(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物および樹脂成形体ついて詳細に説明する。
【0015】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、高分子鎖の末端に少なくともカルボキシル基を有する脂肪族ポリエステルの該カルボキシル基、および分子構造中に少なくとも水酸基を有するリグノフェノール誘導体の該水酸基、が反応して形成される架橋構造を有する架橋高分子化合物と、ガラス繊維と、縮合リン酸エステルと、を含有する。
【0016】
脂肪族ポリエステルについてUL−94に適合したV燃焼テストを実施すると、激しいドリップ(溶融時に滴下すること)が発生し、難燃性はV−Notレベルの評価となり、つまり難燃性が得られない。この脂肪族ポリエステルに対し難燃剤としてリン化合物を加えると、リン化合物の種類や添加量にもよるものの、消炎効果とドリップ加速効果で難燃はV−2レベルにまで向上する。しかし、上記の通りドリップが加速するため、脂肪族ポリエステルを用いた場合にV−0レベルの優れた難燃性を達成することは困難であった。
また脂肪族ポリエステルに対し、機械強度や耐熱性を向上させる観点でガラス繊維を添加することがあるが、この場合ガラス繊維を芯として炎が伝わるろうそく効果が生じるため、燃焼が加速されてしまうことがあった。
【0017】
これに対し、本実施形態に係る樹脂組成物では、脂肪族ポリエステルにおける高分子鎖の末端のカルボキシル基およびリグノフェノール誘導体の水酸基が反応して形成される架橋高分子化合物と、ガラス繊維と、縮合リン酸エステルと、を組合せて用いることにより、非常に優れた難燃性が実現される。
この効果が奏される理由は定かではないが、以下のように考えられる。まず、脂肪族ポリエステルの高分子鎖の末端にあるカルボキシル基や水酸基に、リグノフェノール誘導体中に存在する水酸基やカルボキシル基、その他官能基が反応し、脂肪族ポリエステルの架橋構造が形成される。難燃剤である縮合リン酸エステルは、その一部がリグノフェノール誘導体の官能基に配位され、またその他にも架橋高分子化合物の架橋構造中の自由体積に分散されることにより、極めて高い分散性が得られるものと推察される。これにより脂肪族ポリエステルのドリップ効果が抑制され、消炎効果が加速される。
また、ガラス繊維については、消炎効果があるレベルに満たない場合には、前述の通りろうそく効果によって難燃性を悪化させることがあるが、上記の通り縮合リン酸エステルの分散による消炎効果の向上により、ガラス繊維を伝うよりも早く炎が消されるため、ろうそく効果も抑制されるものと考えられる。更に、ガラス繊維は樹脂組成物の骨組みの役割を果たし、脂肪族ポリエステルによるドリップを抑制する効果が得られ、以上の理由から非常に優れた難燃性が達成されるものと推察される。
【0018】
(架橋高分子化合物)
−リグノフェノール誘導体−
次いで、本実施形態に用いられるリグノフェノール誘導体について説明する。
リグノフェノール誘導体は、脂肪族ポリエステルにおけるカルボキシル基と架橋反応するための水酸基を分子構造中に少なくとも有する。リグノフェノール誘導体は重合体であり、該重合体中には複数の水酸基を有する。
尚、特に限定されるものではないが、本実施形態に用いられるリグノフェノール誘導体は、下記一般式(1)で表される構造を有していることが好ましい。
【0020】
上記一般式(1)中、X
1、X
2およびX
3は、各々独立に置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアリーレン基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはアミド基を表す。
尚、X
1、X
2およびX
3がそれぞれ置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリール基または置換アリーレン基である場合の置換基としては、水酸基、カルボン酸基、カルボン酸誘導体基、アルキル基、アルコキシ基などが挙げられる。
【0021】
また、上記一般式(1)中、aおよびcは各々独立に0以上3以下の整数を示し、bは0以上4以下の整数を示し、nは5
以上20以下の整数を示す。
【0022】
上記一般式(1)で表されるリグノフェノール誘導体のより好ましい例としては、下記一般式(2)乃至一般式(4)で表されるリグノフェノール誘導体が挙げられる。
【0024】
(一般式(2)中、nは5以上20以下の整数を示す。)
【0026】
(一般式(3)中、nは5以上20以下の整数を示す。)
【0028】
(一般式(4)中、nは5以上20以下の整数を示す。)
【0029】
上記一般式(1)で表されるリグノフェノール誘導体は、単一構造であってもよく、あるいは構造が異なる2種以上の混合物であってもよい。なお、一般式(1)で表されるリグノフェノール誘導体は重合体混合物であり、一般式(1)中のnは重合体混合物全体についてのnの平均値を意味する。
【0030】
尚、本実施形態に用いられるリグノフェノール誘導体は、その重量平均分子量(Mw)が3000以上6000以下が好ましく、更には3500以上5000以下がより好ましい。
また、分子量分布(Mw/Mn)は3以上10以下が好ましく、更には5以上8以下がより好ましい。更に溶融温度は、150℃以上180℃以下のものが好ましい。
【0031】
尚、重量平均分子量の測定は、ゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)により測定される。GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー社製、HLC−8320GPCを用い、東ソー製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行われる。重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作製した分子量校正曲線を使用して算出される。
【0032】
−リグノフェノール誘導体の合成方法−
本実施形態に係るリグノフェノール誘導体の合成方法としては、例えば、ヒノキやスギ等の植物資源に含まれるリグニンをリグノフェノール誘導体に変換分離して取り出し、この末端を水添加による水酸基化および天然ケトンを用いた酸化反応によるカルボキシル化する方法が挙げられる。かかる製造方法により得られるリグノフェノール誘導体の構造は、針葉樹、広葉樹などの植物資源の相違によって異なる場合があるが、特性上問題はない。
【0033】
尚、リグノフェノール誘導体の合成方法の一例を挙げると、まず植物資源に含まれるリグニンをリグノフェノール誘導体に変換したものを沈殿物として分離した後、回収した沈殿物に水洗を行い、次いで、水洗後の沈殿物をアセトンに溶解し、ジエチルエーテル層に滴下し、再沈殿させることで、リグノフェノール誘導体が得られる。
尚、この溶解と再沈殿との工程の繰返しの回数を調整することで、リグノフェノール誘導体における重量平均分子量や分子量分布(Mw/Mn)が調整される。
【0034】
本実施形態に用いられるリグノフェノール誘導体が上記一般式(1)で表される構造単位と他の構造単位とを有する場合、他の構造単位としては、脂肪族ポリエステル構造などのポリエステル構造、ポリカーボネート構造、芳香族ポリエステル構造、ポリアミド構造、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン構造、ポリスチレン構造、ポリアクリレート構造、ポリブタジエン構造、あるいはそれらの共重合体構造などが挙げられ、中でも脂肪族ポリエステル構造が好ましい。この場合、重合体はブロック共重合体またはランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0035】
本実施形態に用いられるリグノフェノール誘導体において、全構造単位に占める上記一般式(1)で表される構造単位の割合は、5mol%以上100mol%以下であることが好ましく、10mol%以上100mol%以下であることがより好ましい。
【0036】
−脂肪族ポリエステル−
次いで、本実施形態に用いられる脂肪族ポリエステルについて説明する。
脂肪族ポリエステルとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ヒドロキシカルボン酸重合体、脂肪族ジオールと脂肪族カルボン酸との重縮合体等が挙げられる。尚、高分子鎖の末端(主鎖の末端)は、両端ともがカルボキシル基であってもよいし、片末端のみがカルボキシル基でもう一方の末端が他の基(例えば水酸基)であってもよい。但し、両末端がカルボキシル基であることがより好ましい。
【0037】
脂肪族ポリエステルとして具体的には、例えば、ポリ乳酸、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシヘキサネート、ポリヒドロキシバリレートおよびそれらの共重合体など、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、およびこれら2種以上の共重合体等が挙げられる。
これら脂肪族ポリエステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0038】
脂肪族ポリエステルは、例えば、単一の連続体(例えば、ポリヒドロキシブチレート)でもよいし、ポリ乳酸のL体とD体のごとき光学異性体が混在していてもよく、また、それらが共重合していてもよい。
【0039】
これらの中でも、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、およびこれら2種以上の共重合体が望ましく、更にはポリ乳酸が望ましい。
【0040】
・ポリ乳酸
ポリ乳酸は、高分子鎖の末端(つまり主鎖の末端)に少なくともカルボキシル基を有していれば特に限定されるものではなく、L−体であっても、D−体であっても、その混合物(例えばポリ−L乳酸とポリ−D乳酸とを混合したステレオコンプレックスや、L−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの両者を構造中に含むポリ乳酸)であってもよい。
【0041】
脂肪族ポリエステルの一種としてのポリ乳酸は、下記構造式(1)に示す構造単位を有する樹脂である。
【0043】
・分子量
本実施形態に用いられる脂肪族ポリエステルとしては、あらゆる分子量のものが使用し得る。脂肪族ポリエステルの重量平均分子量としては3000以上200000以下が好ましく、更に5000以上150000以下がより好ましい。
【0044】
尚、重量平均分子量の測定は、ゲルパーミッションクロマトグラフ(GPC)により測定される。GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー社製、HLC−8320GPCを用い、東ソー製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行われる。重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作製した分子量校正曲線を使用して算出される。
【0045】
−架橋高分子化合物の合成−
本実施形態における架橋高分子化合物は、上記脂肪族ポリエステルとリグノフェノール誘導体とを混合し、この混合物を溶融混練することにより架橋重合が行われ、架橋高分子化合物として得られる。
尚、混合や溶融混練の手段としては公知の手段が用いられ、例えば、二軸押出し機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0046】
また、脂肪族ポリエステルとリグノフェノール誘導体とを架橋重合する際には、架橋触媒を添加してもよい。
本実施形態において用いられる架橋触媒としては、例えば、テトラブトキシチタン酸、酸化ゲルマニウム、オクチル酸スズ、酸化マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸マンガン、酢酸コバルト等が挙げられる。
架橋触媒の添加量としては、脂肪族ポリエステルとリグノフェノール誘導体との合計量に対して1×10
−4質量%以上1質量%以下が望ましく、1×10
−3質量%以上0.5質量%以下がより望ましい。
【0047】
・脂肪族ポリエステルとリグノフェノール誘導体との比
本実施形態に係る架橋高分子化合物中における、脂肪族ポリエステルに由来する構成成分の含有量(E)とリグノフェノール誘導体に由来する構成成分の含有量(L)との質量比(L/E×100)は、架橋重合に用いられる脂肪族ポリエステルとリグノフェノール誘導体との量によって調整される。尚、重縮合で結合した部分については、カルボン酸酸素原子までを脂肪族ポリエステル構造に含み計算する。
【0048】
上記質量比(L/E×100)としては、0.1質量%以上1質量%以下であることが好ましく、更には0.2質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
0.1質量%以上であることにより、架橋によるドリップ防止と難燃性向上の効果、更には機械強度向上の効果も奏される。一方1質量%以下であることにより、架橋が過度となり過ぎず硬く脆い性質となってしまうことが抑制され、優れた機械強度が得られる。
【0049】
尚、本実施形態に係る架橋高分子化合物や、該架橋高分子化合物を用いて形成された樹脂成形体から、前記質量比(L/N×100)を算出するには、以下の方法が用いられる。プロトン核磁気共鳴(
1H−NMR)スペクトルの測定にて、脂肪族ポリエステル由来のプロトン量とリグノフェノール誘導体由来のベンゼン環直結プロトン量とをそれぞれ求め、求められた値から質量比(L/N×100)を計算する。
【0050】
(難燃剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、難燃剤として、少なくとも縮合リン酸エステルを含有する。
【0051】
・縮合リン酸エステル
縮合リン酸エステルとしては、例えば、ビスフェノールA型、ビフェニレン型、イソフタル型などの芳香族縮合リン酸エステルが挙げられ、具体的には、例えば、下記一般式(I)または一般式(II)で表される縮合リン酸エステルが挙げられる。
【0053】
一般式(I)中、Q
1、Q
2、Q
3およびQ
4はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、Q
5、Q
6、Q
7およびQ
8はそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、m1、m2、m3およびm4はそれぞれ独立に、0以上3以下の整数を示し、m5およびm6はそれぞれ独立に、0以上2以下の整数を表し、n1は、0以上10以下の整数を表す。
【0055】
一般式(II)中、Q
9、Q
10、Q
11およびQ
12はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、Q
13は、水素原子またはメチル基を表し、m7、m8、m9およびm10はそれぞれ独立に、0以上3以下の整数を表し、m11は0以上4以下の整数を表し、n2は、0以上10以下の整数を表す。
【0056】
縮合リン酸エステルは合成品でも市販品でもよい。縮合リン酸エステルの市販品として、具体的には、例えば、大八化学社製の市販品(「PX200」、「PX201」、「PX202」、「CR741」等)、アデカ社製の市販品(「アデカスタブFP2100」、「FP2200」等)等が挙げられる。
【0057】
これらの中でも、縮合リン酸エステルとしては、下記構造式(1)で示される化合物(例えば大八化学社製「PX200」)、および下記構造式(2)で示される化合物(例えば大八化学社製「CR741」)から選択される少なくとも1種であることがよい。
【0059】
縮合リン酸エステルの含有量は、樹脂組成物全量を基準として、5質量%以上30質量%以下が好ましく、10質量%以上15質量%以下がより好ましい。
また、前記リグノフェノール誘導体1質量部に対し、縮合リン酸エステルの含有量が20質量部以上300質量部以下であることが好ましく、更には220質量部以上280質量部以下であることがより好ましい。
【0060】
・水酸化アルミニウム
また、本実施形態においては、更に難燃剤として水酸化アルミニウムを併用することが好ましい。水酸化アルミニウムを併用することで、更に優れた難燃性が達成される。
この効果が奏される理由は定かではないが、以下のように考えられる。炎が近づき温度が上昇すると、水酸化アルミニウムが脂肪族ポリエステルを解重合し、そのため脂肪族ポリエステル架橋体の熱分解温度が低下する。このことにより縮合リン酸エステルの熱分解温度と脂肪族ポリエステル架橋体の熱分解温度が同じ領域になることで、更に優れた難燃性が得られるものと考えられる。
【0061】
縮合リン酸エステルに併用して添加される水酸化アルミニウムの含有量は、樹脂組成物全量を基準として、5質量%以上30質量%以下が好ましく、7質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0062】
・他の難燃剤
また、その他の難燃剤を併用してもよい。該難燃剤としては、臭素系難燃剤、窒素系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機粒子系難燃剤などが挙げられる。難燃剤の好ましい例としては、硫酸メラミンなどの窒素系難燃剤、リン酸エステル系、縮合リン酸エステル系、リン重合ポリエステル系などのリン系難燃剤、シリコーンパウダー、シリコーン樹脂などのシリコーン系難燃剤、水酸化マグネシウムなどの無機粒子系難燃剤などが挙げられる。
【0063】
上記その他の難燃剤の含有量としては、縮合リン酸エステルに対して、0質量%以上10質量%以下が好ましく、0質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0064】
(ガラス繊維)
ガラス繊維としては、特に限定されることなく公知のものが適用される。
ガラス繊維の繊維長として0.1mm以上6mm以下のものが好ましく、更には0.5mm以上4mm以下がより好ましい。
また、繊維径としては5μm以上20μm以下のものが好ましく、更には7μm以上15μm以下がより好ましい。
更にアスペクト比としては、10以上300以下のものが好ましく、20以上200以下がより好ましい。
【0065】
尚、ガラス繊維の繊維長、繊維径、アスペクト比は、針状粒子計測装置(ニレコ社製)を用いて画像解析を行うことにより測定される。
【0066】
ガラス繊維は、脂肪族ポリエステルとの接着性の観点から、表面処理を施されたものがより好ましい。表面処理材としては、例えばシラン系のものや低分子量のポリ乳酸などが挙げられる。
【0067】
ガラス繊維は、市販品のものを用いてもよく、たとえば日東紡社のPF−E−301−S#5、PF−E−001−S#5、PF−E−001−S、CS3J−332−S、セントラル硝子社のECS03−615、ESC03−631K、ECS03−168、ECS03−650、ECS03−350等が挙げられる。
【0068】
ガラス繊維の含有量としては、前記リグノフェノール誘導体1質量部に対して、30質量部以上200質量部以下が好ましく、更には40質量%150質量%以下が好ましく、50質量%以上100質量%以下がより好ましい。
【0069】
(その他の添加剤)
また、脂肪族ポリエステル以外の他の樹脂を用いてもよい。
該樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、液晶樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリパラバン酸樹脂、芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、およびシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂、ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂、シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
これら樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0070】
更に他の添加剤を添加してもよく、例えば、酸化防止剤、強化剤、相溶化剤、耐候剤、強化剤、加水分解防止剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、樹脂組成物全量を基準としてそれぞれ5質量%以下であることが好ましい。
【0071】
[成形体]
本実施形態に係る樹脂成形体は、前述の架橋高分子化合物と、ガラス繊維と、縮合リン酸エステルと、を含んで構成されている。
具体的に本実施形態に係る成形体は、例えば、本実施形態に係る樹脂組成物を成形機により成形することにより得られる。なお、成形機による成形方法は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などが挙げられる。
【0072】
ここで、上記射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
この際、シリンダ温度としては、170℃以上280℃以下とすることが望ましく、180℃以上270℃以下とすることがより望ましい。また、金型温度としては、40℃以上110℃以下とすることが望ましく、50℃以上110℃以下とすることがより望ましい。
【0073】
本実施形態に係る成形体は、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの用途に好適に用いられる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、電子・電気機器の部品に好適である。
【0074】
図1は、本実施形態に係る成形体を備える電子・電気機器の部品の一例である画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。
図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作するよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりする。
図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0075】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、および、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を搬送する自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置、および制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0076】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーが補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0077】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙供給部136が備えられており、ここからも用紙が供給される。
【0078】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙供給部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0079】
画像形成装置100において、例えば、フロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、および筐体152に、本実施形態に係る成形体が用いられている。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。尚、以下において「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0081】
<リグノフェノール誘導体の製造>
(リグノフェノール誘導体A)
20L攪拌釜にて、ひのきの木粉1kgをアセトン10Lで洗浄し、濾過後、洗浄済木粉を真空乾燥機にて60℃/20Paの条件下で4時間乾燥した。この木粉を20L攪拌釜に入れ、5Lのクレゾールに溶解し、更に72%濃硫酸を5L加え、温度が上昇しないよう冷却しながら5時間攪拌した。クレゾール層だけを抜き取り、500mlまで濃縮させ、これに1Lのジエチルエーテルを加えて攪拌した後、分散している固形分を濾過した。これを5Lのアセトンに溶解し、200mlまで濃縮し、5Lの蒸留水に滴下して不溶分を吸引濾過し、再び「アセトンへの溶解−濃縮−蒸留水中への滴下」の工程を5回繰り返した。こうしてリグノフェノール誘導体Aを得た。
【0082】
(リグノフェノール誘導体B)
「アセトンへの溶解−濃縮−蒸留水中への滴下」の工程を10回繰り返した以外は、リグノフェノール誘導体Aにおける製造方法によって、リグノフェノール誘導体Bを得た。
【0083】
(リグノフェノール誘導体C)
「アセトンへの溶解−濃縮−蒸留水中への滴下」の工程を2回繰り返した以外は、リグノフェノール誘導体Aにおける製造方法によって、リグノフェノール誘導体Cを得た。
【0084】
(リグノフェノール誘導体D)
「アセトンへの溶解−濃縮−蒸留水中への滴下」の工程を30回繰り返した以外は、リグノフェノール誘導体Aにおける製造方法によって、リグノフェノール誘導体Dを得た。
【0085】
(リグノフェノール誘導体E)
原料として、ひのきの木粉の代わりにスギの木粉を用いた以外は、リグノフェノール誘導体Aにおける製造方法によって、リグノフェノール誘導体Eを得た。
【0086】
(リグノフェノール誘導体F)
原料として、ひのきの木粉の代わりにスギの木粉を用いた以外は、リグノフェノール誘導体Bにおける製造方法によって、リグノフェノール誘導体Fを得た。
それぞれのリグノフェノール誘導体の分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を下記表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
[実施例1〜32および比較例1〜6]
<樹脂組成物の作製>
リグノフェノール誘導体、脂肪族ポリエステル、ガラス繊維、縮合リン酸エステルおよび縮合リン酸エステル以外の難燃剤を、下記表2および表3に示す量で準備した。これらの内、ガラス繊維以外、つまりリグノフェノール誘導体、脂肪族ポリエステル、縮合リン酸エステルおよび縮合リン酸エステル以外の難燃剤を混合したものをメインホッパーから、ガラス繊維をサイドフィードホッパーから供給する方法で、2軸押し出し装置(東芝機械製。TEM3000)にて、表2および表3に示す混練温度で混練し、冷却、ペレタイズしてペレット状の樹脂組成物(樹脂ペレット)を得た。
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
尚、上記表2および表3にて用いた各成分は、下記の通りである。
−脂肪族ポリエステル−
・脂肪族ポリエステルJ:ポリ乳酸(ユニチカ社/テラマックTE2000)/重量平均分子量12万
・脂肪族ポリエステルK:ポリ乳酸(三井化学社/レイシアH100)/重量平均分子量6万
・脂肪族ポリエステルL:ポリヒドロキシ−3−ブチレート(モンサント社/バイオポール#30)/重量平均分子量20万
・脂肪族ポリエステルM:ポリブチレンサクシネート(昭和高分子社/ビオノーレ3000)/重量平均分子量4万5千
−ガラス繊維−
・ガラス繊維N:日東紡社PF−E−301−S#5(径10μm/長さ0.5mm、アスペクト比50、シラン処理)
・ガラス繊維O:日東紡社PF−E−001−S#5(径10μm/長さ0.5mm、アスペクト比50、無処理)
・ガラス繊維P:ガラス繊維Oを、低分子量ポリ乳酸(東洋紡社/バイオエコロール)を溶解させた酢酸エチル溶液に浸漬して処理
・ガラス繊維Q:日東紡社PF−E−001−S(径10μm/長さ0.1mm、アスペクト比10、シラン処理)
・ガラス繊維R:日東紡CS3J−332−S(径11μm/長さ3mm、アスペクト比273、シラン処理)
・ガラス繊維S:日東紡社サンプル(径5μm/長さ0.5mm、アスペクト比100、シラン処理)
・ガラス繊維T:日東紡社サンプル(径20μm/長さ160μm、アスペクト比8、シラン処理)
・ガラス繊維U:日東紡社サンプル(径19μm/長さ6m、アスペクト比316、シラン処理)
−難燃剤−
・縮合リン酸エステルV:大八化学工業社/PX200
・縮合リン酸エステルW:ADEKA社/FP2200
・酸化アルミニウムX:和光純薬社/試薬:酸化アルミニウム
・水酸化アルミニウムY:日本軽金属社/B103T
・水酸化マグネシウムZ1:神島化学工業/マグシーズN−4
・硫酸メラミンZ2:三和ケミカル/アピノン−901
【0092】
<樹脂成形体の作製>
前記樹脂ペレットを、射出成形機(日精樹脂工業製、NEX150)を用い、表2および表3に示す成形シリンダ温度、金型温度で、ISO多目的ダンベル試験片(試験部長さ100mm、幅10mm、厚み4mm)、およびUL試験片(長さ125mm、幅13mm、厚み0.5mm、1.6mm)を作製した。
【0093】
〔評価試験〕
−機械強度−
前記ISO多目的ダンベル試験片を加工し、耐衝撃試験装置(東洋精機製、DG−5)にて、ISO179−1に従ってノッチ付シャルピー衝撃強度を、またISO178に従って曲げ破断歪を測定した。
【0094】
−UL−Vテスト−
UL−94におけるVテスト用UL試験片(厚さ0.5mmおよび1.6mm)を用い、UL−94の方法でUL−Vテストを実施した。UL−Vテストの基準は以下のとおりである。
V−0 : 最も難燃性が高い
V−1 : V−0に次いで難燃性が高い
V−2 : V−1に次いで難燃性が高い
V−Not: V−2よりも難燃性に劣る
【0095】
また、以下の方法により難燃性5Vの試験を行った。
5V試験用試験片(厚さ0.5mm、長さ×幅=200×200mm)を射出成形で成形し、5V試験用試験片を水平に保持し、炎を下方から5秒間接炎することを5回行い、その燃焼挙動により以下の通り判定を行った。
5VB :5V試験用試験片からの滴下物による着火が見られない
5V未達:5V試験用試験片からの滴下物による着火が見られる
【0096】
以上の結果を表4および表5に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】