(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974646
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】3レベル電力変換回路の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/487 20070101AFI20160809BHJP
【FI】
H02M7/487
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-129797(P2012-129797)
(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2013-255350(P2013-255350A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幹介
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 翔直
(72)【発明者】
【氏名】幸林 久詩
【審査官】
宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−207752(JP,A)
【文献】
特開平05−015165(JP,A)
【文献】
特開平09−084360(JP,A)
【文献】
特開2011−030350(JP,A)
【文献】
特開2011−160529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M7/42−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と中間極を備えた直流電源と、1相分が、前記直流電源の正極と負極との間に接続されるそれぞれダイオードを逆並列接続した半導体スイッチ2個を直列接続した半導体スイッチ直列回路と、前記半導体スイッチ直列回路の直列接続点と前記直流電源の中間極との間に接続される2個の半導体スイッチを逆並列接続して構成した双方向スイッチとで構成され、前記直流電源から3つのレベルの電圧を選択的に出力して交流を作り出す3レベル電力変換回路の制御装置において、
前記制御装置は、前記交流の出力波形を決定するための変調信号と、二つの位相が互いに180度ずれており一方は前記変調信号の正の領域に、他方は前記変調信号の負の領域に位置する二つの搬送波と、前記変調信号の正の期間で電圧レベルが第1の基準値以下になったことを検知する第1の電圧比較器と、前記変調信号の負の期間で電圧レベルが第2の基準値以上になったことを検知する第2の電圧比較器と、を備え、
前記変調信号が前記第1の基準値以下になったことを前記第1の電圧比較器が検知した時点と前記変調信号の零点との期間は前記変調信号の電圧を前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧に変更し、前記変調信号が前記第2の基準値以上になったことを第2の電圧比較器が検知した時点と前記変調信号の零点との間は前記変調信号を前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧に変更することを特徴とする3レベル電力変換回路の制御装置。
【請求項2】
前記変調信号が前記第1の基準値以下になったことを前記第1の電圧比較器が検知した時点と前記変調信号の零点との期間における前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とすることを特徴とする請求項1に記載の3レベル電力変換回路の制御装置。
【請求項3】
前記変調信号が前記第2の基準値以上になったことを第2の電圧比較器が検知した時点と前記変調信号の零点との期間における前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の3レベル電力変換回路の制御装置。
【請求項4】
正極と負極と中間極を備えた直流電源と、1相分が、前記直流電源の正極と負極との間に接続されるそれぞれダイオードを逆並列接続した半導体スイッチ2個を直列接続した半導体スイッチ直列回路と、前記半導体スイッチ直列回路の直列接続点と前記直流電源の中間極との間に接続される2個の半導体スイッチを逆並列接続して構成した双方向スイッチとで構成され、前記直流電源から3つのレベルの電圧を選択的に出力して交流を作り出す3レベル電力変換回路の制御装置において、
前記制御装置は、前記交流の出力波形を決定するための変調信号と、二つの位相が互いに180度ずれ一方は前記変調信号の正の領域に、他方は前記変調信号の負の領域に位置する二つの搬送波と、前記変調信号の正の期間で電圧レベルが第1の基準値以下になったことを検知する第1の電圧比較器と、前記変調信号の負の期間で電圧レベルが第2の基準値以上になったことを検知する第2の電圧比較器と、前記変調信号の基本波と同期した極性判別信号とを備え、
前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号との論理から求めた期間は前記変調信号の電圧を前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧に変更し、前記第2の電圧比較器の出力と前記極性判別信号との論理から求めた期間は前記変調信号を前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧に変更することを特徴とする3レベル電力変換回路の制御装置。
【請求項5】
前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号との論理から求めた期間における前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とすることを特徴とする請求項4に記載の3レベル電力変換回路の制御装置。
【請求項6】
前記第2の電圧比較器の出力と前記極性判別信号との論理から求めた期間における前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とすることを特徴とする請求項4又は5に記載の3レベル電力変換回路の制御装置。
【請求項7】
正極と負極と中間極を備えた直流電源と、1相分が、前記直流電源の正極と負極との間に接続されるそれぞれダイオードを逆並列接続した半導体スイッチ2個を直列接続した半導体スイッチ直列回路と、前記半導体スイッチ直列回路の直列接続点と前記直流電源の中間極との間に接続される2個の半導体スイッチを逆並列接続して構成した双方向スイッチとで構成され、前記直流電源から3つのレベルの電圧を選択的に出力して交流を作り出す3レベル電力変換回路の制御装置において、
前記制御装置は、前記交流の出力波形を決定するための変調信号と、二つの位相が互いに180度ずれており一方は前記変調信号の正の領域に、他方は前記変調信号の負の領域に位置する二つの搬送波と、前記変調信号を正に整流する整流回路と、前記整流回路の出力電圧レベルが第1の基準値以下になったことを検知する第1の電圧比較器と、前記変調信号の基本波と同期した極性判別信号と、を備え、
前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号との論理から求めた期間は前記変調信号の電圧を前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧に変更し、前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号の反転信号との論理から求めた期間は前記変調信号を前記第1の基準値の電圧の極性反転信号より高い負の電圧に変更することを特徴とする3レベル電力変換回路の制御装置。
【請求項8】
前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号との論理から求めた期間における前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とすることを特徴とする請求項7に記載の3レベル電力変換回路の制御装置。
【請求項9】
前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号の反転信号との論理から求めた期間における前記第1の基準値の電圧の極性反転値より高い負の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とすることを特徴とする請求項7又は8に記載の3レベル電力変換回路の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と負極と中間極を備えた直流電源と、1相分が、前記直流電源の正極と負極との間に接続される半導体スイッチ2個を直列接続した半導体スイッチ直列回路と、半導体スイッチ直列回路の直列接続点と直流電源の中間極との間に接続される双方向スイッチとで構成され、直流電源から3つのレベルの電圧を選択的に出力して交流を作り出す3レベル電力変換回路の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に、本発明が対象とする3レベル電力変換回路例を示す。コンデンサC1とC2との直列回路は、正極(P電位)と負極(N電位)と中間極(零電位)とを備えた直流電源を示している。電力変換回路は、1相分がIGBTT1とT2との直列回路と、この直列回路の直列接続点と前記直流電源の中間極との間に接続されたIGBTT3とT4との逆並列接続回路で構成される双方向スイッチで構成され、これらを3回路用いた三相3レベル電力変換回路である。前記IGBTT1とT2との直列回路の直列接続点は3つの電圧レベルを持ったパルス列からなる交流出力となり、三相分の交流出力はリアクトルとコンデンサで構成された波形整形用交流フィルタFLを介して装置の正弦波出力となる。この様な構成における正弦波出力波形としては歪の小さな正弦波が要求される。
【0003】
直流電源から3つの電圧レベルを持った交流電圧を生成する電力変換回路のPWM(パルス幅変調)制御回路の従来例を
図7に示す。商用周波数の正弦波、台形波などの変調信号(出力電圧指令とも呼ぶ)と高周波の二つのキャリア(搬送波)(上側キャリアと下側キャリア)を各相毎に比較してIGBTT1〜T4のスイッチング信号を形成する。上側キャリアと下側キャリアとは位相が180度ずれた例であるが、同相で用いる例もある。同相で用いる場合に比べて180度位相をずらしたキャリアを用いるとコモンモード電流を半周期毎にキャンセルでき、低減できるメリットがある。変調信号が正の期間では上側キャリアと変調信号との比較結果で、変調信号が上側キャリアより大きい時にはIGBTT1をオン(IGBTT3はオフ)、変調信号が負の期間では変調信号が下側キャリアより小さい時にはIGBTT2をオン(IGBTT4はオフ)とすることにより、変調信号の大きさをパルス幅変調したオンオフパルス列が交流出力に得られる。
図7において、T1(理想)、T3(理想)、T2(理想)、T4(理想)が上記PWM制御時のオンオフ波形を示している。IGBT直列接続点の電圧(相電圧)はIGBTT1がオンするとP電位に、双方向スイッチ(T3又はT4)がオンすると零電位に、IGBTT2がオンするとN電位となり、3レベルの電圧が得られる。
【0004】
このような構成における問題点は、変調信号の零クロス付近のオンオフが理想的にならない点である。即ち変調信号とキャリアをコンパレータで比較する場合、電圧零近辺ではデッドタイムなどの影響により、理想的な比較結果が得られない。
図7におけるT1(実際)、T3(実際)、T2(実際)、T4(実際)は、実際例である。IGBTT1をオフした後、IGBTT3をオンして、IGBTT4に流れていた電流をIGBTT3に転流させた後、IGBTT2をオンさせ、負荷に負の電流を流すのが理想であるが、IGBTT1をオフし、IGBTT4が流していた電流が正から負に変化し、IGBTT4に転流できれば問題ないが、IGBTT3のオンが遅れてIGBTT2がオンすると、2レベルスイッチング動作となり、ターンオフサージが増加することになる。
この問題を解決するため、特許文献1には
図8〜
図9に示すような対策が記載されている。
図8は変調信号である出力電圧指令にバイアス量を加算する構成、
図9はキャリアに負のバイアス量を加える構成、
図10は出力電圧指令が基準値以下とならないように零近辺では補正を加える構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−84360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、零クロス近辺の波形を改善するために、
図8のように出力電圧指令全期間に直流バイアス量を加算すると、零クロス近辺では付加したバイアス量分だけ高い電圧とキャリア信号とを比較することになり確実なオンオフパルスを得ることができる。しかし、電圧指令の全体に直流量を加算しているため、基本波の高調波成分が大きくなり、波形整形用フィルタが大型化すること、常にスイッチングするため変換効率が低下することなどの欠点がある。
図9のようにキャリアに負の直流バイアス量を加える方式も
図8の構成と同じ結果となる。また、
図10に示す構成では、零クロス近辺の電圧指令を所定値に変更する構成であるが、零近辺の電流波形が悪化することになる。
【0007】
従って、本発明の課題は、損失の増加や全体波形の悪化を招くことなく、零クロス近辺の波形改善が可能な3レベル電力変換回路の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、第1の発明においては、正極と負極と中間極を備えた直流電源と、1相分が、前記直流電源の正極と負極との間に接続されるそれぞれダイオードを逆並列接続した半導体スイッチ2個を直列接続した半導体スイッチ直列回路と、前記半導体スイッチ直列回路の直列接続点と前記直流電源の中間極との間に接続される2個の半導体スイッチを逆並列接続して構成した双方向スイッチとで構成され、前記直流電源から3つのレベルの電圧を選択的に出力して交流を作り出す3レベル電力変換回路の制御装置において、前記制御装置は、前記交流の出力波形を決定するための変調信号と、二つの位相が互いに180度ずれており一方は前記変調信号の正の領域に、他方は前記変調信号の負の領域に位置する二つの搬送波と、前記変調信号の正の期間で電圧レベルが第1の基準値以下になったことを検知する第1の電圧比較器と、前記変調信号の負の期間で電圧レベルが第2の基準値以上になったことを検知する第2の電圧比較器と、を備え、前記変調信号が前記第1の基準値以下になったことを前記第1の電圧比較器が検知した時点と前記変調信号の零点との期間は前記変調信号の電圧を前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧に変更し、前記変調信号が前記第2の基準値以上になったことを第2の電圧比較器が検知した時点と前記変調信号の零点との間は前記変調信号を前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧に変更する。
【0009】
第2の発明においては、第1の発明における前記変調信号が前記第1の基準値以下になったことを前記第1の電圧比較器が検知した時点と前記変調信号の零点との期間における前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とする。
【0010】
第3の発明においては、第1又は第2の発明における前記変調信号が前記第2の基準値以上になったことを第2の電圧比較器が検知した時点と前記変調信号の零点との期間における前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とする。
【0011】
第4の発明においては、正極と負極と中間極を備えた直流電源と、1相分が、前記直流電源の正極と負極との間に接続されるそれぞれダイオードを逆並列接続した半導体スイッチ2個を直列接続した半導体スイッチ直列回路と、前記半導体スイッチ直列回路の直列接続点と前記直流電源の中間極との間に接続される2個の半導体スイッチを逆並列接続して構成した双方向スイッチとで構成され、前記直流電源から3つのレベルの電圧を選択的に出力して交流を作り出す3レベル電力変換回路の制御装置において、前記制御装置は、前記交流の出力波形を決定するための変調信号と、二つの位相が互いに180度ずれ一方は前記変調信号の正の領域に、他方は前記変調信号の負の領域に位置する二つの搬送波と、前記変調信号の正の期間で電圧レベルが第1の基準値以下になったことを検知する第1の電圧比較器と、前記変調信号の負の期間で電圧レベルが第2の基準値以上になったことを検知する第2の電圧比較器と、前記変調信号の基本波と同期した極性判別信号とを備え、前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号との論理から求めた期間は前記変調信号の電圧を前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧に変更し、前記第2の電圧比較器の出力と前記極性判別信号との論理から求めた期間は前記変調信号を前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧に変更する。
【0012】
第5の発明においては、第4の発明における前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号との論理から求めた期間における前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とする。
【0013】
第6の発明においては、第4又は第5の発明における前記第2の電圧比較器の出力と前記極性判別信号との論理から求めた期間における前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とする。
【0014】
第7の発明においては、正極と負極と中間極を備えた直流電源と、1相分が、前記直流電源の正極と負極との間に接続されるそれぞれダイオードを逆並列接続した半導体スイッチ2個を直列接続した半導体スイッチ直列回路と、前記半導体スイッチ直列回路の直列接続点と前記直流電源の中間極との間に接続される2個の半導体スイッチを逆並列接続して構成した双方向スイッチとで構成され、前記直流電源から3つのレベルの電圧を選択的に出力して交流を作り出す3レベル電力変換回路の制御装置において、前記制御装置は、前記交流の出力波形を決定するための変調信号と、二つの位相が互いに180度ずれており一方は前記変調信号の正の領域に、他方は前記変調信号の負の領域に位置する二つの搬送波と、前記変調信号を正に整流する整流回路と、前記整流回路の出力電圧レベルが第1の基準値以下になったことを検知する第1の電圧比較器と、前記変調信号の基本波と同期した極性判別信号と、を備え、前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号との論理から求めた期間は前記変調信号の電圧を前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧に変更し、前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号の反転信号との論理から求めた期間は前記変調信号を前記第1の基準値の電圧の極性反転信号より高い負の電圧に変更する。
【0015】
第8の発明においては、第7の発明における前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号との論理から求めた期間における前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とする。
【0016】
第9の発明においては、第7又は第8の発明における前記第1の電圧比較器の出力信号と前記極性判別信号の反転信号との論理から求めた期間における前記第1の基準値の電圧の極性反転値より高い負の電圧は、この電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積が略等しくなるような電圧とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、第1の電圧比較器の動作開始点と変調信号の零点との期間は前記変調信号の電圧を前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧に変更し、前記第2の電圧比較器の動作開始点と前記変調信号の零点との間は前記変調信号を前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧に変更する。又は変調信号を整流して一つの電圧比較器で同様の動作をさせる。この時、前記正の電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積、又は前記負の電圧と変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積、は各々略等しくなるような電圧としているため、零クロス付近の確実なスイッチングが可能となり、また変更される前の変調信号と変更後の変調信号との差は小さい。また、スイッチング回数は増加しない。
【0018】
この結果、損失の増加や全体波形の悪化を招くことなく、零クロス近辺の波形改善が可能な3レベル電力変換回路の制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施例を示す制御回路図である。
【
図2】
図1の動作を説明するための動作波形図である。
【
図3】本発明の適用による変調信号の補正図である。
【
図4】本発明の第2の実施例を示す制御回路図である。
【
図5】
図4の動作を説明するための動作波形図である。
【
図6】本発明が対象とする3レベル電力変換回路図である。
【
図7】課題を説明するためのPWM制御動作図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の要点は、以下の通りである。第1の電圧比較器の動作開始点と変調信号の零点との期間は前記変調信号の電圧を前記第1の基準値の電圧より低い正の電圧に変更し、前記第2の電圧比較器の動作開始点と前記変調信号の零点との間は前記変調信号を前記第2の基準値の電圧より高い負の電圧に変更する。又は変調信号を整流して一つの電圧比較器で同様の動作をさせる。この時、前記正の電圧と前記変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積、又は前記負の電圧と変更される前の変調信号との交点とで得られる二つの面積、は各々略等しくなるような電圧とする。
【実施例1】
【0021】
図1に、本発明の第1の実施例を、
図2にその動作波形図を示す。交流出力電圧(正弦波)を検出して、一定電圧制御するための制御回路例である。出力電圧を設定するための電圧設定器STと出力電圧検出値との偏差を零に制御するための電圧調節器AVRの出力と正弦波発振器OSCの出力を掛算器ML1で掛算して、変調信号を求める。この変調信号の振幅は電圧調節器AVRの制御量に応じて調節される。電圧比較器(コンパレータ)CP1は変調信号の正の半波内の電圧が第1の基準電源REF1の基準値(+Vref)以下となると出力Bはハイ(H)となる。また、電圧比較器(コンパレータ)CP2は変調信号の負の半波内の電圧が第1の基準電源REF2の基準値(−Vref)以上となると出力Cはハイ(H)となる。
【0022】
発振器OSCから出力される正弦波と同期した基本波周波数のハイロー波形Aと電圧比較器CP1の出力Bとの論理積をアンドゲートAN1で求める。アンドゲートAN1の出力XでスイッチS1を駆動し、変調信号を掛算器ML2で求めた基準値(+Vref)の1/2に切替える。また、発振器OSCから出力される正弦波と同期した基本波周波数のハイロー波形AをインバータゲートINで反転し、この反転信号と電圧比較器CP2の出力Cとの論理積をアンドゲートAN2で求める。アンドゲートAN2の出力YでスイッチS2を駆動し、変調信号を掛算器ML3で求めた基準値(−Vref)の1/2の値に切替える。
【0023】
このように制御することにより、変調信号は
図3に示すように、正の半波の基準値(+Vref)と零との間では、基準値(+Vref)の1/2の値となり、負の半波の基準値(−Vref)と零との間では、基準値(−Vref)の1/2の値となる。この時、変調信号の零電圧近辺はほぼ直線領域であり、変調信号の基準値(+Vref)と零との期間内の変調信号と基準値の1/2の補正量で形成される二つの面積Sa、Sbは略等しくなる。負の半波においても同様である。この様にして形成された補正変調信号をPWM制御回路でオンオフ信号に変換し、さらに本図には記載のないパルス分配回路、ゲート駆動回路などを通して、主回路の各IGBTにオンオフ信号を供給する。
【実施例2】
【0024】
図4に、本発明の第2の実施例を、
図5にその動作波形図を示す。第1の実施例との違いは基準電源と電圧比較器を、各々1個にしている点である。出力電圧を設定するための電圧設定器STと出力電圧検出値との偏差を零に制御するための電圧調節器AVRの出力と正弦波発振器OSCの出力を掛算器ML1で掛算して、変調信号を求める。この変調信号の振幅は電圧調節器AVRの制御量に応じて調節される。電圧比較器(コンパレータ)CP1は変調信号を整流回路REで整流した電圧が第1の基準電源REF1の基準値(+Vref)以下となると出力Bはハイ(H)となる。
【0025】
また、発振器OSCから出力される正弦波と同期した基本波周波数のハイロー波形Aと電圧比較器CP1の出力Bとの論理積をアンドゲートAN1で求める。アンドゲートAN1の出力XでスイッチS1を駆動し、変調信号を掛算器ML2で求めた基準値(+Vref)の1/2に切替える。また、発振器OSCから出力される正弦波と同期した基本波周波数のハイロー波形AをインバータゲートINで反転し、この反転信号と電圧比較器CP1の出力Bとの論理積をアンドゲートAN2で求める。アンドゲートAN2の出力YでスイッチS2を駆動し、変調信号を掛算器ML4で反転して求めた基準値(−Vref)に掛算器ML3で掛算して求めた(−1/2Vref)に切替える。
【0026】
このように制御することにより、第1の実施例と同様に変調信号は
図3に示すような、正の半波の基準値(+Vref)と零との間では、基準値(+Vref)の1/2の値となり、負の半波の基準値(−Vref)と零との間では、基準値(−Vref)の1/2の値となる。この時、変調信号の零電圧近辺はほぼ直線領域であり、変調信号の基準値(+Vref)と零との期間内の変調信号と基準値の1/2の補正量で形成される二つの面積Sa、Sbは略等しくなる。負の半波においても同様である。
【0027】
この様にして形成された補正変調信号をPWM制御回路でオンオフ信号に変換し、さらに本図には記載のないパルス分配回路、ゲート駆動回路などを通して、主回路の各IGBTにオンオフ信号を供給する。
【0028】
尚、実施例では変調信号を基準値の1/2に切替える例を示したが、変調率λに応じて補正量を調整すると一層の波形改善効果が得られる。
上記実施例にはIGBTを用いた3レベル電力変換回路の制御回路例を示したが、スイッチング素子としては、MOSFETなど他のスイッチング素子でも同様である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、交流出力電圧の零クロス近辺の波形歪を低減する3レベル電力変換回路の制御装置の提案であり、無停電電源装置、系統連系用電力変換装置、電動機駆動用変換装置などへの適用が可能である。
【符号の説明】
【0030】
T1〜T4・・・IGBT C1、C2・・・コンデンサ
FL・・・フィルタ ST・・・電圧設定器
AVR・・・電圧調整器 OSC・・・発振器
REF1、REF2・・・基準電源 ML1〜ML4・・・掛算器
CP1、CP2・・・電圧比較器 AN1、AN2・・・アンドゲート
IN・・・インバータゲート S1、S2・・・スイッチ
RE・・・整流回路