【実施例】
【0062】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0063】
<実施例1〜12>
チタン酸バリウム粉末
市販品のチタン酸バリウム粉末(日本化学社製:SSAが6.5m
2/g〜7.2m
2/g、戸田工業社製:SSAが8.0m
2/g〜12.5m
2/g)を用いた。
【0064】
<誘電体粉末の製造方法>
第1の容器に純水50kgにクエン酸1水和物を150g溶解させ、pHが3.0から4.0になるようにアンモニア水を添加して、有機酸水溶液を作製した。
【0065】
第1の容器中の有機酸水溶液に、上記チタン酸バリウム粉末を40kg投入し、30分撹拌しながら超音波分散を施した。
【0066】
続いて、別の第2の容器に純水15kgにクエン酸1水和物を2700gと25質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を中和混合して水溶液を作製した。
【0067】
第2の容器に3−アミノプロピルトリエトキシシランを表1の仕込みになるように秤量、混合し溶解させた。
【0068】
別途25質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を600g用意し、ここへV
2O
5を表1の仕込みになるように秤量、混合し溶解させ、第2の容器に混合した。
【0069】
続いてさらに別の第3の容器に純水50kgに添加材となる酢酸イットリウム4水和物、酢酸マグネシウム4水和物、酢酸マンガン4水和物、酢酸テルビウム4水和物、酢酸バリウムを表1の仕込みになるように秤量、混合溶解させ、シェル成分水溶液を作製した。
【0070】
第3の容器のシェル成分水溶液を容器2に全量混合し、安定化シェル成分元素水溶液を作製した。
【0071】
第3の容器の安定化シェル成分元素水溶液を第1の容器に全量混合し、1時間撹拌し、超音波ホモジナイザーで450分処理した。
【0072】
第1の容器中の混合液を、スプレードライヤー装置を用いて乾燥処理を行い、その後400℃から900℃で仮焼して誘電体粉末を得た。
【0073】
【表1】
【0074】
Baの添加量に関しては原料のチタン酸バリウム粉末のBa/Ti比及び誘電体粉末の狙いBa/Ti比によって原料の蛍光X線分析の結果より随時調整した。
【0075】
<誘電体粉末の評価>
得られた誘電体粉末のBET被表面積評価、X線回折リートベルト解析による炭酸バリウム量評価、蛍光X線分析によるBa/Ti比の評価、エネルギー分散型X線分光(EDS)及び電子エネルギー損失分光(EELS)、及び球面収差補正機能を付設した走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて粒子表面の組成構造評価を行った。
【0076】
(X線回折)
X線回折はX線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧45kV、電流40mAで、2θ=20°〜130°の範囲を、走査速度0.08deg/secであった。
【0077】
(蛍光X線分析)
原料のチタン酸バリウム粉末のBa/Ti比を正確に知る為に、以下の方法でガラスビードを作製し、蛍光X線分析装置(リガクZSX−100e)を用いて、測定は25℃±1℃、湿度は50%±5%の環境下で行った。
【0078】
ガラスビードは、予め乾燥させたチタン酸バリウム粉末と融剤Li
2B
4O
7とを配合し、白金皿中において1050℃で加熱融解した後、冷却固化させて評価試料を作製し評価を行った。
【0079】
(TEM評価)
評価試料は、粒子をアルコールに超音波分散させた後、カーボンで補強した電子顕微鏡用マイクログリッドに滴下し作製し、これをTEM試料として使用した。
【0080】
上記評価試料をSTEMで観察し、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子が、他の結晶粒子と重なることなく明瞭に観察できる粒子を選択した。スペクトラルイメージング法により、粒子表面近傍のEDS及びEELS分析を行い、粒子表面に存在する元素を評価した。
【0081】
<積層セラミックコンデンサの作製>
上記の誘電体粉末を、ビーズミル(ボール径φ0.1mm)を用いてペーストにした。このペーストを用いて焼成後の誘電体層の厚さが0.7μmになるように、印刷機を用いて誘電体グリーンシートを作製した。このグリーンシートにNi電極層の厚みが0.8μmになるように、Ni電極ペーストを印刷した。
【0082】
このシートを100層積層し、焼成後寸法が1.0mm×0.5mmになるように切断した。その後、400℃還元雰囲気で脱バインダーを行い、有機成分を残炭量が0.5質量%程度まで除去し、それぞれのBaTiO
3系誘電体シートでの最適温度、還元雰囲気で焼成を行った。得られた積層セラミック素子をアニールし酸素欠陥を補償した後、内部電極の露出面を研磨し、Cu端子電極を塗布し約0.7μmの誘電体層を有する薄層100層品の積層セラミックコンデンサを作製した。
【0083】
<積層セラミックコンデンサの評価>
(ショート率)
得られた所定のサンプル数(n=100)の積層セラミックコンデンサ中のショートした個数の割合を算出した。各実施例と比較例のショート率を表2に示す。
【0084】
(静電容量の測定)
前記ショート率の測定において、ショートしなかった積層セラミックコンデンサの中の20チップについて、LCRメーター(アジレントテクノロジー社製 4284A)を用いて1kHz、1.0Vrmsの条件で静電容量を測定した。
【0085】
前記静電容量の測定で得られた静電容量及び、レーザー顕微鏡(オリンパス社製:OLS3100)で計測した誘電体層厚み及び重なり面積から、比誘電率を算出し比較を行った。各実施例及び比較例において算出した比誘電率を表2に示す。
【0086】
比誘電率εrの算出式は、下記の式で表わされる。
【0087】
【数2】
【0088】
(加速寿命試験)
前記ショート率の測定において、ショートしなかった積層セラミックコンデンサの中の15チップについて、HALT(Highly accelerated life test)測定装置(DARWINユニット)を用いて加速寿命試験を行い、ワイブルプロットにおけるMTTF(平均寿命)およびm値(形状パラメーター)で比較を行った。各実施例及び比較例におけるMTTF及びm値を表2に示す。
【0089】
ショート率に関しては15%以下を良とし、MTTFに関しては10時間以上を良とし、m値に関しては1.7以上を良とした。
【0090】
<比較例1〜4>
比較例1〜4において、使用する誘電体粉末以外は、実施例と同様にして積層セラミックコンデンサを作製した。誘電体粉末並びに積層セラミックコンデンサの評価を表2に示す。
【0091】
比較例1は、コア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であって、最外層に0.5nmから10.0nmの深さでTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層がほぼ均一に存在しているが、最表面をBa化合物で被覆されていない誘電体粉末を使用して、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0092】
比較例2は、コア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であるが、希土類元素が粒子全体にわたって固溶しており、最表面はBa化合物で被覆されている誘電体粉末を使用して、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0093】
比較例3は、コア粒子がチタン酸バリウム系誘電体粒子であるが、希土類元素が粒子全体にわたって固溶しており、最表面はBa化合物で被覆されていない誘電体粉末を使用して、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0094】
比較例4は、本発明のプロセスを経ずに、従来のように、各種酸化物の添加材を誘電体塗料調合時に一括して添加して作製した誘電体粉末を使用して、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0095】
希土類元素の固溶深さに関しては、0.5nmより浅いとコア粒子であるチタン酸バリウム系誘電体粒子の表面をほぼ均一に被覆することができず、本発明の効果を十分に奏することができない。希土類元素の固溶深さが10.0nmを越える粒子を作製しようとすると、表面層だけでなく粒子全体にわたって固溶してしまい、比較例2、比較例3のように希土類元素の信号を明瞭に検出することができなかった。よって本発明では、希土類元素の固溶深さを表面層の0.5nm〜10.0nmとすることにより、コア粒子の表面をほぼ均一に被覆することができる。尚、下記の表2に示す希土類層の固溶深さは、上記測定試料の平均値を示す。各実施例につき、希土類層の固溶深さは、±20%の範囲内であり、ほぼ均一な被覆がなされていた。
【0096】
また、ショート率が80%を超えた、比較例2、比較例3に関しては、電気特性評価に必要な20チップの積層セラミックコンデンサが得られるようにサンプルを作製した。
【0097】
【表2】
【0098】
図2から
図9において、誘電体粉末の評価(組成構造評価)の事例を示す。本評価は、上記のように、それぞれ20個の粒子について行なったが、ここに例示した粒子以外についても、ほぼ同様の結果であった。
【0099】
図2は、実施例5に関するEDS−EELSライン分析チャートを示す。縦軸は任意のスペクトル強度であり、横軸はライン分析長である。また
図2中の粒子の写真はその分析に用いられた粒子であり、写真中の実線は分析したラインを示す。
図2から分かるように、本発明に係る実施例5の試料は、コア粒子がチタン酸バリウムであって、最外層に約4.0nmの深さでTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層がほぼ均一に存在していることが確認された。
【0100】
図3は、比較例1に関するEDS−EELSライン分析チャートを示す。
図3から分かるように、比較例1の試料は、コア粒子がチタン酸バリウムであって、最外層に約3.0nmの深さでTiリッチでかつ希土類元素が固溶した層が存在していることが確認された。しかしながら、後述するように、最外層上のBa化合物は確認できなかった。
【0101】
図4は、比較例2に関するEDS−EELSライン分析チャートを示す。
図4から分かるように、比較例2の試料では、コア粒子がチタン酸バリウムであるが、希土類元素が粒子表面に偏在せず、粒子内部まで固溶していることが確認された。
【0102】
図5は、実施例5に関するEELSプロファイルを示す。縦軸は任意の強度であり、横軸は電子の損失エネルギーである。450eV付近のピークがTi由来のピークであり、750eV付近のピークがBa由来のピークである。また上のチャートから下に行くに従って粒子の外側へ向かっている。
図5から分かるように、本発明に係る実施例5の試料は、粒子表面でBaの信号が検出されていることから、粒子表面がバリウム化合物で被覆されていることが確認された。
【0103】
図6は、比較例1に関するEELSプロファイルを示す。
図6から分かるように、比較例1の試料は粒子表面がチタン化合物であることが確認され、上記実施例5で検出されたBaの信号が粒子表面で検出されず、バリウム化合物で被覆されていないことが確認された。
【0104】
図7は、実施例5に関するEDS−EELSマッピング像を示す。
図7からわかるように、実施例5の試料におけるBa化合物の被覆状態はBa単独での被覆ではなく、Baと、希土類元素やバナジウム等のシェル成分元素との複合化合物の状態であることが確認された。
【0105】
表2から分かるように、本発明に係る実施例1〜12の誘電体粉末においては、誘電体粉末の最外層上を被覆するBa化合物は、結晶性の炭酸バリウム量が0.5質量%以下であることが確認された。
【0106】
図8は、実施例5に関するEELSマッピング像を示す。
図8のBa単独EELS像はTiとBaの重なるスペクトルを排除して、Ba単独のピークを示す。これは主に炭酸バリウムを示す。
図8から分かるように、本発明に係る実施例5の誘電体粉末では、サブμmオーダー〜μmオーダーの炭酸バリウムを含有しないことが確認された。
【0107】
一方、
図9は、比較例1に関するEELSマッピング像を示す。
図9から分かるように、比較例1の誘電体粉末では、サブμmオーダー〜μmオーダーの炭酸バリウムを含有していることが確認された。
【0108】
表2から分かるように、本発明に係る実施例1〜12の誘電体粉末を用いて作製された積層セラミックコンデンサは、比誘電率が1800から3800であり、従来技術で作製された誘電体粉末を用いて作製された積層セラミックコンデンサと比較して、ショート率が低く、MTTFが4倍程度高く、m値も高いことが確認された。
【0109】
本発明に係る実施例1〜12と、比較例1〜4によって作製された積層セラミックコンデンサの特性の大きな差異は、本発明に係る実施例1〜12と、比較例1〜4によって作製された誘電体粉末の構造の差によって生じている。例えば、比較例1のように結晶性の炭酸バリウム量が比較的多く、バリウム化合物で粒子表面が被覆されていない誘電体粉末を用いると、焼結体粒子のシェルが薄く、さらに添加材の異相が生じ焼結体構造が不均一であるために、MTTFが短く、m値も低く、ショート率も高くなってしまう。
【0110】
また、比較例2のように誘電体粉末の希土類元素の固溶深度が10.0nmを超えて固溶すると、平均粒子径が大きいにもかかわらず、焼成安定性が悪くなり、非常に粒成長してしまう。そのため、ショート率が非常に高く、わずかにショートしなかった積層セラミックコンデンサも、HALT(加速寿命)試験においては即座に故障してしまった。
【0111】
さらに、添加材元素を酸化物の形態で添加した比較例4においても、誘電体粉末がバリウム化合物で被覆されていないために、焼成安定性が悪くなり、その結果、粒成長しており、誘電体粉末の平均粒子径が同程度の実施例5と比較して、比誘電率は高くなっているが、ショート率、MTTF、m値がともに悪化した。
【0112】
すなわち、本発明に係る誘電体粉末のように、誘電体粉末への添加材の固溶深さの制御および、誘電体粉末をバリウム化合物で被覆することによって、焼成安定性が得られ、焼結体の粒成長を抑えると共に、添加材の異相を減らすことが出来る。その結果として、0.8μm以下の誘電体層を有する積層セラミックコンデンサにおいて、ショート率の低減、MTTFの向上、m値の向上を達成することができる。