【0014】
培地として、L−メチオニン含有培地(Shiozaki S.,et all,J.Biotechnology,4,345-354(1986))を用いた。
培地成分としては、スクロース、酵母エキス、L−メチオニン、尿素、グリシン、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム七水和物、ビオチン、塩化カルシウム二水和物、及び微量金属塩を含む培地に植菌し、スクロース又は/及びエタノール等の炭素源を流加しつつ、好気的に培養することによりSAM含有菌体を得ることができる。
培養温度及び培養液のpHは使用する酵母の種類よって異なるが、培養温度としては20〜35℃の範囲を、培養液のpHとしてはpH4〜7の範囲を挙げることができる。
また、菌体内のSAMe含量を高めるには、好気的に培養することが好ましい。培養槽は、通気可能で必要に応じ攪拌できるものであればよく、例えば、機械的攪拌培養槽、エアーリフト式培養槽及び気泡塔型培養槽等を利用することができる。
培地の供給方法は、炭素源、窒素源、各種無機塩類、各種添加剤等を、一括若しくは個別に連続的又は間欠的に供給する。例えば、蔗糖、エタノール等の基質は他の培地成分との混合物として培養槽に供給してもよく、また他の培地成分とは別に独立して培養槽に供給してもよい。培養液のpH制御は、酸、アルカリ溶液によって行われる。アルカリとしては窒素源として使用されるアンモニア、尿素、又は非窒素系塩基、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ等を用いてpH制御するのが望ましい。酸としては無機酸、例えば、リン酸、硫酸、硝酸、又は有機酸が用いられる。なお、無機塩類であるリン酸塩、カリウム塩、ナトリウム塩、硝酸塩等を用いてpH制御することもできる。
【0017】
本発明において増粘剤とは、増粘作用を有し、いわゆるゲル化剤といわれているような食品に添加可能な各種増粘剤等をいう。
具体的に使用できる増粘剤としては、(1)キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、アルギンキサンタンガム、プルラン、及び納豆菌ガムから選択される微生物由来増粘剤、
(2)グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、及びサイリウムシードガムから選択される種子由来増粘剤、
(3)セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、及びカルボキシメチル酸ナトリウムから選択される植物由来増粘剤、
(4)カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、及びアルギン酸プロピレングリコールエステルから選択される海藻由来増粘剤、
(5)アラビアガム、トラガントガム、シェラック、及びアラビノガラクタンから選択される樹脂由来増粘剤、
(6)キトサン、及びキチンから選択される甲殻由来増粘剤、及び
(7)ペクチン、マンナン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、寒天、コラーゲン、アルブミン、ツェイン、カゼイン、及びカゼインナトリウム等から選ばれる増粘剤が挙げられ、これらから1種以上を選択して用いることができる。
これらのうち、(1)キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、アルギンキサンタンガム、プルラン、及び納豆菌ガムから選択される微生物由来増粘剤、
(2)グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、及びサイリウムシードガムから選択される種子由来増粘剤、
(5)アラビアガム、トラガントガム、シェラック、及びアラビノガラクタンから選択される樹脂由来増粘剤、
(6)キトサン、及びキチンから選択される甲殻由来増粘剤、及び
(7)ペクチン、マンナン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、寒天、コラーゲン、アルブミン、ツェイン、カゼイン、及びカゼインナトリウムから選ばれる増粘剤がより好ましい。
さらに、(1)キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、アルギンキサンタンガム、プルラン、及び納豆菌ガム等の微生物由来増粘剤、及び(2)グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、及びサイリウムシードガム等の種子由来増粘剤が特に好ましい。
本発明で使用する増粘剤は食品、化粧品、医薬品用途で汎用されており、安全に使用することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0021】
実施例1〜4
(a)酵母菌体の培養
前述した公知の培養法に従って、L−メチオニン含有培地(Shiozaki S.,et all,J.Biotechnology,4,345-354(1986))にサッカロマイセス属に属する酵母サッカロマイセス・セレビジエIFO2346を接種し、培養温度27〜29℃で好気的に通気攪拌しながら6日間培養した。その結果、菌体濃度3.5wt%,SAMe含量205mg/g−乾燥酵母の酵母菌体培養液18Lを得た。
(b)酵母菌体の集菌
上記の酵母菌体培養液18Lを連続ロータリー型遠心分離器(日立HIMAC CENTRIFUGE CR10B2)で処理し、菌濃度が乾物換算で18質量%に相当する液状の酵母菌体濃縮物3.4kgを得た。
(c)酵母菌体濃縮物への増粘剤の添加
上記の酵母菌体濃縮物3.4kgにキサンタンガムを該酵母濃縮物中のSAMeに対する質量比として0.02、0.2、2.2、11.1倍量加えて、室温にて30分間攪拌混合し、キサンタンガムを添加した酵母菌体濃縮物を得た。
(d)乾燥酵母の製造
上記のキサンタンガムを添加した酵母菌体濃縮物を凍結乾燥器(日本真空技術株式会社製)の凍結乾燥用ステンレストレーに流し込み−50℃で凍結した後、最終棚段温度25℃の条件で36時間凍結乾燥した。得られた凍結乾燥酵母をさらに粉砕することによって粉末乾燥酵母を得た。このようにして得られた粉末乾燥酵母を密閉ガラス容器中に詰め、40℃、RH75%の加速度試験条件下で保存安定性試験を行った。表1に40℃、RH75%での加速保存安定性試験結果を示した。なお、SAMe残存率は、SAMe含有乾燥酵母より過塩素酸を用いた公知の方法でSAMeを抽出し、液体クロマトグラフィーを用いた比較定量法にて実施した。保存後の臭気の有無については5名のパネラーによる官能検査にて求めた。官能検査の評価方法は、5名のパネラー全員が異臭なしとした場合を「○」、5名のうち1〜2名が異臭があるとした場合を「△」、5名のうち3名以上が異臭ありとした場合を「×」とした。
本発明におけるSAMe測定法は、以下の条件の液体クロマトグラフィーを使用した。
用いられた分析条件
カラム:ナカライ(nacalai tesque) COSMOSIL 4.6φ×100mm
溶離液:0.2M KH
2PO
4水溶液/メタノール=95/5
流速:0.7mL/min、検出器:UV(260nm)
SAMe保持時間:約150秒
【0022】
実施例5〜8
酵母菌体濃縮物にカードランを用いて、実施例1と同様に処理して、粉末乾燥酵母を得た。得られた粉末乾燥酵母中のSAMe含量、質量、及び得られたSAMe含有乾燥酵母の密閉ガラス容器中、40℃、RH75%の加速条件下での保存安定性試験の結果、官能検査の結果を表1に示す。
【0023】
実施例9
酵母菌体濃縮物にグアーガムを該酵母濃縮物中のSAMeに対する質量比として0.2倍量加えた以外は、実施例1と同様に処理して、粉末乾燥酵母を得た。得られた粉末乾燥酵母中のSAMe含量、質量、及び得られたSAMe含有乾燥酵母の密閉ガラス容器中、40℃、RH75%の加速条件下での保存安定性試験の結果、官能検査の結果を表1に示す。
【0024】
実施例10
酵母菌体濃縮物にタマリンドガムを該酵母濃縮物中のSAMeに対する質量比として0.2倍量加えた以外は、実施例1と同様に処理して、粉末乾燥酵母を得た。得られた粉末乾燥酵母中のSAMe含量、質量、及び得られたSAMe含有乾燥酵母の密閉ガラス容器中、40℃、RH75%の加速条件下での保存安定性試験の結果、官能検査の結果を表1に示す。
【0025】
実施例11
酵母菌体濃縮物にジェランガムを該酵母濃縮物中のSAMeに対する質量比として0.2倍量加えた以外は、実施例1と同様に処理して、粉末乾燥酵母を得た。得られた粉末乾燥酵母中のSAMe含量、質量、及び得られたSAMe含有乾燥酵母の密閉ガラス容器中、40℃、RH75%の加速条件下での保存安定性試験の結果、官能検査の結果を表1に示す。
【0026】
比較例1
酵母菌体濃縮物へキサンタンガムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様に処理して、粉末乾燥酵母を得た。得られた粉末乾燥酵母中のSAMe含量、質量、得られたSAMe含有乾燥酵母の密閉ガラス容器中、40℃、RH75%の加速条件下での保存安定性試験の結果、官能検査の結果を表1に示す。
【0027】
比較例2
酵母菌体濃縮物にトレハロースを該酵母濃縮物中のSAMeに対する質量比として2.2倍量加えた以外は、実施例1と同様に処理して、粉末乾燥酵母を得た。得られた粉末乾燥酵母中のSAMe含量、質量、得られたSAMe含有乾燥酵母の密閉ガラス容器中、40℃、RH75%の加速条件下での保存安定性試験の結果、官能検査の結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
実施例12〜19
200L培養槽を用い、固形分濃度が18.2質量%のSAMe含有酵母濃縮液(SAMe含量3.7質量%)に対する添加物の量を1質量%とし、添加物としてκ−カラギーナン(実施例12)、キサンタンガム(実施例13)、グアーガム(実施例14)、タマリンドガム(実施例15)、カードラン(実施例16)、ジェランガム(実施例17)、アルギン酸(実施例18)、セラオスST−O2(結晶セルロース)(実施例19)を添加し、凍結乾燥後の回収率、SAMe含有量(質量%)40℃で30日、60日後のSAMe残存率を測定した。
実施例12〜19の詳細な実施例の条件は以下のとおりである。
(a)酵母菌体の培養
実施例1と同様の条件で培養し、菌体濃度3.5質量%、SAMe含量201.5mg/g−乾燥酵母の酵母菌体培養液120Lを得た。
(b)酵母菌体の集菌
上記の酵母菌体培養液120Lを連続ロータリー型遠心分離器(日立HIMAC CENTRIFUGE CR10B2)で処理し、菌濃度が乾物換算で18質量%に相当する液状の酵母菌体濃縮物23.4kgを得た。
(c)酵母菌体濃縮物への増粘剤の添加
上記の酵母菌体濃縮物23.4kgに上記の実施例12〜19の増粘剤を該酵母濃縮物中のSAMeに対する質量比として1.0倍量加えて、室温にて30分間攪拌混合し、実施例12〜19の増粘剤を添加した酵母菌体濃縮物を得た。
(d)乾燥酵母の製造
上記の実施例12〜19の増粘剤を添加した酵母菌体濃縮物を凍結乾燥器(日本真空技術株式会社製)の凍結乾燥用ステンレストレーに流し込み−50℃で凍結した後、最終棚段温度25℃の条件で36時間凍結乾燥した。得られた凍結乾燥酵母をさらに粉砕することによって粉末乾燥酵母を得た。このようにして得られた粉末乾燥酵母を密閉ガラス容器中に詰め、40℃、RH75%の加速度試験条件下で保存安定性試験を行った。表2に40℃、RH75%での加速保存安定性試験の結果を示した。なお、SAMe残存率は、前記の方法で測定した。また、SAMe含有酵母濃縮液に対する添加物の混合具合については、目視により分散状況を観察して評価した。添加物の混合具合、凍結乾燥後の回収率、形状、乾燥後SAMe含有量(質量%)、40℃で30日、60日後のSAMe残存率の結果をまとめて表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
比較例3
L−メチオニンを含まない培地にて培養を行った以外は、実施例1と同様に処理して、粉末乾燥酵母を得た。得られた粉末乾燥酵母中にはSAMeは含有されていなかった。これを用いて以下の実験を行った。
【0032】
性能評価の試験例1〜5、比較性能試験の評価例1、2
実施例2、6、9、10、11、比較例1、及び比較例3で得られた乾燥酵母について、文献記載の方法(非特許文献2)と同様にSD系ラット(雄 8週齢、動物数:各群n=3)を用いて、生体吸収性試験を性能評価の試験例1〜5、比較性能試験の評価例1,2として行った。
吸収性試験は、非特許文献2(J of Chromatography B,863,94-100(2008))の方法を用いて行った。ラットへの乾燥酵母の投与量は、SAMeとして300mg/kg-ラットの投与量になる様に乾燥酵母を蒸留水へ分散した状態でラットに経口投与を行い、経口投与後0.5、2、3、5時間後のラットの血液を採取し、血液は速やかに遠心分離により血漿成分の分離を行い、過塩素酸を用いたSAMe成分の抽出物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、LC−MS−MS法(Liquid chromatography coupled with mass spectrometry)により下記の条件で分析した。その結果、各乾燥酵母ともに経口投与2時間後血漿中SAMe濃度が最も高かった。各乾燥酵母の経口投与2時間後生体吸収性試験の結果を表3に示す。表3より、いずれの試験例も、増粘剤を添加した乾燥酵母の生体吸収性が、評価例1として示す添加処理を行っていない比較例1の乾燥酵母による場合よりも向上することが確認された。
【0033】
なお、生体吸収性試験に用いられた分析機器、条件は以下の通りである。
LC-MS-MS法
LC-MS-MS装置:Thermo社製 Accela、LTQ orbitrap Discovery
HPLC条件
カラム:ジーエルサイエンス社製 Intersil ODS-3(4.6mm×150mm)
流速:0.5mL/min、カラムオーブン:40℃、検出器:UV(260nm)、SAMe保持時間:約145秒、注入量:10μL
溶離液: 2 mmol/Lヘプタフルオロ酪酸水溶液:アセトニトリル=30:70
MS条件
Ion Source:ESI
Ion Polarity Mode: Positive
Scan Mode Type:FTフルマス
Resolution:30000
Mass Range:m/z 360−410
【0034】
【表3】