(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、研削盤の駆動状態においては、上述したように研削盤の各部位において熱変位が生じている。また、ロータリーツルアを備えるツルーイング装置においても同様に、ロータリーツルアを回転駆動させる電動モータやロータリーツルアの回転軸を支持する軸受などの発熱により熱変位が生じている。このような研削盤の熱変位には、各回転軸における軸方向の熱変位が含まれる。従来では、ツルーイング装置における軸方向の熱変位については、成形する砥石車の形状によっては影響がない場合もあり、また影響がある場合でも砥石車に対するツルアの切込み量をある程度確保することで対応していた。これは、軸方向の熱変位は、径方向の熱変位と比較して変位量が小さいことや、ロータリーツルアについてはツルーイング時にのみ回転駆動を要する回転軸の熱変形に伴うものであるからと考えられる。しかし、砥石車の形状が複雑化し、またツルーイングに要する回転数の高速化、ツルーイングの高精度化などの要請に対応するためには、熱変位による影響が顕著となるため、適切に補正することが求められるようになってきた。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、より高精度なツルーイングを可能とする研削盤のツルーイング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明によると、
回転可能に支持され、砥石車の形状を成形する
ロータリーツルアと、前記砥石車に対する前記
ロータリーツルアの相対軸方向位置
および相対径方向位置を検知する検知手段と、検知された前記
ロータリーツルアの前記相対軸方向位置
および前記相対径方向位置に基づいて前記砥石車に対する前記
ロータリーツルアの相対移動を制御してツルーイングを行う制御手段と、を備え、
前記ロータリーツルアは、ツルア側コア部と、前記ツルア側コア部の外周に設けられたツルア側砥粒層と、を有し、前記ツルア側コア部は、円盤状のコア本体と、当該コア本体の外径よりも小さい外径に形成された円柱状の検知部と、を有し、前記検知部は、前記コア本体に同軸に配置され、且つ前記コア本体の端面から軸方向に突出するように配置され、前記検知手段は、前記砥石車および前記ロータリーツルアの両部材を回転させた状態且つ互いの回転軸を平行に維持させた状態で、前記ロータリーツルアの軸線上で前記検知部の軸方向の先端面と前記砥石車の端面を接触させて、前記ロータリーツルアの前記相対軸方向位置を検知し、前記検知部の外周と前記砥石車の外周を接触させて、前記ロータリーツルアの前記相対径方向位置を検知する。
【0009】
請求項2に係る発明によると、
前記砥石車は、砥石側コア部と、前記砥石側コア部の外周に設けられた砥石側砥粒層と、を有し、前記検知手段は、
前記ロータリーツルアの軸線上で前記検知部の先端面と前記砥石側コア部の端面を接触させて、前記ロータリーツルアの前記相対軸方向位置を検知する。
【0010】
請求項3に係る発明によると、前記制御手段によるツルーイングの際に前記砥石車の外周面が非円筒状に形成される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によると、ツルーイング装置は、検知手段により検知された砥石車に対するツルアの相対軸方向位置に基づいて制御し、ツルーイングを行う。この検知手段によるツルアの相対軸方向位置は、回転させた状態の砥石車の軸方向の端面とツルアの端面を接触させて検知されたものである。これにより、砥石車の軸方向の熱変位を勘案して、砥石車に対するツルアの相対軸方向位置をより正確に検出することができる。そして、検知された相対軸方向位置に基づいて制御手段がツルアと砥石車の相対位置を制御することにより、ツルーイングにおいて基準位置となるツルーイング開始基準位置をより正確に設定できる。従って、ツルーイング装置は、研削加工またはツルーイングに要する回転数の高速化などに伴う熱変位の影響を低減し、より高精度なツルーイングを行うことができる。これにより、ツルーイングにおける砥石車の除去量を最小に抑制し、砥石車の寿命を長期化することが可能となる。そして、このような砥石車を研削加工に使用することにより、研削加工をより高精度に行うことできる
。本発明における「砥石車」には、砥粒層およびコア部が含まれる。
【0012】
さらに、砥石車とツルアの接触を検知手段により検知していることから、砥石車が回転することでより好適に接触信号が発生し、検知手段の検知感度を向上させることができる。これにより、砥石車とツルアの接触時間を短縮できるので、接触による摩耗を低減することができる。
【0013】
また、ツルアは回転可能に支持されたロータリーツルアであって、このロータリーツルアの相対軸方向位置は検知手段により互いの回転軸を平行に維持された砥石車とロータリーツルアの端面同士を接触させて検知されたものである。これにより、ロータリーツルアの回転軸の熱変形によるロータリーツルアの軸方向の熱変位をさらに加味して、砥石車に対するロータリーツルアのツルーイング開始基準位置をより正確に検出することができる。
【0014】
また、本発明では、砥石車とロータリーツルアの相対軸方向位置を検知する際に、両部材を回転させた状態としている。これにより、実際のツルーイングにおいて熱変位が生じている状態と同様となり、ツルーイングにおける熱変位量を勘案したツルーイング開始基準位置を検出することができる。さらに、砥石車とロータリーツルアの接触を検知手段により検知していることから、両部材が回転することでより好適に接触信号が発生し、検知手段の検知感度をさらに向上させることができる。
【0016】
また、ロータリーツルアの
ツルア側コア部の端
面に、円柱状
の検知部を設ける構成としている。
検知部は、砥石車とロータリーツルアの相対軸方向位置を検出する際にロータリーツルアの軸線上で当該検知部の先端面と砥石車の端面とを接触される。これにより、円柱状の検知部の外径を、円盤状のコア本体の外径よりも小さい外径に形成することが可能となる。そして、検知部は、コア本体に同軸に配置され、且つコア本体の端面から軸方向に突出するように配置される。これにより、砥石車とロータリーツルアの相対軸方向位置および相対径方向位置を検出する際に、砥石車またはロータリーツルアのコア部の端面に存在するボルト等の突出部が、砥石車またはロータリーツルアの砥粒層、コア部の外周面の端面、コア部の他の突出部などに接触することを防止できる。従って、砥石車またはロータリーツルアの砥粒層の摩耗、砥石車のコア部またはロータリーツルアのコア部の摩耗、コア部から突出した突出部の破損などを防止できる。
【0017】
請求項2に係る発明によると、検知手段は、砥石車とロータリーツルアのコア部同士を接触させて、砥石車に対するロータリーツルアの相対軸方向位置を検知する。コア部は、研削加工およびツルーイングによって摩耗する部位ではなく、且つ回転軸の熱変形に伴って軸方向に変位する。よって、検知手段は、対向する両部材のコア部の端面同士を接触させることにより、摩耗などの影響を防止し、より高精度に両部材の軸方向位置の関係を把握することができる。従って、ツルーイング装置は、より高精度なツルーイングが可能となる。
請求項3に係る発明によると、制御手段によるツルーイングの際に砥石車の外周面が非円筒状に成形される。ここで、砥石車の回転軸、およびロータリーツルアを備えるツルーイング装置にあってはロータリーツルアの回転軸は、駆動装置や軸受などで発生する熱に影響され、支持する砥石車またはロータリーツルアを軸方向に変位させる。このような熱変位が発生した場合に、成形される砥石車の形状が非円筒状、即ちテーパー状であったり少なくとも一部に円弧状に形成される部位を有していたりすると熱変位によるツルーイングへの影響が大きくなる。特に、ロータリーツルアの外周面形状を砥石車に転写する総形ロータリーツルアの場合には、この影響は顕著となる。
【0018】
従来では、ロータリーツルアの熱変位を許容するために、ツルーイングにおける砥石車の研磨量(除去量)を増加するように切込み量を深く設定するなどして対応していた。これに対して、本発明によれば、より高精度なツルーイングが可能となるため、ツルーイングにおける砥石車の除去量を最小に抑制することができる。よって、研削加工に使用する砥石車の寿命を長期化することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
(研削盤のツルーイング装置の構成)
本実施形態の研削盤1について、
図1〜
図3を参照して説明する。研削盤1は、ベッド2に支持された工作物Wに対して砥石車11を相対移動させて研削加工を行う工作機械である。研削盤1は、砥石台10と、工作物支持装置20と、ツルーイング装置30と、制御装置40(本発明の「制御手段」に相当する)を備えて構成される。
【0021】
砥石台10は、砥石車11と、砥石軸12を有する。砥石台10には、工作物Wを研削する砥石車11を回転駆動させる図示しない駆動装置が設けられている。砥石軸12は、砥石台10に軸受を介して回転可能に支持され、上記の駆動装置によって所定の回転数で回転駆動される砥石車11の回転軸である。また、砥石車11は、コア部111および砥粒層112により構成される。コア部111は、本実施形態においては、円盤状に形成された鉄などの金属コアであって砥石軸12にボルト等により着脱可能に連結されている。砥粒層112は、研削加工の際に工作物Wと接触する部位であって、例えば、コア部111の外周に超硬質のCBN砥粒をビトリファイドボンドなどで結合して構成される。
【0022】
また、砥石台10は、ベッド2の上面に配置され砥石車11の中心軸Awに直交する方向に延びる図示しないガイドレール上に案内支持されている。これにより、砥石車11は、ベッド2の上面と平行で且つ工作物Wの径方向であるZ軸方向(
図1の上下方向)に移動可能となっている。また、砥石台10は、制御装置40により砥石車11のZ軸方向への移動および回転数などを制御される。
【0023】
工作物支持装置20は、工作物Wの中心軸の回りに回転可能となるように、工作物Wの両端を支持する。工作物支持装置20は、テーブル21と、主軸台22と、心押台23と、チャック24と、センタ25を有する。テーブル21は、研削盤1のベッド2の上面に配置され砥石車11の中心軸Awの方向に延びる図示しないガイドレール上に案内支持されている。これにより、テーブル21は、ベッド2の上面と平行で且つ工作物Wの軸方向であるX軸方向(
図1の左右方向)に移動可能となっている。
【0024】
主軸台22および心押台23は、テーブル21の上面に対向して配置され工作物Wの一端または他端をそれぞれ支持している。主軸台22には、図示しない駆動装置により回転する主軸が備えられており、主軸が回転駆動されることにより工作物Wが回転するように構成されている。また、主軸台22は、制御装置40により主軸の回転数や回転位相などを制御される。主軸台22には工作物Wの一端を把持するためのチャック24が設けられ、心押台23には工作物Wの他端を支持するセンタ25が設けられている。よって、工作物Wは、チャック24とセンタ25とによってテーブル21の移動方向(X軸方向)と平行な軸回りに回転可能に両端を支持されるとともに、主軸台22により回転駆動される。
【0025】
ツルーイング装置30は、主軸台22の砥石台10側の側面に固定され、砥石車11の外周面をツルーイングする装置である。ツルーイング装置30は、ロータリーツルア31と、ツルア軸32と、AEセンサ33(本発明の「検知手段」に相当する)を有する。ツルーイング装置30には、ロータリーツルア31を回転駆動させる図示しないビルトインモータが設けられている。ロータリーツルア31は、砥石車11の形状を成形するツルーイング工具であって、コア部311および砥粒層312により構成され、例えば、コア部311の外周に粒状のダイヤモンドを焼結して砥粒層312を形成されている。ツルア軸32は、ツルーイング装置30に軸受を介して回転可能に支持され、上記のビルトインモータによって所定の回転数で回転駆動されるロータリーツルア31の回転軸である。
【0026】
また、コア部311は、円盤状のコア本体311aと、円柱状の検知部311b(本発明の「柱状部」に相当する)により構成される。コア本体311aは、本実施形態においては、鉄などの金属コアであってツルア軸32にボルト等により着脱可能に連結されている。これにより、ロータリーツルア31は、中心軸Atの回りに回転可能となっている。また、コア部311の検知部311bは、ロータリーツルア31の中心軸Atの方向に延伸する円柱状に形成されている。この検知部311bは、コア本体311aに一体的に形成され、砥石車11とロータリーツルア31の相対軸方向位置を検知する際に砥石車11のコア部111と接触する部位である。そして、検知部311bの外径Dpは、
図2に示すように、コア本体311aの外径Dcよりも小さくなるように形成されている。このように接触子として機能する検知部311bを有するコア部311は、砥石車11と接触した際の摩耗量を低減するために焼入れ鋼などで形成されると好適である。
【0027】
AEセンサ33は、ツルア軸32の円筒内部に収容され、検知部311bと接触検知の対象物である砥石車11との接触によって発生するAE(Acoustic Emission)波を検出し、接触信号を制御装置40に出力する検知手段である。
【0028】
また、AEセンサ33は、砥石車11およびロータリーツルア31の両部材11,31を回転させた状態且つ互いの回転軸(即ち、砥石軸12およびツルア軸32)を平行に維持させた状態で、軸方向に対向する砥石車11のコア部111の端面とロータリーツルア31のコア部311の検知部311bの端面とを接触させて、砥石車11に対するロータリーツルア31の相対軸方向位置を検知する。さらに、AEセンサ33は、
図3に示すように、砥石車11の外周面と検知部311bの外周面とを接触させて、砥石車11に対するロータリーツルア31の相対的な径方向位置も検知する。このAEセンサ33を用いた砥石車11およびロータリーツルア31の位置検知の詳細については後述する。
【0029】
このような構成からなるツルーイング装置30は、ツルーイングを行う際に、先ずテーブル21の移動によりX軸方向にロータリーツルア31を移動させる。そして、砥石台10による砥石車11のZ軸方向の移動によって、砥石車11に対するロータリーツルア31の先端位置をツルーイング開始基準位置に位置決めする。続いて、砥石台10とテーブル21を同期させて、Z軸方向およびX軸方向に砥石車11およびロータリーツルア31を相対移動させることでツルーイングを行うことが可能となっている。ここで、ロータリーツルア31の「先端位置」とは、ロータリーツルア31の外周面のうち砥石車11の外周面に最も近接する部位としている。また、ツルーイング装置30は、制御装置40によりロータリーツルア31の回転数などを制御される。
【0030】
制御装置40は、図示しないCPUやROMなどにより構成され、システムプログラムや各種データ、研削加工条件、ツルーイング条件などを記憶している。また、制御装置40には、入力装置を介してAEセンサ33からの接触信号を含む種々のデータが入力される。この制御装置40は、研削加工においては、砥石台10のZ軸位置、工作物支持装置20のX軸方向位置、および主軸台22の回転をNC制御する。そして、制御装置40は、ツルーイング装置30のビルトインモータを回転させることで、ロータリーツルア31の回転を制御するようにしている。
【0031】
このように、研削盤1は、制御装置40により、砥石車11を回転させながら、工作物Wに対する砥石台10の各軸位置を制御することで、工作物Wの外周面を研削加工する。また、制御装置40は、検知手段であるAEセンサ33によって検知された砥石車11に対するロータリーツルア31の相対軸方向位置および相対径方向位置を入力する。そして、制御装置40は、ツルーイングにおいては、砥石車11およびロータリーツルア31を回転させた状態で、ロータリーツルア31の相対軸方向位置および相対径方向位置に基づいて、砥石台10のZ軸位置、およびツルーイング装置30のX軸方向位置をNC制御し、砥石車11の形状を成形する。
【0032】
(ツルーイング動作)
次に、上述した研削盤1のツルーイング装置30において、砥石車11のツルーイング動作について、
図2〜
図5を参照して説明する。制御装置40は、砥石車11のツルーイングの開始が指示されると、
図5に示す処理を実行する。先ず、制御装置40は、砥石台10およびツルーイング装置30に制御装置を出力し、砥石車11およびロータリーツルア31を所定の回転数でそれぞれ回転駆動させる(S10)。砥石車11の回転数は、ツルーイングの際に、砥石車11が実際に回転される回転数としている。ここでは、機械的な振動や発熱の状態が変動しないように、研削盤1が研削加工する際の加工条件と同様の回転数に設定している。そのため、このツルーイング工程が研削加工工程から一連で実行される場合には、制御装置40は、砥石車11の回転数を維持するように制御することになる。
【0033】
一方で、ロータリーツルア31の回転数は、砥石車11と外径によって定まるツルーイング部位(ロータリーツルア31により成形される部位)の周速に対して、所定の比率で割出された周速となるようにロータリーツルア31の外径に基づいて算出された回転数に設定される。そして、ツルーイングの前に実行される位置検知においても、ロータリーツルア31は、上記のように算出された回転数で回転されるようにしている。
【0034】
また、この時、砥石車11の回転軸である砥石軸12と、ロータリーツルア31の回転軸であるツルア軸32は平行な状態となっている。本実施形態において例示している研削盤1は、常に砥石軸12とツルア軸32が平行な状態が維持される構成となっているが、X軸およびZ軸に直交するY軸に平行な軸回りに砥石台またはツルーイング装置を回転する機構を有する場合には、上記のように各軸が平行となるように制御を行う。これにより、砥石車11のコア部111の軸方向端面と、ロータリーツルア31のコア部311における検知部311bの軸方向の先端面とが対向する状態としている。
【0035】
次に、制御装置40は、検知部311bの延長上に砥石車11のコア部111の端面のうち周縁部が位置するように、即ちZ軸方向から見て検知部311bの端面全体がコア部111の周囲の内側に含まれるように、砥石車11およびロータリーツルア31をZ軸方向に位置決めする(S20)。そして、砥石車11およびロータリーツルア31の両部材を回転させた状態且つそれぞれの回転軸12,32を平行に維持させた状態で、
図2に示すように、X軸方向に相対移動させて接近させる。
【0036】
その後に、砥石車11のコア部111の端面とロータリーツルア31の検知部311bの端面全体が接触すると、AEセンサ33がAE波を検出する。制御装置40は、AEセンサ33によりAE波が検出された際に、ロータリーツルア31をX軸方向へ移動させるテーブル21の現在位置を取得する。これにより、制御装置40は、砥石車11とロータリーツルア31の相対軸方向位置を検知し(S30)、RAMなどのメモリに記憶する。
【0037】
続いて、制御装置40は、検知部311bの根元部から先端部までの軸方向範囲に砥石車11の外周面の先端部が位置するように、砥石車11およびロータリーツルア31をX軸方向に位置決めする(S40)。そして、砥石車11およびロータリーツルア31の両部材を回転させた状態で、
図3に示すように、Z軸方向に相対移動させて接近させる。
【0038】
その後に、砥石車11の先端と検知部311bの外周面が接触すると、AEセンサ33がAE波を検出する。制御装置40は、AEセンサ33によりAE波が検出された際に、砥石車11をZ軸方向へ移動させる砥石台10の現在位置を取得する。これにより、制御装置40は、砥石車11とロータリーツルア31の相対的な径方向位置を検知し(S50)、メモリに記憶する。
【0039】
そして、制御装置40は、S10において制御した砥石車11とロータリーツルア31の回転数を維持するように制御する。さらに、制御装置40は、S30で検知された相対軸方向位置(X軸方向位置)、およびS50で検知された相対径方向位置(Z軸方向位置)に基づいてツルーイング開始基準位置を設定し、
図4に示すように、砥石車11に対するロータリーツルア31の相対移動を制御してツルーイングを行う(S60)。
図4においては、砥石車11の先端の少なくとも一部が円弧状に成形する場合を例示している。
【0040】
ここで、S30で検知された砥石車11とロータリーツルア31の相対的なX軸方向位置には、砥石車11およびロータリーツルア31の軸方向の熱変位量が含まれることになる。同様に、S50で検知された砥石車11とロータリーツルア31の相対的なZ軸方向位置には、砥石車11の摩耗量が含まれることになる。このようにして、研削盤1は、各部位の摩耗や熱変位などに起因する位置決め誤差を織込んでツルーイング開始基準位置を設定することで、ツルーイングの高精度化を図っている。
【0041】
(研削盤のツルーイング装置による効果)
上述した研削盤1のツルーイング装置30によると、検知手段であるAEセンサ33により検知された砥石車11に対するロータリーツルア31の相対軸方向位置に基づいて制御してツルーイングを行うものとした。このロータリーツルア31の相対軸方向位置は、砥石軸12とツルア軸32を平行に維持した状態で、砥石車11のコア部111とロータリーツルア31の検知部311bの端面同士を接触させて検知されたものである。これにより、ロータリーツルア31の先端位置の熱変位、および砥石車11の軸方向の熱変位を勘案して、砥石車11に対するロータリーツルア31の相対軸方向位置をより正確に検出することができる。
【0042】
よって、この相対軸方向位置、および検出された相対径方向位置に基づいて制御手段がロータリーツルア31と砥石車11の相対位置を制御することにより、砥石車11に対するロータリーツルア31のツルーイング開始基準位置をより正確に設定できる。従って、ツルーイング装置30は、研削加工およびツルーイングに要する回転数の高速化などに伴う熱変位の影響を低減し、より高精度なツルーイングを行うことができる。これにより、ツルーイングにおける砥石車11の除去量を最小に抑制し、砥石車11の寿命を長期化することが可能となる。そして、このような砥石車11を研削加工に使用することにより、研削加工をより高精度に行うことができる。
【0043】
ここで、ツルーイングにおいては、砥石車11の回転数は、工作物Wを研削加工する際の加工条件と同様に設定するものとした。また、ロータリーツルア31の回転数は、砥石車11の回転数によって定まるツルーイング部位の周速に対して所定の比率で割出された回転数に設定されるものとした。このように、砥石車11とロータリーツルア31の相対軸方向位置を検知する際には、両部材を回転させた状態が実際のツルーイングにおいて熱変位が生じている状態と同様となり、ツルーイングにおける熱変位量を勘案したツルーイング開始基準位置を検出することができる。そして、ツルーイングにおける砥石車11の回転数を、工作物Wを研削加工する際の回転数と同一にしたことにより、加工後の工作物Wを高精度にすることができる。
【0044】
また、砥石車11のコア部111の端面とロータリーツルア31の検知部311bの端面全体とをそれぞれ回転させた状態で接触させたことにより、相対速度の大きい箇所が必ず接触するため、接触時のAE波が大きくなって検知感度が向上される。そうすると、接触してからAE波を検知するまでの時間を短縮できるので、接触させた部分の摩耗量を減らすことができる。接触させた部分の摩耗量の低減により、砥石車11に対するロータリーツルア31の位置決め誤差を小さくできるため、ツルーイング開始基準位置をより高精度にすることができる。従って、より高精度にツルーイングできる。また、検知部311bの端面全体を接触させたことで、検知部311bの摩耗量を均一にできる。
【0045】
さらに、AEセンサ33は、ロータリーツルア31のコア部311に形成された柱状の検知部311bの先端面と、砥石車11のコア部111の端面とを接触させて、砥石車11に対するロータリーツルア31の相対軸方向位置を検知するものとした。コア部311は研削加工およびツルーイングによって摩耗する部位ではないことから、AEセンサ33の検知精度を維持することができる。また、従来のように砥石車と検知ピンを接触させてツルーイング開始基準位置を検出するものに対し、本発明は、従来の検知ピンより交換頻度の高いロータリーツルア31に一体的に検知部311bを設けたため、ロータリーツルア31の交換と共に検知部311bも新しくなる。これにより、従来の検知ピンに比べ検知部311bの摩耗量を少ない状態にできる。従って、高精度にツルーイングできる。
【0046】
また、この検知部311bの外径Dpは、ロータリーツルア31のコア部311におけるコア本体311aの外径Dcよりも小さくなるように形成されるものとした。検知部311bの外径Dpは、AEセンサ33によるAE波を検知するなどの検知方法や周速度などを勘案して適宜設定されるものである。但し、検知部311bがコア本体311aと一体的に回転することから、検知部311bには回転に伴う遠心力が影響することになる。そこで、検知部311bの外径Dpを少なくともコア本体311aの外径Dcよりも小さくすることで、検知部311bに作用する遠心力を低減して、振動などの発生を防止できる。これにより、AEセンサ33は、動作をより安定させることができるので、良好な検知精度を維持することができる。
【0047】
また、制御装置40によるツルーイングの際に砥石車11の外周面の少なくとも一部が円弧状に成形されるものとした。砥石車11の砥石軸12およびロータリーツルア31のツルア軸32は、上述したように、モータなどの駆動装置や軸受などで発生する熱に影響され、支持する砥石車11またはロータリーツルア31を軸方向に変位させる。このような熱変位が発生した場合に、成形される砥石車11の形状が非円筒状、即ちテーパー砥石、アンギュラ形砥石、または少なくとも一部に円弧状に形成される部位を有する砥石車の場合に、熱変位によるツルーイングへの影響が大きくなる。
【0048】
従来では、砥石車またはロータリーツルアの熱変位を許容するために、ツルーイングにおける砥石車の研磨量(除去量)を増加するように切込み量を深く設定するなどして対応していた。これに対して、本実施形態の研削盤1のツルーイング装置30によれば、砥石車11またはロータリーツルア31の軸方向の熱変位および径方向の熱変位を勘案してツルーイング開始基準位置をより正確にできるため、砥石車11の形状が非円筒状であってもより高精度なツルーイングを可能にし、ツルーイングにおける砥石車11の除去量を最小に抑制することができる。よって、研削加工に使用する砥石車11の寿命を長期化することが可能となる。
【0049】
<実施形態の変形態様>
本実施形態において、検知手段としてのAEセンサ33は、ツルーイング装置30のツルア軸32に設ける構成とした。これに対して、AEセンサは、砥石車11とロータリーツルア31が接触した際に発生するAE波を検知可能な部位であれば設置可能であり、例えば、砥石台10の砥石軸12の内周部や、当該砥石軸12またはツルア軸32を支持する軸受ないしその周辺としてもよい。また、検知手段として、AEセンサを例示して説明したが、砥石車11とロータリーツルア31が接触したことを検知可能であれば、その他の各種センサを適用することが可能である。
【0052】
また、柱状の検知部311bは、その外径Dpがコア本体311aの外径Dcより小さくなるように形成されるものとした。これは、検知部311bが検知対象以外の部材と干渉することを防止することなどを目的としている
。検知感度をより向上させるために、例えば検知部の周速を同じ回転数で上昇させるために、その外径Dpを適宜設定するようにしてもよ
い。
【0053】
砥石車11とロータリーツルア31の相対軸方向位置を検知するために、本実施形態では砥石車11のコア部111とロータリーツルア31の検知部311bを接触さ
せた。これに対して
、ロータリーツルア31のコア部311に形成された検知部311bを、砥石車11におけるコア部111の外周に形成された砥粒層112に接触させるようにしてもよい。砥石車11の砥粒層112の軸方向端面は、研削加工およびツルーイングによる摩耗が少ない部位ではあるが、良好な検知感度を維持するという観点からは、本実施形態で例示したように、
砥石車のコア部
と検知部を接触させる構成が好適である。
【0054】
また、本実施形態において、砥石車11は、ツルーイングの際に外周面の少なくとも一部が円弧状に成形されるものとした。これに対して、例えば、砥石車11は、円筒状、テーパー状、またはアンギュラ形研削盤に用いられるアンギュラ形砥石の外形状などに成形されるようにしてもよい。外周形状が円筒状の場合には、砥石車11やロータリーツルア31に熱変位が生じていても、ツルーイングの際に十分なX軸方向の移動距離を確保することで対応することが可能である。しかし、この移動距離をより短く適正に設定することで他部位との干渉を防止するとともに、サイクルタイムを短縮することができる。従って、砥石車11の外周面が何れの形状であっても、本発明の熱変位を補正可能なツルーイング装置を適用することは有用である。