(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1および
図2は第1の実施の形態に係る通水用栓を示す。
図1は通水用栓を鋼材に取り付けた状態を示す断面図、
図2は通水用栓を示し、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は背面図である。
【0022】
通水用栓16は、地盤中に設置される後述する鋼材2の排水用部材3に形成された開口部5に取り付けられるものであって、栓本体6a、栓離脱防止部6b,6c、フィルター7、フィルター防護部材8等を備えている。
栓本体6aには、その軸方向(
図1において左右方向)に貫通する貫通孔6dが形成されており、この貫通孔6dに前記フィルター防護部材8が設けられている。フィルター防護部材8は、フィルター7の損傷を防止するためのものであり、メッシュ状に配置された多数の防護部材通水孔8aを有しており、これによって通水性を有している。なお、このような防護部材通水孔8aは、縦横に格子状に配置された桟材8bによって形成された孔である。
【0023】
前記防護部材通水孔8aは四角形状に形成されているが、この防護部材通水孔8aの形状は四角形に限るものでなく、円形、多角形、またはその他の形状などに形成してもよい。また、フィルター防護部材8の各通水孔8aの大きさ、形状は等しくなっているが、異なる大きさ、形状としてもよい。また、フィルター7は、後述する排水機能付鋼材1の施工時に地盤との摩擦によって破損するおそれがあるため、通水用栓16にはフィルター防護部材8を設けている。フィルター防護部材8の防護部材通水孔8aの大きさは対象とする地盤を構成する石や砂の大きさを考慮し適宜設定すればよい。例えば、一般的には、防護部材通水孔8aの大きさは、フィルター7のメッシュまたは間隙以上で、地盤特性や通水用栓の寸法を考慮して0.5〜50mm程度に設定することができる。ただし、防護部材通水孔8aに水溶性物質SBを充填する場合は、水溶性物質SBにも補完的にフィルター7を防護する機能を持たせることができるので、防護部材通水孔8aの大きさは0.5〜50mm程度の範囲より大きく設定することもできる。フィルター防護部材8の材料は、例えば、塩化ビニール、ポリエチレン、ナイロン、ポリプロピレンなどの合成樹脂、ゴムなどでよく、フィルター防護部材8の防護部材通水孔8aの大きさ、形状、桟材8bの厚さを調整することによって所要の強度を確保すればよい。
このようなフィルター防護部材8は、標準的には、栓本体6aと樹脂の射出成形によって一体的に形成するのが効率的であるが、フィルター保護部材8を栓本体6aと接着により接合させる場合は、フィルター防護部材8はステンレス、チタンなどの金属製材料から製作したものを用いることもできる。
【0024】
前記フィルター7は、供用時、フィルター防護部材8を通過する土粒子が後述する排水用部材3内へ流入するのを防止するものであり、薄い経編布や不織布等によって形成されたものである。
また、フィルター7は、ステンレス製のフィルターを用いてもよく、合成繊維製のものや合成樹脂製のものを用いてもよい。発錆の懸念があるときは、後者のフィルターの方が好ましく、例えばナイロン製、ポリエチレンモノフィラメント製、ポリエステル製などの経編布や、ポリプロピレン製、ポリエステル繊維製などの不織布などを用いることができる。また、合成繊維どうし、あるいは合成繊維と合成樹脂を組み合わせたり、重ね合せたりして、フィルターとしてもよい。また、薄い合成繊維製フィルターを一重に設けてもよいし、このフィルターを二重に設けてもよい。
【0025】
フィルター7としての経編布や不織布、またはステンレス製フィルターなどのメッシュまたは間隙は、液状化防止などの対象とする地盤(一般には砂地盤)の土の粒径分布を勘案して、土砂によるフィルターの目詰まりを起こさないように設定するのがよい。このメッシュまたは間隙は、液状化の可能性のある地盤で、土の粒径が特別大きく、比較的均一に分布している地盤では1〜3mm程度に大きく設定することも可能であるが、こうした地盤は少なく、液状化の可能性のある一般的な地盤では1〜3mm程度以下と小さく設定するのがよい。また、フィルター7は目詰まり防止のためには一般に薄い方が望ましい。
このためにも、通水用栓にはフィルター7を防護する部材が必要となる。
【0026】
前記フィルター防護部材8の防護部材通水孔8aには、水溶性物質SBが充填されている。水溶性物質SBは、所定時間経過後(例えば3週間以内)に水に溶ける物質であればよく、例えば、水溶性ポリマーのメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの水との混合物、塩化ナトリウム系、あるいはポリビニルアルコール系の物質等が挙げられる。このような水溶性物質を用いることにより、前記効果が発揮されるが、それ以外でも、水溶性物質として所定時間以内(すなわち、排水機能付鋼材1の地盤打設後、工事が竣工するまでの時間以内。場合により1〜6ケ月くらいでもよい)に地下水に溶けるものなら特に限定されない。
このような水溶性物質SBを防護部材通水孔8aに充填するには、例えば、栓本体6aを射出成形によって形成したうえで、フィルター7を取り付けた後、当該フィルター7の裏面側(フィルター補強部材10側)に防護部材通水孔8aを裏側から塞ぐ塞ぎ板を配置し、次に、フィルター防護部材8の表面側から水溶性物質SBを防護部材通水孔8aに充填すればよい。
【0027】
前記栓離脱防止部6b,6cは、通水用栓16を取り付けた鋼材2を地盤に施工する際に、通水用栓16の鋼材2からの離脱を防止するものである。栓離脱防止部6bは、
図1に示すように、通水用栓16を鋼材2に形成された開口部5に挿入する先端部側と反対側の端部(
図1において左側の端部)に形成されている。また、栓離脱防止部6bの直径は開口部5の直径より大きくなっている。
また、
図2(a)に示すように、栓離脱防止部6bは、栓本体6aの左端部に一体的に、円板状に形成されている。この円板状の栓離脱防止部6bの外周部には、斜めに傾斜する環状の傾斜面6gが形成されており、この傾斜面6gと円板状の栓離脱防止部6bの裏面とのなす角度をθとすると、θ≦60°に設定されている。
ここでθをこのように設定したのは、θが60°を超えると、鋼材2を地盤に施工(打設)する際に、栓離脱防止部6bが土砂の圧力によって捲れあがって鋼材2から外れ易くなるからである。また、θが小さい場合には、栓離脱防止部6bの外周先端部は薄くなり地盤との摩擦により破断しやすくなる。この場合は、先端部を面取りして破断を回避すればよい。
【0028】
栓離脱防止部6cは、栓本体6aの右端部に一体的に、円板状に形成されており、その直径は開口部5の直径より大きくなっている。また、栓本体6aには、スリット6sが栓本体6aの周方向に等間隔で例えば4つ形成されている。スリット6sの数は、栓本体6aの材質、強度、形状等により栓離脱防止部6cが適切に縮径できるなら4に限らず適当な数に設定する。さらに当該スリット6sは栓本体6aの軸方向中央部から栓離脱防止部6bにかけて形成されている。スリット6sの底部s1は円弧状に形成されており、対向する辺部s2,s2と滑らかに接続されているのが望ましい。
このようにスリット6sを形成することによって、栓離脱防止部6cは弾性的な縮径を効率的に可能とし、縮径した状態では、栓離脱防止部6cの直径は開口部5の直径以下となっている。
また、スリット6sの底部s1と辺部s2,s2とが滑らかに接続されているので、栓離脱防止部6cを弾性的に縮径させ、さらに弾性復帰によって元に戻るような場合においては、底部s1の端部から亀裂等が生じることを防止できる。
以上、フィルター防護部材8が栓本体6aと一体的に形成される例を示したが、フィルター補強部材10が栓本体6aと一体的に形成され、後からフィルター7、フィルター防護部材8を栓本体6aにその外周を溶着させて取り付けることもできる。
【0029】
このような構成の通水用栓16を開口部5に取り付ける場合、栓離脱防止部6c側を開口部5に当てがい、栓離脱防止部6b側をハンマーなどで打撃または静的に圧入することにより、容易に取り付けることができる。栓離脱防止部6cの径は開口部5より大きいが、取り付け時は、開口部5の径まで弾性的に縮径され、この開口部5を栓離脱防止部6cが通過すると弾性復帰して拡径し、栓離脱防止部6cが開口部5の縁部に係止することによって、取り付けが完了する。
【0030】
前記通水用栓16は例えば以下のような排水機能付鋼材に取り付けられて使用される。
図3および
図4は排水機能付鋼材を示すもので、
図3の各図は排水機能付鋼材1の斜視図、
図4(a)は排水機能付鋼材1の正面図、
図4(b)は
図4(a)におけるA−A線断面図、
図4(c)は排水機能付鋼材を地盤に設置した状態を模式的に示す図である。また、
図4(d)、(e)は排水機能付鋼材の他の態様における断面を表し、それぞれ排水用部材断面が矩形、円形に閉断面で排水路を形成する例を示す図である。これらの排水用部材3が閉断面の場合では、排水用部材3は、鋼材2の長手方向全長にわたり接合されている必要はなく、鋼材2に一部だけ接合されていてもよい。なお、
図4(e)は、
図3(d)に示す排水機能付鋼材の断面図である。
また、排水用部材3が閉断面の場合には、前述したような通水用栓3を取り付けた排水用部材3そのものを、鋼材2に接合することなく単独で、一定の間隔で液状化地盤に打設することにより液状化対策用の排水機能付鋼材として供用することも可能である。
【0031】
排水機能付鋼材1は、通常鋼矢板と同様に互いの継手を介して壁状に設置され、鋼材(矢板)2と、この鋼材2に当該鋼材2の長手方向に沿って所定区間に設けられた排水用部材3とを備えている。
なお、
図4(a)においては排水機能付鋼材1の長さを実際のものに比して短く図示している。
鋼材2はU形鋼矢板であり、ウェブ2aと、ウェブ2aの両側縁からそれぞれ互いに広がるように斜めに延出する一対のフランジ2bと、左右のフランジ2bの先端に設けられた継手2cとを備えている。
【0032】
排水用部材3は例えば溝形状の鋼材で形成された横断面コ字形のものであり、そのフランジ3b,3bが排水用部材3のウェブ2aに溶接によって固定されている。これによって、排水用部材3と鋼材2との間に排水路4が排水用部材3の長手方向に沿って形成されている。なお、
図4(d)、(e)に示すように排水用部材3は、横断面コの字状に限ったものでなく、角形や円形のように閉断面形状のものでもよく、この場合は鋼材2の所定区間に少なくとも排水用部材3の一部(例えば排水用部材3の下端部のみ、あるいは排水用部材3の下端と上端)で接合されていればよい。
また、溝形状鋼材で構成される排水用部材3も、鋼材2と長手方向全長にわたって全く隙間なく接合されている必要はなく、部分的に少しの隙間があってもよい。すなわち、排水用部材3内の空間には当該排水用部材3の下端部に多少たまる程度の地盤細粒分は入っても、土砂が多く入り排水用部材3内の空間が土砂で占有され、排水路としての機能に支障をきたすことがなければよい。例えば、排水部材3の溝形状鋼材の両側のフランジ端部と鋼材2は長手方向に全区間連続的に溶接されていなくても、その隙間から地盤の細粒分が殆ど入らなければ、排水用部材3と鋼材2の接合は断続溶接であってもよい。
排水用部材3の材質は鋼製、ステンレス製、チタン製などの金属製が好適であるが、地盤に打設し液状化対策などに供用されるものであるから、地盤の圧力によって損壊するなどしないよう必要な耐圧力、加工性、耐久性を有するなど条件を満たせば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成樹脂製、金属と樹脂の複合材料製など他の材料であってもよい。
なお、排水用部材3は、横断面コ字形の場合、閉断面形状の場合であっても、ウェブ2aの幅方向中央部付近に取り付けるのが施工性などの観点から望ましい。
また、排水用部材3は、横断面コ字形、閉断面形状に限られるものではなく、板状のものを用いて、鋼材2のウェブおよびフランジを利用して、排水路4を確保する構造であってもよい。
【0033】
矩形状の排水用部材3の横断面における隅角部3cは排水用部材3のウェブ3aとフランジ3bとを段差なく滑らかに接続するような曲線状に形成されることが好ましい。すなわち、
図4(b)に示すように、隅角部3cは略円弧状の曲線状に形成することが好ましい。なお、隅角部3cは曲線状に限ったものでなく角状でもよい。
【0034】
排水用部材3の少なくともウェブ3aには、水を流通可能とする多数の開口部5が設けられている。この開口部5は円形状のものであり、これら多数の開口部5のうち、後述する流入区間K2に設けられた開口部5に、
図1および
図2に示す前記通水用栓16が取付けられている。
【0035】
前記排水用部材3の下端部には、
図3および
図4(a)に示すように、排水機能付鋼材1の施工時に土砂の侵入を防ぎ、貫入性を増すために、先端部材9が設けられている。
図3(a)〜(c)および
図4(a)に示す先端部材9は、下方に向かうほど鋼材2のウェブ2aに近づくように、排水用部材3のウェブ3aに対して傾斜した傾斜板9aと、この傾斜板9aの両側縁部とウェブ2aとの間に設けられて、当該間を塞ぐ三角形板9bとから構成されている。傾斜板9aと両側の三角形板9bは一体的に成形したものでもよい。また、
図3(d)に示す先端部材9は、円形状の排水部材3を斜めに切断し、下方に向かって傾斜した楕円状板を取り付け、地盤への貫入性を助長できるよう構成されている。
【0036】
また、排水機能付鋼材1の施工時に通水用栓16の損傷、つまりフィルター7の損傷を避けるため、排水用部材3の下端部には、フィルター保護プレート12が取り付けられている。
このフィルター保護プレート12は、
図3および
図4(a)に示すように、矩形板状あるいは円弧状板のものであり、その上面はフィルター7が設けられた通水用栓16の上面より突出している。これによって、排水機能付鋼材1の施工時に土砂が通水用栓16の上面に干渉するのを防止しており、これによって、フィルター7の損傷を防止している。
また、フィルター保護プレート12の幅は排水用部材3の幅以下となっている。
また、排水用部材3の上端部には、その上端開口を塞ぐ蓋部材11が取り付けられている(
図3(a)〜(d)参照)。
【0037】
前記排水用部材3はその長手方向に複数の区間として分けることもできる。すなわち、
図4(c)に示すように、排水用部材3は、排水路4から地盤に排水する排水区間K1と、地盤から水が排水路4に流入する流入区間K2とに分けることができる。
一般的には、排水区間K1においては、多数の開口部5が密に配置されており、流入区間K2においては、多数の開口部5が疎に配置されている。
すなわち、排水区間K1における単位長さあたり(排水用部材3の長手方向における単位長さあたり)の開口部5の開口面積が、流入区間K2における単位長さあたり(排水用部材3の長手方向における単位長さあたり)の開口部5の開口面積より大きくなっている。つまり、排水区間K1における単位長さあたりの複数の開口部5の開口面積の総和が、流入区間K2における単位長さあたりの複数の開口部5の開口面積の総和より大きくなっている。
また、排水区間K1における開口部5の総開口面積は、排水路4の通水断面積以上となっている。
ただし、排水機能付鋼材を設置する液状化地盤の性質などにより、排水用部材3の単位長さあたりの複数の開口部5の開口面積の総和は、流入区間と排水区間と同じであってもよい。
【0038】
そして、排水区間K1に設けられた多数の開口部5に、
図5に示すような、通水用栓6が取り付けられ、流入区間K2に設けられた多数の開口部5に、
図1に示すような、水溶性物質SBが充填された通水用栓16が取り付けられている。
【0039】
すなわち、排水用部材3は液状化層に設置され、液状化時、排水用部材3内に地盤の間隙水が流入することにより地中の間隙水圧の上昇を抑止するが、排水用部材3に入った間隙水は排水用部材3の上部の排水区間K1から、排水用部材3の外へ流出させる必要がある。通常、排水用部材3の上部は、地下水面より上に設置し、地下水位面以下をの液状化層の間隙水を排出する排水区間K1とするのがよい。
そのため、排水用部材3の上部は、
図4(c)に示すように、間隙水が排出されやすいように、砕石(空隙率を確保できる単粒度砕石が望ましい)からなる通水性の良い単粒度砕石Sを設け排水用部材3に接触させるとよい。この排水区間K1は、地下水位が存在しないので、その部分に水溶性物質SBが充填された通水用栓16を設けても水溶性物質SBが溶け難く排出に支障をきたすので、水溶性物質SBが充填されていない前記通水用栓6を開口部5に取り付ける。
【0040】
このように、排水区間K1に設けられた開口部5に、
図5(a)または(b)に示す、水溶性物質SBが充填されていない通水用栓6を取り付けることによって、地盤から排水用部材3の排水路4に流入する水が排水路4を通って排水区間K1から十分に排水されることになる。
なお、
図5(a)または(b)に示す通水用栓6は、フィルター防護部材8に設けられた防護部材通水孔8aあるいはフィルター補強部材10に設けられた補強部材通水孔10aに水溶性物質SBが充填されていないものであり、その他の構成は通水用栓16、16a、16bと同一であるので、同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0041】
一方、排水区間K1より下方の流入区間K2には、水溶性物質SBが充填された通水用栓16を設ける。つまり流入区間K2に存在する開口部5に通水用栓16を取り付けることによって、鋼材2の地盤への打設時に、フィルター7は地盤との摩擦から保護されるとともに粘性土や砂の細粒分が付着しないので目詰まりし難く液状化時に排水性能を十分発揮できるとともに、上部の排水区間K1からは液状化時、間隙水が確実に排出される。
【0042】
なお、排水区間K1および流入区間K2のいずれにおいても、排水用部材3の正面側の開口部5は排水用部材3の長手方向(
図4(a)において上下方向)に沿って、かつ横方向に2列平行に配置された場合を例に示した。しかし、排水用部材3の開口部5はこうした2列配置に限らず、通水用栓16が大きい場合など長手方向に沿って、横方向に単列に配置されていてもよい(
図3(c)参照)。また、開口部5は排水用部材3の正面部分だけでなく側面部分に配置されていてもよい(
図3(b)参照)。さらには、排水用部材3が円形の閉断面を有し排水用部材3上に開口部5が配置されていてもよい(
図3(d)参照)。
また、排水区間K1は、地中から流入した水が十分に排水されるだけの開口面積が必要であり、その区間を網羅するように単粒度砕石Sを設置する必要がある。
この時、砕石を設置する費用を考えると、出来る限り単粒度砕石層の厚さを薄くする方が材料・施工面で経済性に優れる。それには、排水用部材上部の排水区間K1の開口部5の総面積をできるだけ大きく設定することが効果的である。
開口総面積を向上させる構造としては、個々の開口部5の断面積を大きくする方法や、開口部5の長手方向ピッチを狭くする方法、排水用部材3の断面が溝形状や矩形状の場合、ウェブ3aに加えてフランジ3bにも開口部を設ける方法等がある(
図3(b)参照)。また、開口部5の形状は円形に限らず、楕円形、矩形、多角形のものなどその形状は限定されなく、通水用栓6、16は当該開口部5に嵌設できるのであればよい。
【0043】
以上のように本実施の形態によれば、通水用栓6,16の栓本体6aの貫通孔6dにフィルター防護部材8が設けられているので、鋼材2を地盤に打設する際に、土砂等によってフィルター7が損傷するのを防止できる。
また、排水用部材3の流入区間K2に存在する開口部5に通水用栓16が取り付けられており、この通水用栓16のフィルター防護部材8の防護部材通水孔8aに水溶性物質SBが充填されている。したがって、栓本体6aの貫通孔6dに水溶性物質SBを充填する場合に比して、水溶性物質SBの栓本体6aへの付着力が高まるとともに、当該水溶性物質SBがフィルター防護部材8によって保護されることになる。
したがって、排水機能付鋼材1を地盤に打設する際に、この水溶性物質SBが削り取られるのを防止して、フィルター7の地盤側への露出を防止できるので、当該フィルター7への微細な粘性土の粒子の付着を防止できる。
【0044】
また、間隙水を排出する排水用部材3の上部の排水区間K1においては、水溶性物質SBが充填されていない通水用栓6が開口部5に取り付けられ、排水区間K1より下方の流入区間K2においては、水溶性物質SBが充填された通水用栓16が開口部5に取り付けられているので、排水機能付鋼材1の地盤への打設時には、流入区間K2においてフィルター7は水溶性物質SBの存在によって、目詰まりし難く、所定時間経過後に当該水溶性物質SBは水(地下水)に溶けて消失する。一方、排出区間K1に設けられている通水用栓6は水溶性物質SBが充填されていないので、当該排出区間K1に地下水位が存在しなくても通水性には問題がない。
したがって、液状化時には、間隙水を下部の流入区間K2から排水用部材3内の排水路4に流入させ、上部の排水区間K1から外部に確実に排水できる。
【0045】
以上は一般的な通水用栓の取り付け方を示したが、流入区間の一部に粘性土層がある場合などその層以下に相当する排水用部材の開口部にSBの充填された栓を用い、その上部にはSBが充填されていない栓を用いることもできる。また、排水区間には常に地下水はないが、地盤上部からは雨水等が流入したり、湿度があるのでSBの溶解時間を調整すれば雨水等で所定時間内に溶解し排水用部材3が機能を発揮できるので、排水区間含め全区間の開口部5にSBを充填した当該栓を取り付け、当該栓の単純化を図ることもできる。
前述したように、条件により、排水用部材3の開口部5の全部または一部にSBを充填した当該栓を、あるいは排水用部材3の開口部5の一部にSBを充填しない当該栓を取り付けることもできる。本発明では、排水用部材3の一部にでもSBを充填した当該栓を取り付け、フィルター7の機能を安定した発揮を図ることができる。
【0046】
また、排水用部材3の排水区間K1における単位長さあたりの開口部5の開口面積が、流入区間K2における単位長さあたりの開口部5の開口面積より大きくすれば、地震時に過剰間隙水圧が高まって、液状化層から排水用部材3に流入する水が排水路4を通って排水区間K1から十分に排水される。
さらに、排水区間K1における開口部5の総開口面積が、排水路4の通水断面積以上であるので、地盤から排水用部材3内に流入し、排水路4を通った水は排水区間K1から十分に排水される。
このように、流入区間K2から排水用部材3内に流入し、排水路4を通った水を排水区間K1から十分に排水できるので、排水効果を十分に発揮できる。
ただし、排水用部材3の単位長さ当たりの開口部5の総面積がある値以上の場合や液状化地盤の性質等によっては、排水区間K1と流入区間K2の単位長さ当たりの開口総面積が同じとすることもできる。この場合、排水用部材3の仕様の単純化という利点が得られる。
【0047】
また、排水用部材3の横断面における隅角部3cを曲線状に形成した場合には、
排水機能付鋼材1をウォータジェットを用いて打設した後に、ウォータジェットホースを引き抜く際に、当該ウォータジェットホースが隅角部3cに接しても、当該隅角部3cとの摩擦が大きく低減され、ウォータジェットホース損傷を抑止できる。
また、フィルター保護プレート12の幅が排水用部材3の幅以下と狭くなっているので、ウォータジェットホースを引き抜く際にウォータジェットホースがフィルター保護プレート12の端部に接触するのを防止して、ウォータジェットホースの損傷をさらに防止できる。
【0048】
(第2の実施の形態)
図6は第2の実施の形態に係る通水用栓を示すもので、当該通水用栓を排水用部材に取り付けた状態を示す断面図である。
図6に示す通水用栓16aが
図1および
図2に示す通水用栓16と異なる点は、栓本体6aの貫通孔6dにフィルター補強部材10を設けた点であり、その他の部分は通水用栓16と同一であるので、同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0049】
図6に示すように、栓本体6aの貫通孔6dには、通水性を有するフィルター補強部材10がフィルター7を挟んでフィルター防護部材8と反対側に設けられている。
フィルター補強部材10は、地盤側からフィルター7に土水圧が作用した際に、フィルター7が栓本体6aから剥がれたり、破損したりするのを防止するものであり、一般にはフィルター防護部材8の厚さが同じか、若干薄く形成することができるが、場合によってはフィルター防護部材8より厚くなってもよい。
【0050】
また、フィルター補強部材10は、メッシュ状に配置された多数の補強部材通水孔10aを有しており、これによって通水性を有している。なお、このような補強部材通水孔10aは、縦横に格子状に配置された桟材10bによって形成された孔である。
補強部材通水孔10aは四角形状に形成されているが、この補強部材通水孔10aの形状は四角形に限るものでなく、円形、多角形その他の形状に形成してもよい。また、補強部材通水孔10aの大きさ、形状、個数は前記防護部材通水孔8aの大きさ、形状、個数と等しくなっており、さらに補強部材通水孔10aが、防護部材通水孔8aと栓本体6aの軸方向において重なっている。つまり、多数の防護部材通水孔8aと多数の補強部材通水孔10aとは、栓本体6aの軸線視において一致して配置されている。
なお、このような防護部材通水孔8aと補強部材通水孔10aとは栓本体6aの軸線視において一致して配置されていなくても、防護部材通水孔8aが、補強部材通水孔10aの少なくとも一部と栓本体6aの軸方向において重なっていればよい。
【0051】
このようなフィルター補強部材10は、フィルター防護部材8と同様の材料によって、栓本体6aとは別体に射出成形によって形成することができる。そして、別体に形成されたフィルター補強部材10は、栓本体6aの貫通孔6dに、フィルター防護部材8とによってフィルター7を挟んだ状態で設けられている。
【0052】
ここで、フィルター防護部材8が一体的に形成された栓本体6aにフィルター7とフィルター補強部材10を取り付ける方法について
図7を参照して説明する。
この場合、
図7(a)に示すように、フィルター防護部材8が栓本体6aと一体的に射出成形によって形成されている。また、栓本体6aには貫通孔6dの外周側には段差部がなく、貫通孔6dの周方向には、フィルター7とフィルター補強部材10を溶着させる面6gが環状に形成されている。
次に、
図7(b)に示すように、フィルター7を貫通孔6dに配置し、当該フィルター7の外周部を前記環状部6gに当接する。このとき、必ずしも当該フィルター7の外周部を前記環状部6gに熱溶着させる必要はない。むしろ、当該フィルター7の外周部は溶着させないで前記環状部6gに当接したままで次のステップに進む方が熱溶着の工程を省略することができ望ましい。
次に、
図7(c)に示すように、フィルター補強部材10を貫通孔6dに配置するとともに、フィルター7を挟んで当該フィルター補強部材10の外周部を前記環状部6gに当接したうえで、フィルター補強部材10の外周部を前記環状部6gにフィルター7の外周部とともに熱溶着する。これによって、フィルター7とフィルター補強部材10の外周部が貫通孔6dの内周部に1回の熱溶着で接合される。
このようにして、フィルター7をフィルター補強部材10とフィルター防護部材8とで挟んだ状態とすることによって、フィルター補強部材10による補強効果を確実に発揮させることができる。
なお、
図7(c)では、フィルター7は、フィルター防護部材8とフィルター補強部材10の両者に接触して配置されているので、フィルター7にどの方向から圧力がかかってもこれらの両者によって補強される。また、フィルター7とフィルター補強部材10は、1回の熱溶着によってそれらの外周が栓本体6aに固定されるので合理的に加工できる。
【0053】
本実施の形態では、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる他、通水用栓16aの栓本体6aの貫通孔6dに、フィルター7を挟んで通水性を有するフィルター防護部材8と通水性を有するフィルター補強部材10とが設けられているので、鋼材2を地盤に打設する際に、地盤側からフィルター防護部材8を通してフィルター7に土水圧が作用しても、フィルター補強部材10によってフィルター7の膨らみを抑制できる。したがって、フィルター7が膨らんで栓本体6aから剥がれたり、破損したりするのを防止できる。また、地盤の液状化時においても同様にしてフィルター7の剥がれや破損を防止できるという効果を得ることができる。
【0054】
(第3の実施の形態)
図8は第3の実施の形態に係る通水用栓を示すもので、当該通水用栓を排水用部材に取り付けた状態を示す断面図である。
図8に示す通水用栓16bが
図6に示す通水用栓16aと異なる点は、フィルター防護部材8の防護部材通水孔8aに加えて、フィルター7およびフィルター補強部材10の補強部材通水孔10aにも水溶性物質SBを充填した点であり、その他の部分は通水用栓16aと同一であるので、同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0055】
このような水溶性物質SBを防護部材通水孔8a、フィルター7および補強部材通水孔10aに充填するには、例えば、栓本体6aと防護部材10を一体的に射出成形により形成したうえで、フィルター7とフィルター補強部材10を取り付けた後、当該フィルター補強部材10の裏面側に補強部材通水孔10aを裏側から塞ぐ塞ぎ板を配置し、次に、フィルター防護部材8の表面側から水溶性物質SBを防護部材通水孔8aおよび補強部材通水孔10aに充填すればよい。補強部材通水孔10aには、防護部材通水孔8aからフィルター7を通ってSBが充填される。
【0056】
このような通水用栓16bは、前記流入区間K2に設けられた開口部5の全部または一部に取り付けられて使用される。なお、排水区間K1に設けられた開口部5の全部または一部には前記通水用栓6が取り付けられる。また、前述したように、場合によっては、排水用部材3全区間の開口部5に通水用栓16bを取り付けてもよい。
【0057】
本実施の形態によれば、前記第2の実施の形態と同様に効果を得ることができる他、フィルター防護部材8の防護部材通水孔8aとフィルター7、およびフィルター補強部材10の補強部材通水孔10aに、水溶性物質SBが充填されているので、現場において通水用栓16bが取り付けられた排水機能付鋼材1を仮置きしている場合等に、フィルター7を当該水溶性物質SBによって、細かい塵埃、浮遊・飛散粒子等の付着から保護できるという効果を得ることができる。
【0058】
(第4の実施の形態)
図9は第4の実施の形態に係る通水用栓を示すもので、当該通水用栓を排水用部材に取り付けた状態を示す断面図である。
図9に示す通水用栓16cが
図1に示す通水用栓16と異なる点は、フィルター防護部材8の防護部材通水孔8a、フィルター7およびこの防護部材通水孔8aより前側(
図9において左側)の貫通孔6dの部分に水溶性物質SBを充填した点と、フィルター補強部材を付加しそこにも水溶性物質SBを充填した点であり、その他の部分は通水用栓16と同一であるので、同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0059】
このような水溶性物質SBを防護部材通水孔8aおよび前記貫通孔6dの部分に充填するには、例えば、栓本体6aを防護部材10とともに一体成形したうえで、フィルター7とフィルター補強部材20を取り付けた後、当該補強部材20の裏面側に防護部材通水孔8aを裏側から塞ぐ塞ぎ板を配置し、次に、フィルター防護部材8の表面側から、水溶性物質SBを前記貫通孔6dの部分および防護部材通水孔8aに充填すればよい。
このようにして、水溶性物質SBを充填することによって、貫通孔6dに、フィルター防護部材8の前方において水溶性物質SBがフィルター防護部材8に密着して充填されている。
【0060】
また、フィルター補強部材20は、メッシュ状に配置された多数の補強部材通水孔20aを有しており、これによって通水性を有している。補強部材通水孔20aの形状は、防護部材通水孔8aと相似形となっているが、その大きさが、防護部材通水孔8aより大きくなっている。また、補強部材通水孔20aの個数は防護部材通水孔8aより少なくなっている。
さらに、防護部材通水孔8aは、補強部材通水孔20aの一部と栓本体6aの軸方向において重なっている。また、防護部材通水孔8aを形成する格子状の桟材8bの一部は、補強部材通水孔20aを形成する格子状の桟材20bの一部と栓本体6aの軸方向において重なっており、前記格子状の桟材8bの残りの一部は補強部材通水孔20aと栓本体6aの軸方向において重なっている。
このように、防護部材通水孔8aが、補強部材通水孔20aの一部と栓本体6aの軸方向において重なることによって、防護部材通水孔8aを通った水はフィルター7を通り、さらに補強部材通水孔20aをスムーズに通るようになっている。
【0061】
本実施の形態によれば、前記第1の実施の形態と同様に効果を得ることができる他、水溶性物質SBが、防護部材通水孔8a、フィルター7、フィルター補強部材20に加え、フィルター防護部材8の前方の貫通孔6dにも充填されているので、水溶性物質SBの栓本体6aの軸方向における厚さが厚くなり、よって、水溶性物質SBによるフィルター7の保護機能が高まるという効果を得ることができる。
以上では、通水用栓16,16a〜16cを鋼材2の排水用部材3に形成された開口部5に取り付ける場合を例にとって説明したが、通水用栓16,16a〜16cを取り付ける鋼材としては、本実施の形態のU形鋼矢板に限ることなく、ハット形矢板、Jパイル(近接土留め用鋼材)、直線形鋼矢板、Z形鋼矢板、鋼管矢板、鋼管杭、SC杭、さらにはこれら組み合わせた鋼材であってもよい。
【0062】
図10は本発明の通水用栓が取り付けられた排水機能付鋼材1の適用例を示したものである。
図10(a)に示すように液状化地盤に設けられる、上下水施設等の沈砂池、アンダーパス、共同溝などの地中構造物21の両側に設置すれば、液状化時の地中構造物21の安定化を図ることができる。また、
図10(b)に示すように液状化地盤に設けられる、河川、鉄道、道路などの盛土22のノリ尻に打設すれば、盛土22の崩壊を抑止することができる。このように本発明の通水用栓が取り付けられた排水機能付鋼材は液状化地盤に構築される地中構造物、盛土、護岸など様々な個所に耐震補強として用いられる。
図11は通水用栓6を土留め壁として打設された鋼矢板30に形成された開口部に取り付けた例を示したものである。この場合、地下水位より高い位置にある排水区間に設けられた開口部には、水溶性物質が充填されていない通水用栓6を取り付け、流入区間に設けられた開口部には、水溶性物質が充填された通水用栓16,16a〜16cを適宜選択して取り付けてもよい。また、土留め壁の場合には、原地盤に鋼矢板を打設して鋼矢板壁を形成した後、その背後地盤に土砂を盛る場合もある。この場合は、打設時には原地盤の位置以深に相当する、鋼矢板の開口部には、水溶性物質が充填された前記通水用栓を嵌設し、地盤土砂からフィルターを防護してもよい。
さらに、通水用栓16,16a〜16dは鋼材に限ることなく、コンクリート杭やコンクリートやその他の材料で構築された壁体に形成された開口部に取り付けてもよい。