特許第5974257号(P5974257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルプス・グリーンデバイス株式会社の特許一覧

特許5974257複合磁性粉末及び前記複合磁性粉末を用いた圧粉磁心
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974257
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】複合磁性粉末及び前記複合磁性粉末を用いた圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/20 20060101AFI20160809BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20160809BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20160809BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160809BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20160809BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20160809BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   H01F1/30
   H01F1/26
   H01F27/24 D
   B22F1/00 Y
   B22F3/02 M
   B22F3/00 B
   C22C33/02 E
   C22C33/02 M
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-104654(P2012-104654)
(22)【出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-165249(P2013-165249A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年11月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-152934(P2011-152934)
(32)【優先日】2011年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-4377(P2012-4377)
(32)【優先日】2012年1月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310014322
【氏名又は名称】アルプス・グリーンデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】土屋 景子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】小柴 寿人
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−251735(JP,A)
【文献】 特開2006−060061(JP,A)
【文献】 特許第4452240(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0165985(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/20
H01F 1/26
H01F 27/255
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/02
C22C 33/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の軟磁性粒子をバインダー樹脂により結着してなる複合磁性粉末であって、
前記複合磁性粉末の略中心を通る断面に、表面近似ラインと、前記複合磁性粉末の略中心から前記表面近似ラインに向けて略1/4の距離にあり前記表面近似ラインに相似する内側ラインと、前記複合磁性粉末の略中心から前記表面近似ラインに向けて略1/2の距離にあり前記表面近似ラインに相似する第1中間ラインと、前記複合磁性粉末の略中心から前記表面近似ラインに向けて略3/4の距離にあり前記表面近似ラインに相似する第2中間ラインとを描画したとき、
前記軟磁性粒子の粒度分布を体積分布で測定した際の平均粒径(D50)の1/3以下の粒径である小粒径の比率である小粒径比率は、前記表面近似ライン上のほうが、前記内側ライン上、前記第1中間ライン上、及び前記第2中間ライン上のいずれに対しても大きく、
前記表面近似ライン上での前記小粒径比率は、前記内側ライン上、前記第1中間ライン上及び前記第2中間ライン上での前記小粒径比率よりも20%以上大きいことを特徴とする複合磁性粉末。
【請求項2】
圧縮成形されるものである請求項1記載の複合磁性粉末。
【請求項3】
前記複合磁性粉末に含まれる前記軟磁性粒子には、大粒径粒子をカットした粒度調整が施されている請求項1又は2に記載の複合磁性粉末。
【請求項4】
前記表面近似ライン上における前記バインダー樹脂の割合は、前記内側ライン上における前記バインダー樹脂の割合より大きい請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合磁性粉末。
【請求項5】
前記バインダー樹脂の割合は、前記表面近似ライン上のほうが、前記内側ライン上、前記第1中間ライン上及び前記第2中間ライン上のいずれに対しても大きい請求項4記載の複合磁性粉末。
【請求項6】
前記内側ライン上における空隙の割合は、前記表面近似ライン上における前記空隙の割合よりも大きい請求項4又は5に記載の複合磁性粉末。
【請求項7】
前記空隙の割合は、前記内側ライン上のほうが、前記表面近似ライン上、前記第1中間ライン上及び前記第2中間ライン上のいずれに対しても大きい請求項6記載の複合磁性粉末。
【請求項8】
前記内側ライン上における前記バインダー樹脂及び前記空隙の合計割合は、前記表面近似ライン上における前記バインダー樹脂及び前記空隙の合計割合よりも大きい請求項6又は7に記載の複合磁性粉末。
【請求項9】
前記表面近似ライン上を埋める前記バインダー樹脂により表皮層が形成されている請求項4ないし8のいずれか1項に記載の複合磁性粉末。
【請求項10】
前記軟磁性粒子の個数分布の平均粒径は、2μm〜4μmの範囲内であり、体積分布の平均粒径は、9μm〜12.5μmの範囲内である請求項1ないしのいずれか1項に記載の複合磁性粉末。
【請求項11】
前記複合磁性粉末の平均粒径は、80μm〜110μmの範囲内である請求項1ないし10のいずれか1項に記載の複合磁性粉末。
【請求項12】
前記軟磁性粒子は、Fe100-a-b-c-x-y-z-tNiaSnbCrcxyzSitで示され、0at%≦a≦10at%、0at%≦b≦3at%、0at%≦c≦6at%、6.8at%≦x≦10.8at%、2.0at%≦y≦9.8at%、0at%≦z≦8.0at%、0at%≦t≦5.0at%である請求項1ないし11のいずれか1項に記載の複合磁性粉末。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載された前記複合磁性粉末を圧縮成形して得られることを特徴とする圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の軟磁性粒子を絶縁性のバインダー樹脂に結着してなる複合磁性粉末及び前記複合磁性粉末を用いた圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車等の昇圧回路や、発電、変電設備に用いられるリアクトル、トランスやチョークコイル等に使用される圧粉磁心は、多数の軟磁性粉末とバインダー樹脂とを有する複合磁性粉末を圧粉成形することで得ることが出来る。下記特許文献には複合磁性粉末(造粒粉)についての記述がある。
【0003】
ところで圧粉磁心は鉄損の低減等を図るべく電気抵抗率が高いことが望まれるが、高い電気抵抗率を得るために複合磁性粉末の内部から表面にかけての構造を適正化した特許文献は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−258234号公報
【特許文献2】特開2011−114321号公報
【特許文献3】特開平8−60288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、複合磁性粉末の内部から表面にかけての構造を適正化し、高電気抵抗率の圧粉磁心を得ることができる複合磁性粉末及び前記複合磁性粉末を用いた圧粉磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、多数の軟磁性粒子をバインダー樹脂により結着してなる複合磁性粉末であって、
前記複合磁性粉末の略中心を通る断面に、表面近似ラインと、前記複合磁性粉末の略中心から前記表面近似ラインに向けて略1/4の距離にあり前記表面近似ラインに相似する内側ラインと、前記複合磁性粉末の略中心から前記表面近似ラインに向けて略1/2の距離にあり前記表面近似ラインに相似する第1中間ラインと、前記複合磁性粉末の略中心から前記表面近似ラインに向けて略3/4の距離にあり前記表面近似ラインに相似する第2中間ラインとを描画したとき、
前記軟磁性粒子の粒度分布を体積分布で測定した際の平均粒径(D50)の1/3以下の粒径である小粒径の比率である小粒径比率は、前記表面近似ライン上のほうが、前記内側ライン上、前記第1中間ライン上、及び前記第2中間ライン上のいずれに対しても大きく、前記表面近似ライン上での前記小粒径比率は、前記内側ライン上、前記第1中間ライン上及び前記第2中間ライン上での前記小粒径比率よりも20%以上大きいことを特徴とするものである。
【0007】
本発明では、複合磁性粉末の表面側に小粒径の軟磁性粒子とバインダー樹脂とが凝集し、複合磁性粉末の内部に表面側よりも粒径の大きい軟磁性粒子が集まることで、複合磁性粉末を圧縮成形したときの複合磁性粉末同士の接触抵抗を高くできる。また、複合磁性粉末の内部に空隙が形成されやすく、前記圧縮成形によっても空隙がある程度の大きさを保って残りやすい。このため、電気抵抗率の高い圧粉磁心を得ることが可能になる。
【0008】
本発明では、前記表面近似ライン上での前記小粒径比率は、前記内側ライン上、前記第1中間ライン上及び前記第2中間ライン上での前記小粒径比率よりも20%以上大きい、すなわち、表面側と内部側とで小粒径比率の差が大きくなることで、表面側にバインダー樹脂が凝集することになり、効果的に、電気抵抗率を高くすることができる。
本発明の複合磁性粉末は圧縮成形されるものであってもよい。
【0009】
また本発明では、前記複合磁性粉末に含まれる前記軟磁性粒子には、大粒径粒子をカットした粒度調整が施されていることが好ましい。なお、このとき、前記大粒径粒子とは体積分布の粒度分布において、累積値50%(D50)の粒径の1.5倍以上の粒径を有する前記軟磁性粒子である。
【0010】
上記のように大粒径粒子をカットした粒度調整が行われた軟磁性粒子を用いて製造された圧粉磁心と、粒度調整を行っていない軟磁性粒子を用いて製造された圧粉磁心とでは、コア密度をほぼ同じとしたとき、前者の圧粉磁心のほうが後者に比べて高い電気抵抗率が得られることが後述する実験によりわかった。大粒径粒子をカットする粒度調整を行うことにより、前記複合磁性粉末を生成する際にこのような大粒径粒子に阻害されること無く、複合磁性粉末の表面から中心への粒子が整然と配列したものとなる。そのため、前記複合磁性粉末表面へ小粒径粒子とバインダー樹脂がより凝集しやすくなり、複合磁性粉末の表面に露出する粒子面積が小さくなり、圧粉磁心を形成した際の複合磁性粉末同士の接触抵抗を高くでき、従って、高い電気抵抗率を得られる。
【0011】
また本発明では、前記表面近似ライン上における前記バインダー樹脂の割合は、前記内側ライン上における前記バインダー樹脂の割合より大きいことが好ましい。また前記バインダー樹脂の割合は、前記表面近似ライン上のほうが、前記内側ライン上、前記第1中間ライン上及び前記第2中間ライン上のいずれに対しても大きいことが好ましい。これにより、効果的に電気抵抗率の高い圧粉磁心を得ることができる。
【0012】
また本発明では、前記内側ライン上における空隙の割合は、前記表面近似ライン上における前記空隙の割合よりも大きいことが好ましい。また前記空隙の割合は、前記内側ライン上のほうが、前記表面近似ライン上、前記第1中間ライン上及び前記第2中間ライン上のいずれに対しても大きいことが好ましい。これにより、効果的に電気抵抗率の高い圧粉磁心を得ることができる。
【0013】
また本発明では、前記内側ライン上における前記バインダー樹脂及び空隙の合計割合は、前記表面近似ライン上における前記バインダー樹脂及び前記空隙の合計割合よりも大きいことが好ましい。
【0014】
また本発明では、前記表面近似ライン上を埋める前記バインダー樹脂により表皮層が形成されていることが好ましい。これにより、複合磁性粉末を圧縮成形したときに各複合磁性粉末間を高絶縁に保つことができ、圧粉磁心の高電気抵抗率化を適切に図ることができる。また複合磁性粉末単体としての機械的強度を保つことができるし、軟磁性粒子が外部に露出せず、あるいは露出する領域を小さくできるため耐久性の向上を図ることができる。
【0015】
また本発明では、前記軟磁性粒子の平均粒径(D50)は、個数分布で2μm〜4μm、体積分布で9μm〜12.5μmの範囲内であることが好ましい。
【0016】
また本発明では、前記複合磁性粉末の平均粒径は、80μm〜110μmの範囲内であることが好ましい。
【0017】
また本発明では、前記軟磁性粒子は、Fe100-a-b-c-x-y-z-tNiaSnbCrcxyzSitで示され、0at%≦a≦10at%、0at%≦b≦3at%、0at%≦c≦6at%、6.8at%≦x≦10.8at%、2.0at%≦y≦9.8at%、0at%≦z≦8.0at%、0at%≦t≦5.0at%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、小粒径の軟磁性粒子とバインダー樹脂が複合磁性粉末の表面側に凝集することで、圧粉磁心を得るため複合磁性粉末を圧縮成形したときに各複合磁性粉末の表面間の接触抵抗を高くできると考えられる。また、複合磁性粉末の内部に空隙が形成されやすく、前記圧縮成形によっても空隙がある程度の大きさを保って残りやすい。このため、電気抵抗率の高い圧粉磁心を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本実施形態における複合磁性粉末の断面を示す模式図である。
図2図2は、図1の一部分を拡大して示した本実施形態における複合磁性粉末の模式図である。
図3図3は、圧粉磁心(コア)の斜視図である。
図4図4は、コイル封入圧粉磁心の平面図である。
図5図5は、本実施例の複合磁性粉末(造粒粉)のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図6図6は、造粒工程を説明するための模式図である。
図7図7は、実施例−1と比較例に使用した水アトマイズ法により生成したFe基金属ガラス合金粉末(軟磁性合金粉末)の粒度分布を粒度分布計により測定した実験結果を示すグラフであり、図7(a)は個数分布に基づく粒度分布を示すグラフであり、図7(b)は体積分布に基づく粒度分布であるを示すグラフである。
図8(a)】図8(a)は、スプレードライヤーにより造粒した実施例−1の複合磁性粉末の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真であり、特に、断面上に描画した各ライン上における粒径と比率(存在割合)との関係を求めるのに使用した一例である。
図8(b)】図8(b)は、図8(a)に示す表面近似ラインAを断面上に描画したSEM写真である。
図8(c)】図8(c)は、断面中心を描画したSEM写真である。
図8(d)】図8(d)は、断面中心から表面近似ラインAまで直線を描き四等分した状態を示すSEM写真である。
図8(e)】図8(e)は図8(a)に示す内側ラインD、第1中間ラインC及び第2中間ラインBを夫々、断面上に描画したSEM写真である。
図9図9は、実施例−1として使用した複数の複合磁性粉末の断面に描画した各ライン上における軟磁性粒子の粒径とその比率(存在割合:平均値)との関係を示すグラフである。
図10図10(a)は実施例−2における個数分布に基づく粒度分布、図10(b)は実施例−2における体積分布に基づく粒度分布を示すグラフである。
図11図11は、スプレードライヤーにより造粒した実施例−2の複合磁性粉末の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図12図12は、実施例−2として使用した複数の複合磁性粉末の断面に描画した各ライン上における軟磁性粒子の粒径とその比率(存在割合:平均値)との関係を示すグラフである。
図13図13(a)は、実施例−1における複合磁性粉末表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真であり、図13(b)は、実施例−2における複合磁性粉末表面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図14図14は、原料を攪拌・脱泡混合後、スクリーン式中砕機により粉砕して得られた比較例の複合磁性粉粉末における断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真であり、特に、断面上に描画した各ライン上における粒径と比率(存在割合)との関係を求めるのに使用したものである。
図15図15は、比較例における複数の複合磁性粉末の断面に描画した各ライン上における軟磁性粒子の粒径と比率(存在割合:平均値)との関係を示すグラフである。
図16(a)】図16(a)は、スプレードライヤーにより造粒した実施例−1の複合磁性粉末の断面におけるSEM(走査型電子顕微鏡)写真の部分拡大図(実施例)であり、特に、断面に描画した各ライン上における軟磁性粒子、バインダー樹脂及び空隙を示す。
図16(b)】図16(b)は、図16(a)の模式図である。
図17図17は、実施例の実験結果を示し、図17(a)は、各ライン上におけるバインダー樹脂割合を示すグラフであり、図17(b)は、各ライン上における空隙割合を示すグラフであり、図17(c)は、各ライン上におけるバインダー樹脂及び空隙の合計割合を示すグラフである。
図18図18は、比較例の実験結果を示し、図18(a)は、各ライン上におけるバインダー樹脂割合を示すグラフであり、図18(b)は、各ライン上における空隙割合を示すグラフである。
図19図19は、実施例−1、実施例−2および比較例の各複合磁性粉末を使用して形成した圧粉磁心のコア密度と、電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図20図20は、本実施例の複合磁性粉末を用いて形成した圧粉磁心の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本実施形態における複合磁性粉末の断面を示す模式図であり、図2は、図1の一部分を拡大して示した本実施形態における複合磁性粉末の模式図である。
【0021】
図1に示す本実施形態の複合磁性粉末(造粒粉)10は、軟磁性粒子11をバインダー樹脂(図1には図示せず)により結着して成る。ただし図1では、一つの軟磁性粒子11にのみ符号11を付した。
【0022】
図1は、複合磁性粉末10の略中心Oを通る断面を示している。ここで「中心」とは、幾何学的中心点と定義できる。複合磁性粉末10が略球状や略楕円体であれば、X、Y及びZ方向の各中点が交わる点が中心である。また「中心」を「重心」と定義できる。
【0023】
図1は、複合磁性粉末10をX−Y平面上に置き、略中心Oを通るX−Z断面で示している。
【0024】
図1に示す複合磁性粉末10は略球形である。そのため図1に示す複合磁性粉末10の断面は略円形で現れる。図1の断面上に、複合磁性粉末10の中心Oから所定径にて円形状の表面近似ラインAを描画した。ここで表面近似ラインAとは、複合磁性粉末10の最表面近傍に凝集した大部分の軟磁性粒子11を横断するように前記最表面よりもやや内側に位置するラインである。
【0025】
図2の部分拡大図に示すように複合磁性粉末10の最表面10aはバインダー樹脂12により被覆されている。したがって最表面10aには軟磁性粒子11が存在せず、あるいは存在したとしても数が非常に少なくなる。したがって表面近似ラインAを最表面10aよりもやや内側に位置させる。このとき、表面近似ラインAを、最表面近傍に集まる大部分の軟磁性粒子11を横断するように引く。「表面に集まる大部分の軟磁性粒子11を横断する」とは、表面近似ラインAよりも最表面10a側に外れる軟磁性粒子11の数をαとし、表面近似ラインAを縦断する軟磁性粒子11の数をβとしたとき、[β/(α+β)]×100(%)が90%以上となる状態を指す。図2に示す軟磁性粒子11aは、表面近似ラインAよりも最表面10a側に外れた軟磁性粒子11であり上記αに該当する。また、軟磁性粒子11bは、表面近似ラインAを縦断する軟磁性粒子11であり上記βに該当する。よって(軟磁性粒子11bの総数)/(軟磁性粒子11aと軟磁性粒子11bとの合計数)が90%となるように表面近似ラインの位置を決定する。
【0026】
表面近似ラインAは、表面近傍に位置する軟磁性粒子11の並びにできる限り沿うように描画する。図1図2のように表面近傍に位置する軟磁性粒子11の並びが略円形であれば、表面近似ラインAを円形で描画しても、(軟磁性粒子11bの総数)/(軟磁性粒子11aと軟磁性粒子11bとの合計数)を90%以上に設定できるが、後述する軟磁性粒子11の小粒径比率p1の正確性を増すためにも、複合磁性粉末10の表面近傍に位置する軟磁性粒子11の並びに沿うように表面近似ラインAを描画することが望ましい。なお、一個一個の軟磁性粒子11の並びに沿って表面近似ラインを正確に描画しなくてもよく、できるだけ簡単な描画とするために、上記90%以上の条件を確保しながら表面近似ラインAを緩やかな曲線状や直線状で引くことができる(後述の図8図16を参照)。
【0027】
続いて、複合磁性粉末10の中心Oから表面近似ラインAまでの距離(半径γ)を計測し、半径γの1/4、1/2、3/4の位置に表面近似ラインAと同心円状(相似状)の内側ラインD、第1中間ラインC及び第2中間ラインBを夫々、描画した。
【0028】
図1では複合磁性粉末10の断面形状が略円形状であるため、各ラインA〜Dを同心円状で描いたが、前記断面形状が略楕円形状であれば、表面近似ラインAを楕円形ラインで引き、中間ラインB,C及び内側ラインDを前記表面近似ラインAに相似する楕円形ラインで描画する。また前記断面形状が円形や楕円以外の異形状である場合には、最表面近傍に凝集した軟磁性粒子11の並びに沿って表面近似ラインAを描画すればよいが、上記したように、軟磁性粒子11の横断個数が90%以上であればよいため、できるだけ簡単な描画とするために、上記90%以上の条件を確保しながら表面近似ラインAを緩やかな曲線状や直線状で引くことが好ましい。そして中心Oから表面近似ラインAへ向けて略1/4、略1/2、及び略3/4だけ離れた位置に、前記表面近似ラインAと相似状の内側ラインD及び中間ラインC,Bを描画する。
【0029】
続いて各ラインA〜D上を縦断する軟磁性粒子11の粒径分布を計測し、各ライン上での軟磁性粒子11の小粒径比率を算出した。ここで「小粒径」とは、軟磁性粒子の粒度分布を体積分布で測定した際の平均粒径(D50)の1/3以下程度の粒径を指す。粒度分布は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置 MT3300EXを用いて個数分布および体積分布で測定した。
【0030】
図1に示す実施形態では、軟磁性粒子11の個数分布の平均粒径(D50)は、2μm〜4μmであり、体積分布の平均粒径(D50)は9μm〜12.5μmであり、小粒径を3μm以下に規定した。粒径(D50)は、累積値50%での粒径を指している。
【0031】
小粒径比率は、各ラインA〜D上を縦断する軟磁性粒子11の粒径を調べ、[(各ラインA〜D上での小粒径(本実施形態では3μm以下とした)の軟磁性粒子11の個数)/(各ラインA〜D上での軟磁性粒子11の総数)]×100(%)で求めることができる。
【0032】
本実施形態では、軟磁性粒子11の小粒径比率p1は、表面近似ラインA上のほうが、内側ラインD上、第1中間ラインC上、及び第2中間ラインB上よりも大きくなっている。すなわち図1に示すように複合磁性粉末10の内部よりも最表面側により多くの小粒径の軟磁性粒子11が凝集した状態になっている。
【0033】
また、表面近似ラインA上におけるバインダー樹脂12の割合は、内側ラインD上におけるバインダー樹脂12の割合より大きい。また、バインダー樹脂12の割合は、表面近似ラインA上のほうが、内側ラインD上、第1中間ラインC上及び第2中間ラインB上のいずれに対しても大きいことが好ましい。
【0034】
図2に示すように表面近似ラインAにおいて軟磁性粒子11が存在しない部分は、バインダー樹脂12や空隙13が存在する領域となっている。なお図2では示していないが他の各ラインB〜D上についても、軟磁性粒子11が存在しない部分は、バインダー樹脂12や空隙13が存在する領域となっている。具体的に示すと図2に示すように、表面近似ラインAを縦断する各軟磁性粒子11bの、前記表面近似ラインA位置での粒子長L3,L4,L5・・・を合計した合計粒子長をL2とし、表面近似ラインAのライン長(周長)をL1としたとき、(L2/L1)×100(%)が、各表示近似ラインAでの粒子存在率p3であり、(100−p3)(%)が、粒子不存在率p2である。他のラインB〜Dについても同様に求めることが出来る。上記では、粒子存在率p3を先に求めて、粒子不存在率p2を割り出したが、図2に示すように、表示近似ラインA上にて軟磁性粒子11が存在しない領域の長さL6,L7,L8・・・を合計し、それを表面近似ラインAのライン長(周長)をL1で割れば、粒子不存在率p2を求めることができる。
【0035】
粒子不存在率p3は、バインダー樹脂12の割合、及び空隙13の割合に分けることができる。すなわち図2に示す長さL6,L7は、バインダー樹脂12の存在する部分であり、[(表面近似ラインA上においてバインダー樹脂12が存在する合計長さ)/L1]×100(%)が、バインダー樹脂12の割合である。
【0036】
また図2に示す長さL9(長さL8の一部)は、空隙13が存在する部分であり、[(表面近似ラインA上において空隙13が存在する合計長さ)/L1]×100(%)が、空隙13の割合である。
【0037】
上記したように、表面近似ラインA上におけるバインダー樹脂12の割合は、内側ラインD上におけるバインダー樹脂12の割合より大きく、表面近似ラインA上におけるバインダー樹脂12の割合を、10%〜30%程度にできる。また、内側ラインD上、第1中間ラインC上及び第2中間ラインB上におけるバインダー樹脂12の割合を、0%〜10%程度にできる。なおバインダー樹脂12の割合は、一つの試料で判断せず、ランダムに選択した複数(後述の実施例では5つ)の試料の平均値で求めることが誤差を小さくでき好適である。
【0038】
また内側ラインD上における空隙の割合は、表面近似ラインA上における空隙の割合よりも大きくなっている。また、前記空隙の割合は、内側ラインD上のほうが、表面近似ラインA上、第1中間ラインC上及び第2中間ラインB上のいずれに対しても大きいことが好適である。内側ラインD上における空隙の割合を、25%〜60%程度にできる。また表面近似ラインA上における空隙の割合を、5%〜15%程度にできる。なお空隙の割合は、一つの試料で判断せず、ランダムに選択した複数(後述の実施例では5つ)の試料の平均値で求めることが誤差を小さくでき好適である。
【0039】
また本実施形態では、内側ラインD上におけるバインダー樹脂12及び空隙の合計割合は、表面近似ラインA上におけるバインダー樹脂12及び前記空隙の合計割合よりも大きいことが好ましい。
【0040】
図2に示すようにバインダー樹脂12は、表面近似ラインA上の軟磁性粒子11が存在しない領域を埋めて表皮層15を構成している。バインダー樹脂12は、各軟磁性粒子11の表面を取り囲むとともに、各軟磁性粒子11間に介在して多数の軟磁性粒子11を保持(支持)している。バインダー樹脂12は、粒径の小さい軟磁性粒子11が集まる最表面側では、軟磁性粒子11間を埋めるとともに軟磁性粒子11の表面を被覆することで連続的な表皮層15が形成される。ただし表皮層15は連続的でなく軟磁性粒子11の露出する部分があってもよい。
【0041】
また粒径の大きい軟磁性粒子11が集まる内部側では、軟磁性粒子11間はバインダー樹脂12を介在して保持されているものの、軟磁性粒子11間の周囲に広がる空間全体がバインダー樹脂12によって埋められておらず、比較的大きな空隙(空間)が形成された状態になっている。
【0042】
図3は、圧粉磁心(コア)の斜視図、図4は、コイル封入圧粉磁心の平面図である。
図3に示す圧粉磁心1は、図1に示す多数の複合磁性粉末10を圧縮成形し、熱処理して得られる。
【0043】
図4に示すコイル封入圧粉磁心2は、圧粉磁心3と、前記圧粉磁心3に覆われるコイル4とを有して構成される。圧粉磁心3の内部構成は図3と同様である。
【0044】
材質について説明する。
本実施形態における軟磁性粒子11は、例えば、水アトマイズ法を用いて作製した非晶質軟磁性粒子である。前記非晶質軟磁性粒子(Fe基金属ガラス合金粒子)は、例えば、組成式が、Fe100-a-b-c-x-y-z-tNiaSnbCrcxyzSitで示され、0at%≦a≦10at%、0at%≦b≦3at%、0at%≦c≦6at%、6.8at%≦x≦10.8at%、2.0at%≦y≦9.8at%、0at%≦z≦8.0at%、0at%≦t≦5.0at%である。
【0045】
バインダー樹脂12は、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等である。特にバインダー樹脂には耐熱性樹脂としてのシリコーン樹脂を用いることが好適である。
【0046】
バインダー樹脂12は、複合磁性粉末10(軟磁性粒子11、バインダー樹脂12及び潤滑剤)の全質量に対して0.5〜5.0質量%程度、添加される。
【0047】
本実施形態の複合磁性粉末10における、軟磁性粒子11の小粒径比率p1は、表面近似ラインA上のほうが、内側ラインD上、第1中間ラインC上、第2中間ラインB上よりも大きくなっている。本実施形態では、表面近似ラインA上での小粒径比率p1を、内側ラインD上、第1中間ラインC上、第2中間ラインB上での小粒径比率p1よりも20%以上大きくできる。このように、小粒径の軟磁性粒子11が複合磁性粉末10の表面側に凝集するとともに、後述するようにバインダー樹脂12により表皮層15を形成することで、圧粉磁心を得るため複合磁性粉末10を圧縮成形したときに各複合磁性粉末10の表面間の接触抵抗を高くできると考えられる。また、複合磁性粉末10の内部に空隙が形成されやすく、前記圧縮成形によっても空隙がある程度の大きさを保って残りやすい。このため、電気抵抗率の高い圧粉磁心1,2を得ることが可能になる。これにより、鉄損の低減等を図ることができる。
【0048】
上記したように、表面近似ラインA上での軟磁性粒子11の小粒径比率p1は、各中間ラインB,C上及び内側ラインD上よりも大きくなっている。すなわち、表面近似ラインAに沿って小粒径の軟磁性粒子11が効果的に凝集しており、表面よりも内側に大きな粒径の軟磁性粒子11が凝集した複合磁性粉末10を得ることができる。特に本実施形態では、表面近似ラインA上の軟磁性粒子11の小粒径比率p1を最も大きくすることができる。これにより、効果的に、表面側により小粒径の軟磁性粒子の凝集を図ることができるとともに中央付近に粒径の大きな軟磁性粒子の凝集を図ることができ、内部に適度な空隙を備えた複合磁性粉末にできる。したがって、より効果的に圧粉磁心の高電気抵抗率化を図ることが可能になる。
【0049】
また、バインダー樹脂12の割合は、表面近似ラインA上のほうが、内側ラインD上より大きいことが好ましい。また空隙の割合は、内側ラインD上のほうが、表面近似ラインA上よりも大きいことが好ましい。このようにバインダー樹脂12が表面側で小粒径の軟磁性粒子11間を埋めて表皮層15を形成するとともに、内部では大きな空隙が形成されることで、複合磁性粉末10を圧縮成形したときの各複合磁性粉末10間での絶縁を保ちやすく(接触抵抗を高くでき)、高抵抗の圧粉磁心を得ることができる。
【0050】
また、内側ラインD上におけるバインダー樹脂12及び空隙の合計割合は、表面近似ラインA上におけるバインダー樹脂12及び空隙の合計割合よりも大きいことが好ましい。すなわち内側ラインD上における粒子不存在率p2が、表面近似ラインA上における粒子不存在率p2よりも大きくなっている。表面近似ラインA上では空隙の割合は小さいもののバインダー樹脂12による表皮層15が形成されて小粒径の軟磁性粒子11間が適切に絶縁された状態にあり、一方、内側ラインD上ではバインダー樹脂12の割合が小さいものの非常に空隙の割合が大きくなっているため粒径の大きい軟磁性粒子11間が適切に絶縁された状態にある。これにより、多数の複合磁性粉末10を圧縮成形してなる圧粉磁心の絶縁抵抗を適切に高い状態に保つことができる。
【0051】
本実施形態では複合磁性粉末10の平均粒径を80μm〜110μmの範囲内で形成することができる。
【0052】
ここで複合磁性粉末の平均粒径は、複合磁性粉末を63μm未満、63μm〜100μm、100μm〜150μm、150μm〜212μm、212μmより大の各ふるいにより分級し、各粉末の重量を計測し、その割合を算出して粒径の小さいものから累積し、累積曲線から50%の粒径を求めた。
【0053】
また本実施形態では、複合磁性粉末10を略球形状で形成できるが球形状に限定するものでない。図5は本実施形態における複合磁性粉末10のSEM写真(走査型電子顕微鏡)である。図5には複数の複合磁性粉末10が写っている。
【0054】
図5に示すように複合磁性粉末10は略球状であったり、あるいは楕円体等である。楕円体であれば、図1に示す断面形状は楕円形状である。または複合磁性粉末10は球状や楕円体以外の形状の場合もある。ただし複合磁性粉末10は、図1に示す断面形状が略円形状あるいは略楕円形状であることが好適である。このとき、複合磁性粉末10のアスペクト比は、1〜1.5となることが好適である。アスペクト比とは、図1に示す中心Oを通る長径dと短径eとの比(d/e)で示される。
【0055】
本実施形態における複合磁性粉末10及び圧粉磁心の製造方法について説明する。
まず水アトマイズ法等で作製された軟磁性粉末11と、バインダー樹脂12と、潤滑剤とカップリング剤とを溶媒中で攪拌、混合して泥状のスラリーとする。ここで溶媒としては水を用いる。
【0056】
ここで潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム等を用いることが出来る。またカップリング剤には、シランカップリング剤等を用いることができる。
【0057】
上記のスラリー19を図6(模式図)に示すスプレードライヤー装置20に入れ、所定条件(後記の実施例で示す)下にて、軟磁性粉末11とバインダー樹脂12とを有して成る粒状の複合磁性粉末(造粒粉)10を生成する。
【0058】
スプレードライヤーとは、軟磁性粉末とバインダー樹脂との混合スラリーを任意の方向から噴きつけて乾燥させる噴霧乾燥法を指す。なおスプレードライヤー装置20については図6を用いて後で詳述するが、必ずしも図6のように装置上部からの噴きつけでなくてもよい。噴きつけ方向を、装置上部以外に装置側部や装置下部から等の任意の方向とすることができる。
【0059】
続いて、前記混合磁性粉末10を成形型内に充填して、圧粉磁心の形状に圧縮成形する。このときのプレス圧は、図3の圧粉磁心1と、図4のコイル封入圧粉磁心2とで異なる。図3の圧粉磁心1では、6〜20t/cm2程度であり、図4のコイル封入圧粉磁心2では、6〜7t/cm2程度である。
【0060】
そして、圧粉磁心に対して熱処理を施す。熱処理温度は軟磁性粒子11の結晶化温度よりも低い。この熱処理は軟磁性粒子11の歪みをとり良好な磁気特性を得るためのもので焼結させているわけでない。なお、この熱処理により潤滑剤やカップリング剤はほとんど気化して消失し、バインダー樹脂12と一体化していると考えられる。バインダー樹脂12も一部が気化して消失する。
【0061】
また本実施形態の複合磁性粉末10を圧縮成形して圧粉磁心を形成しても、圧粉磁心の断面形状を見れば、本実施形態の複合磁性粉末10を用いて成形されたものと推測することが可能である。
【0062】
図7(a)、(b)は、軟磁性粒子の粒度分布の一例を示している。図7(a)の粒度分布は、個数分布によるものであり、図7(b)の粒度分布は体積分布によるものである。
【0063】
本実施形態では、図7に示す粒度分布を有する軟磁性粒子に対して、粒度調整をせずに、複合磁性粉末10を製造することができるし、あるいは、図7に示す粒度分布を有する軟磁性粒子に対し、大粒径粒子をカットした粒度調整を施して、複合磁性粉末10を製造することもできる。ここで「大粒径」とは、粒度調整を施す前の軟磁性粒子における体積分布の粒度分布において、累積値50%(D50)の粒径の1.5倍以上の粒径を指す。
【0064】
大粒径粒子をカットする粒度調整が施された軟磁性粒子を用いて製造された圧粉磁心と、特に粒度調整を施さなかった軟磁性粒子を用いて製造された圧粉磁心とでは、コア密度をほぼ同じとしたとき、前者の圧粉磁心のほうが後者に比べて高い電気抵抗率が得られることが後述する実験によりわかった。大粒径粒子をカットする粒度調整を行うことで、複合磁性粉末を生成する際にこのような大粒径粒子に阻害されること無く、複合磁性粉末の表面から中心への粒子配列が整然としたものになる。そのため、複合磁性粉末の表面へ小粒径粒子とバインダー樹脂がより凝集しやすくなり、複合磁性粉末表面に露出する軟磁性粒子の面積が小さくなり、圧粉磁心を形成した際の複合磁性粉末同士の接触抵抗を高くでき、従って、高い電気抵抗率が得られる。
【実施例】
【0065】
(実施例−1における軟磁性粒子の小粒径比率p1の測定)
水アトマイズ法を用いてFe71.4at%Cr2at%Ni6at%10.8at%7.8at%2at%なる組成を有する非晶質軟磁性粒子を作製した。
【0066】
このときの軟磁性粒子の粒度分布は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置 MT3300EXを用いて個数分布および体積分布で測定した。その結果が図7(a)(b)に示されている。以下の表1、表2に実施例−1および後述する実施例2で使用した軟磁性粒子の粒度を示す。なお、後述する比較例は実施例−1の粒度と同じものである。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
そして、前記軟磁性粒子、アクリル樹脂(バインダー樹脂)、ステアリン酸亜鉛、及びシランカップリング剤を溶媒(水)中にて混合して泥状のスラリーとした。スラリーは固形成分(水以外である)を80wt%、残りを水(溶媒)とした。アクリル樹脂の配合量は前記固形成分に対して2.0wt%、ステアリン酸亜鉛は固形成分に対して0.3wt%、カップリング剤は軟磁性粒子に対して0.5wt%とした。
【0070】
次に、スラリーを図6(模式図)に示すスプレードライヤー装置20に入れた。
スプレードライヤーについて説明する。スプレードライヤー装置20内には回転子21が設けられ、装置上部からスラリー19を回転子21に向けて注入する。回転子21は所定の回転数により回転しており、装置内部でスラリー19を遠心力により噴霧する。さらに装置内部に熱風を導入し、これによりスラリー19の溶剤を瞬時に乾燥させる。そして、装置下部から粒状になった混合磁性粉末(造粒粉)10を回収する。
【0071】
本実施例では、回転子21の回転数を4000〜6000rpmの範囲内で調整した。また装置内に導入する熱風温度を130〜170℃の範囲とし、チャンバー下部の温度を80〜90℃の範囲内に制御した。またチャンバー内の圧力を2mmH2O(約0.02kPa)とした。またチャンバー内をエアー(空気)雰囲気とした。
【0072】
上記により得られた複合磁性粉末は粗大粉末を除去するために目開き212μmのふるいを通し、ふるいを通した後の複合磁性粉末の平均粒径は80μm〜110μmの範囲内であった。
【0073】
図8(a)は、本実施例の複合磁性粉末を、FIB(フォーカスイオンビーム)により切断した断面のSEM写真である。
【0074】
FIBによる切断では、電界によりGaから引き出したGaイオンを細く絞り試料上を走査することにより、特定箇所を切断できる。
【0075】
図8に示すように複合磁性粉末の断面形状は略円形であり、このSEM写真上に、表面近似ラインA、及び中心から表面近似ラインAに向けて1/4、1/2、及び3/4の距離にある前記表面近似ラインAと相似形状の内側ラインD及び中間ラインC、Bを夫々描画した。表面近似ラインAよりも最表面側に外れる軟磁性粒子の数をαとし、表面近似ラインA上を縦断する軟磁性粒子の数をβとしたとき、β/(α+β)が90%以上となっていることを確認した。
【0076】
各ラインの描画について図8(b)〜図8(e)を用いて説明する。
まず図8(b)に示すように、断面周形状にほぼ沿うようにして表面近似ラインAを描画する。このとき、表面近似ラインAを断面の最表面(バインダー樹脂の部分)よりも少し内側の軟磁性粒子の位置に描画する。
【0077】
次に図8(c)では、断面の中心を求める。中心の測定は目測で行った。
次に図8(d)では、中心から表面近似ラインAまで通じる直線を描き、さらに前記直線を四等分する。
【0078】
次に図8(e)では、表面近似ラインAと相似状のラインB〜Dを図8(d)にて四分割した各位置に描画する。
【0079】
続いて、各ラインA〜D上を縦断する軟磁性粒子の粒径分布を調べた。測定は目視で行った。軟磁性粒子の断面が円形である場合は直径が粒径であり、円形以外の場合は画像解析ソフトを用いて軟磁性粒子の断面積を算出し、その面積に相当する円の直径を粒径とした。なおここでいう粒径とは、図8(a)に現れる切断面での粒径であり、粒径の算出を各軟磁性粒子の外周にて行わない。そして本実施例では、5種類の複合磁性粉末について各ラインA〜D上における軟磁性粒子の粒径分布を調べた。
【0080】
図9は、5種類の試料の各実験結果を平均した、本実施例の複合磁性粉末の表面近似ラインA上、中間ラインB,C上及び内側ラインD上における軟磁性粒子の粒径比率(存在割合)を示すグラフである。本実施例では、3μm以下を「小粒径」とした。
【0081】
図9に示すように、粒径が3μm以下の小粒径比率p1は、内側ラインD、第1中間ラインC、第2中間ラインB及び表面近似ラインAの順に大きくなることがわかった。図9に示すように、表面近似ラインA上での小粒径比率p1は、50%を越え、内側ラインD、第1中間ラインC、及び第2中間ラインB上での小粒径比率p1に比べて20%〜30%以上、大きくできることがわかった。
【0082】
また図9に示すように、表面近似ラインA上では3μmよりも粒径が大きくなると粒径比率は徐々に低下しており、一方、中間ラインB,C及び内側ラインDでの粒径比率は3μm〜15μm程度で最も大きくなっており、表面近似ラインAと、中間ラインB,C及び内側ラインDとでは粒度分布の傾向が異なることがわかった。
【0083】
なお個々の実験結果においても、小粒径比率p1は、表面近似ラインAが一番大きくなったが、誤差を小さくするためランダムに選択した複数の試料を平均化して小粒径比率p1を求めることが好ましい。
【0084】
(実施例−2における軟磁性粒子の小粒径比率p1の測定)
実施例−2には、上記した実施例−1と同じ非晶質軟磁性粒子を用いた。
【0085】
また、実施例−2における軟磁性粒子の粒度分布は実施例−1と同様に日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EXを用いて個数分布および体積分布で測定した。
【0086】
図10は実施例−2の粒度分布を示している。図10(a)の粒度分布は個数分布によるものであり、図10(b)の粒度分布は体積分布によるものである。
【0087】
ここで実施例−1と実施例−2の違いは、軟磁性粒子に対する粒度調整の有無にある。すなわち、実施例−1では、図6に示すスプレードライヤー装置により、混合磁性粉末(造粒粉)10を製造する際、軟磁性粒子に対して特に粒度調整を施していないが、実施例−2では、実施例−1の軟磁性粒子に対して、大粒径粒子をカットした粒度調整を施し、前記粒度調整が施された軟磁性粉末を用いて、混合磁性粉末(造粒粉)10を製造した。粒度調整は、日清エンジニアリング(株)製の精密空気分級機TC−15NSを用いて、空気分級法にて行った。空気分級法では遠心力と空気の抗力を利用し、粒径の大きい粒子と小さい粒子とを分級することができる。ここで表2に示す実施例−1のD50である10.57μmの1.5倍以上である16μm以上の粒径を大粒径とし、空気分級法によって16μm以上の軟磁性粒子をカットし、16μmよりも小さい粒径の軟磁性粒子を実施例−2とした。ただし、空気分級法では遠心力と空気の抗力による分級であるため、大粒径粒子のカットとは完全に16μm以上の粒径の軟磁性粒子が除去できるものではない。従って、大粒径粒子のカットとは、完全に16μm以上の粒径の軟磁性粒子が除去された状態を必ずしも意味するものではなく、16μm以上の粒径の軟磁性粒子が多少含まれていても良い。
【0088】
これにより、図7図10および表1、表2に示されるように、実施例−2における大粒径粒子をカットした軟磁性粒子の粒度分布は、実施例−1における粒度調整を施していない軟磁性粒子の粒度分布と異なるものとなる。
【0089】
そして、大粒径粒子をカットした軟磁性粒子を用いて、実施例−1と同様の手法により、混合磁性粉末(造粒粉)を形成した。
【0090】
図11は、実施例−2における複合磁性粉末の断面のSEM写真である。図11に対し、図8に示す実施例−1と同様に、表面近似ラインA、中間ラインB、C及び、内側ラインDを夫々、描画した。そして、各ライン上における軟磁性粒子の粒径比率(存在割合)を求めた。その実験結果が図12に示されている。なお、3μm以下が「小粒径」である。図12の実験結果は、5種類の試料の平均である。
【0091】
図12に示すように、粒径が3μm以下の小粒径比率p1は、内側ラインD、第1中間ラインC、第2中間ラインB及び表面近似ラインAの順に大きくなることがわかった。また、図12に示すように、表面近似ラインA上での小粒径比率p1は、内側ラインD、第1中間ラインC、及び第2中間ラインB上での小粒径比率p1に比べて20%以上、大きくできることがわかった。
【0092】
図12に示すように、実施例−2では、各ラインA〜Dにおいて、粒径が27μm以上の存在割合がほぼ0%となっていることがわかった。
【0093】
(実施例−1及び実施例−2における複合磁性粉末の表面の状態について)
図13(a)は、実施例−1における複合磁性粉末の表面でのSEM写真であり、図13(b)は、実施例−2における複合磁性粉末の表面でのSEM写真である。
【0094】
大粒径粒子をカットする粒度調整を施した実施例−2では、粒度調整を施していない実施例−1に比べて、表面の凹凸が小さくなることがわかった。また実施例−2のほうが、実施例−1に比べて、表面に露出する軟磁性粒子の面積が小さくなった。すなわち図13(a)に示す実施例−1では、バインダー樹脂からなる表皮層が一部欠落して、軟磁性粒子が表面に露出する箇所が見られたが、図13(b)に示す実施例−2では、バインダー樹脂からなる表皮層が全体に形成され、軟磁性粒子の表面への露出を効果的に抑えることができた。
【0095】
(比較例における軟磁性粒子の小粒径比率p1の測定)
比較例の実験では上記実施例−1と同じ軟磁性粒子を使用した。よって粒度分布は図7と同じである。比較例では、軟磁性粒子(97.2wt%)及びアクリル樹脂(バインダー樹脂)(2wt%)、カップリング剤(0.5wt%)、潤滑剤(ステアリング酸亜鉛)(0.3wt%)を有する原料を容器に秤量した。続いて、前記原料を遊星式攪拌・脱泡装置(倉敷紡績製 マゼルスター)にて混合し、次に溶媒を飛ばし、乾燥、固化した。さらに、固化した原料をスクリーン式中砕機(ホソカワミクロン製 フェザミル)により粉砕し、さらに目開き300μmのふるいで分級して複合磁性粉末を得た。
【0096】
図14は、比較例の複合磁性粉末をFIB(フォーカスイオンビーム)により切断した断面のSEM写真である。図14に示すように複合磁性粉末の断面形状は円形や楕円形と違う異形状となっている。かかる場合でも表面近似ラインAよりも最表面側に外れる軟磁性粒子の数をαとし、表面近似ラインAと重なる軟磁性粒子の数をβとしたとき、β/(α+β)が90%以上となるように表面近似ラインAを特定した。また図14に示すように、表面近似ラインAを断面周形状にほぼ沿うとともに、できる限り緩やかな線で描画した。また図14に示すように、中心から表面近似ラインAに向けて1/4、1/2及び3/4の距離に夫々、表面近似ラインAと相似状のラインB〜Dを引いた。
【0097】
続いて、各ラインA〜D上を縦断する軟磁性粒子の粒径分布を調べた。測定は目視で行った。軟磁性粒子の断面が略円形である場合は直径が粒径であり、円形以外の場合は画像解析ソフトを用いて軟磁性粒子の断面積を算出し、その面積に相当する円の直径を粒径とした。なお、ここで言う粒径とは図14に現れる切断面での粒径であり、粒径の算出を各軟磁性粒子の外周にて行っていない。その実験結果が図15に示されている。図15の実験結果は、5種類の試料の平均である。
【0098】
図15に示すように、3μm以下の小粒径比率p1は、中心から1/2の距離にある第1中間ラインC上で最も大きくなった。また図15に示すように表面近似ラインA上では6〜9μmの粒径比率が最も大きくなっており、小粒径の軟磁性粒子が表面近似ラインA上に凝集している本実施例と異なるものであった。図14のSEM写真を見てもわかるように、軟磁性粒子の粒径は中心から表面に向けてばらついており(規則性がない)、図8の実施例のように、複合磁性粉末の中心付近に大きい軟磁性粒子が凝集し、表面側に粒径の小さい軟磁性粒子が凝集する形態とはなっていないことがわかった。
【0099】
(実施例における樹脂の割合及び空隙の割合の測定)
次に実施例の複合磁性粉末を用い、各ラインA〜D上における樹脂の割合、及び空隙の割合を調べた。なお実施例には、実施例−1を用いた。
【0100】
図16(a)は、実験で使用した複合磁性粉末の断面の部分拡大SEM写真である。図16(b)は図16(a)の模式図である。図16(a)にはラインA〜Cの一部が見えている。図16(a)に示す各ラインA〜C、及び内側ラインDの全長、各ラインA〜D上に位置する軟磁性粒子、バインダー樹脂及び空隙の長さを夫々、画像解析ソフトで測定した。そして各ラインA〜Dの全長に対するバインダー樹脂の合計長さ、及び空隙の合計長さを割って、各ラインA〜Dのバインダー樹脂の割合及び空隙の割合を求めた。
【0101】
ここで図16(a)(b)に示すaは、空隙の幅、bは、樹脂層の幅、cは、軟磁性粒子の幅を指す。各領域の幅を線と矢印で示した。
【0102】
なお以下に示すバインダー樹脂の割合及び空隙の割合は、5種類の試料の平均である。
図17(a)は、実施例における各ラインA〜D上でのバインダー樹脂の割合を示す実験結果であり、図17(b)は、実施例における各ラインA〜D上での空隙の割合を示す実験結果である。また図17(c)は、実施例における各ラインA〜D上でのバインダー樹脂及び空隙の合計割合を示す実験結果である。
【0103】
図17(a)に示すように、バインダー樹脂の割合は、表面近似ラインAが最も大きくなることがわかった。また内側ラインD、第1中間ラインC及び第2中間ラインBでのバインダー樹脂の割合は非常に小さくなることがわかった。このようにバインダー樹脂は複合磁性粉末の表面側に凝集しやすいことがわかった。一方、図17(b)に示すように、空隙の割合は、内側ラインDが最も大きくなることがわかった。特に内側ラインDでの空隙の割合は、表面近似ラインAに比べてかなり大きくなることがわかった。また第1中間ラインC及び第2中間ラインBでも空隙の割合は、内側ラインDに及ばないものの比較的大きくなった。このように複合磁性粉末の内側に空隙が形成されやすいことがわかった。
【0104】
また図17(c)に示すように、バインダー樹脂と空隙との合計割合は、内側ラインDで最も大きくなることがわかった。また、表面近似ラインA、第1中間ラインC及び第2中間ラインBでの各合計割合は、ほぼ同じ値となった。図17(c)は、図17(a)と図17(b)との各実験結果を足したものである。よって内側ラインDでは、バインダー樹脂の割合が表面近似ラインAよりも小さくなるが、空隙の割合が表面近似ラインAに比較してかなり大きいために、上記した合計割合が内側ラインDで最も大きくなった。
【0105】
(比較例における樹脂の割合及び空隙の割合の測定)
次に比較例の複合磁性粉末を用い、各ラインA〜D上における樹脂の割合、及び空隙の割合を調べた。樹脂の割合、及び空隙の割合の測定は、上記実施例での測定と同じである。
【0106】
なお以下に示すバインダー樹脂の割合及び空隙の割合は、5種類の試料の平均である。
図18(a)は、比較例における各ラインA〜D上でのバインダー樹脂の割合を示す実験結果であり、図18(b)は、比較例における各ラインA〜D上での空隙の割合を示す実験結果である。
【0107】
図18(a)に示すように、バインダー樹脂の割合は、各ラインA〜D上でほぼ同じとなった。このように比較例では実施例のように、バインダー樹脂の割合が表面近似ラインAで最も大きくなる結果にならなかった。また図18(b)に示すように、空隙の割合は、各ラインA〜D上でほぼ同じとなった。このように比較例では実施例のように、空隙の割合が内側ラインDで最も大きくなる結果にならなかった。
【0108】
(実施例−1、実施例−2及び比較例における電気抵抗率の測定)
スプレードライヤー装置を用いて製造された本実施例の複合磁性粉末を金型に充填し、面圧198〜588MPa(1〜6t/cm2)で加圧成形して外径12mm、内径6mm、厚さ3mmの圧粉磁心を作製した。得られた圧粉磁心を窒素気流雰囲気中、372℃で17分間、熱処理を行った。その後、シリコーン溶液(13.5wt%)に含浸させて、70℃、30分間乾燥させた後、285℃で1分間加熱してコーティング処理を施した。
【0109】
得られた圧粉磁心の電気抵抗率は、スーパーメガオームメーター(DKK−TOA製SM−8213)を用いて電気抵抗を測定し、コアの外径、内径、厚さにより算出した。また、コア密度をコアの外径、内径、厚さ、重量により算出した。
【0110】
続いて、攪拌・脱泡混合−粉砕による比較例の複合磁性粉末から圧粉磁心を作製した。製造条件は上記実施例と同じとした。
【0111】
図19には、実施例−1、実施例−2および比較例におけるコア密度と電気抵抗率との関係が示されている。
【0112】
図19に示すように、実施例−1及び実施例−2ともにコア密度を小さくすることで、電気抵抗率が大きくなることがわかった。コア密度が小さくなれば、それだけコア内部に空隙が多くなり、電気抵抗率が大きくなる。
【0113】
図19に示すように、同じコア密度で評価すると、実施例−2のほうが、実施例−1よりも電気抵抗率が大きくなった。大粒径粒子をカットした実施例−2では、電流パスを形成するのに、実施例−1に比べて、より多くの粒子間での接触が必要となる。また図13を用いて説明したように、実施例−2のほうが、実施例−1に比べて、複合磁性粉末の表面に露出する粉末面積を小さくできる。以上により、実施例−2のほうが実施例−1に比べて電気抵抗率を高くできる。
【0114】
一方、実施例と比較例との電気抵抗率を比較すると、図19によると本実施例は比較例に対し同じコア密度であれば数倍〜十倍程度の高い絶縁抵抗を得ることができた。このように実施例において高い電気抵抗率を得ることができるのは、複合磁性粉末の小粒径比率p1が内側よりも表面側で大きくなっているためであると推測される。これにより、比較例と異なって、実施例では、各複合磁性粉末間の接触抵抗が高くなり、また複合磁性粉末の内部に適度な空隙が形成され、複合磁性粉末を圧縮成形したときに前記空隙を残すことができ、このため、圧粉磁心の高電気抵抗率化を図ることができるものと考えられる。
【0115】
また、本実施例では、バインダー樹脂の割合を表面近似ラインA上のほうが内側ラインD上よりも大きくでき、また空隙の割合を内側ラインD上のほうが表面近似ラインA上よりも大きくできたが、これにより複合磁性粉末を圧縮成形したときの各複合磁性粉末間での高絶縁を保ちやすく(接触抵抗を高くでき)、電気抵抗率の高い圧粉磁心を得ることができるものと考えられる。
【0116】
図20は、本実施例の複合磁性粉末を圧縮成形した圧粉磁心の断面のSEM写真である。
【0117】
図20に示すように圧縮成形しても各複合磁性粉末を構成する小粒径の軟磁性粒子が占める表面付近がかすかに残るため(図20に各複合磁性粉末間の境界線を示す)、圧粉磁心を本実施例の複合磁性粉末を用いて製造したことを推測することが可能であるとわかった。
【符号の説明】
【0118】
A 表面近似ライン
B 第2中間ライン
C 第1中間ライン
D 内側ライン
O 中心
1、3 圧粉磁心
2 コイル封入圧粉磁心
10 複合磁性粉末
10a 最表面
11 軟磁性粒子
12 バインダー樹脂
13 空隙
15 表皮層
19 スラリー
20 スプレードライヤー装置
21 回転子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8(a)】
図8(b)】
図8(c)】
図8(d)】
図8(e)】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16(a)】
図16(b)】
図17
図18
図19
図20