特許第5974799号(P5974799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5974799-転がり軸受の給脂構造 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974799
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】転がり軸受の給脂構造
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20160809BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20160809BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16C19/16
   F16C33/64
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-223734(P2012-223734)
(22)【出願日】2012年10月8日
(65)【公開番号】特開2014-77451(P2014-77451A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘之
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−008819(JP,U)
【文献】 特開2010−001921(JP,A)
【文献】 特開2011−163465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 19/16
F16C 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に外輪側軌道面を形成した外輪と、外周に内輪側軌道面を形成した内輪と、前記外輪側軌道面および前記内輪側軌道面を転動し円周方向に複数配設された転動体とからなり、前記外輪側軌道面および前記転動体間、前記内輪側軌道面および前記転動体間をグリースにて潤滑するようにした転がり軸受において、前記外輪に外周より内径方向に延びる第1給脂穴を形成し、前記外輪に前記第1給脂穴の内径側に接続され円周方向に延びる脂溜まりを形成し、前記外輪に前記脂溜まりの内径側に接続され内径方向に延びる第2給脂穴および第3給脂穴を形成し、前記第2給脂穴および前記第3給脂穴を互いに円周方向にずらして形成し、前記第1給脂穴に近い前記第2給脂穴の流路抵抗を、前記第1給脂穴から遠い前記第3給脂穴の流路抵抗よりも大きくしたことを特徴とする転がり軸受の給脂構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道面にグリースを給脂するようにした転がり軸受の給脂構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示すような玉軸受において、外輪および外輪位置決め間座を軸方向に並べて配置し、外輪および外輪位置決め間座の内周側にグリース溜まり形成本体を配置し、外輪あるいは外輪位置決め間座およびグリース溜まり形成本体間にグリース溜まりを形成し、外輪位置決め間座の端面に形成した給脂孔からグリース溜まりへグリースを供給し、さらに外輪位置決め間座の先端および外輪間の隙間より玉へグリースを供給している。
【0003】
特許文献1に示す玉軸受は、外輪の外周にハウジングが配置され、内輪の内周に回転軸が配置され、端面よりグリースを給脂するものであって、外輪の一方の端面に回転テーブルが配置され、内輪の他方の端面に固定本体が配置され、外輪の外周よりグリースを給脂するものではない。
【0004】
外輪の外周よりグリースを供給するタイプの玉軸受は、外輪の外周より外輪側軌道面へ内径方向に延びる給脂穴が形成されている。その給脂穴は円周方向に複数形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−309261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
玉軸受のメンテナンス時に、作業者がグリースガンを使って給脂穴よりグリースを補給している。作業者が補給できる給脂穴の数に限度がある。また、回転テーブルは、回転軸と比べて積極的に回転させるものでないため、グリースが軌道面へ十分に行き渡りにくい問題があった。本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、作業者の負担を増大させることなく、グリースが軌道面へ十分に行き渡ることができる転がり軸受の給脂構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、内周に外輪側軌道面を形成した外輪と、外周に内輪側軌道面を形成した内輪と、前記外輪側軌道面および前記内輪側軌道面を転動し円周方向に複数配設された転動体とからなり、前記外輪側軌道面および前記転動体間、前記内輪側軌道面および前記転動体間をグリースにて潤滑するようにした転がり軸受において、前記外輪に外周より内径方向に延びる第1給脂穴を形成し、前記外輪に前記第1給脂穴の内径側に接続され円周方向に延びる脂溜まりを形成し、前記外輪に前記脂溜まりの内径側に接続され内径方向に延びる第2給脂穴および第3給脂穴を形成し、前記第2給脂穴および前記第3給脂穴を互いに円周方向にずらして形成し、前記第1給脂穴に近い前記第2給脂穴の流路抵抗を、前記第1給脂穴から遠い前記第3給脂穴の流路抵抗よりも大きくしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業者の負担を増大させることなく、グリースが軌道面へ十分に行き渡ることができる転がり軸受の給脂構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における転がり軸受の正面図である。
図2】本発明の一実施形態における転がり軸受の一部拡大断面図である。
図3】本発明の一実施形態における図2のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、図1乃至図3を参酌しつつ説明する。図1は、転がり軸受の正面図、図2は、転がり軸受の一部拡大断面図、図3は、図2のA−A線断面図である。
【0011】
図1乃至図3に示す転がり軸受10は、旋回座軸受でもあり、玉軸受でもある。玉軸受10は、リング状の外輪11と、外輪11の内周側に配置されるリング状の内輪20と、外輪11および内輪20間で円周方向に複数配置される玉30と、一対の玉30間に配置されるセパレータ60とからなっている。前記外輪11、内輪20、玉30は、いずれも金属製の材料で構成され、特に鉄系の材料がよく使われる。セパレータ60は、樹脂製の材料で構成されている。
【0012】
図3に示すように前記外輪11の内周には、断面半円形状の外輪側軌道面13が形成され、外輪側軌道面13の軸方向の中間に外径側へ凹んだ環状の外輪側くぼみ12が形成されている。
【0013】
図2および図3に示すように外輪11は、後述する第1給脂穴15、脂溜まり16、第2給脂穴17および第3給脂穴18を加工する関係上、リング状の外側部材11aと、リング状の内側部材11bとに分割される。外側部材11aに第1給脂穴15および脂溜まり16を加工し、内側部材11bに第2給脂穴17および第3給脂穴18を加工した後、外側部材11aを熱膨張させ、外側部材11aの内周側に内側部材11bを配置し、外側部材11bを熱収縮させることにより、外側部材11aに内側部材11bが締め代をもって嵌合されている。
【0014】
図3に示すように前記内輪20の外周には、断面半円形状の内輪側軌道面23が形成され、内輪側軌道面23の軸方向の中間に内径側へ凹んだ環状の内輪側くぼみ22が形成されている。
【0015】
前記玉30は、球形状を有し、外周には外輪側軌道面13上および内輪側軌道面23上を転動する転動面が形成されている。
【0016】
図2に示すように前記セパレータ60は、一対の玉30間に配置され、複数の玉30を内輪20の円周方向に等間隔に配置する機能を有する。セパレータ60の玉30側の側面には、玉30が摺接する半円形状の摺接面が形成されている。
【0017】
外輪11および内輪20は、互いに軸方向にずらして設けられている。外輪11が軸方向の一方側へ突出し、内輪20が軸方向の他方側へ突出している。外輪11の軸方向の一方側の内周に環状のシール溝が形成され、シール溝にシール部材40が嵌め込まれている。シール部材40の内周側のリップ部は、内輪20の軸方向の一方側の端面に摺接している。内輪20の軸方向の他方側の外周に環状のシール溝が形成され、シール溝にシール部材41が嵌め込まれている。シール部材41の外周側のリップ部は、外輪11の軸方向の他方側の端面に摺接している。シール部材40、41によって、外輪11および内輪20間のグリース50が外部へ洩れるのを防いでいる。
【0018】
図2および図3に示すように外輪11には、取付け穴19が軸方向に貫通して形成され、しかも円周方向に等間隔に複数形成されている。複数ある取付け穴19のうち、一部だけ選択して外輪11の端面に載置された図略の回転テーブルの取付けに使用される。
【0019】
内輪20には、取付け穴29が軸方向に貫通して形成され、しかも円周方向に等間隔に複数形成されている。複数ある取付け穴29のうち、一部だけ選択して内輪20の端面に配置された図略の固定本体への取付けに使用される。
【0020】
図3において、外輪11が内輪20に対して突出した側の端面が上面となり、内輪20が外輪11に対して突出した側の端面が下面となるように、玉軸受10が固定本体に載置され、玉軸受10に回転テーブルが載置されるような形で、固定本体に内輪20が取付けられ、外輪11に回転テーブルが取付けられるようになっている。
【0021】
図1乃至図3に示すように玉軸受10の給脂構造は、外部から外輪側軌道面13および内輪側軌道面23へグリースを給脂する機能を有し、外周より内径方向に延びる第1給脂穴15と、第1給脂穴15の内径側に接続され円周方向に延びる脂溜まり16と、脂溜まり15の内径側に接続され内径方向に延びる第2給脂穴17および第3給脂穴18とを有する。
【0022】
図2および図3に示すように第1給脂穴15および第2給脂穴17は、互いに同軸に配置され、第3給脂穴18は、第2給脂穴17に対して内輪20の円周方向両側に配置されている。言い換えると、脂溜まり16の円周方向中間に第1給脂穴15および第2給脂穴17が配置され、脂溜まり16の円周方向両側に第3給脂穴18が配置されている。
【0023】
第2給脂穴17の穴径は、第3給脂穴18の穴径に比べて小さく、第1給脂穴15に近い第2給脂穴17の流路抵抗を、第1給脂穴15から遠い第3給脂穴18の流路抵抗よりも大きくした。こうすることで、第2給脂穴17から外輪側くぼみ12へ給脂されるグリース量と、第3給脂穴18から外輪側くぼみ12へ給脂されるグリース量が略等しくなる。
【0024】
図1に示すように1個の第1給脂穴15と、1個の脂溜まり16と、1個の第2給脂穴17と、2個の第3給脂穴18とで1セットの給脂構造を構成し、内輪20の円周方向に6セットの給脂構造が配置されている。
【0025】
図2および図3に示すように第1給脂穴15の外周側の一端にねじ穴が形成され、このねじ穴に図略のグリースニップルが螺着されている。グリースニップルは、逆止弁としての機能を有し、内部に弁としての玉と、玉を弁座に密接する方向に付勢するばねとが入っている。グリースニップルの一端に図略のグリースガンの先端を密着させ、グリースガンからグリースニップルへグリースを圧送すると、前記玉がばねに打ち勝って弁座から離れ、グリースニップルへグリースが給脂されるようになっている。
【0026】
続いて上述した構成にもとづいて、玉軸受10の作用について説明する。
【0027】
内輪20に対して外輪11が回転すると、玉30は外輪側軌道面13上および内輪側軌道面23上を転動しながら外輪11の回転方向と同方向に移動する。一対の玉30間のセパレータ60も外輪11の回転方向と同方向に移動する。
【0028】
玉軸受10のメンテナンス作業の一つとして、グリースの補給作業がある。このグリースの補給作業について説明する。
【0029】
作業者がグリースガンを持ち、グリースガンの先端をグリースニップルの一端に密着させる。作業者がグリースガンのレバーを引くと、グリースガンよりグリースニップルへグリース50が圧送される。グリース50の圧送によって、グリースニップル内の玉が弁座から離れ、グリースガンのグリース50はグリースニップルを介して第1給脂穴15へ供給される。第1給脂穴15へ供給されたグリース50は、脂溜まり15、第2給脂穴17を介して外輪側くぼみ12へ供給される。また第1給脂穴15へ供給されたグリース50は、脂溜まり15、第3給脂穴18を介して外輪側くぼみ12へ供給される。
【0030】
第1給脂穴15に近い第2給脂穴17の流路抵抗を、第1給脂穴15から遠い第3給脂穴18の流路抵抗よりも大きくした。こうすることで、第2給脂穴17から外輪側くぼみ12へ給脂されるグリース量と、第3給脂穴18から外輪側くぼみ12へ給脂されるグリース量が略等しくなる。
【0031】
外輪側くぼみ12へ供給されたグリース50は、玉30および外輪側軌道面13間、玉30およびセパレータ60間へ供給される。グリース50は、玉30およびセパレータ60間を経てさらに内輪側くぼみ22へ供給されるとともに、玉および内輪側軌道面23間へ供給される。
【0032】
こうして、1セットの給脂構造に対し、グリース50が供給され、1セットの給脂構造付近の外輪側くぼみ12へグリース50が供給される。
【0033】
残りの5セットの給脂構造に対し、同様な動作を繰り返す。各給脂構造付近の外輪側くぼみ12へグリース50が供給され、この結果、外輪側くぼみ12の円周方向全体に渡ってグリース50が供給される。言い換えれば、6箇所の第1給脂穴15へグリース50を供給する動作でもって、6箇所の第2給脂穴17および12箇所の第3給脂穴18から外輪側くぼみ12へグリース50が供給される。こうして作業者の負担を増大させることなく、グリース50が外輪側軌道面13および内輪側軌道面23へ十分に行き渡る。
【0034】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0035】
上述した実施形態は、外輪11の円周方向に6セットの給脂構造を配置した。他の実施形態として、外輪11の円周方向に4セットの給脂構造を配置しても良く、外輪11の円周方向に5セットの給脂構造を配置しても良い。
【0036】
上述した実施形態は、転動体として玉を使用した玉軸受に上述した給脂構造を適用した。他の実施形態として、転動体としてころを使用したころ軸受に上述した給脂構造を適用しても良い。この場合、ころの回転軸線は、外輪の回転軸線に対し45度傾けた状態で配置される。
【符号の説明】
【0037】
11:外輪、12:外輪側軌道面、15:第1給脂穴、16:脂溜まり、17:第2給脂穴、18:第3給脂穴、20:内輪、23:内輪側軌道面、30:玉(転動体)、50:グリース
図1
図2
図3