特許第5974416号(P5974416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974416
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】ワイヤ駆動機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 19/02 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
   F16H19/02 K
   F16H19/02 H
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-277754(P2011-277754)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-130202(P2013-130202A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】永井 清
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏司
(72)【発明者】
【氏名】林 叔克
(72)【発明者】
【氏名】レ ナット タム
【審査官】 村上 聡
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−055976(JP,U)
【文献】 特開2011−101938(JP,A)
【文献】 特開平05−228770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる所定位置に固定された状態で、それぞれ異なる移動用ワイヤの巻き取りが自在な複数のワイヤ巻取手段と、該複数のワイヤ巻取手段によってそれぞれ進退動作する前記移動用ワイヤが接続され、前記移動用ワイヤの進退動作によって移動する可動部と、前記それぞれの移動用ワイヤの長さ誤差を調整するための弾性部材と、を備えるワイヤ駆動機構であって、
前記複数のワイヤ巻取手段は、それぞれ前記可動部から離された前記それぞれの所定位置に設けられ、
前記可動部は、可動部台座と、該可動部台座に回転自在に支持され、前記それぞれの移動用ワイヤからの張力によって回転する回転体とを備え、
前記弾性部材は、前記それぞれの移動用ワイヤからの張力によって前記回転体に作用するトルクと所定の回転角度で釣り合うように復元力を生じ、
前記可動部台座上には、回転自在且つ前記それぞれの移動用ワイヤの張力が作用する方向に所定距離だけ直線移動可能な第1プーリを少なくとも1つ備え、
前記それぞれの所定位置のうち、前記第1プーリと対応する所定位置には、前記ワイヤ巻取手段が2個固定され、該2個のワイヤ巻取手段は、前記第1プーリを介してそれぞれの前記ワイヤ巻取手段に取り付けられるまでの前記移動用ワイヤの通り道の長さが変化しないように、その通り道間において前記移動用ワイヤが平行になるように配置され、前記2個のワイヤ巻取手段によって進退動作する前記移動用ワイヤは、前記第1プーリに対して回転力及び張力方向へ直線移動させるための並進力が作用するように取り付けられていることを特徴とするワイヤ駆動機構。
【請求項2】
前記可動部は、2個のリンク部材によって伸縮可能に構成されるアーム機構と、一方の前記リンク部材の一端側に回転自在に設けられ、且つ前記第1プーリの回転及び直線移動に連動するように該第1プーリと同軸に連結される第2プーリと、前記一方のリンク部材の他端側と他方のリンク部材の一端側とを回転自在に連結する連結軸に設けられ、且つ前記第2プーリと同一径を有する第3プーリと、前記第2プーリ及び前記第3プーリ間に張架される第1連動用ベルト又は第1連動用ワイヤと、前記第3プーリの回転と連動するように該第3プーリと同軸に連結され、且つ前記第3プーリと同一径を有する第4プーリと、前記他方のリンク部材の他端側に回転自在に設けられ、且つ前記4プーリと同一径を有する第5プーリと、前記第4プーリ及び前記第5プーリ間に張架される第2連動用ベルト又は第2連動用ワイヤと、前記第5プーリから出力される回転を減速させる減速機構とを有する内部動作機構を備えることを特徴とする請求項に記載のワイヤ駆動機構。
【請求項3】
前記可動部台座上には、1対の第1プーリと、該1対の第1プーリの中心軸に一端がそれぞれ取り付けられる1対のワイヤと、前記1対のワイヤの他端がそれぞれ同一方向へ回転させるためのトルクを作用させるように取り付けられる第6プーリと、前記1対の第1プーリの並進運動と連動して前記移動用ワイヤの張力が作用する方向へ所定距離だけ直線移動可能な姿勢拘束部材とが設けられており、
前記所定位置に配置される前記2個のワイヤ巻取手段のうちの一方のワイヤ巻取手段に一端が取り付けられる前記移動用ワイヤは、一方の第1プーリを介して前記他方のワイヤ巻取手段に他端が取り付けられ、前記他方のワイヤ巻取手段に一端が取り付けられる前記移動用ワイヤは、他方の第1プーリを介して前記一方のワイヤ巻取手段に他端が取り付けられ、
前記2個のワイヤ巻取手段から前記1対の第1プーリ間には、一方が前記可動部の外部に固定され、他方が前記可動部台座上に設けられる1対のガイドプーリが4組設けられており、
該1対のガイドプーリは、前記一方のワイヤ巻取手段から前記一方の第1プーリを介して前記他方のワイヤ巻取手段へと案内される一方の移動用ワイヤと前記他方のワイヤ巻取手段から前記他方の第1プーリを介して前記一方のワイヤ巻取手段へと案内される他方の移動用ワイヤとの通り道の長さが前記2個のワイヤ巻取手段による前記それぞれの移動用ワイヤの巻き取り長さによって相対的に変化することなく、且つ前記1対のガイドプーリ間において前記それぞれの移動用ワイヤが平行になるように配置され、
前記第6プーリの回転は、前記回転体に伝えられることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤ駆動機構。
【請求項4】
両側にそれぞれガイドプーリが設けられたリンク部材と、該リンク部材を前記姿勢拘束部材の移動可能方向と直交する方向へ変位させるアクチュエータとを備え、
前記1対のワイヤの一方は、前記1対の第1プーリの一方から前記第6プーリ間において一方の前記ガイドプーリを介して走行するように設けられ、前記1対のワイヤの他方は、前記1対の第1プーリの他方から前記第6プーリ間において他方の前記ガイドプーリを介して走行するように設けられることを特徴とする請求項に記載のワイヤ駆動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のワイヤを用いて可動部を動作させるワイヤ駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から一般的なワイヤメカニズムとしては、図14に示すように、複数のワイヤ100が同一の可動部101に接続され、複数のワイヤ100を固定されたモータ102等を用いて巻き取ることにより可動部101を移動させるものが知られている。また、可動部101にハンド部103等のような付加的な機構を設けることにより、ピックアンドプレイス等の様々な作業を行わせることができる。
【0003】
このようなワイヤメカニズムの利点としては、ワイヤを長くすることが可能であるので、ロボットアーム等を用いた場合に比べて大きな動作範囲を確保しやすいことがある。また、可動部を軽量化することができるので、高速性や高加速性にも適している。
【0004】
一方、ワイヤメカニズムでは、大きな動作範囲を移動する際に要求される高速性の他に移動先にて様々な作業を行うために高精度性が要求される。例えば、図14のようなワイヤメカニズムを用いて、ピックアンドプレイス動作を行うような場合には、図15に示すように位置P2及びP3を含む領域Bでは、ワーク104が置かれている位置P1へと移動するため、又は把持したワーク104を位置P4へと運ぶために高速性が要求されるが、位置P1又は位置P4を含む領域Aではワーク104を正確に把持するため、又はワーク104を正確な場所に置くために高精度な動作が要求される。
【0005】
また、ワイヤメカニズムでは、引っ張り力しか発生できないため、可動部の動作制御には、可動部の運動成分に1を加えた数のワイヤが必要となることが知られている。従って、3次元空間の中で可動部を動かすには、位置の3成分と姿勢の3成分の計6成分に1を加えた7本のワイヤが必要になる。非特許文献1では、3次元空間において可動部に接続された7本のワイヤを巻き取るために7個のモータを用いた高速性重視のワイヤメカニズムについて開示されている。また、非特許文献1では、可動部にワイヤがn+1本張られているワイヤメカニズムが、Vector Closure(ベクタークロージャー)の条件を満たせば、可動部をn次元空間において動作させる任意の合力を生成できることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】川村貞夫、崔源、田中訓、木野仁、「パラレルワイヤ駆動方式を用いた超高速ロボットFALCONの開発」、日本ロボット学会誌、Vol.15、no.1、pp.82−89、1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来のワイヤメカニズムでは、可動部の動作制御には、可動部の運動成分に1を加えた数のワイヤが必要となるため、それぞれのワイヤの長さに不整合が生じると、ワイヤの長さ制御における位置誤差により、ワイヤの張力が過大になったり、弛んだりする。そのため、高精度な動作生成が実現し難いという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような種々の課題に鑑みてなされたものであって、それぞれのワイヤの長さに違いがあるような場合でも、その誤差を吸収することができるワイヤ駆動機構を提供することを目的とする。また、状況に応じて高加速性及び高精度性に適した動作を実現することができるワイヤ駆動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載のワイヤ駆動機構は、異なる所定位置に固定された状態で、それぞれ異なる移動用ワイヤの巻き取りが自在な複数のワイヤ巻取手段と、該複数のワイヤ巻取手段によってそれぞれ進退動作する前記移動用ワイヤが接続され、前記移動用ワイヤの進退動作によって移動する可動部と、前記それぞれの移動用ワイヤの長さ誤差を調整するための弾性部材と、を備えるワイヤ駆動機構であって、前記複数のワイヤ巻取手段は、それぞれ前記可動部から離された前記それぞれの所定位置に設けられ、前記可動部は、可動部台座と、該可動部台座に回転自在に支持され、前記それぞれの移動用ワイヤからの張力によって回転する回転体とを備え、前記弾性部材は、前記それぞれの移動用ワイヤからの張力によって前記回転体に作用するトルクと所定の回転角度で釣り合うように復元力を生じ、前記可動部台座上には、回転自在且つ前記それぞれの移動用ワイヤの張力が作用する方向に所定距離だけ直線移動可能な第1プーリを少なくとも1つ備え、前記それぞれの所定位置のうち、前記第1プーリと対応する所定位置には、前記ワイヤ巻取手段が2個固定され、該2個のワイヤ巻取手段は、前記第1プーリを介してそれぞれの前記ワイヤ巻取手段に取り付けられるまでの前記移動用ワイヤの通り道の長さが変化しないように、その通り道間において前記移動用ワイヤが平行になるように配置され、前記2個のワイヤ巻取手段によって進退動作する前記移動用ワイヤは、前記第1プーリに対して回転力及び張力方向へ直線移動させるための並進力が作用するように取り付けられていることを特徴としている。
【0012】
請求項記載のワイヤ駆動機構は、前記可動部が、2個のリンク部材によって伸縮可能に構成されるアーム機構と、一方の前記リンク部材の一端側に回転自在に設けられ、且つ前記第1プーリの回転及び直線移動に連動するように該第1プーリと同軸に連結される第2プーリと、前記一方のリンク部材の他端側と他方のリンク部材の一端側とを回転自在に連結する連結軸に設けられ、且つ前記第2プーリと同一径を有する第3プーリと、前記第2プーリ及び前記第3プーリ間に張架される第1連動用ベルト又は第1連動用ワイヤと、前記第3プーリの回転と連動するように該第3プーリと同軸に連結され、且つ前記第3プーリと同一径を有する第4プーリと、前記他方のリンク部材の他端側に回転自在に設けられ、且つ前記4プーリと同一径を有する第5プーリと、前記第4プーリ及び前記第5プーリ間に張架される第2連動用ベルト又は第2連動用ワイヤと、前記第5プーリから出力される回転を減速させる減速機構とを有する内部動作機構を備えることを特徴としている。
【0013】
請求項記載のワイヤ駆動機構では、前記可動部台座上には、1対の第1プーリと、該1対の第1プーリの中心軸に一端がそれぞれ取り付けられる1対のワイヤと、前記1対のワイヤの他端がそれぞれ同一方向へ回転させるためのトルクを作用させるように取り付けられる第6プーリと、前記1対の第1プーリの並進運動と連動して前記移動用ワイヤの張力が作用する方向へ所定距離だけ直線移動可能な姿勢拘束部材とが設けられており、前記所定位置に配置される前記2個のワイヤ巻取手段のうちの一方のワイヤ巻取手段に一端が取り付けられる前記移動用ワイヤは、一方の第1プーリを介して前記他方のワイヤ巻取手段に他端が取り付けられ、前記他方のワイヤ巻取手段に一端が取り付けられる前記移動用ワイヤは、他方の第1プーリを介して前記一方のワイヤ巻取手段に他端が取り付けられ、前記2個のワイヤ巻取手段から前記1対の第1プーリ間には、一方が前記可動部の外部に固定され、他方が前記可動部台座上に設けられる1対のガイドプーリが4組設けられており、該1対のガイドプーリは、前記一方のワイヤ巻取手段から前記一方の第1プーリを介して前記他方のワイヤ巻取手段へと案内される一方の移動用ワイヤと前記他方のワイヤ巻取手段から前記他方の第1プーリを介して前記一方のワイヤ巻取手段へと案内される他方の移動用ワイヤとの通り道の長さが前記2個のワイヤ巻取手段による前記それぞれの移動用ワイヤの巻き取り長さによって相対的に変化することなく、且つ前記1対のガイドプーリ間において前記それぞれの移動用ワイヤが平行になるように配置され、前記第6プーリの回転は、前記回転体に伝えられることを特徴としている。
【0014】
請求項記載のワイヤ駆動機構は、両側にそれぞれガイドプーリが設けられたリンク部材と、該リンク部材を前記姿勢拘束部材の移動可能方向と直交する方向へ変位させるアクチュエータとを備え、前記1対のワイヤの一方は、前記1対の第1プーリの一方から前記第6プーリ間において一方の前記ガイドプーリを介して走行するように設けられ、前記1対のワイヤの他方は、前記1対の第1プーリの他方から前記第6プーリ間において他方の前記ガイドプーリを介して走行するように設けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載のワイヤ駆動機構によれば、それぞれの移動用ワイヤの長さに誤差がある場合でも、弾性部材によってその誤差を吸収することができるので、ワイヤの張力が過大になったり、弛んだりし難く、安定した可動部の動作生成を実現することができる。
【0016】
請求項記載のワイヤ駆動機構によれば、可動部に接続されたそれぞれの移動用ワイヤからの張力によって可動部に設けられた回転体に作用するトルクと弾性部材の復元力は、回転体が所定角度回転したところで釣り合うため、それぞれの移動用ワイヤの長さ制御における位置誤差があっても、その誤差を吸収することができるので、ワイヤの張力が過大になったり、弛んだりし難く、且つ移動用ワイヤからの張力によって可動部に加速度が生じたような場合でも可動部は移動用ワイヤに遅れることなく移動することができるので、より安定した可動部の動作生成を実現することができる。
【0017】
請求項記載のワイヤ駆動機構によれば、所定位置に2個のワイヤ巻取手段を設けているため、可動部に作用する合力をより大きくして可動部の動作を生成することができるので、可動部の高速性や高加速性を実現することができる。
【0018】
請求項記載のワイヤ駆動機構によれば、第1プーリが中心位置から並進移動してアーム機構が伸縮したとしても、第1連動用ベルト(第1連動用ワイヤ)及び第2連動用ベルト(第2連動用ワイヤ)を介して伝えられる回転の動きには影響しないので、第1プーリの並進位置の誤差の影響を受けることなく第1プーリの回転の動きを第5プーリから出力することができる。また、第5プーリから出力される回転を減速させる減速機構を設けているので、それぞれの移動用ワイヤの長さに誤差があるような場合でも、当該誤差により生じる第1プーリの回転誤差を減速比分だけ軽減させて出力することができる。これにより、可動部を静止させたまま、可動部上に設けた内部動作機構により微細な動作を生成することができるので、様々な動作を高精度に実現することができる。
【0019】
請求項記載のワイヤ駆動機構によれば、可動部の姿勢については拘束し、可動部の並進動作のみを高速動作の対象とするので、可動部の高速性を維持したまま、ワイヤ巻取手段の数を軽減させることができる。また、可動部上に内部動作機構を設けることにより、姿勢制御を行うことができるので、高精度な動作を生成することができる。
【0020】
請求項記載のワイヤ駆動機構によれば、移動用ワイヤが有する弾性によって可動部の姿勢に振動が生じた場合でも、アクチュエータによってリンク部材に力を加えることで微細に姿勢を制御することができるので、防振又は制振を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態に係るワイヤ駆動機構の一例を示す概略模式図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係るワイヤ駆動機構の一例を示す概略模式図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係るワイヤ駆動機構の内部動作機構の一例を示す概略模式図である。
図4】内部動作機構の一例を示す概略斜視図である。
図5】第1プーリと第2プーリの関係について説明するための概略斜視図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係るワイヤ駆動機構の一例を示す概略模式図である。
図7】本発明の第4の実施形態に係るワイヤ駆動機構の一例を示す概略模式図である。
図8】可動部の姿勢の拘束について説明するための概略説明図である。
図9】移動用ワイヤを案内するためのガイドプーリの構造の一例について説明するための概略斜視図である。
図10】3次元空間を対象としたワイヤ駆動機構の外観の一例を示す概略斜視図である。
図11】本発明の第5の実施形態に係るワイヤ駆動機構の一例を示す概略模式図であって、(a)は可動部上に弾性部材を設けたワイヤ駆動機構を示しており、(b)は移動用ワイヤの途中に弾性部材を設けたワイヤ駆動機構を示している。
図12】ワイヤ駆動機構の張力によって発生する力とモーメントについて説明するための概略説明図。
図13】1本のワイヤにワイヤ巻取手段を2個用いた場合の高加速性機構における力とモーメントについて説明するための概略説明図。
図14】従来技術におけるワイヤメカニズムの一例を示す概略模式図である。
図15】ワイヤメカニズムを用いたピックアンドプレイス動作を説明するための概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るワイヤ駆動機構の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明の第1の実施形態に係るワイヤ駆動機構1は、x成分の1自由度の並進運動を対象としたものであり、図1に示すように、それぞれx軸と平行な直線上の異なる所定位置に固定された2個のワイヤ巻取手段2と、該それぞれのワイヤ巻取手段2によって進退動作する2本の移動用ワイヤ3が接続される可動部4とを備えている。
【0023】
ワイヤ巻取手段2は、移動用ワイヤ3の巻き取り又は送り出しを行うためのものであって、例えば、モータ5を回転させることにより該モータ5の回転軸6に連結されたワイヤ巻き取り用のプーリ7が回転して移動用ワイヤ3を巻き取るように構成されている。
【0024】
可動部4は、それぞれの移動用ワイヤ3の進退動作によって移動するものである。図1に示すように、この可動部4は、可動部台座8と、それぞれの移動用ワイヤ3の張力T1、T2によって可動部台座8上をそれぞれx軸方向に所定距離だけ直線移動可能な2個のラック9と、該それぞれのラック9の移動に伴って、可動部台座8に回転自在に支持される回転軸Oを中心に回転するピニオン10と、該ピニオン10と共に回転するように回転軸Oに連結されるプーリ等からなる回転体11と、該回転体11に一端が接続され、他端が可動部台座8上の壁(不図示)等に固定されたばね部材(弾性部材)12とを有している。
【0025】
2個のラック9は、図1に示すように、それぞれピニオン10の直径分の距離だけ間隔をあけて平行になるように可動部台座8上に設けられている。このラック9は、詳しくは図示しないが可動部台座8に設けられたリニアガイド等によって所定距離だけx軸方向に直線移動できるように構成されている。
【0026】
ピニオン10は、それぞれのラック9とギアが噛み合うように可動部台座8上の回転軸Oに回転自在に支持されており、移動用ワイヤ3の張力が作用することによりラック9が直線移動し、それに伴って回転軸Oを中心に回転する。また、このピニオン10の回転と共に回転体11が連動して回転することにより、該回転体11に一端が接続されているばね部材12が伸縮して復元力fが生じる。
【0027】
このような構成を備えたワイヤ駆動機構1では、図面上左側に位置する移動用ワイヤ3の張力T1と右側に位置する移動用ワイヤ3の張力T2により発生する合力fの関係は、下記の数式(1)に示すように表わされ、この合力fによって可動部4がx軸方向に並進運動することになる。但し、fは左側の移動用ワイヤ3の張力Tによってラック9の接続点に作用する力、ベクトルeは張力Tが作用する方向を示す単位ベクトル、fは右側の移動用ワイヤ3の張力Tによってラック9の接続点に作用する力、ベクトルeは張力Tが作用する方向を示す単位ベクトルである。尚、ワイヤ駆動機構1では、x成分の1自由度の並進運動を対象としているので、ベクトルe=1、ベクトルe=−1となり、合力fは数式(1)のように張力の差で表わされる。
【数1】
【0028】
また、ばね部材12の復元力f、及びそれぞれの移動用ワイヤ3の張力T、Tとの関係は、下記の数式(2)に示すように表わされる。但し、Rはピニオン10の半径、Rは回転体11の半径、Kはばね定数、Δxはばね部材12の変位である。数式(2)に示すように、復元力fは、張力Tと張力Tの和にピニオン10と回転体11の半径比R/Rkを掛けたものになる。この半径比R/Rkの値は一定であるため、張力Tと張力Tの和を一定に保つことにより、復元力fを一定値に保つことができ、それぞれの移動用ワイヤ3に長さ誤差が生じたとしてもその誤差を吸収することができると共に回転体11は加速動運動においても回転せずに済むので、安定した可動部4の動作生成を実現することができる。尚、半径Rが小さいプーリ等を用いた場合には、ばね部材12は剛性の大きいものを用いることになる。このようなワイヤ駆動機構1による合力f及び復元力fは、数式(1)、(2)から下記の数式(3)のように表わすことができる。
【数2】
【数3】
【0029】
このワイヤ駆動機構1では、数式(3)のwは下記の数式(4)に示すように、階数が1である。また、それぞれの駆動用ワイヤ3の張力T、Tを正の張力で同じ大きさTI0とした場合には、下記の数式(5)が成り立つ。従って、本実施形態に係るワイヤ駆動機構1は、Vector Closure(ベクタークロージャー)の条件を満たすことになり、x成分の1自由度の並進運動において任意の合力fを出力することができる。また、その場合の復元力fは、下記の数式(6)に示すように一定となる。尚、Vector Closure(ベクタークロージャー)の条件については、非特許文献1に開示されている条件を満たしているか否かを判断しており、ここではその詳細な説明については省略する。尚、ワイヤ駆動機構1では、2個のラック9をそれぞれ同一のピニオン10と噛み合うように可動部台座8上に設けているが、ピニオン10と同一の回転軸Oに回転自在に支持される半径の異なるピニオンを別途設けて、当該ピニオンに一方のラック9を噛み合わせるにように構成しても良い。
【数4】
【数5】
【数6】
【0030】
次に、本発明の第2の実施形態に係るワイヤ駆動機構1aについて、図2図5を参照しつつ説明する。このワイヤ駆動機構1aは、可動部4の高加速性・高速性を向上させるためのものであり、第1の実施形態に係るワイヤ駆動機構1と同様の構成等については、同一の符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0031】
ワイヤ駆動機構1aは、図2に示すように、それぞれの所定位置に2個ずつワイヤ巻取手段2が固定されている。また、可動部台座8には、それぞれの移動用ワイヤ3の張力が作用するx軸方向に所定距離だけ直線移動可能な2個の第1プーリ13がそれぞれの所定位置に固定された2個のワイヤ巻取手段2と対応するように設けられている。
【0032】
ワイヤ駆動機構1aの移動用ワイヤ3は、一方のワイヤ巻取手段2から第1プーリ13を介して他方のワイヤ巻取手段2へ取り付けられている。また、第1プーリを介してそれぞれのワイヤ巻取手段2に取り付けられるまでの移動用ワイヤ3の通り道の長さが変化しないように、その通り道間において平行になるように2個のワイヤ巻取手段2が配置されている。これにより、例えば、図2に示す左側の2個のワイヤ巻取手段13によって生じる張力Tと張力Tの大きさが同じ場合には、左側の第1プーリ13をx軸方向負側へ移動させるための並進力として作用し、張力Tと張力Tに差を設けた場合には、第1プーリ13を回転軸O周りに回転させるための回転力として作用する。このような第1プーリ13の回転は、可動部4の移動動作とは別に可動部4上でのローカルな内部動作を生成するために用いることができる。尚、本実施形態では、一方のワイヤ巻取手段2に移動用ワイヤ3の一端が取り付けられ、他方のワイヤ巻取手段2に移動用ワイヤ3の他端が取り付けられている例を示しているが、2本の移動用ワイヤ3を用いても良い。具体的には、それぞれのワイヤ巻取手段2に一端がそれぞれ取り付けられ、他端がそれぞれ第1プーリ13に取り付けられるようにして2本の移動用ワイヤ3を用いても同様の作用を生じさせることができる。
【0033】
それぞれの第1プーリ13の回転軸O及びOは、例えば、可動部台座8に設けられたリニアガイド等(不図示)によって所定距離だけx軸方向にも直線移動できるように構成されている。これにより、それぞれの第1プーリ13は、移動用ワイヤ3からの張力によって回転するだけでなく、それぞれ回転軸O及びOと共にx軸方向にも直線移動できる。また、それぞれの第1プーリ13の回転軸O及びOには、L字型ラック9aがそれぞれ取り付けられている。このそれぞれのL字型ラック9aは、第1プーリ13が回転したとしても回転せずに第1プーリ13の直線移動とのみ連動するように、回転軸O及びOにベアリング(不図示)等を介して取り付けられるとともに、可動部台座8に設けられたリニアガイド(不図示)によって動作が規定されている。
【0034】
また、それぞれのL字型ラック9aは、可動部台座8上の回転軸Oに回転自在に支持されたピニオン10とギアが噛み合うように構成されており、ピニオン10は、L字型ラック9aの直線移動に伴って回転軸Oを中心に回転する。また、このピニオン10と連動して回転する回転体11には、それぞれの移動用ワイヤ3の張力の和と復元力Fが釣り合うばね部材12と共にダンパ部材14が設けられている。これにより、回転体11に振動が生じたような場合でもダンパ部材14によって振動を抑制することができる。
【0035】
また、ワイヤ駆動機構1aには、図3及び図4に示すように、可動部4上でのローカルな動作を生成するための内部動作機構15が付加的に設けられている。この内部動作機構15は、図3及び図4に示すように、可動部台座8と一体として移動する内部動作用台座16上に2個のリンク部材17、18によって伸縮可能に構成されるアーム機構19と、一方のリンク部材17の一端側に位置する回転軸O1に回転自在に支持される第2プーリ20と、一方のリンク部材17の他端側と他方のリンク部材18の一端側とを回転自在に連結する連結軸21に回転自在に支持される第3プーリ22と、第2プーリ20及び第3プーリ22間に張架される第1連動用ベルト23と、第3プーリ22と連動するように連結軸22に回転自在に支持される第4プーリ24と、リンク部材18の他端側に設けられる回転軸25に回転自在に支持される第5プーリ26と、第4プーリ25及び第5プーリ26間に張架される第2連動用ベルト27と、第5プーリ26から出力される回転を減速させる減速機構28とを備えている。尚、図4では、説明のために内部動作用台座16上の左側の内部動作機構15のみを示している。
【0036】
第2プーリ20、第3プーリ22、第4プーリ24、及び第5プーリ26はそれぞれ同一の半径を有するものであるので、第2プーリ20の回転は、第1連動用ベルト23及び第2連動用ベルト27を介してそのまま第5プーリ26へと伝わる。また、第2プーリ20は、図5に示すように、可動部台座8上の第1プーリ13の回転運動及び並進運動と連動するように回転軸Oに支持されている。尚、図5では、第2プーリ20が設けられる内部動作用台座16は省略して図示しているが、内部動作用台座16は、図3及び図4に示すように、第1プーリ13がx軸方向に直線移動した場合でも第2プーリ20が連動して直線移動できるように直線状のスリット29が形成されている。
【0037】
また、第1プーリ13のx軸方向への直線運動に連動して、第2プーリ20がx軸方向に直線移動すると、第2プーリ20の動きに伴って連結軸21によって回転自在に連結されている2つのリンク部材17、18から構成されるアーム機構19が伸縮する。リンク部材17、18は、それぞれ連結軸21にベアリング(不図示)等を介して連結されているため、アーム機構19が伸縮したとしても連結軸21自体は回転しない。そのため、第1プーリ20が可動部台座8上を直線移動して、アーム機構19が伸縮したとしても、第1連動用ベルト23及び第2連動用ベルト27を介して伝えられる回転の動きには影響しないので、第1プーリ13の並進位置の誤差の影響を受けることなく第1プーリ13の回転の動きを第5プーリ26から出力することができる。
【0038】
減速機構28は、第5プーリ26から出力される回転を減速するためのものであり、図3及び図4に示すように、歯数の異なる2つの平歯車30、31により構成されている。歯数の少ない方の平歯車30は、第5プーリ26の回転と連動するように回転軸25に連結されている。従って、第5プーリ26の回転は、減速機構28によって減速された状態で平歯車31から逆方向の回転として出力される。つまり、ワイヤ駆動機構1aでは、第1プーリ13の回転がそのまま第5プーリ26まで伝わり、減速機構28を介して減速された状態で平歯車31から出力される。これにより、それぞれの移動用ワイヤ3の長さに誤差があるような場合でも、当該誤差により生じる第1プーリ13の回転誤差を減速比分だけ軽減させて出力することができるので、内部動作機構15により高精度な動作を実現することができる。尚、本実施形態に係るワイヤ駆動機構1aでは、それぞれの所定位置にワイヤ駆動手段2を2個ずつ設けているが、全ての所定位置にワイヤ巻取手段を2つ設ける必要はなく、少なくとも高加速性を必要とする方向への移動に係わる所定位置にのみワイヤ巻取手段を2個設けておけば良い。また、本実施形態では、可動部台座8と内部動作用台座16を別途設けた例を用いて説明したが、可動部台座8の一方の面にそれぞれの移動用ワイヤ3の長さ誤差を吸収するための機構を設け、他方の面に内部動作機構15を設けるように構成しても良い。これにより、可動部4の省スペース化を図ることができる。
【0039】
次に、本発明の第3の実施形態に係るワイヤ駆動機構1bについて、図6を参照しつつ説明する。このワイヤ駆動機構1bは、一方の内部動作機構15の平歯車31から出力される回転力を可動部台座8a上で内部動作用台座16aをx軸方向に直線移動させるために用いるものであり、第2の実施形態に係るワイヤ駆動機構1bと同様の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0040】
ワイヤ駆動機構1bでは、内部動作用台座16は、可動部台座8aのx軸方向への直線移動とは別に可動部台座8a上を移動できるように可動部台座8aにリニアガイド(不図示)等を介して取り付けられている。また、ワイヤ駆動機構1bは、図6に示すように、可動部台座8aに左側の内部動作機構15の平歯車31と噛み合うようにラック32がx軸方向と平行に設けられている。従って、可動部台座8aの第1プーリ13からの回転が平歯車31まで伝わることにより、内部動作用台座16aは静止している可動部台座8a上をx軸方向に移動することができる。これにより、一方(左側)の内部動作機構15を可動部台座8a上での内動動作用台座16aの移動に用いると共に、他方(右側)の内部動作機構15については、他の作業等に用いることができるので、より様々な用途に対応することができる。
【0041】
次に、ここでは、ワイヤ駆動機構200の張力ベクトルTによって発生する力とモーメントについて図12を参照しつつ説明する。ワイヤ駆動機構200では、ワイヤ張力ベクトルT(i=1,2,・・・,m)は、下記の数式(7)のように表わされる。但し、T(スカラ)はワイヤ張力、ベクトルeはワイヤ張力ベクトルの方向を表す単位ベクトルである。また、Σは基準座標系(O−X)、Σは可動部台座8のOを中心とする可動部台座座標系(O−X)、P(i=1,2,・・・,m)はそれぞれの移動用ワイヤ3の取り付け位置を示している。
【数7】
【0042】
このようなベクトルTによって発生する力とモーメントを表すベクトルFは、下記の数式(8)のように表わされる。但し、ベクトルp(i=1,2,・・・,m)は、可動部台座8のO点からそれぞれの移動用ワイヤ3の取り付け位置までの位置ベクトル、wはワイヤベクトルである。そして、このワイヤ駆動機構200の可動部4に加わる合力を表すベクトルFは、数式(9)のように表わされる。これは、数式(10)に示すように、ワイヤ行列wとワイヤ張力ベクトルにより表わされる。また、数式(10)の合力を行列Fの要素となるベクトルfは可動部4に作用する力を示しており、ベクトルnはモーメントを示している。
【数8】
【数9】
【数10】
【0043】
次に、図2で説明したような1本の移動用ワイヤ3にワイヤ巻取手段2を2個用いた高加速性を有する機構の場合について図13を参照しつつ説明する。図13(b)は、図13(a)の二点鎖線で囲む部分を拡大して示すものであり、このように2個のワイヤ巻取手段2を用いた場合には、それぞれのガイドプーリ45bにおけるワイヤベクトルw、wi+1は、数式(11)のように表わされる。また、この場合、第1プーリ13を介してそれぞれのガイドプーリ45a、45bに案内される移動用ワイヤ3は平行であり、可動部台座(不図示)の点Oからそれぞれのガイドプーリ45bから移動用ワイヤ3が送り出される接点までを示すそれぞれの位置ベクトルpとpi+1の違いによるモーメント発生の効果が無視できる場合には、数式(12)のようにみなすことができ、数式(13)に示すような関係が成り立つことになる。
【数11】
【数12】
【数13】
【0044】
次に、本発明の第4の実施形態に係るワイヤ駆動機構1cについて、図7を参照しつつ説明する。ワイヤ駆動機構1〜1bでは、可動部4のx成分の1自由度の並進運動を例としていたが、ワイヤ駆動機構1〜1bに用いられる構成は、多自由度の場合に適用することができるものであり、ワイヤ駆動機構1cでは、可動部4の平面3自由度(位置の2成分、姿勢の1成分)の動きを対象としている。
【0045】
ワイヤ駆動機構1cは、図7に示すように、4箇所の異なる所定位置A〜Dにそれぞれワイヤ巻取手段2が配置されており、異なる4方向からの力によって可動部4に対して合力が作用するように構成されている。図7に示すように、ワイヤ駆動機構1cは、所定位置A〜Cでは、可動部4に高加速性に優れた動作を生成させるために、上述したようにワイヤ巻取手段2をそれぞれ2個設けた構造が用いられており、所定位置Dでは従来のように1つのワイヤ巻取手段2に移動用ワイヤ3が取り付けられた構造になっている。
【0046】
所定位置Aの2個のワイヤ巻取手段2によって進退動作する移動用ワイヤ3が巻き付けられている第1プーリ13に一端が取り付けられているワイヤ33と、所定位置Bの2個のワイヤ巻取手段2によって進退動作する移動用ワイヤ3が巻き付けられている第1プーリ13に取り付けられるL字部材34に一端が取り付けられているワイヤ35と、所定位置Cの2個のワイヤ巻取手段2によって進退動作する移動用ワイヤ3が巻き付けられている第1プーリ13に取り付けられるL字型部材34に一端が取り付けられているワイヤ36と、所定位置Cのワイヤ巻取手段2によって進退動作する移動用ワイヤ3とは、ばね部材12が接続されている回転体11と共に連動して回転するように回転軸Oに支持された径のそれぞれ異なるプーリ37、38、39、40にそれぞれ取り付けられている。尚、L字型部材34は、可動部台座8上に設けられたリニアガイド41によって第1プーリ13の直線運動に連動するように構成されている。
【0047】
また、所定位置A〜Cの2個のワイヤ巻取手段2から第1プーリ13間においては、一方が可動部4の外部に設けられ、他方が可動部台座8上に設けられる一対のガイドプーリ45a、45bが2組設けられている。所定位置Dのワイヤ巻取手段2から第1プーリ13間においては、一方が可動部4の外部に設けられ、他方が可動部台座8上に設けられる1組の一対のガイドプーリ45a、45bが設けられている。所定位置A〜Cの2個のワイヤ巻取手段2から第1プーリ13間における一対のガイドプーリ45a、45bは、移動用ワイヤ3が平行になるような位置に配置されている。
【0048】
このガイドプーリ45a、46bとしては、図9に示すような首振り機能付きのものを用いる。このガイドプーリ45a、45bは、図9に示すように、移動用ワイヤ3の巻き取り及び送り出しを行うための通常のプーリの回転軸55と、移動用ワイヤ3が送り出される向きを変えるための回転軸56との2つの回転軸を備えている。また、移動用ワイヤ3は回転軸56上を走行する。従って、ワワイヤ駆動機構1cの可動部4が移動した場合には図9に仮想的に示すように、移動用ワイヤ3の送り出される向きが変わるとともに、移動用ワイヤ3のガイドプーリ45a、45bから送り出される接点の位置も変わることになる。
【0049】
このように構成されたワイヤ駆動機構1cでは、それぞれの移動用ワイヤ3の張力によって発生する力ベクトルfとモーメントnは、数式(10)及び数式(13)より、下記の数式(14)のように表わされる。また、このようなワイヤ駆動機構1cにおいても、それぞれの移動用ワイヤ3の向きがVector Closure(ベクタークロージャー)の条件を満たすように配置することにより任意の合力を生成することができる。
【数14】
【0050】
ワイヤ駆動機構1cのように多自由度を対象とした動作において、高加速性を実現するために所定位置の全てに2個ずつワイヤ巻取手段2を配置した場合には、必要となるモータ5の数が増えてしまうため、なるべくモータ5の数を必要以上に増やすことなく可動部4の高加速性動作を実現することが望ましい。そのため、高加速性があまり要求されない可動部4の姿勢については拘束した状態で、可動部4の並進位置の制御だけを対象とすることが考えられる。
【0051】
図8に示す機構は、可動部4の姿勢について拘束するためのものである。例えば、可動部4の平面3自由度(位置の2成分、姿勢の1成分)の動きを対象とした場合には、全ての所定位置にワイヤ巻取手段2を2個ずつ配置すると、位置の2成分と姿勢の1成分の計3成分に1を加えた数の更に倍の合計8個のモータ5が必要となるが、図8に示すような機構を用いることにより、姿勢については拘束されるため、モータ5の数は、位置の2成分に1を加えた数の倍の合計6個のモータ5にすることが可能となる。同様に3次元空間の位置の3成分と姿勢の3成分の計6成分を対象とした場合には、6成分に1を加えた数の倍の合計14個のモータ5が必要となるが、姿勢の3成分について拘束することにより、位置の3成分に1を加えた数の倍の合計8個のモータ5で可動部4の並進運動の高加速性を実現することができる。また、可動部4の姿勢に関する動作については、可動部4の姿勢を一定にした状態で、可動部4に付加的に設けた図3及び図4に示す内部動作機構15を用いることにより姿勢制御に対応する動作を行うことができる。以下、図8に示す可動部4の姿勢を拘束するための機構について説明する。
【0052】
図8に示すように、所定位置に固定される2個のワイヤ巻取手段2a、2bには、移動用ワイヤ3a及び3bが巻き取り自在に取り付けられている。可動部台座8上には、移動用ワイヤ3a、3bが取り付けられる1対の第1プーリ13a、13bと、該1対の第1プーリ13a、13bのそれぞれの中心軸O11、O12に一端がそれぞれ取り付けられる1対のワイヤ42a、42bと、前記1対のワイヤ42a、42bの他端がそれぞれ同一方向へ回転させるためのトルクを作用させるように取り付けられる第6プーリ43と、前記1対の第1プーリ42a、42bの並進運動と連動して前記移動用ワイヤ3a、3bの張力が作用する方向へ所定距離だけ直線移動可能な姿勢拘束部材44とが設けられている。また、第6プーリ43と連動して回転するようにプーリ46が同軸上に設けられており、該プーリ46には第6プーリ43の回転をプーリ47を介してばね部材12が接続されている回転体11に伝える伝達ワイヤ48が取り付けられている。
【0053】
図8に示すように、一方の移動用ワイヤ3aは、ワイヤ巻取手段2aから一方の第1プーリ13aを介して他方のワイヤ巻取手段2bへと取り付けられており、他方の移動用ワイヤ3bは、ワイヤ巻取手段2bから他方の第1プーリ13bを介してワイヤ巻取手段3aに取り付けられている。これにより、ワイヤ巻取り手段2aとワイヤ巻取手段2bによって移動用ワイヤ3a及び3bに生じる張力が同一の場合には、可動部4を移動させるための力として作用し、移動用ワイヤ3a及び3bに生じる張力に差がある場合には、第1プーリ13a又は第1プーリ13bを回転させるための回転力として作用する。従って、第1プーリ13a又は第1プーリ13bの回転を図3及び図4に示すような内部動作機構15に伝えることができる。
【0054】
また、2個のワイヤ巻取手段2から1対の第1プーリ13a、13b間には、一方が前記可動部4の外部に固定され、他方が可動部台座8上に設けられる一対のガイドプーリ45a、45bが4組設けられている。該一対のガイドプーリ45a、45bは、2個のワイヤ巻取手段2によって巻き取られるそれぞれの移動用ワイヤ3a、3bの巻き取り長さによって移動用ワイヤ3a、3bの通り道の長さが相対的に変化することなく、且つ一対のガイドプーリ45a、45b間においてそれぞれの移動用ワイヤ3a、3bが平行な状態になるように配置されている。具体的には、図8に仮想的に示す直線L1及びL2上にそれぞれガイドプーリ45a及びガイドプーリ45bが位置し、ガイドプーリ45a及びガイドプーリ45b間のそれぞれの移動用ワイヤ3a、3bが平行となるようにガイドプーリ45a及びガイドプーリ45bが設けられている。また、それぞれの移動用ワイヤ3a、3bは、ワイヤ巻取手段2a、2bと同様に可動部4の外側に固定された複数の固定ガイドプーリ49によって一定の通り道の長さを保った状態で可動部4に設けられたガイドプーリ45aへと案内される。これにより、可動部4の姿勢が拘束された状態で、並進移動した場合でもそれぞれの移動用ワイヤ3a、3bの通り道の長さが相対的に変化しない。また、一対のガイドプーリ45a、45bを同一の半径を有するものとし、図8に示すようにそれぞれ同じ外周方向側から移動用ワイヤ3a及び3bが接するように配置することにより、可動部4が並進運動したような場合でも、一対のガイドプーリ45a及び45bに接している移動用ワイヤ3aの長さの和及び移動用ワイヤ3bの長さの和は変化しないものとすることができる。
【0055】
また、図8に示すように、姿勢拘束部材44上には、両側にそれぞれガイドプーリ50、51が設けられたリンク部材52と、該リンク部材52を可動部台座8上での姿勢拘束部材44の移動可能な直線方向と直交する方向に変位させるためのアクチュエータ53とが設けられている。そして、第1プーリ13aから第6プーリ43間におけるワイヤ42aは、姿勢拘束部材44上に回転自在に支持されたガイドプーリ54に案内されてリンク部材52の一端側に設けられたガイドプーリ50を介して走行する。また、第1プーリ13bから第6プーリ43間におけるワイヤ42bは、姿勢拘束部材44上に回転自在に支持されたガイドプーリ54に案内されてリンク部材52の他端側に設けられたガイドプーリ51を介して走行する。これにより、それぞれの移動用ワイヤ3a、3bが有する弾性によって可動部4の姿勢に振動が生じた場合でも、アクチュエータ53によってリンク部材52に力を加えることで微細に姿勢を制御することができるので、防振又は制振を図ることができる。また、このように可動部4の姿勢の一部又は全てを拘束させる場合には、その拘束した運動方向以外の運動方向を対象にVector Closure(ベクタークロージャー)の条件を満たすように移動用ワイヤ3を配置すれば良い。
【0056】
また、可動部4は、その姿勢が拘束された状態で並進運動するため、移動用ワイヤ3a、3bの向きは2方向に変わりうる。そのため、ガイドプーリ45a、45bには、図9に示すような首振り機能付きのものを用いる。これにより、可動部4がどの方向に並進移動した場合でも、それぞれの移動用ワイヤ3a、3bのガイドプーリ45aからガイドプーリ45b間の通り道の長さが相対的に変化しないようにすることができる。
【0057】
図10は、図8に示す機構を適用した3次元空間を対象とするワイヤ駆動機構1dの外観を示すものである。所定箇所に固定された支柱57に支持されるボックス58には、図8に示すワイヤ巻取手段2a、2b及び移動用ワイヤ3a、3bを可動部4に備えられるガイドプーリ45a、45bへと案内するための固定ガイドプーリ49等が設けられている。また、移動用ワイヤ3a、3bが可動部4内へと案内される箇所には、図9に示すようなガイドプーリ45aが設けられている。これにより移動用ワイヤ3a、3bは、可動部4内から巻き取り又は送り出しされる際に可動部4の外周面等に接触することなく案内することができるので、移動用ワイヤ3a、3bの磨耗を防止することができる。また、可動部4内に設けられる内部動作機構15によってハンド部59を動作させるよう構成されている。
【0058】
次に、本発明の第5の実施形態に係るワイヤ駆動機構1d及び1eについて、図11を参照しつつ説明する。ワイヤ駆動機構1dは、図11(a)に示すように、駆動用ワイヤ3が直接ばね部材12を介して可動部4上に設けられる第1プーリ13に接続されたものである。また、ワイヤ駆動機構1eは、図11(b)に示すように、駆動用ワイヤ3が直接ばね部材12を介して可動部4の外周部に接続されたものである。ワイヤ駆動機構1d及び1eのどちらの場合も、同様にそれぞれの移動用ワイヤ3の長さ誤差をばね部材12によって吸収することができる。
【0059】
ワイヤ駆動機構1dでは、加速度運動においては、加速度方向と逆向きに慣性力が作用し、可動部4は、第1プーリ13からばね部材12が伸びた分だけ遅れて動くことになる。つまり、左側への加速度運動の場合には回転軸O1に比べてOが遅れながら付いていくことになる。同様にワイヤ駆動機構1eでも、加速度運動においては、加速度方向と逆向きに慣性力が作用し、可動部4は、ばね部材12が伸びた分だけ遅れて動くことになる。尚、必要に応じてばね部材12と共にダンパ部材を設けるように構成しても良い。また、本実施形態では、1自由度の並進運動を対象とした例を示しているが、異なる所定位置に固定されるワイヤ巻取手段2によって進退動作する移動用ワイヤ3の本数を増やすことにより、多自由度の場合にも適用することは、当然可能である。
【0060】
尚、本発明の実施の形態は上述の形態に限るものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係るワイヤ駆動機構は、様々な作業を行うためのロボットの駆動機構として有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1、1a〜1e ワイヤ駆動機構
2、2a、2b ワイヤ巻取手段
3、3a、3b 移動用ワイヤ
4 可動部
8、8a 可動部用台座
11 回転体
12 ばね部材(弾性部材)
13、13a、13b 第1プーリ
15 内部動作機構
17、18 リンク部材
19 アーム機構
20 第2プーリ
21 連結軸
22 第3プーリ
23 第1連動用ベルト
24 第4プーリ
26 第5プーリ
27 第2連動用ベルト
28 減速機構
42a、42b 一対のワイヤ
43 第6プーリ
44 姿勢拘束部材
45a、45b ガイドプーリ(1対のガイドプーリ)
50、51 ガイドプーリ
52 リンク部材
53 アクチュエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図10
図11
図12
図7
図8
図9
図13
図14
図15