【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「省エネルギー革新技術開発事業/先導研究/革新的電子線源を用いた省エネルギーNOx無害化技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の透過窓30は金属薄膜そのもので構成されているため、外側の大気圧や外側と内側との圧力変動により金属薄膜を破損させるおそれがある。特に、透過窓30である金属薄膜の厚みが薄ければ薄いほど破損の可能性は高くなる。なお、電子線などを透過窓30で透過させた場合には、X線の時に比べ、金属薄膜でのエネルギー吸収が大きくなることにより熱が発生しその金属薄膜に熱がこもりやすくなる。この際には、金属薄膜の熱による撓み若しくは熱応力あるいは強度低下(軟化)で大気圧や圧力変動により更に金属薄膜の破損が生じやすくなる。
【0005】
本発明は、前記問題点を解消するべくなされたもので、外側からの大気圧や圧力変動による破損を回避しつつ電子線、イオンビームなどの荷電粒子線、X線やガンマ線などの電磁波などの粒子線の高い透過率が可能
な粒子線透過窓の製作方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項
1に係る発明は、粒子線の発生部を備える粒子線照射装置の真空チャンバに取り付けられ、該粒子線を該真空チャンバの内側から外側に透過させる粒子線透過窓の製作方法であって、前記粒子線が透過する金属薄膜と、該金属薄膜を両面から支持し前記真空チャンバに取り付けられる2つのフレームと、を用意する工程と、該2つのフレームの少なくとも1つに、前記粒子線の通過領域に対して多孔構造を形成する工程と、前記金属薄膜を該2つのフレームで挟持する工程と、該2つのフレームの
うち、真空側に配置される第1フレームの
前記金属薄膜を挟み込む側と反対側表面からの気密接合の深さが、該
第1フレームの厚みと該金属薄膜の厚みを合わせた値よりも大きくされるが、
大気側に配置される第2フレームの
前記金属薄膜を挟み込む側と反対側表面まで届かない距離とされる条件で、M
2値が1.0以上1.5未満且つBPPが0.11以上0.50未満のビーム品質のレーザ溶接により、該金属薄膜を挟持した該2つのフレームを前記金属薄膜に気密接合する工程と、を含む
ようにしたことにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、大気圧や圧力変動による破損を回避しつつ電子線、イオンビームなどの荷電粒子線、X線やガンマ線などの電磁波などの粒子線の高い透過率が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0016】
最初に、電子線照射装置(粒子線照射装置)およびそれに用いられる透過窓(粒子線透過窓)の構成について説明する。
【0017】
電子線照射装置100は、
図1に示す如く、電子線110の発生部104を真空チャンバ102の内側に備える。発生部104は、電子を発生させるカソード106(ホットカソード、コールドカソードのいずれでもよい)と、発生した電子を引出す引出し電極108とを備える。カソード106と引出し電極108との間には、引出し電源112が接続されている。そして、カソード106と接地された真空チャンバ102のフランジ116との間には、加速電源114が接続されている。このため、引出し電極108によって引き出された電子は、加速電源114によって加速され、フランジ116の開口部118に向かう電子線110とされている。ホットカソードの場合には引出し電極108がウェネルトとなり、引出し電源112の代わりに点線で図示した可変抵抗を設置した二極型でも良い。
【0018】
透過窓130は、
図2に示す如く、フランジ116の開口部118に取り付けられている。具体的には、フランジ116の開口部118の近傍内側(真空側)に沿って凹部が設けられ、そこにOリング122が配置される。そして、その真空側に透過窓130が配置され、更にリング形状の固定カバー120がその真空側に配置され、ボルト124で固定カバー120とフランジ116とが固定される。即ち、透過窓130は、電子線110の発生部104を備える電子線照射装置100の真空チャンバ102に取り付けられ、電子線110を真空チャンバ102の内側から外側に透過させている。
【0019】
具体的な透過窓130は、
図3に示す如く、電子線110が透過する金属薄膜132と、金属薄膜132を真空チャンバ102のフランジ116に取り付けるために、金属薄膜132を挟持する形態で金属薄膜132に気密接合される2つのフレーム(第1、第2フレーム134、142)と、を備えている。金属薄膜132は、Ti箔であり、2〜5μmとされている。第1、第2フレーム134、142は、同じくTiであり、それぞれ厚みH1、H2は、0.2mm、0.5mmとされている。そして、第1、第2フレーム134、142は、外径D1が20mmで、中央部分を構成する多孔構造と、周辺部分を構成する支持部136、144とからなる。中央部分は、電子線110の通過領域126とされ、通過領域126よりも広く多孔構造が形成されている。即ち、第1、第2フレーム134、142は、電子線110の通過領域126で多孔構造とされている。なお、通過領域126とは、引出し電極108と固定カバー120の陰にならず、電子線110を直接的に真空チャンバ102の外側に通過させることを可能とする領域をいう。また、通過領域126で多孔構造であるということは、例えば、
図3(B)に示す如く、通過領域126内では、XYいずれの方向にも複数の孔138が並ぶ状態のことをいう。孔138(146)は、すべて同一形状で周期的に設けられている。しかも、孔138(146)は、六角形形状であり、多孔構造がハニカム構造とされている。このため、第1フレーム134(第2フレーム142)の通過領域126では、多数の枠部140(148)が存在しながら高い開口率にすることができる。具体的な数値で説明するならば、六角形の孔138(146)における対辺までの距離(単に孔径とも称する)W1で1.46mm、枠部140(148)の幅W2で0.1mmとされ、且つ通過領域126の直径D2が8mmとされているときには、第1フレーム134(第2フレーム142)における通過領域126をほぼ90%の開口率とすることができる。
【0020】
孔138(146)の内側面138A(146A)は第1フレーム134(第2フレーム142)の厚み方向(Z方向)に平行とされている。このため、第1、第2フレーム134、142は、金属薄膜132を通過する電子線110をコリメートする機能を備える。
【0021】
次に、透過窓130の製作工程を説明する。
【0022】
まず、第1、第2フレーム134、142のそれぞれの厚みに対応するTi板にハニカム構造(多孔構造)をエッチングで設けて、第1、第2フレーム134、142を形成する。このとき、第1フレーム134の枠部140のアスペクト比は2(厚みH1が0.2mmで幅W2が0.1mmであるので)となるが、第2フレーム142の枠部148のアスペクト比は5(厚みH2が0.5mmで幅W2が0.1mmであるので)となる。このため、場合により、複数のTi板をエッチングして、それを重ね合わせ圧着や拡散接合などで貼り合わせることで第2フレーム142を構成してもよい。同時に、所定の厚み(2〜5μm)の金属薄膜132を用意する。
【0023】
次に、金属薄膜132を第1フレーム134と第2フレーム142とで挟み込み、支持部136、144と枠部140、148の位置をそれぞれ厚み方向(Z方向)で合わせる。
【0024】
次に、第1フレーム134と第2フレーム142を、M
2値が1.05でBPPが0.36のビーム品質(ビーム品質は、M
2値が1.0以上1.5未満且つBPPが0.11以上0.50未満であればよい(後述))のレーザ溶接で金属薄膜132に気密接合する。気密接合は、通過領域126の外側の位置WLにおいて多孔構造を囲むように行う。その気密接合の深さDpは、第1フレーム134の厚みH1と金属薄膜132の厚みを合わせた値よりも大きくされるが、第2フレーム142の底まで届かない距離とされている。このようにすることで、金属薄膜132を第1、第2フレーム134、142に確実に気密溶接でき、且つ第2フレーム142の下側(大気側)に配置されるOリング122(
図2)の面を平滑に保つことが可能となる(結果的に、真空チャンバ102の真空状態を高品質に保つことができる)。
【0025】
レーザ溶接をする際のシールドガスは、例えばアルゴン(Ar)が用いられ、レーザで溶けた溶融金属を大気から保護し、溶接欠陥を防止する。その際にシールドガスは、溶融金属が吹き飛ばない程度の圧力で供給される(例えば、15L/min)。また、シングルモードファイバーレーザなどで実現されるM
2値が1.0以上1.5未満且つBPPが0.11以上0.50未満のビーム品質のレーザを用いてレーザ溶接(高ビーム品質レーザ溶接)を行うことで溶接幅を細くエネルギー密度を非常に高くできる(従来のYAGレーザ溶接の約1000倍、マルチモードファイバーレーザ溶接やディスクレーザ溶接の50倍)。このため、高ビーム品質レーザ溶接は、表1に示す如く、従来技術のアーク溶接やYAGレーザ溶接に比べてはるかに溶接部への入熱量を少なくすることができる。なお、YAGレーザ溶接のビーム品質は、発振波長1.06μmでM
2値が30〜60、BPPが10〜20であり、ファイバー伝送を用いている。溶け込み深さ一定の条件において、一般的にBPPと必要入熱量との間にはほぼ一次の相関があり、BPPが小さいほど入熱量を少なくすることができる。したがって、BPPをYAGレーザ溶接の1/30にすることにより入熱量を1/10以下にすることが可能となるため、高ビーム品質レーザ溶接においては、M
2値の上限値を1.5(=YAGレーザ溶接の平均値45の1/30)、BPPの上限値を0.50(=YAGレーザ溶接の平均値15の1/30)とする。なお、M
2値は、理想的なガウスモードのレーザからのズレ量の比を示す数値で、下限値は理論値の1.0であり、シングルモードではM
2値が小さく、マルチモードではM
2値が大きくなる。また、BPP(ビームパラメータプロダクツ)は、集光点でのビーム径と拡がり角の積で表わされ、BPPが小さいほどレーザを細く集光することが可能である。レーザ波長が短くなるほどビーム品質は良くなるが、高ビーム品質レーザ溶接においては、実用レーザの波長としてYAG3倍波の353nmでの理論値である0.11をBPPの下限値とする。
【0027】
なお、本実施形態における溶接条件は、表2の条件1であり、高速溶接ができ且つ入熱量を少なくできる。このため、溶接の際の入熱量による金属薄膜132の熱変形を最小化することができ、従来のアーク溶接やYAGレーザ溶接などで溶接の際の加熱温度による金属薄膜の熱変形や熱応力による金属薄膜の亀裂や破損を回避することが可能となる(そもそも、本実施形態の如く金属薄膜132が2〜5μmの厚みである場合には、従来の溶接方法では金属薄膜に対する熱負荷が高くなりすぎて適用できなかった)。なお、表2の条件2でも、条件1と同様の気密接合を実現することができる。
【0029】
このように、本実施形態においては、電子線110の通過領域126でハニカム構造とされた第1、第2フレーム134、142で金属薄膜132を挟み込む構成とされている。即ち、通過領域126では(XY平面の)いずれの方向においても複数の枠部140、148が多数存在するので、通過領域126に占める枠部140、148の面積を低く抑えながら(大きな開口率で)透過窓130を全面に亘り高強度にすることができる。このため、金属薄膜132に電子線110が照射され熱による撓みや熱応力が生じても、その撓み自体が矯正され、更に大気圧や圧力変動によるそれ以上の金属薄膜132の撓みを回避することができる。同時に、金属薄膜132にこもる熱を枠部140、148による熱伝導で低減することができ、金属薄膜132に生じる熱による撓みや熱応力や強度低下を低減することができる。従って、大気圧や圧力変動による金属薄膜132の破損を回避することができる。同時に、金属薄膜132は、2つの支持部136、144に挟まれるので、透過窓130の取り扱いが容易となり、金属薄膜132に直接的な応力をかけることを防止でき、取付け取り外しの際の金属薄膜132の破損などを防止することも可能となる。更には、第1、第2フレーム134、142の通過領域126における開口率が大きいので、電子線110の第1、第2フレーム134、142におけるエネルギーロスを低減でき、第1、第2フレーム134、142の熱による撓みを最小にすることができる。
【0030】
また、金属薄膜132の材質はTiと比較的軽い元素であること、その厚みも2〜5μmであること、そして上述の如く第1、第2フレーム134、142の開口率が高いことから、相乗的に透過窓130による電子線110のロスを少なくでき、高効率で、電子線110を真空チャンバ102の外側に導くことができる。
【0031】
また、孔138、146の内側面138A、146Aは、第1、第2フレーム134、142の厚み方向(Z方向)に平行とされている。このため、孔138、146がコリメータの機能を果たすことができ、真空チャンバ102からコリメートされた電子線110を外側に導くことができる。
【0032】
また、第1、第2フレーム134、142は、M
2値が1.05でBPPが0.36のビーム品質のレーザ溶接で金属薄膜132に気密接合されている。即ち、本実施形態では、例えば従来のYAGレーザ溶接に比べて遥かにエネルギー密度が高く(例えば3桁)、細い線幅に収束できる。このため、溶接幅が細く溶け込みが深く、且つ溶接を高速に実現することができる。即ち、接合速度を短時間で安定して行うことができる。つまり、透過窓130を安く安定して提供することが可能となる。また、金属薄膜132への入熱量を少なくでき、金属薄膜132の接合を原因とする破損などを防止できる。
【0033】
即ち、本実施形態によれば、外側からの大気圧や圧力変動による破損を回避しつつ電子線の高い透過率が可能となる。
【0034】
本発明について第1実施形態を挙げて説明したが、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことはいうまでもない。
【0035】
例えば、上記実施形態においては、第1フレーム134と第2フレーム142の両方がハニカム構造とされていたが、本発明はこれに限定されず、いずれか一方のみでもよい。その場合には、例えば残りのフレームは支持部のみとされ、より電子線の透過率を向上させることが可能となる。第1フレームのみがハニカム構造とされている場合には、特に大気側からかかる圧力を第1フレームのハニカム構造が支持できるので、金属薄膜の破損を直接的に防止できる。第2フレームのみがハニカム構造とされている場合には、特に金属薄膜で生じる熱を第2フレームでフランジに熱伝導することで金属薄膜の熱による撓みや熱応力や強度低下を低減でき、相応に金属薄膜の破損を防止することができる(X線の場合であっても同様の効果を生じる)。
【0036】
また、上記実施形態においては、多孔構造が六角形形状の孔からなるハニカム構造とされていたが、本発明はこれに限定されず、孔の形状が円形や、三角形、四角形などの多角形形状(正多角形を含む)とされていてもよい。
【0037】
また、上記実施形態においては、金属薄膜132、第1、第2フレーム134、142の材質がすべてTiとされていたが、本発明はこれに限定されず、Be、Si、SUSなどでもよい。当然に、金属薄膜、第1、第2フレームが同一材料である必要もない。また、金属薄膜132がTi箔のとき厚み2〜5μmとされていたが、本発明は金属薄膜が薄いほど顕著な効果を奏するので、Ti箔の場合に限定されず金属薄膜の厚みが厚くても適用可能であるが特に20μm未満であれば一層の効果を奏するものである。例えば、Beであれば厚みが5〜13μmである場合が好ましく、この場合には、シングルモードファイバーレーザ溶接などによる高ビーム品質レーザ溶接でなくてもよく、例えば真空銀ろう接で気密接合がなされてもよい。むろん、金属薄膜がTi箔で厚み2〜5μmの際に真空銀ろう接や拡散接合、圧接などの方法を用いてもよい。
【0038】
また、上記実施形態においては、多孔構造を構成する孔はすべて同一形状で周期的に設けられ、且つ多孔構造が六角形形状の孔からなるハニカム構造とされていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、孔の形状はバラバラでもよいし、周期的でなくてもよい。或いは、周期的であっても、若しくは孔が同一形状であってもよい。
【0039】
また、上記実施形態においては、多孔構造を構成する孔の内側面は第1、第2フレームの厚み方向に平行とされていたが、本発明はこれに限定されず、孔の内側面が第1、第2フレームの厚み方向に平行とされていなくてもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、透過窓130は電子線110に対しての透過窓として説明したが、本発明はこれに限定されず、透過窓は、広く、イオンビームなどの荷電粒子線、X線やガンマ線などの電磁波などを含む粒子線の発生部を備える粒子線照射装置に適用できる粒子線透過窓としてもよい。
【0041】
なお、上記実施形態において示した透過窓130の各パラメータ(D1、D2、W1、W2、H1、H2)は単なる一例であって、これらのパラメータは、適宜変更可能である。