(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムはフッ素ゴム、シリコーンゴムに次ぐ耐熱性ゴムであり、150℃以上の高温に耐え、エンジンオイル、ギアオイル等の潤滑油に対して耐性を有している。そのため、高温雰囲気下で潤滑油に触れるような自動車用のパッキン、ガスケット、シール材、ホース等として使用される。アクリルゴムを用いた成形品は、アクリルゴムに充填剤、老化防止剤、加工助剤、加硫剤等の各種配合剤を混合したものを任意の型に入れて加硫し、その後さらに二次加硫を行うといった工程によって製造されている。このように、アクリルゴムは成形品の製造工程において加硫という煩雑な工程がある。
【0003】
近年では加硫ゴムに代わる材料(素材)として、加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有する熱可塑性エラストマーが自動車の内外装部品や電機分野で幅広く使用されるようになってきた。このような流れの中で、アクリルゴムに関しても熱可塑性エラストマーで代替しようとする試みがなされている。
【0004】
例えば、本願出願人が提案した熱可塑性エラストマー組成物として、特許文献1がある。ここでは、(A)アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種を主成分とし、エポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれた単量体混合物を共重合してなるアクリルゴム50〜85質量部と、(B)熱可塑性ポリエステル樹脂15〜50質量部と、(C)エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体セグメントと、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなり、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されるマトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体又はその前駆体を、成分(A)+(B)の合計100質量部に対して1〜35質量部と、(D)成分(A)100質量部に対して0.05〜5質量部の架橋剤とを含有する。
【0005】
また、(A1)カルボキシル基含有(メタ)アクリレート共重合ゴムと、(A2)エポキシ基含有(メタ)アクリレート共重合ゴムと、(B)熱可塑性コポリエステルエラストマーとからなり、成分(A1)+成分(A2)の合計含有量が10〜70質量部、成分(B)の含有量が30〜90質量部であって、成分(A1)と成分(A2)が相互に架橋されてなる熱可塑性エラストマー組成物が、特許文献2に提案されている。
【0006】
さらに、(A1’)エチレン/アルキルアクリレート/不飽和カルボン酸ポリマーと、(A2)官能基含有アクリルゴムと、(B)ポリエステルとを含む組成物に硬化剤を添加して、(A1’)エチレン/アルキルアクリレート/不飽和カルボン酸ターポリマーと(A2)官能基含有アクリルゴムが動的架橋された熱可塑性エラストマー組成物が、特許文献3に提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(A)アクリルゴムと、(B)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(C)相容化剤とを含有する。(A)アクリルゴムは、主として熱可塑性エラストマーの柔軟性(弾力性)、耐油性、耐熱性を発現する成分である。(B)熱可塑性ポリエステル樹脂は、主として熱可塑性エラストマーの成形加工性及び耐熱性を向上させる成分である。(C)相容化剤は、(A)アクリルゴムと(B)熱可塑性ポリエステル樹脂の双方に対して相容性(親和性)を示し、成分(A)及び成分(B)の機能を十分に発揮させるとともに、相乗的作用を発現させる成分である。
【0019】
〔(A)アクリルゴム〕
本発明では、(A)アクリルゴムとして、(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムと、(A2)エポキシ基含有アクリルゴムとを含有する。(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムは、エチレンを含まず、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種を主成分とし、カルボキシル基含有単量体を含む単量体混合物を共重合して得られるものである。一方、(A2)エポキシ基含有アクリルゴムは、エチレンを含まず、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種を主成分とし、エポキシ基含有単量体を含む単量体混合物を共重合して得られるものである。
【化2】
(式中、Rは水素又はメチル基であり、aは0又は1であり、bは1〜8の整数である。)
【0020】
上記一般式(1)で表される化合物には、アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルがある。アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらの中で優れた柔軟性と耐油性を発揮できるという点で特に好ましいのは、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステルである。
【0021】
アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルコキシアルキルエステル、例えばアクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチル、アクリル酸−2−ブトキシエチル等が挙げられる。これらの中で優れた耐油性を発揮できるという点で特に好ましいのは、アクリル酸−2−メトキシエチルである。これらの単量体は1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
【0022】
(A1)カルボキシル基含有アクリルゴム及び(A2)エポキシ基含有アクリルゴム中に含まれるアクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種の含有量は、85〜99.5質量%であることが好ましい。この含有量が85質量%未満の場合には、熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形品の柔軟性等の物性が低下し、99.5質量%を越える場合は、相対的にカルボキシル基含有単量体又はエポキシ基含有単量体の含有量が少なくなり、(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムと(A2)エポキシ基含有アクリルゴムによる架橋が十分に進行しない傾向を示す。
【0023】
カルボキシル基含有単量体とは、分子内にカルボキシル基を有するビニル系単量体を意味する。カルボキシル基含有単量体としては、一般的なカルボキシル基含有単量体は全て使用することができる。例えば、(メタ)アクリル酸、アクリロキシプロピオン酸、シトラコン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのエステル類、無水マレイン酸およびその誘導体等が挙げられる。なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。
【0024】
カルボキシル基含有アクリルゴム中に共重合されるカルボキシル基含有単量体の含有量は0.5〜15質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。カルボキシル基含有単量体の含有量が0.5質量%未満の場合にはアクリルゴムの架橋が十分に進行せず、熱可塑性エラストマーより得られる成形品の機械的強度(圧縮永久歪等)が劣り、15質量%を越える場合にはアクリルゴムが過度に架橋されるため、熱可塑性エラストマーの良好な成形加工性が得られない。
【0025】
エポキシ基含有単量体とは、分子内にエポキシ基を有する単量体を意味する。エポキシ基含有単量体としては、一般的なエポキシ基含有単量体は全て使用することができる。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、等が挙げられる。
【0026】
エポキシ基含有アクリルゴム中に共重合されるエポキシ基含有単量体の含有量は0.5〜15質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。エポキシ基含有単量体の含有量が0.5質量%未満の場合にはアクリルゴムの架橋が十分に進行せず、熱可塑性エラストマーより得られる成形品の機械的強度(圧縮永久歪等)が劣り、15質量%を越える場合にはアクリルゴムが過度に架橋されるため、熱可塑性エラストマーの良好な成形加工性が得られない。
【0027】
また、(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムや(A2)エポキシ基含有アクリルゴム中には、耐油性、成形加工性、柔軟性等の物性を向上させる目的で、上記以外の共重合性単量体を含有させることもできる。具体的には、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体;2−クロロエチルビニルエーテル、モノクロロ酢酸ビニル、アリルクロロアセテート等の活性塩素含有単量体;(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル等のフッ素系(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のビニルアミド;エチレン、プロピレン、イソブテン等のα−オレフィン類;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;二官能性(メタ)アクリレート類、三官能性(メタ)アクリレート類及び酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0028】
これらの共重合性単量体の共重合量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この共重合量が40質量%を越える場合、(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムや(A2)エポキシ基含有アクリルゴム中の柔軟性、耐油性、低温特性、成形加工性等の物性のバランスを損なうおそれがある。
【0029】
(A1)カルボキシル基含有アクリルゴム及び(A2)エポキシ基含有アクリルゴムのガラス転移温度(Tg)は−15〜−60℃、好ましくは−20〜−50℃、より好ましくは−30〜−50℃である。Tgが−15℃よりも高いと、熱可塑性エラストマーの柔軟性が低下する傾向にある。一方、Tgが−60℃より低いと、熱可塑性エラストマーの引張強度が低下する傾向にある。
【0030】
熱可塑性エラストマー組成物中における(A)アクリルゴムの含有量、すなわち(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムと(A2)エポキシ基含有アクリルゴムとの合計含有量は、71〜85質量部、好ましくは71〜80質量部とする。(A)アクリルゴムの含有量が71質量部未満では、熱可塑性エラストマーの柔軟性が低下する傾向にある。一方、(A)アクリルゴムの含有量が85質量部を超えると、相対的に(B)熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が低下して熱可塑性エラストマーの成形加工性が低下する。
【0031】
また、(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムと(A2)エポキシ基含有アクリルゴムとの相対比率は、成分(A1)のカルボキシル基と成分(A2)のエポキシ基のモル比(カルボキシル基/エポキシ基)で0.7〜1.5とする。当該モル比が0.7未満及び1.5を超えると、熱可塑性エラストマー中に動的架橋で消費されなかったカルボキシル基又はエポキシ基が残ってしまい、熱可塑性エラストマーの耐熱性、シール性を低下させてしまう。
【0032】
〔(B)熱可塑性ポリエステル樹脂〕
熱可塑性ポリエステル樹脂としては、主鎖中にエステル結合を持つ全ての熱可塑性飽和ポリエステルが含まれる。熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジヒドロキシ成分との重縮合、オキシカルボン酸成分の重縮合、又はこれら三成分の重縮合等の公知の方法により得ることができ、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれであってもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂は、1種又は2種以上が適宜組み合わせて使用される。
【0033】
熱可塑性ポリエステル樹脂は非結晶性であってもよいが、耐熱性の観点からは結晶性であるほうが好ましい。また、融点は100℃以上が好ましく、より好ましくは160〜280℃である。熱可塑性ポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0034】
熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中15〜29質量部、好ましくは20〜29質量部とする。熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が15質量部未満では、熱可塑性エラストマーの成形加工性が低下する傾向にある。一方、熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が29質量部を超えると、熱可塑性エラストマーの柔軟性が低下する傾向にある。
【0036】
相容化剤はグラフト共重合体であって、主鎖が、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、又はエポキシ基を含有するポリオレフィンからなる群から選ばれる一種であり、側鎖が、上記アクリルゴムの主成分と同じ、下記一般式(1)で表される化合物のうち少なくとも一種を含む重合体である。
【化3】
(式中、Rは水素又はメチル基であり、aは0又は1であり、bは1〜8の整数である。)
【0037】
グラフト共重合体の主鎖を構成するエポキシ基を含有するポリオレフィンとしては、例えばエチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられる。
【0038】
グラフト共重合体の側鎖を構成する成分としては、上記一般式(1)で表される化合物のほかに、ビニル系単量体、多官能性単量体、架橋性官能基を含有する単量体を使用することができる。ビニル系単量体としては、(A)アクリルゴムとの相容性が良好なものが好ましい。具体的には、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロスチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは側鎖を構成する成分100質量部に対して40質量部以下である必要がある。40質量部以上になると(A)アクリルゴムとの相容性が低下し、機械物性、柔軟性が低下する。
【0039】
多官能性単量体としては、2官能性アクリレート類、3官能性アクリレート類、2官能性メタクリレート類、3官能性メタクリレート類、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは側鎖を構成する成分100質量部に対して10質量部以下である必要がある。10質量部以上になると(A)アクリルゴムとの相容性が低下し、機械物性、柔軟性が低下する。
【0040】
架橋性官能基を含有する単量体としては、2−クロロエチルビニルエーテル、ビニルベンジルクロライド、ビニルクロルアセテート、アリルクロルプロピオネート、アリルクロルアセテート、アリルクロルプロピオネート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸グリシジルエステル類、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、3,4−エポキシブテン、3,4−エポキシ−メチル−1−ブテン、3,4−エポキシ−1−ペンテン、3,4−エポキシ−3−メチルペンテン、p−グリシジルスチレン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは側鎖を構成する成分100質量部に対して30質量部以下である必要がある。30質量部以上になると(A)アクリルゴムとの相容性が低下し、機械物性、柔軟性が低下する。
【0041】
これらの成分によりグラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、公知の連鎖移動法や電離性放射線照射法等を使用し得るが、製造方法が簡便でグラフト効率が高く、且つグラフト共重合体を(A)アクリルゴムや(B)熱可塑性ポリエステル樹脂と混合しやすい等の点から、次に示す方法が好ましい。先ず、水中に懸濁させた主鎖となる成分に、側鎖となる一般式(1)で表される化合物等とラジカル重合性有機過酸化物を含浸させる。一般式(1)で表される化合物等と、ラジカル重合性有機過酸化物が十分含浸した後、重合開始剤を投入し、一般式(1)で表される化合物等とラジカル重合性有機過酸化物を共重合させ、グラフト化前駆体を得る。そして、当該グラフト化前駆体を溶融混練することにより、側鎖となる成分に共重合されているラジカル重合性有機過酸化物部位と主鎖となる成分が結合することで、グラフト共重合体を得ることができる。グラフト化前駆体としては、側鎖となる成分が主鎖となる成分中に0.01〜10μmの微細な粒子となった分散相を形成している。側鎖となる成分が微細に分散することでグラフト共重合体を得ることができ、粒子が10μm以上の時、良好なグラフト共重合体を得ることができず、相容化剤として機能しない。
【0042】
ラジカル重合性有機過酸化物としては、エチレン性不飽和基と過酸化結合基とを有する単量体を使用できる。具体的には、例えばtert−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−アミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−アミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシアリルカーボネート、tert−アミルペルオキシアリルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、tert−アミルペルオキシメタリルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシメタリルカーボネート等が挙げられる。
【0043】
重合開始剤は特に限定されるものでなく、ナトリウムパーサルフェート、カリウムパーサルフェート、アンモニウムパーサルフェート、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、tert−ブチルパーオキシマレイン酸、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2−アゾビス[2−(N−フェニルアミジノ)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス[2−{N−(4−ヒドロキシフェニル)アミジノ}プロパン]ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス[2−(N−ベンジルアミジノ)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス[2−{N−(2−ヒドロキシエチル)アミジノ}プロパン]ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス[2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアジピン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリジミン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス[2−{1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イムダゾリン−2−イル}プロパン]ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2−アゾビス[2−メチル−N−{1、1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、4,4−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。
【0044】
これらの重合開始剤の使用量は、一般式(1)又は(2)で表される化合物等と、ラジカル重合性有機過酸化物の合計100質量部に対して0.05〜10質量部である必要がある。0.05質量部未満では、重合開始性能が低下し、10質量部を超えると重合安定性が低下する。
【0045】
グラフト化前駆体を溶融混練する際の混練機としては、例えばバンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等を使用できる。混練温度は、100〜300℃程度、好ましくは120〜280℃程度とすればよい。混練温度が低すぎると、溶融が不完全となり、溶融粘度が高くなって混合が不十分となることで、グラフト共重合体の相分離や層状剥離が生じる可能性がある。一方、混練温度が高すぎると、グラフト化時に分解又はゲル化が起こり易くなる。
【0046】
グラフト共重合体(相容化剤)の含有量は、(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムと、(A2)エポキシ基含有アクリルゴムと、(B)熱可塑性ポリエステル樹脂との合計((A1)+(A2)+(B))100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは3〜10質量部とする。グラフト共重合体の含有量が成分(A1)+(A2)+(B)100質量部に対して1質量部未満では、相容化剤として十分な機能を発現できない。一方、グラフト共重合体の含有量が成分(A1)+(A2)+(B)100質量部に対して20質量部を超えると、耐熱性、成形加工性が低下する。
【0047】
〔その他の添加剤〕
熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で種々の添加剤を添加することができる。具体的には、フェノール系、アミン系、リン系、硫黄系等の老化防止剤、ヒンダードアミンのような紫外線安定剤、ステアリン酸等の加工助剤、二酸化チタン等の顔料、カーボンブラック、ホワイトカーボン、クレー、タルク等の補強剤又は充填剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハロゲン系、リン系等の難燃剤、フタル酸エステル系、トリメリット酸エステル系、ポリエステル系等の可塑剤、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。添加剤の配合量は、熱可塑性エラストマー組成物中それぞれ20質量部以下であることが好ましい。
【0048】
〔熱可塑性エラストマーの製造方法〕
熱可塑性エラストマーは、上記各成分を含む熱可塑性エラストマー組成物において、基本的には(A1)カルボシキル基含有アクリルゴムと、(A2)エポキシ基含有アクリルゴムが相互に動的架橋することによって製造される。動的架橋を行う装置としては、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等を使用することができる。動的架橋は、混練による高剪断の下でアクリルゴムのカルボキシル基やエポキシ基を架橋することを意味する。通常、こうして動的に架橋されたアクリルゴムは、熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリックス相に微分散される。このような相構造を形成することにより、アクリルゴムが架橋されているにも関わらず、エラストマーは熱可塑性を有する。従って、熱可塑性エラストマーは、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法等、公知の熱可塑性樹脂の成形方法により所定形状に成形加工することができる。
【0049】
溶融混練は、(B)熱可塑性ポリエステル樹脂の融点より高く、(A1)カルボキシル基含有アクリルゴムや(A2)エポキシ基含有アクリルゴムの分解開始温度程度の温度、具体的には100〜350℃、好ましくは150〜300℃、より好ましくは180〜280℃で行えばよい。
【実施例】
【0050】
<(A)アクリルゴムの製造>
(カルボキシル基含有アクリルゴムA1−1)
水300質量部、ポリビニルアルコール0.25質量部、リン酸2水素ナトリウム・2水和物0.5質量部、リン酸水素2ナトリウム・12水和物1質量部、硫酸第一鉄0.01質量部、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.025質量部、ソジウムスルホキシレート0.04質量部を、窒素置換したステンレス製反応器に仕込み、カルボキシル基含有単量体(モノマー)としてメタクリル酸(MAA)10質量部、上記一般式(1)の単量体としてアクリル酸ブチル(BA)100質量部、開始剤として、p−メンタンハイドロパーオキサイド0.5質量部からなる単量体・開始剤混合物を2時間かけて滴下し、反応温度50℃で懸濁重合させた。重合転化率が100%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5質量部を反応系に添加し、共重合反応を停止させてアクリルゴムを得た(反応時間:4時間)。
【0051】
なお、100g当りのカルボキシル基のモル数は(100g中のカルボキシル基含有モノマーの質量)/(カルボキシル基を有するモノマーの分子量)で表記した。A1−1では、MAAの分子量を86.09とすると、[100×(10/110)]/86.09=106mmolとなる。
【0052】
(カルボキシル基含有アクリルゴムA1−2〜A1−5、A1’−1〜A1’−2)
カルボキシル基を有する単量体(モノマー)及び上記一般式(1)の単量体として表1に示す成分を表1に示す量に変更した以外は、カルボキシル基含有アクリルゴムA1−1と同様にアクリルゴムを製造した。なお、表1に示す数値は質量部である。
【0053】
(エポキシ基含有アクリルゴムA2−1〜A2−5、A2’−1〜A2’−2)
エポキシ基を有する単量体(モノマー)及び上記一般式(1)の単量体として表2に示す成分を表2に示す量で使用した以外は、カルボキシル基含有アクリルゴムA1−1と同様にアクリルゴムを製造した。なお、表2に示す数値は質量部である。
【0054】
(カルボキシル基含有アクリルゴムA1’、エポキシ基含有アクリルゴムA2’)
また、市販のカルボキシル基含有アクリルゴムA1’と、同じく市販のエポキシ基含有アクリルゴムA2’も使用した。A1’は、デュポン社製のVamacG(エチレン/アクリル酸メチル/マレイン酸モノブチル=47/50/3wt%)である。A2’は、住友化学工業社製のエスプレンEMA2752(エチレン/アクリル酸メチル/グリシジル
【0055】
表1,2中において各成分を示す表示は、次の通りである。
MAA:メタクリル酸
MAN:マレイン酸
BA:アクリル酸ブチル
EA:アクリル酸エチル
MEA:アクリル酸−2−メトキシエチル
MA: アクリル酸メチル
GMA:メタクリル酸グリシジル
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
(相容化剤C−1)
グラフト共重合体の主鎖成分としてエチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)70質量部、水200質量部、ポリビニルアルコール0.15質量部を、窒素置換したステンレス製オートクレーブに仕込み、撹拌、分散させた。そこへ側鎖用の上記一般式(1)で表される単量体として、アクリル酸ブチル(BA)30質量部、開始剤として、ベンゾイルパーオキシド0.5質量部、tert−ブチルパーオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート2質量部をオートクレーブ中に投入し、60〜65℃に昇温することにより、単量体及び開始剤をエチレン−アクリル酸エチル共重合体に含浸させた(含浸時間2時間)。次いで80〜85℃に昇温し、エチレン−アクリル酸エチル共重合体内にて重合を行い、相容化剤前駆体を得た(反応時間5時間)。得られた相容化剤前駆体を1軸押出機にて押し出すことで、グラフト化反応を行い、グラフト共重合体C−1(主鎖−g−側鎖=EEA−g−BA)を得た。
【0059】
(相容化剤C−2〜C−4)
グラフト共重合体の主鎖成分と側鎖用の単量体として表3に示す成分を、表3に示す量に変更した以外は、相容化剤C−1と同様に相容化剤を製造した。なお、表3に示す数値は質量部である。
【0060】
表3中において各成分を示す表示は、次の通りである。
EEA:エチレン−アクリル酸エチル共重合体
EMA:エチレン−アクリル酸メチル共重合体
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体
EGMA:エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体
HPMA:メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル
St:スチレン
【0061】
【表3】
【0062】
(実施例1)
カルボキシル基含有アクリルゴム(A1−1)25質量部、PBT(B)25質量部、相容化剤(C−1)5質量部を240℃に加熱した加圧型ニーダー(モリヤマ社製、容量3.5L)に仕込み、32rpmで溶融混練し、すべての材料が溶融するまで混練した(混練時間20分)。その後エポキシ基含有アクリルゴム(A2−1)50質量部を投入し、熱可塑性エラストマー組成物を得た。さらに、熱可塑性エラストマー組成物を240℃に加熱した加圧型ニーダーでさらに混練することで、動的架橋を行い、熱可塑性エラストマーを得た(混練時間20分)。この熱可塑性エラストマーをニーダールーダー(笠松化工研究所製)に供給し、造粒した。最後に、造粒した熱可塑性エラストマーを240℃に加熱した射出成形機(日精樹脂工業社製、ES600)に供給し、30mm×150mm×2mm厚のプレートを作成した。
【0063】
なお、(A1)のカルボキシル基と(A2)のエポキシ基のモル比は、[(A1)100g当りのカルボキシル基のモル数(mmol)×(A1)質量部]/[(A2)100g当りのエポキシ基のモル数(mmol)×(A2)質量部]で表記した。実施例1では、(106×25)/(64×50)=0.8となる。
【0064】
(実施例2〜13、比較例1〜10)
各成分を表4,5に示す。各成分を表4,5に示す量で調整した以外は、実施例1と同様にして各実施例・比較例の熱可塑性エラストマーからプレートを作成した。なお、老化防止剤としては、BASFジャパン社製のイルガノックス1010を使用した。また、加工助剤としては、三菱レイヨン社製のメタブレンL1000を使用した。また、可塑剤としては、DIC製のW−230−Hを使用した。
【0065】
得られた各実施例・比較例のプレートに関して、各種試験を行った。その結果も表4,5に示す。なお、各種試験の試験方法は次の通りである。
(耐熱試験)
JIS K 6257に準じ、試験片(3号ダンベル)を高温槽にて160℃×500時間静置後、JIS K 6251に準じ、試験速度500mm/minにて伸び(%)を測定し、耐熱試験前の伸び(%)と耐熱試験後の伸び(%)より、耐熱試験後の保持率を求めた。
(耐油性試験)
JISK 6301に準じ、No.3油に150℃×70時間浸漬した後の重量変化率(%)を測定した。
(引張特性試験)
JISK 6251に準じ、試験速度500mm/minにて引張強度(MPa)、及び伸び(%)を測定した。
(柔軟性試験)
JISK 6253に準じ、タイプAディロメータ試験機で硬度(Sh A)を測定した。
(シール性試験)
JISK6301に準じ、圧縮率25%にて150℃の温度下で22時間後の圧縮永久歪(%)を測定した。
(成形加工性評価)
射出成形後の外観を目視にて確認した。
【0066】
試験から得られた各種性能を評価した。評価基準は次の通りである。
(耐熱試験)
160℃×500時間後の伸び保持率(%):75%以上(それ以下だと、耐久性不足)
(耐油性試験)
150℃×70時間浸漬後の重量変化率:−25〜+25%(この範囲外だと耐油性不足)
(引張特性試験)
引張強度(MPa):1MPa以上、伸び(%):100以上(それ以下だと、成形性不足)
(柔軟性試験)
硬度ShA:85以下(それ以上だと、柔軟性不足)
(シール性試験)
150℃×22時間後の圧縮永久歪(%)60以下(それ以上だと、十分なシール性が得られない)
(成形加工性評価)
○:良好、×:不良(○でないと、成形外観不良となる)
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
表4の結果から、(A)アクリルゴムとして、共にエチレンを含まない(A1)カルボキシル基含有アクリルゴム及び(A2)エポキシ基含有アクリルゴムを使用し、成分(A1)のカルボキシル基と成分(A2)のエポキシ基のモル比が0.7〜1.5であって、成分(A1)+(A2)の合計が71〜85質量部、成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂が15〜29質量部、成分(C)相容化剤が(A1)+(A2)+(B)の合計100質量部に対して1〜20質量部含むことで、柔軟性、耐熱性、及び耐油性に富むと共に、成形加工性が良好な熱可塑性エラストマーを得ることができることが確認された。
【0070】
これに対し表5の結果から、比較例1は、カルボキシル基含有アクリルゴムがエチレンを含有しているため、耐熱性、耐油性が劣っていた。比較例2は、エポキシ基含有アクリルゴムがエチレンを含有しているため、耐熱性、耐油性が劣っていた。比較例3は、成分(A1)中のカルボキシル基含有単量体量及び、成分(A2)中のエポキシ基含有単量体量が過少のため、成形加工性が悪く成形することが出来なかった。比較例4は、成分(A1)中のカルボキシル基含有単量体量及び、成分(A2)中のエポキシ基含有単量体量が過多のため、成形加工性が悪く成形することが出来なかった。比較例5、6は、成分(A1)のカルボキシル基と成分(A2)のエポキシ基のモルが0.7〜1.5から外れているため、耐熱性、シール性が劣っていた。比較例7は、(A)アクリルゴムの含有量が過少で(B)熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が過多のため、柔軟性が劣っていた。比較例8は、(A)アクリルゴムの含有量が過多で(B)熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が過少のため、成形加工性が悪く成形することが出来なかった。比較例9は、(C)相容化剤を含有していないため、成形加工性が劣っていた。比較例10は、(C)相容化剤の含有量が過多のため、耐熱性、耐油性、成形加工性が劣っていた。