(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る潤滑装置を、
図1〜5を用いて説明する。
図1は、本実施形態の潤滑装置を備える内燃機関10を示す断面図である。
図1は、内燃機関10を、後述されるクランクシャフト30の軸線Xに垂直な方向に切断した状態を示している。内燃機関10の上下方向は、内燃機関10が搭載される装置の上下方向と同じである。本実施形態では、内燃機関10は、一例として、自動車に搭載される。このため、本実施形態では、内燃機関10の上下方向Aは、自動車の車体上下方向となる。図中上方が上側であり、下方が下側である。
【0017】
図1に示すように、内燃機関10は、本実施形態では、レシプロ式内燃機関である。また、内燃機関10は、一例としてDOHC(Over Head Double Camshaft)式である。
図2は、
図1に示すF2−F2線に沿って示す内燃機関10の断面図である。
図2は、内燃機関10を、後述されるクランクシャフト30の軸線Xに沿って切断した状態を示している。
【0018】
図1,2に示すように、内燃機関10は、シリンダブロック20と、クランクシャフト30と、シリンダヘッド40と、一対のカムシャフト50と、シリンダヘッドカバー60と、伝達機構70と、チェーンケース80と、オイルポンプ90と、オイルパン100とを備えている。
【0019】
図2に示すように、本実施形態の内燃機関10は、一例として3気筒式である。シリンダブロック20は、3つのシリンダ21が形成されるシリンダ部22と、シリンダ部22の下に設けられるクランクケース23とを備えている。シリンダ部22とクランクケース23とは、一体に形成されている。シリンダヘッド40は、シリンダブロック20上に固定されている。シリンダヘッドカバー60は、シリンダヘッド40上に固定されている。シリンダヘッド40において、シリンダ21に対向する部位には、燃焼室41が形成されている。
【0020】
シリンダ21内には、ピストンが収容されている。ピストン11は、コネクティングロッド12によってクランクシャフト30に連結されている。
図2中、クランクシャフト30は、一部を省略して示している。クランクシャフト30は、クランクジャーナル31がシリンダブロック20に設けられるジャーナル受け部24に回転可能に支持されている。クランクシャフト30は、シリンダ21内のピストン11の進退運動がコネクティングロッド12によって伝達されることによって軸線X回りに回転する。
【0021】
図1に示すように、シリンダヘッド40内には、一対のカムシャフト50が設けられている。両カムシャフト50は、各々の軸線Yがクランクシャフト30の軸線Xと平行になるように配置されている。
【0022】
上記したように、内燃機関10は、DOHC式である。このため、一方のカムシャフト50は吸気弁を駆動し、他方のカムシャフト50は排気弁を駆動する。吸気弁は、カムシャフト50によって駆動されることによって燃焼室41に形成される吸気ポートを開閉する。排気弁は、カムシャフト50によって駆動されることによって燃焼室41に形成される排気ポートを開閉する。
【0023】
クランクシャフト30の回転は、伝達機構70によって各カムシャフト50に伝達される。各カムシャフト50は、伝達機構70を介して伝達されたクランクシャフト30の回転によって回転し、吸気弁と排気弁とを開閉する。
【0024】
伝達機構70は、クランクシャフトタイミングスプロケット71と、カムシャフトタイミングスプロケット72と、タイミングチェーン73とを備えている。クランクシャフト30の一端部には、クランクシャフトタイミングスプロケット71が設けられている。クランクシャフトタイミングスプロケット71は、クランクシャフト30に固定されており、クランクシャフト30と一体に回転する。
【0025】
各カムシャフト50の一端部には、カムシャフトタイミングスプロケット72が設けられている。カムシャフトタイミングスプロケット72は、カムシャフト50に固定されており、カムシャフト50と一体に回転する。タイミングチェーン73は、クランクシャフトタイミングスプロケット71と各カムシャフトタイミングスプロケット72とに回しかけられている。タイミングチェーン73の一部は、省略している。クランクシャフト30の回転は、クランクシャフトタイミングスプロケット71、タイミングチェーン73、カムシャフトタイミングスプロケット72、カムシャフト50の順番で伝達される。
【0026】
チェーンケース80は、シリンダブロック20とシリンダヘッド40とにおいて、クランクシャフトタイミングスプロケット71とカムシャフトタイミングスプロケット72側の側面に設けられており、クランクシャフトタイミングスプロケット71とカムシャフトタイミングスプロケット72とタイミングチェーン73とを、シリンダブロック20とシリンダヘッド40との間に収容している。言い換えると、シリンダブロック20とシリンダヘッド40とチェーンケース80との間には、伝達機構70とを収容する収容空間Sが形成されている。収容空間Sの下端は、開放されている。
【0027】
シリンダブロック20においてクランクシャフト30の一端部側には、本実施形態では伝達機構70側には、オイルポンプ90が設けられている。オイルポンプ90は、クランクシャフト30の回転によって駆動する、例えばトロコイド式である。
【0028】
シリンダ部22内には、潤滑液の一例としてのオイルOが流れるオイルギャラリ110が設けられている。オイルギャラリ110は、ジャーナル受け部24に連通する油穴111を有している。オイルギャラリ110内を流れるオイルOの一部は、油穴111を通ってシリンダ部22の外に流れ出る。流れ出たオイルOは、ジャーナル受け部24とクランクジャーナル31との間を潤滑する。
【0029】
オイルギャラリ110は、シリンダヘッド40内にも設けられている。シリンダヘッド40内を通るオイルギャラリ110は、シリンダヘッド40内の各種摺動部分を潤滑する。シリンダヘッド40内に形成されるオイルギャラリ110は、燃焼室41の周囲を通るように形成されている。シリンダヘッド40内のオイルギャラリ110を流れるオイルOは、燃焼室41の周囲を流れることによって、燃焼室41の高温を受けて内燃機関10の駆動直後から昇温される。
【0030】
また、シリンダヘッド40に形成されるオイルギャラリ110には、後述されるオイルパン100に向かってオイルOを落とすオイル落し通路112が形成されている。シリンダブロック20のシリンダ部22内には、シリンダヘッド40に形成されるオイル落し通路112に連通するオイル落し通路113が形成されている。
【0031】
なお、
図1には、一対のオイル落とし通路112,113が示されているが、オイル落とし通路112,113は、シリンダブロック20とシリンダヘッド40とにおいて、
図1とは異なる部位にも形成されている。つまり、オイル落とし通路112,113は複数形成されている。
【0032】
シリンダ部22に形成されるオイル落し通路113の下端の開口114は、クランクケース23内に開口している。このため、オイル落し通路113の開口114は、クランクケース23の内壁面23aよりもクランクケース23の内側に位置している。シリンダヘッド40内のオイルギャラリ110を流れて燃焼室41の温度によって早期に昇温されたオイルOは、オイル落とし112,113を通って落下する。開口114がクランクケース23の内壁面23aより内側に位置することによって、開口114を通して落下したオイルOは、内壁面23aを伝うことがない。
【0033】
オイルポンプ90は、後述されるオイルパン100内のオイルOを汲み上げて、オイルギャラリ110内と伝達機構70とに供給する。
【0034】
シリンダブロック20のクランクケース23の下端には、オイルパン100が固定されている。オイルパン100は、上端が開口する有底形状であり、底壁部101と、底壁部101の周縁から立ち上がる周壁部102とを備えている。周壁部102は、上端縁がクランクケース23の下端とチェーンケース80の下端とに、オイルOが漏れないようにシール材を介して固定されている。このため、クランクケース23の内壁面23aとオイルパン100の周壁部102の内壁面103とは連続している。オイルパン100の上端の開口は、クランクケース23の下端開口と、シリンダヘッド40とチェーンケース80との間の収容空間とを上下方向Aに重なる大きさを有している。
【0035】
図3は、オイルパン100を示す平面図である。
図4は、
図3中に示されるF4−F4線に沿って示すオイルパン100の断面図である。なお、
図4では、後述されるオイルスクリーン170は切断されていない。
【0036】
図3,4に示すようにオイルパン100内には、インナオイルパン120が設けられている。インナオイルパン120は、上端が開口する有底形状であり、底壁部121と、底壁部121の周縁から立ち上がる周壁部122とを備えている。
【0037】
インナオイルパン120の底壁部121は、オイルパン100の底壁部101に固定されている。この固定方法としては、例えば、溶接によって固定されてもよい。インナオイルパン120の周壁部122は、オイルパン100の周壁部102より内側に位置しており、インナオイルパン120の周壁部122の上端縁123の全域は、オイルパン100の周壁部102の内壁面103およびクランクケース23の内壁面23aから離れている。
【0038】
このため、オイルパン100の内側は、インナオイルパン120の周壁部122によって、第1のオイル貯留室131と、第2のオイル貯留室132とに区画されている。第2のオイル貯留室132は、オイルパン100の周壁部102とインナオイルパン120の周壁部122との間の空間である。第2のオイル貯留室132は、インナオイルパン120を囲む一周連続する環状に形成されている。第1のオイル貯留室131は、インナオイルパン120の内側である。
【0039】
図1に示すように、インナオイルパン120の周壁部122の上端縁123の全域は、上下方向Aに、シリンダ部22に形成される全てのオイル落とし113の開口114よりも外側に位置している。ここで言う外側とは、オイル落とし113の開口114を上下方向Aに延長したとき、開口114の縁の全域の延長がインナオイルパン120の周壁部122の上端縁123よりも内側に位置することである。言い換えると、各開口114において、開口114の全ての範囲が、周壁部122の上端縁123よりも第1のオイル貯留室131の内側に位置する。
【0040】
インナオイルパン120の周壁部122は、複数のブラケット140によってオイルパン100の周壁部102に連結されることによって、固定されている。
図5は、
図4中に示すF5−F5線に沿って示すオイルパン100の断面図である。
図5は、クランクシャフト30の軸線Xに垂直な方向に沿ってオイルパン100を切断した状態を示している。なお、
図5中、シリンダブロック20などは省略されている。
【0041】
図5に示すように、ブラケット140は、インナオイルパン120の周壁部122と一体に形成されている。ブラケット140は、周壁部122の上端縁123から下方に向かって延びた後、オイルパン100の内壁面103に向かって延びて内壁面103に固定されている。言い換えると、ブラケット140は、インナオイルパン120の周壁部122の上端縁123よりも下方に設けられる。上端縁123は、周壁部122において上下方向Aに沿って最も高い位置にある部分である。
【0042】
なお、本実施形態では、ブラケット140は、インナオイルパン120の周壁部122と一体に形成されているが、例えば、ブラケットは、インナオイルパン120と別部材であってもよい。ブラケットがインナオイルパン120の周壁部122と別部材である場合であっても、ブラケットは、
図5に示すようにインナオイルパン120の周壁部122の上端縁123よりも下方に位置する。
【0043】
ブラケット140は、インナオイルパン120の周壁部122の複数個所にもうけられている。
図5に示されるブラケット140は、インナオイルパン120の周壁部122のうち、クランクシャフト30の軸線Xが延びる方向に沿う部分に形成されるブラケットを示している。
【0044】
図4に示すように、インナオイルパン120の周壁部122においてクランクシャフト30の軸線Xが延びる方向に垂直な方向に沿う部分に設けられるブラケット140も、
図5に示されるブラケット140と同様に、周壁部122の上端縁123よりも下方に位置している。このように、全てのブラケット140は、
図5に示すように、インナオイルパン120の周壁部122においてブラケット140が設けられる部分の上端縁123よりも下方に設けられている。
【0045】
インナオイルパン120においてクランクシャフト30の軸線X方向に沿って他端部側には、オイル受け部150が設けられている。オイル受け部150は、周壁部122の一部がオイルパン100の内壁面103に向かってなだらかに上方に向かって延びることによって形成されている。言い換えると、インナオイルパン120の周壁部122においてオイル受け部150以外の部位は、上下方向Aに延びている。さらに、言い換えると、オイル受け部150は、周壁部122の上端縁の少なくとも一部に形成されている。
【0046】
オイル受け部150は、その外縁から第1のオイル貯留室131の内側に向かってなだらかに下るように傾斜している。このため、オイル受け部150上に落下したオイルOは、オイル受け部150にガイドされて第1のオイル貯留室131内に導かれる。
【0047】
なお、オイル受け部150は、周壁部122の一部であるので、オイル受け部150の外縁とは、周壁部122の上端縁123と同じ部位である。このため、オイル受け部150の外縁、つまり上端縁は、オイルパン100の周壁部102の内壁面103とは離間している。
【0048】
本実施形態では、
図3に示すように、インナオイルパン120は、平面形状が略矩形であり、その四辺のうち一辺にオイル受け部150が形成されている。ブラケット140は、オイル受け部150の上端縁123に形成されるとともに、残りの三辺にも少なくとも1つずつ形成されている。例えば、オイル受け部150の上端縁123には、3つのブラケット140が形成されている。クランクシャフト30の軸線Xが延びる方向に沿う部分には、それぞれ、2つのブラケット140が形成されている。オイル受け部150に対向する周壁部122の上端縁123には、1つのブラケット140が形成されている。ブラケット140が上記のように形成されることによって、インナオイルパン120は、オイルパン100に強固に固定される。
【0049】
インナオイルパン120の周壁部122においてオイル受け部150が形成される部分には、サーモバルブ160が設けられている。周壁部122には、周壁部122を貫通する連通孔161が形成されており、この連通孔161にサーモバルブ160が設けられている。言い換えると、連通孔161は、インナオイルパン120の側面に形成されている。サーモバルブ160は、本実施形態では、弁部162と、サーモスタット163とを備えている。
【0050】
弁部162は、連通孔161を塞いでいる。弁部162が閉じている状態では、連通孔161は、液密に塞がれており、それゆえ、第2のオイル貯留室132内に溜まったオイルOが連通孔161を通って第1のオイル貯留室131の内側に流入することはない。
【0051】
サーモスタット163は、弁部162の一端部に一体に設けられている。サーモスタット163は、第1のオイル貯留室131内に露出している。サーモスタット163は、温度に応じて弁部162を開閉する。サーモスタット163は、本実施形態では、例えば、ワックス式である。サーモスタット163内には、ワックスが収容されている。ワックスは、上記所定温度以上になると溶融し、所定温度未満では固まる性質を有している。弁部162の一部は、サーモスタット163内つまりワックス内に移動可能に収容されている。
【0052】
サーモスタット163内のワックスが溶融することによって、ワックスの体積が増大し、それゆえ、弁部162は、サーモスタット163内から押し出されて連通孔161を開く方向に移動する。このことによって、連通孔161が開き、それゆえ、第2のオイル貯留室132内のオイルが連通孔161を通って第1のオイル貯留室131内に流入する。
【0053】
このように、サーモスタット163の温度が所定温度以上になると、サーモスタット163は、駆動して連通孔161を開く。サーモスタット163の温度が所定温度未満であると、ワックスが固まっている状態であるのでサーモスタット163は駆動せず、それゆえ、弁部162が連通孔161を閉じた状態が維持される。
【0054】
上記のように、サーモバルブ160の感温部であるサーモスタット163は、オイル受け部150の下方に位置している。このため、オイル受け部150上に落ちたオイルOは、オイル受け部150上を流れて第1のオイル貯留室131内に流れ落ちる過程でサーモスタット163つまりサーモバルブ160に触れる。
【0055】
第1のオイル貯留室131内には、第1のオイル貯留室131内のオイルOをオイルポンプ90に導くオイルスクリーン170が設けられている。オイルスクリーン170は、インナオイルパン120の底壁部121に対向する吸込部171と、吸込部171内とオイルポンプ90とを連通するパイプ部172とを備えている。
【0056】
吸込部171は、オイルO中の大きなダストなどを取り除く金網が収容されている。底壁部121に対向する吸入口173を有している。
図3に示すように吸込部171は、平面形状が円であり、パイプ部172の断面よりも大きい形状である。吸入口173は、吸込部171の平面形状と略同じ大きさを有している。このため、吸込部171の吸入口173は、パイプ部172の断面よりも大きい。これは、第1のオイル貯留室131内の底に溜まったオイルOを効率よくオイルポンプ90に導くためである。
【0057】
上記したように、オイルポンプ90は、シリンダブロック20においてクランクシャフト30の軸線Xに沿って一端側に設けられている。サーモバルブ160は、インナオイルパン120の周壁部122において軸線Xに沿ってオイルポンプ90と反対側に設けられている。つまり、パイプ部172は、オイル受け部150に対して反対側に配置されている。このため、パイプ部172は、上下方向Aにサーモバルブ160と重ならない。
【0058】
つぎに、内燃機関10内のオイルOの流れを説明する。
図1に示すように、オイルポンプ90によって吸い込まれた第1のオイル貯留室131内のオイルOは、オイルギャラリ110内に吐出される。まず、シリンダ部22内に形成されるオイルギャラリ110内を流れるオイルOの一部は、油穴111を通して外部に流れ出る。流れ出たオイルOは、クランクジャーナル31とジャーナル受け部24との間を潤滑する。
【0059】
クランクジャーナル31とジャーナル受け部24との間を潤滑したオイルOは、クランクシャフト30の回転によって、周囲に飛散する。
図1に示すように、周囲に飛散したオイルOは、クランクケース23の内壁面23aに付着するとともに、内壁面23aを伝って落ちる。
【0060】
クランクケース23の内壁面23aは、オイルパン100の内壁面103と連続している。このため、クランクケース23の内壁面23aを伝って下方に流れ落ちるオイルOは、オイルパン100の内壁面103を伝ってオイルパン100とインナオイルパン120との間の第2のオイル貯留室132内に落ちて溜まる。
【0061】
内燃機関10が駆動した直後であると、第1のオイル貯留室131内のオイルOの温度は、周囲の温度、つまり大気の温度と略同じであり、温度が低い状態である。また、内燃機関10は、駆動した直後であると、温度が低い。このため、クランクシャフト30のクランクジャーナル31とジャーナル受け部24との間から流れ出てクランクケース23の内壁面23aに付着して内壁面23aを伝って流れ落ちるオイルOは、温度が低い状態のままである。
【0062】
クランクケース23の内壁面23aを伝って落下したオイルOの一部は、ブラケット140に付着する。
図5に示すように、ブラケット140は、インナオイルパン120の周壁部122の上端縁123よりも下方に位置している。このため、クランクケース23の内壁面23aを伝って落ちる温度の低いオイルOは、ブラケット140上におちても、ブラケット140を伝って第1のオイル貯留室131内に入り込むことはない。
【0063】
シリンダヘッド40内に形成されるオイルギャラリ110を流れるオイルOは、シリンダヘッド40に形成されるオイル落とし112と、シリンダ部22に形成されるオイル落とし113とを通って落ちる。シリンダ部22に形成されるオイル落とし113の下端の開口114は、全て、クランクケース23の内壁面23aよりも内側に位置している。このため、開口114を通って落下するオイルOは、クランクケース23の内壁面23aを伝うことなく、第1のオイル貯留室131内に落ちる。
【0064】
開口114を通って落下するオイルOは、シリンダヘッド40の燃焼室41によって昇温されて昇温されている。このため、内燃機関10の駆動直後であっても、第1のオイル貯留室131に戻るオイルOの温度は、高い。
【0065】
また、オイル落とし113を通して落下するオイルOの一部は、オイル受け部150上に落ちる。オイル受け部150上に落ちたオイルOは、オイル受け部150を伝って第1のオイル貯留室131内に流れ落ちる。このとき、オイル受け部150を伝って第1のオイル貯留室131内に流れ落ちる温度の高いオイルOは、その流れる過程でサーモバルブ160に付着する。このため、サーモスタット163は、内燃機関10の駆動直後であっても早期に昇温される。
【0066】
オイルポンプ90によって吸い上げられた第1のオイル貯留室131内のオイルOは、伝達機構70にも供給されて伝達機構70を潤滑する。伝達機構70は、クランクシャフト30の回転をカムシャフト50に伝達するべく、タイミングチェーン73がクランクシャフトタイミングスプロケット71とカムシャフトタイミングスプロケット72とに回しかけられている。このため、クランクシャフトタイミングスプロケット71とタイミングチェーン73との摩擦、および、カムシャフトタイミングスプロケット72とタイミングチェーン73との摩擦とにより、伝達機構70の温度は、内燃機関10の駆動開始直後から早期に昇温される。このため、伝達機構70に供給されるオイルOは、伝達機構70を潤滑することによって、早期に昇温される。
【0067】
ここで、インナオイルパン120の周壁部122において、伝達機構70側の部分について、具体的に説明する。インナオイルパン120の周壁部122において伝達機構70側の部分は、言い換えると、インナオイルパン120の周壁部122においてクランクシャフト30の軸線Xに沿って一端側の部分である。
【0068】
図2に示すように、インナオイルパン120の周壁部122においてクランクシャフト30の軸線Xに沿って一端側の部分の上端縁123は、上下方向Aに伝達機構70のタイミングチェーン73よりもオイルパン100の周壁部102の内壁面103側に位置している。タイミングチェーン73は、無端索条の一例である。
【0069】
ここで、周壁部122の上端縁123が、タイミングチェーン73(無端索条)よりもオイルパン100の周壁部102の内壁面103側にあるということについて、説明する。上記したように、オイルパン100の上端縁は、シリンダブロック20のクランクケース23とチェーンケース80との下端に連結される。このため、周壁部122において伝達機構70が収容される収容空間Sと重なる部分は、伝達機構70よりもクランクシャフト30の軸線Xに沿って外側に位置することになる。
【0070】
周壁部122の上端縁123が、タイミングチェーン73(無端索条)よりもオイルパン100の周壁部102の内壁面103側にあるということは、本実施形態では、クランクシャフト30の軸線Xに沿って、一端側から他端側に向かって、言い換えると伝達機構側の一端から他端に向かって、オイルパン100の周壁部102の内壁面103、周壁部122の上端縁123、タイミングチェーン73の順番で並んでいることを示す。
【0071】
このため、伝達機構70を潤滑した後落下するオイルOは、第1のオイル貯留室131内に落下する。上記したように、伝達機構70を潤滑した後のオイルOは、伝達機構70によって昇温されており、内燃機関10の駆動直後であっても温度が高くなっている。
【0072】
上記のように、オイルOにおいて内燃機関10内を潤滑した後温度が高くなったオイルOは第1のオイル貯留室131内に戻り、クランクシャフト30を潤滑したのみで温度が低いままのオイルOは第2のオイル貯留室132内に戻る。このため、内燃機関10の駆動直後であっても、第1のオイル貯留室131内に溜まるオイルOの温度は、早期に昇温される。さらに、早期に昇温されたオイルOが内燃機関10の潤滑すべき被潤滑部材に供給されることによって、内燃機関10の暖機が一層促進される。
【0073】
また、オイル受け部150を伝って流れる温度の高いオイルOによってサーモスタット163が早期に昇温されるので、サーモスタット163の温度が弁部162を開く温度である所定温度に早期にいたる。
【0074】
このため、第2のオイル貯留室132内に溜まった、第1のオイル貯留室131内のオイルOに比べて低い温度のオイルOが、第1のオイル貯留室131内に入り込むことによって、オイルO全体の温度が早期に昇温されるようになる。
【0075】
また、インナオイルパン120は、ブラケット140によってオイルパン100に連結されているので、インナオイルパン120は、オイルパン100に対して強固に固定されるようになる。
【0076】
さらに、ブラケット140は、インナオイルパン120の周壁部122の上端縁123よりも下方に位置しているので、クランクケース23の内壁面23aを伝って落ちる温度の低いオイルOがブラケット140上に落ちても、この温度の低いオイルOが第1のオイル貯留室131内に流入することがないので、第1のオイル貯留室131内のオイルOの昇温が妨げられることが抑制される。
【0077】
また、インナオイルパン120の周壁部122においてタイミングチェーン73側の部分が、タイミングチェーン73よりもオイルパン100の周壁部102の内壁面103側に位置している。このことによって、伝達機構70によって昇温されたオイルOを第1のオイル貯留室131内に導くことができ、それゆえ、内燃機関10の暖機を一層促進することができる。
【0078】
また、サーモバルブ160がオイル受け部150の下方に設けられることによって、サーモスタット163もオイル受け部150の下方に設けられることになる。オイル受け部150は、比較的広い面積を有しおり、それゆえ、オイル受け部150上に落ちる温度の高いオイルOの量が多い。このため、サーモバルブ160は、温度の高いオイルOが触れることによって早期に昇温される。
【0079】
また、オイルスクリーン170のパイプ部172は、上下方向Aにサーモバルブ160に重ならない。このため、パイプ部172は、第1のオイル貯留室131内に落下する温度の高いオイルOがサーモバルブ160に接触することを妨害することがない。つまり、サーモバルブ160の温度の早期昇温が促進される。
【0080】
本実施形態では、オイルパン100と、インナオイルパン120と、オイルポンプ90と、オイルスクリーン170と、ブラケット140と、サーモバルブ160とは、オイルOを各被潤滑部材に供給する潤滑装置180の一例を構成している。
【0081】
本実施形態では、オイルOは、内燃機関の被潤滑部材を潤滑する潤滑液の一例である。クランクジャーナル31や伝達機構70は、被潤滑部材の一例である。オイルパン100は、潤滑液を貯留する潤滑液貯留部の一例である。
【0082】
第2のオイル貯留室132は、第1の潤滑液貯留室の一例であり、第1のオイル貯留室131は、第2の潤滑液貯留室の一例である。インナオイルパン120の周壁部122は、オイルパン100内を第1の潤滑液貯留室と第2の潤滑液貯留室とに区画する区画壁の一例である。なお、本実施形態では、第1,2の潤滑液貯留室131,132を区画するために、インナオイルパン120を用いたが、例えば、インナオイルパン120ではなく、オイルパン100の底壁部101から立ち上がる縦壁部によって、第1,2の潤滑液貯留室が区画されてもよい。
【0083】
オイルポンプ90は、潤滑液貯留部内の潤滑液を被潤滑部材に供給するポンプの一例である。サーモバルブ160は、第1の潤滑液貯留室と第2の潤滑液貯留室との連通状態と非連通状態とを切り替える連通状態切り替え手段の一例である。
【0084】
タイミングチェーン73は、クランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達するための無端索条の一例である。無端索条の他の例としては、例えば、タイミングベルトであってもよい。
【0085】
連通孔161は、区画壁に設けられ、第1の潤滑液貯留室と、第2の潤滑液貯留室とを連通する連通路の一例である。パイプ部172は、吸入口とポンプとに連通する連通管の一例である。
【0086】
この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
内燃機関のシリンダブロックの下方に設けられ、前記内燃機関の被潤滑部材を潤滑するための潤滑液を貯留する潤滑液貯留部と、
前記潤滑液貯留部を、上方が開放されている第1の潤滑液貯留室と、前記第1の潤滑液貯留室を囲み、かつ、上方が開放されている第2の潤滑液貯留室とに区画する区画壁と、
前記潤滑液貯留部内の前記潤滑液を前記被潤滑部材に供給するポンプと、
前記ポンプに接続され、前記第1の潤滑液貯留室内の潤滑液を吸いだす吸入口と、
前記区画壁に設けられ、前記第1の潤滑液貯留室と、前記第2の潤滑液貯留室とを連通する連通路と、
前記連通路に設けられ、前記第1の潤滑液貯留室と前記第2の潤滑液貯留室との連通状態と非連通状態とを切り替える連通状態切替手段と
を具備し、
前記潤滑液貯留部の外壁部の内壁面は、前記シリンダブロックのクランクケースの内壁面と連続しており、
前記区画壁の上端縁は、前記潤滑液貯留部の内壁面および前記クランクケースの内壁面から離隔している
ことを特徴とする潤滑装置。
[2]
前記区画壁と前記潤滑液貯留部の内壁面とを連結するブラケットを備え、
前記ブラケットは、前記区画壁の上端縁よりも下方に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の潤滑装置。
[3]
前記内燃機関は、前記シリンダブロックの側面にクランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達するための無端索条を備えており、
前記無端索条側に位置する前記区画壁の上端縁は、前記クランクシャフトの軸方向において、前記無端索条よりも前記潤滑液貯溜部の外壁側に位置している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑装置。
[4]
前記連通路は、前記区画壁の側面に設けられ、
前記連通状態切替手段は、前記連通路を開閉する弁部と、前記潤滑液の温度に応じて前記弁部を駆動するサーモスタットとを備え、
前記区画壁の上端縁の少なくとも一部には、前記第2の潤滑液貯留室側に延出する潤滑液受け部が形成され、
前記サーモスタットは、前記第1の潤滑液貯溜室内で、かつ、前記潤滑液受け部の下方に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の潤滑装置。
[5]
前記吸入口と前記ポンプとに連通する連通管を備え、
前記連通管は、前記潤滑液受け部と反対側に配置される
ことを特徴とする請求項4に記載の潤滑装置。