(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0009】
本開示の結晶成長装置は、ガス導入口とガス排気口とを有するチャンバと、該ガス排気口に接続された排気ポンプと、該ガス排気口と該排気ポンプとの間に配置され、該ガス排気口を通過したガスの露点を測定する露点計と、を備える。
【0010】
通常、結晶成長装置には真空計が付属されており、結晶成長中の真空度が管理されている。また結晶成長は高純度アルゴン(Ar)ガス等のガスフロー下で行われる。そのため従来、成長中の雰囲気からの不純物の混入は注目されていなかった。しかし本発明者の研究によれば、成長中の単結晶に酸素が取り込まれ、転位および積層欠陥の原因となっている。すなわち酸素量が多いと、二次元核成長が発生しやすくなり、転位および積層欠陥の増殖につながる。このとき単結晶に取り込まれる酸素の一部は、成長中の雰囲気に含まれる極微量な水分に由来している。こうした水分は真空計では把握できない。そこで上記のように結晶成長装置に露点計を付属させ、チャンバ内の露点管理を行うことにより、単結晶に取り込まれる酸素の量を制御できる。単結晶に取り込まれる酸素を低減することにより、二次元核成長の発生を抑制できる。これにより、転位および積層欠陥が低減された単結晶を成長させることができる。
【0011】
ここで本開示のチャンバは、溶接部、および、少なくとも該溶接部を含む部分を水冷できるように構成されている水冷部を含むものである。
【0012】
〔1〕すなわち本開示の結晶成長装置は、ガス導入口、ガス排気口、溶接部、および、少なくとも該溶接部を含む部分を水冷できるように構成されている水冷部を含む、チャンバと、該ガス排気口に接続されている排気ポンプと、該ガス排気口と該排気ポンプとの間に配置されており、かつ該ガス排気口を通過したガスの露点を測定できるように構成されている露点計と、を備える。
【0013】
炭化珪素の結晶成長は、非常に高い温度で行われる。そのため、チャンバを部分的あるいは全体的に水冷する必要が生じる。水冷されている部分に溶接部があると、該溶接部からチャンバ内に、水冷用の水が染み入る可能性がある。前述のように、炭化珪素の結晶成長は高温で行われるため、溶接部にはヒートサイクルが加わることになる。このヒートサイクルにより、溶接部に極微小なピンホールが発生する可能性がある。真空計では、極微小なピンホールの存在を検出することも困難である。上記のように露点計を備える、本開示の結晶成長装置であれば、極微小なピンホールの発生による水分値の上昇も検出することができる。
【0014】
〔2〕チャンバは、光が透過できるように構成されている窓部をさらに含み、該窓部は、溶接部によって水冷部に接合されていてもよい。かかる構成によれば、たとえば、窓部を透過してきた光を放射温度計で受光することにより、チャンバ内の温度を測定できる。窓部を水冷部に接合している溶接部の劣化は、露点計により検出可能である。
【0015】
〔3〕本開示の炭化珪素単結晶の製造方法は、ガス導入口、ガス排気口、溶接部、および、少なくとも該溶接部を含む部分を水冷できるように構成されている水冷部を含む、チャンバと、該チャンバ内に配置された成長容器と、該成長容器内に配置された原料と、該成長容器内において該原料と対面して配置された種結晶と、を準備する工程と、該原料を昇華させることにより、該種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程と、を備える。成長させる工程において、ガス排気口を通過したガスの露点を−40℃以下に維持する。
【0016】
上記の製造方法では、昇華法によって炭化珪素単結晶を成長させる。昇華法は、昇華再結晶法、改良レーリー法等とも呼ばれている。上記のように、ガス排気口を通過したガスの露点を−40℃以下に維持することにより、成長容器内の雰囲気の露点を−40℃以下に維持することができる。このように成長容器内の水分を厳密に管理することにより、単結晶に取り込まれる酸素を低減できる。単結晶に取り込まれる酸素を低減することにより、二次元核成長の発生を抑制できる。これにより炭化珪素単結晶において、転位および積層欠陥を低減できる。
【0017】
露点上昇の原因となる水分は、チャンバ内に配置される部材が大気に暴露された際に付着した水分に由来すると考えられる。よって−40℃以下の露点を実現するためには、たとえばチャンバ内に配置される部材を低露点環境で所定時間保管するか、あるいは成長前に部材を加熱乾燥する等して、予め部材に付着した水分を十分に低減しておくことが望まれる。またチャンバの溶接部にピンホールがないことが必要である。
【0018】
〔4〕成長させる工程において、ガス排気口を通過したガスの露点を−50℃以下に維持することが好ましい。
【0019】
〔5〕成長させる工程において、ガス排気口を通過したガスの露点を−60℃以下に維持することが好ましい。
【0020】
〔6〕成長させる工程において、ガス排気口を通過したガスの露点を−80℃以下に維持することが好ましい。
【0021】
〔7〕本開示の炭化珪素単結晶基板は、直径が100mm以上であり、酸素濃度が1×10
17cm
-3以下であり、転位密度が2×10
4cm
-2以下であり、積層欠陥の面積比率が2.0%以下である。
【0022】
結晶中の酸素濃度が1×10
17cm
-3以下であることは、その成長過程において二次元核成長が抑制されていたことを示している。酸素濃度が1×10
17cm
-3以下である炭化珪素単結晶基板では、2×10
4cm
-2以下の転位密度と、2.0%以下の積層欠陥の面積比率とを実現できる。ここで1×10
17cm
-3以下の酸素濃度は、たとえば露点計を用いて、結晶成長中に厳密な水分管理を行うことによって実現できる。基板中の酸素濃度は、たとえばSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)によって測定できる。SIMSの一次イオンにはセシウム(Cs)イオンを使用するとよい。
【0023】
上記の炭化珪素単結晶基板では、転位密度が2×10
4cm
-2以下である。転位密度は次のようにして測定できる。先ず、たとえば水酸化カリウム(KOH)融液等を用いて炭化珪素単結晶基板をエッチングする。このときKOH融液の温度は、たとえば500〜530℃程度、エッチング時間は、たとえば5〜10分程度とするとよい。次いで、炭化珪素単結晶基板の主表面を、光学顕微鏡等を用いて観察し、エッチピットを計数する。エッチピットの個数を炭化珪素単結晶基板の主表面の面積で除することにより、転位密度を算出できる。
【0024】
上記の炭化珪素単結晶基板では、積層欠陥の面積比率が2.0%以下である。積層欠陥の面積比率は次のようにして測定できる。炭化珪素単結晶基板の主表面が(0001)面でない場合には、まず主表面に(0001)面が露出するように、主表面を研磨する。次いでPL(Photoluminescence)マッピングもしくはPLイメージングによって、主表面において積層欠陥を視覚化する。励起光源には、たとえばYAGレーザの第4高調波(266nm)等を用いることができる。測定環境は室温でよい。積層欠陥が存在する領域では、積層欠陥が存在しない領域と比較してバンド端発光が弱くなる。この性質を利用して積層欠陥を視覚化できる。こうして積層欠陥を視覚化し、積層欠陥が発生している領域の面積を測定する。さらに積層欠陥が発生している領域の面積の総和を主表面の面積で除することにより、積層欠陥の面積比率を算出できる。
【0025】
〔8〕炭化珪素単結晶基板の直径は150mm以上でもよい。
〔9〕炭化珪素単結晶基板の直径は200mm以上でもよい。
【0026】
〔10〕本開示の炭化珪素エピタキシャル基板は、上記〔7〕〜〔9〕のいずれかに記載した炭化珪素単結晶基板と、該炭化珪素単結晶基板上にあり、酸素濃度が1×10
17cm
-3以下であるエピタキシャル層と、を備える。
【0027】
酸素濃度が1×10
17cm
-3以下であることは、エピタキシャル成長の際に二次元核成長が抑制されていたことを示している。よって上記のエピタキシャル層では、炭化珪素単結晶基板と同様に転位および積層欠陥が低減され得る。
【0028】
上記によれば、転位および積層欠陥が低減された、炭化珪素単結晶基板および炭化珪素エピタキシャル基板が提供される。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。本明細書の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。ここで結晶学上の指数が負であることは、通常、数字の上に”−”(バー)を付すことによって表現されるが、本明細書では数字の前に負の符号を付すことによって結晶学上の負の指数を表現している。
【0030】
〔第1実施形態:炭化珪素単結晶基板〕
第1実施形態は炭化珪素単結晶基板である。
図1は本実施形態に係る炭化珪素単結晶基板の一例を示す概略平面図である。炭化珪素単結晶基板100は、直径が100mm以上の基板である。炭化珪素単結晶基板100の直径は150mm以上であってもよいし、200mm以上であってもよい。直径が大きくなるほど、転位および積層欠陥が発生しやすくなることも考えられる。そのため直径が大きくなるほど、本実施形態による転位および積層欠陥の低減効果が顕著になることが期待される。直径の上限は特に制限されない。直径の上限は、たとえば250mmでもよい。炭化珪素単結晶基板100の厚さも特に制限されない。炭化珪素単結晶基板100の厚さは、たとえば100μm以上10mm以下でもよい。
【0031】
炭化珪素単結晶基板100のポリタイプは、4H−SiCが望ましい。電子移動度、絶縁破壊電界強度等においてその他のポリタイプよりも優れているためである。炭化珪素単結晶基板100は、炭化珪素単結晶のインゴットをスライスすることにより得られる。炭化珪素単結晶基板100の主表面101は、(0001)面または(000−1)面であってもよいし、あるいは(0001)面または(000−1)面から所定の角度傾斜した面であってもよい。主表面101を(0001)面または(000−1)面から傾斜した面とする場合、<11−20>方向に傾斜させるとよい。(0001)面または(000−1)面からの傾斜角はオフ角とも呼ばれる。オフ角は、たとえば1°以上8°以下であってもよい。オフ角の上限は7°でもよいし、6°でもよいし、5°でもよい。オフ角の下限は2°でもよいし、3°でもよい。
【0032】
本実施形態に係る炭化珪素単結晶基板100では、酸素濃度が1×10
17cm
-3以下である。酸素濃度が1×10
17cm
-3以下となるように炭化珪素単結晶を成長させることにより、二次元核成長の発生が抑制され、その結果、転位および積層欠陥が低減されると考えられる。
図2は、本発明者が昇華法によって製造した炭化珪素単結晶基板100において、転位密度および積層欠陥の面積比率と、酸素濃度との関係を調査した結果をプロットしたグラフである。
図2中の各点の具体的な数値を表1に示す。
【0034】
図2および後述する
図7では「10のべき乗」を「E+00」で表記している。たとえば
図2および
図7において「E+17」は「10
17」を示している。
図2中、横軸は酸素濃度を示し、右側の縦軸は転位密度を示し、左側の縦軸は積層欠陥の面積比率を示している。
【0035】
図2に示されるように、酸素濃度が低くなるにつれて、転位密度および積層欠陥の面積比率は減少する。転位密度および積層欠陥の面積比率は、いずれも酸素濃度が1×10
19cm
-3から1×10
17cm
-3まで減少すると急激に減少し、その後は低い値で安定している。
図2から分かるように、酸素濃度を1×10
17cm
-3以下に制御することにより、転位密度が2×10
4cm
-2以下でかつ積層欠陥の面積比率が2.0%以下の炭化珪素単結晶基板100を実現できる。酸素濃度は低いほど好ましい。酸素濃度は、好ましくは1×10
16cm
-3以下であり、より好ましくは1×10
15cm
-3以下である。酸素濃度を低くすることによって、転位密度を1×10
4cm
-2以下にすることもできる。また酸素濃度を低くすることによって、積層欠陥の面積比率を1%以下にすることもできる。
【0036】
〔炭化珪素エピタキシャル基板〕
本実施形態によれば炭化珪素エピタキシャル基板も提供される。
図8は、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の構成の一例を示す概略断面図である。
図8に示されるように、炭化珪素エピタキシャル基板1000は、炭化珪素単結晶基板100と、炭化珪素単結晶基板100上にあるエピタキシャル層1001と、を備える。前述のように炭化珪素単結晶基板100は、直径が100mm以上であり、酸素濃度が1×10
17cm
-3以下であり、転位密度が2×10
4cm
-2以下であり、積層欠陥の面積比率が2.0%以下である。
【0037】
エピタキシャル層1001は、炭化珪素単結晶基板100の主表面101上にエピタキシャル成長させた炭化珪素単結晶層である。エピタキシャル層1001には、炭化珪素単結晶基板100の性質が引き継がれている。しかしエピタキシャル成長においても、酸素量が多いと、転位および積層欠陥の増殖につながる二次元核成長が発生し得る。よって炭化珪素単結晶基板100と同様に、転位および積層欠陥が低減されたエピタキシャル層1001であるためには、エピタキシャル層1001の酸素濃度も1×10
17cm
-3以下であることを要する。エピタキシャル層1001の酸素濃度も炭化珪素単結晶基板100と同様に、SIMSによって測定できる。エピタキシャル層1001の酸素濃度は低いほど好ましい。転位および積層欠陥を低減できるためである。エピタキシャル層1001の酸素濃度は、好ましくは1×10
16cm
-3以下であり、より好ましくは1×10
15cm
-3以下である。
【0038】
エピタキシャル層1001は、ドーパントとして、たとえば窒素を含有していてもよい。エピタキシャル層1001の窒素濃度は、たとえば1×10
14cm
-3以上1×10
16cm
-3以下である。エピタキシャル層1001の厚さは、たとえば1μm以上である。エピタキシャル層1001の厚さは、10μm以上であってもよいし、20μm以上であってもよい。またエピタキシャル層1001の厚さは、たとえば200μm以下である。エピタキシャル層の厚さは、150μm以下であってもよいし、100μm以下であってもよい。
【0039】
〔第2実施形態:結晶成長装置〕
第2実施形態は結晶成長装置である。本実施形態に係る結晶成長装置には、昇華法により単結晶を成長させるための単結晶成長装置の他、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相成長法によって基板上にエピタキシャル層を成長させるためのエピタキシャル成長装置等も含まれる。
【0040】
〔単結晶成長装置〕
図3は、本実施形態に係る単結晶成長装置の構成の一例を示す概略断面図である。
図3中の矢印91はガスの流路を示している。
図3に示されるように結晶成長装置50は、ガス導入口21とガス排気口22とを有するチャンバ20を備える。チャンバ20は、たとえばステンレス製等でよい。ガス排気口22と排気ポンプ30とは排気配管32によって接続されている。排気配管32には露点計40が設置されている。露点計40は、排気配管32においてガス排気口22と排気ポンプ30との間に配置されている。露点計40では、ガス排気口22を通過したガスの露点が測定される。露点計40で測定される露点は、チャンバ20内の露点とみなすことができる。露点計40の劣化を抑制するために、ガス排気口22と露点計40との間にフィルタ(図示せず)が配置されていてもよい。
【0041】
露点計40は、0℃〜−80℃の範囲の露点を測定できるものであればよい。たとえばミッシェル社製の「EAX−TX−100」等を用いることができる。あるいは、これと同程度の精度、測定範囲を有する露点計を用いてもよい。
【0042】
チャンバ20内には、成長容器10、抵抗ヒータ2および断熱材15が配置されている。成長容器10、抵抗ヒータ2および断熱材15は、たとえば黒鉛製である。成長容器10は、台座3と収容部4とから構成されている。台座3は、種結晶11を保持できるように構成されている。種結晶11は、たとえばポリタイプが4H−SiCである炭化珪素単結晶基板である。台座3は、収容部4の蓋としても機能する。収容部4は、たとえば有底筒状である。収容部4は原料12を収容できる。原料12は、たとえば炭化珪素多結晶の粉末である。成長容器10内において原料12と種結晶11とは対面している。
【0043】
結晶成長装置50では、抵抗ヒータ2によって成長容器10内に所定の温度勾配が形成される。成長容器10の各部の温度は、放射温度計(図示せず)によって把握できる。成長容器10の各温度測定部分からの放射光が透過できるように、抵抗ヒータ2および断熱材15には、孔が設けられている。放射温度計は、チャンバ20に設けられた窓部23(ビューポート)を通じて、成長容器10からの放射光を受光し、温度を測定する。後述する
図9および
図10に示されるように、窓部23は、たとえば石英製の窓材202を含む。断熱材15に孔が設けられているため、窓部23周辺にはヒートサイクルが加わることになる。そのため窓部23周辺の溶接部310が劣化し、溶接部310から外気および水分がチャンバ20内に侵入することも考えられる。露点計40によれば、こうした異常も検出できる。
【0044】
図9は、
図3の領域IX周辺の構成の一例を示す概略断面図である。チャンバ20は、溶接部310を含む。またチャンバ20は、溶接部310を含む部分を水冷できるように構成されている水冷部320を含む。すなわち本開示のチャンバ20は、ガス導入口21、ガス排気口22、溶接部310、および、少なくとも溶接部310を含む部分を水冷できるように構成されている水冷部320を含む。
【0045】
水冷部320は、外壁321、内壁322および水流路323から構成されている。水流路323は、外壁321と内壁322との間に位置している。水流路323には、水を流通させることができる。
図9には、窓部23の周辺のみが示されているが、水冷部320は、図示されていないその他の部分にまで延びていてもよい。すなわちチャンバ20は、部分的あるいは全体的に水冷できるように構成されている。
【0046】
窓部23は、筒部201と、窓材202と、フランジ203と、ネジ204と、Oリング205(ガスケット)とを含む。筒部201は、たとえばステンレス製等でよい。筒部201は、溶接部310によって水冷部320に接合されている。溶接部310は、外壁321と筒部201とが接する部分、および内壁322と筒部201とが接する部分のそれぞれに設けられている。窓部23と水冷部320との境界に位置する溶接部310は、激しいヒートサイクルに曝されることになる。これにより、たとえば内壁322側の溶接部310に極微小なピンホールが発生すると、チャンバ20内に水分が染み入り、結晶品質を低下させる。
【0047】
窓材202およびフランジ203は、ネジ204を締め付けることにより、筒部201と一体化している。窓材202は、たとえば石英製の板等でよい。フランジ203は、たとえばステンレス製等でよい。窓材202と筒部201との間には、Oリング205が配置されている。ネジ204を締め付けることにより、Oリング205が窓材202および筒部201に圧縮され、窓部23が密閉される。Oリング205は、たとえば銅等の金属製であってもよいし、所定の耐熱性を有するゴム製等であってもよい。
【0048】
図10は、窓部の構成の一例を示す概略平面図である。窓材202およびフランジ203の平面形状は、たとえば円形でよい。フランジ203の中央からは、窓材202が露出している。加熱された成長容器10が発する光は、窓材202を透過してチャンバ20の外部に放射される。すなわち本開示のチャンバ20は、光が透過できるように構成されている窓部23をさらに含み、窓部23は、溶接部310によって水冷部320に接合されている。この光を、放射温度計で受光することにより、成長容器10の各部の温度を測定することができる。
【0049】
図3に示されるガス導入口21からは、Arガス、ヘリウム(He)ガス、窒素(N
2)ガス等の不活性ガスが導入される。当然のことながら、導入されるガスの露点も−40℃以下であることが望ましい。導入された不活性ガスは排気ポンプ30によって外部に排気される。導入されるガスの流量と、排気ポンプ30の排気能力によって、成長容器10内の圧力を調整できる。
【0050】
成長容器10内の温度および圧力が所定の条件になると、原料12が昇華し、種結晶11上において再析出する。これにより種結晶11上において炭化珪素単結晶13が成長する。結晶成長装置50では、露点計40によってガス排気口22を通過したガスの露点を測定、監視できる。これにより微量水分に由来する酸素の混入を抑制しながら、炭化珪素単結晶13を成長させることができる。炭化珪素単結晶13において酸素の取り込み量を抑制することにより、二次元核成長の発生を抑制できる。その結果、炭化珪素単結晶13では転位および積層欠陥が低減される。
【0051】
〔エピタキシャル成長装置〕
図4は、本実施形態に係るエピタキシャル成長装置の構成の一例を示す概略断面図である。
図4および
図5に示される結晶成長装置200は、横型ホットウォールCVD装置である。
図4に示されるように結晶成長装置200は、発熱体152、断熱材153、石英管154および誘導加熱コイル155を備える。発熱体152、断熱材153および石英管154は、チャンバ120を構成している。
【0052】
図4に示されるように、発熱体152は2つ設けられている。各発熱体152は、曲面部157および平坦部156を含む半円筒状の中空構造を有している。2つの平坦部156は、互いに対向するように配置されている。2つの平坦部156に取り囲まれた空間が反応室150となっている。一方の平坦部156には、凹部が設けられている。凹部には基板ホルダ160が設けられている。基板ホルダ160は、炭化珪素単結晶基板100を保持できるように構成されている。また基板ホルダ160は、自転できるようになっている。前述したとおり、炭化珪素単結晶基板100は、直径が100mm以上であり、酸素濃度が1×10
17cm
-3以下であり、転位密度が2×10
4cm
-2以下であり、積層欠陥の面積比率が2.0%以下である。
【0053】
断熱材153は、発熱体152の外周部を取り囲むように配置されている。反応室150は、断熱材153によって外部から断熱されている。石英管154は、断熱材153の外周部を取り囲むように配置されている。誘導加熱コイル155は、石英管154の外周部に沿って巻回されている。誘導加熱コイル155に交流電流を供給することにより、発熱体152が誘導加熱される。これにより反応室150内の温度が制御できる。エピタキシャル層1001を成長させる際、反応室150内の温度は、たとえば1500〜1700℃程度である。
【0054】
図5は、
図4のV−V線における概略断面図である。
図5中の矢印92はガスの流路を示している。チャンバ120は、ガス導入口121とガス排気口122とを有している。ガス排気口122と排気ポンプ130とは、排気配管132によって接続されている。露点計140は、排気配管132においてガス排気口122と排気ポンプ130との間に配置されている。露点計140では、ガス排気口122を通過したガスの露点が測定される。露点計140で測定される露点は、チャンバ120内の露点とみなすことができる。
【0055】
チャンバ120内には、導入配管131から原料ガスおよびキャリアガスが導入される。これらのガスの露点も−40℃以下であることが望ましい。原料ガスは、たとえばシラン(SiH
4)ガス、プロパン(C
3H
8)ガス等を含む。原料ガスは、ドーパントガスとして、たとえばアンモニア(NH
3)ガス等を含んでいてもよい。キャリアガスは、たとえば水素(H
2)ガス等でもよい。原料ガスのうちアンモニアガスは、反応室150に供給される前に、予め熱分解させておくことが好ましい。エピタキシャル層1001においてキャリア濃度の面内均一性が向上するからである。たとえば予備加熱機構158によってアンモニアガスを熱分解することができる。予備加熱機構158は、たとえば外部から加熱される細長い管、あるいは内部に電熱コイルが設けられた部屋等でよい。予備加熱機構158の内壁面の温度は、たとえば1300〜1600℃程度でよい。
【0056】
反応室150内の圧力は、原料ガスおよびキャリアガスの流量と、排気ポンプ130の排気能力によって調整される。エピタキシャル層を成長させる際、反応室150内の圧力は、たとえば5〜20kPa程度である。
【0057】
結晶成長装置200では、チャンバ120内の露点を測定、監視しながら、エピタキシャル層1001を成長させることができる。よってエピタキシャル層1001に取り込まれる酸素の量を制御できる。酸素濃度が1×10
17cm
-3以下となるようにエピタキシャル成長を行うことにより、二次元核成長の発生を抑制できる。これによりエピタキシャル層1001においても転位および積層欠陥を低減できる。
【0058】
以上のようにして、炭化珪素単結晶基板100と、炭化珪素単結晶基板100上にあり、かつ酸素濃度が1×10
17cm
-3以下であるエピタキシャル層1001と、を備える炭化珪素エピタキシャル基板1000を製造できる。
【0059】
〔第3実施形態:炭化珪素単結晶の製造方法〕
第3実施形態は、炭化珪素単結晶の製造方法である。
図6は当該製造方法の概略を示すフローチャートである。
図6に示されるように、当該製造方法は、準備工程(S10)と結晶成長工程(S20)とを備える。以下、各工程について説明する。
【0060】
〔準備工程(S10)〕
準備工程(S10)では、たとえば、まず
図3に示される結晶成長装置50が準備される。すなわちガス導入口21、ガス排気口22、溶接部310、および、少なくとも溶接部310を含む部分を水冷できるように構成されている水冷部320を含む、チャンバ20と、ガス排気口22に接続された排気ポンプ30と、ガス排気口22と排気ポンプ30との間に配置された露点計40とが準備される。
【0061】
また準備工程(S10)では、成長容器10が準備される。ここでは成長容器10を、低露点環境に所定時間保管するか、あるいは加熱乾燥する等して、予め付着した水分を十分に低減しておくことが望ましい。ここで低露点環境とは、たとえば露点が−40℃以下の環境である。所定時間は、たとえば1〜48時間程度である。
【0062】
次いで成長容器10内に、種結晶11および原料12が配置される。種結晶11および原料12も低露点環境に所定時間保管する等して、予め水分を低減しておくことが望ましい。成長容器10内において、種結晶11は、原料12に対面するように配置される。たとえば接着剤を用いて、種結晶11を台座3に接着すればよい。この場合、接着後に、接着剤を加熱して水分を低減する等の態様が望まれる。種結晶11の直径は、目的とする炭化珪素単結晶13の直径に応じて選択される。種結晶11の直径は、たとえば100mm以上である。種結晶11および原料12が成長容器10内に配置された後、成長容器10はチャンバ20内に配置される。
【0063】
〔結晶成長工程(S20)〕
結晶成長工程(S20)では、成長容器10内において原料12を昇華させることにより、種結晶11上に炭化珪素単結晶13を成長させる。
【0064】
成長容器10は抵抗ヒータ2によって加熱される。このとき種結晶11の周辺の温度は、たとえば2000〜2300℃程度に調整される。また原料12の周辺の温度は、たとえば2300〜2500℃程度に調整される。
【0065】
ガス導入口21からArガス等の不活性ガスが導入される。導入されたガスは、排気ポンプ30によってガス排気口22から排気される。導入されるガスの流量と、排気ポンプ30の排気能力によって、チャンバ20内の圧力が調整される。ガス排気口22を通過したガスの露点は、露点計40によって監視される。本実施形態では、原料12の昇華が開始される圧力よりも高い圧力を維持した状態で、ガスをフローしながら、ガス排気口22を通過したガスの露点が−40℃以下になるまで待機する。ガス排気口22を通過したガスの露点が−40℃以下になった後、チャンバ20内の圧力を、たとえば5kPa以下まで減圧する。これにより原料12の昇華が開始される。昇華した原料は、種結晶11上に再析出し、炭化珪素単結晶13となって成長する。
【0066】
本実施形態では、結晶成長中、ガス排気口22を通過したガスの露点が常時−40℃以下に維持される。
図7は、本発明者が昇華法によって成長させた炭化珪素単結晶13における酸素濃度と、ガス排気口22を通過したガスの露点との関係を調査した結果をプロットしたグラフである。
図7中の各点の具体的な数値を表2に示す。
【0068】
図7中、横軸は結晶成長中のチャンバ20内の露点、すなわちガス排気口22を通過したガスの露点を示し、縦軸は成長後の炭化珪素単結晶13の酸素濃度を示している。
図7に示されるように、露点が低くなるにつれて、酸素濃度は低下する。特に露点が−40℃以下になると、酸素濃度は急激に低下し、1×10
17cm
-3以下となっている。前述したように酸素濃度を1×10
17cm
-3以下とすることにより、転位および積層欠陥の増殖につながる二次元核成長の発生を抑制できる。
図7および表2に示されるように露点が低いほど、酸素濃度を低減できる。したがって結晶成長工程(S20)では、ガス排気口22を通過したガスの露点を−50℃以下に維持することが好ましく、−60℃以下に維持することがより好ましく、−80℃以下に維持することが特に好ましいといえる。
【0069】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
結晶成長装置(50)は、ガス導入口(21)、ガス排気口(22)、溶接部、および、少なくとも該溶接部を含む部分を水冷できるように構成されている水冷部を含む、チャンバ(20)と、ガス排気口(22)に接続されている排気ポンプ(30)と、ガス排気口(22)と排気ポンプ(30)との間に配置されており、かつガス排気口(22)を通過したガスの露点を測定できるように構成されている露点計(40)と、を備える。