特許第5974887号(P5974887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974887
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】多結晶シリコン製造用シードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20160809BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20160809BHJP
   C01B 33/035 20060101ALN20160809BHJP
【FI】
   C01B33/02 E
   H01L21/304 611S
   !C01B33/035
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-281093(P2012-281093)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-125358(P2014-125358A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】梅原 弘毅
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−083743(JP,A)
【文献】 特開2009−178984(JP,A)
【文献】 特開2009−263149(JP,A)
【文献】 特開2012−056841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンロッドを軸方向に沿って平行にスライスして複数の板状物を製作した後に、これらの板状物をさらに面方向と直交する方向に沿って平行に切断して断面矩形の複数の多結晶シリコン製造用シードを製造する方法であって、前記シリコンロッドの径方向の両側部を前記軸方向に沿って平行に、かつ2つの異なる幅の切断面となるように切断する第1工程と、両切断面のうち幅の広い切断面側から、該切断面に垂直にスライスすることにより前記板状物を形成する第2工程と、前記板状物を切断して前記多結晶シリコン製造用シードを製造する第3工程とを有し、前記第1工程において前記2つの異なる幅のうち広い幅をAとし、狭い幅をBとした場合に、比率B/Aを0.8以下に設定することを特徴とする多結晶シリコン製造用シードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンを製造する際のシリコン芯棒となるシードをシリコンロッドから切断する多結晶シリコン製造用シードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多結晶シリコン製造方法としてシーメンス法が知られている。シーメンス法は、還元反応容器内にシリコン析出のためのシード(芯棒)が立設され、その表面にシランガス及び水素ガスによる還元反応や、熱分解反応によりシリコンが堆積される。このシリコン析出用のシードは、溶融シリコンから引上げ法により製造する方法や、多結晶又は単結晶シリコンロッド(以下、単にシリコンロッドという。)からの切出しによる方法により製造される。
【0003】
例えば特許文献1には、シリコンロッドから軸方向に切断する際に、端面支持部材を使用することで切断中の板状部材の傾きや倒れを防止する方法が開示されている。また、特許文献2には、シリコンロッド中の熱応力に伴う機械的加工時の問題を、アニール処理を行わずに回避する方法が開示されている。この方法においては、シリコンロッドを、その軸回りに回転させながら、シリコンロッドの外周部から矩形の断面を有するシードを順次切り取ることで、シリコンロッド形成時に内部に蓄積される熱応力を開放することができ、切断時のシリコン細棒(シード)の損傷の発生を解決することとしている。
【0004】
ところが、シリコンロッドは脆性材料であるため、切断等の加工時において振動が原因で欠けやクラック等が生じ易い。このため、特許文献1では、シリコンロッドの切断に際しては、敷板を使用して切断時の振動を吸収するとともに、シリコンロッドの両端面を押圧状態に支持して、軸芯の振れを防止することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010‐83743号公報
【特許文献2】特開2012‐134489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、シリコンロッドの切断における割れやクラックは、固定方法の工夫や振動の吸収を行うことで、ある程度は抑制させることができる。しかし、切断時におけるチッピング(エッジ部の欠け)については、依然として低減できないという問題があった。
このチッピングは、割れやクラックには至らないものの、最終的にシード状態に加工した際に、シードの長さ方向で断面積が部分的に小さくなる箇所が発生する。これにより、シードの断面積が小さいところでは抗折強度が低下するため、シリコン析出中にシードが折れやすくなることから通電不良により加熱ができなくなったり、シードロッドの倒壊が発生することにより他のシードの倒壊を誘発したりして、シリコン析出の生産性が低下するおそれがある。また、チッピングが形成されるとその部分のシードの断面積が小さくなることで、シードの通電時に局所的に高温になる部分が発生し、シードの溶断が生じやすくなる。その結果、通電不良となり、上記と同様にシリコン析出の生産性が低下するおそれがある。
また、還元反応容器内でシリコンロッドの倒壊が発生すると、所定の形状のシリコン塊が得られなくなったり、倒壊によりシリコンロッドが炉壁などと接触したり激突することで、シリコン表面が汚染されるなど二次的な影響が発生する。この場合、その後の処理に時間や労力がかかるため、シリコンロッドの倒壊は避けなければならない課題となっている。
このため、チッピングが発生したシードは使用することができず、結果としてシードの切断加工の歩留まりの低下に繋がっていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、多結晶シリコンロッドから切り出しにより多結晶シリコン製造用シードを製造する方法において、多結晶シリコン製造用シード切断加工の歩留まりを向上させることができる多結晶シリコン製造用シードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
シリコンロッドからシードを切断する場合、円柱状のシリコンロッドを台の上に横向きに設置して、その上方から回転切断刃を下降して、シリコンロッドの一端部からシリコンロッドの長さ方向に平行に切断することにより、複数枚の板状物にスライスする。このとき、回転切断刃が切り抜けるシリコンロッドの下面側にチッピングが生じ易い。このチッピングが発生する原因としては、回転切断刃がシリコンロッドの下部側から出る段階で、周辺にダメージに与えることで、チッピングが形成され易くなると判断される。これらのチッピングは、1mm以下のものから数mmに達するものまであり、シリコン析出反応生産効率や製品歩留まりに影響を及ぼす原因となるため、その発生を極力抑えることが望ましい。
しかし、このチッピングのレベル(サイズや発生割合)を低減することは。回転切断刃の回転数や送りスピードを変えるなど切断条件を調整することで可能ではあるが、シード生産効率を低下させることにも繋がるため、生産性を低下させないでチッピングを完全になくすことは難しい。
【0009】
そこで、本発明の多結晶シリコン製造用シードの製造方法は、シリコンロッドを軸方向に沿って平行にスライスして複数の板状物を製作した後に、これらの板状物をさらに面方向と直交する方向に沿って平行に切断して断面矩形の複数の多結晶シリコン製造用シードを製造する方法であって、前記シリコンロッドの径方向の両側部を前記軸方向に沿って平行に、かつ2つの異なる幅の切断面となるように切断する第1工程と、両切断面のうち幅の広い切断面側から、該切断面に垂直にスライスすることにより前記板状物を形成する第2工程と、前記板状物を切断して前記多結晶シリコン製造用シードを製造する第3工程とを有し、前記第1工程において前記2つの異なる幅のうち広い幅をAとし、狭い幅をBとした場合に、比率B/Aを0.8以下に設定することを特徴とする。
【0010】
この場合、切断するシリコンロッドの下面側、すなわち、板状物にスライスする際に第1工程で切断した幅の狭い切断面側に回転切断刃が切り抜けるので、この断面側にチッピングが形成されるが、その後の板状物からシードを切断する際に、このチッピングが形成された部分を含めて切断除去することができる。これにより、チッピングが形成された部分が板状物から切り離され、チッピング部分を含まないシードを得ることができる。
また、シリコンロッドを板状物にスライスする際に、シリコンロッド内の残留応力が開放されるので、板状物をさらに細幅のシードに切断するときには、チッピングは生じにくい。
【0011】
さらに、シリコンロッドから板状物を採取する際に、第1工程において幅の異なる2つの切断面に沿って切断するときの比率B/Aを0.8以下に設定することで、第2工程のシリコンロッドから板状物を形成する際に、切断面B(幅の狭い切断面)を下面として切断すると、切断時の板状物下面側にチッピングが集約形成される。このチッピングが形成された部分を第3工程で板状物をシードに切断加工する際に除去することで、形成されたチッピングが含まれないシードを採取することができる。
したがって、シード切断加工時のチッピング不良率が低減することで、シリコンロッドから採取されるシードの歩留まりを向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリコンロッドから切り出す多結晶シリコン製造用シード切断加工の歩留まりを確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る多結晶シリコン製造用シードの製造方法の一実施形態を説明する図であり、(a)が切断前のシリコンロッド、(b)が第1工程後のシリコンロッドの状態を示す。
図2】第一工程後のシリコンロッドから多結晶シリコン製造用シードを製造する方法を説明する図であり、(a)がシリコンロッドを幅の狭い切断面側を下側に配置した状態、(b)が第2工程後の板状物の状態、(c)が第3工程後の多結晶シリコン製造用シードに切断された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る多結晶シリコン製造用シードの製造方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態の多結晶シリコン製造用シードの製造方法は、図1(a)に示すような円柱状の多結晶シリコンのシリコンロッド100を、その長手方向(軸方向)に沿って平行にスライスして複数の板状物1(図2(b)参照)を製作した後に、これらの板状物1をさらに切断面方向と直交する方向に沿って複数を平行に切断することにより、断面矩形の複数の多結晶シリコン製造用のシード2(図2(c)参照)を製造する方法である。以下、工程順に詳述する。
【0015】
(第1工程)
まず、図1(a)及び(b)に示すように、シリコンロッド100の径方向の両側部10a,10bを、シリコンロッド100の長手方向(図1では、紙面前後方向)に沿って平行に、かつ2つの異なる幅A,Bの切断面11,12となるように切断する。図1では、左側に配置される側部10aの切断面11の幅Aは、右側に配置される側部10bの切断面12の幅Bよりも広く設定されており、これら幅Aと幅Bとの比率B/Aは、0.8以下に設定される。
ここで、図1に破線で囲まれる矩形の領域(シード形成領域)9は、シード2として使用される範囲を示すが、幅の広い切断面11はシード形成領域9の一つの辺上に設定され、その切断面11の切断により形成されるシード2の一側面となる。また、幅の狭い切断面12はシード形成領域9よりも距離Xだけ離れた位置に設定されており、その差の部分は製品としてのシード2としない切代部10cとされる。この切代部10cは、他のシリコン材料として利用される。
【0016】
なお、シリコンロッド100の切断は、例えばシリコンロッド100を固定台(図示略)の上に横向きに設置して、図1に矢印cで示すように、その上方(斜め上方を含む)から回転切断刃(図示略)を下降して、シリコンロッド100の一端部からその長さ方向(軸方向)に平行に切断することにより行うことができる。
【0017】
(第2工程)
次に、図2(a)の矢印cで示すように、両側部10a,10bが切り落とされたシリコンロッド100Aを90°回転し、幅の狭い切断面12を下側にして配置する。そして、幅の広い切断面11側から、その切断面11にほぼ平行な切断面12にほぼ垂直に順次スライスすることにより、所定の厚みの板状物1(図2(b))を形成する。なお、板状物1の厚みは、製造するシード2の一側面の長さに相当する。
【0018】
シリコンロッド100Aを切断面12にほぼ垂直にスライスして板状物1を1枚ずつ切り出すことにより、シリコンロッド100Aの内部に存在する残留歪みを開放しながら切断することができ、板状物1に折れやバリ、チッピング等の不良が発生することが防止される。
また、シリコンロッド100Aを切断面12にほぼ垂直にスライスするとき、回転切断刃がシリコンロッド100Aを切り抜ける際にシリコンロッド100A内の残留応力が集積し、さらにその周辺にダメージを与えられることにより、シリコンロッド100Aの下面側(図2(b)の板状物1の端部領域1c)にチッピングが生じ易い。しかし、シリコンロッド100Aの下面側には、切代部10cを残してあるので、チッピングの発生は切代部10cに対応する板状物1の端部領域1cに集約されることになる。
【0019】
(第3工程)
そして最後に、図2(b)の矢印cで示すように、板状物1をさらに面方向と直交する方向に沿って平行に切断することにより、図2(c)に示すように断面矩形の多結晶シリコン製造用シード2を製造する。この際、チッピングが形成された部分を含めて端部領域1c(前述の切代部10cが細幅に切断されたもの)がシード2から切り離され、チッピング部分を含まないシード2を得ることができる。
【0020】
また、シリコンロッド100Aを板状物1にスライスする際にシリコンロッド100A内の残留応力が開放されるので、板状物1をさらにシード2に切断するときには、チッピングは生じにくい。このため、板状物1からシード2への切断は、第2工程と同様に回転切断刃によって順次スライスすることにより行うこともできるが、複数枚の切断刃を有するマルチカッタ(図示略)を使用して複数のシード2の切断を同時に行うこともできる。
【0021】
このように構成される多結晶シリコン製造用シードの製造方法では、切断するシリコンロッド100の下面側、すなわち、板状物1にスライスする際に第1工程で切断した幅の小さい切断面12側に回転切断刃が切り抜けるので、この切断面12側にチッピングが形成されるが、その後の板状物1からシード2を切断する際に、このチッピングが形成された部分を含めて切断除去することができる。これにより、チッピングが形成された部分がシード2から切り離され、チッピング部分を含まないシード2を得ることができる。
したがって、シリコンロッド100からのシード2を取得する際の歩留まりを確実に向上させることができる。
【0022】
次に、本発明の効果を確認するために一例として確認実験を行った。
図1に示すように、直径70mm〜80mmの円柱状の多結晶シリコンロッド100の両側部10a,10bをそれぞれ切断面11,12と垂直にスライスして複数の板状物1を製造した後に、これらの板状物1をさらに面方向と直交する方向に沿って平行に切断することにより、断面矩形(7.2mm〜10.1mm角)のシード2を製造した。また、各試料は、幅A及び幅Bを表1に示す条件に設定した。
そして、このように設定されたシリコンロッドから製造されるシードの全数量に対し、チッピング等の不良が無く形成されたシード(良品)の本数の割合(表1に示すシードの歩留まり)を調べた。表1に結果を示す。
【0023】
なお、表1に示す「距離X」は、図1に示すように、シード2の形成領域9からの距離を示している。また、「シードの歩留まり」は、シード形成領域9の部分から切断加工されるシード全数量に対し、チッピング等の不良が無く形成されたシード(良品)の本数の割合(良品数/全数量)であり、100%は、シードの全数量が良品であることを示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1からわかるように、切断面11,12の幅の比率B/Aを0.8以下に設定することにより、板状物1の下面、特に1cの部分にチッピング等の不良を発生させることなく、板状物1から切断する端部領域1cにチッピングの発生箇所を集約することができる。したがって、シリコンロッド100に対するシード2の切断加工の歩留まりを向上させることができるとともに、材料の使用効率を向上させることができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
上記確認実験では、シリコンロッドの直径を70mm〜80mmとし、断面矩形7.2mm〜10.1mmのシード切断加工を行い、1本のシリコンロッドから25本のシードを採取したが、1本のシリコンロッドから採取するシードの本数はこれに限定されるものではない。シードの断面寸法を適宜変えることで、例えば、1本のシリコンロッドから36本のシード、1本のシリコンロッドから16本のシードのように採取することができる。
また、シリコンロッドの直径は、70mm以下あるいは80mm以上のものを使用することもできる。
さらに、上記実施形態では、被切断物を多結晶シリコンロッドとしたが、本発明の多結晶シリコン製造用シードの製造方法は、単結晶シリコンロッドや他の脆性材料の切断にも適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 板状物
1c 端部領域
2 シード(多結晶シリコン製造用シード)
9 シード形成領域
10a,10b 側部
10c 切代部
11,12 切断面
100 シリコンロッド(多結晶シリコンロッド)
図1
図2