下、本発明に係るフレッシュコンクリートの締固め方法の他の実施の形態を、コア領域を有さないコンクリート壁の構築における打設されたコンクリートの締固めを例に、
図5を参照して説明する。同図(A)は、本発明の他の実施の形態に係る締固め方法を説明するための、フレッシュコンクリートが打設された直後の型枠10の部分平面図であり、同図(B)は、同図(A)のV−V線断面図である。
【0072】
同図(A)及び(B)において、上述の
図1〜4に示した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付しその説明を省略する。図示のように、構築されるコンクリート壁の形状に合わせて二枚の堰板12が互いに平行に、且つ地盤14に対して垂直に設置されている。これらの堰板12間の平面視略中央の位置に、複数の主鉄筋16を所定間隔をおいて配置されてなる、堰板12と平行方向に伸長する主鉄筋16列が設置されている。そして、拘束鉄筋18が、この主鉄筋16列に接触しつつこの主鉄筋16列の並ぶ方向と同方向に伸長するように設置されている。拘束鉄筋18は、高さ方向に所定間隔をおいて設置され、拘束鉄筋18列が設置されている。
【0073】
この状態において、鉄筋列(主鉄筋16列及び拘束鉄筋18列)は、一方の堰板12と最も近接する鉄筋列であり、他方の堰板12に対しても最も近接する鉄筋列である。すなわち、鉄筋列と堰板10との間の領域は、どちらもかぶり領域22であり(鉄筋列と堰板10の間隔は、どちらも約9cmである)、コア領域が存在しない。すなわち、双方の領域ともに振動体V1を直接挿入して当該領域のフレッシュコンクリート26を締固めることが作業上困難である。
【0074】
以下、締固め工程を説明する。まず、同図(B)に示すように、振動体V2を堰板12の外表面12bに当接させ、かぶり領域22内のフレッシュコンクリート26を間接的に振動させる(かぶり領域22の振動締固め工程)。次に、本実施の形態に係る叩き具30を用いて、叩き締固め工程を行う。かぶり領域22の間隔が9cmであるので、まず、この間隔に好適な幅D1が7cmの叩き面40に対してアーム部32が垂直に配置されるように叩き面を変更する。そして、アーム部32の一端32d(把持部)を両手で握り、叩き面40をかぶり領域22のフレッシュコンクリート26の上面26aに叩きつける。この叩き締固め工程は、鉄筋列を挟んで両側に位置するかぶり領域22の双方に行う。
【0075】
その際、上記コンクリート壁におけるフレッシュコンクリート26は、コア領域が無く、コア領域の振動締固め工程が行われないため、フレッシュコンクリート26の上部Y1全域が締固め不足になりやすい。本実施の形態に係る締固め方法によると、上部Y1全域を叩き締固め工程により密実に締固めることができるので、この方法を用いて締固められてなるコンクリート壁は、打継部が従来より大幅に密実に構成されており、構築されたコンクリート壁の強度の保持性が大きく向上したものとなる。
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。
【実施例】
【0077】
(1)鉄筋を配したコンクリート壁の構築
まず、以下のようにして6サンプルのコンクリート壁を作製した。
図6(A)は、本発明の締固め方法の実施例を説明するための、フレッシュコンクリートが打設された型枠の平面図であり、同図(B)は、同図(A)のVI−VI線断面図である。
【0078】
図示のように、縦60cm、横15cmの平面視矩形の型枠10内に、5本の主鉄筋16をそれぞれがほぼ等間隔となるように配置した。設置された主鉄筋16列は、一方の堰板12から8cm、他方の堰板12から7cmの間隔となるように構成されている。すなわち、堰板12と最もこの堰板12に近接する位置に設置された鉄筋列(主鉄筋16列)との間隔dはそれぞれ8cm、7cmである。
【0079】
次に、フレッシュコンクリートを高さ60cmとなるように型枠10内に打設した。打設後に、振動体V2を用いて型枠の外表面に振動を与えた(かぶり領域の振動締固め工程)。
【0080】
次に、3つのサンプルについてはかぶり領域22のフレッシュコンクリート26の上面を従来通り木ゴテで均した(比較例)。一方、残りの3つのサンプルについては、かぶり領域(間隔dを有する領域)のフレッシュコンクリート26の上面を本実施の形態に係る叩き具30を用いて叩き締固め工程を行った(実施例)。
【0081】
そして、全てのサンプルについて仕上げを行い、その後に十分な養生期間をとった。その後、型枠から全てのサンプルを脱径し、6つのコンクリート壁のサンプルを作成した。
【0082】
(2)コンクリート壁のサンプルの評価方法
(2−1)外観観察
以上により作成した各サンプルについて、型枠から脱径した状態で外観、特に、上部Y付近の外観を観察した。この結果を、
図8に記す。
(2−2)圧縮強度
以上により作成した各サンプル上部Yを、打設28日後にドリル等でくり抜き、略円柱形状のコアを採取した。これらのコアに対し、JIS A 1107(コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法)に準拠して一軸圧縮強度(σ28(N/mm
2))を測定した。
(2−3)密度
上記コアの寸法及び質量を測定し、見かけ密度(kg/m
3)を算出した。
(2−4)テストハンマー強度
各サンプルの上部Yに対して、テストハンマーによる強度推定調査を実施した。調査は、「硬化コンクリートのテストハンマー強度の試験方法(JSEC-G504)」に基づいて行った。
【0083】
上記(2−2)から(2−4)までの評価結果を、表1に記す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、叩き締固め工程を付加した実施例1〜3のサンプルは、比較例1〜3のサンプルと比較して密実に構成されており、強度も大きくなっていることがわかる。
【0086】
また、
図7は、実施例のサンプルと比較例のサンプルの表面状態を比較する図である。Aは実施例、Bは比較例のサンプルを示している。図示のように、実施例においては、比較例より上部Yにおける気泡の量が少なく、密実に構成されていることがわかる。
【0087】
よって、従来の締固め方法に本発明に係る締固め方法を付加すると、コンクリート構造物のかぶり領域の密実性が向上し、その強度を効果的に向上させることができると共に、鉄筋の腐食が抑制されることにより、強度の保持性の向上効果も期待できる。