特許第5974522号(P5974522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000006
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000007
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000008
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000009
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000010
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000011
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000012
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000013
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000014
  • 特許5974522-誘電体粉末の製造方法 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974522
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】誘電体粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20160809BHJP
   C04B 35/626 20060101ALI20160809BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20160809BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20160809BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20160809BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   C04B35/46 D
   C04B35/00 A
   C01G23/00 C
   H01B3/12 303
   H01G4/12 358
   H01G4/30 301C
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-27212(P2012-27212)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-163614(P2013-163614A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年9月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 慶介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文昭
(72)【発明者】
【氏名】城戸 修
(72)【発明者】
【氏名】西川 健一
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−335177(JP,A)
【文献】 特開2010−215427(JP,A)
【文献】 特開2011−184279(JP,A)
【文献】 特開2011−176186(JP,A)
【文献】 特開2011−184247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/42−35/51
C01G 1/00−23/08
C04B 35/626
H01B 3/12
H01G 4/12
H01G 4/30
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子がチタン酸バリウムであって、最外層に0.5nmから10.0nmの深さでTiリッチであり、かつ希土類元素が固溶した層が存在し、さらにその表面がBa化合物で被覆されている誘電体粉末の製造方法であって、
前記コア粒子となるチタン酸バリウム粉末と有機酸水溶液の混合スラリーを調整する工程と、前記混合スラリーに分散処理を施し、さらに添加材成分として、Baと希土類元素(Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも一種)、さらにLi、Mg、Si、Al、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Zr、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi、Si、V、Nb、Bから選ばれる少なくとも一種を含む添加材成分を投入し、混合・分散工程を経て、乾燥工程から仮焼き工程を設けて得られる、誘電体粉末の製造方法。
【請求項2】
前記Ba化合物が添加材成分元素との複合化合物であることを特徴とする、請求項1に誘電体粉末の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸水溶液に含まれる有機酸は、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸のいずれか一種を含むことを特徴とする、前記請求項1または請求項2に記載の誘電体粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高信頼性を保証する誘電体粉末ならびに、この誘電体粉末を用いた積層セラミックコンデンサ並びに電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の積層セラミックコンデンサは、薄型民生機器の需要により、電子部品の実装面積以外に高さ(厚み)方向の制限がなされ、小型高容量化及び低背品の高容量化の需要が高まっている。その為、2012、1608、1005形状(2.0mm×1.2mm×1.2mm、1.6mm×0.8mm×0.8mm、1.0mm×0.5mm×0.5mm形状)と実装面積を小さくする小型高容量化への開発のみではなく、容量はある程度確保された状態で、t寸法(厚み)を小さくする方向(1005でt寸法が0.33mm、0.22mm等)の開発も求められている。
【0003】
このような市場の要求から、積層セラミックコンデンサは、容量を確保し小型化、低背化しなければならず、必然的に内部電極層厚みや誘電体層厚みを薄くしなければならない。この中で一番の課題になるのが誘電体層の薄層化に伴って困難になる信頼性の確保である。
【0004】
現在量産されている小型高容量及び、低背品の積層セラミックコンデンサにおいては、誘電体層厚みが0.8μm以下と非常に薄く、用いられるチタン酸バリウム粒子も100nm〜200nmと非常に小さい。この100nmクラスの誘電体微粒子の粒成長を抑制し、焼結させて、高信頼性及び目的の電気特性を得るのは容易ではなく、誘電体粒子設計、添加材組成、添加材の分散性の改善が求められている。
【0005】
このような事情から、これらの課題を解決する為に、どのような誘電体微粒子を開発するべきか鋭意検討がなされている。その結果、バリウム化合物の構造の規定、バリウム化合物の担持及びシェル組成、シェル成分元素の被覆順序等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−215427号公報
【特許文献2】特開2010−59027号公報
【特許文献3】特開2003−176180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献で提案されているプロセスを用いて作製した誘電体粉末を用いても、昨今の設計が厳しくなっている高容量、低背品の薄層化に対応して、かつ目的の高信頼性を確保することは困難である。
【0008】
特許文献1(特開2010−215427号公報)においては、誘電体粒子表面をバリウム化合物で被覆し、そのバリウム化合物のBaCO/BaOの比を規定し、粒成長の抑制、信頼性の向上が提案されたが、多層薄層化が進む昨今の積層セラミックコンデンサにおいては、炭酸バリウムの針状化による信頼性ダウンや脱炭酸ガスによるクラックの発生といった問題は解決できない。
【0009】
また特許文献2(特開2010−59027号公報)においては、Ba/Ti比の規定、単結晶化率の規定、誘電体粒子表面へのバリウム化合物の熱処理担持の規定によって、シェル成分元素の粒子内拡散を抑制し、誘電率、信頼性、温度特性の向上が提案されたが、多層薄層化が進む昨今の積層セラミックコンデンサにおいては、粒子径が90nmから200nmの誘電体粒子を用いる必要があり、その粒子径においては、上記提案は誘電体粒子のネッキング等の問題を発生させ、その為に粉砕工程を強くすると粒成長が助長され、信頼性が逆に悪くなった。
【0010】
さらに特許文献3(特開2003−176180号公報)においては、誘電体粉末表面への添加材成分の被覆順序を規定し、規定の添加材成分の固溶を制御し、温度特性が制御できると提案されたが、多層薄層化が進む昨今の積層セラミックコンデンサにおいては、粒子径が90nmから200nmの誘電体粒子を用いる必要があり、その粒子径においては、上記製造方法は誘電体粒子のネッキング等の問題の発生のみではなく、添加材成分の被覆の均一性も損ね、満足する特性は得られない。すなわち、従来の技術では、100nmクラスの誘電体粒子の粒成長を抑制し、高信頼性をもつ0.8μm以下の誘電体層を持つ積層セラミックコンデンサを得ることは出来なかった。
【0011】
そこで本発明では、上記問題点を解決する為になされたもので、90nmから200
nmの誘電体粒子を用いて、0.8μm以下の誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの信頼性を改善することを目的としており、誘電体粉末の構造の提供及びそれを用いた積層セラミックコンデンサ並びに電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における誘電体粉末は、コア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であって、最外層に0.5nmから10.0nmの深さで、Tiリッチでかつ希土類元素が固溶した層が存在し、さらにその表面をBa化合物で被覆されていることを特徴としている。
【0013】
本発明における誘電体粉末は、Ba化合物がシェル成分元素との複合化合物であることが好ましい。
【0014】
本発明における誘電体粉末は、Ba/Ti比が1.000以上1.008以下に制御され、異相としてサブμmオーダー〜μmオーダーの炭酸バリウムを含有しないことが好ましい。
【0015】
本発明における誘電体粉末は、誘電体粉末の平均粒子径が、90nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明における誘電体粉末は、希土類元素およびBa以外の添加材成分元素をさらに含有することが好ましい。
【0017】
また、本発明における積層セラミックコンデンサは、上記に記載の本発明に係る誘電体粉末を用いて、誘電体層の厚みが0.8μm以下であって、比誘電率が1800から3800であることを特徴としている。
【0018】
また、本発明における電子部品は、上記に記載の本発明に係る誘電体粉末を用いて、誘電体層の厚みが0.8μm以下であって、比誘電率が1800から3800である積層セラミックコンデンサを一部に有する電子部品であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明における誘電体粉末は、コア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であって、最外層にはTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層が存在し、さらにその表面がBa化合物で被覆されていることにより、グリーンチップの焼成工程において誘電体粒子の粒成長を抑え、添加材成分の偏析を抑制することができる。また、各粒子が均一組成であるために、高い焼成安定性を得ることができるとともに、誘電体層を薄層化した場合であっても、高い信頼性を得ることができ、安定した電気特性を得ることができる。
【0020】
そして上記Ba化合物が、シェル成分元素との複合化合物であることにより、誘電体粉末の吸湿により生じるバリウム化合物の変質を抑えることができ、さらには焼成時のシェル成分元素の偏析を抑制することができる。
【0021】
そして、誘電体粉末のBa/Ti比は1.000以上1.008以下に制御され、異相としてサブμmオーダー〜μmオーダーの炭酸バリウムを含有しないことにより、最適焼成温度の制御や焼成安定性を得ることができる。
【0022】
さらには、誘電体粉末のBET比表面積から換算される平均粒子径が、90nm以上200nm以下であることによって、0.8μm以下の誘電体層を有する積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体層1層あたりに3粒子以上の誘電体粒子を確保でき、信頼性を確保することが出来る。
【0023】
また、誘電体粉末には希土類元素およびBa以外の添加材成分元素をさらに含有することによって、低温焼成化や特性調整、耐還元性を付与することができる。
【0024】
また、本発明における積層セラミックコンデンサは、上記に記載の本発明に係る誘電体粉末を用いて、誘電体層の厚みが0.8μm以下であって、比誘電率が1800から3800であることによって、小型高容量系の積層セラミックコンデンサを設計することができる。さらには、このような積層セラミックコンデンサを一部に持つ電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に関する誘電体粉末構造の模式図である。
図2】実施例5に関するEDS−EELSライン分析チャートである。
図3】比較例1に関するEDS−EELSライン分析チャートである。
図4】比較例2に関するEDS−EELSライン分析チャートである。
図5】実施例5に関するEELSプロファイルである。
図6】比較例1に関するEELSプロファイルである。
図7】実施例5に関するEDS−EELSマッピング像である。
図8】実施例5に関するEELSマッピング像である。
図9】比較例1に関するEELSマッピング像である。
図10】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を示す。
【0027】
<チタン酸バリウム系誘電体粒子>
本実施形態に使用する原料のチタン酸バリウム粉末は、粉末コア部分のBa/Ti比がおおよそ1に制御されるように、固相法、シュウ酸塩法、水熱法で作製されたものを用いることが好ましい。後述する実施例ではシュウ酸塩法と水熱法で作製されたチタン酸バリウム粉末を用いた。
【0028】
本実施形態に使用する原料のチタン酸バリウム粉末は、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸バリウム粒子の集合体であり、結晶構造中のAサイトをBaが占有し、BサイトをTiが占有している。本実施形態に使用する原料のチタン酸バリウム粉末では、このAサイトを占有する原子とBサイトを占有する原子とのモル比を示すBa/Ti比が、好ましくは0.9990〜1.0030の範囲にある。
【0029】
また、上記のペロブスカイト型結晶構造は温度により変化し、キュリー点以下の常温においては正方晶系となり、キュリー点以上では立方晶系となる。立方晶系においては、各結晶軸(a軸、b軸、c軸)の格子定数は等しいが、正方晶系においては、一つの軸(c軸)の格子定数が、他の軸(a軸(=b軸))の格子定数よりも長くなっている。
【0030】
本実施形態では、使用する原料のチタン酸バリウム粉末の平均粒子径を考慮すると、c軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aが1.0080以上、好ましくは1.0090以上である。このc/aはチタン酸バリウムの異方性の指標となり、高い誘電率が得られるという観点から、高い方が好ましい。
【0031】
本実施形態に使用する原料のチタン酸バリウム粉末は、BET法により測定される比表面積(SSA)が5.0m/g以上、11.1m/g以下である。粉末の比表面積と平均粒子径とは反比例の関係にあり、上記の比表面積を粉末の平均粒子径に換算すると、平均粒子径は200nm以下、90nm以上であり、目的の誘電体層厚みや電気特性によって選択される。さらに好もしくは、平均粒子径は100nm以上160nm以下である。これはBET比表面積からの換算径であって、換算式は以下の式で表わされる。
【0032】
【数1】

r:BET換算粒子半径 ρ:密度 S:BET比表面積
【0033】
以上により、本実施形態に使用する原料のチタン酸バリウム粉末は、Ba/Ti比、異方性および平均粒子径が指定される。
【0034】
また、本実施形態に使用する原料のチタン酸バリウム粉末には、Sr、Ca等のアルカリ土類金属が含有されていてもよく、特性調整の為に微量添加されることもある。
【0035】
<誘電体粉末の製造方法>
本実施形態に係る誘電体粉末の製造方法を、以下に説明する。
【0036】
まず、原料であるチタン酸バリウム粉末を有機酸水溶液と混合し、チタン酸バリウムの水系スラリーを作製する。
【0037】
有機酸としては、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸などがあげられるが、後述する実施例ではクエン酸1水和物を用いた。
【0038】
前記有機酸水溶液のpHは3以上5以下にする。好ましくは3.0以上4.5以下であり、さらに好ましくは3.0以上4.0以下である。
【0039】
前記のチタン酸バリウム粉末と、有機酸水溶液の混合スラリーを、十分撹拌しながら、超音波ホモジナイザーで分散処理を施し、チタン酸バリウムの水系スラリーの分散性を向上させる。
【0040】
上記分散処理方法は超音波ホモジナイザーに限定されるわけではなく、ビーズミル等のメディア分散を用いてもかまわない。
【0041】
続いて、添加材成分の水溶液を作製する。添加材成分としては上記した希土類元素(Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等)、Ba以外に、Li、Mg、Si、Al、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Zr、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi、Si、V、Nb、B等があげられる。
【0042】
上記添加材成分は、水溶性であれば問題なく、特に化合物形態は指定されない。
【0043】
続いて、添加材成分水溶液と、チタン酸バリウム水系スラリーを混合する。混合方法は特に限定されない。
【0044】
続いて、添加材成分とチタン酸バリウム混合水系スラリーに分散処理を施し、混合液を得る。本実施例では超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、定格電力600W)を用いて分散処理を施した。分散処理時間は粒度分布を測定しながら判断し、100%相当径(D100)が飽和した時を終了時間とした。粒度分布は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラック(登録商標)MT3300EX)を用いて計測した。
【0045】
次に、乾燥工程において、前記の分散処理の施された混合液を乾燥する。乾燥は均一乾燥の観点からスプレードライヤー、スラリードライヤーを用いることができる。また乾燥と仮焼を同時に行うことができる、噴霧熱分解装置を用いることも好ましい。乾燥条件は特に制限されない。
【0046】
次に前記乾燥工程により得られた乾燥粉を仮焼する。仮焼により、副成分元素を主成分粒子の表面に拡散させるとともに、表面固溶させることができる。
【0047】
仮焼温度は、400℃以上900℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは400℃以上700℃以下である。仮焼温度をこの範囲内とすることで、誘電体粒子のネッキングを抑えつつ、添加材成分の拡散、表面反応を進めることができる。
【0048】
上記プロセスによって、図1に示すようなコア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であって、最外層に0.5nmから10.0nmの深さでTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層2がほぼ均一に存在し、さらにその表面をBa化合物1で被覆されている誘電体粉末を効率よく得ることができる。
【0049】
ここでBa化合物1の被覆は、図1で示すように誘電体粒子(BaTiO粒子)を覆っていれば良く、均一である必要はない。
【0050】
<誘電体粒子の評価方法>
上記プロセスによって得られた誘電体粒子の評価方法を以下に説明する。
【0051】
粒子表面の組成分析は、エネルギー分散型X線分光(EDS)及び電子エネルギー損失分光(EELS)、及び球面収差補正機能を付設した走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて評価を行った。
【0052】
評価試料は、粒子をアルコールに超音波分散させた後、カーボンで補強した電子顕微鏡用マイクログリッドに滴下し作製し、これをTEM試料として使用した。
【0053】
上記評価試料をSTEMで観察し、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子が、他の結晶粒子と重なることなく明瞭に観察できる粒子を選択した。スペクトラルイメージング法により、粒子表面近傍のEDS及びEELS分析を行い、粒子表面に存在する元素を評価した。
【0054】
またスペクトラルイメージング法により、粒子外側の真空領域から内部に向かってEDS及び、EELSのシグナルプロファイルを取得し、粒子最表面の組成を調べた。測定は0.002nmステップで100点行い、20粒子について実施した。
【0055】
<積層セラミックコンデンサの製造方法>
上記プロセスによって得られた誘電体粉末を用いて、誘電体層および電極層を有する積層セラミックコンデンサを製造する。
【0056】
たとえば、図10に示すような誘電体層10および内部電極層20を有する積層セラミックコンデンサ100は、以下のようにして製造される。
【0057】
まず、本実施形態に係る誘電体粉末を含む誘電体層用ペーストと、内部電極層用ペーストと、を準備する。そして、誘電体層用ペーストからなるグリーンシートと、内部電極層用ペーストからなる内部電極パターン層と、を積層してグリーンチップを得る。
【0058】
得られたグリーンチップは、脱バインダーされ、焼成され、アニールされて、焼結体で構成されるコンデンサ素子30の本体となる。そして、得られたコンデンサ素子30の本体に、外部電極40を形成して、積層セラミックコンデンサ100が製造される。
【0059】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサ100は、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0060】
本発明の実施形態に係る誘電体粉末は、組成が精密に制御され、コア粒子がチタン酸バリウムであって、最外層に0.5nmから10.0nmの深さでTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層がほぼ均一に存在し、さらにその表面がBa化合物で被覆され、かつ複合化し(シェル成分元素との複合化合物となり)安定である。そのため、本発明の実施形態に係る誘電体粉末を用いて作製された積層セラミックコンデンサは、0.8μm以下にまで薄層化された誘電体層においても、添加材成分が高度に分散した、高い均一性を有するため、焼成安定性が向上し、ショート率を材料面から改善され、初期不良品率を低減させ、信頼性を向上させることができ、安定した電気特性を得ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0063】
<実施例1〜12>
チタン酸バリウム粉末
市販品のチタン酸バリウム粉末(日本化学社製:SSAが6.5m/g〜7.2m/g、戸田工業社製:SSAが8.0m/g〜12.5m/g)を用いた。
【0064】
<誘電体粉末の製造方法>
第1の容器に純水50kgにクエン酸1水和物を150g溶解させ、pHが3.0から4.0になるようにアンモニア水を添加して、有機酸水溶液を作製した。
【0065】
第1の容器中の有機酸水溶液に、上記チタン酸バリウム粉末を40kg投入し、30分撹拌しながら超音波分散を施した。
【0066】
続いて、別の第2の容器に純水15kgにクエン酸1水和物を2700gと25質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を中和混合して水溶液を作製した。
【0067】
第2の容器に3−アミノプロピルトリエトキシシランを表1の仕込みになるように秤量、混合し溶解させた。
【0068】
別途25質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を600g用意し、ここへVを表1の仕込みになるように秤量、混合し溶解させ、第2の容器に混合した。
【0069】
続いてさらに別の第3の容器に純水50kgに添加材となる酢酸イットリウム4水和物、酢酸マグネシウム4水和物、酢酸マンガン4水和物、酢酸テルビウム4水和物、酢酸バリウムを表1の仕込みになるように秤量、混合溶解させ、シェル成分水溶液を作製した。
【0070】
第3の容器のシェル成分水溶液を容器2に全量混合し、安定化シェル成分元素水溶液を作製した。
【0071】
第3の容器の安定化シェル成分元素水溶液を第1の容器に全量混合し、1時間撹拌し、超音波ホモジナイザーで450分処理した。
【0072】
第1の容器中の混合液を、スプレードライヤー装置を用いて乾燥処理を行い、その後400℃から900℃で仮焼して誘電体粉末を得た。
【0073】
【表1】
【0074】
Baの添加量に関しては原料のチタン酸バリウム粉末のBa/Ti比及び誘電体粉末の狙いBa/Ti比によって原料の蛍光X線分析の結果より随時調整した。
【0075】
<誘電体粉末の評価>
得られた誘電体粉末のBET被表面積評価、X線回折リートベルト解析による炭酸バリウム量評価、蛍光X線分析によるBa/Ti比の評価、エネルギー分散型X線分光(EDS)及び電子エネルギー損失分光(EELS)、及び球面収差補正機能を付設した走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて粒子表面の組成構造評価を行った。
【0076】
(X線回折)
X線回折はX線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧45kV、電流40mAで、2θ=20°〜130°の範囲を、走査速度0.08deg/secであった。
【0077】
(蛍光X線分析)
原料のチタン酸バリウム粉末のBa/Ti比を正確に知る為に、以下の方法でガラスビードを作製し、蛍光X線分析装置(リガクZSX−100e)を用いて、測定は25℃±1℃、湿度は50%±5%の環境下で行った。
【0078】
ガラスビードは、予め乾燥させたチタン酸バリウム粉末と融剤Liとを配合し、白金皿中において1050℃で加熱融解した後、冷却固化させて評価試料を作製し評価を行った。
【0079】
(TEM評価)
評価試料は、粒子をアルコールに超音波分散させた後、カーボンで補強した電子顕微鏡用マイクログリッドに滴下し作製し、これをTEM試料として使用した。
【0080】
上記評価試料をSTEMで観察し、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子が、他の結晶粒子と重なることなく明瞭に観察できる粒子を選択した。スペクトラルイメージング法により、粒子表面近傍のEDS及びEELS分析を行い、粒子表面に存在する元素を評価した。
【0081】
<積層セラミックコンデンサの作製>
上記の誘電体粉末を、ビーズミル(ボール径φ0.1mm)を用いてペーストにした。このペーストを用いて焼成後の誘電体層の厚さが0.7μmになるように、印刷機を用いて誘電体グリーンシートを作製した。このグリーンシートにNi電極層の厚みが0.8μmになるように、Ni電極ペーストを印刷した。
【0082】
このシートを100層積層し、焼成後寸法が1.0mm×0.5mmになるように切断した。その後、400℃還元雰囲気で脱バインダーを行い、有機成分を残炭量が0.5質量%程度まで除去し、それぞれのBaTiO系誘電体シートでの最適温度、還元雰囲気で焼成を行った。得られた積層セラミック素子をアニールし酸素欠陥を補償した後、内部電極の露出面を研磨し、Cu端子電極を塗布し約0.7μmの誘電体層を有する薄層100層品の積層セラミックコンデンサを作製した。
【0083】
<積層セラミックコンデンサの評価>
(ショート率)
得られた所定のサンプル数(n=100)の積層セラミックコンデンサ中のショートした個数の割合を算出した。各実施例と比較例のショート率を表2に示す。
【0084】
(静電容量の測定)
前記ショート率の測定において、ショートしなかった積層セラミックコンデンサの中の20チップについて、LCRメーター(アジレントテクノロジー社製 4284A)を用いて1kHz、1.0Vrmsの条件で静電容量を測定した。
【0085】
前記静電容量の測定で得られた静電容量及び、レーザー顕微鏡(オリンパス社製:OLS3100)で計測した誘電体層厚み及び重なり面積から、比誘電率を算出し比較を行った。各実施例及び比較例において算出した比誘電率を表2に示す。
【0086】
比誘電率εrの算出式は、下記の式で表わされる。
【0087】
【数2】
【0088】
(加速寿命試験)
前記ショート率の測定において、ショートしなかった積層セラミックコンデンサの中の15チップについて、HALT(Highly accelerated life test)測定装置(DARWINユニット)を用いて加速寿命試験を行い、ワイブルプロットにおけるMTTF(平均寿命)およびm値(形状パラメーター)で比較を行った。各実施例及び比較例におけるMTTF及びm値を表2に示す。
【0089】
ショート率に関しては15%以下を良とし、MTTFに関しては10時間以上を良とし、m値に関しては1.7以上を良とした。
【0090】
<比較例1〜4>
比較例1〜4において、使用する誘電体粉末以外は、実施例と同様にして積層セラミックコンデンサを作製した。誘電体粉末並びに積層セラミックコンデンサの評価を表2に示す。
【0091】
比較例1は、コア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であって、最外層に0.5nmから10.0nmの深さでTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層がほぼ均一に存在しているが、最表面をBa化合物で被覆されていない誘電体粉末を使用して、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0092】
比較例2は、コア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であるが、希土類元素が粒子全体にわたって固溶しており、最表面はBa化合物で被覆されている誘電体粉末を使用して、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0093】
比較例3は、コア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であるが、希土類元素が粒子全体にわたって固溶しており、最表面はBa化合物で被覆されていない誘電体粉末を使用して、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0094】
比較例4は、本発明のプロセスを経ずに、従来のように、各種酸化物の添加材を誘電体塗料調合時に一括して添加して作製した誘電体粉末を使用して、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0095】
希土類元素の固溶深さに関しては、0.5nmより浅いとコア粒子であるチタン酸バリウム系誘電体粒子の表面をほぼ均一に被覆することができず、本発明の効果を十分に奏することができない。希土類元素の固溶深さが10.0nmを越える粒子を作製しようとすると、表面層だけでなく粒子全体にわたって固溶してしまい、比較例2、比較例3のように希土類元素の信号を明瞭に検出することができなかった。よって本発明では、希土類元素の固溶深さを表面層の0.5nm〜10.0nmとすることにより、コア粒子の表面をほぼ均一に被覆することができる。尚、下記の表2に示す希土類層の固溶深さは、上記測定試料の平均値を示す。各実施例につき、希土類層の固溶深さは、±20%の範囲内であり、ほぼ均一な被覆がなされていた。
【0096】
また、ショート率が80%を超えた、比較例2、比較例3に関しては、電気特性評価に必要な20チップの積層セラミックコンデンサが得られるようにサンプルを作製した。
【0097】
【表2】
【0098】
図2から図9において、誘電体粉末の評価(組成構造評価)の事例を示す。本評価は、上記のように、それぞれ20個の粒子について行なったが、ここに例示した粒子以外についても、ほぼ同様の結果であった。
【0099】
図2は、実施例5に関するEDS−EELSライン分析チャートを示す。縦軸は任意のスペクトル強度であり、横軸はライン分析長である。また図2中の粒子の写真はその分析に用いられた粒子であり、写真中の実線は分析したラインを示す。図2から分かるように、本発明に係る実施例5の試料は、コア粒子がチタン酸バリウムであって、最外層に約4.0nmの深さでTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層がほぼ均一に存在していることが確認された。
【0100】
図3は、比較例1に関するEDS−EELSライン分析チャートを示す。図3から分かるように、比較例1の試料は、コア粒子がチタン酸バリウムであって、最外層に約3.0nmの深さでTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層が存在していることが確認された。しかしながら、後述するように、最外層上のBa化合物は確認できなかった。
【0101】
図4は、比較例2に関するEDS−EELSライン分析チャートを示す。図4から分かるように、比較例2の試料では、コア粒子がチタン酸バリウムであるが、希土類元素が粒子表面に偏在せず、粒子内部まで固溶していることが確認された。
【0102】
図5は、実施例5に関するEELSプロファイルを示す。縦軸は任意の強度であり、横軸は電子の損失エネルギーである。450eV付近のピークがTi由来のピークであり、750eV付近のピークがBa由来のピークである。また上のチャートから下に行くに従って粒子の外側へ向かっている。図5から分かるように、本発明に係る実施例5の試料は、粒子表面でBaの信号が検出されていることから、粒子表面がバリウム化合物で被覆されていることが確認された。
【0103】
図6は、比較例1に関するEELSプロファイルを示す。図6から分かるように、比較例1の試料は粒子表面がチタン化合物であることが確認され、上記実施例5で検出されたBaの信号が粒子表面で検出されず、バリウム化合物で被覆されていないことが確認された。
【0104】
図7は、実施例5に関するEDS−EELSマッピング像を示す。図7からわかるように、実施例5の試料におけるBa化合物の被覆状態はBa単独での被覆ではなく、Baと、希土類元素やバナジウム等のシェル成分元素との複合化合物の状態であることが確認された。
【0105】
表2から分かるように、本発明に係る実施例1〜12の誘電体粉末においては、誘電体粉末の最外層上を被覆するBa化合物は、結晶性の炭酸バリウム量が0.5質量%以下であることが確認された。
【0106】
図8は、実施例5に関するEELSマッピング像を示す。図8のBa単独EELS像はTiとBaの重なるスペクトルを排除して、Ba単独のピークを示す。これは主に炭酸バリウムを示す。図8から分かるように、本発明に係る実施例5の誘電体粉末では、サブμmオーダー〜μmオーダーの炭酸バリウムを含有しないことが確認された。
【0107】
一方、図9は、比較例1に関するEELSマッピング像を示す。図9から分かるように、比較例1の誘電体粉末では、サブμmオーダー〜μmオーダーの炭酸バリウムを含有していることが確認された。
【0108】
表2から分かるように、本発明に係る実施例1〜12の誘電体粉末を用いて作製された積層セラミックコンデンサは、比誘電率が1800から3800であり、従来技術で作製された誘電体粉末を用いて作製された積層セラミックコンデンサと比較して、ショート率が低く、MTTFが4倍程度高く、m値も高いことが確認された。
【0109】
本発明に係る実施例1〜12と、比較例1〜4によって作製された積層セラミックコンデンサの特性の大きな差異は、本発明に係る実施例1〜12と、比較例1〜4によって作製された誘電体粉末の構造の差によって生じている。例えば、比較例1のように結晶性の炭酸バリウム量が比較的多く、バリウム化合物で粒子表面が被覆されていない誘電体粉末を用いると、焼結体粒子のシェルが薄く、さらに添加材の異相が生じ焼結体構造が不均一であるために、MTTFが短く、m値も低く、ショート率も高くなってしまう。
【0110】
また、比較例2のように誘電体粉末の希土類元素の固溶深度が10.0nmを超えて固溶すると、平均粒子径が大きいにもかかわらず、焼成安定性が悪くなり、非常に粒成長してしまう。そのため、ショート率が非常に高く、わずかにショートしなかった積層セラミックコンデンサも、HALT(加速寿命)試験においては即座に故障してしまった。
【0111】
さらに、添加材元素を酸化物の形態で添加した比較例4においても、誘電体粉末がバリウム化合物で被覆されていないために、焼成安定性が悪くなり、その結果、粒成長しており、誘電体粉末の平均粒子径が同程度の実施例5と比較して、比誘電率は高くなっているが、ショート率、MTTF、m値がともに悪化した。
【0112】
すなわち、本発明に係る誘電体粉末のように、誘電体粉末への添加材の固溶深さの制御および、誘電体粉末をバリウム化合物で被覆することによって、焼成安定性が得られ、焼結体の粒成長を抑えると共に、添加材の異相を減らすことが出来る。その結果として、0.8μm以下の誘電体層を有する積層セラミックコンデンサにおいて、ショート率の低減、MTTFの向上、m値の向上を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係る誘電体粉末は、添加材の固溶深さが制御され、誘電体粉末表面をバリウム化合物で被覆されている。このことによって、薄層多層化した積層セラミックコンデンサの信頼性を向上させることが可能な原料として、利用することができる。また、本発明の誘電体粉末を用いて作製された積層セラミックコンデンサは、単位体積あたりの静電容量が高く、1層あたりの厚み方向に存在する粒子数が均一である為、信頼性が高いといった特徴がある。よって各種通信機器系の積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層セラミックコンデンサを一部に有する電子部品、その他表面実装(SMD)チップ型電子部品として利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1・・・Ba化合物
2・・・Tiリッチでかつ希土類元素が固溶した層
10・・・誘電体層
20・・・内部電極層
30・・・コンデンサ素子
40・・・外部電極
100・・・積層セラミックコンデンサ
図1
図10
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9