特許第5974815号(P5974815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000002
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000003
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000004
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000005
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000006
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000007
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000008
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000009
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000010
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000011
  • 特許5974815-車両用シートスライド装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974815
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】車両用シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/08 20060101AFI20160809BHJP
   B60N 2/07 20060101ALI20160809BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   B60N2/08
   B60N2/07
   B60N2/42
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-232223(P2012-232223)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-83888(P2014-83888A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】星原 直明
(72)【発明者】
【氏名】辻 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】名倉 幹人
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸史
【審査官】 佐々木 一浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−98610(JP,A)
【文献】 特開2000−326771(JP,A)
【文献】 特開2008−184033(JP,A)
【文献】 特開2001−158259(JP,A)
【文献】 特開2010−58572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/08
B60N 2/07
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に並設された一対のフランジを有し、これら両フランジの先端に複数の係止爪がそれぞれ形成された第1レールと、
前記第1レールに対し相対移動可能に連結され、前記両フランジの幅方向内側で幅方向に並設された一対の内側フランジ及びこれら両内側フランジの先端から互いに離隔する幅方向外側にそれぞれ張り出して更に前記両フランジの幅方向外側で折り返された一対の外側フランジを有し、これら両内側フランジ及び両外側フランジには幅方向に連通する内側開口及び外側開口がそれぞれ形成された第2レールと、
前記両内側フランジの幅方向内側で幅方向に延びる軸線周りに前記第2レールに回動自在に連結され、前記両内側開口及び前記両外側開口を幅方向に貫通する平板部を有し、該平板部の幅方向両側縁部には前記係止爪の嵌入可能な係止部がそれぞれ形成され、回動に伴い前記係止部及び前記係止爪が嵌脱することで前記第1及び第2レールの相対移動を選択的に係止するロック部材と、
前記相対移動を係止する側に前記ロック部材を回動付勢する付勢部材とを備え、
前記相対移動の係止状態では、該相対移動の方向の少なくとも一方において、前記両外側開口における前記両外側フランジ及び前記平板部の隙間を、前記両内側開口における前記両内側フランジ及び前記平板部の隙間よりも大きく設定したことを特徴とする車両用シートスライド装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートスライド装置において、
前記ロック部材は、
幅方向に延びる軸線を有して前記第2レール及び前記ロック部材の一方に固定された支持軸が、前記第2レール及び前記ロック部材の他方に形成された長穴に前記相対移動の方向に移動可能に挿入されるとともに、支持軸付勢部材により前記相対移動の方向に交差する方向に付勢されることで、前記第2レールに回動自在に連結されており、
前記長穴及び前記支持軸付勢部材の少なくとも一方に形成され、前記支持軸に圧接して前記相対移動の方向に加わる荷重が所定値を下回るときに前記長穴における前記支持軸の前記相対移動の方向の移動を規制する楔部を備えたことを特徴とする車両用シートスライド装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用シートスライド装置において、
前記両外側フランジには、各々の立設方向において先端側に向かうに従い幅方向内側に向かうように曲成されたガイド部がそれぞれ形成されており、
前記平板部の幅方向両縁部には、前記相対移動の係止状態で、幅方向外側に向かうに従い前記外側フランジの立設方向において先端側に向かう傾斜部が形成されていることを特徴とする車両用シートスライド装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用シートスライド装置において、
前記平板部に設けられ、前記第2レールに対する前記平板部の幅方向の移動を規制する幅方向規制部材を備えたことを特徴とする車両用シートスライド装置。
【請求項5】
請求項2に記載の車両用シートスライド装置において、
前記ロック部材による前記相対移動の係止状態では、該相対移動の方向の少なくとも一方において、前記両外側開口における前記両外側フランジ及び前記平板部の隙間を、前記長穴における前記支持軸の移動可能距離よりも小さく設定したことを特徴とする車両用シートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートスライド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートスライド装置としては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。図11に示すように、この車両用シートスライド装置は、ロアレール101と、該ロアレール101に対しその長手方向に移動可能に連結されたアッパレール102と、これらロアレール101及びアッパレール102間に形成される空間内に配置されたロック部材103とを備える。このロック部材103は、幅方向に軸線の延びるピン104で、アッパレール102に固着されたリベット105に上下方向に回動自在に連結されている。そして、ロックスプリング106の付勢力によりロック部材103を上昇させ、該ロック部材103に設けた四角孔状の係止部103aにロアレール101のフランジ101aに設けた鋸歯状の係止爪101bを嵌入させることで、ロアレール101に対するアッパレール102の移動が係止される。あるいは、操作部材(図示略)の操作力により、ロックスプリング106の付勢力に抗してロック部材103を下降させ、係止部103aから係止爪101bを離脱させることで、ロアレール101に対するアッパレール102の移動係止が解除される。
【0003】
なお、ロック部材103は、係止爪101bの嵌入する係止部103aを有する平板部103bを一体的に備える。一方、アッパレール102には、その内側フランジ102a及び外側フランジ102bに開口102cが形成されている。ロック部材103は、平板部103bが開口102cを幅方向に貫通することで、回動に伴う上下動が許容されている。従って、アッパレール102の開口102cとロック部材103の平板部103bとの間には、操作性の維持等のためにアッパレール102の長手方向(移動方向)に隙間が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−184033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、ロック部材103によるロアレール101に対するアッパレール102の移動係止状態で、例えば車両衝突時等で移動方向の大荷重が入力されたとする。この場合、まず、ピン104に加わる移動方向の荷重で該ピン104が変形し、これに伴ってアッパレール102の開口102cとロック部材103の平板部103bとが接触して荷重を受ける。
【0006】
続いて、係止爪101bと係止部103aとの係合箇所への応力集中で係止爪101bが移動方向に傾斜するように変形し係止部103aとの接触角が大きくなると、該係止部103aが係止爪101bの傾斜部を滑ってロック部材103が下降するように回動する。この場合、係止部103aから係止爪101bが略離脱した状態となって、ロアレール101に対するアッパレール102の移動係止の保持力が急激になくなる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、両レールの相対移動方向に大荷重が入力される場合において、両レールの相対移動を抑えることができる車両用シートスライド装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、幅方向に並設された一対のフランジを有し、これら両フランジの先端に複数の係止爪がそれぞれ形成された第1レールと、前記第1レールに対し相対移動可能に連結され、前記両フランジの幅方向内側で幅方向に並設された一対の内側フランジ及びこれら両内側フランジの先端から互いに離隔する幅方向外側にそれぞれ張り出して更に前記両フランジの幅方向外側で折り返された一対の外側フランジを有し、これら両内側フランジ及び両外側フランジには幅方向に連通する内側開口及び外側開口がそれぞれ形成された第2レールと、前記両内側フランジの幅方向内側で幅方向に延びる軸線周りに前記第2レールに回動自在に連結され、前記両内側開口及び前記両外側開口を幅方向に貫通する平板部を有し、該平板部の幅方向両側縁部には前記係止爪の嵌入可能な係止部がそれぞれ形成され、回動に伴い前記係止部及び前記係止爪が嵌脱することで前記第1及び第2レールの相対移動を選択的に係止するロック部材と、前記相対移動を係止する側に前記ロック部材を回動付勢する付勢部材とを備え、前記相対移動の係止状態では、該相対移動の方向の少なくとも一方において、前記両外側開口における前記両外側フランジ及び前記平板部の隙間を、前記両内側開口における前記両内側フランジ及び前記平板部の隙間よりも大きく設定したことを要旨とする。
【0009】
同構成によれば、前記ロック部材による前記相対移動の係止状態で、例えば車両衝突等で前記相対移動の方向の大荷重が入力され、これに伴う変形によって前記ロック部材及び前記第2レールが前記相対移動の一方向に変位すると、前記平板部と前記隙間の小さい方の前記両内側フランジとが接触して荷重を受ける。そして、前記相対移動の方向の荷重が更に増加すると、前記平板部が前記両内側フランジを破断してこれら両内側フランジにめり込む。これにより、前記ロック部材の回動が規制される。そして、前記相対移動の方向の荷重が更に増加すると、前記平板部と前記隙間の大きい方の前記両外側フランジとが接触して前記両内側フランジと協働で荷重を受ける。従って、仮に前記係止爪が前記相対移動の逆方向に傾斜するように変形して前記係止部との接触角が大きくなったとしても、前記ロック部材の回動が規制されていることで前記第1及び第2レールの相対移動を抑えることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用シートスライド装置において、前記ロック部材は、幅方向に延びる軸線を有して前記第2レール及び前記ロック部材の一方に固定された支持軸が、前記第2レール及び前記ロック部材の他方に形成された長穴に前記相対移動の方向に移動可能に挿入されるとともに、支持軸付勢部材により前記相対移動の方向に交差する方向に付勢されることで、前記第2レールに回動自在に連結されており、前記長穴及び前記支持軸付勢部材の少なくとも一方に形成され、前記支持軸に圧接して前記相対移動の方向に加わる荷重が所定値を下回るときに前記長穴における前記支持軸の前記相対移動の方向の移動を規制する楔部を備えたことを要旨とする。
【0011】
同構成によれば、前記ロック部材による前記相対移動の係止状態で、例えば車両衝突等に伴い前記相対移動の方向に加わる荷重が前記所定値を上回ると、前記支持軸付勢部材を弾性変形させつつ前記楔部による前記支持軸の前記相対移動の方向の移動規制が解除され、前記第2レール又は前記ロック部材と共に前記支持軸が前記長穴を前記相対移動の方向に移動する。これにより、前記平板部が前記両内側フランジ又は前記両外側フランジに接触して荷重を受ける。従って、前記両内側フランジ又は前記両外側フランジにより当該荷重を十分に支えることができれば、前記支持軸が前記長穴を移動した分、前記支持軸の変形を僅少又は皆無にできる。そして、前記ロック部材による前記相対移動の係止をより安定化させることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用シートスライド装置において、前記両外側フランジには、各々の立設方向において先端側に向かうに従い幅方向内側に向かうように曲成されたガイド部がそれぞれ形成されており、前記平板部の幅方向両縁部には、前記相対移動の係止状態で、幅方向外側に向かうに従い前記外側フランジの立設方向において先端側に向かう傾斜部が形成されていることを要旨とする。
【0013】
同構成によれば、前記外側フランジは、前記ガイド部において前記先端側に向かうに従い幅方向内側に向かうものの、前記平板部の幅方向縁部は、前記傾斜部において幅方向外側に向かうに従い前記先端側に向かう。従って、前記相対移動の係止状態において、仮に前記平板部が前記外側フランジの前記ガイド部に当接した際には、該ガイド部に前記平板部をより直角に近い状態で交差させることができる。これにより、前記平板部(傾斜部)及び前記ガイド部の当接に伴う互いのせん断方向の係合をより堅固にすることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用シートスライド装置において、前記平板部に設けられ、前記第2レールに対する前記平板部の幅方向の移動を規制する幅方向規制部材を備えたことを要旨とする。
【0015】
同構成によれば、前記平板部は、前記幅方向規制部材により前記第2レールに対するその幅方向の移動が規制されることで、前記ロック部材の回動に伴う前記係止部及び前記係止爪の嵌脱動作をより安定化することができる。特に、前記幅方向規制部材は、前記ロック部材の回動中心から離れた前記平板部(係止爪との係合位置)に設けられていることで、例えば当該回動中心の近傍に設ける場合のように、幅方向の移動規制の僅かなずれが前記平板部において拡大されてしまうこともない。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の車両用シートスライド装置において、前記ロック部材による前記相対移動の係止状態では、該相対移動の方向の少なくとも一方において、前記両外側開口における前記両外側フランジ及び前記平板部の隙間を、前記長穴における前記支持軸の移動可能距離よりも小さく設定したことを要旨とする。
【0017】
同構成によれば、前記ロック部材による前記相対移動の係止状態で、例えば車両衝突等に伴い前記相対移動の方向に加わる荷重が前記所定値を上回ると、前記支持軸付勢部材を弾性変形させつつ前記楔部による前記支持軸の前記相対移動の方向の移動規制が解除され、前記第2レール又は前記ロック部材と共に前記支持軸が前記長穴を前記相対移動の方向に移動する。このとき、少なくとも前記平板部が前記両外側フランジに接触して荷重を受けるまでの間は、前記長穴の範囲で前記支持軸の移動が許容される。従って、前記両内側フランジ及び前記両外側フランジにより当該荷重を十分に支えることができれば、前記支持軸は前記長穴を移動するのみでその変形が皆無となり、前記ロック部材による前記相対移動の係止をいっそう安定化させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、両レールの相対移動方向に大荷重が入力される場合において、両レールの相対移動を抑えることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明が適用される車両用シートを示す側面図。
図2】本発明の一実施形態を示す分解斜視図。
図3】(a)(b)は、同実施形態を示す横断面図。
図4】(a)(b)は、同実施形態を示す縦断面図及びその拡大図。
図5】(a)(b)は、同実施形態の動作を示す断面図。
図6】(a)(b)は、同実施形態の動作を示す断面図。
図7】(a)(b)は、同実施形態の動作を示す断面図。
図8】(a)(b)は、同実施形態の動作を示す断面図。
図9】ロアレール及びアッパレールの相対的な前後方向の移動量と当該方向に入力される荷重との関係を示すグラフ。
図10】支持軸が長孔に対して車両前後方向に移動し始める条件を説明する模式図。
図11】従来形態を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、車両用シートスライド装置の一実施形態について説明する。なお、以下では、車両前後方向を「前後方向」という。
図1に示すように、車両フロア2には、第1レールとしてのロアレール3が前後方向に延在する態様で固定されるとともに、該ロアレール3には、第2レールとしてのアッパレール4がロアレール3に対し前後方向に相対移動可能に装着されている。つまり、本実施形態では、ロアレール3及びアッパレール4の長手方向(相対移動方向)は前後方向に一致している。
【0021】
なお、ロアレール3及びアッパレール4は、幅方向(図1において紙面に直交する方向)でそれぞれ対をなして配設されており、ここでは前方に向かって左側に配置されたものを示している。そして、両アッパレール4には、乗員の着座部を形成するシート5が固定・支持されている。ロアレール3及びアッパレール4の相対移動は基本的に係止状態にあって、該係止状態を解除するための解除ハンドル6が設けられている。
【0022】
図2に示すように、ロアレール3は、板材からなり、幅方向両側で上下方向に延びる一対の側壁部11及びこれら側壁部11の基端(下端)間を連結する底壁部12を有する。そして、各側壁部11の先端(上端)には、幅方向内側に張り出して更に側壁部11の基端側に折り返されたフランジ13が連続形成されている。
【0023】
なお、ロアレール3の各フランジ13の長手方向中間部には、当該方向に所定の間隔をもってその先端(下端)から上向きに複数の切り欠き13aが形成されるとともに、各隣り合う切り欠き13a間に四角歯状の係止爪13bが形成されている。従って、複数の係止爪13bは、前記所定の間隔をもってロアレール3の長手方向に並設されている。
【0024】
一方、アッパレール4は、板材からなり、図3(a)(b)に併せ示すように、ロアレール3の両フランジ13間で上下方向に延びる一対の内側フランジ14及びこれら内側フランジ14のロアレール3から離隔する基端(上端)間を連結する蓋壁部15を有する。そして、各内側フランジ14の先端(下端)には、幅方向外側に張り出して更に側壁部11及びフランジ13に包囲されるように折り返された外側フランジ16が連続形成されている。
【0025】
つまり、ロアレール3及びアッパレール4は、開口側が互いに突き合わされたU字状のレール断面をそれぞれ有しており、主としてフランジ13及び外側フランジ16との係合によって上下方向に抜け止めされている。これらロアレール3及びアッパレール4により形成されるレール断面は、矩形状をなすいわゆる箱形である。ロアレール3は、アッパレール4と協働して空間Sを形成する。
【0026】
なお、各外側フランジ16の下端部及びこれに対向する側壁部11の下端部間、並びに各外側フランジ16の上端部及びこれに対向する側壁部11の上端部間には、複数の球体状のボール20aが介設されている。各外側フランジ16の上端部は、ボール20aの外形に合わせて、上方に向かうに従い幅方向内側に向かうように円弧状に曲成されたガイド部16aを形成する。
【0027】
図2に示すように、各ボール20aは、前後方向(レール長手方向)に延在する樹脂製のホルダ20bに装着される。各ホルダ20bに装着されるボール20aは、ホルダ20bの前端部に配置された一対及び後端部に配置された一対の合計4個である。アッパレール4は、ロアレール3との間で各ボール20aを転動させる態様で、該ロアレール3に対し長手方向(前後方向)に摺動自在に支持されている。
【0028】
アッパレール4の両内側フランジ14には、それらの長手方向中間部において略四角形の内側開口14aがそれぞれ形成されるとともに、アッパレール4の両外側フランジ16の上端部(ガイド部16a)には、それらの長手方向における内側開口14aの位置に合わせて略四角形の外側開口16bがそれぞれ形成されている。これら内側開口14a及び外側開口16bは、幅方向に連通している。特に、外側開口16bは、上方にも開いた切り欠きとなっている。
【0029】
アッパレール4の蓋壁部15には、内側開口14a等よりも前側の部位においてブラケット17が取着される。このブラケット17は、アッパレール4の両内側フランジ14間で上下方向に延びる一対の支持壁部18及びこれら支持壁部18のロアレール3から離隔する基端(上端)間を連結する天板部19を有する。ブラケット17は、両支持壁部18がアッパレール4の両内側フランジ14に幅方向に挟まれた状態で、天板部19においてアッパレール4の蓋壁部15に締結される。なお、両支持壁部18の前端部下部には、幅方向に連通する互いに同心の円形の軸取付孔18aがそれぞれ形成されている。
【0030】
図3(b)に示すように、ブラケット17の両支持壁部18には、軸取付孔18aに両端部の挿入・固着された円柱状の支持軸22が支持されている。この支持軸22の中心線が幅方向に延びることはいうまでもない。そして、アッパレール4内には、両支持壁部18の幅方向内側で、支持軸22によりロックレバー30が回動自在に連結されている。
【0031】
すなわち、図2に示すように、ロックレバー30は、前後方向に延在する板材からなる柄部31を備える。この柄部31は、その長手方向に延在する一対の縦壁部32が幅方向に並設される態様で立設されている。これら両縦壁部32間の幅方向の距離は、ブラケット17の両支持壁部18間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。そして、両縦壁部32は、各々の前端部において前後方向に並設された複数(3つ)の接続壁33により上端縁間が幅方向に接続されるとともに、各々の後端部において天板部34により上端縁間が幅方向に接続されている。
【0032】
図4(a)(b)に示すように、両縦壁部32には、支持軸22(軸取付孔18a)と同等の高さ位置で前後方向に延在する長孔35がそれぞれ形成されている。この長孔35の短手方向(上下方向)の開口幅は、支持軸22の直径と同等に設定されている。両長孔35には、柄部31の両縦壁部32がブラケット17の両支持壁部18に幅方向に挟まれた状態で、両軸取付孔18aに両端部の固着される支持軸22が挿通される。これにより、柄部31は、長孔35の範囲で前後方向の移動が許容された状態でアッパレール4(ブラケット17)に対して上下方向に回動自在に連結されている。
【0033】
なお、図2に示すように、柄部31は、両縦壁部32の前端から車両前方にそれぞれ延出する一対の差し込み形状部36,37を有する。これら差し込み形状部36,37は、縦壁部32前端よりも下方に縮小されるとともに、2枚重ねになるように互いの対向する幅方向に近付いて、ハンドル差し込み部38を形成する。
【0034】
各縦壁部32には、後端部において下端から下向きに一対の嵌合片32aが前後方向に間隔をあけて突設されている。一方、ロックレバー30は、両内側開口14a及び外側開口16bを貫通する態様で前後方向及び幅方向に広がる平板部としてのロックプレート39を備える。このロックプレート39には、各嵌合片32aに対向して上下方向に開口するスリット状の嵌合孔39aが合計4個形成されている。ロックプレート39は、各嵌合孔39aに該当の嵌合片32aを嵌入・固着することで柄部31に固定される。
【0035】
また、ロックプレート39には、嵌合片32aよりも幅方向外側で前後方向に並設された複数(3個)の係止部としての係止孔39bが前記所定の間隔をもって形成されている。図3(a)に併せ示すように、各係止孔39bは、フランジ13に対向して上下方向に開口しており、ロアレール3の長手方向で隣り合う複数(3個)の係止爪13bと合致可能な位置に配置されている。
【0036】
そして、図3(a)に実線で示すように、ロックプレート39が上昇するようにロックレバー30が支持軸22周りに回動するとき、各係止孔39bに対応する係止爪13bを嵌入可能となっている。各係止孔39bに対応する係止爪13bを嵌入するとき、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動が係止される。一方、図3(a)に2点鎖線で示すように、ロックプレート39が下降するようにロックレバー30が支持軸22周りに回動するとき、各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れるように設定されている。このとき、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止が解除される。
【0037】
なお、ロックプレート39の幅方向の寸法は、アッパレール4の両ガイド部16a間の幅方向の距離よりも大きく、且つ、ガイド部16aよりも下方の両外側フランジ16間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。従って、ロックプレート39は、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態で外側開口16bを幅方向に貫通するものの、前記相対移動係止の解除状態で外側フランジ16と干渉することはない。
【0038】
また、ロックプレート39の幅方向両縁部は、幅方向外側に向かうに従い上方に向かう傾斜部39cを形成する。これは、ロックレバー30によるロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態において、仮にロックプレート39が外側フランジ16のガイド部16aに当接したとしても、前述の態様で曲成されたガイド部16aにロックプレート39をより直角に近い状態で交差させるためである。これにより、ロックプレート39(傾斜部39c)及びガイド部16aの当接に伴う互いのせん断方向の係合がより堅固となる。
【0039】
図5(a)に示すように、ロックプレート39の前端には、幅方向に縮幅されて車両前方に突出する四角形の規制突部39dが設けられている。ロックプレート39は、規制突部39dがアッパレール4の両縦壁部32間に挟入されることでアッパレール4との幅方向の隙間が詰められて該アッパレール4に対する幅方向の移動(がたつき)が規制される。特に、ロックプレート39は、仮にアッパレール4に対して車両後方にずれたとしても、規制突部39dの突出長の範囲でアッパレール4に対する幅方向の移動が規制される。
【0040】
図2に示すように、アッパレール4内には、1本の線材からなるロックスプリング50が配置される。このロックスプリング50は、平面視において後側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の延設部51を有するとともに、これら両延設部51の拡開された前端部の前端間を幅方向に接続する接続部52を有する。図4(a)(b)に併せ示すように、ロックスプリング50は、各延設部51の長手方向中間部を上方に湾出してなる楔部53を有するとともに、各延設部51の後端部を上方に屈曲してなるレバー側係止端部54を有する。また、両延設部51の拡開された前端部は、接続部52と共に全体として略五角形をなしてレール側係止端部55を形成する。
【0041】
ロックスプリング50は、支持軸22よりも前側で柄部31の隣り合う接続壁33間から上方にレール側係止端部55を突出させる態様で概ね柄部31内に配置されている。そして、ロックスプリング50は、支持軸22の上方から該支持軸22を両楔部53に挟入し、ロックプレート39の下方から該ロックプレート39に両レバー側係止端部54を挿通・固定し、レール側係止端部55をアッパレール4の蓋壁部15下面に当接させることで、アッパレール4等に支持されている。このとき、ロックスプリング50は、両延設部51の後端部においてロックプレート39が上昇する側、即ち各係止孔39bに対応する係止爪13bが嵌入する側にロックレバー30を回動付勢する。また、ロックスプリング50は、その反力で両楔部53において支持軸22を下方に、即ち長孔35の長手方向に交差する方向に付勢することで長孔35内での支持軸22の前後方向の移動を係止する。
【0042】
つまり、長孔35内での支持軸22の前後方向の位置は、ロックスプリング50の両楔部53によって付勢・保持されている。本実施形態では、支持軸22は、長孔35の前後方向中央部に付勢・保持されている。ただし、前後方向に加わる荷重が所定値を超えると、支持軸22は、楔部53を弾性変形させつつ、長孔35を前後方向に移動する。
【0043】
なお、図5(b)に示すように、内側開口14aにおける内側フランジ14の後端面14b及び前端面14cは、支持軸22(軸取付孔18a)を中心とする円弧状に成形されている。従って、ロックプレート39及び後端面14bの前後方向の隙間a1、並びにロックプレート39及び前端面14cの前後方向の隙間a2は、ロックレバー30の回動位置に関わらず一定となっている。本実施形態では、隙間a1,a2は、互いに同等の隙間aに設定されている。
【0044】
また、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態で、ロックプレート39及び外側開口16bにおける外側フランジ16の後端面16cの前後方向の隙間b1、並びにロックプレート39及び外側開口16bにおける外側フランジ16の前端面16dの前後方向の隙間b2は、互いに同等の隙間bに設定されている。この隙間bは、隙間aよりも大きく、且つ、長孔35の前後方向中央部からの支持軸22の移動可能距離rよりも小さく設定されている。つまり、例えば車両衝突などに伴う前後方向の荷重によってアッパレール4及びロックレバー30(ロックプレート39)が前後方向に相対移動した際、仮にロックプレート39が内側開口14aの後端面14b又は前端面14cに当接したとしても外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接することはない。あるいは、ロックプレート39が外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接したとしても支持軸22が長孔35の終端に到達することはない。換言すれば、支持軸22は、ロックプレート39が外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接したとしても、ロックスプリング50(楔部53)を弾性変形させつつ長孔35の範囲で前後方向に移動することになる。
【0045】
図2に示すように、解除ハンドル6は、筒材を曲げ成形してなり、両アッパレール4の前側でこれらを幅方向に橋渡しするように成形されている。解除ハンドル6の後方に延出する先端部61は、幅方向に縮幅された扁平円筒形状を呈しており、ハンドル差し込み部38の幅方向の寸法よりも大きい幅方向の内径及びアッパレール4の両内側フランジ14間の幅方向の距離よりも小さい幅方向の外径を有する。先端部61は、アッパレール4の前側開口端から該アッパレール4内に挿入され、ハンドル差し込み部38が挿入されることでロックレバー30に連結される。従って、先端部61は、基本的に支持軸22周りにロックレバー30と一体回転する。なお、先端部61の下部には、幅方向に延在するスリット状の支持溝62が形成されている。
【0046】
アッパレール4内には、1本の線材からなるハンドルスプリング65が配置される。このハンドルスプリング65は、平面視において後側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の延設部66を有するとともに、これら両延設部66の前端間を幅方向に接続する接続部67を有する。
【0047】
図4(a)に示すように、ハンドルスプリング65は、ハンドル差し込み部38の挿入された先端部61(解除ハンドル6)の支持溝62に接続部67が嵌入され、支持軸22よりも車両後方でロックレバー30(柄部31)の接続壁33下面に両延設部66の後端部が当接されている。そして、先端部61は、支持溝62においてハンドルスプリング65により上昇するように付勢される。なお、レール側係止端部55よりも下方に配置されるハンドルスプリング65は、該当の接続壁33下面に向かって接続部67から車両後上方に延びる両延設部66がレール側係止端部55の後方で両延設部51を跨ぐことでロックスプリング50との干渉が回避されている。
【0048】
先端部61は、これに挿入されたハンドル差し込み部38の前端部が支持溝62(即ちハンドルスプリング65による先端部61の付勢位置)の車両前方で上下方向に揺動自在に支持され、支持溝62においてハンドルスプリング65により上方に付勢されることで、その姿勢が制御されている。
【0049】
そして、先端部61の前端が持ち上がると、該先端部61と共にロックレバー30がロックスプリング50の付勢力に抗して支持軸22周りにロックプレート39が下降する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れる側に回動する。
【0050】
ここで、解除ハンドル6の操作力が解放されているものとする。このとき、ロックスプリング50の付勢力により、先端部61(解除ハンドル6)と共にロックレバー30が支持軸22周りにロックプレート39が上昇する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bに嵌入する側に回動されることで、前述の態様でロアレール3及びアッパレール4の相対移動が係止される。そして、アッパレール4に支持されるシート5の前後方向の位置が保持される。
【0051】
その後、解除ハンドル6がその前端を持ち上げるように操作されたとする。このとき、ロックスプリング50の付勢力に抗して、先端部61(解除ハンドル6)と共にロックレバー30が支持軸22周りにロックプレート39が下降する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れる側に回動されることで、前述の態様でロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止が解除される。そして、アッパレール4に支持されるシート5の前後方向の位置調整が可能になる。
【0052】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図5(a)(b)に示すロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態において、ロックプレート39と外側フランジ16の後端面16c又は前端面16dとの前後方向の隙間bは、ロックプレート39と内側フランジ14の後端面14b又は前端面14cとの前後方向の隙間aよりも大きく設定されている。また、この隙間bは、長孔35の前後方向中央部からの支持軸22の移動可能距離rよりも小さく設定されている。
【0053】
この状態において、例えば車両前突等に伴いシート5に対し車両前方への荷重が入力されたとする。このとき、シート5と共にアッパレール4が車両前方に移動しようとすることで、相対的にロックレバー30がアッパレール4に対して車両後方に移動しようとする。同時に、ロアレール3も、アッパレール4等に対して車両後方に移動しようとする。
【0054】
ただし、このときの前後方向の荷重が所定値Fを下回っていれば、両楔部53による付勢力がこれら楔部53に対する前後方向の荷重に勝ることで、楔作用によって支持軸22の前後方向の移動(がたつき)が抑えられる。一方、このときの前後方向の荷重が所定値Fを上回ると、両楔部53による付勢力がこれら楔部53に対する前後方向の荷重に負けることで、ロックレバー30は、支持軸22が両楔部53を乗り上げるようにこれら両楔部53を弾性変形させつつ支持軸22に長孔35を摺動させて、車両後方に移動し始める。
【0055】
そして、前後方向の荷重が更に増加すると、図6(a)(b)に示すように、車両後方に移動したロックレバー30のロックプレート39が隙間aを埋めて両後端面14bに当接する。これにより、両後端面14bにおいてロックレバー30からの当座の荷重が受けられる。
【0056】
この状態で、前後方向の荷重が更に増加すると、ロックプレート39が両後端面14bを破断してそれらにめり込み始める。これにより、ロックレバー30の上下方向の回動が規制される。従って、この段階で仮に係止爪13bが車両前方に傾斜するように変形して係止孔39bとの接触角が大きくなったとしても、ロックレバー30の回動が規制されていることで、係止孔39bが係止爪13bから離脱しにくくなる。
【0057】
そして、前後方向の荷重が更に増加すると、図7(a)(b)に示すように、両後端面14bにめり込んだロックプレート39が隙間bを埋めて両後端面16cにも当接する。これにより、両後端面16cにおいてもロックレバー30からの荷重が受けられる。つまり、ロックレバー30は、ロックプレート39がめり込む両後端面14bで上下方向の回動が規制された状態で、両内側フランジ14及び両外側フランジ16の協働で荷重が受けられる。そして、両内側フランジ14及び両外側フランジ16により荷重分担がなされることで、両後端面14bの破断進行が中断されて係止爪13bの曲げ破壊(せん断)が抑えられる。なお、この状態では、長孔35の前端が支持軸22に近付くものの、該支持軸22には未着となる。換言すれば、少なくともこの状態までは、支持軸22は、相対的に長孔35を前後方向に移動するのみで、入力された荷重で変形したり長孔35から外れたりすることはない。
【0058】
そして、前後方向の荷重が更に増加し、図7(a)(b)から図8(a)(b)への変化で示すように、アッパレール4等に対するロアレール3の車両後方への移動に伴い仮に係止爪13bが車両前方に傾斜するように変形して係止孔39bとの接触角が大きくなったとしても、ロックレバー30の回動が規制されていることで、係止孔39bが係止爪13bから離脱しにくくなる。そして、前後方向の荷重が更に増加したときには、係止孔39bに嵌入する現状の係止爪13bが曲げ破壊(せん断)・除去されつつ、相対的なアッパレール4の車両前方への移動に伴って当該方向に控える次の係止爪13bがロックプレート39に当接されて、当該方向の移動の抵抗となる。そして、前後方向の荷重が更に増加したときには、当該係止爪13bの曲げ破壊及び車両前方に控える次の係止爪13bとの当接が繰り返される。従って、相対的なアッパレール4の車両前方への移動抵抗が途絶えることはなく、当該方向の移動を抑えつつ、車両前突等に伴う入力エネルギーが吸収される。
【0059】
なお、車両後突等に伴いシート5に対し車両後方への荷重が入力された場合については、前後の関係を入れ替えることを除きその動作は同様である。
次に、アッパレール4に対するロアレール3の前後方向の移動量と当該方向に入力される荷重との関係について説明する。
【0060】
図9に示すように、ロックプレート39が両後端面14b(又は前端面14c)にめり込んで、更に係止孔39bに嵌入する現状の係止爪13bが曲げ破壊され始めるまでの間は、ロアレール3の移動量の増加に伴って荷重が増加し続ける。つまり、ロアレール3の移動量が増加するほど該ロアレール3が移動しにくくなる。そして、係止孔39bに嵌入する現状の係止爪13bが曲げ破壊されると、ロアレール3の移動量の増加に対する荷重が急減する。その後、車両前方に控える次の係止爪13bへのロックプレート39の当接及び当該係止孔39bの曲げ破壊が繰り返されることで、ロアレール3の移動量の更なる増加に伴って荷重が周期的に増減する。つまり、ロアレール3が一旦移動しやすくなったとしても、その後はロアレール3の移動が抑えられる。
【0061】
次に、支持軸22が長孔35に対して車両前方に移動し始めるときの所定値Fについて説明する。
図10に示すように、ロックスプリング50の両楔部53が支持軸22を下方に付勢する際の付勢力をWとし、支持軸22に圧接する両楔部53の頂角の1/2をθとする。また、支持軸22及び両楔部53間の摩擦係数をμとする。そして、支持軸22に入力される前後方向の荷重が所定値Fのときに、支持軸22が両楔部53を乗り越えて前後方向の移動を開始するものとする。
【0062】
この場合、両楔部53には、それらの楔作用によって、上方に「F・tanθ」の力が加わる。また、支持軸22との接触部における法線方向成分が「F/cosθ」であることで、該接触部における摩擦力は「μ・F/cosθ」となって、その下方に向かう分力成分は「μ・F」となる。つまり、摩擦力は、両楔部53の外れを防ぐ方向に作用する。
【0063】
従って、支持軸22が長孔35に対して前後方向に移動し始めるためには以下の関係を満足すればよい。
F・tanθ−μ・F>W
この関係から明らかなように、θが小さいほど、μが大きいほど外れにくくなる。つまり、本実施形態では、両楔部53の付勢力W(弾性係数、組付状態での弾性変形量など)や頂角(θ)、支持軸22及び両楔部53の接触部の摩擦係数μ(使用する摩擦材、端面処理など)を調整することで、支持軸22を前後方向に移動させる際の狙いとする荷重(所定値F)を調整することができる。
【0064】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、ロックレバー30による前記相対移動の係止状態で、例えば車両衝突等で前後方向の大荷重が入力され、これに伴う変形によってロックレバー30及びアッパレール4が前後方向の一方向に変位すると、ロックプレート39と隙間(a)の小さい方の内側フランジ14(後端面14b又は前端面14c)とが接触して荷重を受ける。そして、前後方向の荷重が更に増加すると、ロックプレート39が両内側フランジ14を破断してこれら両内側フランジ14にめり込む。これにより、ロックレバー30の回動が規制される。そして、前後方向の荷重が更に増加すると、ロックプレート39と隙間(b)の大きい方の外側フランジ16(後端面16c又は前端面16d)とが接触して両内側フランジ14と協働で荷重を受ける。従って、仮に係止爪13bが前後方向の逆方向に傾斜するように変形して係止爪13bとの接触角が大きくなったとしても、ロックレバー30の回動が規制されていることでロアレール3及びアッパレール4の相対移動を抑えることができる。
【0065】
(2)本実施形態では、支持軸22によりアッパレール4に回動自在に連結されるロックレバー30は、長孔35の範囲で前後方向の移動が可能である。そして、前後方向に加わる荷重が所定値Fを下回るのであれば、ロックスプリング50に付勢される支持軸22は両楔部53により長孔35における前後方向の移動が規制される。そして、ロックレバー30は、アッパレール4に対する前後方向の移動が規制される。このように、支持軸22の精度を徒に厳しくすることなく、アッパレール4及びロックレバー30の前後方向におけるがたつき、ひいてはロアレール3及びアッパレール4の前後方向におけるがたつきを抑えることができる。そして、シート5の前後方向におけるがたつき(又は振動)を抑えることができる。
【0066】
一方、ロックレバー30による前記相対移動の係止状態で、例えば車両衝突等で前後方向に加わる荷重が所定値Fを上回ると、ロックスプリング50を弾性変形させつつ両楔部53による長孔35における支持軸22の前後方向の移動規制が解除され、アッパレール4と共に支持軸22が長孔35を前後方向に移動する。これにより、ロックプレート39が内側フランジ14(後端面14b又は前端面14c)に接触して荷重を受ける。従って、内側フランジ14により当該荷重を十分に支えることができれば、支持軸22が長孔35を移動した分、支持軸22の変形を僅少又は皆無にできる。そして、ロックレバー30による前記相対移動の係止をより安定化させることができる。
【0067】
(3)本実施形態では、外側フランジ16は、ガイド部16aにおいて先端側に向かうに従い幅方向内側に向かうものの、ロックプレート39の幅方向縁部は、傾斜部39cにおいて幅方向外側に向かうに従い前記先端側に向かう。従って、前記相対移動の係止状態において、仮にロックプレート39が外側フランジ16のガイド部16aに当接した際には、該ガイド部16aにロックプレート39をより直角に近い状態で交差させることができる。これにより、ロックプレート39(傾斜部39c)及び16aの当接に伴う互いのせん断方向の係合をより堅固にすることができる。
【0068】
また、傾斜部39cは、ロックプレート39の幅方向両縁部のみに形成されており、両内側フランジ14と交差する角度に影響を及ぼすことはない。このため、両内側フランジ14にロックプレート39をより直角に近い状態で交差させることができ、ロックプレート39及び両内側フランジ14の当接に伴う互いのせん断方向の係合を依然として堅固にすることができる。
【0069】
さらに、外側フランジ16の上端部にガイド部16aを形成するとともに、該ガイド部16aに外側開口16bを形成してこれにロックプレート39を幅方向に挿通した。これにより、ロックプレート39の支持軸22周りの回動軌跡をガイド部16aの下方で開放することができる。そして、ロックプレート39と外側フランジ16との干渉を抑制することができ、あるいはロックプレート39の上下方向の移動量(ロックレバー30のストローク)を増大することができる。
【0070】
(4)本実施形態では、本実施形態では、ロックプレート39は、規制突部39dによりアッパレール4に対するその幅方向の移動が規制されることで、ロックレバー30の回動に伴う係止孔39b及び係止爪13bの嵌脱動作をより安定化することができる。特に、規制突部39dは、ロックレバー30の回動中心から離れたロックプレート39(係止爪13bとの係合位置)に設けられていることで、例えば当該回動中心(支持軸22)の近傍に設ける場合のように、幅方向の移動規制の僅かなずれがロックプレート39において拡大されてしまうこともない。
【0071】
(5)本実施形態では、ロックレバー30による前記相対移動の係止状態では、外側開口16bにおける両外側フランジ16及びロックプレート39の隙間bを、長孔35における支持軸22の移動可能距離rよりも小さく設定した。従って、例えば車両衝突等に伴い前後方向に加わる荷重が所定値Fを上回ったとしても、少なくともロックプレート39が外側フランジ16(後端面16c又は前端面16d)に接触して荷重を受けるまでの間は、長孔35の範囲で支持軸22の移動が許容される。従って、外側フランジ16(及び内側フランジ14)により当該荷重を十分に支えることができれば、支持軸22は長孔35を移動するのみでその変形が皆無となり、ロックレバー30による前記相対移動の係止をいっそう安定化させることができる。
【0072】
(6)本実施形態では、ロックスプリング50に付勢される支持軸22を、極めて簡易な構造である両楔部53を利用して長孔35における前後方向の移動を規制することができる。また、長孔35における支持軸22の前後方向の移動規制力を、両楔部53の頂角、支持軸22及び両楔部53間の摩擦係数、ロックスプリング50の付勢力などの調整によって簡易に変更することができる。
【0073】
(7)本実施形態では、両楔部53をロックスプリング50に形成することで、アッパレール4(ブラケット17)又はロックレバー30の構造を変更することなく長孔35における支持軸22の前後方向の移動を規制することができる。
【0074】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記実施形態において、係止爪13bが前後方向に傾斜するように変形し始めるタイミングは、ロックプレート39が内側フランジ14(後端面14b又は前端面14c)にめり込み始めるタイミングであってもよいし、ロックプレート39が外側フランジ16(後端面16c又は前端面16d)に当接するタイミングであってもよい。あるいは、それらの中間のタイミングであってもよい。
【0075】
・前記実施形態において、ロックプレート39の係止孔39bに代えて、幅方向に開いた係止溝を採用してもよい。つまり、櫛歯状のロックプレートであってもよい。
・前記実施形態において、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態で、両外側開口16bにおける外側フランジ16(後端面16c又は前端面16d)及びロックプレート39の隙間bを、長孔35における支持軸22の移動可能距離rと同等、若しくはこれよりも大きく設定してもよい。
【0076】
・前記実施形態において、規制突部39dに代えて、ロックプレート39に幅方向規制部材を別設してもよい。
・前記実施形態において、ロックプレート39の規制突部39dを割愛してもよい。
【0077】
・前記実施形態において、ロックプレート39の幅方向両縁部に傾斜部39cを形成しなくてもよい。
・前記実施形態において、アッパレール4の外側フランジ16にガイド部16aを形成しなくてもよい。この場合、ロックレバー30(ロックプレート39)の回動範囲の全体に亘ってロックプレート39が幅方向に貫通可能な外側開口とすればよい。この外側開口は、上方に開いた切り欠きであってもよいし、閉じた開口(孔)であってもよい。また、ロックプレート39の幅方向両縁部に傾斜部(39c)を形成する必要はない。
【0078】
・前記実施形態において、支持軸22は、長孔35の長手方向中央部に配置されていなくてもよい。例えば支持軸22は、長孔35を車両後方にのみ移動可能なようにその前端に当接又は近接していてもよいし、長孔35を車両前方にのみ移動可能なようにその後端に当接又は近接していてもよい。
【0079】
・前記実施形態において、ブラケット17を割愛してアッパレール4に直に支持軸22を固着してもよい。
・前記実施形態において、ブラケット17(又はアッパレール4)及びロックレバー30と、支持軸22及び長孔35との配置関係は逆であってもよい。この場合、ブラケット17(又はアッパレール4)には、長孔35に代えて幅方向に非連通の溝状の長穴を採用してもよい。
【0080】
・前記実施形態において、ロックレバー30(柄部31)に、長孔35に代えて丸孔を形成し、該丸孔に支持軸22を嵌挿してアッパレール4(ブラケット17)にロックレバー30を回動自在に連結してもよい。ただし、車両衝突等に伴う前後方向の移動によってロックレバー30のロックプレート39が内側フランジ14(後端面14b又は前端面14c)に当接等する段階では、支持軸22等が変形する可能性がある。なお、ブラケット17(又はアッパレール4)及びロックレバー30と、支持軸22及び丸孔との配置関係は逆であってもよい。
【0081】
・前記実施形態においては、ロックスプリング50に楔部53を設けたが、これに代えて、若しくはこれに加えて長孔35に楔部を設けてもよい。
・前記実施形態においては、ロックスプリング50の一部(楔部53)を利用して支持軸22を付勢したが、該ロックスプリング50とは別設の支持軸付勢部材(例えば線細工ばねや板ばねなど)にて支持軸22を付勢してもよい。
【0082】
・前記実施形態においては、支持軸付勢部材(楔部53)により支持軸22を下方に付勢したが、長孔35の延在方向(相対移動方向)に交差するのであれば、その付勢方向は任意である。
【0083】
・前記実施形態において、隙間aは略零であってもよい。ただし、隙間aとして一定量を設定する方が組付け時のばらつき吸収により好ましい。
・前記実施形態において、隙間a1,a2は互いに異なっていてもよい。同様に、隙間b1,b2は互いに異なっていてもよい。
【0084】
・前記実施形態において、隙間a1,b1及び隙間a2,b2の一方は、同等若しくは大小関係が逆転していてもよい。この場合、車両前突及び後突のいずれかのみで効果が得られる。
【0085】
・前記実施形態において、ロアレール3は、複数枚の板材を溶接などで結合した構造であってもよい。また、ロアレール3の断面形状は一例であって、係止爪を有する一対のフランジを有するのであればよい。
【0086】
・前記実施形態において、アッパレール4は、複数枚の板材を溶接などで結合した構造であってもよい。また、アッパレール4の断面形状は一例であって、内側開口の形成された一対の内側フランジ及び外側開口の形成された一対の外側フランジを有するのであればよい。
【0087】
・前記実施形態において、柄部31及びロックプレート39の一体形成されたロックレバーであってもよい。
・前記実施形態において、ロックスプリングとして、1本の延設部51のみの形状を採用してもよい。あるいは、ロックスプリングとして、互いに独立した複数本からなる延設部51を採用してもよい。
【0088】
・前記実施形態において、ロックスプリングとして、コイルばねや板ばねなどを採用してもよい。
・前記実施形態において、ロアレール3及びアッパレール4と、車両フロア2及びシート5の固定関係(即ち上下の配置関係)は逆であってもよい。この場合、車両フロア2側に設置されるロックレバー30の解除操作は、例えばケーブルなどを通じて適宜の操作部材から行ってもよい。
【0089】
・前記実施形態において、ロアレール3及びアッパレール4(車両用シートスライド装置)は、シート5に対し各1本ずつ配設される構成であってもよいし、各3本以上ずつ配設される構成であってもよい。
【0090】
・前記実施形態において、ロアレール及びアッパレールの相対移動方向は、例えば車両幅方向であってもよい。この場合、車両側突時の相対移動の抑制に効果的である。
【符号の説明】
【0091】
3…ロアレール(第1レール)、4…アッパレール(第2レール)、13…フランジ、13b…係止爪、14…内側フランジ、14a…内側開口、16…外側フランジ、16a…ガイド部、16b…外側開口、22…支持軸、30…ロックレバー(ロック部材)、35…長孔(長穴)、39…ロックプレート(平板部)、39b…係止孔(係止部)、39c…傾斜部、39d…規制突部(幅方向規制部材)、50…ロックスプリング(付勢部材、支持軸付勢部材)、53…楔部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11