特許第5974823号(P5974823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974823
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】排ガス浄化システム及び排ガス浄化方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20160809BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20160809BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20160809BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20160809BHJP
   B01D 53/88 20060101ALI20160809BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20160809BHJP
   B01J 29/072 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   F01N3/08 BZAB
   F01N3/28 M
   F01N3/28 Q
   F01N3/20 D
   F01N3/20 G
   B01D53/86 222
   B01D53/86 241
   B01D53/86 245
   B01D53/86 280
   B01D53/88
   B01D53/90
   B01J29/072 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-235539(P2012-235539)
(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公開番号】特開2014-84822(P2014-84822A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】前川 弘吉
【審査官】 山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/141894(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/140262(WO,A1)
【文献】 特開2000−204931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38
B01D 53/86
B01D 53/88
B01D 53/90
B01J 29/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排ガスの管路に介設されたSCRコンバータを備えた排ガス浄化システムにおいて、
前記SCRコンバータの径方向の内側部分を銅ゼオライト系触媒で、外側部分を鉄ゼオライト系触媒でそれぞれ構成するとともに、
前記SCRコンバータの上流側の直前に、内管が該SCRコンバータの内側部分に、外管が該SCRコンバータの外側部分に、ぞれぞれ離間して対向する二重管を流路切替バルブを介して設置し、
前記排ガスの温度及びSCRコンバータの温度が予め設定した温度未満である場合には、前記流路切替バルブにより該排ガスの流路を前記内管のみに切り替える一方で、
前記排ガスの温度及びSCRコンバータの温度が予め設定した温度以上である場合には、前記流路切替バルブにより前記排ガスの流路を前記外管のみに切り替えることを特徴とする排ガス浄化システム。
【請求項2】
前記予め設定した温度が150〜250℃である請求項1に記載の排ガス浄化システム。
【請求項3】
前記SCRコンバータの内側部分と外側部分との外径比が0.65〜0.75である請求項1又は2に記載の排ガス浄化システム。
【請求項4】
前記SCRコンバータの外側部分がNOx吸着材を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス浄化システム。
【請求項5】
ディーゼルエンジンの排ガスに含まれるNOxを、尿素水を還元剤とするSCRコンバータで浄化する排ガス浄化方法において、
径方向の内側部分が銅ゼオライト系触媒で、外側部分が鉄ゼオライト系触媒でそれぞれ構成したSCRコンバータを用いて、
前記排ガスの温度及びSCRコンバータの温度が予め設定した温度未満である場合には、前記排ガスに前記尿素水を噴霧した後に主に前記SCRコンバータの内側部分で前記NOxを浄化する一方で、
前記排ガスの温度及びSCRコンバータの温度が予め設定した温度以上である場合には、前記排ガスに尿素水を噴霧した後に主に前記SCRコンバータの外側部分で前記NOxを浄化することを特徴とする排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化システム及び排ガス浄化方法に関し、更に詳しくは、SCRにおけるNOxの浄化性能を、従来よりも広い温度範囲で向上することができる排ガス浄化システム及び排ガス浄化方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx:Nitrogen Oxide)を無害化する装置の1つとして、尿素水と選択還元型触媒(SCR:Selective Catalytic Reduction)とを用いた尿素SCRシステムが実用化されている。この尿素SCRシステム用の触媒としては、鉄イオン交換アルミノシリケートや銅イオン交換アルミノシリケート(又はアルミノホスフェート)などのゼオライト系触媒が一般的に用いられている。このゼオライト系触媒を含むスラリーをセラミックハニカムなどの担体に塗布したもの、あるいはその成型体がSCRコンバータとして使用される。
【0003】
しかしながら、上記のゼオライト触媒は、低温(例えば、約160℃)におけるNOx浄化能力が充分ではないため、エンジン始動直後などの低温時においては、エンジンから排出されたNOxの大部分が浄化されずに大気中に放出されてしまうおそれがある。このような低温時におけるNOx排出を抑制するためには、触媒の低温時のNOx浄化能力を高めるか、あるいはNOx吸着剤を用いてNOxを保持するなどの方策が必要となる。前者の低温時のNOx浄化能力の改善については、低温活性の高い銅ゼオライト系触媒を用いることが考えられるが、400〜450℃以上の高温ではNOx浄化能力が著しく低下するという欠点があった。
【0004】
このようにゼオライト触媒が過度に昇温されることは、尿素SCRシステムの構造に起因する。つまり、従来の尿素SCRシステムでは、排ガスが直接当たる部位がSCRコンバータの中央部分に集中するので、外周部分に比べて中央部分が昇温されやすくなるため、径方向に100℃前後の温度差が生じる。従って、エンジン稼働後の高温時においては、図5に示すように、SCRコンバータの中央部分が過度に昇温されて外周部分よりも高温になって、ゼオライト系触媒の有効範囲を大きく逸脱して、NOx浄化能力が著しく低下することになる。
【0005】
低温時から高温時にかけてSCRコンバータのNOx浄化能力を向上するには、例えば特許文献1のように、低温活性の高い触媒と高温活性の高い触媒とを直列に組み合わせてSCRコンバータを構成することが考えられる。しかしながら、そのような構成では、上述したようなSCRコンバータの径方向の温度差に起因するNOx浄化能力の低下を抑制することはできないため、NOx浄化能力を向上できる温度範囲は限定されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011−518658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、SCRにおけるNOxの浄化性能を、従来よりも広い温度範囲で向上することができる排ガス浄化システム及び排ガス浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の排ガス浄化システムは、ディーゼルエンジンの排ガスの管路に介設されたSCRコンバータを備えた排ガス浄化システムにおいて、前記SCRコンバータの径方向の内側部分を銅ゼオライト系触媒で、外側部分を鉄ゼオライト系触媒でそれぞれ構成するとともに、前記SCRコンバータの上流側の直前に、内管が該SCRコンバータの内側部分に、外管が該SCRコンバータの外側部分に、ぞれぞれ離間して対向する二重管を流路切替バルブを介して設置し、前記排ガスの温度及びSCRコンバータの温度が予め設定した温度未満である場合には、前記流路切替バルブにより該排ガスの流路を前記内管のみに切り替える一方で、前記排ガスの温度及びSCRコンバータの温度が予め設定した温度以上である場合には、前記流路切替バルブにより前記排ガスの流路を前記外管のみに切り替えることを特徴とするものである。
【0009】
上記の排ガス浄化システムにおいては、予め設定した温度を150〜250℃の範囲内の温度値とする。
【0010】
また、低温時及び高温時におけるNOx浄化性能を均一にするために、SCRコンバータの内側部分と外側部分との外径比を0.65〜0.75とすることが望ましい。
【0011】
更に、SCRコンバータの外側部分にNOx吸着材を含有させることで、低温時におけるNOx浄化性能をより向上することができる。
【0012】
上記の目的を達成する本発明の排ガス浄化方法は、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれるNOxを、尿素水を還元剤とするSCRコンバータで浄化する排ガス浄化方法において、径方向の内側部分が銅ゼオライト系触媒で、外側部分が鉄ゼオライト系触媒でそれぞれ構成したSCRコンバータを用いて、前記排ガスの温度及びSCRコンバータの温度が予め設定した温度未満である場合には、前記排ガスに前記尿素水を噴霧した後に主に前記SCRコンバータの内側部分で前記NOxを浄化する一方で、前記排ガスの温度及びSCRコンバータの温度が予め設定した温度以上である場合には、前記排ガスに尿素水を噴霧した後に主に前記SCRコンバータの外側部分で前記NOxを浄化することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の排ガス浄化システム及び排ガス浄化方法によれば、ディーゼルエンジンからの排ガス及びSCRコンバータが低温時には、SCRコンバータの内側部分を構成する低温活性が高い銅ゼオライト系触媒に、二重管の内管のみを通じて排ガスを当てるようにする一方で、高温時には外側部分を構成する高温活性が高い鉄ゼオライト系触媒に、二重管の外管のみを通じて排ガスを当てるようにしたので、従来よりも広い温度範囲でNOxの浄化性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態からなる排ガス浄化システムの構成図である。
図2図1においてX−Xで示す箇所の拡大断面図である。
図3図1においてY−Yで示す箇所の拡大断面図である。
図4】実施例の実験結果を示すグラフである。
図5】SCRコンバータの温度分布とゼオライト系触媒の有効範囲とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1〜3は、本発明の実施形態からなる排ガス浄化システムを示す。
【0017】
この排ガス浄化システムは、ディーゼルエンジンの排気ガスGが流れる管路1に、上流側から直列に順に配置されたDOC2、DPF3及びSCRコンバータ4を備えている。
【0018】
DOC2は、排気ガスGの混合機能を有する構造に成形した金属製の担体に、ロジウム、酸化セリウム、白金、酸化アルミニウム等を担持して形成される。また、DPF3は、多孔質セラミック製のハニカムのチャンネル(セル)の入口と出口を交互に目封じしたモノリスハニカム型のウオールフローフィルタから形成される。
【0019】
SCRコンバータ4は、コージェライトや酸化アルミニウムや酸化チタン等で形成されるハニカム構造等の担体に、ゼオライト触媒を担持して形成され、入口に設けられた尿素噴射ノズル5から供給された尿素水が加水分解されて生成したアンモニア(NH3)を用いて排気ガスGに含まれるNOxを還元浄化する。
【0020】
このような排ガス浄化システムにおいて、SCRコンバータ4の径方向の中央部分6は低温活性が高い触媒である銅ゼオライト系触媒から構成され、かつ外周部分7は高温活性が高い触媒である鉄ゼオライト系触媒から構成されている。更に、SCRコンバータ4の上流側の直前には、内管8の流路がSCRコンバータ4の中央部分6に、外管9の流路がSCRコンバータ4の外周部分7に、それぞれ離間して対向する二重管10が、流路切替バルブ11を介して設置されている。この流路切替バルブ11は、管路1を流れる排ガスGの流路を内管8又は外管9のいずれかに切り替えるものである。
【0021】
更に、尿素噴射ノズル5の直前の上流側には、排ガスの温度を測定する排ガス温度センサ12が設置されているとともに、SCRコンバータ4の後部には、SCRコンバータ4の出口温度を測定するSCR温度センサ13が設置されている。なお、このSCR温度センサ13は、SCRコンバータ4の温度を代用して示すものである。
【0022】
上記の流路切替バルブ11、排ガス温度センサ12及びSCR温度センサ13は、それぞれECU14に信号線(一点鎖線で示す)により電気的に接続されている。
【0023】
このような排ガス処理システムを用いた排ガス浄化方法を、以下に説明する。
【0024】
まず、エンジン始動時やアイドリング状態などで低負荷条件が続くなどして、排ガス温度センサ12及びSCR温度センサ13の測定値がともに予め定められた値(例えば、150〜250℃の範囲内の温度値)未満である場合には、ECU14は流路切替バルブ11を制御して、管路1を流れる排ガスGの流路を内管8のみにする。これにより、尿素水を噴射された排ガスGの大部分がSCRコンバータ4の中央部分6に流入し、低温活性が高い銅ゼオライト触媒によりNOxの還元浄化が行われるので、低温時におけるNOxの浄化性能が向上する。
【0025】
このとき、排ガスGは内管8のみを通過するので、二重管構造による保温効果により、排ガスGをすみやかに昇温して比較的高温に維持することが可能となる。また、内管8から排出された排ガスGの一部は、SCRコンバータ4の外周部分7にも流入するので、この外周部分7を構成する鉄ゼオライト触媒に、NOx吸着材などのNOx吸着性能に優れた物質を混入しておくことで、低温時におけるNOxの浄化性能を更に向上することができる。
【0026】
エンジンの連続稼働などにより、排ガス温度センサ12及びSCR温度センサ13の測定値がともに予め定められた値以上となった場合には、ECU14は流路切替バルブ11を制御して、管路1を流れる排ガスGの流路を外管9のみとする。これにより、尿素水を噴射された排ガスGの大部分がSCRコンバータ4の外周部分7に流入し、高温活性が高い鉄ゼオライト触媒によりNOxの還元浄化が行われるので、高温時におけるNOxの浄化性能が向上する。
【0027】
このとき、排ガスGはともに放熱面積が大きい外管9及びSCRコンバータ4の外周部分7を流れるので、鉄ゼオライト触媒が過度に昇温されるのを防止して、NOxの浄化性能の低下を抑制することが可能となる。更に、SCRコンバータ4の中央部分6には、排ガスGの一部しか流入しないので昇温が抑制されるため、高温活性に乏しい銅ゼオライト触媒を高温時でも有効に活用することができる。
【0028】
以上のようにして、SCRコンバータ4におけるNOxの浄化性能を、従来よりも広い温度範囲で向上することができる。また、特許文献1の排ガス浄化装置に比べて、SCRコンバータ4の容積や重量を小さくすることができるため、車両への搭載性を向上することができる。
【0029】
なお、上記の実施形態では、低温活性が高い触媒として銅ゼオライト系触媒を、高温活性が高い触媒として鉄ゼオライト触媒を、それぞれ用いているが、具体的な触媒はこれらに限るものではない。
【0030】
低温時及び高温時におけるNOxの浄化性能を均一にする観点から、SCRコンバータ4における中央部分6の銅ゼオライト系触媒の外径rと、外周部分7の鉄ゼオライト系触媒との外径Rとの比r/Rは0.65〜0.75の範囲、より望ましくは0.7とするのがよい。
【実施例】
【0031】
本発明の排ガス浄化システム(実施例)と、銅ゼオライト系触媒のみから構成されたSCRコンバータを有する従来の排ガス浄化システム(比較例1)と、鉄ゼオライト系触媒のみから構成されたSCRコンバータを有する従来の排ガス浄化システム(比較例2)における、同一仕様のディーゼルエンジンからの排ガスGに対するNOx浄化率の温度変化を比較した実験結果を図4に示す。
【0032】
この実験結果から、本発明の排ガス浄化システム(実施例)は、従来の排ガス浄化システム(比較例1、2)に比べて、広い温度範囲でNOxの浄化性能が向上していることが分かる。
【符号の説明】
【0033】
1 管路
2 DOC
3 DPF
4 SCRコンバータ
5 尿素噴射ノズル
6 中央部分
7 外周部分
8 内管
9 外管
10 二重管
11 流路切替バルブ
12 排ガス温度センサ
13 SCR温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5