特許第5974515号(P5974515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5974515撥水性保護膜形成用薬液、撥水性保護膜形成用薬液キット、及びウェハの洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974515
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】撥水性保護膜形成用薬液、撥水性保護膜形成用薬液キット、及びウェハの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20160809BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   H01L21/304 647A
   H01L21/304 647Z
   C09K3/18 104
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-20368(P2012-20368)
(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-161834(P2013-161834A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真規
(72)【発明者】
【氏名】公文 創一
(72)【発明者】
【氏名】荒田 忍
(72)【発明者】
【氏名】齋尾 崇
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−015335(JP,A)
【文献】 特開2011−091349(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/033114(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/145500(WO,A1)
【文献】 特開2010−114414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に酸化ケイ素を含むウェハの洗浄工程の後、乾燥工程の前において、前記ウェハの少なくとも凹部表面に撥水性保護膜を形成するための撥水性保護膜形成用薬液であり、
前記薬液は
下記一般式[1]で表されるケイ素化合物のみからなる保護膜形成剤と
非水溶媒とが含まれる薬液であって、
前記非水溶媒が、ラクトン系溶媒及びカーボネート系溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒(I)と、該溶媒(I)以外のケイ素化合物を可溶な溶媒(II)が質量比で40:60〜97:3で構成されることを特徴とする、撥水性保護膜形成用薬液。
SiX4−a [1]
[式[1]中、Rは、それぞれ互いに独立して、水素基、一部又は全ての水素元素がハロゲン元素に置き換えられていても良い炭素数が1〜18の1価の炭化水素基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基であり、ケイ素元素と結合する全ての前記炭化水素基に含まれる炭素数の合計は6以上である。また、Xは、それぞれ互いに独立して、イソシアネート基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、イソチオシアネート基、アジド基、アセトアミド基、−N(CH)C(O)CH、−N(CH)C(O)CF、−N=C(CH)OSi(CH、−N=C(CF)OSi(CH、−NHC(O)−OSi(CH、−NHC(O)−NH−Si(CH、イミダゾール環(下式[4])、オキサゾリジノン環(下式[5])、モルホリン環(下式[6])、−NH−C(O)−Si(CH、ケイ素元素と結合する元素が酸素である1価の官能基、ハロゲン基、ニトリル基、および、−CO−NH−Si(CHからなる群から選ばれる少なくとも1つの基であり、aは1〜3の整数である。]

【請求項2】
前記撥水性保護膜形成用薬液中の非水溶媒が、前記溶媒(I)と前記溶媒(II)が質量比で70:30〜95:5で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項3】
前記溶媒(I)がラクトン系溶媒であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項4】
前記撥水性保護膜形成用薬液が、10℃乃至160℃の温度で保持された状態のものであることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項5】
前記ケイ素化合物が下記一般式[2]で表されるケイ素化合物であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液。
(CHSiX [2]
[式[2]中、Rは一部又は全ての水素元素がハロゲン元素に置き換えられていても良い炭素数が4〜18の1価の炭化水素基であり、Xは、イソシアネート基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、イソチオシアネート基、アジド基、アセトアミド基、−N(CH)C(O)CH、−N(CH)C(O)CF、−N=C(CH)OSi(CH、−N=C(CF)OSi(CH、−NHC(O)−OSi(CH、−NHC(O)−NH−Si(CH、イミダゾール環(下式[4])、オキサゾリジノン環(下式[5])、モルホリン環(下式[6])、−NH−C(O)−Si(CH、ケイ素元素と結合する元素が酸素である1価の官能基、ハロゲン基、ニトリル基、および、−CO−NH−Si(CHからなる群から選ばれる少なくとも1つの基である。]

【請求項6】
前記ケイ素化合物が下記一般式[3]で表されるケイ素化合物であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液。
(CHSi−N(R [3]
[式[3]中、Rは一部又は全ての水素元素がハロゲン元素に置き換えられていても良い炭素数が4〜18の1価の炭化水素基であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基である。]
【請求項7】
前記撥水性保護膜形成用薬液中のケイ素化合物濃度が、0.1〜4質量%であることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項8】
前記撥水性保護膜形成用薬液に、さらに酸が含まれることを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液。
【請求項9】
請求項8に記載の撥水性保護膜形成用薬液を得るための撥水性保護膜形成用薬液キットであり、該薬液キットが、前記一般式[1]で表されるケイ素化合物と、溶媒(I)及び/又は溶媒(II)とを有する処理液Aと、酸と、前記の溶媒(I)及び/又は溶媒(II)とを有する処理液Bからなることを特徴とする、撥水性保護膜形成用薬液キット。
【請求項10】
前記溶媒(I)がラクトン系溶媒であることを特徴とする、請求項9に記載の撥水性保護膜形成用薬液キット。
【請求項11】
前記ケイ素化合物が前記一般式[2]で表されるケイ素化合物であることを特徴とする、請求項9又は請求項10に記載の撥水性保護膜形成用薬液キット。
【請求項12】
前記ケイ素化合物が前記一般式[3]で表されるケイ素化合物であることを特徴とする、請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液キット。
【請求項13】
表面に凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に酸化ケイ素を含むウェハの洗浄において、以下に示す工程、
前記ウェハ表面を洗浄液で洗浄する、洗浄工程、
前記ウェハの少なくとも凹部に撥水性保護膜形成用薬液を保持し、該凹部表面に撥水性保護膜を形成する、撥水性保護膜形成工程、
ウェハ表面の液体を除去する、乾燥工程、
前記凹部表面から撥水性保護膜を除去する、撥水性保護膜除去工程
を含み、撥水性保護膜形成工程において請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液、又は請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の撥水性保護膜形成用薬液キットから得られる撥水性保護膜形成用薬液を用いることを特徴とする、ウェハの洗浄方法。
【請求項14】
撥水性保護膜除去工程が、ウェハ表面を光照射すること、ウェハを加熱すること、ウェハ表面をプラズマ照射すること、ウェハ表面をオゾン曝露すること、及び、ウェハをコロナ放電することから選ばれる少なくとも1つの処理方法で行われることを特徴とする、請求項13に記載のウェハの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造などにおける基板ウェハの洗浄技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの製造では、成膜、リソグラフィやエッチングなどを経てシリコンウェハ表面に微細な凹凸パターンが形成され、その後、ウェハ表面を清浄なものとするために、水や有機溶媒等の洗浄液を用いて洗浄がなされる。素子は微細化がなされる方向にあり、凹凸パターンの間隔は益々狭くなってきている。このため、洗浄の後、洗浄液をウェハ表面から乾燥させるときにウェハの凹部に働く毛細管力により、凹凸パターンが倒れるという問題が生じやすくなってきている。この問題は、特に凹凸のパターン間隔がより狭くなった20nm台や10nm台世代の半導体チップにおいてはより顕著になってきている。
【0003】
このため、凹部に働く毛細管力を小さくすれば、パターン倒れが解消すると期待できる。毛細管力の大きさは、以下に示される式で求められるPの絶対値であり、この式からγ、もしくは、cosθを小さくすれば、毛細管力を低減できると期待される。
P=2×γ×cosθ/S
(式中、γは凹部に保持されている液体の表面張力、θは凹部表面と凹部に保持されている液体のなす接触角、Sは凹部の幅である。)
【0004】
パターンの倒れを防止しながらウェハ表面を洗浄する方法として、特許文献1は、ウェハ表面に残っている水をイソプロパノールなどに置換し、その後、乾燥させる方法を開示している。また、特許文献2は、ウェハ表面を水で洗浄した後、シリコンを含む凹凸パターン部に、シランカップリング剤などにより、撥水性の保護膜を形成し、次いで水でリンスしてから乾燥を行う方法を開示している。この保護膜は最終的には除去される。水でリンスを行うときにパターン部が保護膜によって撥水化されているので、凹凸パターンの倒れを抑制することに効果を生じている。この方法はアスペクト比が8以上のパターンに対しても効果があるとされている。さらに、特許文献3は撥水性の保護膜を効率的に形成できる表面処理剤として、ジシラザン構造を有する少なくとも1種の化合物を含むシリル化剤と、5又は6員環のラクトン化合物を含む溶剤とを含有する表面処理剤を使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−45843号公報
【特許文献2】特許第4403202号明細書
【特許文献3】特開2011−91349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウェハの凹凸パターンの表面を撥水化することでパターン倒れを防止しようとする場合において、撥水化後の表面に水が保持されたと仮定したときの接触角がより大きいと、背景技術で述べた毛細管力の式より算出される凹部に働く毛細管力が小さくなるため、従来のシランカップリング剤よりも優れた撥水性がウェハ表面に付与されることが望まれている。ウェハの洗浄工程上、前記撥水化にはウェハ表面に撥水性保護膜を速やかに形成する必要がある。速やかに撥水性保護膜を形成し、より優れた撥水性を付与するために、シランカップリング剤とウェハ表面に存在するシラノール基などの反応活性点との反応性を上げるべく、ラクトン化合物などの溶媒を用いることが有効であるが、特に疎水性基に多くの炭素原子を含むシランカップリング剤を用いた場合には前記のような溶媒に溶解しにくく、不溶解成分の存在により前記凹凸パターンが損傷する恐れがあるという問題点があった。本発明は、凹凸パターンの倒れを防止しながら液体を用いて表面に酸化ケイ素を含むウェハ(以降、単に「ウェハ」と記載する場合がある)を洗浄する方法において、不溶解成分が発生することがなく、凹凸パターン表面により優れた撥水性を付与する撥水性保護膜(以降、単に「保護膜」と記載する場合がある)を形成することが可能な撥水性保護膜形成用薬液(以降、単に「保護膜形成用薬液」又は「薬液」と記載する場合がある)、該薬液を得るための撥水性保護膜形成用薬液キット(以降、単に「薬液キット」と記載する場合がある)、及び、前記薬液又は前記薬液キットから得られる薬液を用いたウェハの洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において、撥水性保護膜とは、ウェハ表面に形成されることにより、該ウェハ表面の濡れ性を低くする膜、すなわち撥水性を付与する膜のことである。本発明において撥水性とは、物品表面の表面エネルギーを低減させて、水やその他の液体と該物品表面との間(界面)で相互作用、例えば、水素結合、分子間力などを低減させる意味である。特に水に対して相互作用を低減させる効果が大きいが、水と水以外の液体の混合液や、水以外の液体に対しても相互作用を低減させる効果を有する。該相互作用の低減により、物品表面に対する液体の接触角を大きくすることができる。
【0008】
本発明の薬液を用いてウェハの処理を行うと、洗浄液等の液体がウェハの凹凸パターンの凹部から除去されるとき、すなわち、乾燥されるとき、少なくとも凹部表面に前記保護膜が形成されているので、該凹部に働く毛細管力が小さくなり、パターン倒れが生じにくくなる。
【0009】
本発明は、表面に凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に酸化ケイ素を含むウェハの洗浄工程の後、乾燥工程の前において、前記ウェハの少なくとも凹部表面に撥水性保護膜を形成するための撥水性保護膜形成用薬液であり、前記薬液はケイ素化合物と非水溶媒とが含まれる薬液であって、前記ケイ素化合物が下記一般式[1]で表され、前記非水溶媒が、ラクトン系溶媒及びカーボネート系溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒(I)と、該溶媒(I)以外のケイ素化合物を可溶な溶媒(II)が質量比で40:60〜97:3で構成されることを特徴とする、撥水性保護膜形成用薬液である。
SiX4−a [1]
[式[1]中、Rは、それぞれ互いに独立して、水素基、一部又は全ての水素元素がハロゲン元素に置き換えられていても良い炭素数が1〜18の1価の炭化水素基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基であり、ケイ素元素と結合する全ての前記炭化水素基に含まれる炭素数の合計は6以上である。また、Xは、それぞれ互いに独立して、ケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の官能基、ケイ素元素と結合する元素が酸素である1価の官能基、ハロゲン基、ニトリル基、および、−CO−NH−Si(CHからなる群から選ばれる少なくとも1つの基であり、aは1〜3の整数である。]
【0010】
ケイ素化合物は、凹凸パターンやウェハ表面のシラノール基と化学的に反応することが可能であり、その結果、前記ケイ素化合物のケイ素元素は、凹凸パターンやウェハ表面のケイ素元素とシロキサン結合を介して化学的に結合し、撥水性保護膜を形成し、前記表面に撥水性を発現することができる。前記一般式[1]のRで表される炭化水素基は疎水性基であり、該疎水性基が大きなもの、すなわちケイ素元素と結合する全ての前記炭化水素基に含まれる炭素数の合計が6以上のもの(言い換えると、Rで表される、a個のR基において含まれる合計炭素数が6以上のもの)で保護膜を形成すると、ウェハ表面により優れた撥水性を付与することができる。
【0011】
前記薬液に含まれる溶媒は非水溶媒である。前記薬液に含まれる溶媒が水であると、水により薬液中のケイ素化合物の反応性部位(前記一般式[1]のX)が加水分解してシラノール基(Si−OH)が生成し、該反応性部位は、このシラノール基とも反応するために、ケイ素化合物同士が結合して2量体が生成する。この2量体は、凹凸パターン表面やウェハ表面のシラノール基との反応性が低いため、凹凸パターン表面やウェハ表面に十分に撥水性を付与することができない、あるいは、撥水性を付与するのに要する時間が長くなる問題がある。そのため、前記薬液の原料や、後述する薬液を得るための薬液キットの原料は、水の含有量が少ないものが好ましい。
【0012】
前記薬液に含まれる非水溶媒は、ラクトン系溶媒及びカーボネート系溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒(I)と、該溶媒(I)以外のケイ素化合物を可溶な溶媒(II)が質量比で40:60〜97:3で構成されるものである。溶媒(I)を用いる理由は、上述したケイ素化合物とシラノール基とのシランカップリン反応において、該シランカップリング反応を促進する傾向があるためである。前記反応促進効果は、溶媒(I)を用いた場合、ウェハ表面の反応点であるシラノール基が溶媒和しないため、より反応活性になるために起こると考えられる。
【0013】
しかし、溶媒(I)は疎水性基の大きなケイ素化合物を溶解させにくい。そこで、本発明者らは、かかる課題に鑑み、鋭意研究した結果、溶媒(I)に溶媒(II)を加えることで、ケイ素化合物の溶解性を改善しつつ、より優れた反応促進効果が得られ、またケイ素化合物濃度が低くても優れた撥水性付与効果を得られることを見出し、本発明に至った。溶媒(I)と溶媒(II)は、質量比で40:60〜97:3で構成される。前記薬液に含まれる非水溶媒100質量%中の溶媒(I)の含有率が40質量%未満であると、溶媒(I)を用いることによる反応促進効果のメリットが得にくく、一方、前記の溶媒(I)の含有率が97質量%超であると、疎水性基の大きなケイ素化合物を溶解させにくく、ケイ素化合物の溶け残りが存在する場合がある。溶媒(I)と溶媒(II)の比率は、より好ましくは質量比で70:30〜95:5である。前記薬液に含まれる非水溶媒100質量%中の溶媒(I)の含有率が70質量%以上であると、特にケイ素化合物の濃度が低くても、前記の反応促進効果によって優れた撥水性付与効果が得られるため好ましい。また、前記の溶媒(I)の含有率が95質量%以下であると、ケイ素化合物を溶解させ易く、溶け残りが存在しないため好ましい。
【0014】
このような溶媒(I)として、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、γ-ノナノラクトン、γ-デカノラクトン、γ-ウンデカノラクトン、γ-ドデカノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-オクタノラクトン、δ-ノナノラクトン、δ-デカノラクトン、δ-ウンデカノラクトン、δ-ドデカノラクトン、ε-ヘキサノラクトン等のラクトン系溶媒や、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒が挙げられる。この中でも、極性が高く、前記の反応促進効果に優れる、ラクトン系溶媒がより好ましい。
【0015】
また、前記ケイ素化合物は、プロトン性溶媒と反応しやすく、その結果、ケイ素化合物の反応性が低下しやすいため、前記非水溶媒として用いられる、前記溶媒(I)、及び溶媒(II)は、いずれも非プロトン性溶媒であることが好ましい。
【0016】
前記の溶媒(II)としては、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、水酸基を持たない多価アルコールの誘導体、N−H結合を持たない窒素元素含有溶媒が挙げられる。前記炭化水素類の例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどがあり、前記エステル類の例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸エチルヘキシル、アセト酢酸エチルなどがあり、前記エーテル類の例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどがあり、前記ケトン類の例としては、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトンなどがあり、前記含ハロゲン溶媒の例としては、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロシクロペンタン、パーフルオロシクロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼンなどのパーフルオロカーボン、1、1、1、3、3−ペンタフルオロブタン、オクタフルオロシクロペンタン、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタン、ゼオローラH(日本ゼオン株式会社製)などのハイドロフルオロカーボン、メチルパーフルオロイソブチルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル、アサヒクリンAE−3000(旭硝子株式会社製)、Novec HFE−7100、Novec HFE−7200、Novec7300、Novec7600(いずれもスリーエム社製)などのハイドロフルオロエーテル、テトラクロロメタンなどのクロロカーボン、クロロホルムなどのハイドロクロロカーボン、ジクロロジフルオロメタンなどのクロロフルオロカーボン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンなどのハイドロクロロフルオロカーボン、パーフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテルなどがあり、前記スルホキシド系溶媒の例としては、ジメチルスルホキシドなどがあり、前記水酸基を持たない多価アルコール誘導体の例としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどがあり、N−H結合を持たない窒素元素含有溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、トリエチルアミン、ピリジンなどがある。
【0017】
前記一般式[1]のXは、ウェハの反応サイトであるシラノール基に対して反応性を有する反応性部位であり、該反応性部位とウェハのシラノール基とが反応し、ケイ素化合物がシロキサン結合を介してウェハのケイ素元素と化学的に結合することによって前記保護膜が形成される。洗浄液を用いたウェハの洗浄に際して、ウェハの凹部から洗浄液が除去されるとき、すなわち、乾燥されるとき、前記凹部表面に前記保護膜が形成されていると、該凹部に働く毛細管力が小さくなり、パターン倒れが生じにくくなる。
【0018】
前記一般式[1]のXの一例であるケイ素元素に結合する元素が窒素の1価の官能基には、水素、炭素、ホウ素、窒素、リン、酸素、硫黄、ケイ素、ゲルマニウム、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などの元素が含まれていても良い。該官能基の例としては、イソシアネート基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、イソチオシアネート基、アジド基、アセトアミド基、−NHSi(CH基、−NHSi(CH基、−NHSi(CH17基、−N(CH)C(O)CH、−N(CH)C(O)CF、−N=C(CH)OSi(CH、−N=C(CF)OSi(CH、−NHC(O)−OSi(CH、−NHC(O)−NH−Si(CH、イミダゾール環(下式[4])、オキサゾリジノン環(下式[5])、モルホリン環(下式[6])、−NH−C(O)−Si(CH、−N(H)2−b(Si(H)3−c(Rは、一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い炭素数が1〜18の1価の炭化水素基、bは1又は2、cは0〜2の整数)などがある。
【0019】
また、前記一般式[1]のXの一例であるケイ素元素に結合する元素が酸素の1価の官能基には、水素、炭素、ホウ素、窒素、リン、酸素、硫黄、ケイ素、ゲルマニウム、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などの元素が含まれていても良い。該官能基の例としては、アルコキシ基、−OC(CH)=CHCOCH、−OC(CH)=N−Si(CH、−OC(CF)=N−Si(CH、−O−CO−R(Rは、一部又は全ての水素元素がフッ素元素等で置換されていても良い炭素数が1乃至18の1価の炭化水素基)、一部又は全ての水素元素がフッ素元素等で置換されていても良いアルキルスルホネート基などがある。
【0020】
また、前記一般式[1]のXの一例であるハロゲン基には、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などがある。中でもクロロ基がより好ましい。
【0021】
前記一般式[1]で表されるケイ素化合物としては、例えば、C(CHSiCl、C11(CHSiCl、C13(CHSiCl、C15(CHSiCl、C17(CHSiCl、C19(CHSiCl、C1021(CHSiCl、C1123(CHSiCl、C1225(CHSiCl、C1327(CHSiCl、C1429(CHSiCl、C1531(CHSiCl、C1633(CHSiCl、C1735(CHSiCl、C1837(CHSiCl、C11(CH)HSiCl、C13(CH)HSiCl、C15(CH)HSiCl、C17(CH)HSiCl、C19(CH)HSiCl、C1021(CH)HSiCl、C1123(CH)HSiCl、C1225(CH)HSiCl、C1327(CH)HSiCl、C1429(CH)HSiCl、C1531(CH)HSiCl、C1633(CH)HSiCl、C1735(CH)HSiCl、C1837(CH)HSiCl、C(CHSiCl、C(CHSiCl、C(CHSiCl、C11(CHSiCl、C13(CHSiCl、C15(CHSiCl、C17(CHSiCl、(CSiCl、C(CSiCl、C(CSiCl、C11(CSiCl、C13(CSiCl、C15(CSiCl、C17(CSiCl、C19(CSiCl、C1021(CSiCl、C1123(CSiCl、C1225(CSiCl、C1327(CSiCl、C1429(CSiCl、C1531(CSiCl、C1633(CSiCl、C1735(CSiCl、C1837(CSiCl、(CSiCl、C11(CSiCl、C13(CSiCl、C15(CSiCl、C17(CSiCl、C19(CSiCl、C1021(CSiCl、C1123(CSiCl、C1225(CSiCl、C1327(CSiCl、C1429(CSiCl、C1531(CSiCl、C1633(CSiCl、C1735(CSiCl、C1837(CSiCl、CF(CSiCl、C(CSiCl、C(CSiCl、C(CSiCl、C11(CSiCl、C13(CSiCl、C15(CSiCl、C17(CSiCl、C11(CH)SiCl、C13(CH)SiCl、C15(CH)SiCl、C17(CH)SiCl、C19(CH)SiCl、C1021(CH)SiCl、C1123(CH)SiCl、C1225(CH)SiCl、C1327(CH)SiCl、C1429(CH)SiCl、C1531(CH)SiCl、C1633(CH)SiCl、C1735(CH)SiCl、C1837(CH)SiCl、C(CH)SiCl、C(CH)SiCl、C11(CH)SiCl、C13(CH)SiCl、C15(CH)SiCl、C17(CH)SiCl、C13SiCl、C15SiCl、C17SiCl、C19SiCl、C1021SiCl、C1123SiCl、C1225SiCl、C1327SiCl、C1429SiCl、C1531SiCl、C1633SiCl、C1735SiCl、C1837SiCl、CSiCl、C11SiCl、C13SiCl、C15SiCl、C17SiClなどのクロロシラン化合物、あるいは、前記クロロシラン化合物のクロロ基を、メトキシ基やエトキシ基などの炭素数が1〜18のアルコキシ基や、−OC(CH)=CHCOCH、−OC(CH)=N−Si(CH、−OC(CF)=N−Si(CH、−O−CO−R(Rは、一部又は全ての水素元素がフッ素元素等で置換されていても良い炭素数が1乃至18の1価の炭化水素基)、一部又は全ての水素元素がフッ素元素等で置換されていても良いアルキルスルホネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アジド基、アセトアミド基、−NHSi(CH基、−NHSi(CH
基、−NHSi(CH17基、−N(CH)C(O)CH、−N(CH)C(O)CF、−N=C(CH)OSi(CH、−N=C(CF)OSi(CH、−NHC(O)−OSi(CH、−NHC(O)−NH−Si(CH、イミダゾール環、オキサゾリジノン環、モルホリン環、−NH−C(O)−Si(CH、−N(H)2−b(Si(H)3−c(Rは一部又は全ての水素元素がフッ素元素に置き換えられていても良い炭素数が1〜18の1価の炭化水素基、bは1又は2、cは0〜2の整数)、フルオロ基、ブロモ基、ヨード基、ニトリル基、または、−CO−NH−Si(CHに置き換えた化合物などが挙げられる。
【0022】
上記のケイ素化合物のうち、前記一般式[1]のRで表される炭化水素基の水素元素がハロゲン元素で置換される場合、撥水性能を考慮すると置換するハロゲン元素としてはフッ素元素であることが好ましい。
【0023】
また、前記撥水性保護膜形成用薬液は、前記一般式[1]で表されるケイ素化合物を2種以上含有するものであっても良い。
【0024】
また、前記撥水性保護膜形成用薬液は、10℃乃至160℃の温度で保持された状態のものであると、前記ケイ素化合物が薬液中に溶解された状態になりやすく、より均一な薬液になりやすいため好ましく、該温度は、特には50〜120℃が好ましい。なお、後述する保護膜形成工程においても、該薬液が、10℃乃至160℃の温度で保持された状態のものであると、より短時間で前記保護膜を形成しやすいため好ましく、該温度は、特には50〜120℃が好ましい。
【0025】
前記一般式[1]において4−aで表されるケイ素化合物のXの数が1であると(すなわちa=3であると)、前記保護膜を均質に形成できるのでより好ましい。また、一般式[1]で表されるケイ素化合物のうち、Rが、炭素数が4〜18の、一部又は全ての水素元素がハロゲン元素に置換されていても良い炭化水素基1個と、メチル基2個からなるもの(つまり、下記一般式[2]で表される化合物)は、凹凸パターン表面やウェハ表面のシラノール基との反応性がより高いので好ましい。これは、疎水性基による立体障害が、凹凸パターン表面やウェハ表面のシラノール基に対するケイ素化合物の反応性に大きな影響を与えるためであり、ケイ素元素に結合する炭化水素基は最も長い一つを除く残り二つは短い方が好ましいからである。
(CHSiX [2]
[式[2]中、Rは一部又は全ての水素元素がハロゲン元素に置き換えられていても良い炭素数が4〜18の1価の炭化水素基であり、Xはケイ素元素と結合する元素が窒素である1価の官能基、ケイ素元素と結合する元素が酸素である1価の官能基、ハロゲン基、ニトリル基、および、−CO−NH−Si(CHからなる群から選ばれる少なくとも1つの基である。]
【0026】
また、ウェハ表面のシラノール基に対するケイ素化合物の反応性を考慮すると、前記ケイ素化合物は下記一般式[3]で表されるケイ素化合物であることがより好ましい。
(CHSi−N(R [3]
[式[3]中、Rは一部又は全ての水素元素がハロゲン元素に置き換えられていても良い炭素数が4〜18の1価の炭化水素基であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基である。]
【0027】
前記一般式[3]で表されるケイ素化合物としては、例えば、C(CHSiN(CH、C11(CHSiN(CH、C13(CHSiN(CH、C15(CHSiN(CH、C17(CHSiN(CH、C19(CHSiN(CH、C1021(CHSiN(CH、C1123(CHSiN(CH、C1225(CHSiN(CH、C1327(CHSiN(CH、C1429(CHSiN(CH、C1531(CHSiN(CH、C1633(CHSiN(CH、C1735(CHSiN(CH、C1837(CHSiN(CH、C11(CH)HSiN(CH、C13(CH)HSiN(CH、C15(CH)HSiN(CH、C17(CH)HSiN(CH、C19(CH)HSiN(CH、C1021(CH)HSiN(CH、C1123(CH)HSiN(CH、C1225(CH)HSiN(CH、C1327(CH)HSiN(CH、C1429(CH)HSiN(CH、C1531(CH)HSiN(CH、C1633(CH)HSiN(CH、C1735(CH)HSiN(CH、C1837(CH)HSiN(CH、C(CHSiN(CH、C(CHSiN(CH、C(CHSiN(CH、C11(CHSiN(CH、C13(CHSiN(CH、C15(CHSiN(CH、C17(CHSiN(CH、(CSiN(CH、C(CSiN(CH、C(CSiN(CH、C11(CSiN(CH、C13(CSiN(CH、C15(CSiN(CH、C17(CSiN(CH、C19(CSiN(CH、C1021(CSiN(CH、C1123(CSiN(CH、C1225(CSiN(CH、C1327(CSiN(CH、C1429(CSiN(CH、C1531(CSiN(CH、C1633(CSiN(CH、C1735(CSiN(CH、C1837(CSiN(CH、(CSiN(CH、C11(CSiN(CH、C13(CSiN(CH、C15(CSiN(CH、C17(CSiN(CH、C19(CSiN(CH、C1021(CSiN(CH、C1123(CSiN(CH、C1225(CSiN(CH、C1327(CSiN(CH、C1429(CSiN(CH、C1531(CSiN(CH、C1633(CSiN(CH、C1735(CSiN(CH、C1837(CSiN(CH、C11(CH)Si[N(CH、C13(CH)Si[N(CH、C15(CH)Si[N(CH、C17(CH)Si[N(CH、C19(CH)Si[N(CH、C1021(CH)Si[N(CH、C1123(CH)Si[N(CH、C1225(CH)Si[N(CH、C1327(CH)Si[N(CH、C1429(CH)Si[N(CH、C1531(CH)Si[N(CH、C1633(CH)Si[N(CH、C1735(CH)Si[N(CH、C1837(CH)Si[N(CH、C(CH)Si[N(CH、C(CH)Si[N(CH、C11(CH)Si[N(CH、C13(CH)Si[N(CH、C15(CH)Si[N(CH、C17(CH
)Si[N(CH、C13Si[N(CH、C15Si[N(CH、C17Si[N(CH、C19Si[N(CH、C1021Si[N(CH、C1123Si[N(CH、C1225Si[N(CH、C1327Si[N(CH、C1429Si[N(CH、C1531Si[N(CH、C1633Si[N(CH、C1735Si[N(CH、C1837Si[N(CH、CSi[N(CH、C11Si[N(CH、C13Si[N(CH、C15Si[N(CH、C17Si[N(CH、C(CHSiN(C、C11(CHSiN(C、C13(CHSiN(C、C15(CHSiN(C、C17(CHSiN(C、C19(CHSiN(C、C1021(CHSiN(C、C1123(CHSiN(C、C1225(CHSiN(C、C1327(CHSiN(C、C1429(CHSiN(C、C1531(CHSiN(C、C1633(CHSiN(C、C1735(CHSiN(C、C1837(CHSiN(C、C(CHSiN(C、C(CHSiN(C、C11(CHSiN(C、C13(CHSiN(C、C15(CHSiN(C、C17(CHSiN(C、(CSiN(C、C(CSiN(C、C(CSiN(C、C11(CSiN(C、C13(CSiN(C、C15(CSiN(C、C17(CSiN(C、C19(CSiN(C、C1021(CSiN(C、C1123(CSiN(C、C1225(CSiN(C、C1327(CSiN(C、C1429(CSiN(C、C1531(CSiN(C、C1633(CSiN(C、C1735(CSiN(C、C1837(CSiN(C、(CSiN(C、C11(CSiN(C、C13(CSiN(C、C15(CSiN(C、C17(CSiN(C、C19(CSiN(C、C1021(CSiN(C、C1123(CSiN(C、C1225(CSiN(C、C1327(CSiN(C、C1429(CSiN(C、C1531(CSiN(C、C1633(CSiN(C、C1735(CSiN(C、C1837(CSiN(Cなどの化合物や、上記の窒素元素に結合したメチル基やエチル基がプロピル基やブチル基に置き換わった化合物が挙げられる。
【0028】
また、前記撥水性保護膜形成用薬液中のケイ素化合物濃度は、0.1〜4質量%であることが好ましい。本発明の薬液では、前述のように溶媒(I)によるシランカップリング反応の促進効果により、ケイ素化合物濃度が0.1質量%以上であれば、ウェハ表面に優れた撥水性を付与することができるため好ましい。また、該薬液のコストを考慮すれば、ケイ素化合物の濃度は低いほうが好ましく、その上限は4質量%が好ましい。
【0029】
また、前記薬液には、保護膜形成剤であるケイ素化合物と、凹凸パターン表面やウェハ表面のシラノール基との反応を促進させるために、さらに酸が含まれることが好ましい。このような酸として、トリフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、無水ペンタフルオロプロピオン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、無水トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、塩化水素などの水を含まない酸が好適に用いられる。特に、反応促進効果を考慮すると、トリフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、無水トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、塩化水素などの酸が好ましく、当該の酸は水分を含んでいないことが好ましい。
【0030】
特に、一般式[1]における疎水性基Rの炭素数が大きくなると、立体障害のために、凹凸パターン表面やウェハ表面のシラノール基に対するケイ素化合物の反応性が低下する場合がある。この場合は、水を含まない酸を添加することで、凹凸パターン表面やウェハ表面のシラノール基とケイ素化合物との反応が促進され、疎水性基の立体障害による反応性の低下を補ってくれる場合がある。
【0031】
酸の添加量は、前記ケイ素化合物の総量100質量%に対して、0.01〜100質量%が好ましい。添加量が少なくなると反応促進効果が得られにくい。また、過剰に添加しても反応促進効果は向上せず、逆に反応促進効果が低下する場合もある。さらに、不純物として凹凸パターン表面やウェハ表面に残留する懸念もある。このため、前記酸の添加量は、0.01〜100質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜50質量%である。これを考慮すると、酸の前記薬液総量に対する添加量は、前記薬液の総量100質量%に対して、0.0001〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.001〜33質量%である。
【0032】
また、本発明は、上記の撥水性保護膜形成用薬液を得るための撥水性保護膜形成用薬液キットであり、該薬液キットが、前記一般式[1]で表されるケイ素化合物と、溶媒(I)及び/又は溶媒(II)とを有する処理液Aと、酸と、前記の溶媒(I)及び/又は溶媒(II)とを有する処理液Bからなることを特徴とする、撥水性保護膜形成用薬液キットである。
【0033】
前記薬液キットは、別々に保管された処理液Aと処理液Bとを混合することで、前記薬液とするものであり、ケイ素化合物、溶媒(I)、及び、溶媒(II)は、前述の撥水性保護膜形成用薬液で記載したものと同様のものを用いることができる。なお、処理液A及びBに含まれる溶媒(I)と溶媒(II)の含有比率は特に限定されないが、処理液Aと処理液Bとを混合して前記薬液を得た際に、該薬液に含まれる溶媒(I)と溶媒(II)が、質量比で40:60〜97:3で構成されるように調製される。
【0034】
また、前記薬液キットで用いられる溶媒(I)は、極性が高く、前記の反応促進効果に優れる、ラクトン系溶媒であることが好ましい。
【0035】
また、前記薬液キットで用いられるケイ素化合物は前記一般式[2]で表されるケイ素化合物であることが好ましい。
【0036】
また、前記薬液キットで用いられるケイ素化合物は前記一般式[3]で表されるケイ素化合物であることが好ましい。
【0037】
また、本発明は、表面に凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に酸化ケイ素を含むウェハの洗浄において、以下に示す工程、
前記ウェハ表面を洗浄液で洗浄する、洗浄工程、
前記ウェハの少なくとも凹部に撥水性保護膜形成用薬液を保持し、該凹部表面に撥水性保護膜を形成する、撥水性保護膜形成工程、
ウェハ表面の液体を除去する、乾燥工程、
前記凹部表面から撥水性保護膜を除去する、撥水性保護膜除去工程
を含み、撥水性保護膜形成工程において上記の撥水性保護膜形成用薬液、又は上記の撥水性保護膜形成用薬液キットから得られる撥水性保護膜形成用薬液を用いることを特徴とする、ウェハの洗浄方法である。
【0038】
また、撥水性保護膜除去工程は、ウェハ表面を光照射すること、ウェハを加熱すること、ウェハ表面をプラズマ照射すること、ウェハ表面をオゾン曝露すること、及び、ウェハをコロナ放電することから選ばれる少なくとも1つの処理方法で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の撥水性保護膜形成用薬液、該薬液を得るための薬液キット、及び、前記薬液又は前記薬液キットから得られる薬液を用いたウェハの洗浄方法を用いることで、表面に凹凸パターンを有し該凹凸パターンの少なくとも凹部表面に酸化ケイ素を含むウェハの該表面に撥水性保護膜を速やかに形成でき、より優れた撥水性能を付与することができるため、ひいてはウェハの洗浄・乾燥時のパターン倒れを抑制することに奏功する。本発明を適用すれば、撥水性保護膜を形成するために疎水性基が大きなケイ素化合物を用いても、不溶解成分が発生することがなく、均一な撥水性保護膜形成用薬液を得ることができるとともに、ウェハ表面により優れた撥水性を付与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】表面が凹凸パターン2を有する面とされたウェハ1を斜視したときの模式図。
図2図1中のa−a’断面の一部を示した模式図。
図3】撥水性保護膜形成工程にて凹部4が撥水性保護膜形成用薬液8を保持した状態の模式図。
図4】撥水性保護膜10が形成された凹部4に液体9が保持された状態の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
表面に凹凸パターンを有するウェハは、以下のような手順で得られる場合が多い。まず、平滑なウェハ表面にレジストを塗布したのち、レジストマスクを介してレジストに露光し、露光されたレジスト、又は、露光されなかったレジストをエッチング除去することによって所望の凹凸パターンを有するレジストを作製する。また、レジストにパターンを有するモールドを押し当てることでも、凹凸パターンを有するレジストを得ることができる。次に、ウェハをエッチングする。このとき、レジストパターンの凹の部分に対応するウェハ表面が選択的にエッチングされる。最後に、レジストを剥離すると、凹凸パターンを有するウェハが得られる。
【0042】
なお、前記ウェハとしては、シリコンウェハや、シリコンウェハ上に熱酸化法やCVD法、スパッタ法などにより酸化ケイ素膜が形成されたものが挙げられる。また、酸化ケイ素を含む複数の成分から構成されたウェハ、シリコンカーバイドウェハ、及びウェハ上に酸化ケイ素膜が形成されたものも、ウェハとして用いることができる。さらには、サファイアウェハ、各種化合物半導体ウェハ、プラスチックウェハなどケイ素元素を含まないウェハ上に、酸化ケイ素膜が形成されたものであっても良い。なお、前記薬液は酸化ケイ素を含むウェハ表面、ウェハ上に形成された酸化ケイ素膜表面、及び、前記ウェハ、或いは前記膜において形成された凹凸パターン表面のうち酸化ケイ素が存在する部分の表面に保護膜を形成し撥水化することができる。
【0043】
上記のように得られた、表面に凹凸パターンを有するウェハは、パーティクル等を除去するために、前記洗浄工程において洗浄される。本発明のウェハの洗浄方法において、パターン倒れを発生させずに効率的に洗浄するためには、少なくとも、前記洗浄工程及び前記撥水性保護膜形成工程を、ウェハの少なくとも凹部に常に液体が保持された状態で行う。また、撥水性保護膜形成工程の後で、ウェハの凹部に保持された撥水性保護膜形成用薬液をその他の液体に置換する場合も、上記と同様にウェハの少なくとも凹部に常に液体が保持された状態で行うことが好ましい。本発明において、ウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に前記洗浄液、前記薬液やその他の液体を保持できるのであれば、前記の洗浄液、薬液や、その他の液体の供給方式(以降、これらの方式を総称して「洗浄方式」と記載する場合がある)は特に限定されない。ウェハの洗浄方式としては、ウェハをほぼ水平に保持して回転させながら回転中心付近に液体を供給してウェハを1枚ずつ洗浄(処理)するようなスピン洗浄(処理)に代表される枚葉方式や、洗浄槽内で複数枚のウェハを浸漬し洗浄(処理)するようなバッチ方式が挙げられる。なお、ウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に前記洗浄液、前記薬液やその他の液体を供給するときの該洗浄液や薬液やその他の液体の形態としては、該凹部に保持された時に液体になるものであれば特に限定されず、例えば、液体、蒸気などがある。
【0044】
前記洗浄工程において用いられる洗浄液の例としては、水、水に有機溶媒、酸、アルカリ、界面活性剤、過酸化水素、オゾンのうち少なくとも1種以上が混合された水を主成分(例えば、水の含有率が50質量%以上)とする水系洗浄液、又は、有機溶媒などが挙げられる。
【0045】
前記洗浄工程において、洗浄液として水を含む水系洗浄液を用いた場合、水系洗浄液が少なくとも凹部に保持されて該凹部表面に接触する。凹部表面に酸化ケイ素を含むウェハの場合、水系洗浄液との接触により、該表面の一部にシラノール基が形成される。本発明の撥水性保護膜形成用薬液に含まれるケイ素化合物は大きな疎水性基をもつため、上記のように形成されたシラノール基と反応して保護膜を形成する場合、前記ウェハの凹部表面に優れた撥水性を発現することが可能である。
【0046】
前記のようなウェハ表面の酸化は、水系洗浄液として室温の純水を用いた場合であっても進行するが、水系洗浄液として強酸性水溶液を用いたり、水系洗浄液の温度を高くしたりすると、より進行しやすいため、該酸化を促進させる目的で水系洗浄液に酸を添加したり、水系洗浄液の温度を高くしても良い。また、前記酸化を促進させる目的で、過酸化水素やオゾンなどを添加しても良い。
【0047】
また、前記洗浄液の好ましい例の一つである有機溶媒の例としては、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、ラクトン系溶媒、カーボネート系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、窒素元素含有溶媒等が挙げられる。
【0048】
また、前記水系洗浄液に混合されることのある酸としては、無機酸や有機酸がある。無機酸の例としては、フッ酸、バッファードフッ酸、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸など、有機酸の例としては、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸などが挙げられる。該水系洗浄液に混合されることのあるアルカリとしては、アンモニア、コリンなどが挙げられる。該水系洗浄液に混合されることのある酸化剤としては、オゾン、過酸化水素などが挙げられる。
【0049】
また、前記洗浄液として、複数の洗浄液を用いても良い。例えば、酸水溶液あるいはアルカリ水溶液を含む洗浄液と前記有機溶媒の2種類を洗浄液に用い、酸水溶液あるいはアルカリ水溶液を含む洗浄液→前記有機溶媒の順で洗浄することができる。また、例えば、酸水溶液あるいはアルカリ水溶液を含む洗浄液→水系洗浄液→前記有機溶媒の順で洗浄することもできる。
【0050】
また、前記洗浄工程において、洗浄液を、10℃以上、洗浄液の沸点未満の温度で保持しても良い。例えば、洗浄液が酸水溶液を含む、特に好ましくは酸水溶液と沸点が100℃以上の有機溶媒を含む溶液を用いる場合、洗浄液の温度を該洗浄液の沸点付近に高くすると、前記保護膜が短時間で形成しやすくなるので好ましい。
【0051】
前記洗浄工程の後で、用いた洗浄液をそのまま乾燥等によりウェハ表面から除去すると、凹部の幅が小さく、凸部のアスペクト比が大きいと、パターン倒れが生じやすくなる。該凹凸パターンは、図1及び図2に記すように定義される。図1は、表面が凹凸パターン2を有する面とされたウェハ1を斜視したときの模式図を示し、図2図1中のa−a’断面の一部を示したものである。凹部の幅5は、図2に示すように凸部3と凸部3の間隔で示され、凸部のアスペクト比は、凸部の高さ6を凸部の幅7で割ったもので表される。パターン倒れは、凹部の幅が70nm以下、特には45nm以下、アスペクト比が4以上、特には6以上のときに生じやすくなる。
【0052】
前記洗浄工程でウェハの凹凸パターンの少なくとも凹部に保持された洗浄液は、撥水性保護膜形成工程において撥水性保護膜形成用薬液に置換される。図3は、撥水性保護膜形成工程にて凹部4が保護膜形成用薬液8を保持した状態の模式図を示している。図3の模式図のウェハは、図1のa−a’断面の一部を示すものである。保護膜形成用薬液が凹部4に保持され、該凹部4の表面に保護膜が形成されることにより、該表面が撥水化される。なお、本発明の保護膜は、必ずしも連続的に形成されていなくてもよく、また、必ずしも均一に形成されていなくてもよいが、より優れた撥水性を付与できるため、連続的に、また、均一に形成されていることがより好ましい。
【0053】
前記撥水性保護膜形成工程の後で、該凹凸パターンの少なくとも凹部に保持された前記薬液を該薬液とは異なるリンス液に置換した後に、乾燥工程に移ってもよい。このリンス液の例としては、水系溶液からなる水系洗浄液、または、有機溶媒、または、前記水系洗浄液と有機溶媒の混合物、それらに酸、アルカリ、界面活性剤のうち少なくとも1種が混合されたもの、またはそれらに保護膜形成用薬液に含まれるケイ素化合物や酸が該薬液よりも低濃度になるように添加されたもの等が挙げられる。
【0054】
また、該リンス液の好ましい例の一つである有機溶媒の例としては、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン溶媒、スルホキシド系溶媒、ラクトン系溶媒、カーボネート系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、窒素元素含有溶媒等が挙げられる。
【0055】
前記リンス液として水を用いると、前記薬液によって撥水化された凹凸パターンの少なくとも凹部表面の該液との接触角θが大きくなって該凹部に働く毛細管力が小さくなり、さらに乾燥後にウェハ表面に汚れが残りにくくなるので好ましい。また、前記リンス液として、複数の洗浄液を用いても良い。例えば、有機溶媒(好ましくは水溶性有機溶媒を含む)と水系洗浄液を順次置換して用いることができる。
【0056】
撥水性保護膜形成用薬液により撥水化された凹部4に液体9が保持された場合の模式図を図4に示す。図4の模式図のウェハは、図1のa−a’断面の一部を示すものである。凹部4の表面には撥水性保護膜10が形成されている。このとき凹部4に保持されている液体9は、前記薬液、該薬液から置換した後のリンス液でもよいし、置換途中の液体(薬液とリンス液の混合液)であってもよい。前記撥水性保護膜10は、液体9が凹部4から除去されるときもウェハ表面に保持されている。
【0057】
図4の凹部4のように凹部表面に撥水性保護膜が存在すると、該凹部表面と該凹部に保持された液体との接触角が増大され、該凹部に働く毛細管力が低減される。
【0058】
図4のように、凹部表面に保護膜10が形成されたとき、該表面に水が保持されたと仮定したときの接触角はより大きいと、背景技術で述べた毛細管力の式より算出される凹部に働く毛細管力が小さくなるため、パターン倒れがより発生し難くなるため好ましい。
【0059】
次に、乾燥工程を行う。該工程では、凹凸パターン表面に保持された液体が乾燥により除去される。当該乾燥は、自然乾燥、エアー乾燥、Nガス乾燥、スピン乾燥法、IPA(2−プロパノール)蒸気乾燥、マランゴニ乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、温風乾燥、真空乾燥などの周知の乾燥方法によって行うことが好ましい。
【0060】
該乾燥工程の前に、前記凹部に保持されている液体は、前記薬液、リンス液、または、該薬液とリンス液の混合液である。なお、前記薬液を含む混合液は、前記薬液をリンス液に置換する途中の状態の液でもよいし、あらかじめ前記薬液をリンス液に混合して得た混合液でもよい。前記液体を効率よく除去するために、保持された液体を排液して除去した後に、残った液体を乾燥させても良い。
【0061】
次に、前記撥水性保護膜除去工程が行われる。前記保護膜10を除去する場合、該保護膜中のC−C結合、C−F結合を切断することが有効である。その方法としては、前記結合を切断できるものであれば特に限定されないが、例えば、ウェハ表面を光照射すること、ウェハを加熱すること、ウェハをオゾン曝露すること、ウェハ表面にプラズマ照射すること、ウェハ表面にコロナ放電すること等が挙げられる。
【0062】
光照射で前記保護膜10を除去する場合、該保護膜10中のC−C結合、C−F結合を切断することが有効であり、このためには、それらの結合エネルギーである83kcal/mol、116kcal/molに相当するエネルギーである340nm、240nmよりも短い波長を含む紫外線を照射することが好ましい。この光源としては、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマランプ、カーボンアークなどが用いられる。紫外線照射強度は、メタルハライドランプであれば、例えば、照度計(コニカミノルタセンシング製照射強度計UM−10、受光部UM−360〔ピーク感度波長:365nm、測定波長範囲:310〜400nm〕)の測定値で100mW/cm以上が好ましく、200mW/cm以上が特に好ましい。なお、照射強度が100mW/cm未満では前記保護膜10を除去するのに長時間要するようになる。また、低圧水銀ランプであれば、より短波長の紫外線を照射することになるので、照射強度が低くても短時間で前記保護膜10を除去できるので好ましい。
【0063】
また、光照射で前記保護膜10を除去する場合、紫外線で前記保護膜10の構成成分を分解すると同時にオゾンを発生させ、該オゾンによって前記保護膜10の構成成分を酸化揮発させると、処理時間が短くなるので特に好ましい。この光源としては、低圧水銀ランプやエキシマランプが用いられる。また、光照射しながらウェハを加熱してもよい。
【0064】
ウェハを加熱する場合、400〜700℃、好ましくは、500〜700℃でウェハの加熱を行うのが好ましい。この加熱時間は、1〜60分間、好ましくは10〜30分間の保持で行うことが好ましい。また、当該工程では、オゾン曝露、プラズマ照射、コロナ放電などを併用してもよい。また、ウェハを加熱しながら光照射を行ってもよい。
【0065】
加熱により前記保護膜を除去する方法は、ウェハを熱源に接触させる方法、熱処理炉などの加熱された雰囲気にウェハを置く方法などがある。なお、加熱された雰囲気にウェハを置く方法は、複数枚のウェハを処理する場合であっても、ウェハ表面に前記保護膜を除去するためのエネルギーを均質に付与しやすいことから、操作が簡便で処理が短時間で済み処理能力が高いという工業的に有利な方法である。
【0066】
ウェハをオゾン曝露する場合、低圧水銀灯などによる紫外線照射や高電圧による低温放電等で発生させたオゾンをウェハ表面に供しても良い。ウェハをオゾン曝露しながら光照射してもよいし、加熱してもよい。
【0067】
前記の光照射、加熱、オゾン曝露、プラズマ照射、コロナ放電を組み合わせることによって、効率的にウェハ表面の保護膜を除去することができる。
【実施例】
【0068】
ウェハの表面を凹凸パターンを有する面とすること、凹凸パターンの少なくとも凹部に保持された洗浄液を他の洗浄液で置換することは、他の文献等にて種々の検討がなされ、既に確立された技術であるので、本実施例では、前記保護膜形成用薬液の評価を中心に行った。
【0069】
背景技術で述べた式
P=2×γ×cosθ/S
(式中、γは凹部に保持されている液体の表面張力、θは凹部表面と凹部に保持されている液体のなす接触角、Sは凹部の幅である。)
から明らかなようにパターン倒れを引き起こす毛細管力Pの絶対値は、ウェハ表面に対する液体の接触角、すなわち液滴の接触角と、該液体の表面張力に大きく依存する。凹凸パターン2の凹部4に保持された液体の場合、液滴の接触角と、パターン倒れと等価なものとして考えてよい該凹部に働く毛細管力とは相関性があるので、前記式と、凹部表面に形成された撥水性保護膜10の液滴の接触角の評価から、毛細管力を導き出してもよい。なお、実施例において、前記液体として、水系洗浄液の代表的なものである水を用いた。
【0070】
水滴の接触角の評価は、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」にもあるように、サンプル(基材)の表面に数μlの水滴を滴下し、水滴と基材表面のなす角度の測定によりなされる。しかし、パターンを有するウェハの場合、接触角が非常に大きくなる。これは、Wenzel効果やCassie効果が生じるからで、接触角が基材の表面形状(ラフネス)に影響され、見かけ上の水滴の接触角が増大するためである。そのため、表面に凹凸パターンを有するウェハの場合、該凹凸パターン表面に形成された前記保護膜10自体の接触角を正確に評価できない。
【0071】
そこで、本実施例では前記薬液を表面が平滑なウェハに供して、ウェハ表面に保護膜を形成して、該保護膜を表面に凹凸パターン2が形成されたウェハ1の表面に形成された保護膜10とみなし、種々評価を行った。なお、本実施例では、表面が平滑なウェハとして、表面が平滑なシリコンウェハ上に酸化ケイ素層を有する「SiO膜付きシリコンウェハ」(表中でSiOと表記)を用いた。
【0072】
詳細を下記に述べる。以下では、保護膜形成用薬液が供されたウェハの評価方法、該保護膜形成用薬液の調製、そして、ウェハに該保護膜形成用薬液を供した後の評価結果が述べられる。
【0073】
〔保護膜形成用薬液が供されたウェハの評価方法〕
保護膜形成用薬液が供されたウェハの評価方法として、以下の(1)〜(3)の評価を行った。
【0074】
(1)ウェハ表面に形成された保護膜の接触角評価
保護膜が形成されたウェハ表面上に純水約2μlを置き、水滴とウェハ表面とのなす角(接触角)を接触角計(協和界面科学製:CA−X型)で測定し接触角とした。
【0075】
(2)保護膜の除去性
以下の条件で低圧水銀灯のUV光をサンプルに1分間照射した。照射後に水滴の接触角が10°以下となったものを合格とした。
・ランプ:セン特殊光源製PL2003N−10
・照度:15mW/cm(光源からサンプルまでの距離は10mm)
【0076】
(3)保護膜除去後のウェハの表面平滑性評価
原子間力電子顕微鏡(セイコ−電子製:SPI3700、2.5μm四方スキャン)によって表面観察し、中心線平均面粗さ:Ra(nm)を求めた。なお、Raは、JIS B 0601で定義されている中心線平均粗さを測定面に対し適用して三次元に拡張したものであり、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」として次式で算出した。保護膜を除去した後のウェハ表面のRa値が1nm以下であれば、洗浄によってウェハ表面が浸食されていない、および、前記保護膜の残渣がウェハ表面にないとし、合格とした。
ここで、X、X、Y、Yは、それぞれ、X座標、Y座標の測定範囲を示す。Sは、測定面が理想的にフラットであるとした時の面積であり、(X−X)×(Y−Y)の値とした。また、F(X,Y)は、測定点(X,Y)における高さ、Zは、測定面内の平均高さを表す。
【0077】
[実施例1]
(1)保護膜形成用薬液の調製
ケイ素化合物としてオクチルジメチルジメチルアミノシラン〔C17(CHSiN(CH〕;0.5g、酸として無水トリフルオロ酢酸〔(CFCO)O〕;0.18g、溶媒(I)としてγ-ブチロラクトン(以降、「GBL」と記載する場合がある);89.388gと溶媒(II)としてジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以降、「DPGMEA」と記載する場合がある)〔CHCH(OCH)CHOCHCH(OCOCH)CH〕;9.932gが混合された非水溶媒を用いて、室温ですべてを混合し、約5分間撹拌して、保護膜形成用薬液の総量に対するケイ素化合物の濃度(以降「ケイ素化合物濃度」と記載する)が0.5質量%、ケイ素化合物の総量に対する酸の濃度(以降「ケイ素化合物に対する酸濃度」と記載する)が36質量%、保護膜形成用薬液の総量に対する酸の濃度(以降「薬液中の酸濃度」と記載する)が0.18質量%、非水溶媒の溶媒(I)と溶媒(II)の質量比が90:10の保護膜形成用薬液を得た。得られた保護膜形成用薬液は、20℃において、目視観察でケイ素化合物の不溶解成分がなく、均一な溶液であることを確認した。なお、前記のような薬液の外観を、表1において「均一」と記載し、目視観察でケイ素化合物の不溶解成分があり、不均一な溶液であるものを、表1において「不均一」と記載する。
【0078】
(2)ウェハの洗浄
平滑な酸化ケイ素膜付きシリコンウェハ(表面に厚さ1μmの熱酸化膜層を有するシリコンウェハ)を室温で1質量%のフッ酸水溶液に2分間浸漬し、次いで純水に1分間、2−プロパノールに1分間浸漬した。
【0079】
(3)ウェハ表面への保護膜形成用薬液による表面処理
前記酸化ケイ素膜付きシリコンウェハを、上記「(1)保護膜形成用薬液の調製」で調製した保護膜形成用薬液に20℃で1分間浸漬させた。その後、室温でウェハを2−プロパノールに1分間浸漬し、次いで、純水に1分間浸漬した。最後に、ウェハを純水から取出し、エアーを吹き付けて、表面の純水を除去した。
【0080】
得られたウェハを上記「保護膜形成用薬液が供されたウェハの評価方法」に記載した要領で評価したところ、表1に示すとおり、表面処理前の初期接触角が10°未満であったものが、表面処理後の接触角は103°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、UV照射後の接触角は10°未満であり保護膜は除去できた。さらに、UV照射後のウェハのRa値は0.5nm未満であり、洗浄時にウェハは侵食されず、さらにUV照射後に撥水性保護膜の残渣は残らないことが確認できた。
【0081】
【表1】
【0082】
[実施例2〜6]
実施例1で用いた溶媒(II)の種類、非水溶媒中の溶媒(I)と溶媒(II)の質量比を適宜変更して、ウェハの表面処理を行い、さらにその評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1中で、EHAは酢酸エチルヘキシル、PGMEAはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを意味する。なお、すべての実施例、比較例において、外観を評価したときの薬液の温度は20℃である。
【0083】
[実施例7]
ケイ素化合物としてオクチルジメチルジメチルアミノシラン〔C17(CHSiN(CH〕;0.5g、溶媒(I)としてGBL;44.694gと溶媒(II)としてDPGMEA;4.966gが混合された非水溶媒を用いて、室温ですべてを混合し、処理液Aを調製した。また、酸として無水トリフルオロ酢酸〔(CFCO)O〕;0.18g、溶媒(I)としてGBL;44.694gと溶媒(II)としてDPGMEA;4.966gが混合された非水溶媒を用いて、室温ですべてを混合し、処理液Bを調製した。処理液A及び処理液Bを室温で混合し、約5分間撹拌して、ケイ素化合物濃度が0.5質量%、ケイ素化合物に対する酸濃度が36質量%、薬液中の酸濃度が0.18質量%、非水溶媒の溶媒(I)と溶媒(II)の質量比が90:10の保護膜形成用薬液を得た。得られた保護膜形成用薬液を用いて実施例1と同様にウェハの表面処理を行ったところ、表1に示すとおり、表面処理前の初期接触角が10°未満であったものが、表面処理後の接触角は103°となり、優れた撥水性付与効果を示した。また、UV照射後の接触角は10°未満であり保護膜は除去できた。さらに、UV照射後のウェハのRa値は0.5nm未満であり、洗浄時にウェハは侵食されず、さらにUV照射後に撥水性保護膜の残渣は残らないことが確認できた。
【0084】
[比較例1]
非水溶媒としてGBLのみを用いた以外は実施例1と同じ手順で保護膜形成用薬液を調製した。得られた保護膜形成用薬液は、20℃において、目視で不均一であった。
【0085】
[比較例2]
ケイ素化合物としてトリメチルシリルジメチルアミン〔(CHSiN(CH〕;0.5g、酸として無水トリフルオロ酢酸〔(CFCO)O〕;0.18g、溶媒(I)としてGBL;89.388gと溶媒(II)としてDPGMEA;9.932gが混合された非水溶媒を用いて、室温ですべてを混合し、約5分間撹拌して、ケイ素化合物濃度が0.5質量%、非水溶媒の溶媒(I)と溶媒(II)の質量比が90:10の保護膜形成用薬液を得た。なお、得られた保護膜形成用薬液は、20℃において、均一であることを目視で確認した。
【0086】
その後、実施例1と同様にウェハの表面処理を行ったところ、表1に示すとおり、表面処理前の初期接触角が10°未満であったものが、表面処理後の接触角は87°となり、優れた撥水性付与効果を示したものの、実施例1に比べて接触角が小さかった。
【0087】
[比較例3]
ケイ素化合物としてトリフルオロプロピルジメチルジシラザン〔[CF(CH(CHSi]NH〕;0.5g、酸として無水トリフルオロ酢酸〔(CFCO)O〕;0.18g、溶媒(I)としてGBL;89.388gと溶媒(II)としてDPGMEA;9.932gが混合された非水溶媒を用いて、室温ですべてを混合し、約5分間撹拌して、ケイ素化合物濃度が0.5質量%、非水溶媒の溶媒(I)と溶媒(II)としての質量比が90:10の保護膜形成用薬液を得た。なお、得られた保護膜形成用薬液は、20℃において、均一であることを目視で確認した。
【0088】
その後、実施例1と同様にウェハの表面処理を行ったところ、表1に示すとおり、表面処理前の初期接触角が10°未満であったものが、表面処理後の接触角は92°となり、優れた撥水性付与効果を示したものの、実施例1に比べて接触角が小さかった。
【0089】
前記非水溶媒としてラクトン系溶媒である溶媒(I)のみを用いた、比較例1では、疎水性基に多くの炭素原子を含むケイ素化合物が完全には溶解されずに、不溶解成分が存在し、得られた薬液は不均一なものであった。これに対し、上記の実施例では、前記の溶媒(I)と溶媒(II)を適切な比で含有した非水溶媒を用いているため、いずれも前記のような不溶解成分が存在せず、均一なものであった。
【0090】
また、上記の実施例では、疎水性基に多くの炭素原子を含むケイ素化合物を用いているため、該ケイ素化合物を用いていない比較例2、3に比べて、より優れた撥水性をウェハに付与することができた。
【0091】
従って、本発明を適用することにより、撥水性保護膜を形成するために疎水性基が大きなケイ素化合物を用いても、不溶解成分が発生することがなく、均一な撥水性保護膜形成用薬液を得ることができ、さらに、ウェハに対してより優れた撥水性を付与することが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 ウェハ
2 ウェハ表面の凹凸パターン
3 パターンの凸部
4 パターンの凹部
5 凹部の幅
6 凸部の高さ
7 凸部の幅
8 撥水性保護膜形成用薬液
9 液体
10 撥水性保護膜
図1
図2
図3
図4