(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の態様>
本発明の一態様である発光装置は、基板と、前記基板上に形成された、発光層に電力を供給するための配線と、前記配線を跨いで前記基板上に形成された遷移金属酸化物層と、前記遷移金属酸化物層上に形成され、前記配線上に開口部を有する隔壁と、前記開口部から露出した前記遷移金属酸化物層上に形成された、フッ素の移動を遮断する遮断層と、前記遮断層上に形成され、アルカリ金属がドープされてなる有機層と、前記有機層上に形成され、前記有機層、前記遮断層、および前記遷移金属酸化物層を介して前記配線と電気的に接続されることで、前記配線から供給された電力を前記発光層に提供する電極とを有するとした。
【0016】
本発明の一態様に係る発光装置では、前記開口部から露出した前記遷移金属酸化物層上に遮断層が形成され、この遮断層上に有機層が形成されている。したがって、前記隔壁形成時の隔壁材料の残渣が前記遷移金属酸化物層上に残留していたとしても、有機層と遷移金属酸化物層とが遮断層により隔離された上で、その残渣は遮断層に覆われることになる。これにより、残渣に含まれるフッ素の有機層への移動が遮断されるので、有機層にドープされたアルカリ金属がフッ化物となることを回避することができる。
【0017】
コンタクト抵抗の上昇は、有機層にドープされたアルカリ金属がフッ化物となることで、もはやアルカリ金属としての機能を発揮しないことが原因で生じると考えられる。本発明の一態様に係る発光装置では、上述のように、アルカリ金属がフッ化物となることを回避できるので、配線と電極とのコンタクト抵抗の上昇を抑制することができる。ここで、前記有機層の母材は、電子輸送性を有する有機材料からなるとしてもよい。また、前記基板上には、前記配線と同層であって、前記配線と離間した領域に画素電極が形成され、前記遷移金属酸化物層は、さらに前記画素電極上に形成されているとしてもよい。前記配線上に形成された前記遷移金属酸化物層と、前記画素電極上に形成された前記遷移金属酸化物層とは、連続しているとしてもよい。
【0018】
ここで、本発明の別の態様として、前記遮断層は、さらに前記隔壁の前記開口部の内壁に形成されているとしてもよい。
【0019】
本態様の発光装置では、隔壁材料の残渣に含まれるフッ素のみならず、隔壁から放出されるアウトガス(フッ素)をも遮断層により遮断することができる。したがって、有機層にドープされたアルカリ金属がフッ化物になることを、より一層抑制することができる。
【0020】
ここで、本発明の別の態様として、前記遮断層は、前記遷移金属酸化物層と同じ材料を含んで形成されているとしてもよい。この場合には、前記遮断層の厚みは、3nm以上、10nm以下であるとしてもよい。
【0021】
ここで、本発明の別の態様として、前記遮断層は、フッ化アルカリ金属材料で形成されているとしてもよい。前記フッ化アルカリ金属材料は、フッ化ナトリウムであるとしてもよい。前記遮断層がフッ化アルカリ金属材料で形成されている場合には、前記遮断層の厚みは、2nm以上、5nm以下であるとしてもよい。
【0022】
ここで、本発明の別の態様として、前記遮断層は、Al、Ag、Mg、Taの何れかを含んで形成されているとしてもよい。
【0023】
ここで、本発明の別の態様として、前記遷移金属は、Mo、W、Ti、In、Sn、Zn、Niのいずれかであるとしてもよい。
【0024】
ここで、本発明の一態様である発光装置の製造方法は、TFT基板上に絶縁層を形成する第1工程と、前記絶縁層上に、発光層に電力を供給するための配線を形成する第2工程と、前記配線を跨いで前記絶縁層上に遷移金属酸化物層を形成する第3工程と、前記遷移金属酸化物層上における、前記配線に対応した領域に開口部を有する隔壁を形成する第4工程と、前記開口部から露出した前記遷移金属酸化物層上にフッ素の移動を遮断する遮断層を形成する第5工程と、前記遮断層上に、アルカリ金属がドープされてなる有機層を形成する第6工程と、前記有機層上に、前記配線から供給された電力を前記発光層に提供する電極を形成する第7工程とを有するとした。
【0025】
ここで、前記第2工程では、前記絶縁層上の前記配線と同層に、前記配線と離間して画素電極を形成し、前記第5工程では、前記遮断層を、前記画素電極上に延伸して形成するとしてもよい。
【0026】
また、前記第3工程では、前記配線および前記画素電極上の全体に亘って前記遷移金属酸化物層を形成するとしてもよい。
【0027】
ここで、本発明の別の態様として、前記第5工程では、さらに、前記遮断層を、前記隔壁の前記開口部の内壁に形成するとしてもよい。
【0028】
ここで、本発明の別の態様として、前記第5工程では、前記遮断層を、前記遷移金属酸化物層と同じ材料で形成するとしてもよい。
<実施の形態1>
−発光装置1の全体構成−
図1は、発光装置1の全体構成を模式的に示すブロック図である。発光装置1は、EL表示パネル10と、これに接続された駆動制御部20とを備えている。EL表示パネル10は、例えば、有機材料の電界発光現象を利用した、トップエミッション型の有機EL表示パネルである。駆動制御部20は、4つの駆動回路21〜24と制御回路25とから構成されている。
【0029】
なお、実際の発光装置1では、EL表示パネル10に対する駆動制御部20の配置については、これに限られない。
−EL表示パネル10の構成−
図2は、EL表示パネル10の構成を模式的に示す部分断面図である。なお、
図2では、EL表示パネル10の一部を抜き出して模式的に示している。EL表示パネル10は、TFT基板101と、層間絶縁膜102と、画素電極103と、電力供給配線104と、正孔注入層105と、隔壁106と、発光層107と、遮断層108と、電子輸送層109と、共通電極110とを備えている。以下、EL表示パネル10の積層構造について詳細に説明する。
【0030】
まず、TFT基板101上に層間絶縁膜102が形成されている(本明細書では、TFT基板101上に層間絶縁膜102が形成されたものを「基板110」と定義する。)。層間絶縁膜102上で、かつ、当該層間絶縁膜102表面に沿って互いに離れた位置には、画素電極103と電力供給配線104が形成されている。画素電極103および電力供給配線104を跨いで層間絶縁膜102に正孔注入層105が形成されている。
【0031】
正孔注入層105上には、画素電極103に対応した第1開口部、および電力供給配線104に対応した第2開口部を有する隔壁106が形成されている。正孔注入層105上における、第1開口部から露出した領域(すなわち画素電極103の上方の領域)には、発光層107が形成されている。発光層107上には、電子輸送層109および共通電極110がこの順に積層形成されている。
【0032】
一方、正孔注入層105上における、第2開口部から露出した領域(すなわち電力供給配線104の上方の領域)には、遮断層108を介して電子輸送層109および共通電極110が積層形成されている。したがって、
図2の拡大図に示されるように、電力供給配線104上に隔壁106材料の残渣1061が残っていたとしても、この残渣1061は遮断層108により覆われることになる。また、電力供給配線104は、遮断層108および電子輸送層109を介して共通電極110と電気的に接続されている。
【0033】
電子輸送層109および共通電極110は、隔壁106を乗り越え、発光層107および遮断層108上の全体に亘って形成されている。
−EL表示パネル10の各層の材料−
続いて、EL表示パネル10における各層の材料について詳細に説明する。
【0034】
−TFT基板101−
TFT基板101は、基板本体上に、TFT、電力供給配線部材、およびTFTを被覆するパッシベーション膜などを形成した構成である。TFTは、チャネル材料にシリコンを用いたものでも、インジウムガリウム亜鉛酸化物などの酸化物半導体を用いたものでも、ペンタセンなどの有機半導体を用いたものでもよい。基板本体は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料からなる。また、基板本体は、有機樹脂フィルムであってもかまわない。
【0035】
−層間絶縁膜102−
層間絶縁膜102は、ポリイミド系樹脂またはアクリル系樹脂等の絶縁材料からなる。
【0036】
−画素電極103−
画素電極103は、特に限定されるものではないが、光反射性の材料で形成されていることが好ましい。金属、導電性酸化物、および導電性高分子は、好適な材料である。金属の例として、例えばアルミニウム、銀合金、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、ニッケル、亜鉛およびその合金が挙げられる。導電性酸化物の例として、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、亜鉛酸化物などが挙げられる。導電性高分子として、ポリアニリン、ポリチオフェンおよびそれらを酸性あるいは塩基性の物質と混合したものが挙げられる。
【0037】
−電力供給配線104−
電力供給配線104は、上記−画素電極103−の項目で挙げた各材料を用いることができる。
【0038】
−正孔注入層105−
正孔注入層105は、正孔を発光層107に注入する機能を有する。例えば、酸化タングステン(WOx)、酸化モリブデン(MoOx)、酸化モリブデンタングステン(MoxWyOz)などの遷移金属の酸化物から形成される。遷移金属として、チタン(Ti)、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)を用いることもできる。
【0039】
−隔壁106−
隔壁106は、樹脂等の有機材料で形成されており絶縁性を有する。有機材料の例として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられる。隔壁106には、撥液性を高めるためにフッ素が含有されている。また、隔壁106は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。さらに、隔壁106にはエッチング処理、ベーク処理等がなされるので、それらの処理に対して過度に変形、変質などをしないような耐性の高い材料で形成されることが好ましい。
【0040】
−発光層107−
発光層107が有機発光層である場合には、例えば、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリパラフェニレンエチレン、ポリ3−ヘキシルチオフェンやこれらの誘導体などの高分子材料や、特開平5−163488号公報に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0041】
−遮断層108−
遮断層108は、フッ素の移動を遮断する機能を有する。遮断層108は、例えば、上記−正孔注入層105−の項目で挙げた何れかの材料を含んで構成されている。また、フッ素と反応し易い金属を含んで構成されていてもよい。フッ素と反応し易い金属として、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、タンタル(Ta)を挙げることができる。さらに、フッ素化合物からなるとしてもよい。フッ素化合物を構成する元素としては、例えば、カルシウム、リチウム、ナトリウム(以下、纏めて「フッ化アルカリ金属材料」とも記す。)を挙げることができる。
【0042】
遮断層108が正孔注入層105と同じ材料を含んで構成されている場合には、その膜厚は3nm以上であることが好ましい。これより薄くすると、ピンホールが発生し得るためである。また、電力供給配線104と共通電極109とのコンタクト抵抗の観点から、遮断層108の膜厚は10nm以下であることが好ましい。
【0043】
また、遮断層108がフッ化アルカリ金属材料からなる場合には、その膜厚は2nm以上、5nm以下であることが好ましい。遮断層108が正孔注入層105と同じ材料を含んで構成されている場合よりも膜厚を薄くするのは、フッ化アルカリ金属材料が正孔注入層105の材料より絶縁化しやすいためである。
【0044】
−電子輸送層109−
電子輸送層109は、母材である電子輸送性を有する有機材料に、Na,Ba,Caなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドープしてなる。有機材料としては、例えば、特開平5−163488号公報のニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体、ジフェキノン誘導体、ペリレンテトラカルボキシル誘導体、アントラキノジメタン誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリノン誘導体、キノリン錯体誘導体が挙げられる。
【0045】
−共通電極110−
共通電極110は、透明性が高く、かつ、伝導率が高い材料で形成されることが好ましい。例えば、インジウムスズ酸化物や酸化亜鉛などが好適な材料である。
【0046】
続いて、EL表示パネル10の構成により電力供給配線104と共通電極110とのコンタクト抵抗の上昇を抑制できる理由について、以下の実験を通して説明する。
−実験1−
−実験概要−
電力供給配線と共通電極とのコンタクト抵抗に対する隔壁材料の残渣の影響を評価するために、実験用デバイスを複数(Sample1−6、Sample11−17、Sample21−27、Sample31−37)作製し、それぞれについてコンタクト抵抗を測定した。
【0047】
−実験用デバイス−
複数の実験用デバイスは、基本的には、共通の構成を有している。ここでは、Sample1の実験デバイス30を取り上げてその構成について説明する。
【0048】
図3は、実験用デバイス30の構成を模式的に示す断面図である。
図3に示されるように、実験用デバイス30は、画素電極40と、画素電極40上に形成された正孔注入層33と、正孔注入層33上に形成された、開口部を有する隔壁34と、開口部内に形成された発光層35と、発光層35上に形成された電子輸送層36と、電子輸送層36上に形成された共通電極37と、共通電極37上に形成された封止層38と、封止層38上に形成された封止缶39とを備えている。画素電極40としてACL31とIZO32の積層構造を採用し、ACL31の膜厚を200nm、IZO32の膜厚を16nmとした。正孔注入層33としてWOxを用い、その膜厚を5nmとした。隔壁34としてアクリル系樹脂を用い、その膜厚を1μmとした。隔壁34は、撥液性を高めるために、フッ素を含有している。また、隔壁34を形成した後、隔壁34の開口部に対してUV照射処理を90s行った。発光層35としてポリパラフェニレンビニレン(PPV)を用いて、その膜厚を50nmとした。電子輸送層36としてBaがドープされた有機ETL材料を用い、その膜厚を35nmとした。ただし、Baは10重量%とする。共通電極37としてITOを用い、その膜厚を35nmとした。封止層38としてSiNを用い、その膜厚を620nmとした。
【0049】
Sample2−6およびSample11−17は、Sample1と同様の構成である。
【0050】
Sample21−27も、基本的には、Sample1と同様の構成である。ただし、Sample21−27では、正孔注入層の表面に隔壁材料の残渣として何らかの付着物が存在しているという可能性を考慮し、隔壁の開口部に対してUV照射処理を300s行った上で、さらに、付着物を除去するために真空ベークした。真空ベーク処理は、200℃で60min行った。
【0051】
Sample31−37も、基本的には、Sample1と同様の構成である。ただし、Sample31−37では、付着物が存在しているという可能性を踏まえた上で、この付着物が何に由来するものかを判別するために、隔壁の材料として樹脂の代わりに無機物を用いた。つまり、有機物の残渣が発生しないような隔壁材料を用いた。具体的には、隔壁の材料としてSiNを用いた。
【0052】
−実験結果−
図4は、各Sampleにおけるコンタクト抵抗を示す図である。縦軸が、抵抗値(Ω)を示している。
【0053】
図4に示されるように、Sample1−7およびSample11−17では、それぞれの抵抗値は、Sample11を除いて、1.0E+05Ωから1.0E+06Ωの範囲に収まっている。
【0054】
一方、Sample21−27では、それぞれの抵抗値は、1.0E+04Ωから1.0E+05Ωの範囲に収まっている。
【0055】
Sample31−37についても同様に、それぞれの抵抗値は、1.0E+04Ωから1.0E+05Ωの範囲に収まっている。
【0056】
Sample11については、1.0E+05Ωより小さいものの、Sample21−27およびSample31−37の各抵抗値に比べて大きい。
【0057】
つまり、
図4から、Sample21−27およびSample31−37の抵抗値が、Sample1−7およびSample11−17の抵抗値に比べて、低下していることが確認できる。
【0058】
Sample21−27では、真空ベークが行われているので、隔壁材料に由来する有機物の残渣は除去されたものと考えられる。
【0059】
Sample31−37では、そもそも隔壁の材料として無機物を用いているので、有機物の残渣は存在しない。
【0060】
したがって、これらのことから、Sample1−7およびSample11−17では、正孔注入層と電子輸送層の界面に何らかの付着物(すなわち有機物の残渣)が存在し、この付着物が原因でコンタクト抵抗が上昇していると考えられる。
【0061】
続いて、付着物の元素を特定するための実験について説明する。
−実験2−
−実験概要−
実験用デバイスを作製し、正孔注入層に付着した付着物の構成元素をSIMSにより特定した。
【0062】
−実験用デバイス−
図5は、実験用デバイス50の構成を模式的に示す断面図である。
図5に示されるように、実験用デバイス50は、画素電極60と、画素電極60上に形成された正孔注入層53と、正孔注入層53上に形成された、開口部を有する隔壁54と、開口部内に形成された発光層55と、発光層55上に形成された電子輸送層56と、電子輸送層56上に形成された共通電極57とを備えている。画素電極50としてACL51とIZO52の積層構造を採用し、ACL51の膜厚を200nm、IZO52の膜厚を10nmとした。正孔注入層53としてWOxを用い、その膜厚を5nmとした。隔壁54としてアクリル系樹脂を用い、その膜厚を1μmとした。また、隔壁54は、撥液性を高めるために、フッ素を含有している。発光層55としてポリパラフェニレンビニレン(PPV)を用いて、その膜厚を50nmとした。電子輸送層56としてBaがドープされた有機ETL材料を用い、その膜厚を35nmとした。ただし、Baは10重量%とする。共通電極57としてALを用い、その膜厚を35nmとした。
【0063】
この実験用デバイス50の矢印Aの部分に対しSIMSを行った。
【0064】
−実験結果−
図6(a)は、SIMSによる分析結果を示す図であり、成分としてフッ素(F)を示している。
図6(b)は、SIMSによる分析結果を示す図であり、成分として酸化タングステン(WO3−)を示している。各図中において、縦軸が、Intensity(counts/sec)であり、横軸が、スパッタリングタイムである。
【0065】
図6(a)に示されるように、実験用デバイス50には、フッ素(F)のピークが存在している部分がある。
図5の矢印Aで示される部分(すなわち画素電極60、正孔注入層53、発光層55、電子輸送層56、および共通電極57)には、本来ならフッ素(F)は存在しないはずである。
【0066】
一方、隔壁54には、撥液性を持たせるための成分としてフッ素(F)が含有されている。このため、隔壁54を形成した際の残渣が残留していると考えられる。
【0067】
また、
図5の矢印Aで示される部分には、フッ素(F)と反応し易いアルカリ金属のBaが存在する。
【0068】
このことから、実験1において、Sample1−7およびSample11−17で見られたコンタクト抵抗の上昇は、電子輸送層36にドープされたBaがフッ化物となることで、もはやBaとしての機能を発揮しないことが原因で生じると考えられる。
【0069】
また、
図6(a)と
図6(b)とを見比べると、酸化タングステン(WO3−)とフッ素(F)のピークがほぼ同じ位置にあることがわかる。つまり、これは、酸化タングステン(WO3−)がフッ素(F)をトラップしていることを意味する。
【0070】
以上のことから、Baがフッ化物となることを回避するために、電子輸送層36の下層に、有機物の残渣を覆うように、フッ素(F)をトラップする層(例えば酸化タングステンからなる層)を形成することが有効であるといえる。
【0071】
EL表示パネル10では、正孔注入層105と電子輸送層109の間に遮断層108が介在されている。遮断層108は、例えば酸化タングステンからなり、フッ素(F)の電子輸送層109への移動を遮断する。よって、フッ素(F)が原因でコンタクト抵抗が上昇することを抑制することができるのである。
−製造方法−
図7,8は、発光装置1の製造工程の一例を示す図である。なお、
図7,8では、発光装置1の一部を抜き出して模式的に示している。
【0072】
まず、
図7(a)に示されるように、TFT基板101上に層間絶縁膜102を形成する。
【0073】
次に、層間絶縁膜102上に導電性材料からなる薄膜を成膜する。この薄膜の成膜には、スパッタリング法や真空蒸着法などの真空成膜法を用いることができる。薄膜の成膜後、フォトリソグラフィでパターニングすることにより、
図7(b)に示されるように、互いに離れた位置に画素電極103と電力供給配線104を形成する。画素電極103と電力供給配線104とを同一材料で形成する場合には、これらを同一工程で形成できるため、製造工程を簡略化することができる。
【0074】
画素電極103および電力供給配線104の形成後、
図7(c)に示されるように、画素電極103および電力供給配線104を跨いで層間絶縁膜102上に、例えばWOxからなる正孔注入層105を成膜する。正孔注入層105の成膜には、スパッタリング法や真空蒸着法などの真空成膜法を用いることができる。
【0075】
次に、正孔注入層105上に絶縁性有機材料からなる隔壁材料層を形成する。隔壁材料層の形成は、例えば塗布等により行うことができる。その後、隔壁材料層上に所定形状の開口部を持つマスクを重ね、マスクの上から感光させた後、余分な隔壁材料層を現像液で洗い出す。これにより隔壁材料層のパターニングが完了する。以上で、
図7(d)に示されるように、第1開口部106aおよび第2開口部106bを有する隔壁106が形成される。ただし、正孔注入層105上における、第2開口部106bから露出した領域には、隔壁材料の残渣1061が付着している。
【0076】
次に、正孔注入層105上における、第1開口部106aから露出した領域に、例えばインクジェット法により発光材料を含む組成物インクを滴下し、その組成物インクを乾燥させて発光層107を形成する(
図8(a))。
【0077】
発光層107の形成後、正孔注入層105上における、第2開口部106bから露出した領域に、遮断層108を成膜する(
図8(b)参照)。遮断層108の成膜は、スパッタリング法や真空蒸着法などの真空成膜法を用いることができる。ここで、遮断層108を正孔注入層105と同じ材料で形成してもよい。こうすることで、遮断層108の成膜コストを下げることができる。
【0078】
次に、隔壁106、発光層107、および遮断層108上の全体に亘って、電子輸送層109および共通電極110を形成する。電子輸送層109および共通電極110の成膜には、スパッタリング法や真空蒸着法などの真空成膜法を用いることができる。
−効果−
発光装置1では、隔壁106の第2開口部106から露出した正孔注入層105上に遮断層108が形成され、この遮断層108上に電子輸送層109が形成されている。したがって、正孔注入層105上に隔壁材料の残渣が残留していたとしても、電子輸送層109と正孔注入層105とが遮断層108により隔離された上で、その残渣は遮断層108に覆われることになる。これにより、残渣に含まれるフッ素の電子輸送層109への移動は遮断されるので、電子輸送層109にドープされたBaがフッ化物となることを回避することができる。
【0079】
コンタクト抵抗の上昇は、電子輸送層109にドープされたBaがフッ化物となることで、もはやBaとしての機能を発揮しないことが原因で生じると考えられる。発光装置1では、上述のように、Baがフッ化物となることを回避できるので、電力供給配線104と共通電極110とのコンタクト抵抗の上昇を抑制することができる。
【0080】
以上、本発明に係る発光装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限られないことは勿論である。例えば、以下のような変形例が考えられる。
<変形例1>
遮断層の形成領域を替えた一変形例について説明する。
【0081】
図9は、EL表示パネル10aの構成を模式的に示す部分断面図である。EL表示パネル10aは、遮断層108aの形成領域が異なる以外は、EL表示パネル10と同様の構成をしている。したがって、
図9において、EL表示パネル10と同様の構成部分の説明は省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0082】
変形例1では、遮断層108aは、正孔注入層105上における、第2開口部106bから露出した領域に加えて、第2開口部106bの内壁106b1にも形成されている。この構成により、隔壁材料の残渣に含まれるフッ素のみならず、隔壁106から放出されるアウトガス(フッ素)をも遮断層108aにより遮断することができる。したがって、電子輸送層109にドープされたアルカリ金属がフッ化物になることを、より一層抑制することができる。
<変形例2>
遮断層の形成領域を替えた一変形例について説明する。
【0083】
図10は、EL表示パネル10bの構成を模式的に示す部分断面図である。EL表示パネル10bは、遮断層108bの形成領域が異なる以外は、EL表示パネル10と同様の構成をしている。したがって、
図10において、EL表示パネル10と同様の構成部分の説明は省略し、以下異なる部分を中心に説明する。
【0084】
変形例2では、遮断層108bは、隔壁106上の全体に亘って形成されている。この構成によれば、遮断層108をエッチング等する必要がないので、製造工程の観点から有利である。
<その他の変形例>
(1)発光層107の形成後、遮断層108を形成したが、遮断層108の形成は発光層107の形成前でもよい。
(2)遮断層108がフッ化アルカリ金属材料(以下、「フッ化ナトリウム」を例に挙げて説明する。)から構成される場合において、当該遮断層108におけるフッ素遮断のメカニズムについて説明する。このメカニズムとして次の二通り考えられる。
【0085】
遮断層108内にはフッ化ナトリウムが存在している。ただし、遮断層108内の全てがフッ化ナトリウムからなるのではなく、遮断層108内にはフッ素とナトリウムがそれぞれ単体でも存在していると考えられる。したがって、第一の遮断メカニズムとして、遮断層108内に存在しているナトリウムが、残渣に含まれるフッ素と結合することにより、電子輸送層109への移動が遮断されると考えられる。第二の遮断メカニズムとして、遮断層108内に存在しているフッ素と残渣に含まれるフッ素が反発することにより、電子輸送層109への移動が遮断されると考えられる。