特許第5975185号(P5975185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975185
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】触覚提示装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20160809BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   G06F3/01 560
   G06F3/041 480
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-549183(P2015-549183)
(86)(22)【出願日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】JP2014080720
(87)【国際公開番号】WO2015076321
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2016年5月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-240635(P2013-240635)
(32)【優先日】2013年11月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 順一
【審査官】 山崎 慎一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157691(WO,A1)
【文献】 特許第5267559(JP,B2)
【文献】 特開2005−78403(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0145857(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を加えることで面方向に変形するフィルムと、
曲げ応力が発生する状態で前記フィルムに固定された平板状の振動板と、
タッチ操作を検出するタッチ検出部と、
前記タッチ検出部がタッチ操作を検出したときに、前記フィルムに駆動信号を印加する駆動部と、を備え、
前記フィルムは、前記振動板の端部を介して前記振動板の両主面に回り込んで配置されていることを特徴とする触覚提示装置。
【請求項2】
前記振動板の端部は、角のない曲面形状になっている請求項1に記載の触覚提示装置。
【請求項3】
前記タッチ検出部は、前記振動板に装着されるタッチパネルにより実現される請求項1または請求項2に記載の触覚提示装置。
【請求項4】
前記振動板は、前記フィルムの主面に対して直交する方向に湾曲された状態で前記フィルムに固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の触覚提示装置。
【請求項5】
前記振動板は、前記フィルムに固定されていない状態では平板面が湾曲した形状であり、前記湾曲した平板面が平坦になるように前記フィルムに固定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の触覚提示装置。
【請求項6】
前記フィルムは、複数装着されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の触覚提示装置。
【請求項7】
前記フィルムは、電極および圧電性樹脂が積層されてなる圧電フィルムを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の触覚提示装置。
【請求項8】
前記圧電性樹脂は、ポリフッ化ビニリデンを材料とすることを特徴とする請求項7に記載の触覚提示装置。
【請求項9】
前記圧電性樹脂は、キラル高分子を材料とすることを特徴とする請求項7に記載の触覚提示装置。
【請求項10】
前記キラル高分子は、ポリ乳酸からなることを特徴とする請求項9に記載の触覚提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者に振動を伝えることで触覚フィードバックを与える触覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネル式のキーボード等において、利用者がキーをタッチした時に振動を伝えることで触覚フィードバックを与え、キーを「押した」と感じさせる触覚提示装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、圧電セラミックス等からなる圧電バイモルフ素子の両端を低弾性体で保持し、当該圧電バイモルフの中央に被振動材を接続した構造が記載されている。特許文献1の構造では、圧電バイモルフ素子に交流信号を入力して振動させることにより、接続された被振動材を介して利用者に振動を伝える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−303937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、圧電セラミックスは割れやすいという課題がある。一方で、圧電フィルムのような割れにくいものは、振動を伝える力が弱く、触覚提示装置に用いることが難しい。
【0006】
そこで、本発明の目的は、フィルムを用いた場合であってもある程度強い振動を伝えることができる触覚提示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の触覚提示装置は、電圧を加えることで面方向に変形するフィルムと、曲げ応力が発生する状態で前記フィルムに固定された平板状の振動板と、タッチ操作を検出するタッチ検出部と、前記タッチ検出部がタッチ操作を検出したときに、前記フィルムに駆動信号を印加する駆動部と、を備えている。そして、フィルムは、振動板の両主面に配置されている。
【0008】
このような触覚提示装置では、ユーザがタッチ操作を行うと、フィルムに駆動信号が印加され、フィルムが伸縮する。振動板は、フィルムの伸縮により、主面に直交する方向に振動する。振動板には、曲げ応力が発生しているため、フィルムの伸縮に対して効率的に振動させることができる。また、フィルムは、振動板の両主面に配置されている。そのため、圧電フィルムは、一方の主面にだけ配置する態様よりも伸縮量が増加する。したがって、本発明の触覚提示装置は、フィルムを用いた場合であってもある程度強い振動を伝えることができる。
【0009】
なお、「フィルム」は、圧電性樹脂からなる圧電フィルムのみからなるものであってもよいし、圧電フィルムと、当該圧電フィルムを主面に装着した平板状のエキサイタフィルムと、からなる態様であってもよい。また、「電圧を加えることで面方向に変形するフィルム」は、圧電フィルムに限るものではない。「電圧を加えることで面方向に変形するフィルム」は、例えば電歪フィルム、エレクトレットフィルム、コンポジットフィルム、または電気活性フィルム等がある。電気活性フィルムとは、電気的駆動によって応力を発生するフィルム部材、または電気的駆動によって変形して変位を発生するフィルム部材である。具体的には、電歪フィルム、コンポジット材料(圧電セラミックスを樹脂モールドした材料)、電気駆動型エラストマー、または液晶エラストマー等がある。
【0010】
なお、振動板の端部は、角のない曲面形状になっていることが好ましい。この場合、振動板の端部におけるフィルムは、振動板の端部で角に引っかかることなく、スムーズに伸縮するため、伸縮量のロスを抑えることができる。
【0011】
なお、タッチ検出部は、振動板に対するタッチ操作を検出する態様であってもよいし、振動板に装着されるタッチパネルに対するタッチを検出する態様であってもよい。
【0012】
また、振動板は、フィルムの主面に対して直交する方向に湾曲された状態でフィルムに固定されることにより曲げ応力を発生させる態様でもよいし、フィルムに固定されていない状態では平板面が湾曲した形状であり、湾曲した平板面が平坦になるようにフィルムに固定されることにより曲げ応力を発生させる態様であってもよい。
【0013】
また、フィルムは、1つに限らず、複数のフィルムに分割されている態様とすることも可能である。
【0014】
また、フィルムが圧電性樹脂を備えた圧電フィルムからなる場合、圧電性樹脂は、ポリフッ化ビニリデンを材料とすることもできるし、キラル高分子を材料とすることもできる。キラル高分子がポリ乳酸である場合、他の構成とともに透光性を有する材質とすることで、正面視した略全面が高い透光性を有する触覚提示装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、フィルムを用いた場合であってもある程度強い振動を伝えることができ、平板に貼り付けた場合であっても音の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】触覚提示装置10の外観斜視図である。
図2】触覚提示装置10の背面図および側面図である。
図3】触覚提示装置10の外観斜視図である。
図4】触覚提示装置10の部分拡大側面図である。
図5】触覚提示装置10の構成を示すブロック図である。
図6】触覚提示装置10の動作説明図である。
図7】触覚提示装置10Aの側面図である。
図8】触覚提示装置10Bの外観斜視図である。
図9】触覚提示装置10Bの構造説明図である。
図10】変形例に係る圧電フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、第1の実施形態に係る触覚提示装置10の外観斜視図である。図2(A)は、触覚提示装置10の背面図であり、図2(B)は、側面図である。
【0018】
触覚提示装置10は、圧電フィルム20A、圧電フィルム20B、エキサイタフィルム30A、エキサイタフィルム30B、振動板40、およびタッチパネル50を備えている。触覚提示装置10は、いわゆるキーボードであり、平板状のタッチパネル50には、キー配列に対応した位置に複数のタッチセンサ80が設けられている。タッチセンサ80が本発明のタッチ検出部に相当する。タッチセンサ80は、ユーザのタッチ操作を検出する機能であればどの様な方式であってもよく、メンブレン式、静電容量式、圧電フィルム式、等の様々な方式を用いることができる。
【0019】
タッチパネル50は、平板状の振動板40の一方の主面(正面)に装着されている。振動板40は、平面視して矩形状である。振動板40は、他方の主面の(背面)における短手方向の両端、および正面の一部においてエキサイタフィルム30Aおよびエキサイタフィルム30Bと接している。
【0020】
振動板40は、例えばアクリル樹脂PMMAで構成されている。なお、振動板40は、金属板、PET、ポリカーボネイト(PC)、PLLA、ガラス等の他の材料を用いてもよい。
【0021】
なお、タッチパネル50は、必須ではない。例えば、振動板40の正面において、キー配列に対応した位置に複数のタッチセンサ80を設ける態様とすることも可能である。また、タッチパネル50自体を振動板としてもよい。この場合、振動板を別途用意する必要がないため、装置全体を薄型にすることができる。
【0022】
エキサイタフィルム30Aは、振動板40を正面から見て右端部に装着されている。エキサイタフィルム30Bは、振動板40を正面から見て左端部に装着されている。エキサイタフィルム30Aおよびエキサイタフィルム30Bは、同じ材料かつ同じ形状であり、同じ機能を有するため、以下の説明においては、主にエキサイタフィルム30Aについて説明する。
【0023】
エキサイタフィルム30Aは、厚みが薄く、一方向に長い矩形状の部材である。エキサイタフィルム30Aは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されている。なお、エキサイタフィルム30Aは、ポリエチレンナノフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の他の材料を用いてもよい。また、圧電フィルム20Aおよび圧電フィルム20Bと同じ材料であってもよい。エキサイタフィルム30Aの厚みは、伸縮性を阻害しないような厚み(例えば0.02〜0.5mm程度)が望ましい。
【0024】
エキサイタフィルム30Aは、振動板40の短手方向の両端を介して振動板40の裏面側から振動板40の正面側に回り込んで、振動板40の正面に装着されている。なお、この例では、エキサイタフィルム30Aの長手方向の両端が離れているが、図3に示すように、エキサイタフィルム30Aの長手方向の両端が接して、振動板40の中央位置において装着されていてもよい。また、エキサイタフィルム30Aを装着する箇所は、振動板40のたわみの変位が小さいところ(ノード点)であることが好ましい。ノード点で装着することで、各種材料の経時変化による共振周波数の変化の影響を受けることが少なくなる。また、エキサイタフィルム30Aが振動板40を回り込む回数は1回ではなく、さらに複数回り込んでから装着される態様であってもよい。また、エキサイタフィルムの数はこの例に限らず、例えば中央に1つだけ装着してもよいし、3つ以上装着してもよい。
【0025】
次に、図4は、触覚提示装置10のうち、圧電フィルム20Aが装着された箇所の部分拡大側面図である。圧電フィルム20Aおよび圧電フィルム20Bは、同じ材料かつ同じ形状であり、同じ機能を有するため、以下の説明においては、主に圧電フィルム20Aについて説明する。図4に示すように、圧電フィルム20Aは、厚みが薄く、一方向に長い矩形状の部材であるベースフィルム200と、該ベースフィルム200の対向する両主面に形成された電極201Aおよび電極201Bを備える。
【0026】
ベースフィルム200は、圧電性樹脂であり、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、キラル高分子、等の材料を用いる。より好ましくは、透光性の高いポリ乳酸(PLA)を用いる。特にPLLAで構成されていることが望ましい。PLAを用いる場合、他の構成も透光性の高い材料を用いることにより、正面視した略全面が高い透光性を有する触覚提示装置10を実現することができる。また、PLAは、焦電性が無く、周囲温度の変化によって影響されない。したがって、気温の変化、電子機器の発熱、または指が接触することによる温度変化等によって振動の強さが変わらない。また、PLAは透光性が高いため、触覚提示装置を正面視した時にPLAが貼り付けられた部分を隠す必要がない。その結果、装置の小型化が可能になる。また、本願発明の構造は、フィルムの端部が振動板の端部と重ならないために、振動板の端部にフィルムを貼り付ける箇所を設ける必要がない。そのため、装置の小型化に有効である。
【0027】
ベースフィルム200は、PLLAで構成される場合、図2(A)に示すように、延伸方向に対して各外周辺が略45°となるように裁断することで、矩形状を形成して、圧電性を持たせる。
【0028】
電極201Aおよび電極201Bは、ベースフィルム200の両主面の略全面に形成されている。電極201Aおよび電極201Bは、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、ポリチオフェンを主成分とすることが好ましい。なお、電極201Aおよび電極201Bには、銀ナノワイヤ電極を用いることも可能であるし、透光性が低くてよい使用態様であれば、アルミ蒸着電極を用いることが好ましい。電極201Aおよび電極201Bには、図示しない引き出し用の配線導体が接続されており、駆動信号が当該配線導体を介して電極201Aおよび電極201Bへ印加されるようになっている。エキサイタフィルム30A側に配置される電極201Aは、接着層60を介してエキサイタフィルム30Aに装着される。
【0029】
これにより、圧電フィルム20Aは、エキサイタフィルム30Aに装着され、当該エキサイタフィルム30Aと同様に当該振動板40の短手方向の両端を介して振動板40の正面に回り込んで、振動板40の正面側にも配置される。ただし、圧電フィルム20Aは、エキサイタフィルム30Aの主面の全体に装着される必要はない。また、圧電フィルムが複数に分割され、1つのエキサイタフィルムに対して複数の圧電フィルムが装着される態様であってもよい。複数の圧電フィルムを設ける場合、それぞれに異なる電圧を印加することによって、タッチパネルのどこのボタンを押しても同じクリック感を得ることができる。また、圧電フィルムを固片化することで、エキサイタフィルムに貼り付ける際にしわや気泡などができにくい。その結果、圧電フィルムの力を最大限伝えることができる。
【0030】
図5は、触覚提示装置10の構成を示すブロック図である。図5に示すように、タッチパネル50に設けられたタッチセンサ80をユーザがタッチすると、駆動部81が圧電フィルム20A(および圧電フィルム20B)の電極に駆動信号を印加する。これにより圧電フィルム20A(および圧電フィルム20B)が伸縮する。
【0031】
図1および図2(B)に示すように、振動板40は、正面側に湾曲して突出する形状となるように、エキサイタフィルム30Aへ固定されている。この構成により、振動板40とエキサイタフィルム30Aとの間には、中空領域100が形成される。
【0032】
ただし、本実施形態において、振動板40の湾曲状態は、説明のために誇張して記載しており、実際には、振動板40の主面とエキサイタフィルム30Aの主面は、より平行に近く、中空領域100は、できるだけ少ないほうが望ましい。
【0033】
このように、振動板40は、平板面が湾曲した状態でエキサイタフィルム30Aに固定されるため、図2(B)の白抜き矢印F901のように、曲げ応力が加わった状態でエキサイタフィルム30Aに固定される。また、エキサイタフィルム30Aは、振動板40の背面に配置された部分において、図2(B)の白抜き矢印S901に示すように、主面における中央箇所から振動板40の短手方向の端部に引っ張られる状態となる。振動板40の正面に配置された部分においては、図2(B)の白抜き矢印S902に示すように、振動板40の短手方向の端部から、振動板40との固定箇所(エキサイタフィルム30Aの長手方向の端部)に引っ張られる状態となる。
【0034】
図6は、触覚提示装置10の動作説明図であり、図6(A)は、駆動信号により圧電フィルム20Aが縮んだタイミングでの状態を示す。図6(B)は、駆動信号が印加されていない、または駆動信号の振幅が0の状態を示す。図6(C)は、駆動信号により圧電フィルム20Aが伸びたタイミングでの状態を示す。
【0035】
駆動部81が、圧電フィルム20Aに駆動信号を印加し、圧電フィルム20Aの第一方向の電界を印加すると、図6(A)に示すように、圧電フィルム20Aは、背面側では振動板40の短手方向の端部から中央に向かって収縮し、回り込んだ正面側では、振動板40の短手方向の端部に向かって収縮する。
【0036】
エキサイタフィルム30Aは、振動板40の背面においては、図6(A)の矢印S911に示す圧電フィルム20Aの収縮にともなって、エキサイタフィルム30Aの背面側が中央方向に収縮する。このとき、エキサイタフィルム30Aは、主面に直交する方向のうち正面側にわずかに湾曲することになる。また、エキサイタフィルム30Aは、振動板40の正面においては、図6(A)の矢印S915に示す圧電フィルム20Aの収縮にともなって、エキサイタフィルム30Aの振動板40に装着されている側が端部方向に収縮する。
【0037】
したがって、振動板40は、短手方向の端部から中央方向に引っ張られる。これにより、振動板40は、図6(A)の矢印F911に示すように、前方へより突出するように湾曲する。エキサイタフィルム30Aおよび圧電フィルム20Aは、振動板の両主面に配置されているため、圧電フィルム20Aは、背面側だけに配置するよりも収縮量が増加し、より強く振動板40を引っ張ることができる。
【0038】
一方、駆動部81が、圧電フィルム20Aに駆動信号を印加し、上記第一方向とは逆の第二方向の電界を印加すると、図6(C)に示すように、圧電フィルム20Aは、背面側では振動板40の中央から短手方向の端部に向かって伸張し、回り込んだ正面側では、中央方向に向かって伸張する。
【0039】
エキサイタフィルム30Aは、振動板40の背面においては、図6(C)の矢印S912に示す圧電フィルム20Aの伸張にともなって、エキサイタフィルム30Aの背面側が端部方向に伸張する。このとき、エキサイタフィルム30Aは、主面に直交する方向のうち背面側にわずかに湾曲することになる。また、エキサイタフィルム30Aは、振動板40の正面においては、図6(C)の矢印S917に示す圧電フィルム20Aの伸張にともなって、中央方向に伸張する。
【0040】
したがって、振動板40は、中央方向から短手方向の端部に引っ張られる。これにより、振動板40は、図6(C)の矢印F912に示すように、前方への突出量が低下した湾曲状態となる。エキサイタフィルム30Aおよび圧電フィルム20Aは、振動板の両主面に配置されているため、圧電フィルム20Aは、背面側だけに配置するよりも伸張量が増加し、より強く振動板40を引っ張ることができる。
【0041】
したがって、振動板40は、駆動信号の振幅に応じて、図6(B)の状態を基準に、図6(A)の状態や図6(C)の状態に遷移して、正面方向および背面方向(振動板40主面に直交する方向)に沿って振動する。これにより、駆動信号に応じた振動が振動板40を介してタッチパネル50に伝達され、タッチパネル50をタッチしたユーザに伝達される。したがって、ユーザは、タッチパネル50のタッチセンサ80をタッチすると、振動がフィードバックされるため、キーを「押した」と感じることができる。
【0042】
そして、振動板40には、非動作状態で定常的な曲げ応力が与えられているため、圧電フィルム20Aおよびエキサイタフィルム30Aの伸張時に振動板40に与えられる力は、当該曲げ応力と同じ方向となる。したがって、触覚提示装置10は、振動板40を効率的に振動させることができ、圧電フィルムを用いた場合であってもある程度強い振動を伝えることができる。また、モータ等による振動に比べると、触覚提示装置10を薄くすることができる。
【0043】
特に、本実施形態のエキサイタフィルム30Aおよび圧電フィルム20Aは、振動板40の両主面に配置されている。そのため、圧電フィルム20Aは、背面側だけに配置するよりも伸張量が増加し、より強く振動板40を引っ張ることができ、強い振動を生じさせることができる。
【0044】
なお、中空領域100には、振動板の動きを阻害しない程度にシリコーンゲル等の柔らかい樹脂を充填してもよい。その結果、エキサイタフィルム30Aおよび振動板40が振動することにより生じる音を抑制することができる。
【0045】
次に、第2の実施形態に係る触覚提示装置について説明する。図7は、第2の実施形態に係る触覚提示装置10Aの側面図である。触覚提示装置10Aは、振動板40Aの短手方向の端部が角のない曲面形状になっている点において触覚提示装置10の振動板40と異なる。エキサイタフィルム30Aおよび圧電フィルム20Aは、振動板40Aの短手方向の端部の丸みに沿って背面側から正面側に回り込み、振動板40Aの正面において装着されている。その他の構成および機能は触覚提示装置10と同一である。
【0046】
この場合、短手方向の端部におけるエキサイタフィルム30Aおよび圧電フィルム20Aは、振動板の端部で角に引っかかることなく、スムーズに伸縮するため、伸縮量のロスを抑えることができる。
【0047】
次に、第3の実施形態に係る触覚提示装置について説明する。図8は、第3の実施形態に係る触覚提示装置10Aの外観斜視図である。図9(A)は、振動板40Bを固定する前の状態を示し、図9(B)は、振動板40Bをエキサイタフィルム30Aに接触させた状態を示す構造説明図であり、図9(C)は、エキサイタフィルム30Aおよび圧電フィルム20Aを正面に回り込ませて装着した状態を示す図である。
【0048】
第3の実施形態に係る触覚提示装置10Bは、第1の実施形態に示した触覚提示装置10に対して、振動板40Bが湾曲していない点で異なる。他の構成は、触覚提示装置10と同じである。
【0049】
振動板40Bは、第1の実施形態に示した振動板40と同じ材質であるが、図9(A)に示すように、エキサイタフィルム30A(およびエキサイタフィルム30B)に固定されていない状態では、平板面が湾曲した形状である。このような形状は、例えば、平坦な主面を有する振動板を熱処理等により屈曲させることで実現できる。
【0050】
振動板40Bは、図9(A)の白抜き矢印St902に示すように、両端に曲げ力を加えながら、図9(B)に示すように、湾曲した平板面が平坦となるようにフレーム70を介してエキサイタフィルム30Aに接触する。そして、図9(C)に示すように、エキサイタフィルム30Aは、当該振動板40Bの短手方向の両端を介して振動板40Bの正面に回り込んで、振動板40Bの正面に装着される。
【0051】
振動板40Bは、このような状態でエキサイタフィルム30Aに固定されることにより、第1の実施形態と同様に曲げ応力が発生した状態となる。また、図9(C)の太矢印S902に示すように、エキサイタフィルム30Aは、振動板40の背面側では、主面の中央位置から振動板40の両端およびフレーム70の位置に向かって引っ張られる。また、振動板40の正面側では、振動板40の両端およびフレーム70の位置から、振動板40との装着位置(エキサイタフィルム30Aの端部)端部に向かって引っ張られる。
【0052】
このような構成であっても、上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。さらに、本実施形態の構成を用いれば、振動板40Bの主面を平坦に固定することができる。したがって、振動板40Bに装着するタッチパネル50Bも平坦にすることができる。
【0053】
次に、図10(A)は、圧電フィルム20Aの変形例に係る圧電フィルム90Aの側面図である。図4に示した圧電フィルム20Aは、1つのベースフィルム200を電極201Aおよび電極201Bで挟む構造であったが、図10(A)に示す圧電フィルム90Aは、ベースフィルム200、電極201Aおよび電極201Bが複数積層されてなる。この例では、各ベースフィルム200を挟んで、交互に電極201Aと電極201Bとが配置されている。このように複数のベースフィルム200、電極201Aおよび電極201Bを積層することで、より伸縮性が向上することになり、強い振動を発生させることができる。
【0054】
一方、図10(B)は、変形例2に係る圧電フィルム90Bの側面図である。図10(B)に示す圧電フィルム90Bは、1つのベースフィルム200を電極201Aおよび電極201Bで挟み、かつこれらベースフィルム200、電極201Aおよび電極201Bを折り曲げて重ねることにより、積層構造を実現するものである。この場合も、より伸縮性が向上することになり、強い振動を発生させることができる。ただし、この場合、電極を折り曲げる箇所においては、導電性ペースト等を塗布して、電気的接続を補強することが好ましい。
【0055】
なお、本発明において「エキサイタフィルム」は必須の構成ではなく、圧電フィルムを振動板に直接貼り付けるものでもよい。圧電フィルムを直接貼り付ける場合、エキサイタフィルムを介さないために、圧電フィルムの動きを振動板に効率よく伝えることができる。
【0056】
なお、本発明における「電圧を加えることで面方向に変形するフィルム」は、圧電フィルムに限るものではない。「電圧を加えることで面方向に変形するフィルム」は、例えば電歪フィルム、エレクトレットフィルム、コンポジットフィルム、または電気活性フィルム等がある。
【0057】
電気活性フィルムとは、電気的駆動によって応力を発生するフィルム部材、または電気的駆動によって変形して変位を発生するフィルム部材である。具体的には、電歪フィルム、コンポジット材料(圧電セラミックスを樹脂モールドした材料)、電気駆動型エラストマー、または液晶エラストマー等がある。
【0058】
また、「電圧を加えることで面方向に変形するフィルム」は、圧電セラミックスと、複数のエキサイタフィルムと、を用いることでも実現することができる。この場合、複数のエキサイタフィルムは、それぞれ一方の端部が圧電セラミックスに接続され、他方の端部が振動板に接続される。
【符号の説明】
【0059】
10…触覚提示装置
20A,20B…圧電フィルム
30A,30B…エキサイタフィルム
40,40A,40B…振動板
50,50B…タッチパネル
60…接着層
70…フレーム
80…タッチセンサ
81…駆動部
200…ベースフィルム
201A,201B…電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10