(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の通信装置が第1のトレーニング信号を順次送信ビーム方向を切り替えながら送信し、且つ固定ビームパターンに設定された第2の通信装置が前記第1のトレーニング信号を受信するトレーニングを行うことによって、前記第1の通信装置における1以上の送信ビーム候補を前記第1の通信装置又は前記第2の通信装置において選択すること、
固定ビームパターンに設定された前記第1の通信装置が第2のトレーニング信号を送信し、且つ前記第2の通信装置が受信ビーム方向を切り替えながら前記第2のトレーニング信号を受信するトレーニングを行うことによって、前記第2の通信装置における1以上の受信ビーム候補を前記第1の通信装置又は前記第2の通信装置において選択すること、
前記第1の通信装置が前記1以上の送信ビーム候補の間で送信ビームパターンを切り替えながら第3のトレーニング信号を送信し、且つ前記第2の通信装置が前記1以上の受信ビーム候補の間で受信ビームパターンを切り替えながら前記第3のトレーニング信号を受信するトレーニングを行うことによって、前記第1の通信装置の送信ビーム候補と前記第2の通信装置の受信ビーム候補の1以上の組み合わせを前記第1の通信装置又は前記第2の通信装置において選択すること、
を含む通信制御方法。
【背景技術】
【0002】
近年、広帯域なミリ波(約30GHz〜300GHz)を用いた無線装置の利用が広がりつつある。ミリ波無線技術は、特に、高精細画像の無線伝送やギガビット級の高速データ無線通信への応用が期待されている(例えば、非特許文献1、2,3参照)。
【0003】
しかしながら、周波数が高いミリ波には直進性が強い性質があり、室内での無線伝送を想定した場合には課題がある。直進性が強い上に、人体等により信号減衰が顕著なため、室内などで送信機と受信機の間に人が介在した場合、見通し外となって伝送が困難になってしまう(シャドウイングの問題)。この問題は、周波数が高くなって電波の直進性が強くなるのに応じて伝搬環境が変わってきた結果によるもので、ミリ波帯(30GHz以上)に限らない。電波の伝搬環境が変化する変り目の周波数を明示することはできないが、およそ10GHz前後といわれている。なお国際電気通信連合の勧告("Propagation data and prediction methods for the planning of indoor radio communication systems and radio local area networks in the frequency range 900 MHz to 100 GHz," ITU-R, P.1238-3, 2003年4月)によれば、伝搬時の距離に対する電波の減衰量を表す電力損失係数(power loss coefficients)は、オフィス内では0.9〜5.2GHzにおいて28〜32であるのに対し、60GHzにおいては22となっている。自由空間損失の場合は20であるから、60GHzというような高い周波数では散乱や回折などの影響が少ないものと考えられる。
【0004】
上述したような課題を解決するために、例えば、受信装置に複数の受信部を設置することにより複数の伝送路を設け、送信装置と受信部との間の伝送路うち一方の伝送路が遮蔽された場合に、もう一方の伝送路で伝送を継続するシステムが特許文献2に記載されている。
【0005】
また、別の解決方法として、反射体を壁や天井に設置し、いくつかの伝送路を確保することも考案され、特許文献3に記載されている。
【0006】
特許文献2に記載された方法は、送信装置の近傍が遮蔽された場合や、複数設置された受信部を全て遮蔽された場合には、対応できない。また、特許文献3に記載された方法では、送信機と受信機の配置を考えて反射体を設置する必要があるなど、ユーザーに対して格別の配慮を要請しなければならなかった。
【0007】
ところが、最近になって、ミリ波の伝搬特性が調べられ、意図的に反射体を設置しなくても反射波を利用できる可能性が見出された。
図11は、広角アンテナを用いたシステムの構成を示す図であり、
図12は、
図11に示したような広角アンテナを用いたシステムの室内における遅延プロファイルの例を示す図である。
図11に示したような広角アンテナを用いたシステムにおいては、
図12に示すように、最初に到来する主波の受信電力が1番大きい。その後、第2波、第3波等の遅延波が到来するが、受信電力としては小さい。これら第2波や第3波は、天井や壁からの反射波である。この状況は、例えば無線LAN(Local Area Network)で使用される2.4GHz帯のような直進性が弱い電波の伝搬環境とは著しく異なる。2.4GHzでは回折の効果と多重反射によって、電波の到来方向を明確に分離することが困難である。一方、直進性が強いミリ波では、電波の到来方向が比較的明確であるが、遅延波の数は限られ、その受信レベルは小さい。
【0008】
したがって、直接波が遮蔽された場合に、反射波を利用して伝送を継続させるためには、
図10A及びBに示すように、指向性利得が高い狭ビームを反射する方向へ向け、受信レベルを確保しなければならない。ただし、遮蔽の有無や、送信機と受信機の相対位置などについて、ユーザーの格別な配慮を不要とするためには、狭いビームを動的に制御するビームフォーミング(指向性制御)の技術が必須となる。
【0009】
ビームフォーミングを実現するためには、指向性制御機能を有するアンテナを用いる必要がある。その代表的なものは、フェーズドアレイアンテナである。波長が短いミリ波では(例えば、周波数60GHzでは5mm)、フェーズドアレイアンテナを小エリアで実現でき、これに供する移相器アレイや発振器アレイが開発されている(例えば、非特許文献3,4参照)。フェーズドアレイアンテナの他にも、セクタ切替アンテナや機械式方向可動アンテナなどのアンテナを用いた場合でも指向性制御を実現することができる。
【0010】
また、アンテナアレイを用いたビームフォーミングとは別の目的の技術として到来方向推定技術が知られている。到来方向推定技術は、レーダーやソナー、伝搬環境測定、等で用いられる技術であり、アンテナアレイで受信する電波の到来方向と電力を高精度に推定するためのものである。この到来方向推定技術が、電波源を設置した上での伝搬環境測定に用いられる場合、その電波源にはしばしばオムニ(無指向性)アンテナが使用される。例えば非特許文献6にそのような例が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
室内でのミリ波システムにおいて、一つの伝搬路(リンク)が遮蔽された場合に別の伝搬路を用いて無線伝送を継続する場合には、以下の問題が生じる。
【0014】
使用する伝搬路(リンク)を切り替える際、伝送断の時間を短くすることが望ましく、例えば、リアルタイム性が要求される非圧縮画像伝送では、特に強い要求となる。一方、反射波を利用する場合には、受信強度を高めるためにアンテナビーム幅を狭くしてアンテナの指向性利得を高くする必要がある。
【0015】
ところが、ビーム幅が狭ければ狭いほど探索する方向(ステップ)が増える。このため、ビーム方向を探索し、最適なビーム方向を設定するための時間がかかるので、伝送断の時間が長くなってしまう。そこで、このような場合にも伝送断の時間を短くできるビーム方向の設定方法が強く望まれている。なお、データをバッファリングできる装置であっても、伝送断の時間が長くなると、非常に大きなメモリが必要となり実用的ではない。
【0016】
通信機と通信機の間の伝搬路の特性は、チャネル応答行列で表現される。このチャネル応答行列が求まれば、特異値分解(SVD: Singular−Value Decomposition)を用いて、最もよい送受信機のアンテナ設定の組合せ(以下ではアンテナ設定対と呼ぶ)が求まることが知られている。しかし一方でSVDは複雑で処理時間が長いため、例えば、高速性が要求される非圧縮画像伝送装置に実装することは困難である。
【0017】
このため、例えば特許文献4には、ユニタリ行列(例えばアダマール行列)をアンテナアレイの位相として加え、送信機のアンテナアレイのトレーニングと、受信機のアンテナアレイのトレーニングを繰り返し、最も信号強度が強くなる最適AWV(アレイ重みベクトル)を求める方法が開示されている。この方法では、SVDに比べ時間が短縮できるものの、送受信の切り替えを繰り返し行うために、最適なAWV組合せを求めるまでに所定の時間がかかっていた。
【0018】
また非特許文献5には、ビーム解像度を徐々に上げながら送受のビーム方向(アンテナ設定)を最適化する技術が開示されている。しかしこのような技術においても、送受信の切り替えを繰り返し行いながら多数の送受のビーム方向(アンテナ設定)の組合せについて通信品質の測定を行う必要があり、最適なビーム組合せを求めるのに多大な時間が必要であった。
【0019】
また同文献において、最も低い解像度のビームとして、擬似オムニ(擬似無指向性)パターンという概念が呈示されている。この擬似オムニパターンとは、完全なオムニ(無指向性)ではないものの、送受信機周辺の空間のうち非常に広い方向にわたりほぼ一定のアンテナ利得を有するパターンを指す。アンテナアレイにおいては完全なオムニパターンを得ることが困難な場合が多いため、この擬似オムニパターンで代用される場合が多い。
【0020】
一般的に、初期にリンクを確立する際には、最適なアンテナ設定対を求める時間が長くても許容される。しかし、既にリンクが確立された後に伝送断が発生した際に必要となる再リンク確立には、素早い別の最適アンテナ設定対の探索が必要である。またマルチポイント通信の場合、複数のリンクの再確立が必要となり、より早い最適アンテナ設定対の探索が必要である。
【0021】
そこで、本願の発明者等は、初期のリンク確立のためのトレーニングにおいて、複数の通信に利用可能な伝搬路に対応したアンテナ設定対を予め取得、備蓄しておき、遮蔽物等により通信の途絶や通信品質の劣化が起こった際には、備蓄しておいた予備のアンテナ設定対の中から新たにアンテナ設定対を選択し、選択したアンテナ設定対を用いて通信を再開する方法が有効であることを見出した。これにより、通信途絶時間を短くすることができる。しかしながら、特に通信が途絶した場合には、通信機の間の時刻同期が十分に保持されていない場合もある。そのような場合に高速、且つ確実にリンクを再確立するためには、新たなアンテナ設定対を選択する手順に先立って通信機間の時刻同期が維持されている必要がある。通信機間の時刻同期を維持できれば、その後に通信機間で通信品質試験などを行うことによって品質良好な新たなアンテナ設定対を選択することができ、リンクを再確立して通信を再開することができる。
【0022】
本発明は、発明者等による上述の知見に基づいてなされたものであって、ビームフォーミングを用いた無線通信において、遮蔽物等により通信の途絶や通信品質の劣化が起こった際に、高速、且つ確実にリンクを再確立できるようにするため、通信機間の時刻同期を維持することが可能な無線通信システム及びその制御方法、並びに無線通信装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第1の態様にかかる方法は、第1及び第2の通信機を含む無線通信システムの制御方法である。ここで、前記第1の通信機は、送信アンテナ設定を変更することによって第1の送信アンテナの送信ビーム方向を制御でき、受信アンテナ設定を変更することによって第1の受信アンテナの受信ビーム方向を制御できるよう構成されている。また、前記第2の通信機は、送信アンテナ設定を変更することによって第2の送信アンテナの送信ビーム方向を制御でき、受信アンテナ設定を変更することによって第2の受信アンテナの受信ビーム方向を制御できるよう構成されている。本態様にかかる方法は、以下のステップ(a)〜(d)を含む。
(a):前記第1の送信アンテナに関する複数の第1の送信アンテナ設定候補、前記第1の受信アンテナに関する複数の第1の受信アンテナ設定候補、前記第2の送信アンテナに関する複数の第2の送信アンテナ設定候補及び前記第2の受信アンテナに関する複数の第1の受信アンテナ設定候補の4組のアンテナ設定候補のうち少なくとも一組を、前記第1及び第2の通信機の間のトレーニングにより決定すること、
(b):前記第1の送信アンテナと前記第2の受信アンテナに関する第1のアンテナ設定対を少なくとも1つ決定するとともに、前記第1の受信アンテナと前記第2の送信アンテナに関する第2のアンテナ設定対を少なくとも1つ決定すること、
(c):前記少なくとも1つの第1のアンテナ設定対のうち1つと前記少なくとも1つの第2のアンテナ設定対のうち1つを用いる前記第1及び第2の通信機の間の無線通信に関して通信品質の劣化を検知すること、
(d):前記通信品質の劣化が検知された場合に、以下の工程(d1)、(d2)、(d3)及び(d4)のうち少なくとも1つの工程を行うこと。
(d1):前記第1の送信アンテナのアンテナ設定を前記複数の第1の送信アンテナ設定候補のうち少なくとも一部の間で切り替えながら、前記第1の送信アンテナから第1のトレーニング信号を送信するとともに、固定ビームパターンに設定された前記第2の受信アンテナにおいて前記第1のトレーニング信号を受信すること;
(d2):前記第2の送信アンテナのアンテナ設定を前記複数の第2の送信アンテナ設定候補のうち少なくとも一部の間で切り替えながら、前記第2の送信アンテナから第2のトレーニング信号を送信するとともに、固定ビームパターンに設定された前記第1の受信アンテナにおいて前記第2のトレーニング信号を受信すること;
(d3):固定ビームパターンに設定された前記第1の送信アンテナから第3のトレーニング信号を送信するとともに、前記第2の受信アンテナのアンテナ設定を前記複数の第2の受信アンテナ設定候補のうち少なくとも一部の間で切り替えながら、前記第2の受信アンテナにおいて前記第3のトレーニング信号を受信すること;及び
(d4):固定ビームパターンに設定された前記第2の送信アンテナから第4のトレーニング信号を送信するとともに、前記第1の受信アンテナのアンテナ設定を前記複数の第1の受信アンテナ設定候補のうち少なくとも一部の間で切り替えながら、前記第1の受信アンテナにおいて前記第4のトレーニング信号を受信すること。
【0024】
本発明の第2の態様にかかる無線通信システムは、第1及び第2の通信機を含む無線通信システムに関する。前記第1の通信機は、第1の送信アンテナから無線信号を送信でき、第1の受信アンテナによって無線信号を受信できるよう構成されている。前記第2の通信機は、第2の送信アンテナから無線信号を送信でき、第2の受信アンテナによって無線信号を受信できるよう構成されている。また、前記第1及び第2の通信機は、無線通信に利用する送信及び受信アンテナ設定候補の決定処理を協調して行うよう構成されている。当該決定処理は、以下の処理(a)〜(d)を含む。
(a):前記第1の送信アンテナに関する複数の第1の送信アンテナ設定候補、前記第1の受信アンテナに関する複数の第1の受信アンテナ設定候補、前記第2の送信アンテナに関する複数の第2の送信アンテナ設定候補及び前記第2の受信アンテナに関する複数の第1の受信アンテナ設定候補の4組のアンテナ設定候補のうち少なくとも一組を、前記第1及び第2の通信機の間のトレーニングにより決定すること、
(b):前記第1の送信アンテナと前記第2の受信アンテナに関する第1のアンテナ設定対を少なくとも1つ決定するとともに、前記第1の受信アンテナと前記第2の送信アンテナに関する第2のアンテナ設定対を少なくとも1つ決定すること、
(c):前記少なくとも1つの第1のアンテナ設定対のうち1つと前記少なくとも1つの第2のアンテナ設定対のうち1つを用いる前記第1及び第2の通信機の間の無線通信に関して通信品質の劣化を検知すること、
(d):前記通信品質の劣化が検知された場合に、以下の工程(d1)、(d2)、(d3)及び(d4)のうち少なくとも1つの工程を行うこと。
(d1):前記第1の送信アンテナのアンテナ設定を前記複数の第1の送信アンテナ設定候補のうち少なくとも一部の間で切り替えながら、前記第1の送信アンテナから第1のトレーニング信号を送信するとともに、固定ビームパターンに設定された前記第2の受信アンテナにおいて前記第1のトレーニング信号を受信すること;
(d2):前記第2の送信アンテナのアンテナ設定を前記複数の第2の送信アンテナ設定候補のうち少なくとも一部の間で切り替えながら、前記第2の送信アンテナから第2のトレーニング信号を送信するとともに、固定ビームパターンに設定された前記第1の受信アンテナにおいて前記第2のトレーニング信号を受信すること;
(d3):固定ビームパターンに設定された前記第1の送信アンテナから第3のトレーニング信号を送信するとともに、前記第2の受信アンテナのアンテナ設定を前記複数の第2の受信アンテナ設定候補のうち少なくとも一部の間で切り替えながら、前記第2の受信アンテナにおいて前記第3のトレーニング信号を受信すること;及び
(d4):固定ビームパターンに設定された前記第2の送信アンテナから第4のトレーニング信号を送信するとともに、前記第1の受信アンテナのアンテナ設定を前記複数の第1の受信アンテナ設定候補のうち少なくとも一部の間で切り替えながら、前記第1の受信アンテナにおいて前記第4のトレーニング信号を受信すること。
【0025】
本発明の第3の態様にかかる無線通信装置は、相手装置との無線通信に利用する送信及び受信アンテナ設定候補の決定処理を前記相手装置と協調して行うよう構成された通信機であり、上述の第2の態様にかかる無線通信システムに含まれる第1又は第2の通信機に相当する。
【0026】
本発明の第4の態様にかかる方法は、第1の通信機と第2の通信機とで無線通信を行う無線通信システムの制御方法である。当該方法は、
(a)第1の通信機と第2の通信機の間の第1のトレーニングにより、前記第1の通信機の送信ビーム方向候補と前記第2の通信機の受信ビーム方向候補を選ぶこと、及び
(b)前記第1の通信機と前記第2の通信機との間で無線通信の途絶、あるいは通信品質の劣化が起こった場合に、前記送信ビーム方向候補のうち選択された送信ビーム方向候補と前記第2の通信機の受信ビーム方向候補を組み合わせる第2のトレーニングを実施すること、を含む。
【0027】
本発明の第5の態様にかかる無線通信システムは、第1の通信機と第2の通信機とで無線通信を行うよう構成される。さらに、当該システムは、前記第1の通信機の送信ビーム方向候補と前記第2の通信機の受信ビーム方向候補を選ぶ第1のトレーニングを行うよう構成されている。さらにまた、当該システムは、前記第1の通信機と前記第2の通信機との間で無線通信の途絶、あるいは通信品質の劣化が起こった場合に、前記送信ビーム方向候補のうち選択された送信ビーム方向候補と前記第2の通信機の受信ビーム方向候補の組み合わせる第2のトレーニングを実施するよう構成されている。
【発明の効果】
【0028】
上述した本発明の各態様によれば、ビームフォーミングを用いた無線通信において、遮蔽物等により通信の途絶や通信品質の劣化が起こった際に、高速、且つ確実にリンクを再確立できるようにするため、通信機間の時刻同期を維持することが可能な無線通信システム及びその制御方法、並びに無線通信装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0031】
<第1の実施の形態>
本実施の形態にかかる無線通信システムは、ビームフォーミングのための指向性制御アンテナを有する送受信機400及び500を含む。送受信機400及び500が有する指向性制御アンテナの指向性制御機構は特に限定されない。例えば、送受信機400及び500が有する指向性制御アンテナは、フェーズドアレイアンテナ、セクタ切替アンテナ、又は機械式可動アンテナとしてもよい。
【0032】
図2に、指向性制御アンテナとしてフェーズドアレイアンテナを有する送受信機400の構成の一例を示す(動作の説明に不要な回路を除く)。M個の送信放射素子、N個の受信放射素子、それぞれがアンテナアレイを構成する。送信機401には、送信回路403があり、外部からデータが入力される。送信回路403の出力はM分岐され、アンテナ設定回路404に入力される。フェーズドアレイアンテナの場合、アンテナ設定回路404は、AWV(アレイ重みベクトル)制御回路404−1〜Mから構成される。ここで各々の信号は、その振幅および位相もしくは何れか一方が変えられ、最終的には放射素子405−1〜Mからなる送信アンテナアレイを通して出力される。AWV制御回路404−1〜Mは、例えばアナログ移相器と可変利得増幅器の直列接続により実現でき、この場合には信号の振幅及び位相の双方が連続的に制御される。またAWV制御回路404−1〜Mをデジタル移相器で実現した場合には、信号の位相のみが離散的に制御されることになる。
【0033】
また処理・演算回路406は、制御回路407を通して、アンテナ設定回路404の設定を指示する。各信号に与えられる振幅および位相もしくは何れか一方の変化によって、送信機から発射されるビームの方向、幅などを制御することが可能となる。
【0034】
一方、受信機402では送信機401と逆の構成がとられている。放射素子411−1〜Nからなる受信アンテナアレイによって受信された信号は、AWV制御回路410−1〜Nで振幅および位相もしくは何れか一方が調整されてから合成され、受信回路409を経て、外部にデータが出力される。送信機401と同様に、処理・演算回路406によって、各AWV制御回路410−1〜Nの振幅および位相もしくは何れか一方が制御される。
【0035】
図3は、
図2に示した構成の送受信機2つ(400及び500)で構成された無線通信システムの概念図である。送受信機500の送信放射素子はK個、受信放射素子はL個としてある。
【0036】
図2及び
図3では、指向性制御アンテナとして、フェーズドアレイアンテナを搭載した通信機の構成例を示したが、指向性制御アンテナとして別の種類のアンテナを搭載した通信機も知られている。
図4は、指向性制御アンテナとしてセクタ切替アンテナを搭載した送受信機400の構成例である。この場合、送信放射素子415−1〜M、受信放射素子417−1〜Nとして強い指向性を有する素子が使用され、それぞれの放射素子が異なる方向を向くように配置される。アンテナ設定回路414、416は、通常、スイッチ素子414−1〜M、416−1〜Nで構成される。スイッチをオンにした放射素子の放射方向にビームが形成される。従って、アンテナ設定回路414、416によりアンテナ設定を変更することによってビーム方向の制御が可能となる。他の部分の回路の動作は、
図2の場合と同様である。
【0037】
続いて以下では、本実施の形態にかかる無線通信システムにおける無線制御手順の全体像を、
図5に示した遷移図を用いて説明する。
図5に示すS12a及びS12bにおいて、送受信機400及び送受信機500は、これらに設けられたアンテナ設定回路404、410、504、510を最適化するためのトレーニングを行う。処理・演算回路406若しくは506又はこれら2つの回路が協同して、複数の通信に利用可能なアンテナ設定対(アンテナ設定対リスト)を決定・取得する。S12a及びS12bにおける複数のアンテナ設定対候補の決定方法については、後述する。得られた複数のアンテナ設定対は、記憶回路408及び508若しくは何れか一方にデータ列として記憶される。なおこの図では、それぞれのアンテナの複数のアンテナ設定候補を決定する状態S12aと、それらの組み合わせであるアンテナ設定対を決定する状態S12bが分離している例を示したが、これら2つの状態が分離できないような場合も有り得る。このS12a及びS12bを、本明細書では"初期トレーニング"と呼ぶこととする。
【0038】
なお、上述したように、アンテナ設定対とは、送信アンテナに対するアンテナ設定と受信アンテナに対するアンテナ設定の組み合わせを意味する。また、アンテナ設定とは、送信アンテナ又は受信アンテナの指向性パターン(ビーム方向、ビームパターン)を規定する設定情報であればよい。例えば
図2に示したように、指向性制御アンテナがフェーズドアレイアンテナである場合、アンテナ設定は、AWVとすればよい。また、例えば
図4に示したように、指向性制御アンテナがセクタ切替アンテナである場合、アンテナ設定は、スイッチ素子414−1〜M等のON/OFF設定とすればよい。また、例えば、アンテナ設定は、予め特定の指向性と対応付けられた識別番号でもよいし、指向性を決定するAWVのようなアンテナ設定値そのものでもよい。
【0039】
S13では、S12bで得られた複数のアンテナ設定対の中から1つを選択し、必要であればS14においてアンテナ設定対の微調整を行った後、S15で通信を行う。微調整とは、アンテナ設定対に含まれる2つのアンテナ設定候補の少なくとも一方を、通信品質が向上するように変更する手順を意味する。例えば、選択したアンテナ設定対に対応したビーム方向の周辺でビームが変化するようアンテナ設定対に含まれる2つのアンテナ設定候補の少なくとも一方を変更し、より良い通信品質が得られるアンテナ設定候補を探索すればよい。S13におけるアンテナ設定対の選択の仕方についても後述する。なお、S13とS14の順序を入替え、S14ではS12bで得られた複数のアンテナ設定対に対して微調整を行い、その後S13において、微調整後のアンテナ設定対の中から1つを選択するようにしてもよい。
【0040】
S15の通信継続中においては、送受信機400及び500は、通信状態をモニタする。例えば送受信機500を受信動作させた場合には、受信回路509又は処理・演算回路506において通信品質を計測することにより行えばよい。通信品質としては、例えば、受信レベル、信号電力対雑音電力比(SNR:Signal to Noise Ratio)、ビット誤り率(BER:Bit Error Rate)、パケット誤り率(PER:Packet Error Rate)、フレーム誤り率(FER:Frame Error Rate)などを測定すればよい。一方、このとき送信機として動作させた送受信機400における通信状態のモニタは、送受信機500からの通信品質劣化警報の受信状況、受信確認応答(ACK)の受信状況を計測することにより行えばよい。なお、通信状態のモニタの具体的手法には、公知の一般的な手法を採用すればよいため、本実施形態における詳細な説明は省略する。
【0041】
通信継続中に通信途絶などの通信品質の劣化が検出された場合、送受信機400及び500は、リンクを再確立するためのトレーニングに入る(S16a、S16b)。S16aにおいては、S12aにおいて決定したアンテナ設定候補、もしくはその一部について,他方の通信機に擬似オムニパターンを設定した状態で通信品質試験を行う。S16bでは、S12aにおいて決定したアンテナ設定候補の全て組合せ、もしくはその一部について通信品質試験を行う。S16a及びS16bにおけるリンク再確立トレーニングの詳細については、後述する。
【0042】
なお、S16aにおける通信品質試験の結果、全てのアンテナ設定候補が使用不可と判断された場合は、初期トレーニングS12aへ戻る。全ての伝搬路が同時に遮蔽された場合や、通信機自体が移動した場合には、このようなことも起こりうる。
【0043】
S17では、S16bにおける通信品質試験結果に基づき、アンテナ設定対の選択を行う。通常最も通信品質の優れたアンテナ設定対を選択するようにするとよい。通信品質の良否は、例えば送受信機500を受信動作させた場合には、受信回路509又は処理・演算回路506において、受信レベル、SNR等を計測することによって判定すればよい。必要であればS18においてアンテナ設定対の微調整を行った後、送受信機400及び500は通信状態(S15)に復帰する。
【0044】
続いて以下では、
図5のS16a及びS16bにおけるリンク再確立トレーニングの詳細について説明する。
図1に、これらの手順の一例を簡略化したシーケンス図を示す。簡単化のため、
図1では送受信機400を"通信機1"、送受信機500を"通信機2"と表記した。また
図1には、初期トレーニングから通信開始までの工程(
図5のS11〜S15に相当する工程)についても記してある(S101〜S105)。以下では、
図1の簡略シーケンス図と
図3の無線通信システムの構成図を連動させて、手順及び動作の説明を行う。
【0045】
先ず、通信を開始するための初期トレーニングについて説明する。通信機1及び通信機2は、それぞれの送信及び受信アンテナについて、通信に利用可能なアンテナ設定の候補を複数個、検出・決定する(S102)。続いて、通信機1の送信アンテナと通信機2の受信アンテナの組について、S102で決定した互いのアンテナ設定候補を組み合わせることで、通信に利用可能なアンテナ設定候補の組み合わせ(アンテナ設定対)を複数組決定する(S103)。同様に、通信機1の受信アンテナと通信機2の送信アンテナの組についても、S102で決定したアンテナ設定候補の組み合わせ(アンテナ設定対)を複数組決定する(S103)。本実施の形態では、S102及びS103の具体的手順を問わないが、その一例については後述する。その後、通信機1及び通信機2は、S103において決定した複数のアンテナ設定対から一つの設定対を選択し(S104)、通信を開始する(S105)。
【0046】
図1のS106以降は通信遮断が発生した場合の通信再開までの具体的手順を示している。例えば通信機1から通信機2へデータを伝送中(S105)に、伝搬路への遮蔽物の侵入等により伝送が途絶した場合、通信機2は通信品質の劣化(ここでは通信の途絶)を検知する(S106)。通信機2は、例えば、予めデュレーションフィールドで告知されていた長さのデータの受信前に伝送が停止したことで、通信の途絶を検知すればよい。一方、通信機1は、予定された時刻に通信機2から受領通知(ACK)が返信されないことにより、通信の途絶を検知すればよい(S107−1)。
【0047】
また、完全な途絶ではなく通信品質の劣化が起こる場合には、受信動作している通信機2が通信品質劣化を検知し(S106−2)、通信品質劣化通知を通信機1へ送付すればよい(S107)。通信機1は、劣化通知を受信することによって(S107−1)、通信品質の劣化を検知すればよい。
【0048】
上記のように通信の途絶、もしくは通信品質の劣化を検知した場合、S108−1において通信機1は送信動作を行う。このとき、通信機1の記憶回路408、処理演算回路406、制御回路407、及びアンテナ設定回路404は、互いに連動することによって、送信アンテナ(例えばアンテナアレイ405−1〜M)のアンテナ設定をS102において決定した通信機1の送信アンテナの複数のアンテナ設定候補の全てもしくはその一部の間で順次切り替える。その状態で、さらに送信回路403も連動する。これにより、通信機1は、順次アンテナ設定を切り替えることで送信ビーム方向を変化させながらトレーニング信号を送信する。
【0049】
このときS108−2において、通信機2は受信動作を行う。記憶回路508、処理・演算回路506、制御回路513、アンテナ設定回路510は、互いに連動することで、その受信アンテナ(例えばアンテナアレイ511−1〜L)に擬似オムニパターンを発生させる。この状態で、さらに受信回路509も連動する。これにより、通信機2は、固定ビームパターンで、具体的には疑似オムニパターンで、通信機1から送信されるトレーニング信号を受信する。
【0050】
続いて、通信機1と通信機2の役割を交替して同様の処理を実行する。即ち、S109−2において、通信機2は、送信アンテナ(例えばアンテナアレイ505−1〜K)のアンテナ設定をS102において決定した通信機2の送信アンテナの複数のアンテナ設定候補の全てもしくはその一部の間で順次切り替えながら、トレーニング信号を送信する。このときS109−1において、通信機1は、固定ビームパターン、具体的には擬似オムニパターンを発生させた状態で通信機2からのトレーニング信号を受信する。
【0051】
S108、S109において送信アンテナに設定するアンテナ設定候補は、S102において決定されたアンテナ設定候補の全て、または一部でもよいし、それらのうちS103で形成されるアンテナ設定対に使用されたもののみでもよい。
【0052】
ここで、S108、S109の工程を行う目的について説明する。通信の途絶が起こる場合、通信機間のデータのやりとりが一旦途絶えるために、通信機間の時刻同期(タイミング)が十分に保持されない場合がある。一方、S103で決定したアンテナ設定対、あるいはS102で決定したアンテナ設定候補のうち、通信途絶が起こったときに使用していたもの以外のアンテナ設定の中にも既に一定の通信品質を満たさなくなっているものがある可能性がある。例えば、通信途絶が遮蔽物によるものであった場合、その遮蔽物が同時に複数の伝搬路を遮蔽している可能性がある。そのような状況で、例えば、S103で取得したアンテナ設定対リストから、通信途絶時とは別のアンテナ設定対を新たに選択して通信品質試験を行おうとしても、信号を受信できず、従って受領通知も受け取れないという状況が発生する。その場合、一定時間経過後、さらに次のアンテナ設定対に切換えて試験を行うなどの処置をとることになるが、処理時間に無駄が出る。
【0053】
一方、本実施の形態では、通信品質が劣化した場合に、一方の通信機を固定ビームパターン(例えば擬似オムニパターン)とし、他方の通信機は複数のアンテナ設定候補の間でアンテナ設定(ビーム方向、ビームパターン)を順次切り替えながら、2つの通信機間でトレーニング信号を送受信する。これにより、全てのアンテナ設定候補が同時に使用不可となっていない限り、確実にデータのやりとりができ、従って時刻同期をとることができる。このように、一旦時刻同期を回復できれば、その後はアンテナ設定候補どうしでの通信品質試験を安定して行うことができるようになる。また、通常S102においてアンテナ設定候補の総数は十分少数に絞り込まれているため、S108及びS109の工程は短い処理時間で実行することが可能である。
【0054】
さらに、上述したように、通信途絶が起こったときに使用していたもの以外のアンテナ設定の中で既に一定の通信品質を満たさなくなっているものを、この工程で判別することもできる。
【0055】
図1に戻って説明を続ける。S110では、通信機1の送信アンテナと通信機2の受信アンテナのアンテナ設定候補の間で総当りのトレーニングを行う。同様に、S111では、通信機2の送信アンテナと通信機1の受信アンテナのアンテナ設定候補の間で総当りのトレーニングを行う。これらの総当りのトレーニングの詳細な手順については後述する。これらのトレーニングにより、アンテナ設定候補間の組み合わせ(アンテナ設定対)を見出し、さらにそれらを通信品質の良好な順序(例えば、受信電力の大きな順序)に整列する。
【0056】
ここで総当りを行うアンテナ設定候補は、S102で決定した全ての候補でもよいし、S103でアンテナ設定対に使用されたもののみでもよいし、さらに通信途絶が起こったときに使用していた設定を除いてもよいし、更には、S108〜S109における通信試験で一定基準を満たさないものを除いてもよい。
【0057】
通信機1及び通信機2は、上述した方法により記憶装置408及び508に格納されたアンテナ設定対の同じ順位のアンテナ設定を選択して、通信を再開する。例えば、S112において、使用するアンテナ設定順位を通信機1から通信機2へ送付すればよい。ここで送付するアンテナ設定順位は、通信機1の送信アンテナと通信機2の受信アンテナに関する順位、通信機2の送信アンテナと通信機1の受信アンテナに関する順位、の両方であってもよいし、何れか一方であってもよい。また、図中には示していないが、これらの順位の両方、もしくは何れか一方を通信機2から通信機1へ送信するようにしてもよい。また、通信に使用するアンテナ設定順位の順序を予め決めてある場合には、このような使用アンテナ設定順位の送受を省略してもよい。通常、最も通信品質の良い設定対を使用するよう決めておくとよい。送受されたアンテナ設定対順位に従い、通信機1及び通信機2はアンテナ設定回路404、410、510、504の設定を行い(S113)、通信を再開する(S114)。
【0058】
続いて、
図1の簡略化したシーケンス図を用いて説明した動作を、より詳細に説明する。
図7A〜
図7Bは、
図1の簡略化したシーケンス図の手順をより詳細に示したシーケンス図である。以下では、
図1において簡略化した部分について動作を説明する。
【0059】
図7AのS701〜S707は、
図1のS101〜S107と同様である。S708〜S711の工程は、
図1におけるS108の工程の手順の一例を詳細に示したものである。先ず通信機2は、受信アンテナ設定を擬似オムニパターン生成用の値に設定する(S708−2)。通信機1は、送信アンテナ設定を変更しながら(S709−1)、S702において検出・決定した全て、もしくはその一部のアンテナ設定での信号送信が完了するまで(S711−1)、トレーニング信号の送信を繰り返す(S710−1)。通信機2は、そのトレーニング信号、及びアンテナ設定識別番号を受信する(S710−2)。
【0060】
S712〜S715の工程は、
図1におけるS109の工程の手順の一例を詳細に示したものである。これは、上記のS708〜S711の工程において、通信機1と通信機2の役割を入れ替えたものであり同様の動作であるので、説明は省略する。
【0061】
S728〜S732の工程は、
図1におけるS110の工程の手順の一例を詳細に示したものである。この工程では、S702において決定した通信機1の送信アンテナ設定候補、もしくはその一部と、通信機2の受信アンテナ設定候補、もしくはその一部の間で、総当りのトレーニング(通信品質試験)を行う。
【0062】
先ず通信機1は、送信アンテナ設定を設定候補のうち1つ目のアンテナ設定とし(S728−1)、トレーニング信号を送出する(S730−1)。通信機2は、受信アンテナ設定を設定候補に順次設定しながら(S729−2)、全てのアンテナ設定候補での信号受信が完了するまで(S731−2)、トレーニング信号の受信を繰り返す(S730−2)。以上の手順を、通信機1の全ての送信アンテナ設定候補、もしくはその一部について終了するまで繰り返す(S732−1)。
【0063】
S734〜S738の工程は、
図1におけるS111の工程の手順の一例を詳細に示したものである。この工程では、S702において決定した通信機2の送信アンテナ設定候補、もしくはその一部と、通信機1の受信アンテナ設定候補、もしくはその一部の間で、総当りのトレーニング(通信品質試験)を行う。この工程は、上記のS728〜S732の工程において、通信機1と通信機2の役割を入れ替えたものであり同様の動作であるので、説明は省略する。
【0064】
一般に、S702において検出・決定されるアンテナ設定候補の数は、初期トレーニングにおいて通常行われるビーム方向走査のアンテナ設定数に比較し十分小さく絞り込まれているため、総当りを行ったとしても総トレーニング時間を大幅に増大させるようなことはない。
【0065】
上記の総当りのトレーニングにより、アンテナ設定候補間の組み合わせ(アンテナ設定対)を見出し、さらにそれらを通信品質の良好な順序(例えば、受信電力の大きな順序)に整列する。通信機1及び通信機2は、上述した方法により取得したアンテナ設定対の同じ順位のアンテナ設定を選択して、通信を再開する(S739〜S744)。
【0066】
本実施の形態で述べた手順は、一例に過ぎない。例えば、各工程の順序、各種処理・演算を行う通信機、送受する情報の内容、などには自由度があり、それらが異なる場合でも本発明の範囲を逸脱するものではない。また説明においては、便宜上、複数の処理の集合を、例えば
図1のS108−1のように一つの工程に纏めてある。これらの工程を構成する処理の順序が、工程間で入替わるようなことがあってもよい。例えば、
図1のS108を構成する各処理と、S109を構成する各処理が時間的に交互となるような場合も、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0067】
本実施の形態によれば、通信の途絶や通信品質の劣化が発生した場合に、高速且つ確実にリンクの再確立が可能となる。特に、通信の途絶が発生し、通信機間の時刻同期が十分に保持されないような場合においても、一方の通信機を擬似オムニパターンとし、他方の通信機のアンテナ設定(ビーム方向、ビームパターン)を通信に利用可能な複数のアンテナ設定候補の間で順次切り替えながら、リンク再確立のトレーニングを開始することにより、通信機間の時刻同期を維持することができ、確実にリンクの再確立が可能となる。
【0068】
以下に、この方法が屋内のミリ波、あるいは直進性が高くなる概ね10GHz以上のマイクロ波で有効である理由について補足的に説明する。無線通信に供することのできる伝搬路は限られている。つまり、直接波と、壁、窓、什器などの特定の物体からの反射波である。したがって、各伝搬路の放射すべき角度、あるいは受信すべき角度は、それぞれの波(信号)によって大きく異なっている。一方、例えば2.4GHzのマイクロ波帯のような直進性の低い伝搬路を使用する場合は、多重散乱や回折による効果を考慮する必要があるため、通常は指向性のあるアンテナは用いられない。このため、概ね10GHz以上のマイクロ波通信及びミリ波通信と2.4GHz程度のマイクロ波通信とでは、状況が異なる。なお、2.4GHzのマイクロ波通信の分野でも、干渉を除去することを目的として、指向性のある適応アンテナの開発例がある。しかしながら、適応型の指向性アンテナを使用する場合でも、2.4GHz帯では回折の効果が期待できるため、直接波の角度又はそれに近い角度で良好な通信品質を確保しやすい。
【0069】
ミリ波帯におけるビームフォーミングを用いた屋内通信においては、次の性質を考慮する必要がある。前述の通り、直接波以外の反射波の数は限られている。また、特定の直接波または反射波が障害物(例えば人体)によって遮られた場合でも、遮蔽された特定の波と他の波とは無相関である。従って、本実施の形態で述べたように、ミリ波通信システムでは、最も通信状態の良いビーム方向で通信を行いながら、予備のビーム方向を確保することができる。一方、概ね10GHz未満の周波数の場合は、多重反射や回折の通信品質に対する寄与が大きい。よって、仮に指向性のあるアンテナを用いたとしても、障害物の有無によって予備のビーム方向の伝搬状況も変化してしまう。つまり、障害物が存在しない場合には良好であった予備のビーム方向からの受信状態が、障害物の存在によって変動する可能性が高い。したがって、2.4GHzのマイクロ波通信などでは、本実施の形態の効果を得ることが困難である。
【0070】
また、ミリ波通信においては、局所的な反射による伝搬路ができることがある。その様子を
図10に示す。
図10Aには、送受信機81及び82があり、ビームフォーミングでの伝搬路として直接波A、局所的な反射波B、遠くの経路での反射波Cがあると仮定する。直接波A、局所的な反射波Bは、例えば人体による遮蔽によって同時に遮断される可能性がある(
図10B)。この問題に対して特許文献1は、既に優先順位が付与されたビーム方向近傍のビーム方向には優先順位を付与しない、もしくはその優先順位を下げる技術を開示している。ここまでの説明では、アンテナ設定対に対して受信電力順(もしくは他の通信品質順)に優先順位を付与する例を示したが、この受信電力の基準に加えビーム候補間の角度の関係を優先順位の付与において加味してもよい。本実施の形態においては、それぞれの通信機におけるビーム候補間の角度関係の情報が取得済みであるから、これが可能となる。
【0071】
以上の説明においては、一部の工程における通信機のアンテナの放射パターンとして、オムニもしくは擬似オムニパターンを使用した。しかし、オムニもしくは擬似オムニパターンの発生が困難な場合には、他の固定パターンで替えてもよい。ただし、十分広い角度範囲にわたりアンテナ利得を有するパターンである必要がある。もしアンテナの放射パターンが既知である場合には、
図1のS102、S108、及びS109において取得した受信データから固定パターンビームのアンテナ利得の方向依存性の影響を除去する処理を追加してもよい。その際、必要であれば、固定パターンビームのアンテナ利得の方向依存性を記述したデータ列を通信機間で送受すればよい。
【0072】
また、使用するアンテナの種類や構造、周波数帯などの条件によっては、所望の角度範囲の全体にわたって擬似オムニパターンを実現することが困難な場合もある。そのような場合には、擬似オムニパターンを、適当な複数の角度範囲に分割し、分割された角度範囲毎に、トレーニング信号の送信または受信処理を繰り返せばよい。
【0073】
以上の説明においては、2つの通信機の間におけるビームフォーミング動作を説明した。このような動作は、しばしば3つ以上の通信機から構成される系において、そのうちの2つの通信機間で行われる。この系には、ピコネットコーディネータやアクセスポイントなどと呼ばれる特別な権限を与えられた通信機が通常存在する。3つ以上の通信機のうち、どの2つの通信機の間でビームフォ−ミング動作を行うかは、通常このピコネットコーディネータやアクセスポイントと呼ばれる通信機からの命令により決定すればよい。ピコネットコーディネータやアクセスポイントは、一般の通信機からの要求を受け、この命令を発すればよい。
【0074】
また本実施の形態においては、2つの通信機の間で同様の処理を役割を入替えて実行する。このとき、どちらの通信機がどちらの役割を先に行うのかについても、例えば、ピコネットコーディネータやアクセスポイントと呼ばれる通信機からの命令で決定すればよい。
【0075】
また、上記の説明においては、"通信機を受信動作させる"、"オムニ(無指向性)もしくは擬似オムニ(擬似無指向性)パターンを発生させる"といった表現を用いたが、これらの処理は、通常、各送受信機の処理・演算回路などに予め組み込まれたプログラムに従い実行すればよい。
【0076】
<第2の実施の形態>
本発明における第2の実施の形態を、
図6に示した遷移図を用いて説明する。なお本実施の形態に係る無線通信システムの構成は、例えば
図3に示したものと同様とすればよい。
図6のS11〜S18の各状態とこれらの間での遷移条件は、第1の実施の形態で述べた
図5の同一符号のものと同様である。このため、S11〜S18に関する詳細な説明は省略する。
【0077】
第1の実施の形態においては、通信の途絶が起きた場合と、通信品質の劣化が起きた場合の双方で同じ処理を実行していた。しかし、第1の実施の形態で述べたリンク再確立のためのトレーニング(S16)は、通信の途絶が起きて、通信機間での時刻同期が十分に保持されないような場合に特に有効なものである。逆に、通信品質の劣化の場合は、通信機間の時刻同期は保持されているため、より簡単な方法でリンクを再確立することが可能である。本実施の形態は、通信品質の劣化を検知した場合に、通信の途絶を検知した場合とは別の処理を行う例である。
【0078】
通信品質の劣化を検知した場合、通信機1及び通信機2はアンテナ設定の微調整を行い(S19)、通信品質を確認する(S20)。微調整により通信品質が通信に十分なレベルまで回復した場合は、通信状態(S15)に復帰する。微調整をしても通信品質が通信に十分なレベルまで回復しない場合は、S12bにおいて備蓄しておいたアンテナ設定対リストから別のアンテナ設定対を選択し(S21)、再び通信品質の確認を行う(S20)。通信品質が通信に十分なレベルまで回復した場合は、通信状態(S15)に復帰する。不十分であれば、再度アンテナ設定対リストから別のアンテナ設定対を選択し(S21)、同様の処理を繰り返す。もし備蓄しておいた全てのアンテナ設定対について十分な通信品質が得られない場合は、初期トレーニングS12aへ戻る。
【0079】
このように、通信途絶の場合と、通信品質の劣化の場合とで、別の手順をとることにより、より効率的なリンク再確立が可能になる。
【0080】
<第3の実施の形態>
本発明における第3の実施の形態を、
図8に示したシーケンス図を用いて説明する。本シーケンス図に示した工程は、
図7Aの末尾と
図7Bの先頭との間に挿入されるものである。すなわち、
図7A、
図8、
図7Bの順に工程を実行すればよい。
【0081】
図8におけるS716〜S719の工程の動作を説明する。先ず通信機1は、送信アンテナ設定を擬似オムニパターン生成用の値に設定し(S716−1)、トレーニング信号を送出する(S718−1)。通信機2は、受信アンテナ設定を変更しながら(S717−2)、S702において検出・決定した全て、もしくはその一部のアンテナ設定での信号受信が完了するまで(S719−2)、トレーニング信号の受信を繰り返す(S718−2)。
【0082】
S720〜S723の工程は、上記のS716〜S719の工程において、通信機1と通信機2の役割を入れ替えたものであり同様の動作であるので、説明は省略する。
【0083】
すなわち、本実施の形態においては、通信機1の送信アンテナ(S708〜S711)、通信機2の送信アンテナ(S712〜S715)、通信機2の受信アンテナ(S716〜S719)、通信機1の受信アンテナ(S720〜S723)、の全てについて、S702において検出・決定した全て、もしくはその一部のアンテナ設定候補と擬似オムニパターンとの組み合わせでの通信品質試験を行っている。これら4つの通信品質試験は、本実施の形態のように全て実行してもよいし、そのうちの任意の1試験、あるいは2試験、あるいは3試験のみを実行してもよい。実施の形態1は、前半の2試験を実行した場合の例である。任意の1つの試験(1つのアンテナに関する試験)は、通信品質の劣化を検知した片方向の通信路に関する一方の通信機の送信アンテナ又は他方の通信機の受信アンテナについて行えばよい。また、2つの試験(2つのアンテナに関する試験)は、通信品質の劣化を検知した片方向の通信路に関する一方の通信機の送信アンテナ及び他方の通信機の受信アンテナについて行ってもよい。
【0084】
また本実施の形態においては、S724〜S725において、上記4つの通信試験の結果に基づき、通信機1の送信アンテナ、通信機2の送信アンテナ、通信機2の受信アンテナ、通信機1の受信アンテナ、のそれぞれについて、新たにアンテナ設定候補の決定を行っている。すなわち、S702において検出・決定した全て、もしくはその一部のアンテナ設定のうち、上記4つの通信試験の結果、一定の通信品質を満たさないものをアンテナ設定候補から除外する。さらに、その結果を
図7Bにおける総当りでのトレーニングに反映させるために、必要な情報を授受している(S726〜S727)。このような処置は、4つの通信試験を行う本実施例の場合だけでなく、一部の通信試験を行う第1及び第2の実施の形態にも適用可能である。
【0085】
<第4の実施の形態>
本発明における第4の実施の形態を、
図9A〜
図9Cに示したシーケンス図を用いて説明する。本シーケンス図に示した手順は、初期トレーニングから通信開始までの過程、すなわち
図1の工程S101〜S105、あるいは
図7Aにおける工程S701〜S705の具体的な手順の一例を示すものである。
【0086】
先ず、S602〜S605の工程について説明する。先ず通信機2は、受信アンテナ設定をトレーニング用の値、ここではオムニもしくは擬似オムニパターン生成用の値に設定する(S602−2)。通信機1は、送信アンテナ設定を変更しながら(S603−1)、予め定められた全てのアンテナ設定での信号送信が完了するまで(S605−1)、トレーニング信号の送信を繰り返す(S604−1)。このとき各アンテナ設定に対応する識別番号、もしくはそれと同等のものを送信しておく。通信機2は、そのトレーニング信号、及びアンテナ設定識別番号を受信する(S604−2)。
【0087】
S606〜S609の工程は、上記のS602〜S605の工程において、通信機1と通信機2の役割を入れ替えたものであり同様の動作であるので、説明は省略する。
【0088】
次に、S610〜S613の工程について説明する。先ず通信機1は、送信アンテナ設定をトレーニング用の値、ここではオムニもしくは擬似オムニパターン生成用の値に設定し(S610−1)、トレーニング信号を送出する(S612−1)。通信機2は、受信アンテナ設定を変更しながら(S611−2)、予め定められた全てのアンテナ設定での信号受信が完了するまで(S613−2)、トレーニング信号の受信を繰り返す(S612−2)。
【0089】
S614〜S617の工程は、上記のS610〜S613の工程において、通信機1と通信機2の役割を入れ替えたものであり同様の動作であるので、説明は省略する。
【0090】
S618〜S619においては、上記の4工程群(S602〜S605、S606〜S609、S610〜S613、S614〜S617)において取得した受信信号特性を用いて、それぞれ、通信機1の送信アンテナ、通信機2の送信アンテナ、通信機2の受信アンテナ、通信機1の受信アンテナ、の通信に利用可能な複数のアンテナ設定候補を決定する。さらに、S620〜S621において、S622以降で、通信機間のアンテナ設定候補の組み合わせについて総当りでのトレーニングを行うために、必要な情報の授受を行う。
【0091】
S622〜S626の工程では、S602〜S605の工程におけるトレーニング信号の受信結果を用いてS618−2において決定した通信機1の送信アンテナ設定候補と、S610〜S613の工程におけるトレーニング信号の受信結果を用いてS619−2において決定した通信機2の受信アンテナ設定候補の間で、総当りのトレーニング(通信品質試験)を行う。
【0092】
先ず通信機1は、送信アンテナ設定候補のうち1つ目のアンテナ設定とし(S622−1)、トレーニング信号を送出する(S624−1)。通信機2は、受信アンテナ設定をS619−2において決定した設定候補に順次設定しながら(S623−2)、全てのアンテナ設定候補での信号受信が完了するまで(S625−2)、トレーニング信号の受信を繰り返す(S624−2)。以上の手順を、S618−2において決定した通信機1の全ての送信アンテナ設定候補について終了するまで繰り返す(S626−1)。
【0093】
S627〜S632の工程では、S606〜S609の工程におけるトレーニング信号の受信結果を用いてS618−1において決定した通信機2の送信アンテナ設定候補と、S614〜S617の工程におけるトレーニング信号の受信結果を用いてS619−1において決定した通信機1の受信アンテナ設定候補の間で、総当りのトレーニング(通信品質試験)を行う。この工程は、上記のS622〜S626の工程において、通信機1と通信機2の役割を入れ替えたものであり同様の動作であるので、説明は省略する。
【0094】
これらの総当りトレーニングにより、アンテナ設定候補間の正しい組み合わせ(アンテナ設定対)を見出し、さらにそれらを通信品質の良好な順序(例えば、受信電力の大きな順序)に整列する(S633)。得られた通信品質順に整列されたアンテナ設定対のデータ列を、アンテナ設定対リストと呼ぶこととする。通信機1及び2は、アンテナ設定対リストからアンテナ設定対を選択し、通信を開始する(S634〜S638)。
【0095】
本実施の形態の初期トレーニングから通信開始までの手順をとった場合、リンク再確立のためのトレーニング(S108〜S111)が、初期トレーニング(S102〜S103)と同じスキームを用いて、一部の手順を省略したり、簡略化したりすることにより実現できる利点がある。例えば、
図1のS108〜S109で行う片側を擬似オムニとして行う処理は、本実施の形態における初期トレーニングにおけるS602〜S617の処理の一部の工程群を省略し、且つ変化させるアンテナ設定数を削減したものである。また、
図1のS110〜S111における総当りトレーニングは、本実施の形態における初期トレーニングにおけるS622〜S633の処理と同じ、もしくは変化させるアンテナ設定数を削減したものである。このように同じスキームで処理できるということは、使用するフレームなどを共通化できることを意味し、従って初期トレーニングと再確立トレーニングを含むプロトコル全体を簡略化できる利点が生じる。
【0096】
なお、本実施の形態で述べた初期トレーニングから通信開始までの手順はあくまで一例に過ぎない。本発明は、複数のアンテナ設定対の検出を伴うものであれば、如何なる種類の初期トレーニングから通信開始までの手順に対しても適用可能である。
【0097】
<第5の実施の形態>
第5の実施の形態では、初期トレーニング、及びリンク再確立トレーニングを低速(狭帯域)で行い、実際の通信は比較的高速(広帯域)で行うことを特徴とする。もしくは、初期トレーニング、及びリンク再確立トレーニングの一部を低速(狭帯域)で行い、初期トレーニング、及びリンク再確立トレーニングの残部、及び実際の通信を比較的高速(広帯域)で行うことを特徴とする。それ以外の動作は、第1〜第4の実施の形態の何れかに記載の方法を用いればよい。
【0098】
ミリ波通信では、自由空間伝搬損失が大きいために、受信電力が小さいことが予想される。このため、トレーニング時に、アンテナをオムニもしくは擬似オムニパターンを発生するよう設定した場合、十分なキャリア電力対雑音電力比(CNR;Carrier to Noise Ratio)が得られない場合がある。したがって、受信感度のよい低速(狭帯域)を用いることで、トレーニングが可能となったり、精度が向上するなどの効果が期待できる。なおここで低速(狭帯域)を用いるとは、雑音帯域幅が小さくなるように、トレーニング信号の送信のために使用する周波数帯を狭くすること、あるいは所要CNRが小さい変調方式を採用することを意味する。なお、"所要CNRが小さい変調方式を採用すること"は、言い換えると、コンスタレーション上における信号点間距離が大きい変調方式を採用すること(通常は伝送速度が小さいこと)を意味する。なお本実施の形態では、狭いビーム幅が用いられることが前提であり、相関帯域幅が広いために低速(狭帯域)でも高速(広帯域)でも最適なビーム組合せ(アンテナ設定対)に大きな変化はない。
【0099】
<その他の実施の形態>
第1〜5の実施の形態の記述においては、送受信機400及び500が、それぞれ送信アンテナ(405−1〜M、又は505−1〜K)と受信アンテナ(411−1〜N、又は511−1〜L)を両方具備する場合について述べた。しかしながら、送受信機400及び500の各々は、送信及び受信で兼用される1つの共用アンテナを有してもよい。
【0100】
また、第1〜第5の実施の形態では、通信品質の劣化(通信途絶を含む)が起きた場合に、一方の通信機は固定ビームパターン(例えば擬似オムニパターン)を選択し、他方の通信機は複数のアンテナ設定候補の間でアンテナ設定(ビーム方向、ビームパターン)を順次切り替えながら、2つの通信機間でトレーニング信号を送受信することで、リンクの再確立を確実に行う例を示した(例えば
図5のS16a、
図1のS108及びS109)。さらに、第1〜第5の実施の形態では、リンク再確立の後に複数の送信アンテナ設定候補および複数の受信アンテナ設定候補の間で総当たりのトレーニングを行うことによって、アンテナ設定対の更新(アンテナ設定対リストの再構築)を行う例を示した(例えば
図5のS16b、
図1のS110〜S112)。アンテナ設定対の更新手順を行うことによって、通信環境の変化に追随して、通信品質の良好なアンテナ設定対を新たに選びなおすことができる。
【0101】
しかしながら、リンク再確立(例えば
図5のS16a、
図1のS108及びS109)の後に通信再開時のアンテナ設定対を決定する手順は適宜変更可能である。つまり、総当たりのトレーニング(例えば
図5のS16b、
図1のS110〜S112)は、必ずしも行わなくてもよい。例えば、送受信機400及び500は、
図1のS108及びS109で有効性が確認できたいずれかのアンテナ設定候補に関するアンテナ設定対(初期トレーニング(例えば
図5のS12、
図1のS103)で取得済みのもの)を選んで通信を再開してもよい。あるいは、
図1のS103において決定したアンテナ設定対の全て、もしくはその一部について通信品質試験を行った上で、その結果に基づきアンテナ設定対を選択し通信を再開してもよい。
【0102】
また、上述した第1〜5の実施の形態の説明では、通信品質という語句を用いた。通信品質は、例えば、受信レベル、信号電力対雑音電力比(SNR)、ビット誤り率(BER)、パケット誤り率(PER)、フレーム誤り率(FER)など、通信品質を代表するものであればよく、そのうちの1つ又は複数を用いてもよい。また、通信品質の評価には、送信機401もしくは501の送信データ列に含まれるプリアンブル中の特定のデータ列を用いてもよい。
【0103】
また、上述した第1〜第5の実施の形態における通信機400および500によって行われるアンテナ設定候補の生成・切替に関する制御及び演算処理は、マイクロプロセッサ等のコンピュータに送受信機制御のためのプログラムを実行させることによって実現可能である。同様に、送受信機500によって行われるアンテナ設定候補の生成・切替に関する制御及び演算処理も、マイクロプロセッサ等のコンピュータに送受信機制御のためのプログラムを実行させることによって実現可能である。
【0104】
また、処理・演算回路406及び506だけでなく、送信回路403及び503の一部(変調処理等)、受信回路409及び509の一部(復調処理等)、制御回路407及び507等のデジタル信号処理又は機器制御に関する構成要素は、マイクロコンピュータ又はDSP(Digital Signal Processor)等のコンピュータによって実現してよい。また、送受信機400及び500には、いわゆるソフトウェア・アンテナ技術を適用してもよい。具体的には、アンテナ設定回路404、410、504、510、は、デジタルフィルタによって構成してもよく、DSP等のコンピュータによって構成してもよい。
【0105】
以上の説明においては、2つの送受信機間で通信が行われている状況を例に説明を行った。しかし、3つ以上の送受信機が通信を行う状況においても本発明は適用可能である。
【0106】
さらに、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、既に述べた本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0107】
この出願は、2009年11月4日に出願された日本出願特願2009−253119を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。