【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.発行者名 日本機械学会 2.刊行物名 日本機械学会論文集(C編) 3.巻数等 77巻、784号、第330〜339頁 4.発行日 平成23年12月25日 〔刊行物等〕 1.公開物 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 知能機能システム専攻 平成23年度大学院セミナー資料 2.公開日 平成24年2月13日 3.公開場所 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 知能機能システム専攻 平成23年度大学院セミナー 4.公開者 平松 宏介(指導教員 山海 嘉之)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1通信部が送信する前記マスタアームの位置情報は、前記マスタアームの手先位置の移動量であることを特徴とする請求項1に記載のマニピュレーションシステム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は本実施形態に係るマニピュレーションシステムの外観斜視図である。このマニピュレーションシステムはマスタスレーブ型のマニピュレーションシステムであり、オペレータ(装着者)0が装着して操作を行うマスタアーム装置1と、実際に作業を行うスレーブアーム装置2とを備えている。マスタアーム装置1とスレーブアーム装置2は双方向に通信を行い、装着者0のマスタアーム操作がスレーブアームの動作に反映されるようになっている。
【0014】
図2は、マスタアーム装置1が装着者0に装着された状態を示している。
図2では、装着者0の右腕部分に対応するマスタアーム装置1の右上半部が示されている。マスタアーム装置1は、その左上半部にも右上半部と同様の構成を有する。
【0015】
図2に示すように、マスタアーム装置1は、体幹部材131と、上腕部材132と、前腕部材133とを有している。体幹部材131は、装着者0の胴体に装着される。上腕部材132は、装着者0の上腕部に沿って延び、装着者0の上腕部に装着される。また、前腕部材133は、装着者0の前腕部に沿って延び、装着者0の前腕部に装着される。
【0016】
体幹部材131と上腕部材132との間に第1肩関節機構134が設けられており、体幹部材131と上腕部材132とは第1肩関節機構134を介して互いに回動可能に連結されている。また、上腕部材132と前腕部材133との間に肘関節機構135が設けられており、上腕部材132と前腕部材133とは肘関節機構135を介して互いに回動可能に連結されている。また、体幹部材131に覆われているため
図2には示されていないが、装着者0の肩の部分には第2肩関節機構が設けられている。第1肩関節機構134が垂直方向に沿って回動するのに対し、第2肩関節機構は水平方向に沿って回動する。このように、マスタアーム装置1は、肩関節2自由度、肘関節1自由度を有している。
【0017】
図2に示すように、マスタアーム装置1には、屈曲側生体電位センサ136と、伸展側生体電位センサ137とが設けられている。上腕部材132は、上腕骨に沿って配置され、肘関節に近い側及び遠い側に2箇所に設けられたバンド等で上腕部に固定されている。前腕部材133は、尺骨又は橈骨に沿って配置され、肘関節に近い側及び遠い側の2箇所に設けられたバンド等で前腕部に固定されている。
【0018】
また、上腕部材132と前腕部材133とを連結する駆動ユニット138は、角度センサ、アクチュエータ(駆動源)、及びトルクセンサが内蔵されている。このトルクセンサには、例えば、アクチュエータに供給される電流値を検出し、この電流値をアクチュエータに固有となるトルク定数に乗じることによって駆動トルクの検出を行うもの等を適用することができる。また、角度センサにはロータリーエンコーダ等を適用することができる。
【0019】
屈曲側生体電位センサ136は、
図2に示すように肘関節の屈曲動作のときに随意筋として主に働く上腕二頭筋及び上腕筋に対応する体表面に貼り付けられ、筋電位を検出する。また、伸展側生体電位センサ137は、
図2にしめすように肘関節の伸展動作のときに随意筋として主に働く上腕三頭筋に対応する体表面に貼り付けられ、筋電位を検出する。
【0020】
上述した駆動ユニット138は、第1肩関節機構134及び第2関節機構にも設けられている。また、マスタアーム装置1は、肩関節の屈曲・伸展動作、外転・内転動作のときに随意筋として主に働く三角筋及び大胸筋に対応する体表面に貼り付けられる生体電位センサ(図示せず)を有している。
【0021】
また、マスタアーム装置1は、装着者0の背中に装着される制御ユニット119を有し、例えばホストコントローラ、モータドライバ、計測装置、電源回路、通信装置等の機器が収納される。ホストコントローラへは、外部のコンピュータからTCP/IPを用いて操作が可能となっている。生体電位センサにより計測された情報は、計測装置のA/Dコンバータによりデジタル化され、ホストコントローラへ送られる。ホストコントローラは、送られた情報に基づいて駆動ユニット138の出力を決定し、駆動ユニット138を駆動させる。通信装置は、TCP/IPを用いて、スレーブアーム装置2と通信を行うことができる。
【0022】
図3は、スレーブアーム装置2の概略構成を示している。本実施形態では、スレーブアーム装置2として7軸ロボットアームを用いるが、スレーブアーム装置2に適用できるロボットアームはこれに限定されない。スレーブアーム装置2には8つのアクチュエータが設けられ、第1〜第3アクチュエータが旋回動作を行い、第4〜第7アクチュエータが屈曲・伸展動作を行う。また、第8アクチュエータは、スレーブアーム装置2のアーム先端に取り付けられている把持動作用グリッパ201の開閉動作を行う。スレーブアーム装置2の各関節には関節角度センサが設けられており、各関節の関節角度、角速度、及び角加速度が取得できるようになっている。また、アームの先端部には6軸力覚センサ202が設けられており、先端部に加わる並進及び回転力が検出されるようになっている。
【0023】
スレーブアーム装置2は図示しない制御ユニットを備えている。制御ユニットは、関節角度センサの検出結果や、6軸力覚センサの検出結果を取得する。また、制御ユニットは、第1〜第8アクチュエータを制御して、スレーブアーム装置2の動作を制御する。また、制御ユニットは通信装置を有しており、マスタアーム装置1とデータ通信することができる。
【0024】
次に、マスタアーム装置1とスレーブアーム装置2との通信方式及び通信データの内容について説明する。本実施形態ではプロトコルとしてTCP/IPを使用する。TCP/IPには、TCPとUDPの2種類のトランスポートプロトコルがある。TCPを用いた通信では、パケット毎に送信、応答確認が行われるため、送信パケット又は応答確認パケットの消失により通信が一時停止し得る。特に、サイズが大きいデータは再送手続きが複数回行われることがあり、この間は、データが届かず制御が停止する。データ転送サイクルは、ネットワーク上でパケットが往復する時間が限界となる。
【0025】
一方、UDPでは、送信側は単にデータを送信し、受信側は届いたデータを受信するのみである。すなわち、応答確認を行われないため、パケットの損失やデータの順序が保証されない代わりに、ネットワーク上での転送時間に制限されない。UDPを用いた通信は、TCPを用いた通信と比較して、転送停止期間を短くできるため、本実施形態では、UDPを用いて通信を行うものとする。
【0026】
本実施形態によるマスタスレーブ型のマニピュレーションシステムにおける通信データ配列は以下のようになっている。
【0027】
{シンクロ用データ;X移動量;Y移動量;Z移動量;X回転量;Y回転量;Z回転量;グリッパ開閉データ;iインピーダンスデータ;エラーチェック検算用データ}
X移動量、Y移動量、Z移動量はそれぞれX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の移動量を示している。また、X回転量、Y回転量、Z回転量は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の回転量を示している。グリッパ開閉データは、把持動作用グリッパ201の開閉動作に対応している。
【0028】
本実施形態では、関節角度データではなく、手先位置座標データを用いてアームの制御が行われる。マスタアーム装置1とスレーブアーム装置2とが相似形(同じ自由度)であれば、各関節が1対1対応する。しかし、マスタアーム装置1とスレーブアーム装置2のタイプが異なる(自由度が異なる)場合、各関節の対応付けが困難となる。そのため、本実施形態では、手先位置座標データを用いてアームの制御を行う。このことにより、作業に応じてスレーブアームを自由に選択し、スレーブアームの自由度が変わった場合であっても、アームの制御を行うことができる。
【0029】
また、手先位置座標データは、絶対座標におけるデータではなく、手先位置移動量のデータとする。マスタアーム装置1からスレーブアーム装置2へ送信するデータは絶対座標値データではなく、手先位置の移動量を送信データとして用いることで、データの欠損等により受信側でエラー処理が出来ない場合であっても、大きな移動量とはならないため、スレーブアーム装置2の異常動作を防止することができる。また、マスタアーム装置1及びスレーブアーム装置2の移動量対応関係の比率を1:1ではなく、1:2や2:1に変化させることで、細かな作業や大きな移動を伴う作業にも柔軟に対応でき、操作性を確保することができる。
【0030】
図4は、上述したマスタアーム装置1及びスレーブアーム装置2のブロック構成図である。マスタアーム装置1の生体電位センサ11は、
図2の生体電位センサ136、137に対応しており、角度センサ12及びアクチュエータ13は、
図2の駆動ユニット138に設けられている。また、コントローラ14及び通信装置15は、
図2の制御ユニット119に設けられている。
【0031】
スレーブアーム装置21の力覚センサは、
図3の6軸力覚センサ202に対応している。関節角度センサ22は、
図3に示すスレーブアーム装置2のアームの各関節に設けられている。アクチュエータ23は、
図3に示すスレーブアーム装置2のアームの旋回動作、屈曲・伸展動作、把持動作用グリッパ201の開閉動作を行う。コントローラ24及び通信装置25は、上述したスレーブアーム装置2の制御ユニットに設けられている。
【0032】
装着者0の腕は、体調、環境、筋肉の筋張力によって動的にインピーダンスが変化している。従って、ロボットアームを自分の腕のように動かすためには、ロボットアームのインピーダンスを動的に変化させる必要がある。本実施形態では、装着者0の生体電位情報に着目して、装着者0の直感動作が随意的にロボットのインピーダンスとして表現できる生体電位可変インピーダンス制御が行われる。
【0033】
生体電位可変インピーダンス制御では、装着者0の生体電位情報に着目して、ロボットアームの特性を随意に制御できるようにアーム剛性の仮想インピーダンスを算出する。インピーダンス制御における手先位置での方程式は以下の数式1で示される。
【数1】
【0034】
ここで、Fは外力、Mは慣性項、Dは粘性項、Kは剛性項といったインピーダンスである。また、Pは位置、Δtはサンプリングタイムを示す。
【0035】
以下の数式2は、数式1の剛性項を、生体電位情報に基づいたものに変更した生体電位可変インピーダンス制御式を示す。
【数2】
【0036】
生体可変剛性マトリクスK
BESは以下の数式3で算出される。
【数3】
【0037】
数式3において、F
BES0〜F
BES2は生体電位情報、k
0〜k
2は調整用ゲイン、K
0〜K
2はオフセット調整項である。本実施形態では、
図2に示すように3関節(肩2、肘1)における生体電位情報を用いているため、生体可変剛性マトリクスK
BESは3×3マトリクスとなっている。また、生体電位情報F
BESは以下の数式4で求められる。
【数4】
【0038】
数式4において、wはバランスゲイン、E
fは屈曲時の生体電位信号、E
eは伸展時の生体電位信号である。
【0039】
このような生体電位可変インピーダンス制御を取り入れたマスタスレーブ型マニピュレーションシステムの動作を、
図4を用いて説明する。
【0040】
マスタアーム装置1の生体電位センサ11は、装着者0の生体電位信号を検出し、コントローラ14に渡す。コントローラ14は、受け取った生体電位信号から関節トルク情報を取得し(関節トルクを推定し)、アクチュエータ13を制御してマスタアーム装置1を動作させる。角度センサ12は、この動作によるマスタアーム装置1のアームの各関節の変位を検出する。コントローラ14は、各関節の変位からアームの手先位置情報(手先位置の移動量)を算出する。また、コントローラ14は、数式3、4に基づいて、生体電位信号から生体可変剛性マトリクスK
BESを算出する。通信装置15は、算出された手先位置情報及びインピーダンス情報(生体可変剛性マトリクスK
BES等)をスレーブアーム装置2の通信装置25へ送信する。
【0041】
通信装置25は、通信装置15から受信した手先位置情報及びインピーダンス情報をコントローラ24に渡す。コントローラ24は、受け取ったインピーダンス情報をスレーブアーム装置2に適用し、手先位置の移動量及び力覚センサ21により得られた力情報に基づいて、アクチュエータ23を制御し、スレーブアームの手先位置の追従を行う。コントローラ24は、関節角度センサ22の検出結果からスレーブアームの手先位置情報(手先位置の移動量)を算出する。そして、通信装置25が、力情報及び手先位置情報(手先位置の移動量)をマスタアーム装置1の通信装置15へ送信する。
【0042】
マスタアーム装置1のコントローラ14は、通信装置15を介して受信した力情報からヤコビアンを用いて、手先力を各関節トルクに変換し、さらに位置偏差を用いて、アクチュエータ13を制御し、装着者0に力覚フィードバックを行う。また、このマニピュレーションシステムでは、装着者0の視覚フィードバックにより、アームの手先位置の絶対座標のフィードバック制御が行われる。
【0043】
図5は、本実施形態による生体電位可変インピーダンス制御を導入したバイラテラル制御手法におけるブロック図である。
図5におけるBES可変インピーダンスコントロールモデルが、生体電位可変インピーダンス制御における仮想インピーダンスを実現する物理モデルとなる。このモデルにおけるインピーダンスを制御することで、マスタアーム装置1の各アーム特性を自由に設定できるようになる。
【0044】
このように、生体電位信号を検出して関節トルクを推定しマスタアームを動作させることで、マスタアームに装着者0の腕・筋肉の特性をリアルタイムに反映することができる。また、マスタアーム装置1とスレーブアーム装置2との間で送受信するデータを、関節角度データでなく、手先位置座標の移動量とすることで、マスタアーム装置1とスレーブアーム装置2とでタイプ(自由度)が異なる場合でも、容易に制御を行うことができ、汎用性・操作性を高めることができる。
【0045】
また、生体電位情報に基づく生体電位可変インピーダンス制御により、変位出力がない関節剛性を高めるといった動作の制御が可能となり、直感的でしなやかな動作を行うことができる。また、ロボットのインピーダンス調整を装着者0自身が、意識や特別な操作を必要とすることなく、直感的に行うことができ、マスタアーム装置1と装着者0をよりシームレスに接続することができる。装着者0は、ロボットアームを自分の腕のように動かすことができる。
【0046】
このように本実施形態によれば、オペレータの生体電位情報を用いてロボットアームのインピーダンスを動的に変化させることで、マニピュレーションシステムの操作性を向上させることができる。
【0047】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。