(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974467
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】保温性衣類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A41B 11/00 20060101AFI20160809BHJP
A41B 11/14 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
A41B11/00 C
A41B11/00 F
A41B11/14 F
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-266596(P2011-266596)
(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公開番号】特開2013-119670(P2013-119670A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】597036983
【氏名又は名称】パスミ繊維工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功祐
【審査官】
笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−127306(JP,U)
【文献】
実開昭54−145330(JP,U)
【文献】
特開昭55−158302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00 〜 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれも筒状に編んだ内外2つの編み生地を端部同士で縫合して内外二重に成形した筒
状部を有する保温性衣類の製造方法であって、
内側の編み生地を、パイル編みの編み組織よりなる生地とし、
外側の編み生地を、パイル編みでない編み組織よりなる生地とし、
内外2つの編み生地の編み密度を、いずれも略同じゲージ数のハイゲージとし、
内側の編み生地の前記縫合される端部の領域の編み組織を、外側の編み生地と同じくパ
イル編みでない編み組織とし、
前記内側の編み生地のパイル糸を、行飛ばしで編まれたものとしてなることを特徴とす
る保温性衣類の製造方法。
【請求項2】
前記内側の編み生地を、ポリウレタン弾性糸が前記パイル糸と同じく行飛ばしで編み込
まれた生地としてなる請求項1記載の保温性衣類の製造方法。
【請求項3】
前記ポリウレタン弾性糸を、前記パイル糸と同じ数だけ行飛ばしで編まれたものとして
なる請求項2記載の保温性衣類の製造方法。
【請求項4】
前記パイル糸と前記ポリウレタン弾性糸とを、互いに行をずらして行飛ばしされたもの
としてなる請求項3記載の保温性衣類の製造方法。
【請求項5】
前記内側の編み生地を糸道4口の編み生地とし、
1口目及び3口目を丸編みされる糸で構成し、
2口目を行飛ばしで編まれる前記パイル糸で構成し、
4口目を行飛ばしで編まれる前記ポリウレタン弾性糸としてなる請求項2〜4の何れか
1項に記載の保温性衣類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイツや靴下などに好適な内外二重の筒状部を有する保温性衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば保温性を有するタイツとしては、従来から厚手のバルキータイツが提供されている。バルキータイツは、綿やウールの太い糸を使い、編み密度108N,120N,168N,200N等のローゲージでパイル編みに編まれたタイツである。しかし、このようなローゲージのパイル編みタイツは、厚手で伸縮弾力性が少なくゴロ付き感があり、履き心地も荒く、脛毛がパイルのループで引っ張られて痛く感じる場合もある。また、太い糸で編目が粗であるため見た目も厚手で硬いイメージがあり、美脚を表現できないし、編目から風を通してしまい、スウスウと寒気を肌に感じて保温性や温もり感を減じてしまう。このため風が強い日などはさらに上から一枚重ね着しなければ保温性を維持できなく、ゴロゴロ着膨れて着用感もさらに悪くなってしまう。さらに埃や塵も付きやすく、かつ洗濯によりピリングしやすいという課題もある。
【0003】
また、ハイゲージの薄手の編み生地で編成された外側の編み生地と、ローゲージの厚手のパイル編みで編成された内側の編み生地とよりなる内外二重筒に構成したタイツも提供されている。しかしながら、このようなタイツでは外側の生地と内側の生地の伸びが異なるため、着用の際にたるみや片寄り、部分的な引っ張られなどが生じやすく、履きにくく、着用後も違和感がある。また、外側の編み生地と内側の編み生地の編み密度が異なることから、予め長さをあわせて編成することができず、互いに筒状の生地に編成した後、寸法を揃えるため内外二重に合わせて主に内側の編み生地の端部を切断してパイル編みが解れないように袋編みしつつ口ゴム部を縫合する。したがって、袋編み部分には厚み(凸部)が生じることとなり、着用の際に足の爪が引っ掛かるなど、履きにくいものとなってしまい、着用後も肌触りがごつごつしたものとなり不快感の原因となる。また端切れロスが多く効率的でない。
【0004】
また、足首部から膝上部までの部位をローゲージの厚手のパイル編みの生地に編成し、膝上部からパンテイ部までの部位をハイゲージの薄手の生地に編成し、これらを縫着して接合してなるツインペアタイツも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これは厚手の部分が十分な保温性を有し、この部分より上の部分はパンテイ部分と一体的に薄手の伸縮性を有する生地で形成しているので、従来のパンテイストッキングと同様に腰や胴部分が太くなることがなく、スタイルに影響を与えることがないというものである。しかし、このような部位によって編み組織を変更すると、どうしても伸びが異なることから履きにくく、着用後も違和感が残り、膝上は寒く、膝下も風が吹けばスウスウしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−1801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、風が強い日でも外気を通さず保温性や温もり感を維持できるとともに、履きやすく履き心地もよく、見た目もやわらかく美脚を表現することができ、埃や塵も付きにくくピリングも生じにくく、低コストで製造できる保温性衣類を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、いずれも筒状に編んだ内外2つの編み生地を端部
同士で縫合して内外二重に成形した筒状部を有する衣類
の製造方法であって、内側の編み生地を、パイル編みの編み組織よりなる生地とし、外側の編み生地を、パイル編みでない編み組織よりなる生地とし、内外2つの編み生地の編み密度を、いずれも略同じゲージ数のハイゲージとし、内側の編み生地の前記縫合される端部の領域の編み組織を、外側の編み生地と同じくパイル編みでない編み組織とし、前記内側の編み生地のパイル糸を、行飛ばしで編まれたものとしてなる衣類
の製造方法を提供する。ここで、前記内側の編み生地を、ポリウレタン弾性糸が前記パイル糸と同じく行飛ばしで編み込まれた生地としたものが好ましい例であり、特に、前記ポリウレタン弾性糸が、前記パイル糸と同じ数だけ行飛ばしで編まれたものが好ましい例である。また、前記パイル糸と前記ポリウレタン弾性糸とは、互いに行をずらして行飛ばしされたものとしたものが好ましい例である。より具体的には、前記内側の編み生地を糸道4口の編み生地とし、1口目及び3口目を丸編みされる糸で構成し、2口目を行飛ばしで編まれる前記パイル糸で構成し、4口目を行飛ばしで編まれる前記ポリウレタン弾性糸としたものが好ましい例である。
【発明の効果】
【0008】
以上にしてなる本願発明によれば、外側の編み生地層、外側の編み生地と内側の編み生地の間の空気層、内側の編み生地層、内側の編み生地のパイル層の4つの断熱保温層を有するとともに、双方の編み生地がハイゲージであるため風が強い日でも外気を通さず、保温性や温もり感に大変優れた商品となる。また、双方の編み生地がハイゲージでよく伸びる生地であるため優れた着用感となり、見た目もやわらかく美しい体型を表現でき、埃や塵も付きにくく、ピリングも生じにくい。また、双方の編み生地が同じハイゲージであることから、双方の生地が一緒に同程度伸縮し、着用の際もたるみや片寄り、部分的な引っ張られがまったく生じなく、着用の際に爪が引っ掛かることもなく、大変着用しやすいものとなり、着用状態で体を動かす際にも違和感がまったくない。
【0009】
また、内側のパイル編みの編み生地と外側のパイル編みでない編み生地がいずれも略同じゲージ数のハイゲージであるので、編成する前に双方の寸法の違いを予め設定どおりに制御することができる。すなわち、ゲージ数の異なる生地では編成後でないと寸法差を予想することができず、したがって内側のパイル編みの生地を長めに編成した後に、外側の編み生地の長さに合わせて端部を切断して使用する必要があるが、本発明によれば、このようにパイル編みの内側編み生地を長めに編成して切断する必要がなく、端切れロスがなく材料コストを低減できるとともに、外側の編み生地と縫合される端部の位置があらかじめ分かるので当該領域を外側の編み生地と同じくパイル編みでない編み組織とすることができ、これにより袋編みを省略することが可能となった。したがって、生産性の向上は勿論のこと、当該縫合の部分に厚みが生じることもなくなり、着用の際に足の爪が引っ掛かることもなく履きやすく、着用後も肌触りがごつごつしたものとなることもなく優れた履き心地を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の代表的実施形態にかかるタイツを示す説明図。
【
図2】同じく本実施形態のタイツの編み組織を示し、(a)は内側の編み生地の編み組織を示す説明図、(b)は外側の編み生地の編み組織を示す説明図。
【
図3】同じく本実施形態のタイツの製造手順を示す説明図。
【
図5】内側の編み生地の端部領域の編み組織を示す説明図。
【
図6】従来のタイツのパイル編み編み組織を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。尚、以下の説明では本発明の保温性衣類としてタイツ(レギンスタイプ)を構成した実施形態について説明するが、本発明に係る保温性衣類は、タイツ(トレンカ、レギンスを含む)以外に、靴下やインナーシャツなど内外二重の筒状部を有する各種衣類とすることができる。
【0012】
本実施形態に係るタイツ1は、
図1に示すように筒状に編んだ内外2つの編み生地(右脚側は2Aと3A、左脚側は2Bと3B)を端部(ウエストゴム部1c/すそ口部1d)同士で縫合して内外二重に成形したものであり、内側の編み生地2A(2B)は、
図2(a)に示すようにパイル編みの編み組織を有する生地とし、外側の編み生地3A(3B)は、
図2(b)に示すようにパイル編みでない編み組織よりなる生地とされている。
【0013】
そして、内外いずれの編み生地2A,3A(2B,3B)についても、編み密度は略同じゲージ数(本例では400N、「N」は口径内の編機針本数)のハイゲージとされている。つまり従来のパンティストッキングと同様のハイゲージの編み組織の外側編み生地3A,3Bに対して、同じくハイゲージでパイル編みした内側編み生地2A,2Bを重ね合わせたものであり、外側の編み生地3A(3B)、外側の編み生地3A(3B)と内側の編み生地2A(2B)の間の空気層、内側の編み生地2A(2B)層、及び内側の編み生地のパイル層の4つの断熱保温層を備えるとともに、双方の編み生地がハイゲージであることから風が強い日でも外気を通さず、保温性や温もり感を維持できるタイツが構成されている。
【0014】
内側の編み生地2A,2Bの編み組織は、具体的には
図2(a)に示すように糸道4口のうち1口目、3口目を20/30ポリウレタン糸50で丸編み(平編み)するとともに、2口目をパイル4となる伸縮性の少ない錬り込み発熱繊維の60/1ソフトウォームパイル糸51(発熱機能性アクリル−レーヨン糸)で行飛ばし(3つ飛ばし)で編み、4口目を2口目とは行をずらして80dポリウレタン弾性糸52で同じく行飛ばし(同じ数である3つ飛ばし)で編んだものである。本例ではシンカーを使用せず、シンカー作用を制御コンピュータにより行っている。
【0015】
従来のローゲージ(例えば120N)のパイル編みは、
図6に示すように、パイル糸101を地糸100と一緒に編み、シンカーを用いてパイル糸101をパイル編みするものであるため、生地に伸びが出ない。これに対して本例では、ハイゲージで且つ行飛ばしでパイル糸51が編まれており、パイル4の長さ(ループ長さ)としてローゲージの従来のパイルと同程度の長さを確保できると同時に、編み組織に伸び代が大きく、表側の編み生地3A,3Bと同様の伸びとすることができる。
【0016】
また、4口目のポリウレタン弾性糸52、52が、その間に2口目の錬り込み発熱繊維のパイル糸51よりなるパイル4を挟み込んでパイル4の根元部を確りと支えることになるため、パイル4を内側編み生地の表面に起立した状態に保持してパイル4が寝てしまうことなく肌との間に空気層を形成し、優れた断熱効果を発揮するとともに心地よい履き心地を奏するタイツとなる。すなわち本例のタイツは三つの機能(外気遮断、発熱繊維、体温中空部保温)を有し、省エネ対策にも適した商品となる。
【0017】
外側の編み生地3A,3Bの編み組織は、
図2(b)に示すように糸道4口すべて極細のナイロン糸53で丸編み(平編み)したものである。このような外側の編み生地3A,3Bはハイゲージの高密度の編み組織で外気、冷気を遮断できるとともに、洗濯後の毛玉(ピリング)ができにくい。従来のバルキータイツではピリング評価が1〜2であったが、本例のサンプルを用いた試験ではピリング評価「5」であることが確認されている。本例では平編みとしているが、その他のパイル編みでない編み組織でもよい。
【0018】
本発明は、このように内外の編み生地2A,3A(2B,3B)を略同じゲージ数のハイゲージで編んで内外二重に重ねたものであることから、双方の生地2Aと3A(2Bと3B)が同程度の伸縮率となり、内外一体となって一緒に伸縮することから、着用の際にたるみや片寄り、部分的な引っ張られがまったく生じなく、履きやすいものとなり、履いた状態で体を屈伸動作した際にも違和感がまったく生じなく、外観についても薄手のパンスト感覚でゴロ付き感が全くなく、ソフトでなめらか且つ暖かくスマートな外出着として最適なタイツである。
【0019】
以下、
図3及び
図4に基づき、本実施形態のタイツの製造手順を説明する。
【0020】
まず、
図3(a)に示すように、丸編み機で内外の編み生地2A,3A(2B,3B)を略同じゲージ数のハイゲージで筒状に編成する。内側の編み生地2A(2B)は、表側(肌に触れることとなる側、すなわちパイルが起立する側)を外側に向けて編成され、外側の編み生地3A(3B)は、表側(タイツの外側となる側)を内側に向けて編成される。次に、
図3(b),(c)に示すようにパンツ部分を縫製するために当該パンツ部分を裁断して股上部(マチ部)1eを形成する。
【0021】
次に、
図3(c)に示すように外側の編み生地3A(3B)を内側の編み生地2A(2B)の内部に挿入することで、
図4(a)に示すように二重の筒状に重ねられる。そして、股上部(マチ部)1eとウエストゴム部1cにおいて内外の編み生地を互いに縫製し、ウエストゴム部1cにおいては同時にウエストゴム生地5を取り付ける。尚、
図4(a)では重なり状態を示すために内外の編み生地が端部を合わせる前の若干ずれた状態を表現しているが、縫製の際には端部を合わせた状態で縫製される。
【0022】
また、同じくすそ口部1dについても、
図4(b)に示すように内外の編み生地を互いに縫製すると同時にすそ口のゴム生地6を取り付ける。ここで、内側の編み生地2A,2Bの縫合されるウエストゴム部1c及びすそ口部1dの所定の端部領域R1、R2の編み組織は、
図5に示すようにいずれも外側の編み生地と同じくパイル編みでない編み組織、例えば外側の編み生地と同じ平編みやリブ編みなど、パイル編み以外で袋編みすることなく縫合できる組織となるように編成されている。したがって内側の編み生地の切断による長さ調整や端部の袋編みを省略することができ、当該縫合の部分に厚みが生じることもなくなり、履きやすく着用後も肌触りがごつごつしたものとなることもなく優れた履き心地となる。最後にゴム生地6を取り付けた図(c)の状態から表裏を逆に返して図(d)の状態として完成する。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、例えば具体的な編み組織や糸、ゲージ数なども例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0024】
1 タイツ
1c ウエストゴム部
1d すそ口部
1e 股上部
2A,2B 編み生地
2A,3A 編み生地
4 パイル
5 ウエストゴム生地
6 ゴム生地
50 ポリウレタン糸
51 ソフトウォームパイル糸
52 ポリウレタン弾性糸
53 ナイロン糸
100 地糸
101 パイル糸
R1,R2 領域