(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
潜像保持体上に潜像を形成する潜像形成手段と、前記潜像を静電荷像現像用現像剤を用いて現像する現像手段と、現像されたトナー画像を中間転写体を介してまたは介さずに被転写体上に転写する転写手段と、前記被転写体上のトナー画像を定着する定着手段と、を含む画像形成装置であり、
前記定着手段が、請求項1に記載の定着装置からなることを特徴とする画像形成装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態における定着装置および画像形成装置について、以下に説明する。
【0017】
[定着装置]
まず、本実施の形態における定着装置について、
図1を用いて以下に説明する。なお、本実施の形態における定着装置として、電磁誘導加熱方式を採用する定着装置を例に挙げて説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態の定着装置60は、回転可能な回転部材である加圧ロール62と、回転部材である加圧ロール62に圧接配置され、加圧ロール62との間に形成される加圧部N(以下「ニップ部N」ともいう)に未定着トナー像を保持した記録媒体Pを狭持することで未定着トナー像を記録媒体Pに定着させる、回転可能なフィルム管状体である定着ベルト61と、フィルム管状体である定着ベルト61と押圧部材である押圧パッド64との間に介在する摺動シート68とを有する。なお、摺動シート68については後述する。
【0019】
さらに、
図1を用いて、定着装置60の構成を説明する。定着装置60は、フィルム管状体である定着ベルト61、交流電流により生じる磁界によって定着ベルト61を発熱させる加熱部材の一例としての磁場発生ユニット85、定着ベルト61に対向するように配置する、加圧部材の一例としての加圧ロール62、定着ベルト61を介して、回転部材である加圧ロール62から押圧される押圧部材である押圧パッド64を有する。
【0020】
フィルム管状体である定着ベルト61は、押圧パッド64とベルトガイド部材63、定着ベルト61の両端部に配置するエッジガイド部材(図示せず)によって回動自在に支持される。そして、加圧部(ニップ部)Nにおいて加圧ロール62に圧接され、加圧ロール62に従動して矢印E方向に回動する。
【0021】
上述したフィルム管状体としては、樹脂製でも金属製でも良い。また、フィルム管状体を定着ベルトとして使用する場合、単層の樹脂製フィルムまたは単層の金属製フィルムが使用されるが、樹脂の層と金属の層をそれぞれ複層にしてもよく、金属製フィルムを基材とし、その上に樹脂製の弾性層や離型層を設けるなど、樹脂層と金属層とを組み合わせても良い。特に、本実施の形態における摺動シートと接触するフィルム管状体の最下層が金属層である場合、樹脂層である場合に比べて磨耗が生じにくいため、フィルム管状体の最下層は金属層であることが好ましい。
【0022】
ベルトガイド部材63は、定着ベルト61の内部に配置するホルダ65に取り付ける。そして、ベルトガイド部材63は、定着ベルト61の回動方向に向けた複数のリブ(図示せず)で形成し、定着ベルト61内周面との接触面積を小さくする。さらに、ベルトガイド部材63は、摩擦係数が低く、かつ熱伝導率が低いPFA(パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂で形成する。これにより、ベルトガイド部材63と定着ベルト61内周面との摺動抵抗を低減し、熱の発散を低くするように構成する。
【0023】
押圧パッド64は、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧されて加圧部Nを形成する。押圧部材である押圧パッド64は、バネや弾性体によって加圧ロール62を、例えば35kgfの荷重で押圧するように、保持部材であるホルダ65に支持されている。押圧パッド64は、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体からなる。押圧パッド64は、加圧ロール62側に凹部と凸部が形成されている。これにより、定着ベルト61が、押圧パッド64の加圧ロール62側の面から離れる際に急激な曲率の変化を生じ、定着後の記録媒体Pが定着ベルト61から剥離しやすくしている。
【0024】
加圧部Nの下流側近傍に配設する剥離補助部材70は、剥離バッフル71が定着ベルト61の回転方向と対向する方向(カウンタ方向)に向け、バッフルホルダ72により保持される。また、押圧パッド64と定着ベルト61との間に摺動シート68を配設し、定着ベルト61内周面と押圧パッド64との摺動抵抗を低減する。本実施の形態では、摺動シート68は押圧パッド64と別体に構成され、少なくとも両端がホルダ65に固定される。
【0025】
保持部材であるホルダ65に、定着装置60の長手方向に亘って潤滑剤塗布部材67を配設する。潤滑剤塗布部材67は、定着ベルト61内周面に接触し、定着ベルト61と摺動シート68との摺動部に潤滑剤を供給する。なお、潤滑剤としては、例えば、シリコーンオイル、フッ素オイル等の液体状オイル;固形物質と液体とを混合させたグリース等、さらにこれらを組み合わせたものが挙げられる。
【0026】
加圧ロール62は、例えば、直径16mmの中実の鉄製のコア(円柱状芯金)621と、コア621の外周面を被覆する、例えば厚さ12mmのシリコーンスポンジ等のゴム層622と、例えば、厚さ30μmのPFA等の耐熱性樹脂被覆または耐熱性ゴム被覆による表面層623とを有する。なお、加圧ロール62の製造方法としては、例えば、PFAチューブ(表面層623になる)の内周面に、接着用プライマーを塗布したフッ素樹脂チューブと中実シャフト(コア621になる)とを成形金型内にセットし、フッ素樹脂チューブと中実シャフトとの間に液状発泡シリコーンゴムを注入後、加熱処理(150℃、2時間)によりシリコーンゴムを加硫、発泡させてゴム層622を形成する方法が挙げられる。
【0027】
加圧ロール62は、定着ベルト61に対向するように配置し、矢印D方向に、例えば140mm/secのプロセススピードで回転し、定着ベルト61を従動させる。また、加圧ロール62と押圧パッド64とにより定着ベルト61を挟持した状態で保持して加圧部Nを形成し、この加圧部Nに未定着トナー像を保持した記録媒体Pを通過させ、熱及び圧力を加えて未定着トナー像を記録媒体Pに定着する。
【0028】
磁場発生ユニット85は、断面が定着ベルト61の形状に沿った曲線形状を有し、定着ベルト61の外周表面と例えば0.5mmから2mm程度の間隙で設置する。磁場発生ユニット85は、磁界を発生させる励磁コイル851と、励磁コイル851を保持するコイル支持部材852と、励磁コイル851に電流を供給する励磁回路853とを有する。
【0029】
励磁コイル851は、例えば、相互に絶縁された直径φ0.5mmの銅線材を16本から20本程度束ねたリッツ線を、長円形状や楕円形状、長方形状等の閉環状に巻いて形成したものを用いる。励磁コイル851に励磁回路853によって予め定められた周波数の交流電流を印加することにより、励磁コイル851の周囲に交流磁界Hが発生する。交流磁界Hが、定着ベルト61の金属層を横切る際に、電磁誘導作用によってその交流磁界Hの変化を妨げる磁界を発生するように渦電流Iが生じる。励磁コイル851に印加する交流電流の周波数は、例えば、10kHzから50kHzに設定する。渦電流Iが定着ベルト61の金属層を流れることによって、金属層の抵抗値Rに比例した電力W(W=I
2R)によるジュール熱が発生し、定着ベルト61を加熱する。
【0030】
コイル支持部材852は、耐熱性を有する非磁性材料で構成する。このような非磁性材料としては、例えば、耐熱ガラス、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、PPS等の耐熱性樹脂、またはこれらにガラス繊維を混合した耐熱性樹脂が挙げられる。
【0031】
なお、本実施の形態では、定着ベルト61を加熱する加熱部材の一例として磁場発生ユニット85を備える電磁誘導加熱方式の定着装置60について説明したが、加熱部材としては、輻射ランプ発熱体、抵抗発熱体を採用することもできる。
【0032】
輻射ランプ発熱体としては、例えば、ハロゲンランプ等が挙げられる。抵抗発熱体としては、例えば、鉄−クロム−アルミ系、ニッケル−クロム系、白金、モリブデン、タンタル、タングステン、炭化珪素、モリブデン−シリサイド、カーボン等が挙げられる。
【0033】
定着装置60では、加圧ロール62の矢印D方向への回転に伴い、定着ベルト61が従動回転し、励磁コイル851により発生した磁界に曝される。この際、定着ベルト61中の金属層には渦電流が発生し、定着ベルト61の外周面が定着可能な温度まで加熱される。このようにして加熱された定着ベルト61は、加圧ロール62との加圧部Nまで移動する。搬送手段により、未定着トナー像がその表面に設けられた記録媒体Pが定着入口ガイド56を介して定着装置60に搬入される。記録媒体Pが定着ベルト61と加圧ロール62との加圧部Nを通過した際に、未定着トナー像は定着ベルト61により加熱され記録媒体Pの表面に定着される。その後、画像が表面に形成された記録媒体Pは、搬送手段により搬送され、定着装置60から排出される。また、加圧部Nにおいて定着処理を終え、外周面の表面温度が低下した定着ベルト61は、励磁コイル851方向へと回転し、次の定着処理に備えて再度加熱される。
【0034】
[摺動シート]
本実施の形態における摺動シート68は、定着ベルト61の内周面との接触面に凹凸が設けられ、摺動抵抗の低減が図られている。摺動シート68の素材としては、例えば、ガラス繊維、ステンレス鋼(JISにおいて主に「SUS」と略号される)メッシュ、カーボンクロス、フッ素樹脂含浸ガラス繊維シート、架橋PTFEシートなどが用いられ、ガラス繊維およびカーボンクロスを用いる場合、表面凹凸間隔が等間隔で有ることと、縦糸と横糸の繊維の太さを任意に設定することで、表面凹凸の制御がし易い等の点から、織布で構成することが好適である。
【0035】
潤滑剤塗布部材67から摺動シート68の凹凸面に供給される潤滑剤として具体的に適用可能なものを列挙すると、上述したグリース、ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩添加ジメチルシリコーンオイル、ヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩及びヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、有機金属塩添加アミノ変性シリコーンオイル、ヒンダードアミン添加アミノ変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0036】
[張力をかけた摺動シートの保持部材への保持構成]
図2には、本実施の形態におけるフィルム管状体の回転走行方向(
図2の矢印方向)に沿った摺動シート68の前後端部がばね部材80を介して保持部材65に引っ張り止めされる構成の一例が示されている。
【0037】
図2に示すように、フィルム管状体である定着ベルト61の回転走行方向(
図2の矢印方向)に沿った摺動シート68の前後端部は、それぞれ一対の板金90a,90bと一対の板金90c,90dに挟み止めされている。一方、保持部材であるホルダ65の対向する側面には、それぞれフレーム92が設けられ、さらに、各フレーム92と板金90aおよび板金90cは、ばね部材80によって連結される。なお、
図2では、各フレーム92と板金90aおよび板金90cがばね部材80で連結されているが、これに限るものではなく、ばね部材80は、フレーム92と一対の板金90a,90bの両方又はいずれか一方、および、フレーム92と一対の板金90c,90dの両方又はいずれか一方と連結されていればよい。
【0038】
ばね部材80の張力は、使用される摺動シート68の材質に応じて定着温度(例えば200℃)における弾性限界点以下で、かつ、定着温度における摺動シート68の伸びによるシワが発生しない範囲で設定される。ここで、『弾性限界点』とは、応力がある限界を超えると弾性の性質から元に戻らない塑性変形を起こす際の限界点をいい、降伏点ともいう。ばね部材80は、一対の板金の両方又はいずれか一方に固定され、フレーム92に掛かり止めされていても、または、ばね部材80がフレーム92に固定され、一対の板金の両方又はいずれか一方に掛かり止めされてもよい。
【0039】
図2,3における、摺動シート68の前後端部におけるばね部材80の引っ張り応力は、同じであることがより好ましい。摺動シート68は、定着温度で全体的に伸びることから、摺動シート68の前後端部を同じ応力で引っ張り止めすることで、摺動シート68の位置ずれが抑制され、その結果、定着温度における摺動シートのシワの発生が抑制されると考えられる。
【0040】
さらに、
図3に示すように、ばね部材80は、複数個からなるばね群からなっていてもよい。摺動シート68の前後端部を複数個のばね群により引っ張り止めすることで、一方向に1個のばねで引っ張り止めした場合に比べ、定着ベルト61の回転走行方向に対する、摺動シート68の前後端部にかかる引っ張り応力がほぼ均等になり、その結果、定着時の摺動シート68のシワの発生がより低減されると考えられる。
【0041】
また、本実施の他の形態では、
図4に示すように、フィルム管状体である定着ベルト61の回転走行方向(
図4の矢印方向)に沿った摺動シート68の前後端部は、それぞれ一対の板金90a,90bと一対の板金90c,90dに挟み止めされ、さらに、定着ベルト61の回転軸方向に沿って摺動シート68の左右端部が、それぞれ一対の板金90e,90fと、板金90e,90fが形成された面に対向する面に設けられた一対の板金(
図4に図示せず)に挟み止めされている。一方、保持部材であるホルダ65の四側面には、それぞれフレーム92が設けられ、さらに、対向面に設けられた各フレーム92と板金90a、板金90cは、それぞればね部材80によって連結され、他の対向面に設けられた各フレーム92と板金90eおよび板金90eと反対面にある板金(
図4に図示せず)は、それぞればね部材82によって連結される。なお、
図4では、各フレーム92と板金90a、板金90c、90eおよび板金90eと反対面にある板金がばね部材80,82で連結されているが、これに限るものではなく、四方に設けられた各フレーム92は、一対の板金90a,90b、一対の板金90c,90d、一対の板金90e,90f、および板金90e,90fが形成された面に対向する面に設けられた一対の板金(
図4に図示せず)の両方又はいずれか一方と、それぞれ、ばね部材80とばね部材82によって連結されていればよい。
【0042】
ばね部材80,82の張力は、上記同様、使用される摺動シート68の材質に応じて定着温度(例えば200℃)における弾性限界点以下で、かつ、定着温度における摺動シート68の伸びによるシワが発生しない範囲で設定される。ここで、『弾性限界点』とは、応力がある限界を超えると弾性の性質から元に戻らない塑性変形を起こす際の限界点をいい、降伏点ともいう。ばね部材80,82は、各フレーム92に固定され、それぞれの一対の板金に掛かり止めされていてもよく、または、それぞれの一対の板金の両方又はいずれか一方に固定され、各フレーム92に掛かり止めされてもよい。
【0043】
図4における、摺動シート68の前後端部および左右端部におけるばね部材80,82の引っ張り応力は、同じであることがより好ましい。摺動シート68は、定着温度で全体的に伸びることから、摺動シート68の前後端部および左右端部を同じ応力で引っ張り止めすることで、摺動シート68の位置ずれが抑制され、その結果、定着温度における摺動シートのシワの発生がより抑制されると考えられる。
【0044】
さらに、
図4に示すように、ばね部材80,82は、複数個からなるばね群からなっていてもよい。摺動シート68の前後端部および左右端部を複数個のばね群により引っ張り止めすることで、一方向に対して1個のばねで引っ張り止めした場合に比べ、定着ベルト61の回転走行方向に沿った摺動シート68の前後端部のみならず、回転走行方向に対する摺動シート68の左右端部にかかる引っ張り応力がほぼ均等になり、その結果、定着温度における摺動シート68のシワの発生がさらに低減されると考えられる。
【0045】
上述の
図2から
図4に示す実施の形態では、バネ部材80,82を用いて摺動シート68の端部を引っ張り止めしていたが、これに限るものではなく、バネ部材80,82に替えて、熱収縮部材(図示せず)を用いてもよい。熱収縮部材は、使用される摺動シート68の材質に応じて定着温度(例えば200℃)における弾性限界点以下で、かつ、定着温度における摺動シート68の伸びによるシワが発生しない範囲で摺動シート68を引っ張るよう、予め熱収縮率が設定されている。ここで、『弾性限界点』とは、上記同様、応力がある限界を超えると弾性の性質から元に戻らない塑性変形を起こす際の限界点をいい、降伏点ともいう。
【0046】
上記熱収縮部材として、例えば、熱収縮チューブが挙げられ、熱収縮チューブは、熱することにより予め記憶された形状に収縮する形状記憶のプラスチック製チューブであり、熱収縮チューブとしては、例えば、ポリ塩化ビニル系熱収縮チューブ、ポリオレフィン熱収縮チューブ、ポリフッ化ビニリデン樹脂製の熱収縮チューブなどが、挙げられる。また、熱収縮性部材として、ヘラマンタイトン社製の熱収縮チューブPSTを用いてもよい。
【0047】
また、上述の
図2,
図3に示す実施の形態では、定着ベルト61の回転走行方向に沿った摺動シート68の前後端部が、一対の板金90a,90bおよび一対の板金90c,90dで挟み止めされ、一対の板金90a,90bおよび一対の板金90c,90dが、ホルダ65の側面に設けられたフレーム92とそれぞれバネ部材80で連結されているが、これに限るものではなく、摺動シート68の前後端部を挟み止めしている一対の板金90a,90bおよび一対の板金90c,90dを、バネ部材を介することなく、直接、ホルダ65とは別に設けられた張架部材(図示せず)と連結させ、張架部材を図示しない制御部によって制御して、使用される摺動シート68の材質に応じて定着温度(例えば200℃)における弾性限界点以下で、かつ、定着温度における摺動シート68の伸びによるシワが発生しない範囲で、摺動シート68を引っ張り上げてもよい。この場合、連結個所を複数とし、場所に応じて引っ張り度合いを調整することも可能である。たとえば経年劣化により摺動シート68の上流側が伸びてしまったときに、当該上流側の引っ張り強度を他の部分より強くすることなどが考えられる。
【0048】
同様に、上記
図4に示す実施の形態において、定着ベルト61の回転走行方向に沿った摺動シート68の前後端部を挟み止めしている一対の板金90a,90bおよび一対の板金90c,90d、ならびに、定着ベルト61の回転走行方向に沿った摺動シート68の左右端部を挟み止めしている一対の板金90e,90fおよび板金90e,90fが形成された面に対向する面に設けられた一対の板金(
図4に図示せず)を、バネ部材を介することなく、直接、ホルダ65とは別に設けられた張架部材(図示せず)と連結させ、張架部材を図示しない制御部によって制御して、使用される摺動シート68の材質に応じて定着温度(例えば200℃)における弾性限界点以下で、かつ、定着温度における摺動シート68の伸びによるシワが発生しない範囲で摺動シート68を引っ張り上げてもよい。
【0049】
[画像形成装置]
図5には、本実施の形態の摺動シートならびに定着装置が適用される画像形成装置の概略構成が示されている。ここでは、一般にタンデム型と呼ぶ中間転写方式の画像形成装置を例に挙げて説明する。
【0050】
図5に示す画像形成装置100は、潜像形成手段ならびに現像手段からなる像形成部の一例として、電子写真方式により各色成分のトナー像を形成する複数の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kを備える。次に、画像形成装置100は、転写手段の一例として、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにより形成する各色成分トナー像を中間転写ベルト(像保持体)15に順次転写(一次転写)する一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写した重畳トナー画像を記録媒体P(記録材)である用紙に一括転写(二次転写)する二次転写部20とを備える。さらに、画像形成装置100は、定着手段の一例として、二次転写された画像を記録媒体P上に定着する、上述した定着装置60を備える。また、画像形成装置100は、各装置(各部)の動作を制御する制御部40を備える。
【0051】
図5に示すように、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、矢印A方向に回転する感光体ドラム11と、感光体ドラム11を帯電する帯電器12と、感光体ドラム11上に静電潜像を書込むレーザ露光器13と、各色成分トナーを収容し感光体ドラム11上の静電潜像をトナーにより可視像化する現像器14とを有する。また、感光体ドラム11上に形成する各色成分トナー像を一次転写部10にて中間転写ベルト15に転写する一次転写ロール16と、感光体ドラム11上の残留トナーを除去するドラムクリーナ17と、を有する。これらの画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の順に略直線状に配置されている。
【0052】
中間転写ベルト15は、各種ロールにより、
図5に示す矢印B方向に循環駆動する。各種ロールとして、中間転写ベルト15を駆動する駆動ロール31と、中間転写ベルト15を支持する支持ロール32と、中間転写ベルト15に一定の張力を与え蛇行を防止するテンションロール33と、二次転写部20に設けるバックアップロール25と、中間転写ベルト15上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けるクリーニングバックアップロール34とを有している。
【0053】
一次転写部10は、中間転写ベルト15を挟み感光体ドラム11に対向する一次転写ロール16を有する。二次転写部20は、中間転写ベルト15のトナー像保持面側に配置する二次転写ロール(転写部材)22と、二次転写ロール22の対向電極として中間転写ベルト15の裏面側に配置されたバックアップロール25と、バックアップロール25に二次転写バイアスを印加する給電ロール26とを有する。
【0054】
二次転写部20の下流側に、中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉を除去する中間転写ベルトクリーナ35を設ける。イエローの画像形成ユニット1Yの上流側に、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)42を配設する。また、黒の画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43を配設する。
【0055】
記録媒体搬送系には、記録媒体収容部50と、記録媒体収容部50中の記録媒体Pを取り出して搬送するピックアップロール51と、記録媒体Pを搬送する搬送ロール52と、記録媒体Pを二次転写部20へと送る搬送シュート53と、二次転写ロール22により二次転写された記録媒体Pを定着装置60へと搬送する搬送ベルト55と、記録媒体Pを定着装置60に導く定着入口ガイド56とを有する。
【0056】
画像形成装置100の基本的な作像プロセスについて説明する。
図5に示すような画像形成装置100では、画像読取装置(図示せず)等から出力される画像データに画像処理を施した後、画像データをY、M、C、Kの4色の色材階調データに変換し、レーザ露光器13に出力する。レーザ露光器13は、入力される色材階調データに応じ、例えば、半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの矢印A方向に回転する各感光体ドラム11に照射する。各感光体ドラム11の表面を帯電器12によって帯電した後、レーザ露光器13によって表面を走査露光し、静電潜像を形成する。形成した静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって、Y、M、C、Kの各色のトナー像として現像する。
【0057】
つぎに、感光体ドラム11上に形成するトナー像を、一次転写部10において中間転写ベルト15の表面に順次重ね合わせて一次転写を行う。中間転写ベルト15は矢印B方向に移動してトナー像を二次転写部20に搬送する。記録媒体搬送系は、トナー像を二次転写部20に搬送するタイミングに合わせて、記録媒体収容部50から記録媒体Pを供給する。二次転写部20では、中間転写ベルト15上に保持された未定着トナー像を、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれた記録媒体P上に静電転写する。その後、トナー像を静電転写した記録媒体Pを搬送ベルト55により定着装置60まで搬送し、定着装置60は、記録媒体P上の未定着トナー像を熱及び圧力で処理し記録媒体P上に定着する。定着画像を形成した記録媒体Pは、画像形成装置の排出部に設けた排紙載置部に搬送する。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0059】
[実施例1]:
保持部材であるホルダ65(
図2,3)として、金属材料(具体的にはSUS304)で構成された直方体形状の成型体を用い、摺動シート68(
図2,3)として、架橋PTFEシート(日立電線製:エクセロンXF−1B、厚さ:0.3mm)単層の摺動シートを用いた。ばね部材80(
図2,3)は、定着温度(例えば200℃)において、前記摺動シートの加熱によるシワを抑制できる引張り力以上で、前記摺動シートの弾性限界点以下の力を持つバネを用い、
図2,3に示すに示すように、定着ベルト61(
図1)の回転走行方向(
図2,3の矢印方向)に沿った摺動シート68の前後端部、すなわち、摺動シート68のプロセス方向の両端部を、ホルダ65に引っ張り止めした。
【0060】
<摺動シートのシワ発生評価>
摺動シート68が引っ張り止めされたホルダ65を、高速複写機(富士ゼロックス社製:Color 1000 Press)のベルト定着装置に取り付けて、温度を定着温度(200℃)に上げ、プロセススピードを180ppmに上げて50万枚定着後に、目視で評価した。結果を表1に示す。
【0061】
シワ発生の目視判定の基準は、以下の通りである。
◎:シワの発生は認められなかった。
○:画質に影響を与えない程度のシワがある。
△:シワが発生し、画質に乱れがある。
×:シワが多数発生し、画質に大きな乱れがある。
【0062】
[実施例2]:
図3に示す構成の代わりに、
図4に示す構成とし、さらに、ばね部材82(
図4)は定着温度(例えば200℃)において、前記摺動シートの加熱によるシワを抑制できる引張り力以上で、前記摺動シートの弾性限界点以下の力を持つバネを用いた。そして、
図4に示すに示すように、定着ベルト61(
図1)の回転走行方向(
図4の矢印方向)に沿った摺動シート68の前後端部ならびに回転走行方向に沿った摺動シート68の左右端部を、ホルダ65に引っ張り止めした以外は実施例1と同様に作製した。摺動シートが四方で引っ張り止めされたホルダを、高速複写機(富士ゼロックス社製:Color 1000 Press)のベルト定着装置に取り付け、実施例1と同様にシワ発生評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例1]:
図2に示すばね部材80の代わりに、定着ベルト61(
図1)の回転走行方向(
図2の矢印方向)に沿った摺動シートの前後端部を挟み止めした一対の板金90a,90bおよび一対の板金90c,90dをそれぞれ各フレーム92にネジ止めして、摺動シートをホルダに固定した。摺動シートがネジ止め固定されたホルダを、高速複写機(富士ゼロックス社製:Color 1000 Press)のベルト定着装置に取り付け、実施例1と同様にシワ発生評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例2]:
定着ベルト61(
図1)の回転走行方向(
図2の矢印方向)に沿った摺動シートの後端部だけを、比較例1のように板金をフレームにネジを用いてホルダに固定し、一方、定着ベルトの回転走行方向(
図2の矢印方向)に沿った摺動シートの前端部は、実施例1と同様に、ばね部材80を介してホルダに引っ張り止めした。摺動シートが取り付けられたホルダを、高速複写機(富士ゼロックス社製:Color 1000 Press)のベルト定着装置に取り付け、実施例1と同様にシワ発生評価を行った。結果を表1に示す。なお、摺動シートが対向する片側端部のみ、ばね部材で保持されているため、定着温度で伸びた摺動シートがばね部材によって引っ張られ、結果として摺動シートの位置がずれる傾向が見られる。さらに、高温状態でホルダの形状に沿った形状になった摺動シートが、常温に戻したときに縮んで位置ずれし、特に高温状態でのホルダの角部でついた形状が位置ずれして、再度、定着時の高温で伸びて押圧されることから、摺動シートについたホルダの角度の形状が、複数枚の定着時に多少残る傾向が見られた。
【0065】
[比較例3]:
図4に示す構成において、定着ベルト61(
図1)の回転走行方向(
図4の矢印方向)に沿って摺動ベルト68の左右端部のみ、すなわち、摺動シート68の回転軸方向の両端部のみを、ばね部材82を介してホルダ65に引っ張り止めした以外は実施例1と同様に作製した。摺動シートの左右端部のみが引っ張り止めされたホルダを、高速複写機(富士ゼロックス社製:Color 1000 Press)のベルト定着装置に取り付け、実施例1と同様にシワ発生評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例では、比較例に比べ、摺動シートが定着装置内で加熱されて伸びたとしても、摺動シートにおけるシワの発生が抑制されることがわかる。
【0068】
[実施例3]
保持部材であるホルダ65(
図2,3)として、金属材料(具体的にはSUS304)で構成された直方体形状の成型体を用い、摺動シート68(
図2,3)として、架橋PTFEシート(日立電線製:エクセロンXF−1B、厚さ:0.3mm)単層の摺動シートを用いた。
図2,3に示すばね部材80の代わりに、熱収縮性部材として、ヘラマンタイトン社製の熱収縮チューブPSTを用い、定着温度(例えば200℃)において、前記摺動シートの加熱によるシワを抑制できる引張り力以上で、前記摺動シートの弾性限界点以下の力で熱収縮させ、
図2,3に示すに示すように、定着ベルト61(
図1)の回転走行方向(
図2,3の矢印方向)に沿った摺動シート68の前後端部、すなわち、摺動シート68のプロセス方向の両端部を、ホルダ65に引っ張り止めした。
【0069】
摺動シート68が引っ張り止めされたホルダ65を、高速複写機(富士ゼロックス社製:Color 1000 Press)のベルト定着装置に取り付けて、温度を定着温度(200℃)に上げ、プロセススピードを180ppmに上げて50万枚定着後に、摺動シートのシワを目視で評価したところ、摺動シートにはほとんどシワが発生せず、定着ベルトの走行によって生じる摺動シートへのせん断力によっても、摺動シートにクリープが発生しなかった。ここで、「クリープ」とは、一定の温度、一定の応力を受ける材料が、ある時間を過ぎた後に生じる変形をいう。
【0070】
[実施例4]
保持部材であるホルダ65(
図2,3)として、金属材料(具体的にはSUS304)で構成された直方体形状の成型体を用い、摺動シート68(
図2,3)として、架橋PTFEシート(日立電線製:エクセロンXF−1B、厚さ:0.3mm)単層の摺動シートを用いた。
図2,3に示すばね部材80とフレーム92の代わりに、保持部材であるホルダ65(
図2,3)とは別に設けられた張架部材を、定着ベルトの回転走行方向(プロセス方向)に沿った摺動シートの前後端部を挟み止めしている2組の板金のそれぞれに連結した。張架部材の張架力は、定着温度(例えば200℃)において、前記摺動シートの加熱によるシワを抑制できる引張り力以上で、前記摺動シートの弾性限界点以下の力に設定し、制御部により制御して張架部材を引き上げた。その後、摺動シート68が装着されたホルダ65と張架部材とを、高速複写機(富士ゼロックス社製:Color 1000 Press)のベルト定着装置に取り付けて、温度を定着温度(200℃)に上げ、プロセススピードを180ppmに上げて50万枚定着後に、摺動シートのシワを目視で評価したところ、摺動シートにはほとんどシワが発生しなかった。