特許第5975212号(P5975212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975212
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】パワーユニットのマウント装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 5/12 20060101AFI20160809BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   B60K5/12 E
   F16F15/08 K
   F16F15/08 W
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-209375(P2012-209375)
(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公開番号】特開2014-61843(P2014-61843A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】秋本 康雄
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−249032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00 − 6/12
B60K 7/00 − 8/00
F16F 15/00 − 15/36
B62D 17/00 − 25/08
B62D 25/14 − 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室の前方または後方の領域に収容されるパワーユニットの車幅方向両端部を車体側に弾性支持するパワーユニットのマウント装置であって、
前記パワーユニットの車幅方向端部に設置されて、同端部から車幅方向外側へ突き出るピン部と、前記パワーユニットの車幅方向端部と隣合う位置で車体側に設置されて、前記ピン部を弾性支持するインシュレータとを備え、
前記インシュレータには、車幅方向に貫通するよう形成されて前記ピン部が圧入される筒部が設けられ、
前記ピン部の先端部には、当該ピン部が前記筒部内に圧入された状態で、当該筒部より車幅方向外側に位置するように爪形状部が形成され、
前記爪形状部は、前記ピン部の径方向断面の範囲内で、先端部を車体前後方向へ突き出させてなり、前記車両の衝突時に、前記ピン部と前記インシュレータとが離間する方向へ相対変位したとき、前記筒部の車幅方向外側の端縁部と係止するように構成されている
ことを特徴とするパワーユニットのマウント装置。
【請求項2】
前記爪形状部は、
前記ピン部の先端部において、前記ピン部の径方向断面の範囲内で、前記車体前後方向へ突き出るように形成される突起部と、
同突起部の基部の車幅方向内側の部位に形成され、前記突起部に向かうにしたがって次第に深さが深くなる凹部とを有して構成される
ことを特徴とする請求項1に記載のパワーユニットのマウント装置。
【請求項3】
前記ピン部の先端部外形は、先端に向かうにしたがい径が小さくなるテーパ形状に形成され、
前記突起部の外面および前記凹部の内面は、前記テーパ形状と連続するように形成されることを特徴とする請求項2に記載のパワーユニットのマウント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワーユニットを弾性支持するマウント装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車など車両の多くは、車両の車室前方の領域にエンジンルームを形成し、同エンジンルーム内に横置きで、パワーユニットを収容させている。
パワーユニットの多くは、例えばエンジンとトランスミッションとなどを車幅方向に直結(連結)した構造物で構成されるため、パワーユニットのマウントには、エンジンやトランスミッションからの振動が車体へ伝わるのを抑える構造が求められる。そのため、インシュレータを用いたマウント構造で、エンジンルームの車幅方向側部に配置されるエンジン前部やトランスミッション後部を、エンジンルームを構成する車体構成部材、例えば車体の前後方向に沿って延びるサイドフレーム部材などに弾性支持させて、エンジンやトランスミッションからの振動が車体へ伝わるのを抑えている。
【0003】
こうしたインシュレータを用いたマウント装置の多くは、エンジン前部やトランスミッション後部といったパワーユニットの車幅方向両端部に、車幅方向外方へ突き出るピン部を据付け、エンジンルームの車幅方向両側のサイドフレーム部材にインシュレータを据付け、同インシュレータに形成してある車幅方向に貫通する筒部内に、上記ピン部を圧入させて、パワーユニット端を支持させる構造が用いられる(特許文献1,2を参照)。つまり、インシュレータで、ピン部を伝わる振動を吸収して、パワーユニットからの振動が車体側(サイドフレーム部材)へ伝わるのを抑えた状態で、パワーユニットをエンジンルーム内に支持させている。
【0004】
ところで、車幅方向両端部で支持されるパワーユニットは、オフセット前面衝突時(オフセット衝突時)、車体の車幅方向片側から衝突荷重が加わると、押されて車体の後方側(車室側)に回転しながら変位する。つまり、オフセット前面衝突では、パワーユニットの車幅方向片側が後方に押されるため、非衝突側のマウント部分を中心に回転しながら、後方の車室側へ向かって回転変位される。そして、パワーユニットの衝突側の端部とインシュレータとが互いに離れる方向に相対変位するため、パワーユニットの衝突側のピン部も、このパワーユニットの回転方向の動きに追従して、インシュレータの筒部から抜ける方向へ変位する。
【0005】
このため、圧入に依存して、ピン部と筒部とを固定しただけでは、オフセット前面衝突時、衝突早期の段階でピン部が筒部内から抜け出してしまうおそれがある。ピン部が抜け出ると、パワーユニットの端部がエンジンルーム(車体)から脱落することになるが、衝突早期の段階でパワーユニットが脱落してしまうと、パワーユニットに作用する衝突荷重をサイドフレーム部材で吸収できなくなるため、荷重をコントロールできず、パワーユニットが室内側へ干渉してしまう可能性が大きくなる。
【0006】
そこで、この対策として、従来、特許文献1、2にも開示されているようにピン部材の先端部に抜止具、例えばピン部材の外径より大きい外径のボルト部材やナット部材を組み付けて、同部品を抜け止めとして、ピン部材がインシュレータの筒部内から抜け出るのを防止している。これにより、パワーユニットが衝突早期に脱落しないようコントロールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平 3−182837号公報
【特許文献2】特開平10−299833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、別途、ボルト部材やナット部材を抜止具として用いる構造は、ボルト部材やナット部材を別途、用意するだけでなく、ピン部を筒部内に挿通させた後にナット部材やボルト部材をピン部にねじ込む作業が必要になるなど、ピン部材の抜けを抑える体制になるまでに、多くの工数を要する。このため、かなりコスト的な負担が強いられる難点があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、簡単、かつコスト的に安価な構造で、車両の衝突時、ピン部が筒部内から衝突早期に抜け出るのを抑えられるようにしたパワーユニットのマウント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、インシュレータの筒部に圧入されるピン部の先端部に、当該ピン部が筒部内に圧入された状態で、筒部より車幅方向外側に位置するように爪形状部を形成し、同爪形状部を、ピン部の径方向断面の範囲内で、先端部を車体前後方向へ突き出させてなり、車両の衝突時に、ピン部とインシュレータとが離間する方向へ相対変位したとき、筒部の車幅方向外側の端縁部と係止するように構成したことにある。
同構成によると、車両の衝突時、加わる荷重により、ピン部とインシュレータとが離間する方向へ相対変位すると、ピン部に形成されている爪形状部が筒部の車幅方向外側の端縁部と係止し、ピン部が筒部から早期に抜けるのを抑制する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、簡単な構造ですむよう、爪形状部は、ピン部の先端部において、ピン部の径方向断面の範囲内で、車体前後方向へ突き出るように形成される突起部と、同突起部の基部の車幅方向内側の部位に形成され、突起部に向かうにしたがって次第に深さが深くなる凹部とを有する構成を採用した。
【0012】
請求項3に記載の発明は、ピン部の筒部への挿入性が損なわれないよう、ピン部の先端部外形を、先端に向かうにしたがい径が小さくなるテーパ形状に形成し、突起部の外面および凹部の内面は、テーパ形状と連続するように形成するものとした。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、車両の衝突時、ピン部とインシュレータとが離間する方向へ相対変位すると、ピン部の爪形状部が筒部の車幅方向外側の端縁部と係止し、ピン部が筒部から早期に抜けるのが抑えられる。
したがって、別途、部品を用意したり、同部品の組み付ける作業を必要としたりせず、ピン部の先端部に爪形状部を形成するだけで、ピン部が筒部内から衝突早期に抜け出るのを抑えることができ、衝突早期にパワーユニットが脱落するのを抑制でき、パワーユニットの脱落のタイミングをコントロールすることができる。しかも、ピン部の筒部内への挿入しやすさも確保できる。
【0014】
請求項2の発明によれば、爪形状部は、ピン部に突起部や凹部を形成するだけの簡単な構造ですむ。
請求項3の発明によれば、テーパ形状がもたらしているピン部の筒部への挿入性を損なうことなく、ピン部の抜けを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るパワーユニットのマウント装置を示す平面図。
図2】同パワーユニットのエンジンを支えるマウント装置の構造を示す斜視図。
図3】同マウント装置の各部の構造を示す分解斜視図。
図4】車両のオフセット前面衝突時におけるマウンド装置の挙動を説明する平面図。
図5】同オフセット前面衝突時においてピン部の抜けが抑えられる状況を示す平面図。
図6】ピン部の先端部に形成されている爪形状部を示す図2中のA−A線に沿う断面図。
図7】オフセット前面衝突時、爪形状部と筒部の端縁部とが係止する状況を説明する図5中のB部を拡大した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図1ないし図7に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1は、車両、例えば乗用車の車体前部を平面から見た図を示している。同車体前部の概要を説明すると、同図1中1a、1bは、車体2を構成する一対のサイドフレーム部材(車体前後方向に延びる部材)、3は同サイドフレーム部材1a,1bの前端部間を交差するように設けられたクロスメンバ部材(車幅方向に延びる部材)を示している。
【0017】
また車体2の最前部のクロスメンバ部材3から、車体中央の車室Tを区画しているダッシュボードまでの、車室Tの前方の領域には、エンジンルーム4(収容領域)が形成されている。
このエンジンルーム4内には、車両走行用のパワーユニット5が収容されている。パワーユニット5は、例えば多気筒レシプロ式のエンジン6の出力部にトランスミッション7を直列に連結して構成してある。このパワーユニット5全体が、エンジンルーム4の車幅方向一側にエンジン6を配置し、反対側の車幅方向他側にトランスミッション7を配置した横向きの姿勢で、エンジンルーム4内に収められている(横置き)。
【0018】
このパワーユニット5のうち車幅方向両端部は、それぞれエンジン側マウント装置10a,トランスミッション側マウント装置10b(いずれも本願のマウント装置に相当)を介して、車体2に据付けられている。ちなみに、パワーユニット5の中間部は、ロールを抑えるロールロッド部材11を介して、車体2に固定される。
エンジン側マウント装置10aとトランスミッション側マウント装置10bは、共に同じ構造をしており、ここでは、エンジン側マウント装置10aを例に挙げて構造を説明する。
【0019】
エンジン側マウント装置10aは、図2および図3に示されるように、サイドフレーム部材1aに設置される車体側マウント部16と、エンジン6の車幅方向外側の端部(パワーユニット5のエンジン6側の車幅方向端部)に設置されるエンジン側マウント部20とを備え、この両者を組み合わせた構成とされている。
車体側マウント部16は、例えば外筒12と内筒14(本願の筒部に相当)との間にゴム等の弾性体13を介在させた筒形のインシュレータ11と、外筒12に設けられてサイドフレーム部材1aに固定される車体据付座15とを有している。内筒14は、角形状に形成されており、その内周面には、ゴム等の樹脂材料による内張り14aが施してある。車体据付座15は、エンジン6の車幅方向外側の端部と車幅方向で隣接するサイドフレーム1aの上面に、ボルト部材22で固定されている。そして、インシュレータ11は、その軸心が車幅方向に向く姿勢に配置されている。すなわち、内筒14の通孔が車幅方向へ貫通する向きとなるようインシュレータ11が設置されている。ちなみに、外筒12からはステー部材23が延び、このステー部材23の延出端部(図示しない)が、エンジンルーム4の周壁をなすパネル部材(図示しない)に固定されている。
【0020】
エンジン側マウント部20は、内筒14に圧入可能な角形のピン部18と、同ピン部18をエンジン6に支持するL形のエンジン据付座19とを有してなる。エンジン据付座19は、ピン部18の基端部に一体で形成され、エンジン6の車幅方向外側の端部の端面に形成されたフランジ形の支持座6aに、ボルト部材21で固定される。これで、ピン部18は、エンジン6の車幅方向外側の端部からエンジンルーム4の車幅方向外側へ向って突き出るように設置される。
【0021】
そして、車体側マウント部16のインシュレータ11の内筒14にエンジン側マウント部20のピン部18を圧入することで、エンジン6の車幅方向外側の端部、すなわちパワーユニット5のエンジン6側の端部がインシュレータ11を介してサイドフレーム部材1aに弾性支持される仕組みとなっている。
なお、ピン部18の先端部は、先端に向かうにしたがい外径が小さくなるテーパ形状で形成されており、ピン部18を、インシュレータ11の内筒14内に圧入しやすい形状にしている。
【0022】
また、トランスミッション側マウント装置10bにも、エンジン側マウント装置10aと同じ構造が用いられ、トランスミッション7側の端部をサイドフレーム部材1bに弾性支持させてある。これで、パワーユニット5全体を各マウント装置10a,10bで車体2に弾性支持させている。
さらに、これら各マウント装置10a,10bには、オフセット前面衝突(車体2の前後方向端部の片側からの衝突:オフセット衝突)時に、内筒14内からピン部18が抜け出るのを抑える抜止め構造が設けられている。
【0023】
例えば、パワーユニット5のエンジン6側がオフセット前面衝突した場合、パワーユニット5のエンジン6側に片寄って衝突荷重が作用するため、パワーユニット5がトランスミッション7側のマウント装置10bを支点にして車体後方の車室T側へ回転変位される(図5参照)。このとき、パワーユニット5のエンジン6側の端部とインシュレータ11とが互いに離れる方向に相対変位するので、これに伴ってピン部18がインシュレータ11の内筒14から抜けて、衝突早期の段階でパワーユニット5が脱落してしまう場合がある。これに対して、本実施形態は、ピン部18の形状を工夫した抜止め構造を用いて、ピン部18の内筒14からの抜けを抑制し、パワーユニット5の衝突早期での脱落を防止している。
【0024】
以下に、本実施形態の抜止め構造について、詳細に説明する。
図2および図3に示されるようにピン部18の先端部には、爪形状部25が形成されている。爪形状部25は、ピン部18が内筒14内に圧入された状態で、内筒14よりも車幅方向外側に位置するよう形成されている。そして、この爪形状部25には、ピン部18の径方向断面(角形断面)の範囲内で、ピン部18の先端部から、衝撃荷重が入力される方向と同方向、すなわち車体2の後方側(ここでは車室T側)へ突き出せた爪部を形成する構造が用いられている。
【0025】
具体的には爪形状部25は、図2図3図6および図7にも示されるようにピン部18の先端部に形成された突起部27と、突起部27の基端部の車幅方向内側に形成された凹部28とを有した爪部、すなわちピン部18と一体な爪部から構成されている。詳しくは突起部27は、例えばピン部18を内筒14を貫通するまで延長させ、その内筒14を貫通したピン部18の延長端部の一部に、同ピン部18の径方向断面(角形断面)の範囲内で、車体後方側(車室T側)へ向け突き出るようL形の加工を施した構造が用いられる。また凹部28は、ピン部18の突起部27の基端部の車幅方向内側に位置する車体後方向に臨む面に、同面を抉るように円弧形の凹みを形成してなる。この円弧形の凹みは、突起部27側に向かうにしたがって次第に深さが深くなるように形成されている。そして、オフセット前面衝突によるパワーユニット5の回転変位に伴い、ピン部18が図7に示されるように内筒14筒内から抜ける方向へ変位すると、内筒14の車幅方向外側の端部の端縁部を凹部28内で受け入れ(進入)、同内筒14の端縁部を、突起部27の車幅方向内側の面と重なり合う地点へ導けるようにしている。これで、内筒14の外側の端縁部が、突起部27の車幅方向内側の面と突き当たる構造にしている。
【0026】
つまり、オフセット前面衝突時、パワーユニット5側のピン部18とサイドフレーム部材1a側のインシュレータ11とが互いに離れる方向に相対変位された際に、内筒14の端縁部に突起部27が係止される構成となっている。これにより、内筒14内からピン部18が抜け出るのを抑制している。
なお、突起部27の外面、凹部28の内面は、ピン部18の内筒14への挿入性が損なわれないよう、ピン部18の先端側のテーパ形状部18aのテーパ面の形状(テーパ形状)と連続するように形成され、ピン部18の抜止め機能とピン部18の挿入性とを両立させている。
【0027】
こうした爪形状部25により、ピン部18を内筒14内に圧入させただけの状態から、ピン部材18の抜止めが行える。
次に、オフセット前面衝突時におけるエンジン側マウント装置10aの抜止め構造の作用について詳細に説明する。
図1に示されるように例えばバリアXに車両の前面片側、パワーユニット5のエンジン6側(図面右側)が衝突したとする(オフセット前面衝突)。
【0028】
すると、図4に示されるように車体2の前部片側から加わる衝撃荷重Fを受けて、最前部のクロスメンバ部材3は曲りなど変形を生じ、サイドフレーム部材1aの前端部は座屈変形を起こす。座屈変形が進むと、変形するクロスメンバ部材3にて、エンジン6(パワーユニット5の片側)は押される。すると、パワーユニット5では、図5中の矢印αのようにトランスミッション側マウント10bを支点として、車体後方側(車室T側)へ回転する動きが誘発される。
【0029】
このパワーユニット5の回転方向の動き(回転変位)を受けて、エンジン側マウント10aのピン部18は、図7に示されるように車体後方へ傾きながら、内筒14内から抜け出る方向へ変位する。このとき、エンジンマウント10aの各部、すなわち内筒14やインシュレータ11は、このピン部18の動きを受けて変形する。
そして、内筒14内を抜けるピン部18の動きに追従して、ピン部18の先端部に有る突起部27および凹部28は、内筒14の車幅方向外側の端縁部へ接近する。さらにこのときの傾くピン部18の動きを受けて、図7に示されるように内筒14の車幅方向外側の端縁部は、凹部28内へ導入され、同内筒14の車幅方向外側の端縁部を、突起部27の車幅方向内側の面と重なり合う地点、すなわち突起部27の車幅方向内側の面と突き当たる地点へ導く。
【0030】
すると、突起部27が、内筒14の車幅方向外側の端縁部と係止し、ピン部18が内筒14内から抜け出るのを抑える。この規制により、衝突早期におけるパワーユニット5のエンジン6側の端部の脱落は抑えられ、パワーユニット5の脱落のタイミングをコントロールすることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、ピン部18の先端部に爪形状部25を形成するという構造だけで、別途、部品を用意したり、同部品の組み付ける作業を必要としたりせず、ピン部18を内筒14に圧入させたそのままの姿勢から、ピン部材18の抜けを抑える体制が整うから、簡単、かつコスト的な負担が少ない安価な構造で、オフセット前面衝突時、早期にピン部材18が抜けるのを抑制することができる。
【0031】
したがって、衝突早期にパワーユニット5が脱落することを防止することが可能となり、パワーユニット5の脱落のタイミングをコントロールすることができる。特に爪形状部25は、ピン部18の径方向断面の範囲内で、先端部を車体中央側へ突き出させてあるから、ピン部18と共に、筒部14内へは挿入しやすい。
しかも、爪形状部25は、ピン部18の先端部に、ピン部18の径方向断面の範囲内で、突起部27を形成し、突起部27の基端部の車幅方向内側に凹部28を形成するだけの簡単な構造ですむ。
【0032】
そのうえ、突起部27の外面および凹部28の内面は、ピン部18の先端部外形を形成しているテーパ形状と連続してあるので、ピン部18のテーパ形状がもたらしている筒部14への挿入性を損なわずにすみ、ピン部18の抜止めは、ピン部18の挿入性と両立できる。
特に爪形状部25を用いたピン部18の抜止め構造は、図5中の二点鎖線Sに示されるようにサイドフレーム1aの座屈変形に伴い、インシュレータ11の車体後側が車体前側よりも大きく車幅方向に変位する場合(エンジン側マウント部20とインシュレータ11との間が、車体前側では小さく、車体後側ではそれよりも大きく離れる場合)には、有効である。
【0033】
なお、本発明は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば上述した一実施形態では、角形のピン部の先端部に、爪形の突起部、円弧形の凹部を形成したが、これに限らず、他の形状のピン部、突起部、凹部で形成しても構わない。また一実施形態では、車室の前方の領域にパワーユニットを収めた構造の車両に本発明を適用したが、これに限らず、車室の後方の領域にパワーユニットを収めた構造の車両に本発明を適用してもよい。もちろん、パワーユニットも、一実施形態のようなエンジンとトランスミッションとを組み合わせた構造でなく、モータやエンジンとモータとを組み合わせた構造でも構わない。
【符号の説明】
【0034】
2 車体
4 エンジンルーム(収容領域)
5 パワーユニット
10a エンジン側マウント装置(パワーユニットのマウント装置)
11 インシュレータ
12 外筒
13 弾性部材
14 内筒(筒部)
18 ピン部
18a テーパ形状部
25 爪形状部
27 突起部
28 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7