【実施例】
【0122】
実施例1〜6の材料および方法
グレイハウンドからの血液および鼻腔スワブの採取
呼吸器疾患の大流行が発生しているレース用犬舎の臨床的に疾患または正常なグレイハウンドから、頚静脈穿刺により急性期および回復期の血液試料を採取した。回復期試料は急性試料の4〜12週後に採取した。血清を回収し、-80℃で保存した。鼻腔スワブを採取して、細菌分離のための提出まで活性炭を加えたAmies輸送培地(Becton Dickinson Biosciences)中に置いた。
【0123】
グレイハウンドの死亡後検査
2004年1月のフロリダトラックでの大流行において死亡した8頭中5頭のグレイハウンドについて、University of Florida College of Veterinary Medicine(UF CVM)のAnatomic Pathology Serviceにて徹底した死亡後検査を実施した。もう1頭のイヌの死亡後検査は個人の動物病院で実施されて、組織を病理組織学的診断のためにUF CVMに提出した。組織は10%中性緩衝ホルマリン中で固定して、パラフィンに包埋し、5μmの切片を病理組織学的診断のためのヘマトキシリン・エオジンで染色するか、または以下に記載する通り免疫組織化学的検査に備えて加工した。未固定の組織は細菌培養に提出して、同じく-80℃で保存した。
【0124】
イヌウイルス性呼吸器病原体に関する血清学的検査
急性期および回復期の対の血清試料は、イヌジステンパーウイルス、2型アデノウイルスおよびパラインフルエンザウイルスに対する血清中和試験のため、Cornell University College of Veterinary MedicineのAnimal Health Diagnostic Laboratory(AHDL)に送付した。抗体価は、細胞培養物のウイルス感染を阻害する血清の最終希釈として表される。急性期および回復期試料間の抗体価の≧4倍の増加として定義される血清変換はウイルス感染を示した。これらのウイルス性病原体に対する血清変換は検出されなかった。
【0125】
イヌ細菌性呼吸器病原体に関する微生物検査
対の鼻腔スワブおよび死亡後組織は、細菌の分離および同定のためにUF CVMのDiagnostic Clinical Microbiology/Parasitology/Serology Serviceに送付した。試料は、非選択培地ならびにボルデテラ属(Regan-Lowe; Remel)およびマイコプラズマ属(Remel)の選択培地で培養した。すべての培養物は、増殖なしと報告する前に21日間維持した。数頭のグレイハウンドから得られた鼻腔スワブは、細菌培養のためにKansas State University College of Veterinary MedicineのDepartment of Diagnostic Medicine/Pathobiologyにも送付した。臨床的に疾患が認められて試験が行われた70頭のイヌの内、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)が1頭のイヌの鼻腔から分離されて、マイコプラズマ属は33頭のイヌの鼻腔から回収された。パスツレラ・ムルトシダは、膿性鼻分泌物の見られるイヌの鼻腔から広く回収された。2004年1月の大流行で死亡したイヌの内の2頭では死亡後に肺に若干の大腸菌の増殖が認められ、1頭では大腸菌およびストレプトコッカス・カニス(Streptococcus canis)の若干の増殖が見られ、またもう1頭では緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)および酵母の若干の増殖が認められた。死亡したイヌの気管または肺からは、気管支敗血症菌およびマイコプラズマは分離されなかった。
【0126】
死亡後組織からのウイルスの分離
凍結組織を融解して、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および抗生物質を強化した10倍量の最小必須培地(MEM)を加えてホモジナイズした。遠心分離により固体の細片を除去して、上清を培養細胞または10日齢の孵化鶏卵に接種した。死亡したグレイハウンド由来の組織ホモジネートを、広範囲のウイルス性病原体の複製を支持する種々の細胞培養物に接種した。細胞培養物には、Vero(アフリカミドリザル腎上皮細胞、ATCC No. CCL-81)、A-72(イヌ腫瘍線維芽細胞、CRL-1542)、HRT-18(ヒト直腸上皮細胞、CRL-11663)、MDCK(イヌ腎上皮細胞、CCL-34)、イヌ一次腎上皮細胞(AHDL, Cornell University)、イヌ一次肺上皮細胞(AHDL)、およびウシ一次精巣細胞(AHDL)が含まれた。MDCKおよびHRT細胞は2.5μg/mL TPCK処理トリプシン(Sigma)を強化したMEMで培養し、残りの細胞株は10%ウシ胎児血清および抗生物質を強化したMEMで培養した。細胞は、25cm
2のフラスコを用いて5%CO
2含有加湿大気中、37℃で培養した。対照培養には強化MEMを接種した。培養物は形態学的変化を1日1回観察して、接種後5日に回収した。回収した液体および細胞は遠心分離により清澄化して、最初の接種において記載した通り、新鮮な細胞に接種し;2回の盲目継代を行った。清澄化した上清の血球凝集活性は、記載される通り(Burlesonら、1992年;Kendalら、1982年)、ニワトリまたはシチメンチョウの赤血球を用いて測定した。鶏胚を用いたウイルス分離では、組織ホモジネートの0.1mLを尿膜嚢に接種して、35℃にて48時間、インキュベートした。2回の盲目継代後、尿膜腔液の血球凝集活性を、記載される通り(Burlesonら、1992年;Kendalら、1982年)、測定した。
【0127】
RT-PCR、ヌクレオチドシーケンシング、および系統学的解析
製造業者の説明書に従ってRNeasyキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて、組織培養上清または尿膜腔液から全RNAを抽出した。全RNA(10ng)は、一段階RT-PCRキット(Qiagen, Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って使用して、cDNAに逆転写した。cDNA内の8つのインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域のPCR増幅は、汎用遺伝子特異的プライマーセットを用いて既報(Klimovら、1992a)の通り実施した。得られたDNA単位複製配列は、サイクルシーケンシングダイターミネーターケミストリー(ABI)を用いたApplied Biosystems 3100自動DNAシーケンサーでの自動シーケンシングのための鋳型として用いられた。ヌクレオチド配列は、GCG Package(著作権)、バージョン10.0(Accelyrs)(Womble, 2000)を用いて解析した。ヌクレオチド配列からの系統発生の推定およびブーツストラップの算出にはPhylogeny Inference Package(著作権)バージョン3.5を用いた(Felsenstein、1989年)。系統樹は、MEGA(著作権)プログラム(Kumarら、2004年)において実行されたTamura-Neiガンマモデルを用いて近隣結合法により得られた系統樹と比較して、PAUP(著作権)4.0ベータプログラム(Sinauer Associates)により確認した。
【0128】
イヌの実験的接種
6カ月齢の4頭の特定病原体除去ビーグル犬[(雌雄各2頭(Liberty Research)]を使用した。理学的検査、ならびに詳細な血球計測/型別計測を含むベースラインの血液検査、血清化学的検査パネル、および尿検査より、動物が健常であることが明らかとなった。動物は、実験動物管理認定協会より認定されたBSL 2-強化施設内で群飼いした。ベースラインの直腸温度は1日2回、7日間、記録した。イヌは、気管内チューブの挿管に備えて、プロポフォール(ディプリバン(登録商標)、Zeneca Pharmaceuticals、0.4mg/kg体重〜効果)の静脈内注入により麻酔した。各イヌにA/イヌ/フロリダ/43/2004(イヌ/FL/04)(H3N8)ウイルスを10
6.6の半数組織培養物感染用量(TCID
50)の総用量で接種して、半量は気管内チューブを介して気管末端に投与して、残りの半量はカテーテルを介して深部鼻気道に投与した。理学的検査および直腸温の記録は、1日2回、接種後(p.i.)14日間実施した。p.i.0、3、5、7、10および14日に頚静脈穿刺により血液試料(4mL)を採取した。鼻腔および口咽頭の標本は、各イヌからp.i.0〜5、7、10および14日にポリエステルスワブ(Fisher Scientific)を用いて採取した。スワブはウイルス輸送培地(Remel)に回収して、-80℃で保存した。2頭のイヌ(雌雄各1頭)はp.i.5日にBeuthanasia-D(登録商標)液(1mL/5kg体重;Schering-Plough Animal Health Corp)の静脈内接種により安楽死させて、残りの2頭は14日目に死亡後検査のために安楽死させた。組織学的検査のための組織は既述の通り加工した。ウイルス培養用の組織は-80℃で保存した。この試験は、University of Florida Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認された。
【0129】
実験的に接種されたイヌからのウイルス排出
肺ホモジネート、および遠心分離によるスワブ輸送培地の清澄化により調製したスワブ抽出液の段階希釈は、0.5%BSAおよび抗生物質を強化したMEMで調製した。プラークアッセイ法は、6穴組織培養プレート中の単層のMDCK細胞を用いて既報(Burlesonら、1992年)の通り実施した。接種した単層細胞層に0.8%アガロースおよびTPCK-トリプシン 1.5μg/mLを含む強化MEMを重層した。細胞は、固定およびクリスタルバイオレットでの染色前に、5%CO
2を含む加湿大気中で37℃にて72時間、培養した。ウイルス濃度は、組織1グラム当たりまたはスワブ当たりのプラーク形成単位(PFU)として表した。
【0130】
免疫組織化学
グレイハウンドおよびビーグル犬由来の脱パラフィンおよび再水和した5μm肺組織切片をBond-Rite(商標)スライドガラス(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)にセットして、プロテイナーゼK(DakoCytomation, Carpenteria, CA)、ペルオキシダーゼ遮断試薬(Dako(登録商標)En Vision(商標)Peroxidase Kit, Dako Corp.)で順次処理した。切片を、イヌジステンパーウイルス(VMRD, Inc.)、2型イヌアデノウイルス(VMRD, Inc.)、イヌパラインフルエンザウイルス(VMRD, Inc.)、またはインフルエンザA H3(Chemicon International, Inc.)に対するモノクローナル抗体の1:500希釈と共に室温で2時間インキュベートした。対照には、同一の切片とマウスIgG(1mg/mL、Serotec, Inc.)のインキュベート、およびモノクローナル抗体と通常のイヌ肺切片のインキュベートが含まれた。一次抗体で処理した後、切片は製造業者の説明書に従って二次イムノペルオキシダーゼおよびペルオキシダーゼ基質試薬(Dako(登録商標)EnVision(商標)Peroxidase Kit, Dako Corp.)と共にインキュベートした。切片をヘマトキシリンで対比染色して、清澄化剤#2およびBluing試薬(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)で処理して脱水し、Permount(ProSciTech)を用いてカバーガラスをかけた。
【0131】
血球凝集阻害(HI)試験
血清試料は、56℃での60分間の熱失活前に、レセプター破壊酵素(RDE, Denka)(血清1容積:RDE 3容積)と共にインキュベートした。インフルエンザA/イヌ/FL/04(H3N8)ウイルスはMDCK細胞を用いて37℃にて36〜48時間、増殖させた。ウイルス培養の上清を回収して、遠心分離により清澄化して-80℃で保存した。HIアッセイ法は既報(Kendalら、1982年)の通り実施した。つまり、25μl中4血球凝集単位のウイルスをマイクロタイターウェルの段階希釈した等量の血清に加えて、室温で30分間、インキュベートした。等量の0.5% v/vシチメンチョウ赤血球を加えて、30分後に血球凝集力価を目視により求めた。エンドポイントのHI力価は、血球凝集を完全に阻害する血清の最終希釈として定義された。血清変換は、急性期および回復期の対の試料間におけるHI力価の≧4倍の増大として定義された。単一試料の血清陽性は≧1:32のHI抗体価として定義された。
【0132】
マイクロ中和(MN)試験
A/イヌ/FL/04(H3N8)に対する血清抗体反応の中和は、既報のMNアッセイ法(Roweら、1999年)により検出された。但し、イヌ血清はアッセイ前に上記のようにRDE処理した。エンドポイントの力価は、100 TCID
50のウイルスを50%中和する血清の最高希釈として定義された。血清変換は、急性期および回復期の対の試料間におけるMN力価の≧4倍の増大として定義された。単一試料の血清陽性は≧1:80のMN力価として定義された。
【0133】
以下は、本発明を実践するための手順を例示する実施例である。これらの実施例は限定として見なされるべきではない。特記する場合を除いて、すべてのパーセントは重量に基づき、すべての溶媒混合物割合は体積に基づく。
【0134】
実施例1
2004年1月に、フロリダのトラックの2箇所の犬舎およびこれらの犬舎にイヌを供給する地元飼育場で飼育されている22頭のレース用グレイハウンドにおいて、呼吸器疾患の大流行が発生した。各犬舎建物には約60頭、飼育場には約300頭のイヌがいた。大流行は6日間起こって、その後、新しい症例は特定されなかった。22頭中14頭のイヌが39.5〜41.5℃の発熱を示し、10〜14日間にわたって咳をして、最終的に回復した。残りの8頭の内、見かけ上健康であった6頭のイヌは予想に反して死亡して、口および鼻から出血が見られた。その他の2頭のイヌは、急激な悪化のために、口および鼻からの出血発生の24時間以内に安楽死させた。これらの双方のイヌは41℃の熱があった。8頭中4頭の死亡が犬舎施設で発生して、4頭は飼育場で発生した。死亡の50%が大流行の3日目に発生した。22頭のイヌは17カ月齢から4歳であったが、73%は17〜33カ月齢であった。
【0135】
2つの臨床的症候群が認められた:初期の発熱およびその後の10〜14日間の咳、その後の回復を特徴とする比較的軽度の疾病(14頭のイヌ)、または呼吸器の出血を伴う極めて急激な死亡(8頭、死亡率 36%)。致命的な症例の8頭中6頭について、死亡後検査を実施した。すべてのイヌが、肺、縦隔および胸膜腔に過度の出血を示した。呼吸器の組織学的検査の結果、肺出血に加えて、すべてのイヌが気管炎、気管支炎、細気管支炎、および化膿性気管支肺炎を示した(
図3)。これらの組織の上皮裏打ちおよび気道腔に好中球およびマクロファージの浸潤が見られた。これらのイヌから調製した肺ホモジネートをウイルス培養のために、サル、ヒト、ウシおよびイヌの様々な細胞株に接種した。1頭のイヌの肺ホモジネートがトリプシンの存在下で培養したMadin-Darbyイヌ腎上皮細胞(MDCK)において細胞変性作用を引き起こし、細胞培養の上清はニワトリ赤血球を凝集した。A型インフルエンザウイルスの予備的証拠は、インフルエンザAおよびBウイルスの核タンパク質の検出に関する市販のELISA、ならびにインフルエンザAウイルスのマトリックス遺伝子に特的なプライマーを用いたPCR解析により得られた。さらに、血球凝集活性はウマインフルエンザA H3亜型に対する参照抗血清により阻害されたが、ヒトインフルエンザAのH1-H11およびH13亜型に特異的な抗血清では阻害されなかった(表3)。ウイルスの分子特性を解明するため、本発明者らはウイルスゲノムの8つのRNAセグメントのヌクレオチド配列を調べた。公知のインフルエンザウイルス遺伝子との配列の比較および系統学的解析により、イヌ分離物の8つの遺伝子は、現代のウマインフルエンザA(H3N8)ウイルス由来のそれに極めて類似し、≧96〜97%の配列同一性を持つ(
図1A、表4)。これに対して、トリ、ブタおよびヒトのインフルエンザA分離物由来の代表的遺伝子はイヌ分離物と≦94%の同一性を示した(表4)。これらのデータは、イヌ分離物であるA/イヌ/フロリダ/43/2004(イヌ/FL/04)をウマインフルエンザウイルスの現代の系統に密接に関連するインフルエンザA H3N8と同定した。イヌ分離物のすべての遺伝子がウマインフルエンザウイルス由来であったことから、本発明者らはウマインフルエンザウイルスの全ゲノムがイヌに伝播されたと結論づけた。
【0136】
実施例2
グレイハウンドの臨床的および病理学的観察所見におけるイヌ/FL/04ウイルスの役割について検討するため、本発明者らはインフルエンザA H3に対するモノクローナル抗体を用いて肺組織の免疫組織化学的染色(IHC)を実施した。ウイルス性H3抗原は気管支および細気管支の上皮細胞、気管支腺上皮細胞の細胞質に一貫して検出され、またマクロファージは気道腔および肺胞腔に検出された(
図2A)。これらのデータは、多くのイヌにおけるH3亜型のインフルエンザウイルスの肺感染の診断を支持する。
【0137】
実施例3
呼吸器疾患大流行の病因論におけるイヌ/FL/04様ウイルスの関与について調べるため、本発明者らは血球凝集阻害(HI)およびマイクロ中和(MN)により病気のイヌ11頭および無症状の接触犬16頭から採取した急性期および回復期の対の血清を分析した。急性期から回復期までのイヌ/FL/04に対する抗体価の≧4倍の増加として定義される血清変換が、両アッセイ法において、11頭中8頭(73%)の病犬で発生した(表1)。血清変換はHIアッセイ法では16頭中6頭(38%)の無症状接触犬で発生し、MNアッセイ法では16頭中8頭(50%)が血清変換を示した(表1)。血清変換のデータは、イヌのイヌ/FL/04様ウイルスの感染が大半の動物において呼吸器疾患の発症と時間的に一致することを実証した。
【0138】
大流行の3カ月後に、病犬と共に飼育されていたさらに46頭の無症状のイヌから単一の血清試料を採取した。これらの内、43検体(93%)が両アッセイ法において血清陽性であった。検査した73頭の集団全体については、病犬の82%(11頭中9頭)および健常接触犬の95%(62頭中59頭)を含む93%が両アッセイ法において血清陽性であった。呼吸器疾患歴のないイヌにおける高い血清疫学は、イヌインフルエンザウイルスの大半の感染は不顕性であることを示しており、イヌにおけるウイルスの効率的伝播が示唆される。不顕性感染がウイルスの伝播に寄与するか否かは不明である。
【0139】
実施例4
イヌ/FL/04ウイルスのイヌへの感染能力についてより理解するために、4頭の6カ月齢の純系ビーグル犬に10
6.6半数組織培養物感染用量(TCID
50)を気管内または鼻腔内経路によりそれぞれ接種した。すべてのイヌが接種後(p.i.)最初の2日間に発熱(直腸温 ≧39℃)を発症したが、14日間の観察期間を通して咳または鼻分泌物などの呼吸器症状を示したものはいなかった。ウイルス排出は、鼻および口咽頭のスワブにおけるウイルスの定量によって調べた。4頭中2頭のイヌのみが検出可能量のウイルスを排出した。1頭のイヌはp.i.1日および2日にウイルスを排出し(スワブ当たり1.0〜2.5 log
10 PFU)、その他のイヌは接種後連続4日間にわたってウイルスを排出した(スワブ当たり1.4〜4.5 log
10 PFU)。p.i. 5日における2頭のイヌの死亡後検査より、グレイハウンドにおける自然発生性疾患に見られる所見とほぼ等しい壊死性増殖性気管炎、気管支炎および細気管支炎が認められたが、肺出血または気管支肺炎は認められなかった。IHCにより、ウイルスH3抗原が気管支、細気管支および気管支腺の上皮細胞の細胞質に検出された(
図2B)。感染性ウイルスが1頭のイヌの肺組織から回収された。p.i.14日における残りの2頭の死亡後検査より、呼吸組織における最小限の組織学的変化、IHCによるウイルスH3抗原の不在、および肺ホモジネートからのウイルスの無回収が確認された。これらの後者の2頭のイヌにおける血清変換は、MNアッセイ法においてp.i.7日に検出され、14日までに抗体価はさらに2〜3倍に増加した。これらの結果より、熱性反応、肺実質におけるウイルス抗原および感染性ウイルスの存在、インフルエンザに典型的な病理組織学的所見、ならびに血清変換に示されるように、イヌ/FL/04感染に対するイヌの感受性が確立された。実験的に接種したビーグル犬において重度の疾患および死亡を再現できなかったことは、自然感染したグレイハウンドの大集団が無症候性であったことを考えると、驚くべきことではない。
【0140】
実施例5
2004年1月の大流行以前にイヌ/FL/04様インフルエンザウイルスがフロリダのグレイハウンド集団で広まっていたかどうかを調べるため、65頭のレース用グレイハウンドに由来する保存血清についてHIおよびMNアッセイ法を用いてイヌ/FL/04に対する抗体の存在を調べた。1996年〜1999年に試料採取した33頭のイヌでは、検出可能な抗体はなかった。2000年〜2003年に試料採取した32頭の内、9頭は双方のアッセイ法において血清陽性であった−2000年に1頭、2002年に2頭、および2003年に6頭(表5)。血清陽性のイヌは1999年から2003年まで病因不明の呼吸器疾患の大流行に関与したフロリダのトラックで飼育されており、イヌ/FL/04様ウイルスがこれらの大流行の原因物質であった可能性があることを示唆する。この可能性をさらに調べるために、本発明者らは2003年3月に出血性気管支肺炎のために死亡したグレイハウンドから採取された保存組織を調べた。1頭のイヌに由来する肺ホモジネートをMDCK細胞および鶏胚に接種したところ、H3N8インフルエンザウイルスが回収されて、A/イヌ/フロリダ/242/2003(イヌ/FL/03)と命名された。イヌ/FL/03の完全ゲノムの配列解析はイヌ/FL/04に対して>99%同一性を示し(表4)、イヌ/FL/04様ウイルスが2004年以前にグレイハウンドに感染していたことを示す。
【0141】
実施例6
2004年6月から8月にフロリダ、テキサス、アラバマ、アーカンソー、ウェストバージニアおよびカンザスの14箇所のトラックで何千頭ものレース用グレイハウンドに呼吸器疾患の大流行が発生した。
【0142】
これらのいくつかのトラックの担当者は、それらのイヌ集団の少なくとも80%が臨床疾患を有すると推定した。大半のイヌは2004年1月の大流行時のイヌと同様の発熱(≧39℃)および咳の臨床徴候を示したが、多くのイヌは粘液膿性の鼻分泌物も呈した。多くの死亡が報告されたが、正確な死亡率は求められなかった。
【0143】
本発明者らは、フロリダの4箇所のトラックに収容されている94頭のイヌから急性期および回復期の対の血清を採取し:これらのイヌの56%はイヌ/FL/04に対する抗体価が≧4倍に上昇しており、100%が血清陽性であった(表6)。ウェストバージニアおよびカンザスの29頭のイヌから得られた回復期血清もイヌ/FL/04に対する抗体を有した。本発明者らは、テキサスのトラックで出血性気管支肺炎のために死亡した1頭のグレイハウンドの肺からインフルエンザA(H3N8)ウイルスを分離した。A/イヌ/テキサス/1/2004(イヌ/TX/04)と命名されたこの分離物の全ゲノムをシーケンシングした結果、イヌ/FL/04と≧99%の同一性を示した(表4)。13カ月の期間中の致命的なイヌの症例および地理的に異なる位置から得られた密接に関連する3つのインフルエンザウイルスの分離、ならびにレース用グレイハウンドにおける広範な感染を示す実質的な血清学的証拠は、イヌ集団においてイヌ/FL/04様ウイルスが持続的に広がっていることを示唆する。
【0144】
イヌ/FL/03、イヌ/FL/04およびイヌ/TX/04のHA遺伝子を系統発生的に解析した結果、それらは単系統性のグループを構成し、頑健なブーツストラップはその系統が2002年および2003年に分離されたウマウイルスの現代のH3遺伝子とは明らかに異なったことを裏付けている(
図1B)。その他の7つのゲノムセグメントの系統学的解析およびヌクレオチド配列の対比較より、イヌ遺伝子がウマウイルスの系統に最も密接に関連する異なる亜系統として分離したことを裏付けている(データは示さず、表4)。ウマインフルエンザから分離した単系統性のグループとしてのイヌインフルエンザウイルスのクラスター形成は、HAにおける4つのサインアミノ酸変化の存在によっても裏付けられる(表2)。2003年および2004年の血清学的結果と共に、これらのデータはウマからイヌへの単一のウイルス伝播およびその後のグレイハウンド集団内でのウイルスの水平伝染と一致する。しかし、未同定の保有動物種からの固有系統のインフルエンザウイルスの度重なる導入は、可能性はなさそうであるが、正式には除外することはできない。
【0145】
ウイルスHAは、インフルエンザウイルスの宿主動物特異性に関する重要な決定要因である(Suzukiら、2000年)。イヌ宿主への適応に関連し得るHA内の残基を特定するため、本発明者らは、イヌHAの推定したアミノ酸配列を現代のウマウイルスのそれと比較した。ウマおよびイヌの成熟HA共通アミノ酸配列は、4つのアミノ酸変化によって区別される:N83S、W222L、I328TおよびN483T(表2 参照)。イヌウイルスには、共通ウマ配列に比してアミノ酸の欠失が見られる。従って、HAウマ配列の7位のアミノ酸はHAイヌ配列では6位であり、HAウマ配列の29位のアミノ酸はHAイヌ配列では28位であり、HAウマ配列の83位のアミノ酸はHAイヌ配列では82位などである。このように、4つの置換アミノ酸は配列番号:33および配列番号:34に示されるアミノ酸配列の82、221、327および482位である。その他の動物種に由来するH3分子では様々な極性残基が見られることから、共通配列83位のアスパラギンのセリンへの置換は機能的重要性の不明な変化である。H3 HA開裂部位近くの共通配列328位における厳密に保存されたイソロイシンはスレオニンによって置換されている。病原における宿主プロテアーゼによるHA開裂の中枢的役割は、この変化がさらなる試験に値することを示唆している。共通配列222位のトリプトファンからロイシンへの置換は、レセプター機能を調節することができるシアル酸結合ポケットに隣接する非保存的変化であることから(Weisら、1988年)、非常に際立っている。面白いことに、222位のロイシンは、典型的にH4、H8、H9およびH12 HA亜型に見られることから(Nobusawaら、1991年;Kovacovaら、2002年)、イヌH3 HAに固有ではない。ブタのH4亜型の感染(Karasinら、2000年)ならびにヒトおよびブタのH9亜型ウイルスの感染(Peirisら、1999年)が報告されていることから、ロイシンの置換は哺乳動物宿主におけるウイルス特異性とさらに適合性であり得る。共通配列483位におけるスレオニンによるアスパラギンの置換の結果、すべてのHA亜型で保存されるHA2サブユニットにおける糖鎖付加部位の消失が起こった(Wagnerら、2002年)。ウマウイルスのイヌへの適応に際してのHAにおけるこれらのアミノ酸の変化の重要性は依然明らかにされていないが、これまでに同様のアミノ酸変化が種間伝播に関連して観察されている(Vinesら、1998年;Matrosovichら、2000年)。本発明のその他のインフルエンザウイルスタンパク質およびウマ共通配列のアミノ酸の相違点を表19〜25に示す。
【0146】
レース用グレイハウンドに最初に感染したウマインフルエンザウイルスのソースは依然推論的である。グレイハウンド競技場の犬舎はウマまたは競馬場の近くには位置しておらず、グレイハウンドおよびウイルスを排出しているウマの接触は2004年の異なる州での多くの大流行を説明するには不十分であることが示唆される。想定されるウマウイルスへの曝露源はグレイハウンドへの馬肉の給餌であり、その飼料にはインフルエンザを保有する可能性のあるウマを含めて、屠体を加工する缶詰工場より提供される生肉が添加される。この感染機序の前例には、感染したニワトリの屠体を給餌されたブタおよび動物園のネコ科動物へのH5N1トリインフルエンザウイルスの種間伝播の報告が含まれる(Webster、1998年;Keawcharoenら、2004年;Kuikenら、2004年)。これはウマインフルエンザのイヌへの初期導入における現実味のある経路ではあるが、異なる州における何千頭というイヌでの最近の多くのインフルエンザ大流行を説明するものではない。本発明者らの実験的接種試験は、たとえ力価は中程度であっても、イヌの鼻道および口咽頭にウイルスが存在することを実証した。それにも関わらず、これらの結果はウイルス排出が可能であり、大粒のエアロゾル、媒介物または直接の粘膜接触によるイヌ-イヌ間のウイルス伝達がこの疾患の家畜流行疫学に関与し得ることを示している。
【0147】
無関係の哺乳動物種への完全哺乳動物インフルエンザウイルスの種間伝達は稀な事象である。これまでの試験では、ヒトインフルエンザA(H3N2)ウイルスのイヌへの一過性の感染に関する限定的な血清学的またはウイルス学的証拠−但し双方ではない−を提供している(Nikitinら、1972年;Kilbourneら、1975年;Changら、1976年;Houserら、1980年)。しかし、イヌ宿主における持続的循環を示す証拠はなかった。ブタからヒトへのブタインフルエンザウイルスの直接伝達は十分に実証されているが(Dacsoら、1984年;Kimuraら、1998年;Patriarcaら、1984年;Topら、1977年)、ブタウイルスのヒト宿主への適応に関する証拠はない。本報告書において、本発明者らは完全なウマインフルエンザA(H3N8)ウイルスのもう一つの哺乳動物種であるイヌへの種間伝播に関するウイルス学的、血清学的および分子的証拠を提供する。イヌウイルスHAにおける固有のアミノ酸置換、ならびに米国の多くの州でのイヌの感染に関する血清学的確認は、ウイルスのイヌ宿主への適応を示唆する。イヌはヒトにとって重要な伴侶動物であることから、これらの所見は公衆衛生にとって意味があり;イヌはヒトへの新しいインフルエンザAウイルスの新規伝達源を提供し得る。
【0148】
(表1)A/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)に対する抗体反応
a 疾病の臨床徴候を伴うイヌの数。
b 臨床的疾病犬と接触して飼育されている無症候性のイヌの数。
c A/イヌ/フロリダ/43/2004ウイルスを用いた血球凝集阻害(HI)アッセイ法。
d A/イヌ/フロリダ/43/2004ウイルスを用いたマイクロ中和(MN)アッセイ法
e 急性期および回復期の対の血清の抗体価が少なくとも4倍に増加したイヌのパーセント。
f 回復期血清において陽性抗体価(HI抗体価 ≧32:MN抗体価 ≧80)を伴うイヌのパーセント。
g 回復期血清の抗体価幾何学平均。
【0149】
(表2)イヌおよびウマのH3ヘマグルチニン間のアミノ酸の違い
* 成熟H3 HAのアミノ酸残基(一文字表記)および位置。アミノ酸コードは、A=アラニン、D=アスパラギン酸、G=グリシン、I=イソロイシン、K=リジン、L=ロイシン、M=メチオニン、N=アスパラギン、R=アルギニン、S=セリン、T=スレオニン、V=バリン、W=トリプトファンである。
† 共通のウマH3 HAからの変化なしを示す。
【0150】
(表3)異なるHA亜型に対する参照抗血清によるウイルス分離物の血球凝集阻害
a イヌ#43由来のウイルス分離物に対する血球凝集阻害力価
b ポリクローナル抗血清はフェレットにおいて作出されたが、その他のすべての抗血清はヒツジまたはヤギにおいて作出された。
【0151】
(表4)ウマ、トリ、ブタおよびヒトのインフルエンザA株に対するA/イヌ/フロリダ/43/2004 (H3N8)遺伝子の配列相同性
a 動物種からのインフルエンザウイルス分離物の大半の相同遺伝子に対するA/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)遺伝子のヌクレオチドおよびアミノ酸(括弧内)配列同一性パーセント、続いてそれらのGenbank配列データベースアクセッション番号。
b 該当なし:N8ノイラミニダーゼはヒトまたはブタのウイルスではこれまで報告されなかった。
【0152】
(表5)1996年から2003年に採取されたグレイハウンド血清のA/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)に対する抗体価
a フロリダのレース用グレイハウンドからの血清試料採取年。
b 6頭の2003年血清陽性犬の範囲を含む、血清陽性犬におけるマイクロ中和試験抗体価。
【0153】
(表6)2004年6月のフロリダの4箇所のトラックにおけるレース用グレイハウンドのA/イヌ/フロリダ/43/2004(H3N8)に対する抗体反応
a A/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)を用いたHIにより試験した臨床的に疾病の見られるイヌの数。
b 急性期および回復期血清の抗体価における≧4倍の増加を示すイヌのパーセント。
c 回復期血清において陽性の抗体価(HI抗体価>16)を示したイヌのパーセント。
d 回復期血清における抗体価幾何学平均
【0154】
実施例7〜11の材料および方法
イヌの組織
フロリダ北東部の保護施設におけるインフルエンザ大流行で2005年4月/5月に死亡した6頭の雑種犬およびフロリダ南東部の動物病院でのインフルエンザ大流行において2005年5月に死亡した1頭のペットのヨークシャーテリアについて、University of Florida College of Veterinary MedicineのAnatomic Pathology Serviceにて死亡後検査を実施した。組織は10%中性緩衝ホルマリン中で固定して、パラフィンに包埋し、病理組織学的診断のための5μmの切片をヘマトキシリン・エオジンで染色した。未固定の組織は、ウイルス学的分析まで-80℃で保存した。
【0155】
イヌ組織試料からのRNAの抽出
7頭の各イヌに由来する凍結肺組織を融解して、使い捨ての組織グラインダー(Kendall, Lifeline Medical Inc., Danbury, CT)を用いて、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を強化した最小必須培地(MEM)を加えてホモジナイズした。市販のキット(RNeasy(登録商標)Mini Kit, QIAGEN Inc., Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って用いて全RNAを抽出し、最終液量 60μLの緩衝液で溶出した。呼吸器疾患を伴わないイヌから採取した肺組織からも、全RNAを抽出した。
【0156】
リアルタイムRT-PCR
ROXをパッシブレファレンス色素として含むQuantiTect(登録商標)プローブRT-PCRキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を用いて、イヌ組織試料から抽出された全RNAに対して一段階定量的リアルタイムRT-PCRを実施した。つまり、2つのプライマー-プローブセットを各試料中のインフルエンザA配列の検出に用いた(表7)。1つのプライマー-プローブセットはイヌヘマグルチニン(H3)遺伝子配列に選択的であった。他方のプライマー-プローブセットはA型インフルエンザウイルスのマトリックス(M)遺伝子の高度に保存的領域をターゲットとした。各リアルタイムRT-PCR反応において、最終液量 25μL中、2X QuantiTech(登録商標) Probe RT-PCR Master Mix 12.5μL、QuantiTech(登録商標)RT Mix 0.25μL、フォワードおよびリバースプライマー(それぞれ、0.4μMの最終濃度)、プローブ(0.1μMの最終濃度)、ならびにRNaseフリーの水を含む反応混合液に抽出した全RNA 5μLを加えた。イヌ組織試料から抽出されたRNAの存在に関する内因性の内部対照である18S rRNAの検出には、TaqMan(登録商標)リボソームRNA対照試薬(Applied Biosystems, Foster City, CA)を製造業者の説明書に従って使用した。
【0157】
Mx3000P(登録商標)QPCR System(Stratagene, La Jolla, CA)を用いて、反応混合物に対して定量的一段階リアルタイムRT-PCRを実施した。サイクリング条件は、50℃での30分間の逆転写段階、HotStarTaq(登録商標)DNAポリメラーゼを活性化させるための95℃での15分間の初回変性段階、および40サイクルの増幅を含んだ。各増幅サイクルには、94℃での15秒間の変性およびその後の60℃での1分間のアニーリング/伸長が含まれた。FAM(発光波長 518nm)およびVIC(発光波長 554nm)蛍光シグナルは各サイクルの終了時に記録した。閾値サイクル(Ct)は、それぞれの各実験において閾値蛍光(dR)を1000に設定することによって求めた。データの収集および解析には、Mx3000P(登録商標)バージョン2.0ソフトウェアプログラム(Stratagene, La Jolla, CA)を用いた。H3またはM遺伝子の閾値サイクル(Ct)が呼吸器疾患を伴わないイヌから得られた肺組織のCtよりも3単位少ない場合、試料はインフルエンザAウイルスに関して陽性と判断した。陽性対照は、A/イヌ/FL/242/03(H3N8)ウイルスから抽出されたRNAの増幅物から構成された。
【0158】
MDCK細胞におけるウイルスの分離
7頭の各イヌに由来する凍結肺組織を融解して、0.5%(BSA)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を強化した10倍量のDulbecco修正イーグル培地(DMEM)を加えてホモジナイズした。遠心分離により固体の細片を除去して、上清を1μg/mL TPCK処理したトリプシン(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を加えたDMEMで培養したMadin-Darbyイヌ腎(MDCK)細胞に接種した。細胞は、25cm
2のフラスコを用いて5%CO
2含有加湿大気中、37℃にて培養した。培養物は形態学的変化を1日1回観察して、接種後5日に回収した。回収した培養物を遠心分離により清澄化して、上清を初回接種において記載した通り新鮮なMDCK細胞に接種し;血球凝集またはRT-PCRによりインフルエンザウイルスの証拠を示さなかった試料についてはさらに2回の継代を行った。清澄化した上清の血球凝集活性は、既報の通り(Burleson, F.ら、1992年;Kendal, P.ら、1982年)、0.5%シチメンチョウ赤血球を用いて測定した。RT-PCRは、下記の通り、実施した。
【0159】
孵化鶏卵におけるウイルス分離
ホモジネートは、MDCK細胞の接種に関して上記の通り、凍結肺組織から調製した。ホモジネート(0.2mL)を10日齢の孵化鶏卵の尿嚢に接種した。35℃にて48時間インキュベート後、尿膜腔液の回収前に一晩、卵を4℃で冷却した。清澄化した上清の血球凝集活性は、既報の通り(Burleson, F.ら、1992年;Kendal, P.ら、1982年)、0.5%シチメンチョウ赤血球を用いて測定した。RT-PCRは、下記の通り、実施した。初回接種後にインフルエンザウイルスの証拠を示さなかった試料については、孵化鶏卵を用いたさらに2回の継代を行った。
【0160】
RT-PCR、ヌクレオチドシーケンシング、および系統学的解析
製造業者の説明書に従ってQIAamp(登録商標)ウイルスRNAミニキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を用いて、MDCK上清または尿膜腔液からウイルスRNAを抽出した。ウイルスRNAは、QIAGEN(登録商標)一段階RT-PCRキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って使用して、cDNAに逆転写した。cDNA内の8つのインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域のPCR増幅は、汎用遺伝子特異的プライマーセット(プライマー配列は要求に応じて与えられる)を用いて既報(Klimov, A.ら、1992b)の通り実施した。得られたDNA単位複製配列は、サイクルシーケンシングダイターミネーターケミストリー(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いたABI PRISM(登録商標)3100自動DNAシーケンサーでの自動シーケンシングのための鋳型として用いられた。ヌクレオチド配列はLasergene 6 Package(登録商標)(DNASTAR, Inc., Madison, WI)を用いて解析した。ヌクレオチド配列からの系統発生の推定およびブーツストラップの算出にはPHYLIPバージョン3.5(著作権)ソフトウェアプログラムを用いた(Felsenstein, J.、1989年)。系統樹は、MEGA(著作権)プログラム(Kumar, S.ら、2004年)において実行されたTamura-Neiモデルを用いて近隣結合法により得られた系統樹と比較して、PAUP(著作権)4.0ベータプログラム(Sinauer Associates, Inc., Sunderland, MA)により確認した。
【0161】
血球凝集阻害(HI)試験
血清試料は、56℃での30分間の熱失活前に、レセプター破壊酵素(RDE、デンカ生検株式会社、東京、日本)(血清1容積:RDE 3容積)と共にインキュベートした。インフルエンザA/イヌ/ジャクソンビル/05(H3N8)ウイルスはMDCK細胞を用いて5%CO
2中、37℃にて72時間、増殖させた。ウイルス培養の上清を回収して、遠心分離により清澄化して-80℃で保存した。HIアッセイ法で用いられるその他のウイルスはすべて、10日齢の孵化鶏卵で培養し、尿膜腔液を回収して-80℃で保存した。HIアッセイ法は既報(Kendal, P.ら、1982年)の通り実施した。つまり、25μl中4血球凝集単位のウイルスを96穴プラスチックプレートにて段階希釈した等量の血清に加えて、室温で30分間、インキュベートした。等量の0.5%シチメンチョウ赤血球を加えて、30分後に血球凝集力価を目視により求めた。エンドポイントのHI力価は、血球凝集を完全に阻害する血清の最終希釈として定義された。
【0162】
実施例7−臨床症例
2005年4月および5月に、既報(Crawford, P.C.ら、2005年)の呼吸器疾患大流行がフロリダ北東部の保護施設に収容されていたイヌで発生した。この大流行には3カ月齢から9歳までの齢期範囲の少なくとも58頭が関与し、純系のイヌおよび雑種犬が含まれた。最も一般的な臨床徴候は、7〜21日間にわたる膿性鼻分泌物および咳であった。≧7日にわたって臨床疾患が認められた43頭の内、41頭はイヌ/FL/04(H3N8)に対して32から>1024のHI抗体価を示した。少なくとも10頭の犬が肺炎に進行し、この内、6頭は安楽死させた。これらの6頭の雑種犬は、4カ月齢から3歳までの雌雄各3頭であった。臨床徴候の期間は、安楽死の時点で2〜10日であった。死亡後検査において、これらのイヌは肺のうっ血および浮腫を示した。呼吸器の組織学的検査では、鼻炎、気管炎、気管支炎、細気管支炎および化膿性気管支肺炎が認められた。気管、気管支、細気管支および気管支腺に、上皮細胞の壊死およびびらんが認められた。呼吸組織に好中球およびマクロファージの浸潤が見られた。
【0163】
2005年5月にフロリダ南東部の動物病院において40頭のペットのイヌにおいて呼吸器疾患の大流行が発生した。最も一般的な臨床徴候は、10〜30日間にわたる膿性鼻分泌物および咳であった。40頭の内、17頭はイヌ/FL/04(H3N8)に関して血清陽性であり、HI抗体価は32から>1024であった。急性期および回復期の対の血清が得られた10頭のイヌでは、血清変換が生じた。3頭のイヌは肺炎に進行した。これらの内の1頭である9歳の雄のヨークシャーテリアは臨床徴候の発症後3日に死亡した。このイヌは、気管気管支炎、肺の浮腫およびうっ血、ならびに重度気管支肺炎であった。6頭の保護施設のイヌと同様に、気道の上皮細胞の壊死およびびらん、ならびに組織における好中球浸潤が認められた。
【0164】
実施例8−リアルタイムRT-PCRおよびウイルスの分離
7頭のイヌから得られた肺組織を、A型インフルエンザのM遺伝子およびイヌH3N8インフルエンザAウイルスのH3遺伝子を検出する定量的リアルタイムRT-PCRアッセイ法で解析した。7頭すべてのイヌの肺がインフルエンザAのM遺伝子およびイヌインフルエンザH3遺伝子の双方に関して陽性であった(表8)。MDCK細胞で3回継代後、3日間の肺炎の後に死亡した保護施設のイヌの肺からインフルエンザAのH3N8亜型のウイルスが分離された。このウイルスはA/イヌ/ジャクソンビル/05(H3N8)(イヌ/Jax/05)と命名された。孵化鶏卵で2回継代後、同じく3日間の肺炎の後に死亡したペットのイヌの肺からインフルエンザAのH3N8亜型のウイルスが分離された。このウイルスはA/イヌ/マイアミ/05(H3N8)(イヌ/マイアミ/05)と命名された。
【0165】
実施例9−イヌインフルエンザA H3N8分離物の遺伝子解析
イヌ/Jax/05およびイヌ/マイアミ/05の配列解析の結果、それらのヘマグルチニン(HA)遺伝子は2004年および2005年のトラックでのインフルエンザ大流行時に肺炎で死亡したレース用グレイハウンドの肺から回収されたイヌ/FL/04、イヌ/TX/04およびイヌ/アイオワ/05分離物と98%一致することが明らかとなった(Crawford, P.C, ら、2005年;Yoon K-Yら、2005年)。さらに、イヌ/Jax/05およびイヌ/マイアミ/05のHA遺伝子は、2000年以降に分離された現代のウマインフルエンザウイルスと98%一致した。HA遺伝子の系統学的比較では、イヌ/Jax/05およびイヌ/マイアミ/05ウイルスはイヌ/FL/04、イヌ/TX/04、およびイヌ/アイオワ/05のグレイハウンド分離物、ならびに現代のウマ分離物とクラスターを形成し、1990年代初期に分離された古いウマウイルスとは異なる群を形成することが示された(
図4)。さらに、イヌ/Jax/05、イヌ/マイアミ/05およびイヌ/アイオワ/05分離物は、イヌ/FL/04またはイヌ/FL/03よりもイヌ/Tx/04により密接に関連した。2005年の分離物は先の2003年および2004年イヌウイルスから枝分れしたと思われる亜型を形成し、約10箇所の節減的に情報価値のある部位が異なる。これらの相違は、外部の感染源から定期的に再導入されるのとは対照的に、イヌからイヌへと水平伝播するという仮説を支持する。2003年から2005年までの突然変異の蓄積は、イヌインフルエンザウイルスに生じたと予想されるように、ウイルスが新しい宿主に伝達された後に受けなければならない適応の進行中の過程を例示するものである。
【0166】
実施例10−イヌインフルエンザA H3N8分離物のアミノ酸解析
6検体のすべてのイヌ分離物には、それらを現代のウマインフルエンザと区別する保存的アミノ酸置換があった(表9)。これらの保存的置換はI15M、N83S、W222L、I328TおよびN483Tであった。成熟HAタンパク質を系統学的に比較した結果、イヌ/Jax/05、イヌ/マイアミ/05およびイヌ/アイオワ/05ウイルスはイヌ/TX/04分離物と共に亜型を形成することが示された(
図4)。この亜型とその他のイヌウイルスを区別する3つのアミノ酸変化(L118V、K261NおよびG479E)があった(表9)。2005年の分離物をそれらのルーツであるイヌ/TX/04と区別する2つのアミノ酸変化(F79LおよびG218E)があった。さらに、グレイハウンド以外のイヌからの2005年分離物であるイヌ/Jax/05およびイヌ/マイアミ/05は1個のアミノ酸変化であるR492Kがイヌ/アイオワ/05グレイハウンド分離物と異なった。最後に、イヌ/Jax/05は一つのアミノ酸S107Pにおいてイヌ/マイアミ/05とは異なった。その他のすべてのH3N8ウマおよびイヌウイルスにおいて、Tを持つA/ウマ/チーリン/1/89(Guo Y.ら、1992年)を除いてSは107の位置に保存される。
【0167】
実施例11−イヌインフルエンザA H3N8分離物の抗原分析
血球凝集阻害(HI)試験は、以前および現代のウマインフルエンザウイルスおよびイヌインフルエンザウイルス、ならびにインフルエンザウイルスに感染したウマおよびイヌから2005年に採取された血清を用いて実施された(表10)。イヌ/FL/04に対して免疫したフェレットの血清も分析に含めた。ウマ血清のHI抗体価は現代のウマウイルスを以前の分離物と比較して調べた結果、8〜16倍高かったが、イヌウイルスを用いて調べると少なくとも1/4低下した。イヌ血清は以前のウマウイルスとは非反応性であったが、現代のウマ分離物およびイヌ分離物を用いて調べると抗体価は4倍に増加した。これは、イヌインフルエンザウイルスに対して免疫されたフェレットの血清についても観察された。これらの血清反応パターンは、イヌインフルエンザウイルスおよび現代のウマインフルエンザウイルスの間の抗原類似性を実証するものであり、系統学的解析と一致した。イヌ/マイアミ/05分離物に対するウマ、イヌおよびフェレット血清の抗体価は、2003年および2004年のイヌ分離物における抗体価とほぼ等しかった。しかし、イヌ/Jax/05分離物の抗体価は1/2〜1/4であった。このことは、イヌ/Jax/05が抗原的にはその他のイヌ分離物とは異なり、成熟HAの107位における単一のアミノ酸の変化に一部関連し得ることを示唆する。
【0168】
(表7)インフルエンザAウイルスのマトリックス遺伝子およびイヌインフルエンザA(H3N8)のH3遺伝子の定量的リアルタイムRT-PCR解析のためのプライマーおよびプローブ
a 下線を引いた文字rはaまたはgのヌクレオチドを示し、下線を引いた文字kはgまたはtのヌクレオチドを示す。
b 大文字は固定された核酸残基を示す。
【0169】
(表8)フロリダの保護施設および動物病院において呼吸器疾患大流行時に肺炎で死亡したイヌの肺組織に対して実施した定量的リアルタイムRT-PCRおよびウイルス分離
【0170】
(表9)イヌインフルエンザウイルスおよび現代のウマインフルエンザウイルスにおける成熟HAのアミノ酸の比較
【0171】
(表10)以前および現代のウマインフルエンザウイルスおよびイヌインフルエンザウイルスに対するウマ、イヌおよびフェレット血清の抗体価
a 抗体価は、ウマ、イヌまたはフェレットの血清の段階希釈、ならびに抗原のカラムに列記されるウイルスを用いて実施した血球凝集阻害試験で求められた。
b イヌ/FL/04ウイルスで免疫したフェレットの血清
【0172】
実施例12〜15の材料および方法例
イヌインフルエンザウイルス接種物
ウイルス接種物は、Madin-Darbyイヌ腎(MDCK)上皮細胞に既報(Crawfordら、2005年)のオリジナル分離物の3回継代物であるA/イヌ/FL/43/04(H3N8)のストックを接種して調製した。1μg/mL TPCK処理トリプシン(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を強化したDulbecco最小必須培地(DMEM)中の接種されたMDCK細胞は、250cm
2のフラスコに入れて5%CO
2を含む加湿大気中、37℃にて生育させた。培養物は形態学的変化を1日1回観察して、接種後5日に回収した。回収した培養物は遠心分離によって清澄化して、上清をイヌの接種まで-80℃で保存した。ReedおよびMuench法によるウイルス力価の測定には、上清の画分を使用した。力価は、1mL当たり10
7半数組織培養物感染用量(TCID
50)のA/イヌ/フロリダ/43/04(イヌ/FL/2004)であった。
【0173】
実験的接種
コロニーで繁殖した4カ月齢の8頭の雑種犬(Marshall BioResources, North Rose, NY)(雌雄各4頭)をUniversity of Florida Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認された実験的接種試験に使用した。イヌの体重は13〜17kgであった。イヌは、理学的検査、ベースラインの血液検査、および接種前2週間の体温記録に基づいて、健常であった。すべてのイヌは、施設への到着時および2週間後に採取した対の血清試料について実施した血清学的検査に基づいて、イヌインフルエンザウイルスへの曝露歴はなかった。イヌは、気管内チューブの挿管に備えて、プロポフォール(ディプリバン(登録商標)、Zeneca Pharmaceuticals、行うために0.4mg/kg体重)の静脈内注入により麻酔した。6頭(雌雄各3頭)のイヌに、気管内チューブに挿入した直径の小さなゴム製カテーテルを介して5mL無菌生理食塩液中10
7 TCID
50のイヌ/FL/04ウイルスを遠位気管に投与して、それぞれ接種した。2頭のイヌ(雌雄各1頭)には等量の無菌生理食塩液を偽接種した。偽接種した対照のイヌは、ウイルス接種したイヌとは別の部屋に収容して、別の担当者がケアした。理学的検査および直腸温の記録は、1日2回、接種後(p.i.)6日間実施した。
【0174】
咽頭および直腸スワブの採取
ウイルス排出をモニターするために、p.i.0〜6日にポリエステルスワブ(Fisher Scientific International Inc., Pittsburgh, PA)を用いて口咽頭標本を各イヌから1日2回、採取した。スワブは、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む無菌リン酸緩衝生理食塩液(PBS)1mL中に置いた。直腸スワブは0日から6日まで1日1回、各イヌから採取した。スワブ抽出液は、スワブ輸送培地を遠心分離によって清澄化して調製した。スワブ抽出液の画分は、Directigen(商標)の市販の免疫アッセイキット(BD, Franklin Lakes, NJ)を製造業者の説明書に従って用いて、インフルエンザAウイルス核タンパク質について直ちに検査した。残りの抽出液は、その他のウイルス学的アッセイ法まで-80℃にて保存した。
【0175】
死亡後検査
p.i. 1日に、偽接種した1頭およびウイルス接種した1頭のイヌをBeuthanasia-D(登録商標)液(1mL/5kg体重;Schering-Plough Animal Health Corp)の静脈内注入により安楽死させた。p.i. 2日から5日まで毎日、ウイルス接種した1頭のイヌを同様に安楽死させた。p.i. 6日に偽接種およびウイルス接種した残りのイヌを安楽死させた。詳細な死亡後検査は1名の試験担当者(WLC)により実施された。組織は10%中性緩衝ホルマリン中で固定して、パラフィンに包埋し、5μmの切片を病理組織学的診断のためにヘマトキシリン・エオジンで染色するか、または以下に記載する通り免疫組織化学的検査に備えて加工した。未固定の肺組織は、細菌の分離および同定のため、University of Florida College of Veterinary MedicineのDiagnostic Clinical Microbiology/Parasitology/Serology Serviceに送付した。試料は、非選択培地およびボルデテラ属(Regan-Lowe; Remel, Lenexa, KS)およびマイコプラズマ属(Remel)の選択培地で培養した。すべての培養物は、増殖なしと報告する前に21日間維持した。未固定の組織は、同じくウイルス学的分析まで-80℃で保存した。
【0176】
免疫組織化学
脱パラフィンおよび再水和した5μmの気管および肺組織切片をBond-Rite(商標)スライドガラス(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)にセットして、プロテイナーゼK(DAKOCytomation, Carpenteria, CA)ペルオキシダーゼ遮断試薬(DAKO(登録商標)EnVision(商標)ペルオキシダーゼキット、DAKO Corp., Carpenteria, CA)で順次処理した。切片は、インフルエンザA H3に対するモノクローナル抗体の1:500希釈(Chemicon International, Inc., Ternecula, CA)と共に室温で2時間、インキュベートした。対照には、同一の切片とマウスIgG(1mg/mL、Serotec, Inc. Raleigh, NC)のインキュベート、およびモノクローナル抗体と正常なイヌ肺切片のインキュベートが含まれた。一次抗体で処理した後、切片は製造業者の説明書に従って二次イムノペルオキシダーゼおよびペルオキシダーゼ基質試薬(Dako(登録商標)EnVision(商標)ペルオキシダーゼキット、Dako Corp.)と共にインキュベートした。ヘマトキシリンで切片を対比染色して、清澄化剤#2およびBluing試薬(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)で処理して脱水し、Permount(ProSciTech, Queensland, Australia)を用いてカバーガラスをかけた。
【0177】
スワブおよび組織からのRNAの抽出
各イヌに由来する肺および気管の組織を融解して、使い捨ての組織グラインダー(Kendall, Lifeline Medical Inc., Danbury, CT)を用いて、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を強化した最小必須培地(MEM)を加えてホモジナイズした。市販のキット(RNeasy(登録商標)ミニキット、QIAGEN Inc., Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って用いて、組織ホモジネートならびに口咽頭および直腸スワブ抽出液から全RNAを抽出して、最終液量 60μLの緩衝液で溶出した。
【0178】
リアルタイムRT-PCR
ROXをパッシブレファレンス色素として含むQuantiTect(登録商標)プローブRT-PCRキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)およびA型インフルエンザウイルスのマトリックス(M)遺伝子の高度保存領域をターゲットとするプライマー-プローブセット(Payungporn S.ら、2006年a;Payungporn S.ら、2006年b)を用いて、全RNAに対して一段階定量的リアルタイムRT-PCRを実施した。各リアルタイムRT-PCR反応において、最終液量 25μL中、2X QuantiTech(登録商標) Probe RT-PCR Master Mix 12.5μL、QuantiTech(登録商標)RT Mix 0.25μL、フォワードおよびリバースプライマー(それぞれ、0.4μMの最終濃度)、プローブ(0.1μMの最終濃度)、ならびにRNaseフリーの水を含む反応混合液に抽出した全RNA 5μLを加えた。スワブおよび組織試料から抽出されたRNAの存在に関する内因性の内部対照として、また標準化対照としてのGAPDHの検出には、TaqMan(登録商標)GAPDH対照試薬(Applied Biosystems, Foster City, CA)を製造業者の説明書に従って使用した。
【0179】
Mx3000P(登録商標)QPCR System(Stratagene, La Jolla, CA)を用いて、反応混合物に対して定量的一段階リアルタイムRT-PCRを実施した。サイクリング条件は、50℃での30分間の逆転写段階、HotStarTaq(登録商標)DNAポリメラーゼを活性化させるための95℃での15分間の初回変性段階、および40サイクルの増幅を含んだ。各増幅サイクルには、94℃での15秒間の変性およびその後の60℃での1分間のアニーリング/伸長が含まれた。FAM(発光波長 518nm)およびVIC(発光波長 554nm)蛍光シグナルは各サイクルの終了時に記録した。閾値サイクル(Ct)は、それぞれの各実験において閾値蛍光(dR)を1000に設定することによって求めた。データの収集および解析には、Mx3000P(登録商標)バージョン2.0ソフトウェアプログラム(Stratagene, La Jolla, CA)を用いた。陽性対照は、A/イヌ/FL/242/03(H3N8)ウイルスから抽出されたRNAの増幅物から構成された。結果は、各試料についてM Ct値を対応するGAPDHのCt値で割って標準化した。
【0180】
組織からのウイルスの再分離
ウイルス接種したイヌから得られた肺および気管の凍結組織を融解して、0.5%BSAおよび抗生物質を強化した10倍量のDMEM中でホモジナイズした。遠心分離により固体の細片を除去して、上清を上記の通り1μg/mLのTPCK処理したトリプシン(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO)および抗生物質を強化したDMEMで培養したMDCK細胞に接種した。細胞は、25cm
2のフラスコを用いて5%CO
2含有加湿大気中、37℃にて培養した。培養物は形態学的変化を1日1回観察して、接種後5日に回収した。回収した培養物を遠心分離により清澄化して、上清を初回接種において記載した通り新鮮なMDCK細胞に接種し;血球凝集またはRT-PCRによりインフルエンザウイルスの証拠を示さなかった試料についてはさらに2回の継代を行った。清澄化した上清の血球凝集活性は、上記の通り0.5%シチメンチョウ赤血球(Crawfordら、2005年)を用いて測定した。RT-PCRは、下記の通り、実施した。
【0181】
RT-PCR、ヌクレオチドシーケンシング、および系統学的解析
製造業者の説明書に従ってQIAamp(登録商標)ウイルスRNAミニキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を用いて、MDCK上清からウイルスRNAを抽出した。ウイルスRNAは、QIAGEN(登録商標)一段階RT-PCRキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って使用して、cDNAに逆転写した。cDNA内の8つのインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域のPCR増幅は、汎用遺伝子特異的プライマーセット(プライマー配列は要求に応じて与えられる)を用いて既報(Crawfordら、2005年)の通り実施した。得られたDNA単位複製配列は、サイクルシーケンシングダイターミネーターケミストリー(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いたABI PRISM(登録商標)3100自動DNAシーケンサーでの自動シーケンシングのための鋳型として用いられた。ヌクレオチド配列はLasergene 6 Package(登録商標)(DNASTAR, Inc., Madison, WI)を用いて解析した。呼吸器での複製中に何らかの変化が生じたか否かを調べるために、感染犬から回収されたウイルスのヌクレオチド配列を接種物中のウイルスの配列と比較した。
【0182】
実施例12−臨床疾患
ウイルス接種された6頭のすべてのイヌが最初のp.i. 2日間に発熱(直腸温 ≧39℃)を発症したが、6日間の観察期間を通して咳または鼻分泌物などの呼吸器症状を示したものはいなかった。偽接種したイヌは臨床的に健常な状態を維持した。
【0183】
実施例13−ウイルス排出
インフルエンザAの核タンパク質がp.i. 24時間にウイルス接種したイヌの1頭から採取された口咽頭スワブで検出された。p.i. 72、84および120時間に1頭のイヌから、またp.i. 108、120および132時間にはもう1頭のイヌから採取された口咽頭スワブが定量的リアルタイムRT-PCRによりウイルスに関して陽性であった(表11)。スワブ抽出液1μL当たりのインフルエンザM遺伝子コピーの絶対数は、p.i.3日から6日まで経時的に増加した。直腸スワブには、ウイルスは検出されなかった。
【0184】
実施例14−死亡後検査
特定病原体除去ビーグルを用いた過去の実験的感染(Crawfordら、2005年)とは対照的に、ウイルス接種した雑種犬は、p.i.1日から6日までの肺の肉眼的および組織学的分析により示される通り、肺炎を発症した。肺炎に加えて、イヌは、自然感染したイヌにおける報告(Crawfordら、2005年)と同様に鼻炎、気管炎、気管支炎および細気管支炎を呈した。気道の裏打ち細胞および気管支腺に上皮の壊死およびびらんが認められ、粘膜下組織には好中球およびマクロファージの浸潤が見られた(
図5、上段)。免疫組織化学的検査により、気管支、細気管支および気管支腺の上皮細胞にウイルス性H3抗原が検出された(
図5、下段)。細菌の重複感染はなかった。2頭の偽接種犬の呼吸組織は正常であった。
【0185】
実施例15−気管および肺におけるウイルスの複製
気管および肺は、p.i. 1日から6日まですべてのイヌにおいて定量的リアルタイムRT-PCRによりウイルスに関して陽性であった(表12)。気管ホモジネート1μL当たりのインフルエンザM遺伝子コピーの絶対数はp.i. 1日から5日まで増加して、その後、6日には減少した。肺ホモジネート1μL当たりのM遺伝子コピーの絶対数はp.i. 1日から6日まで減少した。一般に、気管には6日間の各p.i.日に肺よりも≧1log
10多いウイルスが含まれた。
【0186】
(表11)定量的リアルタイムRT-PCRによる、イヌインフルエンザウイルスを接種された雑種犬の中咽頭におけるウイルス排出の検出
a A/イヌ/FL/43/04(H3N8)ウイルスの接種後の、イヌから口咽頭スワブが採取された時期。
b 標準化比は、各スワブ抽出液についてM(Ct)をGAPDH(Ct)で割って算出した。
c スワブ抽出液1μL当たりのマトリックス遺伝子コピーの絶対数。
【0187】
(表12)定量的リアルタイムRT-PCRによる、イヌインフルエンザウイルスを接種された雑種犬の気管および肺におけるウイルス複製の検出
a A/イヌ/FL/43/04(H3N8)ウイルスの接種後の、イヌから組織が採取された時期。
b 標準化比は、各組織ホモジネートについてM(Ct)をGAPDH(Ct)で割って算出した。
c 組織ホモジネート1μL当たりのマトリックス遺伝子コピーの絶対数。
【0188】
実施例16の材料および方法例
ウイルス株
イヌインフルエンザウイルス株ならびにトリ、ウマおよびヒト由来のウイルス株(表15に列記)を孵化鶏卵またはMDCK細胞で増殖させて、それらの感染性をニワトリ胚におけるエンドポイント希釈またはプラーク法により定量した。シチメンチョウ赤血球(red blood cell)の赤血球(erythrocytes)を用いた血球凝集試験により、迅速なウイルスの定量が実施された。
【0189】
診断のための標本
2005年にウイルス性呼吸器疾患が疑われる症例から採取された合計60頭のイヌの肺組織について、イヌインフルエンザウイルスの存在を調べた。
【0190】
イヌ組織試料からのRNAの抽出
20〜30mgの重量の肺組織のブロックを使い捨ての組織グラインダー(Kendal)に入れてホモジナイズした。製造業者の説明書に従って市販のキット(RNeasyミニキット、Qiagen, Valencia, CA)を用いて全RNAを抽出し、最終液量 60μLの液量で溶出した。
【0191】
プライマーおよびプローブの設計
CLUSTAL Xプログラム(バージョン1.8)を用いて、様々な亜型および多様な動物種に由来するH3およびM遺伝子のマルチプル配列アラインメントを実施した。マトリックス(M)プライマーおよびプローブはインフルエンザAウイルスの異なる亜型に対応する公知の配列を通じての保存領域より選択され、H3ヘマグルチニン遺伝子特異的なプライマーおよびプローブはウマおよびイヌインフルエンザAウイルス遺伝子に特異的にマッチして、相同のトリおよびヒト遺伝子にはミスマッチするように選択した(表13)。プライマー設計ソフトウェア(OLIGOS バージョン9.1)およびEXIQON(http://lnatools.com)より提供されるウェブ上の解析ツールをTmの算出ならびに二次構造および自己ハイブリダイゼーションの予測に使用した。18S rRNAの保存領域を、イヌ組織試料から抽出されたRNAの存在に関する内因性内部対照として使用した。Pre-Developed TaqMan(登録商標)Assay Reagents for Eukaryotic 18S rRNA(VIC/TAMRA) (Applied Biosystems)を組織試料における18S rRNAのリアルタイム検出に使用した。
【0192】
リアルタイムRT-PCRの条件
一段階定量的リアルタイムRT-PCRは、ROXをパッシブレファレンス色素として含むQuantitectプローブRT-PCRキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて実施した 各リアルタイムRT-PCR反応において、最終液量 20μL中、2X QuantiTechプローブRT-PCRマスターミックス 10μL、QuantiTech RT Mix 0.2μL、プライマー(H3遺伝子については最終濃度0.4μM、M遺伝子については最終濃度0.6μM)、プローブ(H3遺伝子については最終濃度0.1μM、M遺伝子については最終濃度0.2μM)、RNaseフリーの水を含む反応混合液と化合するための鋳型としてRNA試料の5μLを使用した。一段階リアルタイムRT-PCRはMx3005PリアルタイムQPCRシステム(Stratagene)を用いて実施した。サイクリング条件は、50℃、30分間の逆転写過程を含んだ。HotStarTaq DNAポリメラーゼを活性化するための95℃、15分間の1回目変性段階の後、増幅は変性(94℃、15秒間)およびアニーリング/伸長(60℃、30秒間)を含む40サイクルの期間中に実施された。FAM(H3およびM検出のため発光波長516nm)およびVIC(18S rRNA検出のため発光波長555nm)の蛍光シグナルはサイクル当たり1回ずつ、伸長段階の終了時に得た。リアルタイムPCRアッセイ法のデータの取得および解析はMx3005Pソフトウェア バージョン2.02(Stratagene)を用いて実施した。
【0193】
イヌインフルエンザ(H3N8)のためのH3プライマー/プローブの特異性、およびA型インフルエンザウイルスのためのMプライマー/プローブセットの汎用性
各プライマー/プローブセットの特異性について試験するために、インフルエンザAウイルスの複数の公知の亜型から抽出されたRNAをリアルタイムRT-PCRアッセイ法における鋳型として用いた(表15)。
【0194】
リアルタイムRT-PCRの性能の測定のためのRNA標準
イヌインフルエンザAウイルス(A/イヌ/フロリダ/242/2003(H3N8))の遺伝子は、T7プロモーターと結合したプライマーを用いることによってH3(nt 1〜487)およびM(nt 1〜276)のPCR単位複製配列を作出するために使用した(表13)。続いて、リボプローブインビトロ転写システム-T7(Promega)を製造業者の説明書に従って用いることによって、H3およびM遺伝子の精製PCR単位複製配列をインビトロにおける転写のための鋳型として用いた。転写されたRNAの濃度は、260nmでの吸光度を測定して算出した。次に、感受性試験を実施するためにRNAを10
8〜10コピー/μLの範囲で10倍段階希釈した。さらに、リアルタイムRT-PCRの全体の性能を調べるために、初回RNA鋳型濃度(コピー/μL)の対数を各希釈より得られた閾値サイクル(Ct)に対してプロットして標準曲線を作成した。
【0195】
リアルタイムRT-PCRおよびDirectigen Flu A検査キットの比較感受性試験
10
6.67EID
50/mL(HA=64)のA/ワイオミング/3/2003 (H3N2)および10
7.17EID
50/mL(HA=16)のA/イヌ/フロリダ/242/2003(H3N8)を含む2つのウイルス株のストックウイルスを検出閾値アッセイ法に使用した。高速インフルエンザA抗原検出キットであるDirectigen Flu A(Becton, Dickinson and Company)を製造業者の説明書に従って使用して、標本のリン酸緩衝生理食塩液(PBS)(125μL)の対数希釈を用いた。それぞれのDirectigen Flu A検査装置には膜の中央部に紫色のドットとして現れるH1N1インフルエンザ抗原スポットがあり、核タンパク質(NP)に対するモノクローナル抗体に基づいて検査の完全性が示される。ドットを取り巻く紫色の三角形の出現は、試験標本におけるインフルエンザNPの存在を示す。三角形からの紫色のシグナルの強度は、+(三角形の輪郭)、++(明るく着色した三角形)、+++(暗紫色の三角形)および++++(極めて暗紫色の三角形)としてスコア化される。ウイルスRNAはQIAampウイルスRNAミニキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて各ウイルス希釈液の125μL画分からウイルスRNAを抽出し、最終液量50μLに溶出した。抽出したウイルスRNAの5μL容量を、Directigen Flu Aキットを用いた比較感受性試験においてリアルタイムRT-PCRにより試験した。
【0196】
実施例16
イヌインフルエンザに関するリアルタイムRT-PCRアッセイ法は、宿主細胞由来の18S rRNAならびにインフルエンザAウイルスゲノム由来のMおよびH3をターゲットとする3つの分子プローブからの情報に依拠する(表14)。宿主遺伝子の増幅は標本の品質および完全性に関するレポーターである。イヌインフルエンザ(H3N8)ウイルスを含む臨床的、剖検または実験的試料は3つのプローブを用いて増幅シグナルが得られることが期待された。Mおよび18S rRNAプローブを用いた場合は増幅シグナルを与えるがH3については陰性である標本は、ヒト、ブタもしくはトリ由来、またはH3以外の亜型に由来するインフルエンザウイルスH3亜型の指標である。これらの稀なケースは、シーケンシングによって分析することができる単位複製配列cDNAを作出するためのHA汎用プライマーを用いたRT-PCRにより解決することができる。適切に採取および取り扱われたインフルエンザAウイルスを含まない標本は、18S rRNA単位複製配列シグナルのみを与える。18S rRNAプローブおよびH3プローブのみが増幅シグナルを与える状況は、そうでないことが証明されない限り、技術が不完全であることの指標であり;Mプローブでの偽陰性またはH3での偽陽性のいずれかが実証されなければならない。最後に、3つのプローブを用いて増幅シグナルを与えられない標本は、不完全な試料の採取、変性、RNA抽出の不備、またはPCRで用いられたポリメラーゼの阻害物質の存在が示唆される。
【0197】
イヌインフルエンザAウイルス(H3N8)のH3プライマー/プローブセットの特異性、およびA型インフルエンザのMプライマー/プローブセットの汎用性について調べるため、インフルエンザAウイルスの複数の亜型をリアルタイムRT-PCRにより試験した。結果は、H3プライマー/プローブセットがイヌインフルエンザ(H3N8)を用いた場合にのみ陽性の増幅シグナルを与えることを示している。その他の亜型またはヒトH3株では、顕著な偽陽性または非特異的な増幅シグナルは認められなかった。Mプライマー/プローブセットは、試験したすべての株において明確な増幅シグナルを与えた(表15)。これらの結果は、H3プライマー/プローブはイヌインフルエンザAウイルス(H3N8)を特異的に検出し、Mプライマー/プローブはA型インフルエンザウイルスの多くの亜型を検出することを示した。
【0198】
リアルタイムRT-PCRアッセイ法の性能は、MおよびH3のインビトロにおける転写RNAのエンドポイント希釈により評価した。予想通り、閾値サイクル(Ct)は、RNA標準の希釈に直接相関して増加した。蛍光シグナルは、MおよびH3のRNA標準の希釈において、それぞれ、10
3および10
2コピー/μLの低い値で検出可能である(
図6Aおよび6B)。MおよびH3遺伝子の標準曲線は、各希釈から得られた閾値サイクル(Ct)に対して開始時のRNA濃度の対数をプロットして作成した(
図6Cおよび6D)。標準曲線の勾配を用いて、理論上は指数関数的であるPCR反応効率を求め;100%増幅効率は各サイクルの単位複製配列濃度の倍化を意味する。約-3.1〜-3.6の勾配の標準曲線は、典型的には正確な定量(90〜110%の反応効率)を必要とする大半のアプリケーションにおいて受け入れ可能である。Rsq値は、標準曲線のプロットに対する全データの適合である。すべてのデータが完全に曲線上に位置する場合は、Rsqは1.00となる。データが曲線からさらに離れるに伴って、Rsqは減少する。≧0.985のRsq値は大半のアッセイ法において受け入れ可能である。M標準曲線の勾配は-3.576(効率=90.4%)、Rsq=1.00であり、H3標準曲線では勾配 -3.423(効率=95.9%)およびRsq=0.999であった。これらの値は、リアルタイムRT-PCRアッセイ法の増幅効率および全体の性能が申し分ないことを示している。本発明者らは、H3プライマー/プローブセットに比してMプライマー/プローブセットの低い効率および感度は多くの亜型、宿主および系統のウイルスを通じてのM遺伝子配列の変異性を幅広く網羅することを確保するために必要なMプライマー配列のN倍縮重が原因としている。
【0199】
リアルタイムRT-PCRアッセイ法の感度を市販の高速抗原検出アッセイ法(Directigen Flu A)とも比較した。A/ワイオミング/3/2003(H3N2)およびA/イヌ/フロリダ/242/2003(H3N8)の対数希釈をDirectigen Flu AおよびリアルタイムRT-PCRで分析した。Directigen Flu Aの結果より、双方のウイルス株に対する感受性がこれらの実験で用いられたウイルスストック株からの約100倍希釈であることが示された(
図7)。イヌウイルス(A/イヌ/フロリダ/242/2003:10
6.xPFU/ml)の試料より生じるシグナル(紫色)は、これらの試料中の低いウイルス濃度に一致して、ヒトウイルス(A/ワイオミング/3/2003:10
7.xPFU/ml)に見られるシグナルよりも極めて弱いものであった。または、イヌインフルエンザの低いシグナルはNPに対するモノクローナル抗体の分子特異性、即ち、イヌインフルエンザAウイルスのNPエピトープ内でのアミノ酸の保存が低いことによるものである可能性がある。
【0200】
M遺伝子のリアルタイムRT-PCRは、A/イヌ/フロリダ/242/2003およびA/ワイオミング/3/2003の反応当たり、それぞれ、10および30PFU当量のウイルスで閾値を上回るCt値を与えた(表16)。2つのウイルス株の感受性の値の差異は元々のウイルス力価の差異である。本発明者らのリアルタイムRT-PCRアッセイ法におけるH3プライマー/プローブは専らイヌインフルエンザAウイルスを増幅することから、イヌおよびヒトインフルエンザウイルス間のH3遺伝子検出の比較は実施されなかった。RT-PCRの感受性は、高速抗原検出キットよりも10
5倍高い値であった。
【0201】
急性呼吸器疾患のイヌから得られた剖検標本におけるRT-PCR検査の性能について評価するため、2005年に提出された60検体のイヌ肺組織試料についてリアルタイムRT-PCRによりイヌインフルエンザAウイルスの存在を調べた。60検体中合計12検体の試料(20%)がMおよびH3の双方の遺伝子について陽性であり、残りの48検体の試料はMおよびH3の双方の遺伝子について陰性の結果を示した。リアルタイムアッセイ法の特異性について調べるため、鶏卵およびMDCK細胞接種によりウイルス分離の試みを実施し;RT-PCRによりイヌインフルエンザに関して陽性であった12検体中2検体の試料からイヌインフルエンザウイルスが得られた(データは示さず、原稿準備中)。すべての組織が重度呼吸器疾患の既往を有するイヌから採取されたが、大半の試料ではリアルタイムRT-PCRまたは従来の分離のいずれによってもイヌインフルエンザウイルスは得られず、気管支敗血症菌、イヌジステンパーまたはパラインフルエンザウイルスなどのその他の呼吸器病原体の高い出現率が示唆された。本明細書における一段階リアルタイムRT-PCRアッセイ法は、イヌインフルエンザAウイルス(H3N8)検出のための高速かつ高感度の経済的なアプローチを提供する。疾患の早期段階におけるイヌインフルエンザAウイルス(H3N8)感染の迅速な検査による診断は、臨床上の患者および施設の運営管理に関連する情報を与え得る。
【0202】
(表13)リアルタイムRT-PCR検出およびインビトロ転写において用いられたプライマーおよびプローブ
*注:大文字=LNA(固定された核酸)残基、r=aまたはg、k=gまたはt、下線=T7プロモーター配列
【0203】
(表14)リアルタイムRT-PCRアッセイ法の評価
【0204】
(表15)インフルエンザAウイルスの複数の亜型を用いたイヌH3プライマー/プローブセットの特異性試験およびMプライマー/プローブセットの汎用性試験
* 臨床試料の亜型はヌクレオチドシーケンシングによって確認された点に留意されたい。
【0205】
(表16)リアルタイムRT-PCRおよびDirectigen Flu A間のインフルエンザAウイルス検出に関する比較感受性試験
【0206】
(表17)
【0207】
(表18)
【0208】
(表19)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのPB2タンパク質間のアミノ酸の相違
【0209】
(表20)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのPB1タンパク質間のアミノ酸の相違
【0210】
(表21)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのPAタンパク質間のアミノ酸の相違
* 1963年から1998年に分離されたウイルスの有効な遺伝子に基づく。
【0211】
(表22)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのNPタンパク質間のアミノ酸の相違
【0212】
(表23)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのNAタンパク質間のアミノ酸の相違
【0213】
(表24)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのM1タンパク質間のアミノ酸の相違
* 1963年から1998年に分離されたウイルスの有効な遺伝子に基づく。
【0214】
(表25)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのNS1タンパク質間のアミノ酸の相違
* 1963年から1998年に分離されたウイルスの有効な遺伝子に基づく。
【0215】
実施例17−イヌインフルエンザ刺激モデルの開発
フロリダで大流行したインフルエンザから分離されたイヌインフルエンザ(canine influenza)(イヌインフルエンザ(canine flu))ウイルスはH3N8型インフルエンザウイルスであることが観察されていて、ウマインフルエンザウイルス株であるA/ウマ/オハイオ/03と密接に関連した(Crawford et al., SCIENCE Vol. 309, September 2005、参照により全体が本特許に組み入れられる)。この試験では、イヌにおいてインフルエンザ様疾病を誘発するためにウマインフルエンザウイルス株であるA/ウマ/オハイオ/03を使用することの可能性について検討された。
【0216】
手順:
雌雄の10頭の13週齢のビーグル犬を供給業者から入手して、BSL-2施設内において個別のケージに入れて飼育した。イヌは各群5頭の2群に無作為に振り分けた。表26に示す通り、一方の群は気管内刺激に供して、他方の群は口鼻腔内刺激に供した。14週齢の時点でイヌを刺激した。
【0217】
(表26)実験設計
【0218】
細胞培養で増殖させたウマインフルエンザウイルスA/ウマ/オハイオ/03を刺激ウイルスとして使用した。気管内刺激では、刺激ウイルスは、カフ付き気管チューブ(サイズ 4.0/4.5、Sheridan, USA)および給液チューブ(サイズ 5Fr、1.7mm、長さ /16インチ、Kendall, USA)からなる送達チューブを介して、0.5〜1.0mlの液量で投与した。口鼻腔刺激では、刺激ウイルス(10
7〜10
8 TCID50/イヌ)を噴霧器(DeVilbiss Ultra-Neb(登録商標)99超音波噴霧器、Sunrise Medical, USA)を用いて2〜3mlの液量でミストとして投与した。
【0219】
刺激後14日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。標準的プロトコル(SAM 124, CVB, USDA, Ames, IA)に従ってH3N8ウマインフルエンザウイルスを用いてHI力価を測定するため、0日(刺激前)、ならびに刺激後7および14日に各イヌから血清試料を採取した。病理組織学的評価に備えて、全てのイヌを人道的に安楽死させて肺組織を10%緩衝ホルマリン中に採取した。
【0220】
結果:
この実験の結果を表27にまとめる。インフルエンザ関連性の臨床徴候が刺激後数頭のイヌにおいて観察された。これらの徴候には、発熱(>103
○F;>39.4℃)および咳嗽が含まれた。2群の5頭中1頭(即ち、20%)に比して、1群では5頭中2頭(即ち、40%)が発熱(>103
○F;>39.4℃)を示した。刺激後に口鼻腔刺激群の1頭がくしゃみを示して、もう1頭が咳嗽を示した。1群では、10〜80のHI力価範囲、幾何学平均力価(GMT)20が観察された。2群では40〜160の力価範囲、GMT 86が観察された。各群の1頭のイヌがインフルエンザと適合性するまたはインフルエンザに疾患特異的な病理組織学的病変を示した。
【0221】
(表27)イヌインフルエンザ刺激−臨床徴候、ウイルス分離、病理組織学の結果、および血清学の結果
* 動物はウマインフルエンザ分離物であるOhio 03で刺激した。
** 直腸温?≧103
○F;≧39.4℃
【0222】
実施例18−イヌにおけるウマインフルエンザウイルスワクチンの有効性
フロリダで大流行したインフルエンザから分離されたイヌインフルエンザ(イヌインフルエンザ)ウイルスはH3N8インフルエンザウイルスであることが観察されていて、配列類似性に基づいて、ウマインフルエンザウイルスのA/ウマ/オハイオ/03と密接に関連した。以下の試験は、実験的に不活化したウマインフルエンザウイルスワクチンの有効性を調べるために実施された。
【0223】
手順:
雌雄の9頭の7週齢のビーグル犬を供給業者から入手して、BSL-2施設内において個別のケージに入れて飼育した。これらのイヌは、表28に示す通り、2群に無作為に振り分けた。
【0224】
(表28)実験設計
【0225】
最初の群は、不活化してCARBIGEN(商標)でアジュバント化したウマインフルエンザウイルスA/ウマ/オハイオ/03ワクチンを8〜12週齢の時点で皮下(SQ)経路によってワクチン接種した5頭のイヌから構成された。A/ウマ/オハイオ/03は、標準的な方法を用いてバイナリーエチレンイミン(BEI)により不活化した。ワクチンの各用量には、質量に基づいて5%のCARBIGEN(商標)、不活化ウイルス 4096 HA単位、用量の総液量を1mlとするために十分なPBS、およびpHを7.2〜7.4に調整するために十分なNaOHが含まれた。H3N8ウマインフルエンザウイルス標準的プロトコル(SAM 124, CVB,USDA, Ames, IA)を用いてHI力価を測定するために、1回目および2回目ワクチン接種日、ならびに1回目および2回目ワクチン接種後7日および14日、ならびに刺激前に全てのイヌから血清試料を採取した。2回目ワクチン接種後3週に、ワクチン接種したイヌ5頭および齢期の対応するイヌ4頭からなる第2群(即ち、対照群)を細胞培養で増殖させたウマインフルエンザウイルスA/ウマ/オハイオ/03(10
7.0〜10
8.0 TCID50/イヌ)で1頭当たり1〜2mlの液量にて口鼻腔内投与により刺激した。刺激ウイルスは噴霧器(DeVilbiss Ultra-Neb(登録商標)99超音波噴霧器、Sunrise Medical, USA)を用いてミストとして投与した。刺激後14日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。病理組織学的評価に備えて肺組織を10%緩衝ホルマリンに採取するために、刺激後7日に5頭(ワクチン接種群 3頭、対照群 2頭)および刺激後14日に4頭(対照群 2頭、ワクチン接種群 2頭)のイヌを人道的に安楽死させた。
【0226】
結果:
この実験の結果を表29および30にまとめる。ワクチン接種した全てのイヌがワクチン接種後に血清転換を示した。40〜640のHI力価範囲および129のGMTがウマインフルエンザウイルスA/ウマ/オハイオ/03でのワクチン接種後期間に観察されて、イヌインフルエンザ分離物であるA/イヌ/フロリダ/242/03では160〜320のHI力価および211の幾何平均力価が観察された。6頭中2頭のワクチン接種犬が>103
○F(>39.4℃)の発熱を1日示して、刺激後、いずれのイヌにもその他の臨床徴候は観察されなかった。
【0227】
結論:
ワクチン接種した全てのイヌが不活化してCARBIGEN(商標)でアジュバント化したウマインフルエンザウイルスに反応した。イヌインフルエンザウイルス分離物を用いたHI力価の結果は、不活化したウマインフルエンザワクチンがイヌインフルエンザウイルスに対して検出可能な量の交差反応抗体を誘導したことを示唆する。この実験で用いられた刺激ウイルスがビーグル犬に注目に値するいかなる臨床的な疾病も誘発しなかったにも関わらず、イヌインフルエンザウイルス分離物を用いたHI力価に基づいて、不活化したウマワクチンは、イヌにおいて、H3N8型イヌインフルエンザウイルスによって引き起こされる「イヌインフルエンザ」疾病から潜在的にイヌを保護することができる交差反応抗体を誘導するために用いることができると結論付けられた。
【0228】
(表29)血清学−ワクチン接種前後および刺激後のHI力価
* 動物はウマインフルエンザ分離物であるOhio 03で刺激した。
** ワクチン接種にはCARBIGEN(商標)でアジュバント化した不活化ウマインフルエンザウイルスOhio 03ワクチンを使用した。
*** 刺激後7日に安楽死させた。
【0229】
(表30)イヌインフルエンザ刺激*−臨床徴候、ウイルス分離、病理組織学の結果
* 動物はウマインフルエンザ分離物であるOhio 03で刺激した。
** ワクチン接種にはCARBIGEN(商標)でアジュバント化した不活化ウマインフルエンザウイルスOhio 03ワクチンを使用した。
【0230】
実施例19−イヌにおけるウマインフルエンザウイルスワクチンの有効性
フロリダでのインフルエンザ大流行から分離されたイヌインフルエンザウイルスは、多くのH3N8型ウマインフルエンザウイルス分離物と密接に関連すると特徴付けられた。DNAおよびアミノ酸配列類似性の分析から、イヌインフルエンザウイルスはウマインフルエンザウイルスのA/ウマ/オハイオ/03と極めて類似することが示された。市販のウマインフルエンザワクチンのイヌにおける有効性を調べるために、イヌにおいて以下の試験が実施された。
【0231】
手順:
雌雄の約16カ月齢の雑種20頭およびビーグル犬20頭を試験に使用した。イヌは各群6〜7頭の6群(表31)に無作為に振り分けた。1および4群のイヌには、16および17カ月齢の時点で、市販の不活化してアジュバント化したウマインフルエンザワクチン(EQUICINE(商標), Intervet Inc., Millsboro, DE)を皮下(SQ)経路によりワクチン接種した。2および5群のイヌに修飾ウマ/ケンタッキー/91生インフルエンザワクチンを1mlの液量で鼻腔内投与(単一の鼻孔)によりワクチン接種した。標準的プロトコル(SAM 124, CVB, USDA, Ames, IA)を用いてH3N8ウマインフルエンザウイルスおよびイヌインフルエンザウイルスを用いたHI力価の測定に備えて、ワクチン接種日、1回目ワクチン接種後(1、2、4および5群)および2回目ワクチン接種後(1および4群)7および14日に血液試料を採取した。
【0232】
ワクチン接種群(最終のワクチン接種後72時間)および対照群に、細胞培養で増殖させたウマインフルエンザウイルス株であるA/ウマ/オハイオ/03(1頭当たり10
7.0〜10
8.0 TCID50)を1〜2mlの液量で口鼻腔内投与により刺激した。刺激ウイルスは噴霧器(DeVilbiss Ultra-Neb(登録商標)99超音波噴霧器、Sunrise Medical, USA)を用いてミストとしてイヌに投与した。刺激後12日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。ウイルス分離のため、刺激後−1日から12日まで毎日、抗生物質(ネオマイシンおよびポリミキシンB)を加えたEarl MEM培地に鼻腔および口咽頭スワブを採取した。スワブ中のウイルスの存在は、動物が鼻/口分泌物中にウイルスを排出していることを示す。病理組織学的評価に備えて、全てのイヌを刺激後12日に人道的に屠殺して肺組織を10%緩衝ホルマリン中に採取した。
【0233】
(表31)実験設計
* 該当なし
** EQUICINE II(商標)はIntervet Inc.より液体ワクチンとして販売されている。EQUICINE II(商標)は、不活化されたA/ペンシルバニア/63インフルエンザ(つまり、「A/Pa/63」)ウイルスおよびA/ウマ/ケンタッキー/93インフルエンザ(つまり、「A/KY/93」)ウイルスをカルボポール(即ち、HAVLOGEN(登録商標)(Intervet Inc.))と共に含む。より具体的には、EQUICINE II(商標)の1回用量は、不活化したA/Pa/63?10
6.0 EID
50、不活化したA/KY/93?10
6.7 EID
50、体積に基づく0.25%カルボポール、および1mlの総液量を作成するために十分なPBSを含む。
*** A/KY/91は水で再溶解した凍結乾燥ワクチンである。このような再溶解は、ワクチン投与量を総液量1mlとするために十分なワクチン級の水を用いて実施された。ワクチンはウマ/ケンタッキー/91インフルエンザ(つまり「A/KY/91」)ウイルスを含んだ。このワクチンについては、例えば、参照によりそれらの全体が本特許に組み入れられる米国特許第6,436,408号、同6,398,774号および同6,177,082号において考察される。再溶解した場合、ワクチンの1回用量はA/KY/91 1ml当たり10
7.2 TCID
50、N-Z AMINE AS(商標) 1ml当たり0.015g、ゼラチン 1ml当たり0.0025g、およびDラクトース 1ml当たり0.04gを含んだ。N-Z AMINE AS(商標)は、カゼインの酵素加水分解によって産生されるアミノ酸およびペプチドの精製したソースである。N-Z AMINE AS(商標)はKerry Bio-Science(Norwich, NY,USA)より販売されている。
【0234】
結果:
ワクチン接種した全てのイヌがワクチン接種後に血清転換を示して、HI力価はウマインフルエンザウイルス(H3N8型)を用いたA/KY/91ワクチン群のイヌにおける10〜40に比して、EQUICINE II(商標)ワクチン群では10〜80であった。
【0235】
イヌインフルエンザおよびウマインフルエンザウイルス(H3N8型)を用いたHI力価の測定のために、ワクチン接種後(EQUICINE II(商標)ワクチン)については2回目ワクチン接種後)2週に採取した試料を分析した。HIの結果を表32に示す。臨床徴候には、刺激後に観察された発熱(>103
○F;>39.4℃)、散発性の咳嗽、および軽度の鼻分泌物が含まれる。
【0236】
(表32)血清学−ワクチン接種後2週のHI力価
* 該当なし
【0237】
ビーグル犬では、EQUICINE II(商標)ワクチン群(1群)の6頭中2頭、A/KY/91ワクチン群(2群)の7頭中1頭および対照群(3群)の6頭中2頭が発熱を示した。3群(対照群)の6頭中1頭のイヌが0.25%ニワトリ赤血球(CRBC)を用いた血球凝集試験により鼻腔スワブ材料の細胞培養上清中にウイルスについて陽性であった。対照群(3群)の6頭中1頭およびA/KY/91ワクチン群(2群)の7頭中1頭のイヌが刺激後観察期間中に軽度の鼻分泌物を示した。ビーグル犬では、対照群およびワクチン群に統計学的有意差はなかった(P>0.05)。
【0238】
雑種犬では、EQUICINE II(商標)ワクチン群(4群)の7頭中5頭、A/KY/91ワクチン群(5群)の7頭中1頭および対照群(6群)の6頭中5頭のイヌが発熱を示した。4および6群のそれぞれ1頭のイヌが軽度の鼻分泌物を示して、5群の1頭のイヌが散発性の咳嗽を示した。EQUICINE II(商標)ワクチン群(4群)の7頭中2頭および対照群(6群)の6頭中3頭のイヌがHAアッセイ法により鼻腔スワブ中のインフルエンザウイルスについて陽性であった。A/KY/91群(5群)のイヌには、鼻腔スワブ材料中にインフルエンザウイルスに関して陽性のイヌはいなかった。
【0239】
結論:
血清学により、市販のウマインフルエンザワクチンを用いたイヌのワクチン接種は中等度のインフルエンザ抗体反応を刺激することが示された。H3N8型インフルエンザウイルスでの刺激後のイヌにおけるインフルエンザ関連性の臨床徴候の発現には、若干の品種差がある可能性がある。弱毒化生ウマインフルエンザワクチン(A/KY/91)は、雑種犬において直腸温の点で臨床的疾病の発症からの有意(P<0.05)な保護を示した。同様に、弱毒化生ウイルスワクチンは鼻分泌物中のインフルエンザウイルスの排出を予防した。
【0240】
実施例20−イヌインフルエンザ刺激モデルの開発
試験のためにイヌにおいて疾病を誘発することが成功しなかった報告書を考慮して、イヌにおけるイヌインフルエンザ刺激モデルを開発するためにイヌインフルエンザウイルスであるH3N8を用いることの可能性を以下の試験で検討した。
【0241】
手順:
10頭の雌雄の雑種犬を、市販業者から入手して、BSL-2施設にてケージで飼育した。イヌは各群5頭の2群に無作為に振り分けた。表33に示す通り、一方の群は気管内/鼻腔内刺激に供して、他方の群は供された。
【0242】
(表33)実験設計
【0243】
約12週齢の時点でイヌを刺激した。孵化鶏卵で増殖させたイヌインフルエンザウイルス(A/イヌ/フロリダ/242/03)ウイルスを刺激ウイルスとして使用した。各イヌに、合計約10
7.2 TCID50のウイルスを2ml(口鼻腔内投与)または4ml(気管内/鼻腔内投与)のいずれかの液量で投与した。
【0244】
気管内/鼻腔内刺激では、カフ付き気管チューブ(サイズ4.5/5.0、Sheridan, USA)および給液チューブ(サイズ5Fr、1.7mm;長さ 16インチ(41cm)、Kendall, USA)からなる送達チューブを用いて先ず刺激ウイルス 3mlを、次いでPBS 5mlを気管に投与して、さらにシリンジを用いて刺激ウイルス1mlおよび大気 3mlを順次、鼻孔に投与した。
【0245】
口鼻腔内刺激では、噴霧器(Nebulair(商標)、DVM Pharmaceuticals, Inc., Miami, FL)を用いて刺激ウイルスをミストとして約2mlの液量で投与した。刺激後14日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。病理組織学的検査に備えて、イヌを刺激後14日に安楽死させて、組織(肺および気管)の試料を10%緩衝ホルマリンに回収した。
【0246】
結果:
1および2群の全てのイヌが24〜48時間以内にイヌインフルエンザの臨床徴候を発症した。各イヌが以下の臨床徴候の2つまたはそれよりも多くを示した:発熱(>103.0
○F;>39.4℃)、咳嗽、漿液性または粘液膿性の眼分泌物、漿液性または粘液膿性の鼻分泌物、嘔吐、下痢、抑鬱、体重低下、空嘔吐、喀血および聴取可能なラ音。1群の5頭中5頭および2群の5頭中4頭のイヌの肺組織が以下の1つまたは複数を含む病理組織学的病変を示した:びまん性膿性気管支肺炎、腔内の好中球浸出物のプラグならびに粘膜および細気管支周辺組織における顕著な単核細胞凝集を伴う気管支炎/細気管支炎、多数の泡沫性マクロファージを伴う肺胞内の混合浸出物、リンパ細胞性および形質細胞性ならびに顆粒球性の細胞浸潤、ならびにインフルエンザウイルス感染と適合性またはインフルエンザウイルス感染に疾病特異的なII型肺細胞の増殖を伴う肺胞隔壁の肥厚。気管組織の試料は正常であった。
【0247】
結論:
本試験で用いられたもののようなH3N8イヌインフルエンザ分離物は、本試験で記載された方法または同様の方法の一つを用いてイヌにおいてイヌインフルエンザ疾病を誘発するために使用することができる。
【0248】
実施例21−イヌインフルエンザ刺激モデルの開発
イヌにおけるイヌインフルエンザ刺激モデルを開発するためのイヌインフルエンザウイルスH3N8を使用する可能性について、以下の試験でさらに詳しく検討した。
【0249】
手順:
15頭の17〜18週齢の雑種犬および5頭の15週齢のビーグル犬を市販業者から入手して、BSL-2施設においてケージで飼育した。雑種犬は、各群5頭の3群(1群〜3群)に無作為に振り分けた。ビーグル犬は全て、表34に示す通り1つの群(4群)に振り分けた。
【0250】
(表34)実験設計
【0251】
イヌを病原性イヌインフルエンザウイルスであるA/イヌ/フロリダ/242/2003(イヌインフルエンザ疾病を伴うグレイハウンドドッグの肺から分離された)(University of FloridaのDr. Cynda Crawfordより提供)で口鼻腔内投与により刺激した。刺激ウイルスは噴霧器(Nebulair(商標))を用いてミストとして約2mlの液量で投与した。刺激後14日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。
【0252】
結果:
1および4群のイヌの80%(5頭中4頭)、2および3群のイヌの100%が48時間以内にイヌインフルエンザの臨床徴候を発症した。各イヌは以下の臨床徴候の1つまたは複数を示した:発熱(>103.0
○F;>39.4℃)、咳嗽、漿液性または粘液膿性の眼分泌物、漿液性または粘液膿性の鼻分泌物、嘔吐、下痢、抑鬱、体重低下、空嘔吐およびラ音。ビーグル犬に観察された臨床徴候は一般に雑種犬に比してより軽度かつ短期間であった。
【0253】
結論:
本試験で用いられたもののようなH3N8イヌインフルエンザ分離物は、10
4.8〜10
6.8 TCID50の刺激用量範囲で、本試験で記載された方法または同様の方法を用いてイヌにおいてイヌインフルエンザ様またはケンネルコフ様の疾病を誘発するために用いられ得る。雑種犬およびビーグル犬に認められた臨床徴候にはいくつかの相違があった。一般に、ビーグル犬は雑種犬に比してより軽度のインフルエンザ関連性の臨床徴候を示す傾向がある。
【0254】
実施例22−イヌインフルエンザワクチン有効性試験
以下の試験は、H3N8ウマインフルエンザワクチンのイヌにおけるイヌインフルエンザウイルスに対する有効性を調べるために実施された。
【0255】
手順:
17頭の14週齢の雑種犬および10頭の8週齢のビーグル犬を市販業者から入手した。イヌは表35に示す通り5試験群に無作為に振り分けて、研究施設内で飼育した。
【0256】
(表35)実験設計
【0257】
この試験で用いられたワクチンはHAVLOGEN(登録商標)でアジュバント化した不活化ウマインフルエンザウイルス(A/ウマ/KY/02)ワクチンであった。このワクチンを調製するため、ウイルスは標準的方法を用いてバイナリーエチレンイミン(BEI)により不活化した。各ワクチン用量は、HAVLOGEN(登録商標)(10% v/v)、不活化ウイルス 6144 HA単位、10%チメロサール 0.1%(v/v)、フェノールレッド 0.1%(v/v)、pHを6.8〜7.2に調整するために十分なNaOH、および総投与液量を1mlとするために十分なPBSを含んだ。
【0258】
1および4群のイヌはワクチンの2回用量でワクチン接種した。2回目用量(即ち、ブースター)は1回目の4週後に投与した。2群のイヌは18週齢の時点で1回用量でワクチン接種した。1回目および2回目ワクチン接種後0日(ワクチン接種前)、7および14日に、H3N8イヌインフルエンザ分離物を用いて標準的プロトコル(例えば、SAM 124、CVB、USDA、Ames、LA)でHI力価を評価するため、血液試料を採取した。刺激約5日前にイヌをBSL-2施設に移して、個別ケージで飼育した。
【0259】
ワクチン接種群および齢期の対応する対照群の全てのイヌを、1および4群の2回目ワクチン接種後ならびに2群の1回目ワクチン接種後2週に病原性イヌインフルエンザウイルス(1頭当たりA/イヌ/フロリダ/242/2003 10
7.7 TCID50)の口鼻腔内投与により刺激した。刺激ウイルスは噴霧器(Nebulair(商標))を用いてミストとして1頭当たり2mlにて投与した。刺激後17日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。刺激後−1日(即ち、刺激前日)から17日までウイルス分離のため、ウイルス輸送培地 2mlを含む試験管に鼻腔および口咽頭スワブを採取した。病理組織学に備えて、全てのイヌを刺激後17日に安楽死させて、肺および気管の試料を10%緩衝ホルマリンに採取した。HI力価測定のため、刺激後7および14日に血液試料を採取した。刺激後観察において用いられた臨床徴候スコア割付を表36に示す。
【0260】
結果:
2回ワクチン接種群(1および4群)の全てのイヌがイヌインフルエンザウイルス分離物に対してHI抗体価反応を発現した(表37)。刺激後、全ての群において刺激後14日の力価が約4倍に増大したことは、全てのイヌが刺激ウイルスに曝露されたことを間接的に示した。全てのイヌがイヌインフルエンザの以下の徴候の1つまたは複数を発症した:発熱(>103.0
○F;>39.4℃)、咳嗽、漿液性または粘液膿性の眼分泌物、漿液性または粘液膿性の鼻分泌物、嘔吐、下痢、抑鬱、体重低下、および呼吸困難。ワクチン接種群は、齢期の対応する対照群に比して、程度の軽い臨床徴候を示した(表38)。8週齢(P=0.040)および14週齢(P=0.003)のイヌ(それぞれ、4群および1群)の双方において、2回用量のワクチン接種に起因して臨床徴候の有意な軽減が見られた。この実験では、1回用量のワクチン接種は臨床徴候の有意な軽減を示さなかった(P=0.294)(2群)。
【0261】
ウイルス分離結果を表39に示す。14週齢のイヌでは、2回用量ワクチン群(1群)の7頭中2頭(29%)、1回用量ワクチン群(2群)の5頭中3頭(60%)、および対照群(3群)の5頭中5頭(100%)のイヌから採取されたスワブ試料よりイヌインフルエンザウイルスが分離された。8週齢のイヌでは、2回用量ワクチン群(4群)の5頭中1頭(20%)および対照群(5群)の5頭中4頭(80%)のイヌからウイルスが分離された。ワクチン接種していない対照群(3および5群)に比して、2回用量ワクチン接種(1および4群)に起因してスワブ試料中のイヌインフルエンザウイルスについて陽性のイヌの数が有意な減少(P=0.003)を示した。1回用量ワクチン群(2群)および対照群(3群)においてスワブ試料中のイヌインフルエンザウイルス陽性のイヌの数に減少が見られたが(60%対100%)、差は統計学的に有意でなかった(P=0.222)。
【0262】
イヌインフルエンザ疾病と適合性または疾病特異的な病変を特定するため、病変に関して肺および気管組織試料の病理組織学的評価を行った。これには、例えば、以下の1つまたは複数が存在するかどうかの検討が含まれる:化膿性気管支肺炎を伴う領域、単核細胞凝集(リンパ球、形質細胞)を伴う気管支周囲炎/細気管支周囲炎;腔内における顆粒球細胞片のプラグの存在;呼吸上皮の過形成;多量の顆粒球細胞および細胞片を伴う肺胞における混合浸出物;(泡沫性)マクロファージ、形質細胞およびリンパ球の凝集;ならびにII型肺細胞の増殖を伴う肺胞隔壁の肥厚。
【0263】
表40は、イヌにおけるこの実験での病変の程度の総括を示す。14週齢のイヌでは、2回用量ワクチン接種群(2群)の7頭中5頭および1回用量ワクチン接種群(1群)の5頭中4頭のイヌにおいて肺病変は規模が小さくかつ程度が軽かった。対照群の全てのイヌ(3群)は重度かつ大規模な病変を示して、保護作用がないことが示唆された。14週齢のイヌでは、1回または2回用量ワクチン接種に起因する気管病変の差はなかった。8週齢のイヌでは、2回用量ワクチン接種群および対照群のイヌで肺病変に差はなかった。何らかの気管病変を示したイヌはいなかった。
【0264】
結論:
この試験の結果は以下を実証する。(1)不活化したH3N8ウマインフルエンザウイルスはワクチン接種したイヌにおいてイヌインフルエンザウイルス交差反応性のHI抗体反応を誘発することができる、(2)H3N8ウマインフルエンザウイルスワクチンの使用はイヌにおいてイヌインフルエンザウイルス疾病の程度を軽減することができる、および(3)H3N8ウマインフルエンザウイルスワクチンの使用は鼻および/または口分泌物中のウイルス排出を抑制することができる。
【0265】
(表36)臨床徴候および評点系
【0266】
(表37)血清学−血球凝集阻害力価
* 1回目ワクチン接種−1群および4群
** 2回目ワクチン接種−1群および4群;1回目ワクチン接種−2群
*** 刺激日
【0267】
(表38)総イヌインフルエンザウイルス疾病臨床スコアの分析
* SAS(登録商標)バージョン8.2のNPARIWAY法を用いて解析(ワクチン群はウィルコクソン順位和検定を用いて比較した)。
【0268】
(表39)ウイルス排出
【0269】
(表40)組織試料の病理組織学的評価
「+」 インフルエンザ感染に一致するまたは疾病特異的な重度の病変
「+/−」 軽度の病変(不明確)
「−」 正常
【0270】
実施例23−イヌインフルエンザワクチン有効性試験
イヌにおけるイヌインフルエンザウイルスに対する多価H3N8ウマインフルエンザワクチンの有効性を調べるために、以下の試験が実施された。
【0271】
手順:
17頭の15週齢のビーグル犬を市販業者から入手した。イヌは表41に示す通り3群に無作為に振り分けて、研究施設にて飼育した。
【0272】
(表41)実験設計
【0273】
この試験で使用したワクチンは、HAVLOGEN(登録商標)でアジュバント化した不活化ウマインフルエンザ(A/ウマ/KY/02、A/ウマ/KY/93およびA/ウマ/NM/2/93)ワクチンであった。このワクチンを調製するため、ウイルスは標準的な方法を用いてバイナリーエチレンイミン(BEI)により不活化した。各ワクチン用量は、HAVLOGEN(登録商標)(10% v/v)、各不活化ウイルス 2048 HA単位、10%チメロサール 0.1%(v/v)、フェノールレッド 0.1%(v/v)、pHを6.8〜7.2に調整するために十分なNaOH、および総投与液量を1mlとするために十分なPBSを含んだ。
【0274】
1群のイヌはワクチンの2回用量でワクチン接種した。2回目(即ち、ブースター)用量は1回目用量の4週後に投与した。2群のイヌは19週齢の時点でワクチンの1回用量でワクチン接種した。1回目および2回目ワクチン接種後0日(ワクチン接種前)、7および14日にH3N8イヌインフルエンザ分離物を用いて標準的プロトコルによりHI力価を評価するため、血液試料を採取した。刺激7日前にイヌをBSL-2施設に移して、個別ケージで飼育した。
【0275】
ワクチン接種群および齢期の対応する対照群の全てのイヌを、1群の2回目ワクチン接種後および2群の1回目ワクチン接種後2週に病原性イヌインフルエンザウイルス(1頭当たりA/イヌ/フロリダ/242/2003 10
7.3 TCID50)の口鼻腔内投与により刺激した。刺激ウイルスは噴霧器(Nebulair(商標))を用いてミストとして1頭当たり2mlにて投与した。刺激後14日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。病理組織学に備えて、全てのイヌを刺激後14日に安楽死させて、肺および気管の試料を10%緩衝ホルマリンに採取した。HI力価測定のため、刺激後7および14日に血液試料を採取した。刺激後観察において用いられた臨床徴候スコア割付を表42に示す。
【0276】
結果:
ワクチン接種した全てのイヌがイヌインフルエンザウイルス分離物に対してHI抗体力価反応を発現した(表43)。刺激後に、全ての群において刺激前のHI力価に比して刺激後14日のHI力価が約4倍に増大したことは全てのイヌが刺激ウイルスに曝露されたことを間接的に示す。全てのイヌがイヌインフルエンザ疾病の徴候を発症して、各イヌは以下の臨床徴候の1つまたは複数を示した:発熱(>103.0
○F;>39.4℃)、咳嗽、漿液性または粘液膿性の眼分泌物、漿液性または粘液膿性の鼻分泌物、嘔吐、下痢、抑鬱、体重低下および呼吸困難。ワクチン接種群は、齢期の対応する対照群に比して、程度の軽い臨床徴候を示した(表44)。イヌにおける2回用量のワクチン接種に起因して、臨床徴候の有意(P=0.028)な軽減が見られた(1群)。1回用量のワクチン接種は臨床徴候の有意な軽減を示さなかった(P=0.068)(2群)。
【0277】
実施例22と同じく、イヌインフルエンザ疾病と適合性または疾病特異的な病変を特定するため、病変に関して肺および気管組織試料の病理組織学的評価を行った。表45は、イヌにおけるこの実験での病変の程度の総括を示す。15週齢のイヌでは、1回用量または2回用量のイヌのワクチン接種が全てのイヌにおいて肺の病変を予防した。対照群の5頭中4頭(80%)のイヌが、インフルエンザ疾患に一致する重度の化膿性気管支肺炎を有した。2回用量のワクチン群(1群)の7頭中1頭および対照群(3群)の5頭中1頭のイヌが、インフルエンザ疾病に帰することができる気管支炎を示唆する軽度の気管支病変を有した。
【0278】
結論:
この試験の結果は、1)不活化したH3N8ウマインフルエンザウイルスがワクチン接種したイヌにおいてイヌインフルエンザウイルス交差反応性HI抗体反応を誘発することができる、および2)H3N8ウマインフルエンザウイルスワクチンの使用がイヌにおいてイヌインフルエンザウイルス疾病の程度を軽減することができることを実証する。
【0279】
(表42)臨床徴候および評点系
【0280】
(表43)血清学−血球凝集阻害力価
* 1回目ワクチン接種−1群
** 2回目ワクチン接種−1群;1回目ワクチン接種−2群
*** 刺激日
【0281】
(表44)総イヌインフルエンザ疾病臨床スコアの分析
* SAS(登録商標)バージョン8.2のNPARIWAY法を用いて解析(ワクチン群はウィルコクソン順位和検定を用いて比較した)。
【0282】
(表45)組織試料の病理組織学的評価
「+」 インフルエンザ感染に一致するまたは疾病特異的な重度の病変
「+/−」 軽度の病変(不明確)
「−」 正常
【0283】
実施例24−イヌインフルエンザワクチン有効性試験
(1)イヌにおけるイヌインフルエンザウイルスに対する一価対多価H3N8ウマインフルエンザワクチンの有効性、および(2)ワクチン有効性に対する投与経路の影響を調べるために、以下の試験が実施された。
【0284】
手順:
30頭の10週齢のビーグル犬を市販業者から入手した。イヌは表46に示す通り6群に無作為に振り分けて、研究施設にて飼育した。
【0285】
(表46)実験設計
【0286】
3種類のワクチン(VAX-1、VAX-2およびVAX-3)を使用した。VAX-1はHAVLOGEN(登録商標)でアジュバント化した不活化ウマインフルエンザウイルス(A/ウマ/KY/02)の一価ワクチンであり、各用量はHAVLOGEN(登録商標)(10% v/v)、不活化ウイルス 6144 HA単位、10%チメロサール 0.1%(v/v)、フェノールレッド 0.1%(v/v)、pHを6.8〜7.2に調整するために十分なNaOH、および総投与液量を1mlとするために十分なPBSを含んだ。VAX-2はHAVLOGEN(登録商標)でアジュバント化した不活化ウマインフルエンザウイルス(A/ウマ/KY/02)の一価ワクチンであり、ワクチンの各用量はHAVLOGEN(登録商標)(10% v/v)、不活化ウイルス 4096 HA単位、10%チメロサール 0.1%(v/v)、フェノールレッド 0.1%(v/v)、pHを6.8〜7.2に調整するために十分なNaOH、および総投与液量を1mlとするために十分なPBSを含んだ。VAX-3はHAVLOGEN(登録商標)でアジュバント化した不活化ウマインフルエンザ(A/ウマ/KY/02、A/ウマ/KY/93およびA/ウマ/NM/2/93)の多価ワクチンであり、HAVLOGEN(登録商標)(10% v/v)、株当たり不活化ウイルス 2048 HA単位、10%チメロサール 0.1%(v/v)、フェノールレッド 0.1%(v/v)、pHを6.8〜7.2に調整するために十分なNaOH、および総投与液量を1mlとするために十分なPBSを含んだ。ワクチン製剤のために用いられた全てのインフルエンザウイルスは、標準的な方法を用いてバイナリーエチレンイミン(BEI)により不活化された。
【0287】
各群のワクチンおよび投与経路を表46に示す。ワクチン接種群の全てのイヌが鼻腔内(IN)または皮下(SQ)経路を介してワクチン接種されて、各イヌは2回用量の投与を受けた。2回目(即ち、ブースター)用量は1回目用量の4週後に投与した。1回目および2回目ワクチン接種後0日(ワクチン接種前)、7および14日にH3N8イヌインフルエンザ分離物を用いて標準的プロトコルによりHI力価を評価するため、血液試料を採取した。刺激7日前にイヌをBSL-2施設に移して、個別ケージで飼育した。
【0288】
ワクチン接種群および齢期の対応する対照群の全てのイヌを、2回目ワクチン接種後2週に病原性イヌインフルエンザウイルス(1頭当たりA/イヌ/フロリダ/242/2003 10
7.4 TCID50)の口鼻腔内投与により刺激した。刺激ウイルスは噴霧器(Nebulair(商標))を用いてミストとして1日当たり2mlにて投与した。刺激後14日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。HI力価測定のため、刺激後7および14日に血液試料を採取した。病理組織学に備えて、全てのイヌを刺激後14日に安楽死させて、肺および気管の試料を10%緩衝ホルマリンに採取した。刺激後観察において用いられた臨床徴候スコア割付を表47に示す。
【0289】
結果:
ワクチンの種類に関わらず、SQ経路を介してワクチン接種された全てのイヌがイヌインフルエンザウイルス分離物に対してHI抗体価反応を発現した(表48)。ワクチンの種類に関わらず、INワクチン接種群(即ち、1、3および5群)のイヌには、ワクチン接種後期間中、イヌインフルエンザウイルス分離物に対してHI抗体価反応を発現したイヌはいなかった。しかし、全てのイヌにおいて刺激後14日までに抗体価が4倍に増加し、間接的に、全てのイヌが刺激ウイルスに曝露されたことが示された(表47)。
【0290】
全てのイヌがイヌインフルエンザの以下の臨床徴候の1つまたは複数を発症した:発熱(>103.0
○F;>39.4℃)、咳嗽、漿液性または粘液膿性の眼分泌物、漿液性または粘液膿性の鼻分泌物、嘔吐、下痢、抑鬱、体重低下、および呼吸困難。ワクチン接種群は、齢期の対応する対照群に比して、程度の軽い臨床徴候を示した(表49)。VAX-3をSQ経路によりワクチン接種されたイヌ(4群)では、臨床徴候の顕著な軽減が見られた。この実験では、VAX-1、VAX-2またはVAX-3のIN投与はイヌインフルエンザウイルスの臨床徴候における顕著な軽減を示さなかった。
【0291】
実施例22および23と同じく、イヌインフルエンザ疾病と適合性または疾病特異的な病変を特定するため、病変に関して肺および気管組織試料の病理組織学的評価を行った。表50は、イヌにおけるこの実験での病変の程度の総括を示す。対照群の5頭中5頭のイヌ(6群)がインフルエンザ感染に一致する肺病変を示した。VAX-2をSC経路でワクチン接種された5頭中2頭(2群)およびVAX-3をSC経路でワクチン接種された5頭中3頭(4群)のイヌにはいかなるインフルエンザ関連性の肺病変もなかった。ワクチンを鼻腔内経路により投与された全てのイヌが、ワクチンの種類に関わらず、インフルエンザ感染に一致する重度の肺病変を示した。この試験で観察された気管の病変は極めて軽度であった。
【0292】
結論:
この試験の結果は以下を実証する。(1)不活化したH3N8ウマインフルエンザウイルスはSQ経路を介してワクチン接種したイヌにおいてイヌインフルエンザウイルス交差反応性HI抗体反応を誘発することができる、(2)一価(VAX-1およびVAX-2)または多価ワクチン(VAX-3)のいずれの鼻腔内投与もイヌでは有効でなかった、および(3)多価ワクチン(VAX-3)の皮下投与はイヌにおいてイヌインフルエンザウイルス疾病の程度を有意(P=0.016)に軽減させた。
【0293】
(表47)臨床徴候および評点系
【0294】
(表48)血清学−血球凝集阻害力価
* 1回目ワクチン接種
** 2回目ワクチン接種
*** 刺激日
【0295】
(表49)総イヌインフルエンザ疾病臨床スコアの分析
* SAS(登録商標)バージョン8.2のNPARIWAY法を用いて解析(ワクチン群はウィルコクソン順位和検定を用いて比較した)。
【0296】
(表50)組織試料の病理組織学的評価
「+」 インフルエンザ感染に一致するまたは疾病特異的な重度の病変
「+/−」 軽度の病変(不明確)
「−」 正常
【0297】
実施例25−イヌインフルエンザワクチン有効性試験
イヌインフルエンザ疾病はH3N8インフルエンザウイルス(CIV)によって引き起こされる。CIVはウマH3N8ウイルスに非常に密接に関連して(Crawfordら、2005年)、曝露された全てのイヌに感染する。曝露されたイヌの約80%が臨床徴候を発症した。以下の試験では、不活化したH3N8ウマインフルエンザウイルスワクチンおよびイヌインフルエンザウイルスワクチンの有効性について調べた。
【0298】
手順:
35頭のビーグル犬および5頭の雑種犬がこの試験で使用された。ビーグル犬は3群に無作為に振り分けられた(表51)。雑種犬は全て、対照群(3群)に振り分けられた。全てのイヌが標準的なグロースダイエットで飼育されて、飲水は自由に与えられた。
【0299】
(表51)実験設計
【0300】
1および2群のイヌはVAX-1またはVAX-2のいずれかをワクチン接種された(表51)。VAX-1はHAVLOGEN(登録商標)でアジュバント化した不活化ウマインフルエンザウイルス(A/ウマ/KY/02)ワクチンであった。ワクチンの調製のため、ワクチンウイルスは標準的な方法を用いてバイナリーエチレンイミン(BEI)により不活化した。ワクチンの各用量は、HAVLOGEN(登録商標)(10% v/v)、不活化ウイルス 6144 HA単位、10%チメロサール 0.1%(v/v)、フェノールレッド 0.1%(v/v)、総投与液量を1mlとするために十分なPBS、およびpHを6.8〜7.2に調整するために十分なNaOHを含んだ。
【0301】
VAX-2は不活化してCARBIGEN(商標)でアジュバント化したイヌインフルエンザ抗原ワクチン(A/イヌ/Fl/43/2004)であった。A/イヌ/Fl/43/2004は、標準的な方法を用いてバイナリーエチレンイミン(BEI)により不活化した。ワクチンの各用量には、質量に基づいて5%のCARBIGEN(商標)、不活化ウイルス 約1280 HA単位、投与の総液量を1mlとするために十分なPBS、およびpHを7.2〜7.4に調整するために十分なNaOHが含まれた。H3N8ウマインフルエンザウイルス標準的プロトコル(SAM 124, CVB, USDA, Ames, IA)を用いてHI力価を測定するために、全てのイヌから1回目および2回目ワクチン接種日、1回目および2回目ワクチン接種後7日および14日、ならびに刺激前に血清試料を採取した。刺激7日前にイヌをABSL-2施設に移して、個別ケージで飼育した。
【0302】
ワクチン接種群および齢期の対応する対照群の全てのイヌを、2回目ワクチン接種後2週に病原性イヌインフルエンザウイルス(1頭当たりA/イヌ/フロリダ/242/2003 10
7.2 TCID50)の口鼻腔内投与により刺激した。刺激ウイルスは噴霧器(Nebulair(商標))を用いてミスト(2ml/イヌ)として投与した。刺激後14日間、インフルエンザ関連性の臨床徴候についてイヌを観察した。刺激後−1日(即ち、刺激前日)から14日までウイルス分離のために、ウイルス輸送培地 2mlを含む試験管に毎日、鼻腔および口咽頭スワブを採取した。HI力価測定のため、刺激後7および14日に血液試料を採取した。刺激後観察において用いられた臨床徴候スコア割付を表52に示す。
【0303】
結果:
ワクチン接種した全てのイヌ(1および2群)がイヌインフルエンザウイルス分離物に対してHI抗体価反応を発現した(表53)。全てのイヌがイヌインフルエンザの以下の徴候の1つまたは複数を発症した:発熱(>103.0
○F;>39.4℃)、咳嗽、漿液性または粘液膿性の眼分泌物、漿液性または粘液膿性の鼻分泌物、嘔吐、下痢、抑鬱、および食欲不振。ワクチン接種群は、齢期の対応する対照群に比して、程度の軽い臨床徴候を示した(表54)。VAX-1(1群)またはVAX-2(2群)のいずれかをワクチン接種したイヌにおいて、臨床徴候の有意(P<0.001)な軽減が見られた。
【0304】
ウイルス分離結果を表55および56に示す。病原性イヌインフルエンザウイルス刺激後、1群(VAX-1)の15頭中5頭(33%)、2群(VAX-2)の5頭中0頭(0%)、および対照群(3群)の20頭中17頭(85%)のイヌからイヌインフルエンザウイルスが分離された。不活化したウマインフルエンザワクチン(VAX-1)およびイヌインフルエンザウイルス(VAX-2)ワクチン接種群の双方が、対照群に比して、鼻もしくは口分泌物またはその双方においてウイルス排出の有意(P=0.004)な減少を示した(表55)。
【0305】
結論:
この試験の結果は以下を実証する。(1)不活化したH3N8ウマインフルエンザウイルスおよびイヌインフルエンザウイルスのワクチンはワクチン接種したイヌにおいてイヌインフルエンザウイルス反応性HI抗体反応を誘発することができる、(2)H3N8ウマインフルエンザウイルスまたはイヌインフルエンザウイルスワクチンの使用はイヌにおいてイヌインフルエンザウイルス疾病の程度を軽減することができる、ならびに(3)H3N8ウマインフルエンザウイルスまたはイヌインフルエンザウイルスワクチンの使用は鼻および/または口分泌物中のウイルス排出を抑制することができる。
【0306】
(表52)臨床徴候および評点系
【0307】
(表53)血清学−血球凝集阻害力価
* 1回目ワクチン接種
** 2回目ワクチン接種
*** 刺激日
【0308】
(表54)総イヌインフルエンザ疾病臨床スコアの分析
* SAS(登録商標)バージョン9.1のNPARIWAY法を用いて解析(ワクチン群はGLM法を用いて比較した)。
【0309】
(表55)刺激後のウイルス排出
* SAS(登録商標)(バージョン9.1)のFREQ法およびFisherの直接検定に関連するP値を用いて解析した。
【0310】
(表56)血清学−血球凝集阻害力価
N−口または鼻腔スワブからウイルスは分離されなかった。
P−鼻もしくは口または鼻腔および口腔のスワブからウイルスが分離された。
【0311】
(表57)インフルエンザウイルス間のヘマグルチニン、ノイラミニダーゼおよび核タンパク質遺伝子アミノ酸配列の類似性
【0312】
本特許(特許請求の範囲を含む)における「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」の語句は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。この解釈は、これらの語句が米国特許法下で与えられる解釈と同一であることを意図する。
【0313】
好ましい態様の前記の詳細な説明は、専ら当業者に発明、その原理およびその実践応用を知らせることを意図するものであり、従って、当業者は、それらが特定の使用の要件に最適であり得るように、発明を多くの形式において採用および応用することが可能である。従って、本発明は前記の態様に限定されるものではなく、様々に修正され得る。
【0314】
本明細書に記載される実施例および態様は専ら例示目的であり、その観点において様々な修正または変更が当業者に示唆されて本出願の精神および範囲内に含められるべきであることが理解されなければならない。
【0315】
参照
米国特許第5,106,739号
米国特許第5,034,322号
米国特許第6,455,760号
米国特許第6,696,623号
米国特許第4,683,202号
米国特許第4,683,195号
米国特許第4,800,159号
米国特許第4,965,188号
米国特許第5,994,056号
米国特許第6,814,934号
米国特許第6,436,408号
米国特許第6,398,774号
米国特許第6,177,082号
公開された米国特許出願第20040078841号
公開された米国特許出願第20040067506号
公開された米国特許出願第20040019934号
公開された米国特許出願第20030177536号
公開された米国特許出願第20030084486号
公開された米国特許出願第20040123349号