(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングシャフトやラック軸にモータを設け、モータからステアリングシャフトやラック軸にアシスト力を付与することにより運転者のステアリング操作を補助する、いわゆる電動パワーステアリング装置が周知である。従来、こうした電動パワーステアリング装置に用いられるモータ制御装置としては、特許文献1に記載の装置が知られている。
【0003】
図6に示すように、特許文献1に記載のモータ制御装置では、インバータ回路2により三相交流電力が生成される。この三相交流電力がモータ1に設けられた各相端子Tu,Tv,Twを介して各相コイル10u,10v,10wに供給されることによりロータ11が回転する。
【0004】
ロータ11は、外周面に永久磁石が設けられた構造からなる。インバータ回路2は、それぞれ対をなすトランジスタT1及びT2、T3及びT4、T5及びT6の並列回路からなり、対をなすトランジスタの各接続点から取り出される電力により三相交流電力を生成する。
【0005】
トランジスタT2,T4,T6の接地ラインには、モータ1に供給される各相の電流値を検出する電流センサ4〜6がそれぞれ設けられている。モータ1には、ロータ11の回転角を検出する回転角センサ3が設けられている。車両には、運転者の操舵トルクを検出するトルクセンサ7、及び車両の速度を検出する車速センサ8が設けられている。これら各センサ3〜8の出力は、インバータ回路2をPWM駆動するマイコン9に取り込まれている。
【0006】
マイコン9は、トルクセンサ7により検出される操舵トルク、及び車速センサ8により検出される車両の速度に基づいてステアリングシャフトに付与すべき目標アシスト力を設定する。そして、この目標アシスト力に対応するトルクをモータ1から発生させるべく、インバータ回路2のPWM駆動により、モータ1の供給電流量を制御する。具体的には、マイコン9は、まず、目標アシスト力に基づいてモータ電流の目標値を設定する。また、設定されたモータ電流の目標値と、電流センサ4〜6により検出される各相電流値との偏差を求める。そして、電流値の偏差に基づいて、PWM制御に用いられる各相の電圧指令値を演算する。なお、電圧指令値の演算は、回転角センサ3により検出されるロータ11の回転角に基づくd/q座標系の座標変換を利用して行われる。そして、マイコン9は、演算された各相の電圧指令値に基づいてゲート駆動信号を生成し、生成したゲート駆動信号に基づいてインバータ回路2の各トランジスタT1〜T6のスイッチングを操作することで、インバータ回路2をPWM駆動する。これにより、目標アシスト力に対応するトルクがモータ1から出力され、運転者のステアリング操作が的確に補助される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このようなモータ制御装置では、モータ1に回転角センサ3を組み付けた際にゼロ点(基準位置)の調整が適切に行われなかったような場合、ロータ11の実際の回転角と、回転角センサ3の検出角との間にずれが生じるおそれがある。この場合、回転角センサ3の検出角に基づいてモータ1の駆動を制御すると、例えばモータ1の出力トルクが目標値からずれてしまうなど、モータ制御装置の動作に支障をきたしかねない。
【0009】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、モータに対する回転角センサの組み付けに誤差が生じた場合であっても、ロータの回転角を高い精度で検出することのできる回転角検出
の検査方法、及びモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータに組み付けられた回転角センサにより前記モータのロータの回転角を検出する回転角検出
の検出精度を検査する検査方法であって、
前記回転角検出は、外部機器により前記ロータをステータに対して相対回転させているとき、前記モータの各相コイルに発生する誘起電圧を検出するとともに、前記回転角センサにより前記ロータの回転角を検出し、前記誘起電圧の検出値及び前記回転角センサの検出角に基づいて前記回転角センサの検出誤差を演算するステップと、前記回転角センサの検出誤差に基づいて前記回転角センサの組み付け誤差を演算し、前記組み付け誤差を補正値として設定するステップと、前記回転角センサの検出角を前記補正値により補正して前記ロータの回転角を求めるステップとを備え
、前記モータの各相コイルに発生する誘起電圧の検出が、ローパスフィルタを介して行われ、前記回転角センサの検出誤差を演算するステップが、前記ロータを一方向に回転させているときに前記誘起電圧の検出値及び前記回転角センサの検出角に基づいて第1の検出誤差を演算するステップと、前記ロータを前記一方向と逆の方向に回転させているときに前記誘起電圧の検出値及び前記回転角センサの検出角に基づいて第2の検出誤差を演算するステップとからなり、前記回転角センサの組み付け誤差の演算が、前記第1の検出誤差及び前記第2の検出誤差に基づいて行われる回転角検出であり、前記ロータを一方向に回転させているときに前記モータの各相コイルに発生する誘起電圧を検出するとともに、前記回転角センサにより前記ロータの回転角を検出してその検出角を前記補正値に基づいて補正し、前記誘起電圧の検出値及び前記補正後の検出角に基づいて第3の検出誤差を演算するステップと、前記第1の検出誤差及び前記第2の検出誤差に基づいて演算される判定値を演算するステップと、前記判定値と前記第3の検出誤差との比較に基づいて前記ロータの回転角の検出精度を検査するステップとを備えることを要旨とする。
【0011】
発明者らによれば、外部機器によりロータをステータに対して相対回転させているときにモータの各相コイルに誘起される電圧と、回転角センサの検出角とに基づいて回転角センサの検出誤差を演算可能であることが確認されている。また、演算された回転角センサの検出誤差から回転角センサの組み付け誤差を演算可能であることも確認されている。よって、上記検出方法によるように、演算される回転角センサの組み付け誤差を補正値として設定し、この補正値により回転角センサの検出角を補正すれば、回転角センサの検出角から組み付け誤差を排除することができる。よって、ロータの回転角をより高い精度で検出することが可能となる。
【0013】
誘起電圧の検出をローパスフィルタを介して行う場合、誘起電圧の検出に位相遅れが発生する。このため、ローパスフィルタを介して検出される誘起電圧に基づいて回転角センサの検出誤差を演算すると、演算される検出誤差には、組み付け誤差に起因するものと、位相遅れに起因するものとが含まれる。この点、発明者らによれば、ロータを一方向に回転させているときに演算される回転角センサの検出誤差を第1の検出誤差とし、ロータを一方向と逆の方向に回転させているときに演算される回転角センサの検出誤差を第2の検出誤差とすると、これらの検出誤差に基づいて回転角センサの組み付け誤差を演算可能であることが確認されている。よって、上記検出方法によれば、誘起電圧の検出に位相遅れを伴う場合であっても、補正値を回転角センサの組み付け誤差に対応する値に設定することができるため、ロータの回転角を高い精度で検出することが可能となる。
【0015】
同検査方法によれば、ロータを一方向に回転させるだけでロータの回転角の検出精度を検査することができるため、同検査を容易且つ短時間で行うことが可能となる。
請求項
2に記載の発明は、モータのロータの回転角を検出する回転角センサと、前記モータの駆動を制御する制御手段と、前記モータの各相コイルに発生する誘起電圧を検出する電圧検出部と、を備え、前記制御手段は、外部機器により前記ロータをステータに対して相対回転させているとき、前記電圧検出部の検出値及び前記回転角センサの検出角に基づいて前記回転角センサの検出誤差を演算した上で、前記検出誤差に基づいて前記回転角センサの組み付け誤差を演算し、前記組み付け誤差を補正値として前記回転角センサの検出角を補正して前記ロータの回転角を求め、補正によって求められた前記ロータの回転角に基づいて前記モータの駆動を制御
し、前記電圧検出部は、前記各相コイルに発生する誘起電圧の検出をローパスフィルタを介して行うものであって、前記回転角センサの検出誤差の演算が、前記ロータを一方向に回転させているときに前記電圧検出部の検出値及び前記回転角センサの検出角に基づいて第1の検出誤差を演算するとともに、前記ロータを前記一方向と逆方向に回転させているときに前記電圧検出部の検出値及び前記回転角センサの検出角に基づいて第2の検出誤差を演算することで行われ、前記回転角センサの組み付け誤差の演算が、前記第1の検出誤差及び前記第2の検出誤差に基づいて行われ、前記ロータを一方向に回転させているときに前記モータの各相コイルに発生する誘起電圧を検出するとともに、前記回転角センサにより前記ロータの回転角を検出してその検出角を前記補正値に基づいて補正し、前記誘起電圧の検出値及び前記補正後の検出角に基づいて第3の検出誤差を演算し、前記第1の検出誤差及び前記第2の検出誤差に基づいて演算される判定値を演算し、前記判定値と前記第3の検出誤差との比較に基づいて前記ロータの回転角の検出精度を検査することを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかか
る検査方法、及びモータ制御装置によれば、モータに対する回転角センサの組み付けに誤差が生じた場合であっても、ロータの回転角を高い精度で検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<原理の説明>
以下、本発明にかかる回転角検出方法、検査方法、及びモータ制御装置の実施形態について説明するに先立ち、まずは、その原理について
図1及び
図2を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態のモータ1の基本構成は、
図6に例示したモータと同様である。すなわち、モータ1は、外周面に永久磁石を有するロータ11と、ロータ11を囲むように配置された各相コイル10u,10v,10wと、各相コイル10u,10v,10wに接続された各相端子Tu,Tv,Twを備えている。各相コイル10u,10v,10wは、モータ1のステータ17に巻回されている。また、モータ1には回転角センサ3が一体的に組み付けられており、この回転角センサ3によりロータ11の回転角が検出される。
【0022】
ところで、このようなモータ1では、外部機器を用いてロータ11をステータ17に対して相対回転させると、電磁誘導作用により、各相コイル10u,10v,10wに誘起電圧eu,ev,ewが発生する。ここでは、誘起電圧eu,ev,ewを検出すべく、モータ1の各相端子Tu,Tv,Twに電圧検出部15が接続されている。電圧検出部15は、各相端子Tu,Tv,Twにそれぞれ直列に接続される分圧回路13u,13v,13w、及びローパスフィルタ14u,14v,14wを備えている。分圧回路13u,13v,13wは2つの分圧抵抗からなるものであり、各相コイル10u,10v,10wに発生する誘起電圧eu,ev,ewを分圧してローパスフィルタ14u,14v,14wにそれぞれ出力する。ローパスフィルタ14u,14v,14wは、分圧回路13u,13v,13wからの電圧信号を平滑化して出力する。ここでは、ローパスフィルタ14u,14v,14wから出力される電圧信号Vu,Vv,Vwに基づいて各相の誘起電圧を検出し、検出した各相の誘起電圧に基づいて回転角センサ3の組み付け誤差を演算する。
【0023】
次に、各相の誘起電圧を利用して回転角センサ3の組み付け誤差を演算する方法について説明する。
例えばモータ1のロータ11を外部機器により一方向(図中の矢印CWで示す方向)に一定の速度で回転させたとする。このとき、各相コイル10u,10v,10wの誘起電圧eu,ev,ewを、回転角センサ3の検出角θに基づいて周知の座標変換によりd/q座標系に変換すると、d軸上の電圧値及びq軸上の電圧値が求められる。ここで、回転角センサ3がモータ1に誤差なく組み付けられており、モータ1に対する回転角センサ3のゼロ点(基準位置)の調整が正確に行われている場合、
図2(a)に実線で示すように、誘起電圧はq軸上の値「+Vq」として求められる。
【0024】
しかしながら、回転角センサ3の組み付けに誤差Δθofstがある場合、回転角センサ3の検出角θは実際のロータ11の回転角から組み付け誤差Δθofstだけずれて検出される。この場合、
図2(a)に一点鎖線で示すように、d軸及びq軸は組み付け誤差Δθofstだけずれたd’軸及びq’軸として認識される。
【0025】
また、各相の誘起電圧eu,ev,ewをローパスフィルタ14u,14v,14wを介して検出する場合、ローパスフィルタ14u,14v,14wの出力信号Vu,Vv,Vwの波形は、実際の誘起電圧eu,ev,ewの波形よりも位相が遅れる。よって、ローパスフィルタ14u,14v,14wの出力信号Vu,Vv,Vwに基づいて検出される誘起電圧をそれぞれeu’,ev’,ew’とすると、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’は位相遅れを有する。したがって、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’に基づいてd軸の電圧値Vd及びq軸の電圧値Vqを演算すると、その演算に位相遅れを伴う。この位相遅れをΔθdelayとすると、
図2(a)に二点鎖線で示すように、d軸及びq軸は位相遅れΔθdelayだけ更にずれたdcw軸及びqcw軸として認識される。
【0026】
このように、回転角センサ3の検出角θに基づいて誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’をd/q座標系に変換すると、dcw軸上の電圧値Vdcw及びqcw軸上の電圧値Vqcwが求められる。
【0027】
ところで、
図2(a)に示すように、電圧値Vdcw,Vqcwは、実際のq軸上の電圧値Vq、組み付け誤差Δθofst、及び位相遅れΔθdelayと以下の式(1)及び(2)に示す関係を有している。
【0028】
Vdcw=Vq×sin(Δθofst+Δθdelay)
=Vq×sin(Δθcw)・・・(1)
Vqcw=Vq×cos(Δθofst+Δθdelay)
=Vq×cos(Δθcw)・・・(2)
但し、Δθcw=Δθofst+Δθdelay・・・(3)
ここで、式(1),(2)に基づいて以下の式(5)のようにtan(Δθcw)を演算することができる。
【0029】
tan(θcw)=Vdcw/Vqcw・・・(5)
したがって、第1の検出誤差Δθcwは、以下の式(6)に示すように、電圧値Vdcw,Vqcwに基づいて演算することが可能である。
【0030】
Δθcw=tan
−1(Vdcw/Vqcw)・・・(6)
一方、
図1に示すように、モータ1のロータ11を外部機器により矢印CWで示す方向と逆の方向(矢印CCWで示す方向)に一定の速度で回転させたとする。この場合、各相コイル10u,10v,10wに発生する誘起電圧eu,ev,ewは、ロータ11を矢印CWで示す方向に回転させたときと逆方向に発生する。このため、モータ1に対する回転角センサ3のゼロ点調整が正確に行われている場合、回転角センサ3の検出角θに基づいて誘起電圧eu,ev,ewを周知の座標変換によりd/q座標系に変換すると、
図2(b)に実線で示すように、誘起電圧はq軸上の値「−Vq」として求められる。
【0031】
しかしながら、回転角センサ3に組み付け誤差があって且つ、誘起電圧eu,ev,ewをローパスフィルタ14u,14v,14wを介して検出する場合、
図2(b)に二点鎖線で示すように、d軸及びq軸は実際よりも「Δθofst−Δθdelay」だけずれたdccw軸及びqccw軸として認識される。よって、回転角センサ3の検出角θに基づいて誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’をd/q座標系に変換すると、
図2(b)に示すように、dccw軸上の電圧値Vdccw及びqccw軸上の電圧値Vqccwが求められる。
【0032】
ところで、
図2(b)に示すように、電圧値Vdccw,Vqccwは、実際のq軸上の電圧値「−Vq」、組み付け誤差Δθofst、及び位相遅れΔθdelayと以下の式(7)及び(8)に示す関係を有している。
【0033】
Vdccw=(−Vq)×sin(Δθofst−Δθdelay)
=(−Vq)×sin(Δθccw)・・・(7)
Vqccw=(−Vq)×cos(Δθofst−Δθdelay)
=(−Vq)×cos(Δθccw)・・・(8)
但し、Δθccw=Δθofst−Δθdelay・・・(9)
ここで、式(7),(8)に基づいて以下の式(10)のようにtan(Δθccw)を演算することができる。
【0034】
tan(Δθccw)=Vdccw/Vqccw・・・(10)
したがって、第2の検出誤差Δθccwは、以下の式(11)に示すように、電圧値Vdccw,Vqccwに基づいて演算することが可能である。
【0035】
Δθccw=tan
−1(Vdccw/Vqccw)・・・(11)
そして、式(3),(9)によれば、組み付け誤差Δθofstを第1及び第2の検出誤差Δθcw,Δθccwに基づいて以下の式(12)に示すように演算することができる。
【0036】
Δθofst=(Δθcw+Δθccw)/2・・・(12)
よって、この組み付け誤差Δθofstを補正値θcとして設定し、以下の式(13)に示すように回転角センサ3の検出角θを補正値θcにより補正してロータ11の回転角を求めれば、ロータ11の回転角を高い精度で検出することが可能となる。
【0037】
θ’=θ−θc・・・(13)
但し、「θc=Δθofst」である。また、「θ’」は補正後の検出角を示す。
なお、位相遅れΔθdelayは、第1及び第2の検出誤差Δθcw,Δθccwに基づいて以下の式(14)に示すように演算することができる。
【0038】
Δθdelay=(Δθcw−Δθccw)/2・・・(14)
ところで、式(13)を用いた補正演算によりロータ11の回転角を求めた場合、補正値θcの設定後に、補正値θcが組み付け誤差Δθofstに対応する値に正しく設定されているか否かを検査することが、回転角の検出精度を高く維持する上で望ましい。ただし、検査の際に組み付け誤差Δθofstを再度演算すると、ロータ11を矢印CWで示す方向及び矢印CCWで示す方向の双方に回転させる必要があるため、検査に長時間を要するおそれがある。この点、発明者らによれば、式(14)により演算される位相遅れΔθdelayを利用することで、ロータ11を矢印CWで示す方向に回転させるだけで検査が可能であることが確認されている。以下、その詳細について説明する。
【0039】
まず、モータ1のロータ11を外部機器により矢印CWで示す方向に一定の速度で回転させ、ローパスフィルタ14u,14v,14wの出力信号Vu,Vv,Vwに基づいて各相の誘起電圧eu’,ev’,ew’を検出する。また、回転角センサ3によりロータ11の回転角を検出する。そして、式(13)を用いて回転角センサ3の検出角θを補正値θcで補正する。その後、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’を補正後の検出角θ’に基づいてd/q座標系に変換することで、dcw軸上の電圧値Vdcw及びqcw軸上の電圧値Vqcwを求める。そして、式(6)を用いて第3の検出誤差Δθcw’を演算する。
【0040】
ここで、補正値θcが組み付け誤差Δθofstに対応する値に正しく設定されている場合、Δθofstがゼロであるため、第3の検出誤差Δθcw’の値は位相遅れΔθdelayの値と等しくなるはずである。よって、例えばΔθaを予め設定された値とし、第3の検出誤差Δθcw’の値が「Δθdelay−Δθa≦Δθcw’≦Δθdelay+Δθa」なる関係を満たしている場合には、補正値θcが組み付け誤差Δθofstに対応する値に設定されていると判断することができる。このような方法を用いれば、回転角の検出精度を容易且つ短時間で検査することができる。
【0041】
<実施形態>
以下、この原理を利用した回転角検出方法、検査方法、及びモータ制御装置の一実施形態について
図3〜
図5を参照して説明する。なお、本実施形態のモータ制御装置の基本構成は、
図6に例示したモータ制御装置と同様である。また、モータの各相コイルに誘起される電圧を検出するための構成は、
図1に例示した構成と同様である。ここでは、
図1及び
図6に示した要素と同一の要素にはそれぞれ同一の符号を付すことにより重複する説明を割愛する。
【0042】
図3に示すように、本実施形態のモータ制御装置では、対をなすトランジスタT1及びT2、T3及びT4、T5及びT6の各接続点に分圧回路13u,13v,13w及びローパスフィルタ14u,14v,14wがそれぞれ直列に接続されている。ローパスフィルタ14u,14v,14wの出力信号Vu,Vv,Vwはマイコン9に取り込まれている。本実施形態ではマイコン9が制御手段である。
【0043】
モータ制御装置には、メモリ12が設けられている。メモリ12には、補正値θcや所定値θaなどの各種データが記憶されている。マイコン9は、回転角センサ3によりロータ11の回転角を検出すると、メモリ12に記憶されている補正値θcを読み込んだ後、回転角センサ3の検出角θを補正値θcにより式(13)のように補正する。そして、補正後の検出角θ’に基づいてモータ1の駆動を制御する。なお、モータ制御装置のそれ以外の動作は、
図6に例示したモータ制御装置と同様である。
【0044】
本実施形態では、モータ制御装置の製造の際に、モータ1に回転角センサ3が組み付けられた後、回転角センサ3のゼロ点を調整する工程が行われる。この工程では、
図3に示すように、モータ1のロータ11に外部機器20が連結される。この外部機器20は、ロータ11を矢印CWで示す方向、あるいは矢印CCWで示す方向に回転させる。また、外部機器20は、モータ制御装置に設けられたコネクタ16に適宜の配線21を介して接続される。外部機器20及びマイコン9は、コネクタ16及び配線21を介して各種情報を授受する。
【0045】
そして、ゼロ点調整の工程では、補正値θcを設定する工程が行われた後、ロータ11の回転角の検出精度を検査する工程が行われる。
次に、
図4及び
図5を参照して、各工程でのマイコン9及び外部機器20の動作について説明する。はじめに、
図4を参照して、補正値θcを設定する工程でのマイコン9及び外部機器20のそれぞれの動作をその作用とともに説明する。
【0046】
図4に示すように、この工程では、まず、外部機器20がロータ11をステータ17に対して矢印CWで示す方向に相対回転させる(ステップS1)。そして、外部機器20は、ロータ11の回転速度が所定速度で安定したことを検知すると(ステップS2)、マイコン9に対して第1の検出誤差演算指令を発信する(ステップS3)。マイコン9は、外部機器20からの第1の検出誤差演算指令を受信すると、ローパスフィルタ14u,14v,14wの出力信号Vu,Vv,Vwに基づいて各相の誘起電圧を検出する(ステップS4)。また、マイコン9は、回転角センサ3によりロータ11の回転角を検出する(ステップS5)。次いで、マイコン9は、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’及び回転角センサ3の検出角θに基づいて第1の検出誤差Δθcwを演算する(ステップS6)。具体的には、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’を回転角センサ3の検出角θに基づいてd/q座標系に変換することで、dcw軸上の電圧値Vdcw及びqcw軸上の電圧値Vqcwを求める。そして、電圧値Vdcw,Vqcwから式(6)を用いて第1の検出誤差Δθcwを演算する。
【0047】
次いで、外部機器20がロータ11をステータ17に対して矢印CCWで示す方向に相対回転させる(ステップS7)。そして、外部機器20は、ロータ11の回転速度が所定速度で安定したことを検知すると(ステップS8)、マイコン9に対して第2の検出誤差演算指令を発信する(ステップS9)。マイコン9は、外部機器20からの第2の検出誤差演算指令を受信すると、ローパスフィルタ14u,14v,14wの出力信号Vu,Vv,Vwに基づいて各相の誘起電圧を検出するとともに(ステップS10)、回転角センサ3によりロータ11の回転角を検出する(ステップS11)。次いで、マイコン9は、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’及び回転角センサ3の検出角θに基づいて第2の検出誤差Δθccwを演算する(ステップS12)。具体的には、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’を回転角センサ3の検出角θに基づいてd/q座標系に変換することで、dccw軸上の電圧値Vdccw及びqccw軸上の電圧値Vqccwを求める。そして、電圧値Vdcw,Vqcwから式(11)を用いて第2の検出誤差Δθccwを演算する。
【0048】
続いて、マイコン9は、演算された第1及び第2の検出誤差Δθcw,Δθccwから式(12)を用いて組み付け誤差Δθofstを演算するとともに(ステップS13)、演算された組み付け誤差Δθofstを補正値θcとしてメモリ12に記憶する(ステップS14)。また、第1及び第2の検出誤差Δθcw,Δθccwから式(13)を用いて位相遅れΔθdelayを演算し(ステップS15)、位相遅れΔθdelayをメモリ12に記憶する(ステップS16)。
【0049】
次に、
図5を参照して、回転角の検出精度を検査する工程でのマイコン9及び外部機器20のそれぞれの動作をその作用とともに説明する。
図5に示すように、この工程では、まず、外部機器20がロータ11をステータ17に対して矢印CWで示す方向に相対回転させる(ステップS20)。そして、外部機器20は、ロータ11の回転速度が所定速度で安定したことを検知すると(ステップS21)、マイコン9に対して第3の検出誤差演算指令を発信する(ステップS22)。マイコン9は、外部機器20からの第3の検出誤差演算指令を受信すると、ローパスフィルタ14u,14v,14wの出力信号Vu,Vv,Vwに基づいて各相の誘起電圧を検出する(ステップS23)。また、マイコン9は、回転角センサ3によりロータ11の回転角を検出する(ステップS24)。次いで、マイコン9は、メモリ12から補正値θcを読み込んだ後(ステップS25)、回転角センサ3の検出角θを補正値θcにより補正する(ステップS26)。そして、補正後の検出角θ’及び誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’に基づいて第3の検出誤差Δθcw’を演算する(ステップS27)。具体的には、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’を補正後の検出角θ’に基づいてd/q座標系に変換することで、d軸上の電圧値Vd及びq軸上の電圧値Vqを求める。そして、求めた電圧値Vd,Vqから式(6)を用いて第3の検出誤差Δθcw’を演算する。次いで、マイコン9は、メモリ12から位相遅れΔθdelay及び所定値θaを読み込んだ後(ステップS28)、第3の検出誤差Δθcw’が「Δθdelay−Δθa≦Δθcw’≦Δθdelay+Δθa」なる関係を満たしているか否かを判断する(ステップS29)。ここで、マイコン9は、第3の検出誤差Δθcw’が「Δθdelay−Δθa≦Δθcw’≦Δθdelay+Δθa」なる関係を満たしていると判断した場合(ステップS29:YES)には、ロータ11の回転角の検出精度は高いと判定して、外部機器20に正常信号を出力する(ステップS30)。外部機器20は、マイコン9からの正常信号を受信すると、そのことを作業者に対して報知する(ステップS32)。この報知は、例えば外部機器20に設けられた正常灯を点灯するなどして行われる。
【0050】
一方、マイコン9は、第3の検出誤差Δθcw’が「Δθdelay−Δθa≦Δθcw’≦Δθdelay+Δθa」なる関係を満たしていないと判断した場合には(ステップS29:NO)、ロータ11の回転角の検出精度は低いと判定して、外部機器20に異常信号を出力する(ステップS31)。外部機器20は、マイコン9からの異常信号を受信すると、そのことを作業者に対して報知する(ステップS32)。この報知は、例えば外部機器20に設けられた異常灯を点灯するなどして行われる。
【0051】
本実施形態によれば、モータ制御装置の製造時においてモータ1に回転角センサ3が組み付けられたとき、回転角センサ3がゼロ点から誤差Δθofstだけずれて組み付けられた場合、
図4に示した工程が行われることで、組み付け誤差Δθofstが補正値θcとして設定される。そして、モータ制御装置では、回転角センサ3によりロータ11の回転角が検出されると、回転角センサ3の検出角θが補正値θcにより補正されることでロータ11の回転角が求められる。これにより、回転角センサ3の検出角θから組み付け誤差が排除されるため、ロータ11の回転角を高い精度で検出することが可能となる。
【0052】
また、
図4に示す工程が行われた後、
図5に示す検査工程が行われることで、前述した原理に基づき、ロータ11の回転角の検出精度が検査される。これにより、信頼性を高めることが可能となる。また、
図5に示す検査工程を経て正常であると判定されたモータ制御装置を用いれば、ロータ11の回転角を高い精度で検出することができる。よって、モータ1の駆動をより的確に制御することが可能となる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の回転角検出方法、検査方法、及びモータ制御装置によれば、以下のような効果が得られる。
(1)外部機器20によりロータ11をステータ17に対して矢印CWで示す方向に相対回転させているとき、モータ1の各相コイル10u,10v,10wに発生する誘起電圧を電圧検出部15により検出するとともに、回転角センサ3によりロータ11の回転角を検出することとした。そして、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’及び回転角センサ3の検出角θに基づいて第1の検出誤差Δθcwを演算することとした。また、外部機器20によりロータ11をステータ17に対して矢印CCWで示す方向に相対回転させ、このときの誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’及び回転角センサ3の検出角θに基づいて第2の検出誤差Δθccwを演算することとした。そして、第1及び第2の検出誤差Δθcw,Δθccwに基づいてロータ11の組み付け誤差Δθofstを演算し、これを補正値θcとして設定することとした。また、回転角センサ3の検出角θを補正値θcにより補正してロータ11の回転角を求めることとした。これにより、回転角センサ3の検出角θから組み付け誤差を排除することができるため、ロータ11の回転角をより高い精度で検出することが可能となる。また、回転角センサ3のゼロ点調整をソフトウェア的に行うことができるため、モータ1に対する回転角センサ3の組み付け精度を緩和することができる。よって、回転角センサ3の組み付け工数を低減することができるため、コストの低減を図ることが可能となる。さらに、モータ制御装置では、ロータ11の回転角を高い精度で検出することができるため、モータ1の駆動をより的確に制御することが可能となる。よって、モータ制御装置の個体差によるばらつきを抑制することが可能となる。
【0054】
(2)外部機器20によりロータ11をステータ17に対して矢印CWで示す方向に相対回転させ、そのときにモータ1の各相コイル10u,10v,10wに発生する誘起電圧を電圧検出部15により検出することとした。また、回転角センサ3によりロータ11の回転角を検出し、その検出角θを補正値θcに基づいて補正することとした。そして、誘起電圧の検出値eu’,ev’,ew’及び補正後の検出角θ’に基づいて第3の検出誤差Δθcw’を演算することとした。さらに、第1及び第2の検出誤差Δθcw,Δθccwに基づいて、誘起電圧の検出に際しての位相遅れΔθdelayを演算することとした。そして、この位相遅れΔθdelayを判定値として、これと第3の検出誤差Δθcw’との比較に基づいて回転角の検出精度を検査することとした。これにより、ロータ11を矢印CWで示す方向に回転させるだけでロータ11の回転角の検出精度を検査することができるため、検査工程に要する時間を短縮することが可能となる。
【0055】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・位相遅れΔθdelayの値が組み付け誤差Δθofstの値と比較して無視できる程度に小さい場合には、式(6)を用いて演算される第1の検出誤差Δθcwが組み付け誤差Δθofstとほぼ等しくなる。したがって、この場合には、第1の検出誤差Δθcwをそのまま補正値θcとして用いてもよい。
【0056】
・
図5に例示した検査工程を省略してもよい。この場合、
図4に例示した工程において位相遅れΔθdelayを演算する必要がなくなるため、ステップS15及びS16の処理を省略することができる。
【0057】
・上記実施形態では、電圧検出部15を分圧回路13u,13v,13w及びローパスフィルタ14u,14v,14wにより構成することとしたが、電圧検出部15の構成は適宜変更可能である。
【0058】
・上記実施形態では、本発明にかかるモータ制御装置を車両の電動パワーステアリング装置に搭載することとしたが、それ以外の機器に搭載してもよい。