特許第5975345号(P5975345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975345
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】電磁石用電源装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/20 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
   H01F7/20 Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-266474(P2012-266474)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-112602(P2014-112602A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 克則
(72)【発明者】
【氏名】高柳 智弘
(72)【発明者】
【氏名】林 直樹
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−36523(JP,A)
【文献】 特開2007−288466(JP,A)
【文献】 特開2008−63993(JP,A)
【文献】 特開2008−75516(JP,A)
【文献】 特開2012−243503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/18−7/20
H02M 9/00−11/00
H05H 3/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石にパルス状電流を印加する電磁石用電源装置であって、
第1電圧で予め充電された第1コンデンサの第1放電電流を前記電磁石に供給することにより、前記パルス状電流を頂部まで立ち上げ、かつ前記電磁石の逆起電圧による回生電流を前記第1コンデンサに回生させることにより、前記パルス状電流を前記頂部から立ち下げる第1電流源と、
前記パルス状電流の立ち上げ後に、前記第1電圧よりも低い第2電圧で予め充電された第2コンデンサの第2放電電流を前記電磁石に供給し、さらにその後、前記第2電圧よりも低い第3電圧で予め充電された、前記第2コンデンサよりも静電容量値の大きい第3コンデンサの第3放電電流を前記第2放電電流とともに前記電磁石に供給することにより、前記パルス状電流の立ち下げ前まで前記パルス状電流を前記頂部において維持する第2電流源と、
を備え、
前記パルス状電流の立ち下げの途中で、前記回生電流の回生先が前記第1電流源から前記第2電流源に切り替わることを特徴とする電磁石用電源装置。
【請求項2】
前記回生電流の回生先が前記第1電流源から前記第2電流源に切り替わると、前記回生電流は、前記第2コンデンサおよび前記第3コンデンサに回生されることを特徴とする請求項1に記載の電磁石用電源装置。
【請求項3】
前記第2電流源は、前記第2コンデンサと、前記第3コンデンサおよび整流素子からなる直列回路と、前記整流素子を短絡可能に構成された短絡手段とを有し、
前記短絡手段は、前記回生電流の回生先が前記第1電流源から前記第2電流源に切り替わると、非導通状態から導通状態となり、前記整流素子を短絡させることを特徴とする請求項2に記載の電磁石用電源装置。
【請求項4】
前記第1電圧を出力する第1充電電源と、
前記第2電圧を出力する第2充電電源と、
前記第3電圧を出力する第3充電電源と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電磁石用電源装置。
【請求項5】
前記第1電圧を出力する第1充電電源と、
前記第3電圧を出力する第3充電電源と、
第4電圧を出力する第4充電電源と、
を備え、
前記第2電圧は、前記第3電圧および前記第4電圧の和電圧であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電磁石用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器等で使用される電磁石にパルス状の大電流を印加するための電磁石用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物理化学実験や医療等の分野で使用される加速器には、電磁石にパルス状の大電流を印加するための電磁石用電源装置が備えられている。従来の電磁石用電源装置としては、例えば、非特許文献1に記載のパワークローバ回路を採用したものが知られている。
【0003】
図5(A)に示すように、このタイプの電磁石用電源装置100は、第1コンデンサ101および該第1コンデンサ101よりも静電容量値が大きい第2コンデンサ102を備え、第1スイッチ103および第2スイッチ104をON/OFFさせることにより電磁石105に第1コンデンサ101および/または第2コンデンサ102の放電電流(=電磁石電流I)が印加されるよう構成されている。
【0004】
より詳しくは、この電磁石用電源装置100では、第1コンデンサ101が数千Vの高電圧で、第2コンデンサ102が数百Vの電圧でそれぞれ予め充電されている。図5(B)に示すように、時間tにおいて第1スイッチ103がONされると、第1コンデンサ101の放電電流が電磁石105に供給され、電磁石電流Iが頂部(例えば、数十kA)まで一気に立ち上がる。時間tにおいて第1スイッチ103がOFFされて第2スイッチ104がONされると、第2コンデンサ102の放電電流が電磁石105に供給され、電磁石電流Iの電流値が頂部付近で維持される。その後、第2コンデンサ102の放電電流の減少とともに、電磁石電流Iの電流値は低下していく。
【0005】
図6に、電磁石用電源装置100とコンセプトがよく似た別の従来の電磁石用電源装置200を示す。同図に示すように、電磁石用電源装置200は、第1電流源201と、第2電流源202と、制御部206とを備えている。
【0006】
第1電流源201は、第1充電電源210から出力される数千Vの電圧で予め充電された第1コンデンサ211の放電電流を電磁石205に供給することにより、電磁石電流Iを頂部まで一気に立ち上げ(図7(B)の時間t〜時間t)、かつ電磁石205の逆起電圧による回生電流を第1コンデンサ211に回生させることにより、電磁石電流Iを頂部から一気に立ち下げる(図7(B)の時間t〜時間t)よう構成されている。
【0007】
第2電流源202は、電磁石電流Iの立ち上げ後に、第2充電電源220から出力される数百Vの電圧で予め充電された第2コンデンサ221の放電電流を電磁石205に供給することにより、電磁石電流Iの立ち下げ前まで頂部における電流値を維持する(図7(B)の時間t〜時間t)よう構成されている。
【0008】
この電磁石用電源装置200では、電磁石電流Iを立ち上げる期間(時間t〜時間t)、電磁石電流Iを維持する期間(時間t〜時間t)、および電磁石電流Iを立ち下げる期間(時間t〜時間t)で、第1電流源201の2つのスイッチング素子215a、215dおよび第2電流源202の2つのスイッチング素子225a、225dの導通状態が切り替えられる。これらのスイッチング素子215a、215d、225a、225dの導通状態は、適当な駆動回路216、226を介して接続された制御部206によって切り替えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】田実、「コンデンサを用いたパルスパワー技術」、静電気学会誌、平成6年、第18巻、第4号、p.355−363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、電磁石用電源装置200では、電磁石電流I立ち下げのゼロクロス時において、第1電流源201のダイオード215b、215cに並列接続されたサージ吸収用コンデンサ217b、217cの静電容量と電磁石205のインダクタンスとに起因して、電磁石電流Iが共振する。共振のエネルギーは、電磁石電流Iの変化量に比例し、電磁石電流Iの傾き(傾きの絶対値)が大きいほど大きくなる。
【0011】
電磁石用電源装置200では、電磁石電流Iを立ち下げる期間における電磁石205の両端の電圧(以下、「電磁石電圧」という)が、図7(A)に示すように、電磁石電流Iを立ち上げる期間における電磁石電圧とほぼ同じ大きさで逆極性の電圧値(−数千V)になるので、電磁石電流Iは、図7(B)に示すように、立ち上げ時と同程度の傾きをもって一気に立ち下がる。このため、電磁石用電源装置200では、共振のエネルギーが大きくなり、図8(B)に示すように、電磁石電流I立ち下げのゼロクロス付近で電磁石電流Iが大きく(例えば、頂部における電流値の10%以上)振動してしまう。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、電磁石に供給するパルス状電流(電磁石電流)立ち下げのゼロクロス時における振動を抑制可能な電磁石用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る電磁石用電源装置は、(1)電磁石にパルス状電流を印加する電磁石用電源装置であって、第1電圧で予め充電された第1コンデンサの第1放電電流を電磁石に供給することにより、パルス状電流を頂部まで立ち上げ、かつ電磁石の逆起電圧による回生電流を第1コンデンサに回生させることにより、パルス状電流を頂部から立ち下げる第1電流源と、パルス状電流の立ち上げ後に、第1電圧よりも低い第2電圧で予め充電された第2コンデンサの第2放電電流を電磁石に供給し、さらにその後、第2電圧よりも低い第3電圧で予め充電された、第2コンデンサよりも静電容量値の大きい第3コンデンサの第3放電電流を第2放電電流とともに電磁石に供給することにより、パルス状電流の立ち下げ前までパルス状電流を頂部において維持する第2電流源と、を備え、パルス状電流の立ち下げの途中で、回生電流の回生先が第1電流源から第2電流源に切り替わることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、パルス状電流の立ち下げの途中で回生電流の回生先を第1電流源から第2電流源に切り替えることにより、電磁石電圧を低くして、パルス状電流の傾きを緩やかにすることができる。したがって、この構成によれば、パルス状電流立ち下げのゼロクロス時における振動を抑制することができる。なお、本明細書において、電圧の大小(高低)を比較するときは、その絶対値で比較するものとする。
【0015】
上記(1)の電磁石用電源装置では、(2)回生電流の回生先が第1電流源から第2電流源に切り替わると、回生電流は、第2コンデンサおよび第3コンデンサに回生されることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、回生電流が第2コンデンサと該第2コンデンサよりも静電容量値の大きい第3コンデンサに回生されるので、回生電流により第2コンデンサの電圧値が跳ね上がってしまうのを防ぐことができ、パルス状電流の傾きをより確実に緩やかにすることができる。
【0017】
上記(2)の電磁石用電源装置では、(3)第2電流源が、第2コンデンサと、第3コンデンサおよび整流素子からなる直列回路と、整流素子を短絡可能に構成された短絡手段とを有している場合、短絡手段は、回生電流の回生先が第1電流源から第2電流源に切り替わると、非導通状態から導通状態となり、整流素子を短絡させるよう構成できる。
【0018】
上記(1)〜(3)の電磁石用電源装置は、例えば、(4)第1電圧を出力する第1充電電源と、第2電圧を出力する第2充電電源と、第3電圧を出力する第3充電電源とを備えている。
【0019】
上記(1)〜(3)電磁石用電源装置は、(5)第1電圧を出力する第1充電電源と、第3電圧を出力する第3充電電源と、第4電圧を出力する第4充電電源とを備え、第2電圧は、第3電圧および第4電圧の和電圧であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電磁石に供給するパルス状電流立ち下げのゼロクロス時における振動を抑制可能な電磁石用電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係る電磁石用電源装置の回路図である。
図2】第1実施形態に係る電磁石用電源装置の波形図であって、(A)は電磁石電圧の全体波形図、(B)は(A)の拡大波形図、(C)は電磁石電流の全体波形図、(D)は(C)の拡大波形図である。
図3】第1実施形態に係る電磁石用電源装置の波形図であって、(A)は図2(A)における一点鎖線円A内の拡大波形図、(B)は図2(C)における一点鎖線円B内の拡大波形図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る電磁石用電源装置の回路図である。
図5】(A)は従来の電磁石用電源装置の回路図、(B)は電磁石電流の波形図である。
図6】従来の電磁石用電源装置の回路図である。
図7】従来の電磁石用電源装置の波形図であって、(A)は電磁石電圧の全体波形図、(B)は電磁石電流の全体波形図である。
図8】従来の電磁石用電源装置の波形図であって、(A)は図7(A)における一点鎖線円A内の拡大波形図、(B)は図7(B)における一点鎖線円B内の拡大波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電磁石用電源装置の好ましい実施形態について説明する。
【0023】
[第1実施形態]
図1に、本発明の第1実施形態に係る電磁石用電源装置1Aを示す。電磁石用電源装置1Aは、電磁石5にパルス状の大電流である電磁石電流Iを印加するためのもので、同図に示すように、第1電流源2と、第2電流源3と、これらを制御する制御部6とを備えている。
【0024】
第1電流源2は、第1電圧(例えば、数千V)を出力する第1充電電源20と、第1電圧で充電される第1コンデンサ21と、Hブリッジ接続された4つのスイッチング素子25a〜25dを備えている。4つのスイッチング素子25a〜25dには、各1つのサージ吸収用コンデンサ27a〜27dが並列接続されている。
【0025】
第1電流源2のスイッチング素子25a〜25dはブリッジ回路部を構成し、第1スイッチング素子25aおよび第2スイッチング素子25bの接続点が第1出力端、第3スイッチング素子25cおよび第4スイッチング素子25dの接続点が第2出力端となっている。第1コンデンサ21は、このブリッジ回路部に並列接続されている。
【0026】
第1電流源2の第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25dは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子であり、第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25dの制御端子であるゲートは適当な駆動回路26を介して制御部6に接続されている。
【0027】
第2電流源3は、第1電圧よりも低い第2電圧(例えば、百数十V)を出力する第2充電電源30と、第2電圧で充電される第2コンデンサ31と、第2電圧よりも低い第3電圧(例えば、100V)を出力する第3充電電源32と、第3電圧で充電される第2コンデンサ31よりも静電容量値の大きい第3コンデンサ33と、第3コンデンサ33に直列接続された整流素子34と、Hブリッジ接続された4つのスイッチング素子35a〜35dと、整流素子34に並列接続された第5スイッチング素子35e(本発明の「短絡手段」に相当)とを備えている。4つのスイッチング素子35a〜35dおよび第5スイッチング素子35eには、各1つのサージ吸収用コンデンサ37a〜37eが並列接続されている。
【0028】
第2電流源3のスイッチング素子35a〜35dはブリッジ回路部を構成し、第1スイッチング素子35aおよび第2スイッチング素子35bの接続点が第3出力端、第3スイッチング素子35cおよび第4スイッチング素子35dの接続点が第4出力端となっている。第2コンデンサ31と、第3コンデンサ33および整流素子34の直列回路とは、このブリッジ回路部に並列接続されている。
【0029】
第2電流源3の第1スイッチング素子35a、第4スイッチング素子35dおよび第5スイッチング素子35eは、IGBT等のパワー半導体素子であり、第1スイッチング素子35a、第4スイッチング素子35dおよび第5スイッチング素子35eの制御端子であるゲートは適当な駆動回路36を介して制御部6に接続されている。
【0030】
第1電流源2の第1出力端および第2電流源3の第4出力端は、電磁石5に接続されている。また、第1電流源2の第2出力端および第2電流源3の第3出力端は、直接接続されている。
【0031】
なお、図1では、第1電流源2の第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25d、第2電流源3の第1スイッチング素子35a、第4スイッチング素子35dおよび第5スイッチング素子35eは、制御部6によって制御されるため、これらのスイッチング素子25a、25d、35a、35d、35eをON(導通)/OFF(非導通)させるためには、各々駆動回路26、36が必要となる。
【0032】
一方、第1電流源2の第2スイッチング素子25bおよび第3スイッチング素子25c、第2電流源3の第2スイッチング素子35bおよび第3スイッチング素子35cは、ON/OFFを切り替えることがなく、制御部6により制御する必要がないため、ダイオードのみでまかなうことができ、駆動回路26、36は不要である。図1において、スイッチング素子25b、25c、35b、35cをダイオードで表現したのはこのためである。
【0033】
図2に示すように、電磁石用電源装置1Aの動作はI〜Vの5つのフェイズに分かれている。各フェイズにおいて、第1電流源2の第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25d、並びに第2電流源3の第1スイッチング素子35a、第4スイッチング素子35dおよび第5スイッチング素子35eは、制御部6の制御下で、ON/OFFが下表のように切り替えられる。以下、各フェイズにおける電磁石用電源装置1Aの動作を順に説明する。
【表1】
【0034】
(フェイズI)
フェイズIは準備フェイズであり、第1電流源2の第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25d、第2電流源3の第1スイッチング素子35a、第4スイッチング素子35dおよび第5スイッチング素子35eをOFFに設定した状態で、第1コンデンサ21、第2コンデンサ31および第3コンデンサ33の充電が行われる。
【0035】
より詳しくは、第1コンデンサ21は、第1充電電源20から出力される第1電圧によって両端の電圧が数千Vになるまで充電され、第2コンデンサ31は、第2充電電源30から出力される第2電圧によって両端の電圧が百数十Vになるまで充電され、さらに第3コンデンサ33は、第3充電電源32から出力される第3電圧によって両端の電圧が第2の電圧より低い電圧(例えば約100V)になるまで充電される。第3コンデンサ33には整流素子34が直列接続されているので、第2コンデンサ31が百数十Vまで充電されても、第3コンデンサ33が第3電圧の電圧値(約100V)を超えて充電されることはない。
【0036】
第1電流源2のブリッジ回路部を構成する第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25dはOFFである。また、第1電流源2の第2スイッチング素子25bおよび第3スイッチング素子25cもOFFである。すなわち、フェイズIでは、第1電流源2と電磁石5とが電気的に切り離された状態となっており、第1電流源2から電磁石5に向けて電磁石電流Iが供給されることはない。同様に、第2電流源3と電磁石5も電気的に切り離された状態となっているので、第2電流源3から電磁石5に向けて電磁石電流Iが供給されることはない。
【0037】
(フェイズII)
フェイズIIは、電流立ち上げフェイズである。フェイズIIでは、第1電流源2が第1コンデンサ21の第1放電電流を電磁石5に供給することにより、電磁石電流Iが頂部まで立ち上げられる。
【0038】
より詳しくは、フェイズIIでは、第1電流源2の第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25d、第2電流源3の第4スイッチング素子35dがONに設定され、第2電流源3の第1スイッチング素子35aおよび第5スイッチング素子35eがOFFに設定される。このため、第1電流源2の第1スイッチング素子25a→第1電流源2の第1出力端→電磁石5→第2電流源3の第4出力端→第2電流源3の第4スイッチング素子35d→第2電流源3の第2スイッチング素子35b(ダイオード)→第2電流源3の第3出力端→第1電流源2の第2出力端→第1電流源2の第4スイッチング素子25dの経路で第1コンデンサ21の第1放電電流が流れる。これにより、電磁石電圧が第1コンデンサ21の充電電圧(=第1電圧、数千V)まで上昇し、電磁石電流Iが数十kAまで上昇する。
【0039】
なお、フェイズIIでは、第2電流源3の第1スイッチング素子35aをONに設定し、第2電流源3の第4スイッチング素子35dをOFFに設定してもよい。この場合、第1コンデンサ21の第1放電電流は、・・・→第2電流源3の第4出力端→第2電流源3の第3スイッチング素子35c(ダイオード)→第2電流源3の第1スイッチング素子35a→第2電流源3の第3出力端→・・・の経路で流れる。
【0040】
(フェイズIII)
フェイズIIIは、電流維持フェイズである。フェイズIIIでは、第2コンデンサ31と第3コンデンサ33および整流素子34からなる直列回路とが電磁石5に並列に接続され、第2電流源3が第2コンデンサ31の第2放電電流および第3コンデンサ33の第3放電電流を電磁石5に供給することにより、頂部における電磁石電流Iの電流値が一定に維持される。
【0041】
より詳しくは、フェイズIIIでは、第1電流源2の第4スイッチング素子25d、第2電流源3の第1スイッチング素子35aおよび第4スイッチング素子35dがONに設定され、第1電流源2の第1スイッチング素子25a、第2電流源3の第5スイッチング素子35eがOFFに設定される。このため、フェイズIIIに移行した当初は、第2電流源3の第1スイッチング素子35a→第2電流源3の第3出力端→第1電流源2の第2出力端→第1電流源2の第4スイッチング素子25d→第1電流源2の第2スイッチング素子25b(ダイオード)→第1電流源2の第1出力端→電磁石5→第2電流源3の第4出力端→第2電流源3の第4スイッチング素子35dの経路で第2コンデンサ31の第2放電電流が流れる。このとき、第2コンデンサ31の両端の電圧は、第2放電電流の放出とともに第2電圧(百数十V)から比較的急な勾配(以下「第1の傾き」という)で低下していく。したがって、図2(B)に示すように、電磁石電圧も同じ傾きで低下していく。
【0042】
第2コンデンサ31の両端の電圧が第3電圧を下回ると、整流素子34が導通状態となり、第2コンデンサ31の第2放電電流と同じ経路を通って第3コンデンサ33の第3放電電流も電磁石5に供給され始める。第2コンデンサ31の両端の電圧および第3コンデンサ33の両端の電圧は、第2および第3放電電流の放出とともに第1の傾きよりも緩やかな勾配(以下「第2の傾き」という)で低下していく。
【0043】
第1の傾きは、第2コンデンサ31の静電容量値により調整することができ、第2の傾きは、第2コンデンサ31および第3コンデンサ33の静電容量値により調整することができる。具体的には、第2コンデンサ31の静電容量値を大きくすることで第1の傾きを小さくし、静電容量値を小さくすることで第1の傾きを大きくすることができる。同様に、第2コンデンサ31および第3コンデンサ33の総静電容量値を大きくすることで第2の傾きを小さくし、総静電容量値を小さくすることで第2の傾きを大きくすることができる。
【0044】
また、傾きが切り替わるタイミングは、第2電圧および第3電圧の電圧差により調整することができる。具体的には、切り替えのタイミングを遅らせたい場合は、上記電圧差を大きくすればよい。反対に、早期に切り替えを行いたい場合は、上記電圧差を小さくすればよい。
【0045】
本実施形態に係る電磁石用電源装置1Aでは、第3コンデンサ33の静電容量値を第2コンデンサ31の10倍以上に設定して第2の傾きを第1の傾きの約1/10にし、さらに第2電圧および第3電圧の電圧差を適当に調整することで、電磁石電圧波形を理想とする電磁石電圧波形に近似させている。
【0046】
なお、フェイズIIIでは、第1電流源2の第1スイッチング素子25aをONに設定し、第1電流源2の第4スイッチング素子25dをOFFに設定してもよい。この場合、第2および第3放電電流は、・・・→第1電流源2の第2出力端→第1電流源2の第3スイッチング素子25c(ダイオード)→第1電流源2の第1スイッチング素子25a→第1電流源2の第1出力端→・・・の経路で流れる。
【0047】
(フェイズIV)
フェイズIVは、電流立ち下げフェイズである。フェイズIVでは、電磁石5の逆起電圧Vによる回生電流を第1コンデンサ21に回生させることにより、電磁石電流Iが頂部から立ち下げられる。
【0048】
より詳しくは、フェイズIVでは、第2電流源3の第4スイッチング素子35dおよび第5スイッチング素子35eがONに設定され、第1電流源2の第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25d、第2電流源3の第1スイッチング素子35aがOFFに設定される。すなわち、電磁石5は、第1コンデンサ21と電気的に接続される一方、第2コンデンサ31および第3コンデンサ33と電気的に切り離される。このため、フェイズIVでは、第2および第3放電電流の供給が停止するとともに、電磁石5には、第1充電電源20の出力電圧(第1電圧)とほぼ同じ大きさの逆起電圧V(−数千V)が生じることとなる。
【0049】
逆起電圧Vによる回生電流は、第2電流源3の第4出力端→第2電流源3の第4スイッチング素子35d→第2電流源3の第2スイッチング素子35b(ダイオード)→第2電流源3の第3出力端→第1電流源2の第2出力端→第1電流源2の第3スイッチング素子25c(ダイオード)→第1コンデンサ21→第1電流源2の第2スイッチング素子25b(ダイオード)→第1電流源2の第1出力端の経路で流れる。これにより、逆起電圧Vによる回生電流が第1コンデンサ21に回生され、電磁石電流Iが、頂部から急峻な勾配(以下「第3の傾き」という)で一気に低下していく。
【0050】
なお、フェイズIVでは、第2電流源3の第1スイッチング素子35aをONに設定し、第2電流源3の第4スイッチング素子35dをOFFに設定してもよい。この場合、逆起電圧Vによる回生電流は、第2電流源3の第4出力端→第2電流源3の第3スイッチング素子35c(ダイオード)→第2電流源3の第1スイッチング素子35a→第2電流源3の第3出力端→・・・の経路で流れる。
【0051】
(フェイズV)
フェイズVは、スローダウンフェイズである。フェイズVでは、第1コンデンサ21への回生を停止し、電磁石5の逆起電圧V(V<V)による回生電流を第2コンデンサ31および第3コンデンサ33に回生させることにより、電磁石電流Iが緩やかに立ち下げられる。
【0052】
より詳しくは、フェイズVでは、第1電流源2の第4スイッチング素子25d、第2電流源3の第5スイッチング素子35eがONに設定され、第1電流源2の第1スイッチング素子25a、第2電流源3の第1スイッチング素子35aおよび第4スイッチング素子35dがOFFに設定される。すなわち、電磁石5は、第1コンデンサ21と電気的に切り離される一方、第2コンデンサ31および第3コンデンサ33と電気的に接続される。このため、フェイズVでは、電磁石5には、第2充電電源30の出力電圧(第2電圧)とほぼ同じ大きさの逆起電圧V(V<V)が生じることとなる。
【0053】
逆起電圧Vによる回生電流は、第2電流源3の第4出力端→第2電流源3の第3スイッチング素子35c(ダイオード)→第2コンデンサ31→第2電流源3の第2スイッチング素子35b(ダイオード)→第2電流源3の第3出力端→第1電流源2の第2出力端→第1電流源2の第4スイッチング素子25d→第1電流源2の第2スイッチング素子25b(ダイオード)→第1電流源2の第1出力端の経路と、・・・→第2電流源3の第3スイッチング素子35c(ダイオード)→第2電流源3の第5スイッチング素子35e→第3コンデンサ33→第2電流源3の第2スイッチング素子35b(ダイオード)→・・・の経路で流れる。これにより、逆起電圧Vによる回生電流が、第2コンデンサ31および第3コンデンサ33に回生され、電磁石電流Iが、第3の傾きよりも緩やかな勾配(以下「第4の傾き」という)で低下していく。
【0054】
なお、フェイズVでは、第1電流源2の第1スイッチング素子25aをONに設定し、第1電流源2の第4スイッチング素子25dをOFFに設定してもよい。この場合、逆起電圧Vによる回生電流は、・・・→第1電流源2の第2出力端→第1電流源2の第3スイッチング素子25c(ダイオード)→第1電流源2の第1スイッチング素子25a→第1電流源2の第1出力端→・・・の経路で流れる。
【0055】
結局、本実施形態に係る電磁石用電源装置1Aでは、電磁石電流Iの立ち下げの途中で、回生電流の回生先が第1コンデンサ21から第2コンデンサ31および第3コンデンサ33に切り替わって電磁石電圧が低くなるので、電磁石電流Iの勾配が緩やかになり、共振のエネルギーは小さくなる。したがって、本実施形態に係る電磁石用電源装置1Aによれば、図3(B)に示すように、電磁石電流I立ち下げのゼロクロス時における振動を抑制(例えば、頂部における電流値の0.1%以下に抑制)することができる。
【0056】
[第2実施形態]
図4に、本発明の第2実施形態に係る電磁石用電源装置1Bを示す。電磁石用電源装置1Bは、第2電流源3ではなく、第2電流源4を備えている点において、第1実施形態に係る電磁石用電源装置1Aと異なっている。
【0057】
第2電流源4は、第3電圧(例えば、100V)を出力する第3充電電源42と、第3電圧で充電される第3コンデンサ43と、第4電圧(例えば、数十V)を出力する第4充電電源40と、第3電圧および第4電圧の和電圧(例えば、百数十V)である第2電圧で充電される第2コンデンサ41と、第3コンデンサ43に直列接続された整流素子44と、Hブリッジ接続された4つのスイッチング素子45a〜45dと、整流素子44に並列接続された第5スイッチング素子45e(本発明の「短絡手段」に相当)とを備えている。ただし、第1実施形態と同様、第2電流源4の第2スイッチング素子45bおよび第3スイッチング素子45cは、ON(導通)/OFF(非導通)を切り替えることがなく、制御部6により制御する必要がないため、ダイオードでまかなうことができ、駆動回路46は不要である。
【0058】
本実施形態に係る電磁石用電源装置1Bでは、第2コンデンサ41が第3電圧および第4電圧の和電圧である第2電圧で充電されるので、フェイズIにおいて、第2コンデンサ41は第3コンデンサ43よりも高い電圧まで確実に充電される。したがって、電磁石用電源装置1Bによれば、フェイズIIIにおいて、第2コンデンサ41の放電と第3コンデンサ43の放電とが同時に開始されてしまうのを確実に防ぐことができる。
【0059】
また、本実施形態に係る電磁石用電源装置1Bでは、第1電流源2の第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25d、並びに第2電流源4の第1スイッチング素子45a、第4スイッチング素子45bおよび第5スイッチング素子45eを第1実施形態に係る電磁石用電源装置1Aと同様に切り替えることで、電磁石電流Iの立ち下げの途中で電磁石電流Iの勾配を緩やかにすることができ、電磁石電流I立ち下げのゼロクロス時における振動を抑制することができる。
【0060】
以上、本発明に係る電磁石用電源装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではない。
【0061】
例えば、上記各実施形態では、第2電流源3(4)に第5スイッチング素子35e(45e)を設け、フェイズVにおいて回生電流を第2コンデンサ31(41)および第3コンデンサ33(43)に回生させているが、第5スイッチング素子35e(45e)を設けることなく、回生電流を第2コンデンサ31(41)だけに回生させてもよい。回生電流を第2コンデンサ31(41)だけに回生させた場合であっても、電磁石電流Iの勾配を緩やかにすることができるので、電磁石電流I立ち下げのゼロクロス時における振動を抑制することができる。
【0062】
しかしながら、第2コンデンサ31(41)は第3コンデンサ33(43)よりも静電容量値が小さいため、大電流が流れると第2コンデンサ31(41)の両端の電圧が跳ね上がってしまう場合がある。電圧が跳ね上がってしまう場合、電磁石電流Iの勾配が急峻になるので、電磁石電流I立ち下げのゼロクロス時における振動を抑制することができなくなる。
【0063】
したがって、電磁石電流I立ち下げのゼロクロス時における振動を確実に抑制するためには、上記各実施形態に係る電磁石用電源装置1A(1B)のように、第5スイッチング素子35e(45e)を設け、フェイズVにおいて回生電流を第2コンデンサ31(41)および第3コンデンサ33(43)に回生させることが好ましい。
【0064】
また、上記各実施形態において、電磁石電流Iを第4の傾きよりもさらに緩やかな勾配で低下させるために、フェイズVIを追加してもよい。フェイズVIでは、第1電流源2の第1スイッチング素子25aおよび第4スイッチング素子25d、並びに第2電流源3(4)の第1スイッチング素子35a(45a)、第4スイッチング素子35d(45b)および第5スイッチング素子35e(45e)は、制御部6の制御下で、ON/OFFが下表のように切り替えられる。
【表2】
【0065】
これにより、電磁石5は第1コンデンサ21、第2コンデンサ31(41)および第3コンデンサ33(43)と電気的に切り離された状態となるので、回生電流は、第1コンデンサ21、第2コンデンサ31(41)および第3コンデンサ33(43)に回生されることなく、第1電流源2および第2電流源3(4)内を流れ、電磁石電流Iが、第4の傾きよりもさらに緩やかな勾配で立ち下げられる。
【0066】
さらに、上記各実施形態では、異なる電圧で予め充電された2つのコンデンサ(第2コンデンサ31(41)、第3コンデンサ33(43))の放電電流により電磁石電流Iの頂部における電流値を一定に維持したが、電磁石電圧波形を理想とする電磁石電圧波形により近似させるという観点から、コンデンサの数は3つ以上とし、電磁石電圧の傾きを2回以上、切り替えることがより好ましい。コンデンサの数を3つ以上とする場合、追加した各コンデンサに整流素子34(44)を直列接続し、かつ各整流素子34(44)にスイッチング素子(本発明の「短絡手段」に相当)を並列接続し、追加したスイッチング素子を、第5スイッチング素子35e(45e)と同様にON/OFFさせることが好ましい。
【0067】
また、上記各実施形態における第1電流源2のスイッチング素子25a〜25dおよび第2電流源3(4)のスイッチング素子35a〜35e(45a〜45e)は、いずれもIGBTとダイオードの並列回路で構成することができる。
【符号の説明】
【0068】
1A、1B 電磁石用電源装置
2 第1電流源
3、4 第2電流源
5 電磁石
6 制御部
20 第1充電電源
21 第1コンデンサ
25a〜25d 第1電流源の第1〜第4スイッチング素子
26、36、46 駆動回路
27a〜27d、37a〜37d、47a〜47d サージ吸収用コンデンサ
30 第2充電電源
31、41 第2コンデンサ
32、42 第3充電電源
33、43 第3コンデンサ
34、44 整流素子
35a〜35d、45a〜45d、 第2電流源の第1〜第4スイッチング素子
35e、45e、 第2電流源の第5スイッチング素子
40 第4充電電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8