(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の滑り軸受組み合わせ摺動部形状について
図1により説明する。滑り軸受の摺動面は、回転軸1に嵌合固定した回転軸スリーブ側摺動部材2と、この回転軸スリーブ側摺動部材2を回転摺動自在に嵌合させる固定
軸側摺動部材3とで構成され、その固定
軸側摺動部材3には冷却流体通過溝4が設けられている。
【0003】
固定
軸側摺動面での冷却流体通過溝4は、滑り軸受の摺動運転中に生ずる発熱を防止するための摺動面に対する潤滑液の供給、及び、摺動部材冷却のために必要不可欠であるが、従来の滑り軸受組み合わせでは、その冷却流体通過溝4は、円筒一体形状の固定
軸側摺動部材の摺動面を加工して設けた冷却流体通過溝4や、
図2に示すような分割型摺動部材5を内面円周上に配置する方式では、摺動部材間の間隔、間隙6を調整して設けられていた。
【0004】
特に回転機械としてポンプを例にとると、荷液に土砂等の固形粒子を含む気液混合流体を扱う
ポンプでは、滑り軸受の固定
軸側摺動面に面して冷却流体通過溝が配置されていると、摺動面隙間と連続した冷却流体通過溝から
軸受隙間部に浸入した硬質固形粒子によって、摺動面での異物噛み込みが発生し摺動面の摩耗が顕著になる。
そのため、摩耗抑制のために摺動面材料にはセラミックスのような硬質材料が不可欠であるが、硬質材料故の脆性によって様々な衝撃に極めて弱いという欠点があった。
【0005】
極めて滑らかな摺動面をもつ流体潤滑を前提とした滑り軸受において、摺動面に途切れない流体被膜が形成されていれば、極めて安定した摺動特性を有するものであるが、固体粒子を含む気液混合流体中で摺動運転を行う場合、
摺動面隙間と連続した冷却流体通過溝から軸受隙間部に浸入した硬質固形粒子によって、摺動面において潤滑を司る流体被膜が欠損し、固定
軸側摺動部材と回転軸側スリーブ側摺動部材が直接接触を起し、固形粒子による摺動面の異状摩耗、
異状発熱によって回転軸に過度な熱膨張を生じ、固定
軸側摺動面と回転軸スリーブ側摺動面の間の隙間である軸受隙間が著しく減少し、最終的に両摺動面が固着して軸受機能を完全に失う事も少なくない。
【0006】
このように、滑り軸受においては、破壊要因となる軸受摺動面における発熱を抑制する必要がある。発熱の抑制は、固定
軸側摺動部材摺動面と回転軸スリーブ側
摺動部材摺動面の摺動により発生する摺動発熱を小さくするための、低い摩擦係数を実現するための加工精度の向上、摺動体材料の組み合わせの選択等による潤滑能力の向上、並びに、発生した熱を速やかに除去する冷却能力の強化が必要となる。
【0007】
従来の滑り軸受における潤滑能力と冷却能力の強化向上には、摺動面に設ける冷却流体通過溝が大きな役割を有している。冷却流体通過溝の流路断面積が大きくなる程に摺動面に多くの冷却流体を供給することができ冷却効果は向上するが、軸受摺動面への土砂等の固形粒子の異物介在物の侵入が多くなり、結果的に軸受摺動面の激しい摩耗を招くという欠陥を生じることとなる。
【0008】
更に、従来の滑り軸受における摺動部材の組み合わせにおいて、潤滑摺動特性を改善する目的として自己潤滑物質である黒鉛粒子を供給させるために軸受摺動部材に自己潤滑性を有する崩落性材料である黒鉛を用いた金属軸スリーブ/黒鉛軸受が提案されている。
【0009】
しかし、この組み合わせでは、無潤滑条件下においては黒鉛軸受から供給される固形潤滑成分である黒鉛粒子による効果によって或る程度は使用可能であっても、長時間の無潤滑条件下における摺動運転では、回転軸スリーブ側摺動部材である金属の大きな線膨張係数による外径の膨張を抑えることが困難であるため、滑り軸受破壊の大きな原因である軸受隙間の喪失を招き、また、スラリー混入条件下においては滑り軸受摺動面に設けられた冷却流体通過溝からの異物、固形粒子等を噛み込み、土砂摩耗現象によって崩落性材料である黒鉛軸受側の摺動面が著しく摩耗損傷される。
【0010】
他方、従来の滑り軸受における摺動部材の組み合わせのうち、摺動部材に超硬質材料を用いた組み合わせ摺動部材の代表例である超硬合金軸スリーブ/セラミック軸受の場合においても、スラリー混入条件下及び極短時間の無潤滑条件下においては使用可能であっても、長時間の無潤滑条件下によって引き起こされる超硬合金軸スリーブの摺動発熱による異常膨張で生じる抱き付きによる破壊、或いは無潤滑運転により高温状態となった摺動部材に対する急激な冷却液流入に伴う熱衝撃によって、高温化した摺動部材に急激かつ著しい破損を伴うという、滑り軸受を用いる回転機械の安定稼働の確保には致命的な問題点があった。
【0011】
特に超硬合金等の超硬質材料を一体ムク構造として回転軸スリーブ側摺動部材に用いる場合は、滑り軸受の無潤滑摺動による回転軸スリーブ側摺動部材の発熱と膨張によって引き起こされる軸受隙間の喪失状態となって抱き付き状態に達し、回転軸スリーブ側摺動部材が破壊するか、或いは、回転軸スリーブ側摺動部材を保持固定している線膨張係数の大きな金属製回転軸の熱膨脹により、円筒形状の回転軸スリーブ側摺動部材が引っ張り破断により破壊され、摺動時間に応じて徐々に進行する通常の摩耗とは異なる回転軸スリーブ側摺動部材の急激な形状喪失を起こし、滑り軸受としての機能を喪失し全く使用不可能という問題点があった。
【0012】
一般に、無潤滑摺動条件及びスラリー条件下における耐摩耗性の確保と摺動発熱の抑制には、組み合わせ摺動部材では高硬度耐摩耗材料を用い摺動表面における表面状態を非常に滑らかにすることが重要であるが、固定
軸側摺動部材、回転軸スリーブ側摺動部材に一体ムク構造の高硬度材料を用いると、高硬度材料の特性である脆性による材料の急激な破壊を招くという問題を解決するに到っていない。
【0013】
また、セラミックス材料の急激な脆性破壊を嫌い、その代わりに固定
軸側摺動部材に回転方向に繊維補強を施した複合材料を用いる例も検討されており、無潤滑条件下における摺動性は改善されているが、無潤滑摺動を行う場合、無潤滑摺動時間が長ければ回転軸スリーブ側摺動部材の熱膨張による軸受の抱き付き現象が生じたり、無潤滑摺動時間が短くとも固定
軸側摺動部材である補強繊維材料の析出、剥離、脱落が発生し、摺動時間による摺動表面性状の安定化が実現出来ておらず回転機械の安定稼働には多くの課題を残す状況にあり、要求を充たすまでに到っていない。尚、先行文献を調査したが、本願発明に類似のものは見付けられなかった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図3は本発明の
実施形態に係わる滑り軸受組み合わせ摺動部材の
参考展開図を示す。この組み合わせは固定
軸側摺動部材の摺動表面7に冷却流体を通過流路を全く有さないことを特徴とする
、炭素材料に比較して熱膨張係数の大きい金属製の固定
軸側摺動部材8と、容積率で50%以上の
金属に比して熱膨張係数の小さい炭素材料からなり、回転軸方向に炭素繊維布材料12を積層成型させ摺動表面において炭素繊維端面14が露出した炭素繊維積層炭素系複合材料を用いる事を特徴とする回転軸スリーブ側摺動部材9を用いたものである。
【0024】
ここで使用する固定軸側摺動部材8としてステンレス鋼SUS316をみると、その熱膨張係数は16.1×10
−6/℃であり、炭素繊維布材料を回転軸方向に積層成型させ摺動表面において炭素繊維端面が露出した回転軸スリーブ側摺動部材9の半径方向の熱膨張係数は0.8〜1.1×10
−6/℃であり、両者間に15〜20倍の開きがあるが、回転軸スリーブは金属製回転軸1に嵌合固定してあるため金属製回転軸1の熱膨張の影響を受けるため
、この金属製回転軸1と炭素繊維積層炭素系複合材料で製作した回転軸スリーブ側摺動部材9を含む回転軸全体の熱膨張量が固定軸側摺動部材8の熱膨張量を上まわらないようにする必要がある。
【0025】
このため、回転軸スリーブ側摺動部材9肉厚の決定に際して考慮すべきは、軸受の使用状態における固定軸側、
並びに回転軸側の両摺動部材の温度上昇値である。軸受運転中の摺動部材の温度は、部材の熱容量と構造上定まる放熱の経路による影響を受け、滑り軸受けでは一般に構造上の制約により、回転軸スリーブ側摺動部材9の温度上昇値は、固定軸側摺動部材8の温度上昇値の2〜3倍と大きいことを確認しているので、軸受の想定用途における無潤滑摺動時間と固定軸側
摺動部材、及び
回転軸側摺動部材各々の膨張量の推定、金属製回転軸1と回転軸スリーブ側摺動部材9との嵌合代、摺動部材の弾性率等を勘案して回転軸スリーブ側摺動部材9の肉厚をはじめ、その他の寸法諸元を決定することになる。
【0026】
ここで金属製の固定
軸側摺動部材8と、回転軸スリーブ側摺動部材9に炭素繊維積層炭素系複合材料を用いた、この滑り軸受組み合わせ摺動部材は、従来例の組み合わせに比較して、無潤滑摺動を含む長時間の摺動運転によって、発熱による寸法変化が生じたとしても、上記記載のように、固定
軸側摺動部材8の内径の拡大が回転軸スリーブ側摺動部材9の外径の拡大を上回るために、滑り軸受における機能喪失に繋がる抱き付き現象に到らないことである。
【0027】
本発明の次なる特徴は、スラリー条件下における土砂摩耗に対する耐摩耗性を確保するた
め、固定
軸側摺動部材8の摺動表面7に軸受冷却に不可欠とされる冷却流体通過溝や流路を、固定
軸側摺動部材摺動面の溝以外の箇所で確保しようとするものである。一般の滑り軸受では、固定
軸側摺動部材8及び、回転軸スリーブ側摺動部材9に非常に高硬度の材料を用い、摺動面を非常に滑らかにして潤滑を司る流体被膜を安定的に形成させようとするが、本発明の滑り軸受では、流体被膜にによる摺動面の潤滑に頼らず、回転軸スリーブ側摺動部材9に用いる容積率50%以上を占める黒鉛材料の潤滑性を利用するものである。
【0028】
更に、脆い黒鉛材料を摩耗の進行しやすいスラリー条件下で使用するために、固定
軸側摺動部材8の摺動表面7と回転軸スリーブ側摺動部材9の摺動表面の間には、摩耗を促進する固形粒子が入り込まないように、冷却流体通過溝を有さないことが特徴である。
【0029】
なお、回転軸スリーブ側摺動部材9として用いる炭素繊維積層炭素系複合材料中の炭素繊維の強化形態としては、回転軸方向に炭素繊維材料12を積層成型させ摺動表面13において炭素繊維端面14が露出した炭素繊維強化炭素系複合材料以外の形態、例えば炭素繊維を回転方向に巻き上げて成形し摺動面表面において炭素繊維側面が露出した形態の炭素繊維強化炭素系複合材料を固定
軸側摺動部材として、超硬合金又はセラミックスと組み合わせる組み合わせ摺動部材は、長期間の摺動に伴う回転軸スリーブ側摺動部材の摺動面性状が安定的に確保できず、滑り軸受の破壊の進行も急激に進行するために、回転軸スリーブ側摺動部材9の摺動表面13に炭素繊維端面14が回転軸スリーブ側の摺動面全面に分散して露出していることが必須である。
【0030】
この炭素繊維積層炭素系複合材料の熱膨張を支配する線膨張係数は、炭素繊維積層炭素系複合材料の表面処理を施した材料、或いは金属含浸による複合化材料を含んだものであっても0.8〜1.3×10
−6/℃であり、繊維を円筒の外周方向に巻き付けて成型したものの熱膨張係数7.4〜8.4×10
−6/℃より格段に小さい。
【0031】
このことからも、炭素繊維材料を円筒の外周方向に巻き付けて成型した回転軸スリーブ側の摺動部材を組み合わせると、無潤滑摺動運転時の発熱によって、軸受隙間の減少が大きく、軸受両摺動面の固着の可能性が高いことが判る。
【0032】
炭素繊維積層炭素系複合材料を回転軸スリーブ側
摺動部材に用いる場合は、摺動面を不連続に存在する炭素繊維端面14とすることにより、無潤滑摺動運転の連続による局所的な摺動部位における凝着現象を局部のみの現象に留め、スラリー条件下において発生する土砂摩耗による回転軸スリーブ側
摺動部材の摺動表面13の炭素繊維端面の損壊が生じても、新たなる炭素繊維端面14が摺動面に露出することによる摺動表面状態の安定性が確保可能であり、局部的な破壊が段階的に進行する点において、従来の一体ムク構造で滑らかな摺動表面を有する高硬度材料を用いるものと異なっている。
【0033】
以上のことから、清水はもちろん土砂を含むスラリー、無潤滑状態となる空気、液体の状態変化による蒸発気体が発生する揮発性液体を取り扱う回転機械の滑り軸受組み合わせ摺動部材として極めて有用である。
【0034】
図4は本発明の
実施形態に係わる滑り軸受組み合わせ固定
軸側摺動部材の概念図を示す。
図4に示すように、固定
軸側摺動部材8の摺動表面7の背面近傍に冷却流体通過流路10を
規則正しく複数個設けるものは、特に高粘度液体中や異物、固形粒子等を大量に含んだスラリー流体中のような摺動発熱が過剰な状態において、摺動熱を奪い去る流量の確保と、摺動面近傍に接近する異物、固形粒子を迂回排出させる点に優れている。
【0035】
滑り軸受が流体中で摺動運転する際の摺動熱の除去には、固定
軸側摺動部材8の摺動表面7の背面近傍に設ける冷却流体通過流路10の断面積によって決まる冷却流量が極めて重要な因子となる。
【0036】
本発明では、熱伝導性の優れた金属材料を
固定軸側摺動部材8に用いるために、固定
軸側摺動部材8の本体内部に設ける冷却流体通過流路10は、滑り軸受全体の温度上昇を抑制するのに極めて有効である。更に、摺動隙間近傍に大きな断面積の冷却流体通過孔10を有するために、固定
軸側摺動部材の摺動表面7と回転軸スリーブ側
摺動部材の摺動表面13の間の狭い摺動隙間自体には固形粒子が侵入し難い特徴もあり、更に、固定
軸側摺動部材の摺動表面7は完全に連続した面から形成されているために、
前記摺動表面7に発生する流体被膜の欠損も生じにくい特徴を持つ。
【0037】
言い換えれば、異物、固形粒子等の大きな迂回経路を確保し、摩耗原因となる異物、固形粒子の摺動表面への進入を防ぎ、摺動表面に形成される潤滑を司る流体被膜の欠損を防ぐと共に、発生した摺動熱を速やかに除去することと、両立している点で非常に優れた特徴を持っている。
【0038】
尚、この冷却流体通過通路10は、
図4に示すように、一体で製作した固定
軸側摺動部材8の摺動表面7の背面近傍にドリル穴を
規則正しく複数個、等間隔に配置することにより構成することができる。
【0039】
更に、
図7に示すように、固定
軸側摺動部材を、内径側に摺動表面7を持つリング状の摺動環16と、この摺動環16を嵌合保持する固定軸受保持具17で構成し、固定軸受保持具17の内径側にスプライン形状の冷却流体通過流路10を配置することによっても実現可能である。
【0040】
勿論、
図8に示すように、固定
軸側摺動部材を、内径側に摺動表面7を持つリング状の摺動環18と、この摺動環18を嵌合保持する固定軸受保持具19で構成し、このリング状の摺動環18の外径側にスプライン形状の冷却流体通過流路10を配置することによっても可能である。
【0041】
図5は本発明の
実施形態に係わる滑り軸受組み合わせ摺動部材の
参考展開図を示す。
図5のような固定
軸側摺動部材8の摺動表面7にセラミックス溶射処理被膜11を選択する組み合わせは、高濃度スラリー下での摺動条件において耐摩耗性を確保し、更に、無潤滑摺動による軸受隙間の喪失にともなう抱き付き状態において、固定
軸側摺動部材摺動面の発熱による膨脹量を被溶射母材金属8の大きな線膨張係数によって与えることが可能であり、容積率50%以上の黒鉛材料からなる回転軸スリーブ側摺動部材9の外径の膨脹量以上に確保させることにより抱き付きを遅延させるものであり、特に連続的な無潤滑摺動における抱き付き時間を大きくする点に優れている。
【0042】
更に、固定
軸側摺動部材8の摺動表面7を溶射処理被膜11により高硬度化するために、単質ムク材料である超硬合金又はセラミックスを用いる場合に比較して、溶射処理によって摺動表面硬度を得るというプロセスは低コスト化に大きく貢献するものである。
【0043】
溶射、並びに、蒸着、メッキという表面被膜処理では、被膜の摺動進行方向に直角な端面部位からの剥離が進行するが、金属材料製で摺動表面に冷却流体通過溝を持たない滑り軸受では、摺動表面となる溶射部位には摺動進行方向に直角な端面部位が存在せず、使用過程における処理表面被膜の剥離が進行し難いという大きな特徴を持っている。
【0044】
図6は本発明の
実施形態に係わる滑り軸受組み合わせ摺動部材の
参考概念図を示す。
図6は回転軸スリーブ側摺動部材9として、容積率50%以上の黒鉛を有する炭素繊維積層炭素系複合材料で構成される回転軸スリーブ側摺動部材9の摺動表面13に露出している炭素繊維端面14の炭素(C)に、金属、例えばチタニュウム(Ti)を蒸着処理することにより、高硬度の金属炭化物15a(TiC)を炭素繊維端面14に生成するとか、或いは、摺動部材9の炭素繊維隙間15bにシリコン(Si)の塩浴含浸処理により硅素炭化物(SiC)を生成するなど、摺動表面13の高硬度化により回転軸スリーブ側摺動部材9の耐摩耗性を著しく改善するという特徴を有している。
【0045】
ここに、上記
図3乃至
図8に開示した本発明の滑り軸受組み合わせ摺動部材を、
図9の縦型渦巻ポンプ、および
図10の縦型斜流ポンプにそれぞれ実施した場合の有用性について説明する。
【0046】
先ず、
図9に示す縦型渦巻ポンプにおいては、上記本発明の滑り軸受組み合わせ摺動部材を、インペラシャフト21をポンプケーシング22内部で支える荷液潤滑型滑り軸受23として使用している。本来、この渦巻ポンプは運転中に滑り軸受設置部位の圧力が減圧状態となるが、この種の渦巻ポンプを精製油搬送用のプロセスポンプやタンカーの荷役ポンプポンプのように高い吐出圧力が必要で、取り扱う液体がガソリン、ナフサ、アセトン、メタノール等の潤滑液体が気化する低蒸気圧の揮発性液体で使用する場合には、ポンプ内羽根車の入口近傍における回転軸付近が断続的な気化状態となることから、滑り軸受には非常に高い無潤滑摺動特性を要求されるが、本発明によりこの問題を解消できる。
【0047】
すなわち、本発明による無潤滑滑り軸受組み合わせ摺動部材を上記ポンプをはじめとする回転機械の滑り軸受に適用すれば、優れた無潤滑摺動特性、耐熱衝撃性、耐摩耗性を確保でき、通常運転環境において無潤滑摺動等の危険性を持ちながら使用されている回転機械に大きな信頼性を与えることができる。
【0048】
その他の用途に用いた本発明の滑り軸受組み合わせ摺動部材としては、
図10に示すように土砂スラリー等を取り扱う縦型の斜流ポンプに用いる。この斜流ポンプでは、ポンプ内水位が上昇する迄に気中無潤滑運転に曝される部位となるインペラシャフト24の中間軸受設置部位25に優れた無潤滑摺動特性、耐熱衝撃性、耐摩耗性を持つ本発明の滑り軸受組み合わせ摺動部材を中間軸受として装着すると、潤滑用の注水装置が不要になり、また、長時間の土砂摩耗に曝されるインペラ保持部26に、本発明の滑り軸受組み合わせ摺動部材を下部軸受として装着することにより、土砂スラリー潤滑条件下で使用する上記下部軸受の耐磨耗性を充分に確保することができる。
【0049】
特に長時間の無潤滑摺動特性を確保することは、前述した先行待機空運転が強要されるポンプにおける先行待機許容時間の長時間化、先行待機空運転中における滑り軸受機能喪失の抑止に大きな効果を与えることが可能となる。
【0050】
このような先行待機空運転が強要されるポンプの用途としては都市防災用の排水ポンプがある。このポンプは都市洪水を防止するために地下に設置される雨水タンク内の排水を迅速に行うため、雨水タンク内水位が極めて低い状態においてもポンプは先行待機空運転が行われるために、ポンプ内に用いられる滑り軸受には極めて高い無潤滑摺動特性と、雨水タンク内水位の急激な上昇によって高温化した滑り軸受に作用する熱衝撃に耐えうる耐熱衝撃性が必要とされる。
【0051】
更に公共性を有する設備に用いられるポンプ故に求められる非常に大きな信頼性を、本発明による滑り軸受用組み合わせ摺動部材は急激に破壊が進行しないという特長によって確保することが可能となる。
【0052】
それ以外の用途としては、極低温下で使用され潤滑媒体の供給が困難な部位で使用されるポンプ、電動機、スクリュー向けの滑り軸受として、或いは減圧環境となる雰囲気で使用されるポンプ、電動機、スクリュー向けの滑り軸受としての適用可能性を有する。
【0053】
ここに、本発明の軸受組み合わせ摺動部材の実用性を明らかにするために行った滑り軸受摺動部材の摺動実験装置および試験内容について説明する。
【0054】
図11は本発明の軸受組み合わせ摺動部材における滑り軸受摺動部材の摺動実験装置を示す。この実験装置によって行った試験は、既存する様々な組み合わせ摺動部材を用い、清水雰囲気、スラリー雰囲気、無潤滑雰囲気及び無潤滑域から急激な潤滑液流入を繰り返し行う使用環境下での、摺動特性と破壊形態を調査した。その結果、本発明の滑り軸受組み合わせ摺動部材によるものが非常に優れていることが判明した。
【0055】
すなわち、縦型の滑り軸受実験装置は上部の電動機27によってトルク検出器28を介して回転軸29が回転するようにしてある。上記回転軸29は上部軸受30と下部供試軸受31によって回転自在に保持している。その下部供試軸受31の摺動部位には、回転軸29に着脱自在に固定した供試回転軸スリーブ32が、摺動回転できるように挿入してある。
【0056】
上部軸受30と下部供試軸受31の中間位置には偏芯荷重発生用円板33を装着しており、この円板33には振れ回り荷重を発生させるための偏芯おもり34が半径方向に調節移動自在に固定してある。この偏芯おもり34を取り付けた円板33を上記回転軸29と共に回転させて、下部供試軸受31に振れ回りの軸受荷重を与える構造としてある。
【0057】
また、上記下部供試軸受31は前後左右に移動自在の供試軸受設置箱35内に取外し自在に固定しており、その供試軸受設置箱35を一方向から加圧する拘束用の油圧ライン36により、下部供試軸受31に対して半径方向荷重を加えるようにしてある。また、供試軸受設置箱35の両端には振れ回りラジアル荷重計測用に左側ロードセル37および右側ロ−ドセル38を設置して軸受荷重を計測するようにしてある。
【0058】
さらに、下部供試軸受31の摺動状態を把握するために、上記左右のロードセル37、38による計測荷重、トルク検出器28による負荷トルクの他に、下部供試軸受31の近傍における回転軸29の振れ回り変位を計測するための変位計39、供試軸受設置箱35の振動加速度を計測するための振動加速度計40、供試軸受設置箱35内に設置された下部供試軸受31内部の各部温度計測用の上部温度計41,および下部温度計42がそれぞれ設置してある。さらに供試軸受設置箱35には、スラリー等潤滑媒体の供給ライン43を接続してある。
【0059】
この滑り軸実試験装置31によって行った摺動試験においては、下部供試軸受は内径100ミリメートル、摺動長さ60ミリメートルの部位での回転摺動を行い、摺動面圧0.2MPa×摺動速度6m/secの無潤滑摺動による抱き付き限界時間の計測と限界時破壊形態の確認試験によって得られたデータを下記表1に示す。
【0061】
また、摺動面圧0.075MPa×摺動速度6m/secの摺動条件下において、1サイクルを1時間の無潤滑摺動を連続で行い、回転軸の回転を止めることなく潤滑液としてスラリーを急速流入させスラリー潤滑摺動を、1時間継続する摺動試験を繰り返す断続的無潤滑摺動試験による耐久性の評価を行った。この試験によって得られた抱き付き限界時間の計測と限界時破壊形態の確認試験によって得たデータを下記表2に示す。
【0063】
使用した材料の材質等は次の通りである。
固定軸側摺動部材としては、ステンレス鋼(SUS)の一体構造で製作したもの、鋼材の内側摺動表面を超硬合金(WC)溶射で形成したもの、超硬合金(WC)チップを分割配置したもの、炭化硅素(SiC)、及び、窒化硅素(Si
3N
4)の一体構造で製作したもの、一体構造の鋼材の内側摺動表面にジルコニア(ZrO
2)、クロミア(CrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)等を溶射して形成したもの、並びに、炭素繊維糸を軸スリーブの回転方向に糸巻状に巻き上げて成型した炭素繊維糸強化炭素系複合材料(表内略称:糸巻繊維)であり、
一体構造(記号A、B、F〜J、R、S)で製作したものは、
固定軸側摺動部材の摺動面の背面近傍に、冷却流体の通過流路を
規則正しく複数個配置している。
【0064】
回転軸スリーブ側摺動部材としては、炭素繊維布を
回転軸スリーブの軸方向に積層成形した炭素繊維布積層炭素系複合材料(表内略称:積層繊維)、この炭素繊維布積層炭素系複合材料に蒸着処理によりチタン炭化物を生成したもの(表内略称:+TiC化)、塩浴含浸処理により炭化硅素を生成したもの(表内略称:+SiC化)、或いは、炭素繊維布積層炭素系複合材料内部の空孔部分に炭素と親和性の良い金属を含浸処理したもの(表内略称:+金属含浸)、炭素繊維糸を軸スリーブの回転方向に巻き上げて成形した炭素繊維糸強化炭素系複合材料(表内略称:糸巻繊維)と、炭素繊維布を軸スリーブの回転方向に巻き上げて成形した炭素繊維布強化炭素系複合材料(表内略称:板巻繊維)、並びに、超硬合金材料としては、90%のWCを含有し残部にNiを含有する非磁性超硬合金(軸スリーブ肉厚として6ミリメートル、14ミリメートルの2種類)である。
【0065】
表1並びに表2中の記号A、B、FからJ及び、R,Sが本発明の滑り軸受摺動部材の組み合わせであり、記号C,D,E,及び、KからQが従来の摺動部材の組み合わせである。
【0066】
なお、評価欄の記号は、
◎:試験終了段階において充分に再使用可能
○:前記試験において、実用上使用可能
△:前期試験において、条件によっては使用可能
×:前期試験において、使用不可能
を意味し、摩擦係数、耐摩耗性、材料破壊特性の因子を異常抱き付き状態再現試験、無潤滑断続運転試験によって総合的に評価した結果を示すものである。
【0067】
これら実験から、無潤滑摺動条件下での摺動形態は、固定
軸側摺動部材の内側摺動面と回転軸スリーブ側
摺動部材の外側摺動面が各々どのような形態によるかによって分類できることが明かとなった。無潤滑摺動における摺動は局所的な接触を繰り返すことから、摺動における疲労を受ける局所を分散化することが摺動特性の安定化には有効に作用することが判るが、摩耗が進行しても摺動面の性状に変化を与えないためには、本発明のように回転軸スリーブ側摺動部材に容積率50%以上を占める炭素材料として、回転軸方向に網目状炭素繊維布材料を積層成型して、炭素繊維端面が摺動面に露出する構造とすることが有効である。但し、摺動方向と平行に炭素繊維が巻き上げられている構造では、無潤滑摺動下において作用する応力が繊維を緩める方向に作用するため、長期間の無潤滑摺動には適さないことが明かである。
【0068】
このように様々な摺動面状態の組み合わせの内、固定
軸側摺動部材の摺動表面に冷却流体の通過流路を設けない完全な連続面で形成し、
固定軸側摺動部材の摺動面の背面近傍に、冷却流体の通過流路を規則正しく複数個配置しているものを選定し、回転軸スリーブ側摺動部材に炭素繊維端面が露出した摺動部材を選定した組み合わせは、他の形態の組み合わせ摺動部材に比較してスラリー雰囲気においても摺動状態の変化が微小で安定した摺動運転が可能であり、又、無潤滑摺動の継続によって引き起こされる固定
軸側摺動部材の内側摺動面と回転軸スリーブ側摺動部材
の外側摺動面の抱き付きに至った後の状態も、摺動材料の著しい損傷を引き起こさないという特徴を有している。
【0069】
このように、本発明による固定軸側摺動部材の摺動表面に冷却流体の通過流路を設けない完全な連続面で形成し、
固定軸側摺動部材の摺動面の背面近傍に、冷却流体の通過流路を規則正しく複数個配置しているものを選定し、回転軸スリーブ側
摺動部材に炭素繊維布を積層成型した炭素繊維布積層炭素系複合材料を用いた組み合わせ摺動部材は、珪砂スラリーによる土砂摩耗に対する耐摩耗性はもちろん、連続的な熱衝撃負荷状態においても極めて安定的な挙動を示し、断続運転後の材料状態もほぼ完全に初期の状態を保ち、破壊の形態も緩やかな摩耗の進行に抑えられることを確認した。
【0070】
なお、固定
軸側摺動部材に摺動方向に炭素繊維糸を巻き上げて成型した炭素繊維糸強化炭素系複合材料を用い、回転軸スリーブ側に炭素繊維布積層炭素系複合材料を用いた組み合わせ摺動部材では、表1中の記号Kによる結果から明かなように、摺動表面における面状態が固定
軸側、回転軸スリーブ側
両摺動部材共に滑らかでないことによる異常な摩擦係数による発熱と抱き付きによって、早期の段階で滑り軸受が機能を失うことを確認した。
【0071】
無潤滑摺動を含む評価試験によって破壊した各種材料の分析から、滑り軸受における固定軸受及び回転軸スリーブの破壊形態を評価すれば、摺動部材は摩耗の穏やかな進行を行うものとは異なり、固定
軸側摺動部材の破損は、スラリー混入運転時には、軸受け摺動隙間へのスラリー侵入による摺動部材のクラック、剥離であり、又、無潤滑運転時では、抱き付き時における局部的凝着(焼き付き)による熱衝撃によるものであり、回転軸スリーブ側摺動部材の破損は、異常温度上昇による
回転軸スリーブ内
の金属軸の熱膨張による回転軸スリーブへの引っ張り応力負荷による破断、摺動方向に巻かれた炭素繊維の剥離、無潤滑摺動状態による摺動表面における凝着摩耗による形状喪失によることを確認した。
【0072】
本発明による滑り軸受組み合わせ摺動部材は、旧来の滑り軸受組み合わせ摺動部材に比較して、高荷重摺動条件下においても非常に長い無潤滑摺動状態の維持を可能とし、無潤滑摺動と液中摺動の繰り返しによる材料破壊を抑制し、無潤滑摺動条件及びスラリー条件を含む長時間の摺動においても摩耗の進行が極めて緩やかであり、固定
軸側摺動
部材内周面と回転軸スリーブ側摺動
部材外周面の抱き付き状態に到達する際の摺動部材の破壊が、滑り軸受全体の破壊に及ばないことを確認した。
【0073】
本発明によって、旧来の組み合わせ摺動部材に比較して優れた無潤滑摺動特性、耐熱衝撃特性、抱き付き時における破壊遅延特性を有しているが、これらを最良の形で実現する形態としては、
図5に示すように、固定
軸側摺動部材8の摺動表面7にセラミックス溶射処理被膜11を選択する組み合わせは、高濃度スラリー下での摺動条件において耐摩耗性を確保し、更に、無潤滑摺動による軸受隙間の喪失にともなう抱き付き状態において、固定
軸側軸受内径の発熱による膨脹量を被溶射母材金属8の大きな線膨張係数によって与えることが可能であり、容積率50%以上の黒鉛材料からなる回転軸スリーブ側摺動部材9の外径の膨脹量以上に確保させることにより抱き付きを遅延させるものであり、特に連続的な無潤滑摺動における抱き付き時間を大きくする点に優れている。
【0074】
更に、固定
軸側摺動部材8の摺動表面7を溶射処理被膜11により高硬度化するために、単質ムク材料である超硬合金又はセラミックスを用いる場合に比較して、溶射処理によって摺動表面硬度を得るというプロセスは低コスト化に大きく貢献する。
【0075】
なお、回転軸スリーブ側摺動部材9として用いる炭素繊維積層炭素系複合材料中の炭素繊維の強化形態としては、回転軸方向に炭素繊維材料12を積層成型させ摺動表面13において炭素繊維端面14が回転軸スリーブ側の摺動面全面に分散して露出していることが必須であり、更に、その炭素繊維端面14に高硬度の金属炭化物15(TiC)を生成すしたものを選定することである。
【0076】
このように無潤滑条件下、或いは土砂等スラリーを有する液中、及び断続的に無潤滑状態が発生する条件下においても、安定的な摺動挙動を示し、回転機械の即時停止を誘発するような大規模破壊挙動を示すことのない性質を有していることが明らかとなり、本発明による滑り軸受組み合わせ摺動部材を用いることは、低コストの材料を用いて滑り軸受の信頼性の向上に大きな効果を発揮する。更に旧来の注水装置が必要不可欠な立軸ポンプにおける注水装置の省略等にも非常に大きな性能的経済的優位性を付与することが可能となるものである。
【0077】
本発明は以上のように構成されるため、
この発明によれば、断続的な無潤滑状態を含む長期間の摺動によっても、従来例のゴム軸受、セラミックス軸受等を利用したものと比較して、耐抱き付き性、耐焼き付き性、耐熱衝撃特性に優れており、水中での摺動はもちろん土砂スラリー下における摺動、断続的に空気中に曝される無潤滑摺動、或いは揮発性液体中における蒸発気体中摺動においても長期間安定的に使用可能な滑り軸受組み合わせ摺動部材として極めて有用である。
【0078】
例えば、意図的に先行待機空運転が強要される雨水排水用先行待機空運転ポンプ、ガソリン、メタノール揮発性液体を荷液として取り扱う薬液ポンプ内部軸受等への利用が考えられる。
【実施例1】
【0079】
適用例を示せば、
図9のように縦型渦巻ポンプのインペラシャフトをポンプケーシング内部で支える荷液潤滑型滑り軸受23として適用可能である。このような渦巻ポンプにおいて、運転状態における滑り軸受設置部位における圧力は、減圧状態となる場合が極めて多く、ポンプが取り扱う液体が揮発性であるガソリン、ナフサ、アセトン、メタノール等の場合、軸受設置部位における潤滑液体は状態変化により気化する場合が多く、通常の滑り軸受摺動部材組み合わせでは断続的な気中運転となり、滑り軸受の抱き付きによる破損が多発している問題を解決することが可能となる。
【実施例2】
【0080】
その他の用途としては、
図10のように土砂スラリー等を取り扱う縦型の斜流ポンプのポンプ内水位が上昇する迄に滑り軸受が気中無潤滑運転に曝される部位となるインペラシャフトの中間軸受部位25、或いは長時間の土砂摩耗に曝されるインペラ保持部における軸受部位26においても、特別な注水装置を不要とした構造で利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明による無潤滑滑り軸受組み合わせ摺動部材を、ポンプをはじめとする回転機械の滑り軸受に適用することによる、優れた無潤滑摺動特性、耐熱衝撃特性、耐摩耗特性を確保できることは、通常運転環境において、無潤滑摺動等の危険性を持ちながら使用されている回転機械に大きな信頼性を与えることが可能となる。
【0082】
特に長時間の無潤滑摺動特性を確保することは、前述した先行待機空運転が強要されるポンプにおける先行待機許容時間の長時間化、先行待機空運転中における滑り軸受の機能喪失の抑止に大きな効果を与えることが可能となる。
【0083】
このような先行待機空運転が強要されるポンプの用途としては、都市洪水を防止するために地下に設置される雨水タンク内の排水を迅速に行うため、雨水タンク内水位が極めて低い状態においてもポンプは先行待機空運転が行われるために、ポンプ内に用いられる滑り軸受には極めて高い無潤滑摺動性能と、雨水タンク内水位の急激な上昇によって高温化した滑り軸受組み合わせ摺動部材に作用する熱衝撃に耐えうる耐熱衝撃特性が必要とされる。
【0084】
更に公共性を有する設備に用いられるポンプ故に求められる非常に大きな信頼性を、本発明による滑り軸受組み合わせ摺動部材は急激な破壊が進行しないという特徴によって確保することが可能となる。
【0085】
また通常の渦巻きポンプにおいて、特に高い吐き出し圧力が要求されポンプ内羽根車の回転数が大きく設計されたポンプでは、滑り軸受設置位置近傍が負圧条件下に曝されるため、潤滑液体が気化するような低蒸気圧の揮発性液体を取り扱うポンプでは、ポンプ内羽根車の入口近傍における回転軸付近が断続的な気化状態となることが明らかとなっており、滑り軸受には非常に高い無潤滑摺動特性が要求されている。
【0086】
このような高い吐き出し圧力を持ち、揮発性液体を取り扱うポンプは、石油精製工場における精製油搬送用のプロセスポンプや、石油精製によって得られた精製油を運搬するタンカーの荷役ポンプ等が挙げられる。
【0087】
更に縦型の非常に長い羽根車駆動軸を有するポンプの駆動軸用中間軸受としても、ポンプ起動によるポンプ内水位が上昇する前段階に、中間軸受部が曝される無潤滑摺動状態においても滑り軸受部における信頼性向上に大きな利点を与えることが可能となる。
【0088】
それ以外の用途としては、極低温下で使用され潤滑媒体の供給が困難な部位で使用されるポンプ、電動機、スクリュー向けの滑り軸受として、或いは減圧環境下となる雰囲気で使用されるポンプ、電動機、スクリュー向けの滑り軸受としての適用可能性を有する。
【0089】
本発明による滑り軸受組み合わせ摺動部材は、
ポンプ荷液を軸受冷却に積極的に活用することを前提に、低い摩擦係数による摺動発熱の抑制を計り、軸受隙間を長期間安定的に確保することを可能とするものである。本発明による滑り軸受組み合わせ摺動部材を産業機械に適用する場合、摺動部分における冷却手段を従来の流体軸受のように大きな冷却能力を確保する潤滑液体による冷却に頼る必要性が生じないことから、強制空冷を施すか、或いは滑り軸受における放熱を促進する機構等の他の簡便な冷却手法を援用して、摺動部分における発熱を奪う手法を確保することで、
安定的な滑り軸受を実現することが可能となる。数多くの産業機械に適用される滑り軸受において流体潤滑を行う設備類の省略が可能となるもので回転機械類全般に対して大きな可能性を有する。