(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(B)成分が、水添ロジン(b1)、精製ロジン(b2)、不均化ロジン(b3)、不飽和カルボン酸変性ロジン(b4)およびロジンエステル(b5)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1のディップはんだ付用フラックス。
(C)成分が、臭素系脂肪族アルコール(c1)、非ハロゲン系脂肪族カルボン酸(c2)および非ハロゲン系芳香族カルボン酸(c3)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2のディップはんだ付用フラックス。
【背景技術】
【0002】
ディップはんだ付とは、プリント配線基板に接合する端子部品のはんだ付部位(電極)をはんだ浴に浸して行うはんだ付をいい(JIS Z 3001参照)、はんだ付部位には予めポストフラックスと呼ばれるフラックス組成物が塗布される。ポストフラックスは一般に、主成分であるロジン等のベース樹脂と有機ハロゲン等の活性剤をイソプロピルアルコールに溶解させた低不揮発分の希釈溶液として利用されている。
【0003】
ポストフラックスには、前記はんだ付部位の表面酸化皮膜を除去し、熔融はんだとの濡れ性(以下、単に「濡れ性」というときは、はんだ付部位(電極)に対する熔融はんだの濡れ性を意味する。)を確保するとともに、はんだ付後に微細なはんだボールができるだけ発生させないこと求められる。はんだボールが付着した端子部品をプリント配線板に接続すると、配線間の短絡等の問題が生じるためである。それゆえ、はんだボールが付着した場合にはブラッシングや洗浄等によって除去しなければならず、生産性の低下やコスト高を招く。
【0004】
濡れ性に優れたポストフラックスとしては例えば、疎水化シリカゲル微粉末をイソプロピルアルコールに溶解させ、かつロジン系ベース樹脂の含有量を10重量%以下に設定したものが知られているが(特許文献1を参照)、はんだボールについては何ら言及されていない。
【0005】
一方、はんだボールの問題は、ディップはんだ付のプロセス面より解消する方法が検討されており、例えば端子部品のはんだ付部位にポストフラックスを塗布した後、端子部品を水洗し、更にアルコールに浸漬してからディップはんだ付を行う方法が知られている(特許文献2を参照)。しかし、工程が煩雑であるため生産性の低下を免れ得ず、またフラックス成分がアルコールによって希釈されるため濡れ性も低下する等の問題が生じ得ることから、はんだボールの課題はフラックスの組成面から解決するのが実際には望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフラックスは、分子内に一般式(1):−(OR
1)−(式中、R
1はエチレン基、プロピレン基、およびイソプロピレン基から選ばれる1種を示す)で表わされる繰り返し単位構造を有し、かつ水酸基価が10〜600であるポリアルキレン化合物(A)(以下、(A)成分という)を含有する点に特徴がある。これらの中でもR
1がプロピレン基またはイソプロピレン基のものを用いると、電気的な信頼性の点で有利である。なお、(A)成分に代えてシリカ等の無機化合物や他の有機高分子化合物を用いても、耐はんだボール性や低残渣性の点で不十分である。
【0012】
(A)成分としては、前記式で表わされ、かつ前記水酸基価を有するものであれば各種公知のものを特に制限なく利用できる。また、水酸基価はJIS−K0070に準拠した測定値(mgKOH/g)であり、耐はんだボール性や低残渣性の点より好ましくは30〜500程度、いっそう好ましくは50〜130である。また、前記繰り返し単位構造の繰り返し数は特に限定されないが、通常5〜150程度である。
【0013】
また、(A)成分の数平均分子量は特に限定されないが、耐はんだボール性や低残渣性の点より通常180〜6000程度、好ましくは180〜4100程度、更に好ましくは900〜2100である。
【0014】
(A)成分の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル、ポリエチレン・ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリアルキレングリコールモノエーテル類;ポリエチレングリコールモノエステル、ポリプロピレングリコールモノエステル、ポリエチレン・ポリプロピレングリコールモノエステル等のポリアルキレングリコールモノエステル類が挙げられる。また、ポリアルキレングリコールモノエーテル類のモノエーテル部位(−OR
2)をなす炭化水素基は、直鎖状、分岐状または脂環状のアルキル基若しくはアルケニル基(いずれも炭素数2〜3程度)、または炭素数1〜2程度のアルキル基が結合していてもよいフェニル基である。また、ポリアルキレングリコールモノエステル類のモノエステル部位(−OCOR
3)をなす炭化水素基も同様のアルキル基、アルケニル基若しくはフェニル基である。
【0015】
本発明のフラックスにおける(A)成分の含有量は
、耐はんだボール性や低残渣性の点より通常は6〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%である。
【0016】
本発明のフラックス
は、更にロジン系ベース樹脂(B)(以下、(B)成分という)、活性剤(C)(以下、(C)成分という)および溶剤(D)(以下、(D)成分という)を含
む。
【0017】
(B)成分としては、ディップはんだ付用フラックスに利用可能なロジン系ベース樹脂であれば各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、水添ロジン(b1)(以下、(b1)成分という)、原料ロジン類を蒸留等の精製手段で処理してなる精製ロジン(b2)(以下、(b2)成分という)、不均化ロジン(b3)(以下、(b3)成分という)、不飽和カルボン酸変性ロジン(b4)(以下、(b4)成分という)、ロジンエステル(b5)(以下、(b5)成分という)、その他ロジン類(重合ロジン等)があげられる。(b1)成分は、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の原料ロジン類を各種公知の方法で水素化処理してなるものである。また、(b2)成分は、原料ロジン類を蒸留等の精製手段で処理してなるものである。また、(b3)成分は、原料ロジン類を各種公知の方法で不均化処理(脱水素化処理)してなるものである。また、(b4)成分は、原料ロジン類とα,β不飽和カルボン酸類とから得られるディールス・アルダー反応物である。なお、該α,β不飽和カルボン酸類としては(メタ)アクリル酸、フマル酸、および(無水)マレイン酸等が挙げられる。また、(b5)成分は、原料ロジン類や(b1)成分〜(b4)成分とポリオール類とから得られる反応物である。なお、該ポリオール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコール等が挙げられる。また、(b1)成分〜(b5)成分およびその他ロジン類は、さらに精製処理、水素化処理、不均化処理等が施されたものであってよい。
【0018】
(C)成分としては、ディップはんだ付用フラックスに利用可能な活性剤であれば各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、臭素系脂肪族アルコール(c1)(以下、(c1)成分という)、非ハロゲン系脂肪族カルボン酸(c2)(以下、(c2)成分という)および非ハロゲン系芳香族カルボン酸(c3)(以下、(c3)成分という)からなる群より選ばれる少なくとも1種や、その他の活性剤が挙げられる。
【0019】
(c1)成分としては、分子内に臭素原子を有する脂肪族アルコールであれば各種公知のものを特に限定なく使用できる。具体的には、例えば1−ブロモ−2−ブタノール、1−ブロモ−2−プロパノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオール、1,4−ジブロモ−2−ブタノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、2,3−ジブロモ−1−プロパノール等のブロモモノオール類や、1,4−ジブロモ−2,3−ブタンジオール、2,3−ジブロモ−1,4−ブテンジオール、2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール等のブロモジオール類が挙げられる。
【0020】
(c2)成分としては、分子内にハロゲン原子を有さない脂肪族カルボン酸であれば各種公知のものを特に限定なく使用できる。具体的には、一般式(2):HOOC−R
2−COOH(式(2)中、R
2は炭素数2〜12程度のアルキレン基、アルケニレン基、またはシクロアルケニレン基を示す。)で表わされるジカルボン酸が好ましい。なお、R
2の炭素数は好ましくは3〜4である。また、前記アルキレン基、アルケニレン基およびシクロアルケニレン基は分岐していてもよい。(c2)成分のうち一般式(2)で表わされるものとしてはグルタル酸、2−メチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等が、式(2)以外のものとしてはステアリン酸、パルミチン酸等が挙げられる。
【0021】
(c3)成分としては安息香酸、ピコリン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フェニルこはく酸等が挙げられる。
【0022】
その他の活性剤としては、3−ブロモプロピオン酸、2−ブロモ吉草酸、5−ブロモ−n−吉草酸、2−ブロモイソ吉草酸、2,3−ジブロモコハク酸、2−ブロモコハク酸、2,2−ジブロモアジピン酸等のブロモカルボン酸類や、ジエチルアミン塩酸塩等の塩素系アミン類が挙げられる。
【0023】
(D)成分
は、芳香族アルコール類(d1)(以下、(d1)成分という)や、グリコールエーテル類(d2)(以下、(d2)成分という)、低分子アルコール類(d3)(以下、(d3)成分という)
を含む。(d1)成分としては2−フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、β−フェニルエチルアルコール等が挙げられる。また、(d2)成分としては、メチルグリコール、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、イソプロピルジグリコール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、イソブチルグリコール、イソブチルジグリコール、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、2エチルヘキシルグリコール、2エチルヘキシルジグリコール、ベンジルグリコール、ベンジルジグリコール等が挙げられる。なお、(d2)成分の水酸基価は570〜1470(mgKOH/g)程度である。また、(d3)成分としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール等が、その他の溶剤としては酢酸イソプロピル、プロピオン酸エチル、安息香酸ブチル、アジピン酸ジエチル等のエステル類が挙げられる。これらの中でも前記(A)成分の溶解力に優れ、特に耐はんだボール性が良好になることから前記(d1)成分および/または(d2)成分が好ましい。なお、(D)成分には溶媒としての水を含めない。
【0024】
なお、本発明のフラックスには、酸化防止剤、防黴剤、艶消し剤等の添加剤(以下、(E)成分という)を含ませることができる。
【0025】
本発明のフラックスにおける(B)成分〜(D)成分の含有量は
、耐はんだボール性の点より通常は順に2〜10重量%程度、0.1〜2重量%程度、および35〜90重量%程度であり、好ましくは4〜6重量%、0.1〜1重量%、および50〜70重量%である。また、(E)成分の含有量も特に限定されないが、通常はフラックス全量を100重量%とした場合において1〜2重量%程度となる範囲である。
【0026】
本発明のフラックスは、その製造法は特に制限されないが、通常は前記(A)成分〜(C)成分および必要に応じて(E)成分を、溶剤である(D)成分に溶解させることにより得られる。
【0027】
本発明のフラックスの粘度は特に限定されず、適宜設定すればよいが、耐はんだボール性や低残渣性の観点より、B型粘度計で測定した粘度が少なくとも8mPa・s、好ましくは18〜30mPa・sであるのがよい。なお、粘度値はローターNo.19を使用し、25℃、回転数10ppmで測定した値である。また、粘度測定時のフラックスの温度は25℃である。
【0028】
本発明のフラックスの不揮発分は特に限定されないが、耐はんだボール性や低残渣性の観点より通常は10〜50重量%程度、好ましくは30〜50重量%であるのがよい。
【0029】
本発明のフラックスを端子部品のはんだ付部位に塗布する方法は特に制限されず、例えば端子部品をそのまま浸漬する方法や、はんだ付け部位に各種フラクサー(スプレー等)によって塗工する方法が挙げられる。また、本発明のフラックスはディップはんだ付だけでなく、その一種であるウェーブはんだ付やドラッグはんだ付等においても好適に作用する。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を詳細に説明するが、これらによって何ら限定されるものではない。また、各例中、部および%はいずれも重量基準である。
【0031】
(1)フラックスの調製
実施例1
水酸基価が110のポリプロピレングリコール(商品名エクセノール1020、旭硝子(株)製、表1ではPPG1000と示す。)22.0部をベンジルアルコール78.0部に溶解させることによって、粘度が12.6mPa・s、不揮発分が22.3重量%のフラックスを調製した。
なお、本実施例1は、本明細書において、参考例として扱う。
【0032】
実施例2〜41、比較例1〜5
用いる原料及びその使用量を表1〜9で示すように変更した他は実施例1と同様にしてフラックスを調製した。
【0033】
(2)耐はんだボール性およびフラックス残渣の評価
実施例1に係るフラックスをフラスコに入れ、円筒状の端子部品(直径4.5mm、長さ1.5cm)の両端にある電極(直径0.7mm、長さ1mm)を浸漬した後引き上げ、続けて当該電極を380℃のはんだ浴(金属種:97Sn/3Cu)に浸し、引き上げて室温まで冷却させた。その後、電極やその周辺に発生したはんだボール(直径0.01mm程度)の数を顕微鏡で計数し、30以上の場合には不良と認定した。また、電極を目視観察し、フラックス残渣が認めらないものを低残渣性良好と、認められるものを不良と認定した。実施例2〜41、比較例1〜5のフラックスについても同様にして耐はんだボール性と低残渣性を評価した。
【0034】
【表1】
【0035】
PPG2000・・・水酸基価が56のポリプロピレングリコール(商品名エクセノール2020、旭硝子(株)製)を表す(以下、同様。)
PEG1000・・・水酸基価が111のポリエチレングリコール(商品名PEG#1000、ライオン(株)製)を表す(以下、同様。)
ベンジルアルコール・・・東京応化工業(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
【0036】
【表2】
【0037】
PEG200・・・水酸基価が559のポリエチレングリコール(商品名PEG#200、ライオン(株)製)を表す(以下、同様)。
PEG600・・・水酸基価が186のポリエチレングリコール(商品名PEG#600、ライオン(株)製)を表す(以下、同様)。
PEG2000・・・水酸基価が56のポリエチレングリコール(商品名ポリエチレングリコール2000、和光純薬工業(株)製)を表す(以下、同様)。
PEGモノメチルエーテル2000・・・水酸基価が26のポリエチレングリコールモノエチルエーテル(商品名ユオニックスM-2000、日油(株)製)を表す(以下、同様)。
PEG6000・・・水酸基価が12のポリエチレングリコール(商品名ポリエチレングリコール6000、和光純薬工業(株)製)を表す(以下、同様)。
CRW−300(商品名)・・・市販の水添ロジン(荒川化学工業(株)製)を表す(以下、同様)。
ジブロモブテンジオール・・・ワイケム(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
グルタル酸・・・東京化成工業(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
白菊ロジン(商品名)・・・精製ロジン(荒川化学工業(株)製)を表す。
FR−ロジン(商品名)・・・精製ロジン(荒川化学工業(株)製)を表す。
KR−614(商品名)・・・水添ロジン(荒川化学工業(株)製)を表す。
KE−604(商品名)・・・アクリル酸変性ロジンの水素化物(荒川化学工業(株)製)を表す(以下、同様)。
KE−100(商品名)・・・ロジンのグリセリンエステル(荒川化学工業(株)製)を表す。
【0042】
【表6】
【0043】
アジピン酸・・・旭化成(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
セバシン酸・・・和光純薬工業(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
ドデカン二酸・・・和光純薬工業(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
こはく酸・・・キシダ化学(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
ダイマー酸・・・市販の水添ダイマー酸(商品名PRIPOL1010、クローダジャパン(株)製)を表す(以下、同様)。
フェニルこはく酸・・・和光純薬工業(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
【0044】
【表7】
【0045】
【表8】
【0046】
ヘキシルグリコール・・・日本乳化剤(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
ヘキシルジグリコール・・・日本乳化剤(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
イソプロピルアルコール・・・日本アルコール販売(株)製の市販品を表す(以下、同様)。
【0047】
【表9】
【0048】
PEG20000・・・水酸基価が10未満のポリエチレングリコール(商品名ポリエチレングリコール20000、和光純薬工業(株)製)を表す。
HeG・・・水酸基価が600を超えるグリコール化合物(ヘキシルグリコール、日本乳化剤(株)製)を表す。
SiO
2・・・ 市販のSiO
2微粒子溶液(商品名MIBK−ST、日産化学工業(株)製)を表す。