(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5974938
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】静電容量型圧力センサ及び入力装置
(51)【国際特許分類】
G01L 1/14 20060101AFI20160809BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20160809BHJP
H01L 29/84 20060101ALI20160809BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
G01L1/14 K
G01L5/00 101Z
H01L29/84 Z
G06F3/044 140
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-46661(P2013-46661)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-173993(P2014-173993A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094019
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 雅房
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝之
(72)【発明者】
【氏名】奥野 敏明
【審査官】
森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−139628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
本件出願を優先基礎とする国際特許出願PCT/JP2013/082699
の国際調査報告の結果が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定電極と、
前記固定電極の上方に形成された誘電体層と、
前記誘電体層の上方に空隙を隔てて形成された導電性のダイアフラムとを備えた静電容量型の圧力センサにおいて、
前記ダイアフラムの上面に、高さが前記空隙の高さ以下である1個又は複数個の突起を設けたことを特徴とする静電容量型圧力センサ。
【請求項2】
前記突起が、前記ダイアフラムの上面中央部に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型圧力センサ。
【請求項3】
前記ダイアフラムの表面を覆う保護膜を有し、
前記突起は、前記保護膜と同一材料によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型圧力センサ。
【請求項4】
前記突起は、前記ダイアフラムと同一材料によって前記ダイアフラムと一体に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型圧力センサ。
【請求項5】
前記突起の幅は、前記ダイアフラムの幅の0.2倍以下であることを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型圧力センサ。
【請求項6】
前記突起の幅は、前記ダイアフラムの幅の0.15倍以下であることを特徴とする、請求項5に記載の静電容量型圧力センサ。
【請求項7】
前記ダイアフラムに垂直な方向から見て、互いに直交する2本の仮想の直線に関してそれぞれ対称な位置に通気路を設けたことを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型圧力センサ。
【請求項8】
前記通気路が、屈曲又は湾曲していることを特徴とする、請求項7に記載の静電容量型圧力センサ。
【請求項9】
請求項1に記載した静電容量型圧力センサを複数個配列させたことを特徴とする入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型圧力センサ及び入力装置に関する。具体的には、本発明は、圧力で撓んだダイアフラムが誘電体層に接触して圧力を検知するタッチモードの静電容量型圧力センサに関する。また、当該圧力センサを利用した入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な静電容量型圧力センサでは、導電性のダイアフラム(可動電極)と固定電極がギャップを隔てて対向しており、圧力で撓んだダイアフラムと固定電極との間の静電容量の変化から圧力を検出している。しかし、この圧力センサが、ガラス基板やシリコン基板を用いてMEMS技術で製造されるマイクロデバイスである場合には、ダイアフラムに大きな圧力が加わって大きく撓むと、ダイアフラムが破壊されるおそれがある。
【0003】
そのため、固定電極の表面に誘電体層を設けておき、圧力によって撓んだダイアフラムが誘電体層に接触し、その接触面積の変化によってダイアフラムと固定電極との間の静電容量が変化するようにした圧力センサが提案されている。このような圧力センサは、タッチモード静電容量型圧力センサと呼ばれることがある。
【0004】
タッチモード静電容量型圧力センサとしては、たとえば非特許文献1に記載されたものがある。
図1(A)は非特許文献1に記載された圧力センサ11を示す断面図である。この圧力センサ11では、ガラス基板12の上面に金属薄膜からなる固定電極13を形成し、固定電極13の上からガラス基板12の上面に誘電体膜14を形成している。誘電体膜14にはスルーホール15を開口してあり、誘電体膜14の上面に設けられた電極パッド16はスルーホール15を通って固定電極13に接続されている。誘電体膜14の上面にはシリコン基板17が積層されており、シリコン基板17の上面に窪み18を設けるとともに下面にリセス19を設け、窪み18とリセス19の間に薄膜状のダイアフラム20を形成している。ダイアフラム20は固定電極13と重なり合う位置に設けられている。また、シリコン基板17の下面はB(ホウ素)が高濃度にドーピングされたP
+層21となっており、それによってダイアフラム20が導電性を付与されていて可動電極の機能を有している。ダイアフラム20の下面と誘電体膜14との間には、リセス19によって数μmのギャップ22が生じている。
【0005】
図1(B)は、圧力センサ11の圧力と静電容量との関係(圧力−容量特性)を示す図であって、非特許文献1に記載されたものである。圧力センサ11のダイアフラム20に圧力が加わると、ダイアフラム20はその印加圧力に応じて撓み、ある圧力で誘電体膜14に接触する。
図1(B)における圧力が0からPaまでの区間(未接触領域)は、ダイアフラム20が誘電体膜14に接触していない状態である。圧力がPaからPbまでの区間(接触開始領域)は、ダイアフラム20が誘電体膜14に接触してからある程度の面積で確実に接触するまでの状態を表している。圧力がPbからPcまでの区間(動作領域)は、圧力の増加に伴ってダイアフラム20が誘電体膜14に接触している部分の面積が次第に増加している。圧力がPcからPdまでの区間(飽和領域)は、ダイアフラム20のほぼ全面が誘電体膜14に接触していて、圧力が増加してもほとんど接触面積が増えない領域である。
【0006】
図1(B)の圧力−容量特性によれば、ダイアフラム20が接触していない未接触領域では静電容量の変化は小さいが、接触開始領域になると次第に静電容量の変化率(増加速度)が大きくなる。さらに、動作領域では線形性は良くなるものの静電容量の変化率は次第に減少し、飽和領域になると静電容量はほとんど増加しなくなる。
【0007】
このようなタッチモードの圧力センサ11では、ダイアフラム20と誘電体膜14との接触面積をS、誘電体膜14の厚さをd、誘電体膜14の誘電率をεとすれば、ダイアフラム20と誘電体膜14の間における静電容量Cは、つぎの数式1で表せる。
C=Co+ε・(S/d) …(数式1)
ここで、Coは未接触領域での静電容量である。誘電体膜14の厚さdや誘電率εは変化しないので、数式1によれば、圧力Pが大きくなるとダイアフラム20の接触面積Sが増大し、その結果圧力センサ11の静電容量Cが増加することが分かる。
【0008】
しかしながら、このような構造の圧力センサ11では、ダイアフラム20を押さえる押圧体の先端形状などによってダイアフラム20が誘電体膜14に接触開始するときの面積が異なり、その結果圧力−容量特性の立ち上がり部分(接触開始領域や動作領域のうちPbに近い領域)における特性(以下、立ち上がり特性という。)が押圧体23の先端形状などによって変化する。たとえば、
図2(A)に示すように、先端面の小さな押圧体23でダイアフラム20を押圧した場合には、ダイアフラム20が押されて誘電体膜14に接触開始するときの接触面積が小さい。これに対し、
図2(B)に示すように、先端面の大きな押圧体23でダイアフラム20を押圧した場合には、同じ押圧力Pであっても、ダイアフラム20が誘電体膜14に接触開始するときの接触面積が大きくなる。この結果、圧力−容量特性の立ち上がり特性が押圧体23の形状や大きさによって変化し、圧力センサ11の低圧力領域における測定精度が得られないという問題がある。
【0009】
また、
図2(C)に示すように、ダイアフラム20がその中央部から外れた位置で押圧体23により押圧された場合には、同じ圧力Pであっても
図2(A)のように中央部を押された場合と静電容量が異なることがある。そのため、ダイアフラム20の押される位置によって圧力センサ11の測定値が変化するので、押圧位置のばらつきが圧力センサ11の測定精度低下の原因となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】山本敏、外4名、「タッチモード容量型圧力センサ」、フジクラ技報、株式会社フジクラ、2001年10月、第101号、p.71−74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような技術的背景に鑑みててなされたものであり、その目的とするところは、押圧体の大きさや形状あるいは押圧位置による影響を低減し、測定精度を向上させることのできるタッチモードの静電容量型圧力センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る静電容量型圧力センサは、固定電極と、前記固定電極の上方に形成された誘電体層と、前記誘電体層の上方に空隙を隔てて形成された導電性のダイアフラムとを備えた静電容量型の圧力センサにおいて、前記ダイアフラムの上面に
、高さが前記空隙の高さ以下である1個又は複数個の突起を設けたことを特徴としている。
【0013】
本発明の静電容量型圧力センサは、ダイアフラムの上面に突起を有しているので、押圧体でダイアフラムを押すと突起を介してダイアフラムが誘電体層に押し付けられる。したがって、印加される圧力が小さいときには、押圧体の大きさや形状によらずダイアフラムは圧力に応じて一定の形状で変形するので、圧力センサの立ち上がり特性のバラツキが小さくなり、圧力センサの出力特性が向上する。また、押圧体で押さえる位置が多少ずれている場合でも、ダイアフラムの一定位置に設けられた突起を介してダイアフラムが押さえられるので、押圧位置のずれによる出力のばらつきを小さくでき、特に立ち上がり特性を向上させることができる。
さらに、本発明の静電容量型圧力センサでは、前記突起の高さを、前記空隙の高さ以下にしているので、ダイアフラムを押さえたときに押圧体が突起によって妨げられにくくなる。その結果、圧力センサの出力の線形性が向上する。
【0014】
この突起は、前記ダイアフラムの表面が保護膜で覆われている場合には、前記保護膜と同一材料によって形成してもよい。保護膜と突起を同一材料とすることにより、保護膜と突起を1工程で作製することが可能になるので、製造工程が簡略になる。また、前記突起は、前記ダイアフラムと同一材料によって前記ダイアフラムと一体に形成されていてもよい。この場合は、ダイアフラムに加工することによって突起を形成することができる。
【0015】
本発明に係る静電容量型圧力センサのある実施態様は、前記突起が、前記ダイアフラムの上面中央部に設けられていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、突起がダイアフラムの中央部に設けられているので、押圧力によってダイアフラムが均等に変形し、ダイアフラムに塑性変形が生じにくくなる。
【0017】
本発明に係る静電容量型圧力センサのさらに別な実施態様は、前記突起の幅が、前記ダイアフラムの幅の0.2倍以下であることを特徴としている。また、かかる実施態様においては、前記突起の幅が、前記ダイアフラムの幅の0.15倍以下であることがより望ましい。かかる実施態様によれば、突起を設けた圧力センサの出力特性が良好になる。
【0018】
本発明に係る静電容量型圧力センサのさらに別な実施態様は、前記ダイアフラムに垂直な方向から見て、互いに直交する2本の仮想の直線に関してそれぞれ対称な位置に通気路を設けたことを特徴としている。かかる実施態様によれば、ダイアフラムが押さえられたときにダイアフラムに均等な応力が発生し、局所的に大きな応力が発生してダイアフラムに塑性変形が生じるのを防ぐことができる。また、かかる実施態様においては、前記通気路が、屈曲又は湾曲していてもよい。通気路を屈曲又は湾曲させておけば、通気路からセンサ内部に異物が侵入しにくくなる。
【0019】
本発明に係る入力装置は、本発明に係る複数個の静電容量型圧力センサを配列させたことを特徴としている。かかる入力装置によれば、押圧体の大きさや押圧位置のずれなどの影響を小さくし、押圧位置や押圧力を精度よく検出可能になる。
【0020】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(A)は、従来例による圧力センサを示す概略断面図である。
図1(B)は、
図1(A)に示す従来例の圧力センサにおける圧力と静電容量との関係を示す図である。
【
図2】
図2(A)は、小さな押圧体で押されたダイアフラムが誘電体層に接触開始した状態を示す概略図である。
図2(B)は、大きな押圧体で押されたダイアフラムが誘電体層に接触開始した状態を示す概略図である。
図2(C)は、中央部から外れた位置でダイアフラムが押圧された状態を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による圧力センサを示す平面図である。
【
図5】
図5(A)及び
図5(B)は、小さな押圧体でダイアフラムを押さえたときの状態と、大きな押圧体でダイアフラムを押さえたときの状態を比較して示す概略図である。
【
図6】
図6(A)及び
図6(B)は、押圧体でダイアフラムの中央を押さえたときの状態と、押圧体でダイアフラムの中央から外れた位置を押さえたときの状態を比較して示す概略図である。
【
図7】
図7(A)は、大きな荷重を加えてダイアフラムを押さえたときの状態を示す概略図である。
図7(B)は、突起の高さがエアギャップの高さよりも大きな場合を示す比較例の概略図である。
【
図8】
図8は、突起の高さの異なる複数のサンプル(突起なしのものを含む)について突起に加えた加重と静電容量の変化量との関係をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。
【
図9】
図9は、突起径の異なる複数のサンプル(突起なしのものを含む)について突起に加えた加重と静電容量の変化量との関係をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。
【
図11】
図11は、異なる形状の上面電極を有する圧力センサの平面図である。
【
図12】
図12は、本発明に係る圧力センサの変形例を示す平面図である。
【
図13】本発明の実施形態2による入力装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々設計変更することができる。
【0023】
(実施形態1)
図3及び
図4を参照して本発明の実施形態1による圧力センサ31の構造を説明する。
図3は圧力センサ31の平面図、
図4は圧力センサ31の断面図である。
【0024】
この圧力センサ31にあっては、低抵抗シリコン基板や金属膜などの導電性材料からなる固定電極32の上に誘電体層33が形成されている。誘電体層33は、SiO
2(熱酸化膜)、SiN、TEOS等の誘電体材料からなる。誘電体層33は、その上面にリセス33a(凹部)が凹設されている。誘電体層33の上面には、低抵抗シリコン基板などの導電性材料からなる薄膜状の上基板35aが形成されている。上基板35aは、リセス33aの上面を覆っており、リセス33aによって上基板35aの下面と誘電体層33のリセス底面との間にエアギャップ34(空隙)が形成されている。こうして上基板35aの、エアギャップ34の上方で水平に張られた領域により、感圧用のダイアフラム35が形成されている。また、誘電体層33には、エアギャップ34と外部との間の通気性を確保するためにベントライン36(通気路)が形成されている。ベントライン36は、幅が30μm程度の細い溝であって、塵や埃などの異物がエアギャップ34内に侵入しにくいように屈曲または蛇行させてある(
図10参照)。
【0025】
上基板35aの上面には、ダイアフラム35を囲むようにして、金属材料による環状の上面電極37が設けられている。上基板35aのコーナー部には電極パッド40が設けられており、上面電極37と電極パッド40は配線部42によって接続されている。上面電極37、配線部42及び電極パッド40は、下地層Ti(1000Å)/表面層Au(3000Å)の2層金属薄膜によって同時に作製されている。また、固定電極32の下面には、下面電極38が設けられている。下面電極38も、下地層Ti(1000Å)/表面層Au(3000Å)の2層金属薄膜によって作製されている。
【0026】
上基板35aの上面のうち上面電極37よりも外側の領域は、ポリイミドなどの樹脂やSiO
2、SiNなどの絶縁膜からなる保護膜41によって覆われている。ただし、電極パッド40の付近では保護膜41は除かれており、電極パッド40は保護膜41から露出している。
【0027】
また、ダイアフラム35の上面中央部には、比較的小さな突起39が設けられている。図示例では、突起39は円柱状に描かれているが、四角柱状や不定形などどのような形状であっても差し支えない。突起のサイズは、たとえば半径Ro=500μmのダイアフラム35に対して半径Rが25μm、高さHが1μmである(最適なサイズの範囲については後述する。)。突起39は、保護膜41と同一材料によって保護膜41と同時に作製してもよく、あるいはダイアフラム35と同一材料から作製してもよい。
【0028】
このようにしてダイアフラム35の上面に突起39を設けていると、押圧体の先端形状や大きさにかかわらず、荷重の大きさに応じて安定した接触面積でダイアフラム35を誘電体層33に接触させることができる。
図5(A)は、先端面の比較的小さな押圧体45、たとえば子供の指先などでダイアフラム35を押さえた場合を示す。
図5(B)は、先端面の比較的大きな押圧体45、たとえば大人の指先などでダイアフラム35を押さえた場合を示す。ダイアフラム35の上面に突起39を設けていると、押圧体45によってダイアフラム35が押さえられたとき、ダイアフラム35は突起39によって誘電体層33に押し付けられる。そのため、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、ダイアフラム35が誘電体層33に接触を開始するときには、押圧体45の先端形状などにかかわりなく、同じ接触面積で誘電体層33に接触を開始する。その結果、圧力センサ31の圧力−容量特性における立ち上がり特性が押圧体のサイズに影響されにくくなり、立ち上がり特性が安定する。
【0029】
また、ダイアフラム35の上面に突起39を設けていると、
図6(A)のようにダイアフラム35の中央部が押圧体45で押されているときも、
図6(B)のようにダイアフラム35の中央から外れた位置で押されているときも、ダイアフラム35に加わる荷重の大きさが同じであれば同じように誘電体層33に接触する。そのため、ダイアフラム35を押さえる位置がずれていても圧力を正確に検出できるようになり、圧力センサ31の測定精度が向上する。さらに、ダイアフラム35が突起39で補強されるので、ダイアフラム35が塑性変形しにくくなる。
【0030】
また、ダイアフラム35が誘電体層33に接触開始した状態からさらに大きな荷重が加わると、
図7(A)に示すように、ダイアフラム35が押圧体45によって直接押圧され、荷重が大きくなるに従ってダイアフラム35と誘電体層33の接触面積が増加する。よって、動作領域においては、荷重が大きくなるに従ってダイアフラム35と固定電極32の間の静電容量が次第に増加し、大きな圧力を測定することができる。
【0031】
しかし、
図7(B)のように突起39の高さHが、エアギャップ34の高さGよりも大きくなると、押圧体45で大きな荷重を加えても、押圧体45が突起39で妨げられてダイアフラム35を押すことができなくなる。よって、突起39の高さはエアギャップ34の高さGと等しいか、あるいはそれよりも小さいことが好ましい。
【0032】
図8は、突起径(突起の半径R)を一定に保ったままで突起の高さを変化させ、押圧体によって加える荷重Fとダイアフラム−固定電極間の静電容量の変化量ΔCとの関係をシミュレーションにより計算した結果を示す。このシミュレーションに用いたモデルは、ダイアフラムの厚さが10μm、ダイアフラムの半径Roが500μm、エアギャップの高さGが1μm、突起の半径Rが25μmの圧力センサである。このモデルにおいて、突起の高さHを0.50μm(H/G=0.50)、0.75μm(H/G=0.75)、1.0μm(H/G=1.0)、2.0μm(H/G=2.0)、5.0μm(H/G=5.0)と変化させて荷重Fと出力(静電容量変化量ΔC)との関係を求めた。また、
図8においては、ダイアフラムに突起を設けていないモデルについても荷重と出力との関係を示した。
【0033】
このシミュレーション結果によれば、
図8から分かるように、突起を設けていない場合には、荷重の小さな領域で出力が低下し、出力の線形性が悪い。また、ギャップの高さに対する突起の高さの比H/Gが5.0の場合には、押圧体が突起によって妨げられるので、荷重が少し大きくなると出力と出力の増加率が小さくなり、やはり出力の線形性が悪い。同様に、ギャップの高さに対する突起の高さの比H/Gが2.0の場合には、突起で荷重が妨げられるので、出力が小さくなる。これに対し、H/Gが1以下の突起を有するモデルでは、かなり線形性の良好な出力が得られる。よって、突起は、ギャップの高さGに対する突起の高さHの比が、H/G≦1となるようにすることが望ましい。
【0034】
また、
図9は、突起の高さを一定に保ったままで突起径を変化させ、押圧体によって加える荷重Fとダイアフラム−固定電極間の静電容量の変化量ΔCとの関係をシミュレーションにより計算した結果を示す。このシミュレーションに用いたモデルは、ダイアフラムの厚さが10μm、ダイアフラムの半径Roが500μm、エアギャップの高さGが1μm、突起の高さHが1μmの圧力センサである。このモデルにおいて、突起径Rを25μm(R/Ro=0.05)、32.5μm(R/Ro=0.065)、37.5μm(R/Ro=0.075)、50μm(R/Ro=0.1)、75μm(R/Ro=0.15)、100μm(R/Ro=0.2)と変化させて荷重Fと出力(静電容量変化量ΔC)との関係を求めた。また、
図9においては、ダイアフラムに突起を設けていないモデルについても荷重と出力との関係を示した。
【0035】
このシミュレーション結果でも、
図9から分かるように、突起を設けていない場合には、荷重の小さな領域で出力が低下し、出力の線形性が悪い。これらに対し、R/Roが0.2以下の突起を設ければ、出力の線形性がかなり改善される。また、R/Roが0.2の場合には、荷重の大きな領域で出力の増加率が小さくなり、出力も小さくなっているが、R/Roが0.15以下では、出力の低下も小さく、出力の線形性も良好である。よって、突起の半径Rは、ダイアフラムの半径Roの0.2倍以下(R/Ro≦0.2)であることが好ましく、特にRoの0.15倍以下(R/Ro≦0.15)であることが好ましい。
【0036】
つぎに、ベントライン36の配置について説明する。1本のベントライン36は、
図10(A)に示すように屈曲または蛇行しており、ベントライン36からエアギャップ34内に塵や埃などの異物が侵入しにくくなっている。このベントライン36は、
図10(A)のように、ダイアフラム35に垂直な方向から見て、互いに直交する2方向の軸に関して対称な位置に配置されていることが望ましい(ベントライン36の形状は前記軸に関して対称でなくてもよい。)。したがって、ベントライン36は4の倍数本だけ設けられている。
【0037】
図10(B)のようにベントライン36が1方向の軸に関してのみ対称であったり、
図10(C)のようにベントライン36の位置が偏っていたりすると、ダイアフラム35が押圧されたときにエアギャップ34内の圧力が均等にベントライン36から逃げず、ダイアフラム35が変形する恐れがある。したがって、ベントライン36は
図10(A)のように均等な位置に配置することが好ましい。
【0038】
また、ベントライン36を設けなくてもよい。特に、エアギャップ34への異物の侵入を確実に防ぎたい場合には、ベントライン36を設けずにエアギャップ34を封止構造とすることが望ましい。
【0039】
また、上面電極37は円環状でなくてもよく、
図11に示すように円弧状をした複数個の上面電極37が設けられていてもよい。また、上面電極37は設けなくてもよい。上基板35aが導電性を有しているので、
図12に示すように、ダイアフラム35の領域外において上基板35aの少なくとも1箇所に電極パッド40を設けるだけでもよいからである。
【0040】
なお、上記実施形態においては、ダイアフラム35の中央に1個の突起39を設けたが、突起39は1個に限らない。たとえば近接させてダイアフラム35の中央部に複数個の突起39を設けてもよい。
【0041】
(実施形態2)
図13は、本発明の実施形態2によるプレート型の入力装置51、たとえばタッチパネルの構造を示す断面図である。この入力装置51は、上記実施形態1にかかる多数の圧力センサ31(センサ部)をアレイ状(例えば、矩形状やハニカム状)に配列したものである。なお、各圧力センサ31は電気的に独立しており、各圧力センサ31に加わった圧力を個々に独立して検出することができる。このような入力装置51によれば、タッチパネルのように押圧体で押圧された点を検出できるとともに、各点の押圧強さ(圧力の大きさ)も検出することができる。
【符号の説明】
【0042】
31 圧力センサ
32 固定電極
33 誘電体層
34 エアギャップ
35 ダイアフラム
36 ベントライン
37 上面電極
39 突起
40 電極パッド
41 保護膜
45 押圧体
51 入力装置