(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る内燃機関用ピストンの実施形態について
図1から
図10を参照して説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを適用する自動二輪車を示す左側面図である。
【0011】
なお、本実施形態において、前後、上下、左右の表現は、自動二輪車1に乗車するライダーを基準にする。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る自動二輪車1は、車両の前後に延びる車体フレーム2と、車体フレーム2に搭載される内燃機関としてのエンジン3と、車体フレーム2の前方に配置されて車両の左右方向へ操舵自在なステアリング機構5と、車体フレーム2の前方に配置されてステアリング機構5に回転自在に支持される前輪6と、車体フレーム2の後方に配置されて車両の上下方向へ揺動自在に支持される後輪懸架装置7と、車体フレーム2の後方に配置されて後輪懸架装置7に回転自在に支持される後輪8と、エンジン3の運転を制御するエンジン制御モジュール9と、を備える。
【0013】
車体フレーム2は、所謂クレードルタイプである。車体フレーム2は、車体フレーム2の最前部に配置されるヘッドパイプ12と、ヘッドパイプ12から左右へ分岐し斜め後ろ下方へ延びる左右一対のメインフレーム13と、左右一対のメインフレーム13それぞれの後端部に接続されて下方へ垂下する左右一対のピボットフレーム15と、左右一対のメインフレーム13それぞれの後端部に接続されて斜め後ろ上方へなだらかに延びる左右一対のシートレール16と、を備える。
【0014】
ヘッドパイプ12はステアリング機構5の操舵中心であり、ステアリング機構5を車体フレーム2に支える。
【0015】
左右のメインフレーム13は、エンジン3の横幅と同程度まで拡開して、後方へ延びる。左右のメインフレーム13は、前半部の上方にエアクリーナボックス17を支え、後半部の上方に燃料タンク18を支える。
【0016】
左右一対のピボットフレーム15はピボット軸19を備える。ピボット軸19は、左右一対のピボットフレーム15の略中央部に架設される。
【0017】
左右のメインフレーム13および左右一対のピボットフレーム15は、エンジン3を抱え込むように懸架する。
【0018】
エンジン3は、例えば4サイクル並列多気筒の内燃機関、具体的には並列4気筒エンジンである。エンジン3は、自動二輪車1の中央下部を占める。エンジン3の吸気系統はエアクリーナボックス17に接続される。エンジン3の排気系統は、エンジン3の下方を経て車体の右側後半部に達するエキゾーストパイプ20を経て排気マフラ21に接続される。
【0019】
ステアリング機構5はヘッドパイプ12を中心に左右へ操舵される。ステアリング機構5は、左右一対のフロントフォーク22と、フロントフォーク22に設けられて前輪6の上方を覆うフロントフェンダ23と、ステアリング機構5の頂部に設けられるハンドル25と、を備える。
【0020】
フロントフォーク22はサスペンション機構(図示省略)を内装して前輪6を接地させる。右側のハンドル25は、スロットルグリップ26を備える。
【0021】
前輪6は、左右一対のフロントフォーク22のそれぞれの下端部に架設される前輪軸(図示省略)によって回転自在に支持される。
【0022】
後輪懸架装置7はピボット軸19を中心に揺動する。後輪懸架装置7は、ピボット軸19に支えられる前端部から車両の後方へ延びるスイングアーム27と、スイングアーム27と車体フレーム2との間に架設されるリアクッションユニット28と、を備える。
【0023】
スイングアーム27は、ピボット軸19を揺動中心として、後輪8を上下揺動自在に支持する。
【0024】
リアクッションユニット28は後輪8から車体フレーム2に伝わる力を緩衝する。
【0025】
後輪8は、スイングアーム27の後端部に設けられる後輪軸(図示省略)によって回転自在に支持される。後輪8は、ドリブンスプロケット29を備える。後輪8は、ドリブンスプロケット29に巻掛かるドライブチェーン31によってエンジン3から駆動力を得る。
【0026】
さらに、自動二輪車1は、燃料タンク18の左右を覆うタンクカバー33と、シート35の下方空間の左右を覆うフレームカバー36と、を備える。
【0027】
次に、本実施形態に係るエンジン3について詳細に説明する。
【0028】
図2は、本発明の実施形態に係る内燃機関を示す左側面図である。
【0029】
図2に示すように、本実施形態に係る内燃機関としてのエンジン3は、エンジンケース37と、シリンダブロック38と、シリンダヘッド39と、ヘッドカバー41と、オイルパン42と、を備える。
【0030】
エンジンケース37は一体化されたクランクケースとミッションケースとを備える。エンジンケース37の前半部分はクランクケースに相当し、クランクシャフト43を収容する空間をクランク室45を備える。エンジンケース37の後半部分はミッションケースに相当し、トランスミッション装置(図示省略)を収容するミッション室46を備える。
【0031】
また、エンジンケース37は、エンジンケース上半体としてのアッパーケース47と、エンジンケース下半体としてのロアーケース48と、を備える。アッパーケース47とロアーケース48とは結合面49で組み合わされる。結合面49はクランクシャフト43の回転中心線を通る。
【0032】
クランクシャフト43は、アッパーケース47とロアーケース48との間に挟み込まれて回転自在に支持される。クランクシャフト43は、結合面49とシリンダボア51の中心線の延長線とが交わる位置またはその近傍にある。クランクシャフト43の回転中心線はエンジン3の幅方向へ向けられる。
【0033】
シリンダブロック38は、アッパーケース47の上面前半部に固定され、直立よりやや頂部側(ヘッドカバー41側)を前傾させている。シリンダブロック38はエンジン3の幅方向へ並列に並ぶ複数のシリンダボア51を有する。シリンダボア51はピストン52をクランクシャフト43に対して遠近方向へ往復運動自在に収容する。
【0034】
シリンダヘッド39は、シリンダボア51の上方を塞ぐ。
【0035】
図3は、本実施形態に係る内燃機関の燃焼室とその周囲を示す断面図である。
【0036】
図3に示すように、本実施形態に係るエンジン3は、それぞれの気筒に2つの吸気弁53と、2つの排気弁55と、を備える4バルブ式の多気筒エンジンである。なお、
図3は、1つの気筒のみを示し、また、吸気弁53および排気弁55についても、それぞれ1つのバルブのみを示す。
【0037】
また、エンジン3は、シリンダボア51内に往復動自在なピストン52を備える。ピストン52は、コネクティングロッド56を介してクランクシャフト43に連結される。ピストン52の往復運動はコネクティングロッド56によってクランクシャフト43の回転運動へ変換される。コネクティングロッド56の小端部は、ピストンピン57を介してピストン52に連結される。
【0038】
エンジン3のシリンダヘッド39は、ピストン52の頂面58(ピストン頂面)、シリンダボア51を区画するシリンダブロック38の内壁面と協働して、燃焼室59を仕切る。燃焼室59は所謂ペントルーフ型である。
【0039】
また、シリンダヘッド39は、燃焼室59に接続される吸気ポート61と、燃焼室59と吸気ポート61との間に設けられる吸気弁53と、燃焼室59に接続される排気ポート62と、燃焼室59と排気ポート62との間に設けられる排気弁55と、を備える。
【0040】
シリンダヘッド39は、吸気弁53を開閉駆動することによって、吸気ポート61と燃焼室59との間を流通または遮断する。他方、シリンダヘッド39は、排気弁55を開閉駆動することによって、排気ポート62と燃焼室59との間を流通または遮断する。これら吸気弁53および排気弁55の開閉駆動は、クランクシャフト43の回転が伝達される吸気カムシャフト(図示省略)および排気カムシャフト(図示省略)の各回転によって行われる。
【0041】
エンジン3は、燃焼室59内の混合気を周期的に燃焼させることによってピストン52を往復運動させる。シリンダヘッド39は、混合気を点火する点火プラグ(図示省略)を燃焼室59に配置する。
【0042】
吸気弁53の中心線(弁頭部65および吸気弁ステム66の中心線Cin)は、ピストン中心線C(Z軸)に対して傾斜している。
【0043】
排気弁55の中心線(弁頭部67および排気弁ステム68の中心線Cout)は、ピストン中心線C(Z軸)に対して傾斜している。
【0044】
次に、本実施形態に係るピストン52について詳細に説明する。
【0045】
図4は、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す斜視図である。
【0046】
図5は、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す平面図である。
【0047】
図6は、
図5のVI−VI線において、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す断面図である。
【0048】
なお、
図6はピストン中心線Cを通りピストンピン中心線Cpに直交する面に平行な面におけるピストン52の断面図である。また、以下の説明では、説明を容易にするために、ピストンピン57またはピストンピン孔71の中心線Cpに沿う方向をX方向と呼び、このX方向に直交してピストン52の中心線Cに沿う方向をZ方向と呼び、X方向およびZ方向に直交する方向をY方向と呼ぶ。
【0049】
図4から
図6に示すように、本実施形態に係るピストン52は、アルミニウム合金の鋳造品である。ピストン52の頂面58は、吸気弁53の弁頭部65に対応して傾斜する吸気側バルブリセス面72を有する吸気側バルブリセス73と、排気弁55の弁頭部67に対応して傾斜する排気側バルブリセス面75を有する排気側バルブリセス76と、ピストンピン中心線Cp方向視において、ピストン中心線Cよりも排気側バルブリセス76側に偏倚する曲率中心Oを有して吸気側バルブリセス面72と排気側バルブリセス面75との間を繋いで燃焼室59側へ突き出す曲面77を有する湾曲部78と、吸気側バルブリセス73よりも外縁側に設けられる吸気側スキッシュエリア79と、排気側バルブリセス76よりも外縁側に設けられる排気側スキッシュエリア81と、を備える。
【0050】
吸気側バルブリセス73は、吸気弁53に対応して2つ有り、吸気弁53のリフト時に吸気弁53が頂面58に干渉することを防止するために窪んだ凹部である。吸気側バルブリセス面72は、吸気弁53の中心線に対して略直交して傾斜される。吸気側バルブリセス面72は、頂面58の中央近傍側が高く、頂面58の外周縁側が低い傾斜面である。吸気側バルブリセス面72は、吸気弁53の中心線に対して略平行な法線を有して傾斜する。
【0051】
排気側バルブリセス76は、排気弁55に対応して2つ有り、排気弁55のリフト時に排気弁55が頂面58に干渉することを防止するために窪んだ凹部である。排気側バルブリセス面75は、排気弁55の中心線に対して略直交して傾斜される。排気側バルブリセス面75は、頂面58の中央近傍側が高く、頂面58の外周縁側が低い傾斜面である。排気側バルブリセス面75は、吸気弁53の中心線に対して略平行な法線を有して傾斜する。
【0052】
湾曲部78は、吸気側バルブリセス73および排気側バルブリセス76よりも頂面58の中心側にあり、吸気弁53および排気弁55の干渉を生じない。
【0053】
曲面77は、燃焼室59側へ突き出し、頂面58の中央近傍から外周縁側へ向かって下る傾斜を呈し、同じく頂面58の中央近傍側から外周縁側へ下る傾斜を呈する吸気側バルブリセス面72、排気側バルブリセス面75に滑らかに連接される。
【0054】
吸気側スキッシュエリア79は、2つの吸気側バルブリセス73よりも頂面58の外縁側に設けられ、ピストン中心線Cに対して略直交する(つまりZ軸方向へ法線を向ける)平面形状を呈する。吸気側スキッシュエリア79は、エンジン3の圧縮行程において、シリンダヘッド39との隙間を狭めることで、燃焼室59の中央側へ向かう気流(スキッシュ流)を発生させる。
【0055】
排気側スキッシュエリア81は、2つの排気側バルブリセス76よりも頂面58の外縁側に設けられ、ピストン中心線Cに対して略直交する(つまりZ軸方向へ法線を向ける)平面形状を呈する。排気側スキッシュエリア81も、エンジン3の圧縮行程において、シリンダヘッド39との隙間を狭めることで、燃焼室59の中央側へ向かう気流(スキッシュ流)を発生させる。
【0056】
また、ピストン52は、ピストンリング(図示省略)を装着する複数(本実施形態では3つ)のリング溝83と、ピストンピン孔71を有するピンボス85と、を備える。
【0057】
リング溝83は、ピストン52の外周面に設けられる。
【0058】
ピンボス85は、頂面58の裏面に設けられる。
【0059】
図7は、
図5のVII−VII線において、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す断面図である。
【0060】
図8は、
図5のVIII−VIII線において、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す断面図である。
【0061】
図9は、
図5のIX−IX線において、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す断面図である。
【0062】
図10は、
図5のX−X線において、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す断面図である。
【0063】
なお、
図9はピストン中心線Cおよびピストンピン中心線Cpを含む面におけるピストン52の断面図である。
【0064】
図7から
図9に示すように、本実施形態に係るピストン52の曲面77は、
図6の断面に平行な第三断面86(
図7)、第四断面87(
図8)においても、ピストン中心線Cよりも排気側バルブリセス76側に偏倚する曲率中心Oを有して吸気側バルブリセス面72と排気側バルブリセス面75との間を繋いで燃焼室59側へ突き出る。
【0065】
また、曲面77は、ピストンピン中心線Cpに沿って、頂面58の中心よりも外縁に近い位置ほど曲率が大きい。換言すると、曲面77は、ピストンピン中心線Cpに沿って、頂面58の中心よりも外縁に近い位置ほど曲率半径が小さい。つまり、曲面77は、頂面58の中心近傍を通過する
図6における断面よりも頂面58の外縁に近い第三断面86の方が曲率が大きい(曲率半径が小さい)。さらに、曲面77は、第三断面86よりも頂面58の外縁に近い第四断面87の方が曲率が大きい(曲率半径が小さい)。
【0066】
他方、曲面77は、ピストンピン中心線Cpおよびピストン中心線Cを含む第一断面88(
図9)および第一断面88に平行な第二断面89(
図10)において、ピストン52の頂面58の外縁側よりも中心に近い位置ほど窪んでいる。
【0067】
このように構成される本実施形態に係るピストン52は、一対のピンボス85に挟まれる頂面58の中央部分A(
図6、
図9、
図10)に滑らかなアーチ形状板状部91を備える。頂面58の中央部分Aは、頂面58の中でも特に燃焼ガスの高温に曝される。
【0068】
ところで、従来のピストンは、頂面の中央部分に平坦面(センタタンブル流案内領域)を有する。平坦面の形状を保ったまま当該部分の熱応力を低減するためには、板厚をより厚くせざるを得ず、重量増を免れない。しかも、この平坦面は、ピストンの外周縁に近い位置ほど浅い円弧形状を呈する窪みの最深部に配置される。そして、この窪みと吸気側バルブリセス面や排気側バルブリセス面との境界は角張った稜を呈する。稜には応力集中も考えられるため、さらに板厚をより一層厚くせざるを得ず、さらなる重量増を招くことになる。
【0069】
そこで、本実施形態に係るピストン52は、頂面58の中央部分Aにアーチ形状板状部91を備える。このアーチ形状板状部91は、単純な平板形状に比べて熱応力を低減し、板厚の増加を免れつつ頂面58の中央部分Aの疲労破壊を抑制する。また、アーチ形状板状部91は、燃焼室59側へ突き出す形状ゆえに吸気側バルブリセス面72および排気側バルブリセス面75に滑らかに連接して稜を形成することなく応力集中を避けることもできる。換言すると、同じ安全率の下では、本実施形態に係るピストン52は、従来のピストンよりも頂面58の中央部分Aの肉厚を薄くして軽量化することができる。
【0070】
また、従来のピストンでは、シリンダ頂面の中央部分の熱応力を緩和させるために、ピンボスの内周面(つまり、ピストンピン孔)をピストンの中心線に近い位置ほど穴径の拡大するテーパー曲面形状に加工される場合がある。この従来のピストンは、テーパー曲面の加工費負担が重く、製品単価を押し上げてしまう。そこで、本実施形態に係るピストン52は、何らの二次加工を施さず、頂面58の中央部分Aにアーチ形状板状部91を鋳抜きで形成できるので、加工費負担を削減できる。
【0071】
さらに、従来のピストンは、高圧縮比(およそ12以上)を確保するために、ピストンの頂部の外周縁部のよりも、頂部の中央部分を高く突出させて燃焼室容積を小さくする一方、突出部分と点火プラグとのクリアランスを確保するために、極端に窪んだ凹部を備える場合がある。この場合、高温の燃焼ガスに曝される頂部中央の窪みに応力集中が生じるため、その緩和のために更なる重量増を伴う。そこで、本実施形態に係るピストン52は、頂面58の中央部分Aにアーチ形状板状部91を備えることで、圧縮比を高めつつ点火プラグに対応する窪みを不要にできる。
【0072】
また、本実施形態に係るピストン52は、ピストンピン中心線Cpに沿って、頂面58の中心よりも外縁に近い位置ほど曲率の大きい(曲率半径の小さい)曲面77を備えることによって、熱応力を外縁側の熱応力をより緩和しつつ、燃焼室59の圧縮比を高められる。
【0073】
さらに、本実施形態に係るピストン52は、ピストンピン中心線Cpおよびピストン中心線Cを含む第一断面88および第一断面88に平行な第二断面89において、頂面58の外縁側よりも中心に近い位置ほど窪んでいる曲面を備えることによって、熱応力を外縁側の熱応力をより緩和しつつ、燃焼室59の圧縮比を高められる。
【0074】
したがって、本実施形態に係るピストン52によれば、重量の増加を抑制しつつ頂面58の熱応力を緩和し、疲労破壊を抑制できる。