【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1に係るクラッチ装置について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例1に係るクラッチ装置の構成を模式的に示した
図2のX−X´間に相当する部分の軸方向の断面図である。
図2は、本発明の実施例1に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。
図3は、本発明の実施例1に係るクラッチ装置の構成を模式的に示した
図1の摩耗調整機構付近を拡大した軸方向の部分拡大断面図である。
図4は、本発明の実施例1に係るクラッチ装置の構成を模式的に示した(A)
図3のY−Y´間に相当する部分の周方向の部分断面図、(B)
図3のZ−Z´間に相当する部分の周方向の部分断面図である。
【0024】
クラッチ装置1は、エンジン(図示せず)のクランクシャフト10から変速機入力軸41への回転動力を断接可能に伝達する装置である(
図1参照)。クラッチ装置1は、レリーズベアリング26を軸方向のエンジン側(
図1の右側)へ移動させてクランクシャフト10から変速機入力軸41への回転動力を遮断状態にするレリーズ装置(例えば、レバー機構、油圧ピストン機構等)によって操作可能である。クラッチ装置1は、クラッチディスク30の摩擦面に設けられた摩擦材31の摩耗を補償する摩耗調整機構2を有する。
【0025】
摩耗調整機構2は、プレッシャプレート17から、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19との当接部分までの長さを調整する機構である(
図3、
図4参照)。摩耗調整機構2は、プレッシャプレート17とダイヤフラムスプリング15との間に2つのウェッジリング18、19が同心、かつ、長さ及び径に差をもたせて並列に配置されている。
【0026】
摩耗調整機構2は、プレッシャプレート17に対してインナウェッジリング18又はアウタウェッジリング19が周方向の一方に回転することにより、プレッシャプレート17から、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18又はアウタウェッジリング19との当接部分までの長さ(軸方向の長さ)を高くするように係合している。摩耗調整機構2は、プレッシャプレート17においてインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19との当接面にて周方向の一方の変化に伴い軸方向の一方に変化する鋸刃状の複数の傾斜面17dを設け、インナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19においてプレッシャプレート17の傾斜面17dに対応する鋸刃状の複数の傾斜面18a、19aを設け、傾斜面同士のスライド可能な係合を利用して長さ調整を行うようにすることができる。摩耗調整機構2は、傾斜面同士のスライド可能な係合を利用する形式以外にも、インナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19とプレッシャプレート17とのねじ係合を利用して、プレッシャプレート17に対してインナウェッジリング18又はアウタウェッジリング19を周方向の一方に回転させて長さ調整を行うようにしてもよい。また、各ウェッジリング18、19は、周方向に分割された円弧状の部材であってもよく、周方向に接する接線方向に相対移動するように配置された直線状の部材であってもよい。
【0027】
摩耗調整機構2は、クラッチディスク30の摩擦材31の摩耗により、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間の隙間(ガタ)ができたときに、当該隙間を詰めるようにプレッシャプレート17に対してインナウェッジリング18が弾性部材20によって周方向の一方に付勢されている。摩耗調整機構2は、クラッチディスク30の摩擦材31の摩耗により、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間の隙間(ガタ)ができたときに、当該隙間を詰めるようにプレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19が弾性部材21によって周方向の一方に付勢されている。摩耗調整機構2は、インナウェッジリング18とアウタウェッジリング19との径の違いや、ダイヤフラムスプリング15の揺動により、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との隙間詰めと、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との隙間詰めとを交互に行い、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との隙間詰めに、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との隙間詰めが追従するように長さ調整を行う。また、摩耗調整機構2は、実施例のようにプレッシャプレート17付近に配置されるだけでなく、支点部材16の軸方向位置を調整するように配置されてもよく、レリーズベアリング26とダイヤフラムスプリング15との相対距離の変化に追従するようレリーズベアリング26近傍に配置されてもよい。
【0028】
クラッチ装置1は、主な構成部として、フライホイール11と、ボルト12と、クラッチカバー13と、ボルト14と、ダイヤフラムスプリング15と、支点部材16と、プレッシャプレート17と、インナウェッジリング18と、アウタウェッジリング19と、弾性部材20、21と、ストラップ22と、リベット23と、筒状部材24と、スリーブ25と、レリーズベアリング26と、クラッチディスク30と、を有する。
【0029】
フライホイール11は、環状の慣性体である(
図1参照)。フライホイール11は、内周部分にて複数のボルト12によってクランクシャフト10に取付固定されており、クランクシャフト10と一体に回転する。フライホイール11は、外周部分にて複数のボルト14によってクラッチカバー13が取付固定されており、クラッチカバー13と一体に回転する。
【0030】
クラッチカバー13は、クラッチディスク30の外周部分をカバーするように形成された環状の部材である(
図1、
図3参照)。クラッチカバー13は、外周部分にてボルト14によってフライホイール11に取付固定されており、フライホイール11と一体に回転する。クラッチカバー13は、内周部分にてフライホイール11から離間しており、クラッチディスク30の外周部分、及びプレッシャプレート17をカバーしている。クラッチカバー13は、内周端部にて、ダイヤフラムスプリング15の中間部の両側を挟むように配された2つの支点部材16を支持している。クラッチカバー13は、ダイヤフラムスプリング15のレバー部分間における複数の空所にて2つの支点部材16をかしめて支持している。クラッチカバー13は、支点部材16を支点にダイヤフラムスプリング15を揺動可能に支持する。クラッチカバー13は、ストラップ22を介してプレッシャプレート17と弾性的に連結されており、プレッシャプレート17と一体に回転する。
【0031】
ダイヤフラムスプリング15は、環状の皿ばね部分から径方向内側に複数のレバー部分が延在した弾性部材である(
図1、
図3、
図4参照)。ダイヤフラムスプリング15は、中間部分にて、クラッチカバー13に支持された2つの支点部材16の間に揺動可能に挟持されている。ダイヤフラムスプリング15は、支点部材16を支点としたレバー部材となる。ダイヤフラムスプリング15は、外周部分のエンジン側(
図1の右側)の面にて、インナウェッジリング18及び(又は)アウタウェッジリング19と当接している。ダイヤフラムスプリング15は、内周部分の変速機側(
図1の左側)の面にて、レリーズベアリング26の回転輪と当接している。ダイヤフラムスプリング15は、支点部材16を支点に傾くことで、ダイヤフラムスプリング15の外周部分がインナウェッジリング18及び(又は)アウタウェッジリング19を介してプレッシャプレート17をフライホイール11側に付勢するとともに、ダイヤフラムスプリング15の内周部分がレリーズベアリング26を変速機側(
図1の左側)に付勢する。ダイヤフラムスプリング15は、インナウェッジリング18及び(又は)アウタウェッジリング19を介してプレッシャプレート17を付勢することで、クラッチディスク30の摩擦材31の部分をフライホイール11に圧接させる。ダイヤフラムスプリング15は、内周部分をレリーズベアリング26によってフライホイール11側に押付けることで、外周部分がフライホイール11から離れるように変位し、プレッシャプレート17のフライホイール11側への付勢を解除する。
【0032】
支点部材16は、ダイヤフラムスプリング15の揺動の支点となる環状の部材である(
図1参照)。支点部材16は、ダイヤフラムスプリング15の中間部分の両側に2つ配され、ダイヤフラムスプリング15のレバー部分間の複数の空所にてクラッチカバー13によってかしめられて支持されている。
【0033】
プレッシャプレート17は、クラッチディスク30の摩擦摺動部分をフライホイール11に押付ける環状の一体型のプレートである(
図1〜
図4参照)。プレッシャプレート17は、エンジン側(
図1の右側)の面がクラッチディスク30の摩擦材31と摩擦摺動する摩擦面となっている。プレッシャプレート17は、ダイヤフラムスプリング15によってインナウェッジリング18又はアウタウェッジリング19を介してフライホイール11側に付勢されている。プレッシャプレート17は、摩耗調整機構2におけるインナウェッジリング18又はアウタウェッジリング19のベースリング部材となる。プレッシャプレート17は、外周端部に複数の座部17aを有する。座部17aは、リベット23によってストラップ22をプレッシャプレート17に連結するための部分である。プレッシャプレート17は、板ばね状のストラップ22を介してクラッチカバー13と弾性的に連結されており、クラッチカバー13と一体に回転する。プレッシャプレート17は、ストラップ22によってフライホイール11から軸方向に離れる方向に付勢(ダイヤフラムスプリング15よりも小さい力で付勢)されている。
【0034】
プレッシャプレート17は、変速機側(
図1の左側)の面(背面;摩擦面に対する反対面)において変速機側(
図1の左側)に突出したガイド部17b、17cを有する。ガイド部17bは、周方向に延在して環状に形成されている。ガイド部17cは、ガイド部17bよりも径方向外側にて周方向に延在して環状に形成されている。プレッシャプレート17は、ガイド部17b、17c間にて周方向に延在した溝を有し、当該溝にインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19が並列に挿入されている。ガイド部17bは、インナウェッジリング18の径方向の移動を規制する。ガイド部17cは、アウタウェッジリング19の径方向の移動を規制する。
【0035】
プレッシャプレート17は、ガイド部17b、17c間の溝の底面に複数の傾斜面17dが形成されている。傾斜面17dは、周方向の一方の変化に伴い軸方向の一方に変化する傾斜面であり、インナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19の傾斜面18a、19aと対応する。傾斜面17dは、インナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19の傾斜面18a、19aとスライド可能に係合する。これにより、プレッシャプレート17に対してインナウェッジリング18又はアウタウェッジリング19を周方向の一方に回転させると、インナウェッジリング18又はアウタウェッジリング19をプレッシャプレート17から離れるように変位させることができる。プレッシャプレート17には、弾性部材20、21のそれぞれの一端が揺動可能に接続されている。
【0036】
インナウェッジリング18は、アウタウェッジリング19よりも径方向内側に配された環状の部材である(
図1、
図3、
図4参照)。インナウェッジリング18は、プレッシャプレート17とダイヤフラムスプリング15との間に配されており、ダイヤフラムスプリング15の作用点に当接し、ダイヤフラムスプリング15のエンジン側(
図1の右側)への付勢力を受ける。
【0037】
インナウェッジリング18は、プレッシャプレート17側の面に複数の傾斜面18aが形成されている。傾斜面18aは、周方向の一方の変化に伴い軸方向の一方に変化する傾斜面であり、プレッシャプレート17の傾斜面17dと対応する。傾斜面18aは、プレッシャプレート17の傾斜面17dとスライド可能に係合する。これにより、プレッシャプレート17に対してインナウェッジリング18を周方向の一方に回転させると、インナウェッジリング18をプレッシャプレート17から離れるように変位させることができる。インナウェッジリング18は、弾性部材20の他端が揺動可能に接続されており、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間の隙間(ガタ)ができたときに、当該隙間を詰めるように弾性部材20によって周方向の一方に付勢されている。
【0038】
インナウェッジリング18は、外周面において径方向外側に突出した1又は複数の突起部18bを有する。突起部18bは、アウタウェッジリング19がプレッシャプレート17から離れるように変位するときに、アウタウェッジリング19の凹部19bと当接することで、アウタウェッジリング19の変位を規制するストッパ部である。突起部18bは、アウタウェッジリング19の凹部19bと当接する面が傾斜面18cとなっている。傾斜面18cは、周方向の一方の変化に伴い軸方向の他方に変化する傾斜面(傾斜面18aとは逆に傾斜した面)であり、アウタウェッジリング19の傾斜面19cと対応する。
【0039】
アウタウェッジリング19は、インナウェッジリング18よりも径方向外側に配された環状の部材である(
図1、
図3、
図4参照)。アウタウェッジリング19は、プレッシャプレート17とダイヤフラムスプリング15との間に配されており、ダイヤフラムスプリング15の作用点に当接し、ダイヤフラムスプリング15のエンジン側(
図1の右側)への付勢力を受ける。
【0040】
アウタウェッジリング19は、プレッシャプレート17側の面に複数の傾斜面19aが形成されている。傾斜面19aは、周方向の一方の変化に伴い軸方向の一方に変化する傾斜面であり、プレッシャプレート17の傾斜面17dと対応する。傾斜面19aは、プレッシャプレート17の傾斜面17dとスライド可能に係合する。これにより、プレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19を周方向の一方に回転させると、アウタウェッジリング19をプレッシャプレート17から離れるように変位させることができる。アウタウェッジリング19は、弾性部材21の他端が揺動可能に接続されており、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間の隙間(ガタ)ができたときに、当該隙間を詰めるように弾性部材21によって周方向の一方に付勢されている。
【0041】
アウタウェッジリング19は、内周面において径方向外側に凹んだ1又は複数の凹部19bを有する。凹部19bは、アウタウェッジリング19がプレッシャプレート17から離れるように変位するときに、インナウェッジリング18の突起部18bと当接することで、アウタウェッジリング19の変位を規制する。凹部19bは、インナウェッジリング18の突起部18bと当接する面が傾斜面19cとなっている。傾斜面19cは、周方向の一方の変化に伴い軸方向の他方に変化する傾斜面(傾斜面19aとは逆に傾斜した面)であり、インナウェッジリング18の傾斜面18cと対応する。
【0042】
弾性部材20は、プレッシャプレート17に対してインナウェッジリング18を周方向の一方に付勢する部材である(
図4参照)。弾性部材20には、例えば、コイルスプリング、板バネ等を用いることができ、一端が揺動可能にプレッシャプレート17に接続され、他端が揺動可能にインナウェッジリング18に接続される。なお、弾性部材20は、
図4では押しバネとしているが、引きバネを用いてプレッシャプレート17に対してインナウェッジリング18を周方向の一方に付勢するようにしてもよい。
【0043】
弾性部材21は、プレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19を周方向の一方に付勢(弾性部材20と同じ方向に付勢)する部材である(
図4参照)。弾性部材21には、例えば、コイルスプリング、板バネ等を用いることができ、一端が揺動可能にプレッシャプレート17に接続され、他端が揺動可能にアウタウェッジリング19に接続される。なお、弾性部材21は、
図4では押しバネとしているが、引きバネを用いてプレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19を周方向の一方に付勢するようにしてもよい。
【0044】
筒状部材24は、変速機入力軸41の外周に配された筒状の部材である。筒状部材24は、変速機ハウジング(図示せず)に支持されている(
図1参照)。筒状部材24は、内周面にて、変速機入力軸41と離間している。筒状部材24は、外周面にて、スリーブ25が軸方向にスライド可能に配されている。スリーブ25は、筒状の部材であり、レリーズベアリング26の固定輪が固定されている(
図1参照)。スリーブ25は、レリーズ機構(油圧機構、リンク機構等)の操作力を受けて軸方向にスライド可能である。レリーズベアリング26は、回転するダイヤフラムスプリング15の内周部分を押付けてクラッチ装置を断状態にするためのボールベアリングである(
図1参照)。レリーズベアリング26は、ダイヤフラムスプリング15と当接する回転輪が複数のボールを介して固定輪に支持された構成となっている。レリーズベアリング26は、スリーブ25と一体にスライド可能である。
【0045】
クラッチディスク30は、フライホイール11とプレッシャプレート17との間に配された円形でディスク状の組立体である(
図1、
図3参照)。クラッチディスク30は、外周部分にてライニングプレート32の両面に摩擦材31がリベット33によって取付固定された摩擦摺動部分を有し、当該摩擦摺動部分にてフライホイール11とプレッシャプレート17との間に挟み込まれている。クラッチディスク30は、ライニングプレート32の内周部分にてリベット33によってサイドプレート34、35に取付固定されており、サイドプレート34、35間にハブ部材36が配されており、サイドプレート34、35とハブ部材36との間の捩れ(トルク変動)を弾性部材37の弾性力により緩衝(吸収)する機能を有する。クラッチディスク30は、サイドプレート34とハブ部材36の間にスラスト部材38が配されており、サイドプレート35とハブ部材36の間にスラスト部材39及び皿ばね40が配されており、サイドプレート34、35とハブ部材36との捩れ(トルク変動)を、スラスト部材38、39とハブ部材36との間の摩擦力により緩衝(吸収)する機能を有する。クラッチディスク30は、ハブ部材36の内周にて変速機入力軸41に対して回転不能かつ軸方向移動可能にスプライン係合している。なお、変速機入力軸41は、ベアリング(図示せず)を介して回動可能に変速機ハウジング(図示せず)に支持されており、クラッチディスク30からの回転動力を変速機(図示せず)に伝達する。
【0046】
次に、本発明の実施例1に係るクラッチ装置の動作について図面を用いて説明する。
図5〜
図9は、本発明の実施例1に係るクラッチ装置の動作を説明するための(A)
図2のX−X´間に相当する部分の軸方向の部分断面図、(B)
図3のY−Y´間に相当する部分の周方向の部分断面図、(C)
図3のZ−Z´間に相当する部分の周方向の部分断面図である。
【0047】
[初期状態]
図5を参照すると、組立後の初期状態のクラッチ係合状態では、クラッチディスク30の摩擦材31が摩耗しておらず、インナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19とダイヤフラムスプリング15との間に隙間がなく、摩耗調整機構2においてインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19がプレッシャプレート17に対して最も接近した状態にある。
【0048】
[摩擦材摩耗]
初期状態からクラッチ装置を使用してゆくと、
図6のように、クラッチディスク30の摩擦材31が摩耗して薄くなり、クラッチ係合状態においては、ダイヤフラムスプリング15の押付けによってプレッシャプレート17がフライホイール11側に変位し、ダイヤフラムスプリング15の作用点がフライホイール11側に変位してダイヤフラムスプリング15が鋭角化し、ダイヤフラムスプリング15の作用点ではアウタウェッジリング19のみと接触し、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間に隙間(ガタ)ができる。
【0049】
[インナウェッジリング作動]
クラッチ係合状態において、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間に隙間ができて、インナウェッジリング18の拘束がなくなると、
図7のように、弾性部材20の付勢力によってプレッシャプレート17に対してインナウェッジリング18が周方向の一方に回転することで、インナウェッジリング18が軸方向の一方に移動(インナウェッジリング18がプレッシャプレート17から離れる方向に移動)して、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間の隙間がなくなり、ダイヤフラムスプリング15の作用点ではインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19の両方と接触した状態となる。
【0050】
[断動作]
ダイヤフラムスプリング15の作用点でインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19の両方と接触した状態で、クラッチ係合状態から断状態に動作させると、
図8のように、ダイヤフラムスプリング15の作用点がフライホイール11から離れる位置に変位してダイヤフラムスプリング15が平坦化し、ダイヤフラムスプリング15の作用点ではインナウェッジリング18のみと接触し、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間に隙間(ガタ)ができる。
【0051】
[アウタウェッジリング作動]
クラッチ係合状態において、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間に隙間ができて、アウタウェッジリング19の拘束がなくなると、
図9のように、弾性部材21の付勢力によってプレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19が周方向の一方に回転することで、アウタウェッジリング19が軸方向の一方に移動(アウタウェッジリング19がプレッシャプレート17から離れる方向に移動)して、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間の隙間がなくなりダイヤフラムスプリング15の作用点ではインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19の両方と接触した状態となる。なお、アウタウェッジリング作動時においては、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間の隙間がなくなる前に、インナウェッジリング18の突起部18b(傾斜面18c)をアウタウェッジリング19の凹部19b(傾斜面19c)に当接させて、アウタウェッジリング19の過剰な変位を抑える場合がある。
【0052】
以上の摩擦材摩耗(
図6参照)、インナウェッジリング作動(
図7参照)、断動作(
図8参照)、アウタウェッジリング作動(
図9参照)の動作を繰り返すことで、クラッチディスク30の摩擦材31の摩耗分と同じだけインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19がダイヤフラムスプリング15に対する隙間を埋めて、ダイヤフラムスプリング15が摩擦材31の摩耗後も同じ姿勢を保持できるようになる。
【0053】
実施例1によれば、プレッシャプレート17に対するインナウェッジリング18又はアウタウェッジリング19の周方向の移動によってダイヤフラムスプリング15の作用点の長さ調整を行うので、遠心力による誤動作をなくすことができる。
【0054】
また、実施例1によれば、インナウェッジリング18の突起部18bとアウタウェッジリング19の凹部19bとによってアウタウェッジリング19の変位を規制してダイヤフラムスプリング15の作用点の長さ調整をすることで、確実に摩擦材31の摩耗分の長さ調整ができる。また、突起部18bとアウタウェッジリング19の凹部19bとの接触面を傾斜面18c、19cとすることで、軸方向に振動が入った場合に、アウタウェッジリング19が暴れて誤調整することを防止できる。
【0055】
また、実施例1によれば、インナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19とプレッシャプレート17との当接面に傾斜面18a、19a、17dを設けてダイヤフラムスプリング15の作用点の長さ調整を行うことで、インナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19とプレッシャプレート17との間に他の部材を設ける必要がなくなるので、クラッチカバー13の軸方向の寸法を低減できるとともに、部品点数の減少によりコストを低減できる。
【0056】
さらに、実施例1によれば、インナウェッジリング18の突起部18bを径方向外側に一部だけ伸ばすことで、突起部18bとアウタウェッジリング19の凹部19bとが接触する径と、アウタウェッジリング19とダイヤフラムスプリング15とが接触する径を同じにできるようになり、アウタウェッジリング19とダイヤフラムスプリング15とが接触する径と、インナウェッジリング18とダイヤフラムスプリング15とが接触する径との差を小さくすることができる。その結果、ダイヤフラムスプリング15の支点と作用点との間の距離変化が少なくなり、アウタウェッジリング19とダイヤフラムスプリング15とが接触した時、インナウェッジリング18とダイヤフラムスプリング15とが接触した時のレリーズ特性の変化を小さくできる。
【実施例2】
【0057】
本発明の実施例2に係るクラッチ装置について図面を用いて説明する。
図10は、本発明の実施例2に係るクラッチ装置の構成を模式的に示した摩耗調整機構付近を拡大した軸方向の部分拡大断面図である。
図11は、本発明の実施例2に係るクラッチ装置の構成を模式的に示した(A)
図10のY−Y´間に相当する部分の周方向の部分断面図、(B)
図10のZ−Z´間に相当する部分の周方向の部分断面図である。
【0058】
実施例2は、実施例1の変形例であり、インナウェッジリング18の突起部(
図3の18b)とする代わりにピン部18dとし、プレッシャプレート17とインナウェッジリング18との間に弾性部材(
図4の20)を設ける代わりにインナウェッジリング18(ピン部18d)とアウタウェッジリング19との間に弾性部材28を設けたものである。
【0059】
インナウェッジリング18は、外周面において径方向外側に突出した1又は複数のピン部18dを有する。ピン部18dは、アウタウェッジリング19がプレッシャプレート17から離れるように変位するときに、アウタウェッジリング19の凹部19dと当接することで、アウタウェッジリング19の変位を規制するストッパ部である。インナウェッジリング18は、ピン部18dにて弾性部材28の他端が揺動可能に接続されており、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間の隙間(ガタ)ができたときに、当該隙間を詰めるように弾性部材28によって周方向の一方に付勢されている。なお、インナウェッジリング18のその他の構成は、実施例1のインナウェッジリング(
図1、
図3、
図4の18)と同様である。
【0060】
アウタウェッジリング19は、ダイヤフラムスプリング15との当接面から軸方向に凹んだ1又は複数の凹部19dを有する。凹部19dは、アウタウェッジリング19がプレッシャプレート17から離れるように変位するときに、インナウェッジリング18のピン部18dと当接することで、アウタウェッジリング19の変位を規制する。アウタウェッジリング19は、弾性部材27の他端が揺動可能に接続されており、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間の隙間(ガタ)ができたときに、当該隙間を詰めるように弾性部材27によって周方向の一方に付勢されている。なお、アウタウェッジリング19のその他の構成は、実施例1のアウタウェッジリング(
図1、
図3、
図4の19)と同様である。
【0061】
弾性部材27は、プレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19を周方向の一方に付勢する部材である。弾性部材27には、例えば、コイルスプリング、板バネ等を用いることができ、一端が揺動可能にプレッシャプレート17に接続され、他端が揺動可能にアウタウェッジリング19に接続される。弾性部材27の付勢力は、弾性部材28の付勢力よりも大きく設定される。なお、弾性部材27は、
図11では押しバネとしているが、引きバネを用いてプレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19を周方向の一方に付勢するようにしてもよい。
【0062】
弾性部材28は、アウタウェッジリング19に対してインナウェッジリング18を周方向の一方に付勢する部材である。弾性部材28には、例えば、コイルスプリング、板バネ等を用いることができ、一端が揺動可能にアウタウェッジリング19に接続され、他端が揺動可能にインナウェッジリング18のピン部18dに接続される。弾性部材28の付勢力は、弾性部材27の付勢力よりも小さく設定される。なお、弾性部材28は、
図11では押しバネとしているが、引きバネを用いてアウタウェッジリング19に対してインナウェッジリング18を周方向の一方に付勢するようにしてもよい。
【0063】
実施例2に係るクラッチ装置のその他の構成は、実施例1と同様である。
【0064】
次に、本発明の実施例2に係るクラッチ装置の動作を図面を用いて説明する。
図12〜
図16は、本発明の実施例2に係るクラッチ装置の動作を説明するための(A)軸方向の部分断面図、(B)
図10のY−Y´間に相当する部分の周方向の部分断面図、(C)
図10のZ−Z´間に相当する部分の周方向の部分断面図である。
【0065】
[初期状態]
図12を参照すると、組立後の初期状態のクラッチ係合状態では、クラッチディスク30の摩擦材31が摩耗しておらず、インナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19とダイヤフラムスプリング15との間に隙間がなく、摩耗調整機構2においてインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19がプレッシャプレート17に対して最も接近した状態にある。
【0066】
[摩擦材摩耗]
初期状態からクラッチ装置を使用してゆくと、
図13のように、クラッチディスク30の摩擦材31が摩耗して薄くなり、クラッチ係合状態においては、ダイヤフラムスプリング15の押付けによってプレッシャプレート17がフライホイール11側に変位し、ダイヤフラムスプリング15の作用点がフライホイール11側に変位してダイヤフラムスプリング15が鋭角化し、ダイヤフラムスプリング15の作用点ではアウタウェッジリング19のみと接触し、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間に隙間(ガタ)ができる。
【0067】
[インナウェッジリング作動]
クラッチ係合状態において、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間に隙間ができて、インナウェッジリング18の拘束がなくなると、
図14のように、弾性部材28の付勢力によってアウタウェッジリング19に対してインナウェッジリング18が周方向の一方に回転することで、インナウェッジリング18が軸方向の一方に移動(インナウェッジリング18がプレッシャプレート17から離れる方向に移動)して、ダイヤフラムスプリング15とインナウェッジリング18との間の隙間がなくなり、ダイヤフラムスプリング15の作用点ではインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19の両方と接触した状態となる。
【0068】
[断動作]
ダイヤフラムスプリング15の作用点でインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19の両方と接触した状態で、クラッチ係合状態から断状態に動作させると、
図15のように、ダイヤフラムスプリング15の作用点がフライホイール11から離れる位置に変位してダイヤフラムスプリング15が平坦化し、ダイヤフラムスプリング15の作用点ではインナウェッジリング18のみと接触し、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間に隙間(ガタ)ができる。
【0069】
[アウタウェッジリング作動]
クラッチ係合状態において、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間に隙間ができて、アウタウェッジリング19の拘束がなくなると、
図16のように、弾性部材28の付勢力によってプレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19が周方向の一方に回転することで、アウタウェッジリング19が軸方向の一方に移動(アウタウェッジリング19がプレッシャプレート17から離れる方向に移動)して、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間の隙間がなくなりダイヤフラムスプリング15の作用点ではインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19の両方と接触した状態となる。なお、弾性部材28の付勢力によってプレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19を周方向の一方に回転させる際、弾性部材27が反力となるが、弾性部材28の付勢力は弾性部材27の付勢力よりも大きいので、結果として、プレッシャプレート17に対してアウタウェッジリング19を周方向の一方に回転させることができる。また、アウタウェッジリング作動時においては、ダイヤフラムスプリング15とアウタウェッジリング19との間の隙間がなくなる前に、インナウェッジリング18のピン部18dをアウタウェッジリング19の凹部19dに当接させて、アウタウェッジリング19の過剰な変位を抑える場合がある。
【0070】
以上の摩擦材摩耗(
図13参照)、インナウェッジリング作動(
図14参照)、断動作(
図15参照)、アウタウェッジリング作動(
図16参照)の動作を繰り返すことで、クラッチディスク30の摩擦材31の摩耗分と同じだけインナウェッジリング18及びアウタウェッジリング19がダイヤフラムスプリング15に対する隙間を埋めて、ダイヤフラムスプリング15が摩擦材31の摩耗後も同じ姿勢を保持できるようになる。
【0071】
実施例2によれば、実施例1と同様な効果を奏する。
【0072】
なお、本発明の全開示(請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。